『サミクラウスのおはなし1 〜サミクラウスのおとしもの〜』作者:PAL-BLAC[k] / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 とある島国でのお話です。
長いこと鎖国していた国にも、西欧の異文化が入ってきました。
天国の音のような黒い楽器、真っ黒なお茶。
麦から作った真っ白なパン、地上の星のように眩しいガス灯。
そして、生まれついての身分など空しいと説く、ありがたい新しい教えも・・・。


もちろん、何人もの外国の人々も来ました。
金色の髪に緑の目をした大きな男の人。
茶色の髪に黒い目をした美しい女の人。
黒い、長い丈の上着に聖なる印を付けた宣教師もやって来ました・・・。

 巷には、そんな「異人」さんを相手にする商売が賑わいました。
異国の名物を食べさせる店、故郷の味に似せた料理の店。
もちろん、そんな綺麗な仕事ばかりではありません。
賑わった店の中には春を売る店もありました。
港町の一角にある娼館は、ずれた異国の情緒を求める男で賑わいました。
船の長旅から解放されて、宿を決めたそんな「紳士」どもは、早速繰り出してきます。

こんな相応しからざる場所にも子供がいます。いや、こんな場所だからでしょうか。
大抵の場合は、「紳士」どもの破廉恥な楽しみの落とし物です。
そんな子供達は、町の人々から「あいのこ」と蔑まれてきました。
でも、娼婦たちからは差別されません。不憫な望まれぬ子供だからと、独特の社会の
中でもかわいがられてきました。
お客の中には、気に入りの娼婦に、珍らかな異国の品々が貢がれることがあります。
それは、何も形あるものだけとは限りません。「教え」を受けた娼婦もいます。
最近になって、迫害されてきた教えも解禁されて、その自由さに惹かれる者もいるわけです。
中には、子供にもその教えを説く娼婦もおりました。
真理亜も、そんな子供の1人でありました。

真理亜の母も、異国の人を相手にする娼婦でした。
町辻に立ち、お客を取っては店に上納金を納める。そんな生活を送ってきました。
そのうち、彼女はとある客を取り、身ごもりました。
あることがきっかけになって神の教えに目覚めた彼女は、娘に聖なる名前を付け、大切に育てました。
しかし、仲間の娼婦にも子の父のことを話そうとはしませんでした。なぜか、娘にも。
そして、仲間にはよく言っていました。
 「妾は罪深い女だけど、こん子も罪を負って産まれてきた。けど、こん子の罪を神様はお許し下さるだろう」
気立ても良く、見目の整った彼女には、身請けの話もちらほらとありました。
ですが、毎回、この親子を気に入っている娼館の女将さんに、
 「妾は子供を育てたいから、どうかこのまま置いといてくんなまし」
と、願い出ては自分から、ふいにしていました。
娘を育てるために売る。もちろん、その意味もあったでしょうが、彼女は、決して誰とも一緒になろうとはしませんでした。
必ず娘とともにおりました。

ある秋の日のことです。
商売も終わり、普段なら戻ってくる時刻になっても真理亜の母は戻ってきませんでした。
心配になった娼館の下男と娼婦、真理亜が夜の町中を走り回って探しました。
そうして、町辻で倒れ伏している母を真理亜が発見しました。
すぐにお医者が呼ばれ、診察をしましたが、無理がたたっていたのか、手の施しようがありませんでした。
 「ま、今夜が峠でしょう」
診療鞄を下げ、肩をすくめて医者は帰っていきました。
その晩は、女将さんと真理亜が枕元につきっきりで看病しました。
そろそろ夜も白んできたとき、彼女は気を取り戻しました。
彼女は弱々しく娘を抱きしめ、いよいよ別れかもしれない、と告げました。
 「何を弱気になっとう!」
女将さんは元気づけようとしました。
しかし、娘を抱いたまま首を振って、
 「妾にはわかります。女将さん、お世話になりました」
そう、きっぱりと言われてしまい、女将さんも覚悟を決めました。
 「真理亜のことは心配すなや!うちで面倒みたる」
しかし、意外なほどの力強さで彼女は言いました。
 「女将さん、この子はここから追い出してくんなまし」
そうして、娘の目を見ました。
 「真理亜や、おまえの母は罪深い仕事をしてきました。お前はここを去り神の教えに生きなさい」
まだ自活できるような年齢でない娘に、なんて過酷な。
女将は、真理亜が不憫になり叫びました。
 「真理亜には客取りなんぞさせん!うちの養子にするわ!」
 「女将さんの優しさにはお礼の申しようもありません。ですが、この子は罪を負って産まれたのです。
  ふがいない母の背負わせた罪を、神様の前で申し開きできるように己を高めなければいけません」
真理亜は、産まれてからずっと、母に「贖罪」を説かれてきました。
そのため、母の言を素直に受け入れました。
 「はい、母様」
 「お前ら、正気かい?!」
この親子が、自分の知らない神を崇めているのは知っていました。
その神は、そんな過酷な教えを強要するのか?女将さんは背筋が寒くなりました。
娘が自分の思いを解ってくれた。その安心のためか、彼女は娘を抱いたまま、すうっと息を引き取りました。

真理亜の母の弔いは、女将さんの心尽くしで行われました。
埋葬が終わってから、女将さんは真理亜と向かい合いました。
どうやって切り出したものかと煙管を立て続けにふかしながら悩みましたが、率直に聞きました。
 「真理亜や、お前はカカさんの言うとおりにするつもりかい?」
 「ええ。咲紀さんが、母様に言付けを頼まれていましたので、それに従うつもりです」
 「言付け?」
女将さんは、煙管をポンと煙草盆に打ち付けながら聞きました。
 「母様は、自分が死んだら、私を近くの教会に生かせるように。と、仰ったそうです」
それを聞いて、女将さんは納得しました。
身よりのない子供を教会は受け入れてる。そこで真理亜を尼するのが望みだったんだろう、と。
 「じゃぁ、行くんだね?」
 「はい、女将さん。今までお世話になりました」
そう言うと、真理亜はきちんと手を着いて深々とお辞儀しました。

娼館の誰からも好かれていた真理亜は、各々から餞別を貰いました。
真理亜の母を好いていた下男の1人が、教会まで送ってくれました。
そうして、いよいよ彼女の新しい生活が始まろうとしていました。
教会の修道士は、暖かく彼女を教会に招き入れ、神父様に会わせました。
しかし、神父様は真理亜を見るとサッと顔色を変えました。
 「悪魔の子!悪魔の子だ!!」
案内してきた修道士は、神父様の取り乱しっ振りに仰天しました。
 「神父様?どうされました!」
神父様は、胸元の聖なる印を掲げ、声高に叫びました。
 「その子供を追い出せ!罪深き娼婦の汚れた悪魔の子だ!!」
混乱しつつも、神父様の言うとおりに、女の子は追い出されてしまいました。
目の前で音高く閉ざされてしまった門の前で、真理亜は呆然としてしまいました。
これからは、彼女はどうしたら良いのでしょう。

秋が過ぎ、季節は身を切るような風の吹く冬になりました。
あれから、真理亜には行くところがありませんでした。
あの日以来、教会の門は堅く閉ざされてしまい、修道士達は、彼女を奇異の目で見るようになったのです。
娼館に帰るわけにもいかず、彼女は浮浪児となってしまいました。
それでも、彼女はひとりぼっちにはなりませんでした。
町辻に立つ娼婦達が、そっと何かしらの施しをしてくれるからです。
立ちんぼをしていた娼婦から真理亜の事を聞いた女将さんは、手元に引き取ろうかと思いましたが、
彼女の母の目が忘れられず、どうしてもできませんでした。
そこで、町辻にいく娼婦達に、真理亜へ渡すようにと、こっそりと握らせるようにしたのでした。
真理亜は、こういった優しさを神様が見守って下さるからだ、と信じており、敬虔な心を保ち続けました。
そうして、入ることのできない教会の外で、無心にお祈りを繰り返すのでした。

ある冬の夕暮れ、真理亜は、いつものように夕べの祈りを教会の柵の前でしておりました。
今日は聖誕祭の前日、教会では大勢の信徒による祈りが捧げられている時間でした。
身なりの良い紳士達がぞろぞろと教会から出てきました。
上流階級に属する紳士達は、日頃の教えなど忘れたように、真理亜を見て顔をしかめて騒ぎ出しました。
やれ小汚いだの、物乞いだのと、言いたい放題に言って、紳士達の中で血気盛んな者が蹴り飛ばそうとしました。
 「ええい、目障りな乞食め!」
ずかずかと近寄ってきて、足が上がった直後、不思議なことが起こりました。
ドサッという音とともに、赤いものが天から降ってきたのです。
あたりには高い木も何もなく、真っ直ぐに物が上から降ってくるわけがないのに。
これは、天使様のお怒りか?
紳士達は、急に敬虔な礼拝と教えを思い出し、怖くなって逃げ出してしまいました。
後に残された真理亜は、赤い物にそろそろと近づきました。
それは、白い毛の飾りのついた帽子でした。

しばらくしてから、真理亜は、寝床にしている橋のたもとへと戻ってきました。
懐中には、大切に帽子がしまわれていました。
彼女は、いつも施しものを受けるときに、神様が人を介して見守って下さることを知らせて下さったと思っています。
今日のことは、神様が自分の危機を見捨てずに救って下さったことの証だ、と考えました。
今夜も真理亜は、神様のご加護を祈りながら眠りにつきました。

翌朝、教会には昨日の紳士達が一団になって現れました。
昨日の事が、罪深き自分たちに下される天罰の予兆ではないかと怯えたためです。
告解室にぎゅうぎゅう詰めになって口々に騒ぐ紳士達に、修道士は面食らいました。
昼過ぎになって、ようやく紳士達が帰っていきました。修道士は、この珍妙な話を神父様に報告しました。
 「なんなのかね、その話は?」
神父様も、最初は面食らいました。
しかし、詳しく聞いている内に、その珍事には、秋に来た、娼婦の娘が関わっていることがわかりました。
 「あの子にも、主のご加護があるのでしょうか?」
疑問を口にした修道士を、神父様はぎろり、と睨みました。
 「軽々しく悪魔の子に主の御名を重ねるな」
 「も、申し訳ありません」
萎縮した修道士は、這々の体で逃げていきました。
 「娼婦の娘なぞという呪われた存在にご加護、はっ!馬鹿馬鹿しい」
言いながらも、神父様の顔は優れませんでした。
やがて、神父様は、部屋の一角にある聖像に向かって跪き、祈りだしました。

天にまします我らが父よ
御身の道をお示し下さい
この身をお導き下さい
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この世の全てを背負われた尊き御心を我にお示し下さい・・・
2003-12-26 23:29:20公開 / 作者:PAL-BLAC[k]
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■作者からのメッセージ
いまいち良く分からない作品になりました(汗)。3回続きで、次回はサンタクロースが主役になる予定です。
サミクラウス:(独)サンタクロース
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