『あくむ』作者:らぃむ。 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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あくむ

人ごみで賑わう繁華街。私は一人ぼうっと、人の波にのまれつつ、スローテンポで歩いていた。いろいろな人とすれ違っていく。若いカップルや親子連れ、老夫婦や、仲の良さそうな女のコ達…皆、幸せそうな顔だ。
そんな中、私は一人で歩いていたことが、少し恥ずかしかった。どこか、取り残されたかのように感じたからだ。Gパンにフード付きトレーナーという、あまり可愛いとも、流行ものとは思えない格好だったせいかもしれない。
しかし、そんなことを考える事も出来なくなるほどの恐怖が、私を襲ってきたのだから。
ふと、後ろを振り向いた。何か気になったわけではなく、ただ、なんとなく振り向いたのだ。ちょうど私から約2、3メートルくらい離れたところにいた、全身黒尽くめの怪しい人(多分、男の人)が、手に何かを持っていた。元々目の悪い私は、すぐにはソレが何かわからなかった為、何度か目を細め、その部分だけを凝視した。しばらくして、ソレが何か判明して、すぐに私は後悔した。ソレを見なければよかったと。
頭で理解し終わる前に、身体の方が動いていた。脚を動かし、手で人の波をかきわけ、必死に逃げようとした―――一人だけ、助かろうと。
耳に、ザクっと音がした。鮮度の高い果物が切れるような音。ほんの一瞬だけ、賑やかな繁華街が静まりかえった。そして、背中から生暖かい感じと、痛みが私を襲った。あの黒尽くめの人が持っていた包丁に刺されたのだと、悟った。以外にも、私は冷静だった。普通ならパニックに陥るのに、落ちついている。頭の中で、このことが分かっていたかのようだった。刺された衝撃で、私はバランスを崩し、近くに歩いていた女性にもたれかかってしまった。その女性は私を見るなり、顔を青ざめ、叫んだ。遠くから、誰かが私を呼んでいるような気がした。

「―――――っ!!」
勢いよく飛び起き、乱れた呼吸を整えつつ、額から流れる脂汗を拭った。
リアリティのある夢だった。ここ一週間、こういう夢をよく見ていた。今見たばかりの夢を思い出し、吐き気がした。背筋がゾワゾワして、徐々に気持ち悪くなった。口に手を当て、すぐに部屋から出てトイレに駆け込んだ。胃から食道、咽喉にまで達した汚物を吐き、また同じ夢を思い出し、同じことの繰り返し。胃液まで吐ききって、ようやく全てを流し終えた頃、涙が零れた。予想外の悪夢と、襲われる恐怖。それと、一人だけ逃げようとした私への、罰がこの夢なのだと気づいたとき、悔しくなった。
今から一週間前、信頼していた親友の優子が死んだ。とても些細なことで喧嘩になって、口をきかなくなった。その直後、彼女は私の目の前で事故に遭って、還らぬ人になってしまった。今でもそのことを後悔している。あのとき、私が彼女の言う事を信じてあげればよかったと。一番信頼していたのに、なぜ信用しなかったのだろう。遺された私には、哀しみと後悔しか残らない。
なら、楽になろうか?
これは、最低手段でも、最終手段でもある。他人や、病気に殺されるのではなく、自分で自分を殺すのだ。人間をやめたいのなら、コレが手っ取り早い。追われるのが嫌なら、止まればいい。人間から逃げたいのなら、コレが手っ取り早い。追われるのが嫌なら、逃げればいい。
カーテンレールに細く裂いた布の端を結び付け、首に巻きつけ、しっかり結んだ。めいっぱい力を込めて結んで、ぶら下がった。ぎゅっと首が締まって、苦しくなった。口から唾液と少し膨れ上がった舌が、だらしなく出て、ジワジワと血の気が失せるのが、なんとなくわかった。
逃げる私には、お似合いの死に方だ。もっと苦しんで死のう。彼女が味わった苦しみよりも、私がさっきまで苦しんでいたよりもずっと、苦しもう。
ありとあらゆる体液を流しつつ、汚く、私は程なくして、事切れた。

*end*
2003-12-22 21:10:10公開 / 作者:らぃむ。
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■作者からのメッセージ
ごめんなさい、意味不明でごめんなさい。
この作品に対する感想 - 昇順
前作「さぼり。」と併せてみて、少女独特の感性が出ていて非常にいい。主人公が衝動的に死を選ぶというのも、なんとも投げやりな話だが、それを実行するためには、ひょっとしたら夢の中に死んだ彼女を思わせる何かを挿入したほうがよかったかもしれないと思う。今のままでも、わかりやすく解説しているせいもあって悪くはないのだが。次回作も期待しています。
2003-12-23 11:58:49【☆☆☆☆☆】くるみぱんチップ
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