『野良』作者:道化師 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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今ならわかる、あれは運命で必然だった。


-1-
こんな世の中大嫌いだ。だから学校なんて行かない。
「今日はなにしよっかなぁ」
もう色々と遊びつくした。すべてに飽きた。とりあえずコンビニでパンを買って、食べながら歩く。ふと、横を見た。いつもは通り過ぎるところだが、何故か今日は見た、そして見つけた。古びた公園、そこだけは霞んで見えた。

「汚ねぇな」
比較的綺麗なベンチに腰掛ける。パンの袋はかさかさと音を響かせて飛んでいった。あの街ではきっとそんな音かき消されて聞こえないだろう。ふぅと灰色の息を吐く、曇ったそこで金色の髪だけが鮮やかだった。
「うぅぅぅぅ」
「!?」
背後からするその音は多分あいつだ。あたしの嫌いな……あの動物。襲われる、そう思った。そいつの毛は汚い、なのに目はあたしを捕らえてはなさない。動けない、どうしよう。
「やめなさい」
女の声がして、そいつはくぅと声を出した。さっきまでの面影は無い。

「さっきはどうも」
「いえいえ」
「それ お前の……犬?」
撫でられてうとうとしているそいつを指差す。
「……ここに住んでいる野良よ。だから貴方は触らないほうがいいわ、襲われるから」
そう言うその女はどこか淋しそうだった。
「私、サクラ。貴方の名前は?」
「……リン」
「そう、よろしくね」

サクラの笑顔は美しかった。

-2-
家に帰ると机の上には1万円札が2枚置いてある。ただそれだけ。電気をつけてコンビニで買ったスパゲティを取り出し、テレビをつける。それがあたしの日常、変化するのはコンビニで買ってくるものくらいだ。それくらいにあたしの人生はくだらないと思う。
“犯人は また 高校生”
そんな見出しが目に映る。
「最近は何でも大人のせいにするから……」
「こういう社会にも問題が……」
「昔だったらねぇ……」

「――お笑い見よ」
そんなもんだと、あたしは思った。理想論はもういらない。
「……」
おもしろいのに笑えない。この家にいて言葉を発しない日もある。この家は広すぎて呟く声なんて、すぐ消えてしまう。
「あたしを笑わせてよ……」
「じゃっ コマーシャルでぇ〜す」
犬が芝生を走り回る。
“栄養を考えて作ったこのドッグフードなら、わんちゃんも大満足!!”
(お前は人間だろうが)
そういえば3日前のあの犬野良だといっていた。
(飯食ってんのか?)
行ってみようか……でも、野良にはかかわらないほうがいい。何が起こるかわかんねぇし。それにあのサクラとかいう変な女が世話してるだろ。
「ったくもう」
あたしはテレビを消した。

「寒いな」
空を見上げても星など見えない。此処は空気が汚いし、何より街灯が眩しすぎる。
「おい犬、いんのか?」
車の音だけが空しく返事をする。
「帰ろ。バカバカしい」
「――リン?」
「うわっ」
「あっ ゴメン」
「……っ」

キィ、キィとブランコの音が夜空に響く。こんなのは久しぶりだ。
「レオ、おいしい?よかったねぇ」
「そいつレオっていうのか?」
「うん」
「飼ってやれねぇのか」
「お金、無いから」
「――これ、やるよ」
偶然にも二本あった紅茶をそいつ……サクラに渡す。
「ありがとう」
「 どーも」
紅茶はとてもあったかかった。
「家の人心配しない?こんなに暗いから」
「家に人なんていねぇし」
「……私と一緒ね」
しばらく沈黙が流れた。ごくりと紅茶を飲む音だけが間を繋ぐ。
「ねぇリン。この子、レオはね昔は絶対人を噛むことなんて無かったの。人が好きで好きで仕方が無かったの」
「でも 捨てられた」
「どうして怖くないのかしら、こんなところで。他に頼れるものもなく、誰かにやさしさを求めたって返ってくるものの多くは冷たい視線。――人は、人は孤独を感じることに耐えられなくなると、自分や何かを傷つけるのでしょう?」
あたしの腕がじくりと痛んだ。
「……そして、愛されたいと願うのでしょう?レオだってきっと同じ」
サクラは静かにそう言った。
「じゃあ、あたしは野良だ」
それを言うのが精一杯だった。サクラとレオに顔を見られまいと必死だった。確かにあたしは泣いていた。

-3-
遠い昔、サクラと呼ばれた日のことを思い出す。パパもママもお姉ちゃんも笑顔で私を抱きしめてくれた。皆で笑って幸せだった。家族というものが好きだった。
「……クラ、サクラ?」
はっと我に返る。
「何、リン?」
「だからさぁ、どうしたらそんなさらさら髪になんの?」
「う〜ん。生まれつきかなぁ」
「うわっ うらやましい」
リンとの会話は楽しかった。1時間2時間と二人で過ごす時間は日に日に増えた。たいていは他愛も無い会話でおなかを抱えて笑っていた。だけどリンは時々淋しそうな瞳を見せた。
「あたし昔さ、捨て犬拾ったことあってさ」
「んっ?」
「その時はまだ、家に親がいたからすっごい怒られてさ。それでもあたしこっそりそいつの世話してたんだ」
「……」
「んで、ある日いなくなってた。何でもうちの親が保健所に連絡したらしくてさ」
少し間をおいてリンは言った。
「だから犬は嫌いなんだ」
リンは笑ってそう言った。それでも瞳は影を落としていた。
「リンに会えてよかったよ」
リンは目を丸くした。
「じゃなきゃ、冷たいまま消えてた」
「……サクラの言うことは難しいな。でも……ありがと。あたしもサクラに会えてよかった。あと、レオも」

もうこんな幸せ無いんじゃないかというくらい、嬉しかった。

-4-
「……お」
おはようと頭の中で言った。口はもごもごと息を発する。
今日、何週間ぶりに親と顔をあわせた。というか通り過ぎただけの気もする。
「ちゃんとしなさいよ」
ぴしゃりと音がしたような気がした。ちょうどハエが叩かれたような、そんな感じだろうか。
「……ちゃんとって何だよ」

「ホント嫌になるよ」
「それはヒドイよね。もっと子を心配してほしいよ」
「だろ?」
こういう時はサクラと話すに限る。
「今日はリンゴ持ってきた」
「ありがとう」
にこっとサクラは笑う、サクラの笑顔は優しい。けれども今はその笑顔が少し苦しく感じた。
「レオにもあげといてよ」
レオは相変わらずなついてくれない。
「わかった」

家に帰れば暗い。自分一人、机に向かう。
「……いっ」
こんなにも痛いのは、今つけた傷のせいだと思えばいい。血の跡に消毒液を塗る――とてもしみる。
「――ホントニアナタハダメナンダカラ」
頭の中であの人の言葉が繰り返される。
 ガシャン
ひじで何かつついた。落ちたのはもう何年も何も入っていない写真立て。
「ったく」
イライラする。
 バシッ
写真立てが壁にぶつかる。
「あたしは何?」
この家は広すぎて呟く声なんて消えてしまう。
(孤独は嫌だよ)
返らない声は空しかった。このまま闇にとけたかった。あたしは外へ飛び出した。

「ねぇ お姉ちゃん」
酒臭いオヤジが近寄ってくる。そいつは意味不明な言葉を発する。
「うるせぇよ、クソオヤジ」
「何だぁ?この グ ズ」
はははとオヤジが笑う。酔った親父の言うことなんてほっとけばいい。でも、脳は正直だ。あたしはオヤジを殴った、そして蹴った。逃げる間もなくつかまった。檻に入りたいと思った。

「幸いにも、軽傷だったからよかったけど」
「……」
「本当に情けないわ」
はぁ とため息をつく。まだ何か言いたそうだ。手元にあるコーヒーはもうとっくに冷めてしまっている。
「もう うんざりよ」
 モウ、ウンザリヨ。何で、なんで、ナンデ……?こんなに腕傷ついてんのに。
「うるさいっ、お前なんか死んでしまえ」
あたしの親という名の人は、何処を見ていいのかわからないという目をしていた。コーヒーカップはカタカタと揺れていた。親という人を振り向く気も無く、あたしはコートを取って家を出た。親という人は何も言わなかった。鼻をすする音が聞こえた気がした。

「――サクラ、いないの?」
ガコンと何か蹴った音がした。ベンチに座ってぽっと赤い光を灯す。
「……マズイ」
それを落として足で踏み潰した。ボロボロになるくらいに。あたしは頭を抱えてうつむいた。何も見たくない。

スズメの鳴く声がした。どうやらあのまま眠ってしまったようだ。
「眩しい……」
「――リン、どうしたの? 今日は」
「遅いよ」
あたしはサクラにすべてを話した。サクラの真っ黒で穢れの無い瞳を見る。
「リン、帰りなよ」
「はぁっ!?」
彼女は怒っているようだった。手は強くスカートを握っていた。
「早く謝りなよ」
あたしは思わず立ち上がった。
「嫌だよ。あれくらい言って当然だ」
「……」
サクラは何も言わず去っていった。
「――何だよ」
ちっ と舌打ちをする。ガコン……また蹴った、それはドロップの缶。
「そういや、イチゴが好きだった」
タバコ片手に缶を見つめた。けれども次第に缶はぼやけて見えなくなっていった。
 ガコンッ
落ちた缶を拾う力も無かった。
甘いイチゴだけで十分だ、ハッカは嫌いだ。
「どうしてこうなるんだよぉ……」
あたしは今きっと 甘さ を求めてる。だけど与えてくれる人はいない。

 ポケットに傷つけるものは入っていなかった。だから、痛いくらいの現実を見た。

-5-
「腹……減った」
ぐううと腹がなる。こんな時にも遠慮しないあたしの腹。とりあえず何か食べることにした。確かこの近くにファーストフード店があったはずだ。

「いらっしゃいませぇ〜」
窓際の席に座り、ポテトをほおばる。ずずっと鼻をすすった。あんなところで寝てしまったから風邪を引いてしまったかもしれない。無意識にポテトをつかむあたしの手と、だんだんはっきりしてくるあたしの頭。ぐるぐると心と脳を渦巻くのはあの言葉だ。
「――死ンデシマエ」
あたしはあの人の言葉に腹が立っていたはずなのに。あの人はあたしを苦しませたから、だから復讐だったはず。なのに苦しんでるのはあたし。追い込んだのはあたし。
ずずっと、また鼻をすする。あいにくティッシュは持ち合わせていない。仕方ないのでその辺においてある紙で鼻をかんだ――そういえばあの人も鼻をすすっていた。あたしが家を飛び出す前に聞こえた。あたしはあの人の顔を確認するのが怖かった。
「……」
誰もあたしを責めてくれなかった、もちろん同情もしてくれなかった。責めてくれれば、同情してくれればあたしに言い訳することができるのに。
「ずるい」
小さく一人で呟いた。近くを通った店員は少し眉をひそめてちらりとこちらを見た。どうやら聞こえてしまったらしい。
窓からは次第に街を歩く人が増えていくのがわかった。サラリーマン、OL、小学生……皆せわしなく通り過ぎる。あたしが瞬きする間にどれだけの人が映っては消えるのだろうか?時なんて一瞬だ。瞬きすれば、消える。けれども刻まれた時はなかなか消えてくれない、むしろ増殖する一方だ。このモヤモヤを消す方法をあたしは知らない。
「――…サクラ」
会いたい、そう思った。だけど何故そうしたいのか、何よりあたしはサクラに何を求めてるのかわからなかった。収拾のつかない思いはあたしをもっと混乱させる。
もうポテトは残っていなかった。手を拭くための紙を取る。
「まぶし……」
急に陽が射してきた。窓際の此処は、ある意味特等席だ。
「何であったかいのかって?それが自然だからだよ」
そんな言葉が背中から聞こえた。父親らしき人が子供にそう言った。子供は目を細めて愛しそうに窓を覗いていた。
(テキトーな父親だな)
あたしは席を立った。店の時計を見ると、もう2時間も経っていた。外に出てあたしは公園に向かった。もちろん、サクラに会うために。

会いたいから、会う。それでいいと思った。

-6-
やっぱり彼女はそこにいた、いつものベンチに。
「……お」
言おうとしても言葉が続かなかった。何を言えばいいのか、あたしは戸惑った。はぁと大きく息を吐いた。
「サ……クラ」
サクラはレオを撫でていた手を止めてこっちを向いた。
「――ゴメン」
その台詞を言うために、あたしは2回も深呼吸をした。サクラは少し驚いた顔をした。

あたしたちはしばらく無言で座っていた。
「……家に帰るの?」
「――ああ」
本当は帰りたくなかったし、怖かった。このままずっとどこか遠くへ行って、時が解決してくれるのを待ちたかった。けれど、そしたら、またあたしはあたしを傷つけるだろう。時の重さに負けて。
「とり…あえず……ね」
「そう、頑張ってね」
「ああ」
サクラはいつもと同じ笑顔を見せていた。
「じゃあ」
そう言って立ち去ろうとしたそのとき、ふいにサクラが言った。
「リン、頑張ったね」
あたしはサクラを見た。
「大丈夫だよ、もう」
まぶたが熱くなりそうだった。あたしは小さく手を振ってサクラと別れた。少しモヤモヤが流れた気がした。多分、自分は一人じゃないと知ったから。

今度は3回深呼吸をした。あたしの足は、もう逃げ出そうとはしていない。しっかりと地を踏みしめている。
ガチャ…玄関のドアを開ける。中は真っ暗だ。一つ一つ部屋の戸を開けては閉める。どの部屋にもあの人はいなかった。ふぅとため息をついた時、あたしのポケットからメロディーが流れた。
「はい」
相手はしばらく会っていない伯母という人からだった。
「母さんが倒れたのよ」
話によると、用事で伯母が母を訪れた時、家の中で倒れていたらしい。
「ストレスらしいんだけど」
病院名を聞いてあたしは走った。
「ったく赤信号かよ」

息を弾ませて発見した、315号室。あたしはそのままドアを開けた。その人は眠っているようだった。あたしは近くにあった椅子に座って目覚めるのを待つことにした。
「……ごめんなさい」
謝ればすべてが良くなるわけじゃない事はわかってる。
「本当は淋しかっただけ」
あたしの頬に何かが触れた。その人の手はあったかかった。その人はじっとあたしの瞳を見つめた。
「リン、ごめんね。私全然わかってなかったね」
その人は、何度も何度もごめんねと言った。たくさん言いたいことがあったのに、言えなかった。文句とか、昨日のは本音じゃないとか、何も言えなくなった。その人の手をぎゅうっと握った。
「ありがとう、お母さん」
謝ればすべてか良くなるわけじゃない事はわかってる。だけど、言葉じゃないと伝わらないこともあるから。言葉は時として痛いけれど、目をそむけては何も変わらない。そう、消毒液はいつだって傷にしみた。


その夜、サクラはまんまるとした月を見た。瞳はその奥に見える闇を映していた。レオは勢いよくワンッと吠えた。
「大丈夫……大丈夫だよ」

-7-
白衣を着た人々がせわしなく廊下を歩く。かと思えば笑顔で人々に話しかけている。ピルルとコールが鳴っている。なんとも病院らしい風景だ。
昨日あの人……母は大部屋に移った。母は大部屋にいるおばさん方の勢いに圧倒されていた。少々苦笑いでリンゴを食べる母というのも珍しい。
「あら、リンちゃんいらっしゃい」
愛想のよくないあたしはぎこちなく笑い、おばさん方の前を通る。なんだか不思議な気分がした。
「そっくりねぇ」
しみじみとそう言われた。あたしも今、母と同じ笑顔をしているのだろうか。
「もうすぐ誕生日ね」
「え」
母はぽとりと呟いた。そういえば、そうだった。こんな言葉を聞くのは久しぶりだ。
「まあ、そうなの? おめでとう」
どこからかそんな声が聞こえた。いろいろな人に言われてあたしは少し恥ずかしかった。ぎこちない笑いのまま相槌を打っていたが、少しずつ話題が移ったのを機にあたしは病室を出た。
「ケーキ買わないと」
それは小さな声だったが、あたしにははっきりと聞こえた。まぎれもなく母の声だった。
外に出れば息は真っ白だ。いつの間にか木には飾りが無くなっていた。鼻と口をマフラーに押し込めて、いつもの道を歩く。もうこの道にも慣れた。すーパーの袋ががさがさと揺れた。
「サクラ」
頬を真っ赤にした彼女が振り向く。あたしはリンゴを手渡した。二人……いや、一人と一匹はリンゴが好物らしい。シャリシャリとほおばっている。こうしてみるとそっくりだ。
「いいねぇ」
思わずそう呟いた。
「――オヤジだ」
サクラはからかうようにそう言ってのけた。そして、ゴホゴホとセキをした。
「カゼ?」
「――…そうかも」
「そういえば、サクラの誕生日っていつ?」
サクラの肩がぴくっと動いた。サクラはリンゴを持つ手を少し下げて言った。
「――わからない」
サクラはまたリンゴを食べ始めたが、瞳は別のところを見ていた。
「よしっ、決めた」
「何を?」
「1月16日だ」
サクラはわけがわからないという顔をした。
「サクラの誕生日だよ。じゃあケーキ買ってくる」
サクラは唖然としてあたしを見ていた。自分でも強引だと思ったけれど、サクラの淋しそうな瞳は見たく無かった。
「おめでとーっ」
サクラは多少戸惑っていたが、ふぅとローソクの炎を消した。
「……ありがとう」
サクラは笑っていた。だからあたしも笑った。

-8-
私はローソクの炎が消えた後をじっと見つめた。
「どんな日だったのかなぁ」
その時太陽の光を浴びていたのか、月が私を照らしていたのか、全く思い出せなかった。
「ねぇ、サクラ」
最近のリンはとてもいい顔をして笑う。だから私は嬉しかった。
「リンもサクラもさ、文字の集まりなんだよ。だけど、誰かに呼ばれると名前になる。それが生まれたって、ここにいるって事だよ、きっと」
きょとんとする私の目を見てリンは続けた。
「――つまり、あたしはサクラにリンって呼ばれて嬉しかったってコト」
「……私もそうだよ」
ぽろぽろと涙がこぼれた。こんなにも綺麗な夜なのに、星が見えないのが不思議だった。
「よかったぁ」
リンがそう言った。
「たまには、泣かないと」
苦しくて仕方が無かった。もうこれ以上なにも言わないで欲しかった。このまま時間が止まればいいと思った。限りある時間が悔しかった。

-9-
最近、サクラのセキがひどくて心配だ。
「病院行けよ」
「うん」
彼女はすがすがしい顔をして言った。それでも肌は少し白かった。
「――あたしさ、看護士になろうと思う」
そう決意した。自分でも驚いたくらいだ。あたしは病院で働く姿を見て憧れた。安易な理由ではあったが、それでもあたしは本気だった。
「頑張れ」
「おう」
時計の針が18時を指した。
「これからバイトだ」
あたしは、かばんを持って立ち上がった。
「じゃあ」
二人同時にそう言った。いつも通りに、別れた。


もうすぐ時間が来てしまう。今夜も星は見えなかった。いつも通りだ。くぅんとレオがないた。私はギュッと抱きしめた。胸は苦しくなる一方だ。だんだんと景色が霞んで見えてきた。
「また、ここに生まれたいなぁ」
そう言ってサクラは目を閉じた。その時、レオは確かに見た。一つの星がこぼれたのを。

「いらっしゃいませ」
何度この台詞を言っただろう。だが意外と面白かったし、仲間もできた。
「今日はミカンも持っていくか」
昨日じゃあねと言ったばかりなのに、会いたくて仕方が無かった。風が髪を揺らす。目指すはサクラのような黒いサラサラストレート。ぽつりと雫が鼻のあたまにあたった。少し駆け足であたしは公園に向かった。
いつものベンチにはレオがいた。
「なんだぁ? やるか」
あたしはさっと身構えた。するとレオはあたしのジーンズをひっぱった。どうやらあの茂みに連れていきたいらしい。あたしはがさがさと草をわけた。

そこには一匹の黒い野良犬が眠るようにして死んでいた。それは昔、サクラと呼ばれた犬だった。

あたしは土をかぶせて、その上には買ってきたリンゴとミカンを置いた。レオはその間ずっと見つめていた。
「レオ、おいで」
レオは何も言わずについてきた。
地面がだんだん黒くなっていく。ザァァという音と共に人々はあわてて走っていく。
あたしの頬を水が流れた。

雨は本格的に降り出した。

                               -終-
2004-01-15 20:10:46公開 / 作者:道化師
■この作品の著作権は道化師さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
この作品を読んでくださった皆様、ありがとうございます。
私はまだまだ修行が足りませんなぁ(汗
この作品に対する感想 - 昇順
あまりにも短すぎるかと…あと、空白を開け過ぎだと思います。それに、私的にこれは一章ではなく序章に見えてしまいました(^^;)
2004-01-04 19:02:06【☆☆☆☆☆】PS-2918
短く感じてしまいます、もう少し伸ばせるようにしましょう。展開がまだ解らないのでなんとも・・・期待してます
2004-01-04 22:16:18【★★★★☆】紫の折り紙
感想ありがとうございます。長くするよう気をつけたいと思います。
2004-01-05 17:30:42【☆☆☆☆☆】道化師
始めまして、内容はとても深くて作りこんでいけばどんどん良くなるものだと思うので、もっと主人公の心理を書いてあげると良いですよ。そうするともっとキャラが活き活きとしてくると思います、内容は良いので頑張ってください^^
2004-01-05 19:40:42【★★★★☆】祈月玲於奈
まず、改文仕過ぎじゃない? 見にくい。ダッシュは二つ一組ですよ。小説作法のサイトでも見て来たらどうですか?それに『・・・』は三点リーダーか二点リーダーにしたほうが良いと思います。私的に三点リーダーの方が好ましいですがね。
2004-01-05 21:17:00【☆☆☆☆☆】六秀
ありがとうございます。ダッシュや三点リーダーなど初めて知りました(汗)直したいと思います。
2004-01-05 22:20:03【☆☆☆☆☆】道化師
リンとサクラの友情がいいですね。レオがリンになつかないという設定もなかなかいいのではないのでしょうか。ですが、4回目の話では一体何が起こったのか良く読み取れなかったように思います。リンの行動と心情とをもう少し詳しく描写していただきたかったです。それからこの作品は三点リーダーなので言う必要はないかもしれませんが、二点リーダーはこの掲示板では嫌われるのではないのでしょうか。三点リーダーになさった方がよろしいかと思います。続きも頑張って書いていってください。
2004-01-08 22:18:23【☆☆☆☆☆】エテナ
感想、御指摘ありがとうございます。もっと内容や表現を膨らませられるよう頑張ります。
2004-01-09 22:52:41【☆☆☆☆☆】道化師
丁寧に書けるよう心がければ、ずっと読みやすくていい話になりそうです。やはり読み手の立場を意識した作品作りが重要だと思いますし。話自体は面白いです。読者をひきつける力はあると思いました。
2004-01-10 06:02:06【★★★★☆】COYN
ありがとうございます。「読む」ということを大切にしたいと思います。
2004-01-15 20:21:30【☆☆☆☆☆】道化師
計:12点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。