『入学初日の出来事』作者:ナッキー / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
ここは、日本のとある県の学園。部活で全国優勝は当然の学園。そんな学園は沢山の科に分かれていて、ちょっと特殊なルールがある。それは、「普通科が他の科の者と会ってはならない」こと。普通科は勉強、その他の科は自分の分野に専念する―。そんな自由の無い学園で生活を送る、普通科一年A組の小野冬真(おの・とうま)。彼は、あるキッカケでスポーツ科の校舎に足を踏み入れる事になる。そこで出会った人達によって、冬真の学園生活は変わることになり―?
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4月―小春日和。ここ、南田学園では中等部の入学式が行われていた。先月まで小六で成績だけは良かったオレ、小野冬真は、中学受験をしてここの学園に編入した。毎年、南田学園中等部の入試倍率はかなり高く、入るのも大変入ってからも大変という言葉が似合うと思った。
「やっぱり真面目な学校だな。友達もいないし、心配だ…」
 オレが卒業まで通っていた小学校からも、何人か受験していた。だが、その中で合格したのはオレだけだった。ほかのヤツらは結構頭良い方だと思っていたのだが、ともかく合格したのだから楽しく過ごしていきたい。
「―以上で、第六十二回南田学園中等部入学式を終了します。」
 話を聞き流していたら、いつの間にか入学式は終わっていた。これから、各学級に案内されるっぽい雰囲気だ。それにしても、オレが試験の時に見かけた人達以外にもかなりの人数がいる。…ああ、そうか。南田には初等部があるから、そこからの持ち上がりもいるのか。体育館から渡り廊下を出て、オレ達普通科一年A組は担任の後をついて行った。オレの苗字は「小野」なので、出席番号は一番だ。なので、今並んで歩いている時も一番前だ。そして、教室に入る。その時思った事を声に出していた。
「少なっ!!」
 教室は、ちょっとだけ広いだけの空間。そこにポツーンと席がある。二十席もなさそうなのだが。まてよ、他に受験して合格した人はもっといたはず。じゃあ、その人達はB組に?そんなはずはない。たしか、合格人数は百人を超えていた。…じゃあ、C組D組があるのか?でも、さっき廊下を歩いていた時はA組とB組しかなかったはずで…。そんな考えを頭の中でグルグルと回していると、
「小野冬真さん、早く席に着きなさい。もう皆座っていますよ。」
 担任の石川先生に声を掛けられ、ハッとする。そうだ、入学初日に恥をかくなんてゴメンだ。そそくさと一番廊下側の席の一番前に座る。そして先生の話が始まった。
「いいですか。貴方達は、中学受験で合格した学力の高い生徒です。そんな貴方達をさらに向上させるべく、私たちは全力で育てていきます。―そうね、折角だから自己紹介でもしてもらいましょうか。出席番号順でいいわよね。小野さんからどうぞ。」
 え、オレ!?と思ったが、断るなんてもちろんできないし。まだ考えがまとまっていないまま、自己紹介をすることになった。
「小野冬真といいます。えーっと…この学園に入学した理由は、勉強を頑張れる学校?だからです。…あ、あと姉と兄がこの学園にいるからですかね。よ、よろしくお願いします。」
 やってしまった。言葉かみすぎもいいところだ。思った事を考えもしないで話すなんて、恥ずかしい。ああもう、皆このことは忘れて…。次の子の自己紹介が始まり、無心で聞くことにした。
「加藤育実といいます。この学園に入学した理由は、文武両道という言葉がぴったりの学校で、普通科を選択した理由も似ていますが、勉強に力を入れていると聞いたので選択しました。得意な科目は英語です。これから、この科が良くなるように努めていきますので、よろしくお願いします。」
 え…オレと全然違う。話す内容凄すぎだろ。オレなんか適当に短くして終わらせたのにな。…育実さん、か。それから、オレ以外の皆は育実さんのような発表ばかりだった。
「皆終わったわね。それでは、この学園について説明をしますね。まだ初日で、全然分からない事が多いとは思うけど、今から覚えていくように。まず、学園の各科について説明するわ。黒板を見てもらってもいいかしら?」
 石川先生は、黒板に何かを書き始めた。どうやら、この学園の科を分けているみたいだ。
「貴方達はここ、普通科ですね。その他には、スポーツ科、文化研修科、工学科、商業科などがあります。ここまでで、何か質問はありませんか?はいそこ、小野さん。」
 手を挙げたのは、オレだけのようだ。
「あの、普通科以外の科の人達は、何処にいるのですか?」
 先生は、少しだけ表情が硬くなった。
「そうね…。小野さんは良い質問をしてくれました。そのことについて詳しく説明すると、」
 石川先生は、黒板にまた新しく書き始めた。
「スポーツ科は特に、世界や全国で活躍している選手がとても多い科です。その為、普通科の生徒は会う事が出来ないようにしています。」
 …は?そんな理由だけで?オレは少し、この先生はおかしいのでは?と思ってしまった。
「わかりましたか、小野さん?」
「…わかりませんが。」
 石川先生は、ふう…とため息をついて、オレにこう言った。
「そもそも、普通科がスポーツ科と会う必要は少しもありません。分からないのではなく、分かりなさい。これで、各科の説明を終わります。続いて、掃除の割り当てですが―」
 こんな感じで、オリエンテーションは終わった。あれから、オレは先生に何も質問していない。帰る時間になり、オレがバッグに筆入れなどをしまっていると、後ろの席の加藤育実さんが話掛けてきた。
「冬真さん、スポーツ科に興味あるの?」
「いや、特には…。あ、でも兄弟がスポーツ科にいるんだ。あと、育実さん、オレの事は冬真でいいから。」
 全部続けて言ったら、育実さんが笑って、
「じゃあ、私の事も育実でいいよ。」
 と言ってくれた。女子を呼び捨てにするのは少し気が引けるが、育実なら別にいい気もする。
「冬真のお姉さんとお兄さんは、何部なの?」
「姉は卓球部で、兄はバスケ部。どっちも今二年生。」
 そう言うと、育実はかなり驚いた表情になった。まあ、分からなくもない。卓球とバスケはかなり強い。全国常連だからな。…他の部もだけれど。
「冬真のお姉さんとお兄さんって、双子さんだったの!?」
 そこかよ!!双子っていっても、男女の双子だから、全然にてねえよ。そのことを育実に伝えた。そしたら、意外な答えが返ってきた。
「冬真兄弟に会ってみたいなー。ねえ、後でこっそり会いに行こうよ!」
「いや、やめとこうぜ。バレたら合格取り消しだぞ?」
「でも、明後日からどちらの部活も招待試合で県外行くんでしょ?チャンスは今しかない!」
 育実は、本気で行きたいようだ。そこまで会いたいなら、オレは協力するしかない。オレも、会いたいからな。スポーツ科は全寮制で、姉達とは去年から一度も会っていないのだ。しかも、今は放課後。先生達は職員会議。もう、今しかないのだった。
「じゃあ、少し見たらすぐに帰るからな。」
 とは言ったものの―。普通科の校舎からスポーツ科の校舎まで行くには、スポーツ科のみなさんが使っているであろうグラウンドを通らないと
いけない。そこを切り抜ければ、成功したと言っても過言ではない。育実に話すと、「余裕」の一言。
「そこからじゃなくても大丈夫。スポーツ科の寮の前からでもいけそうだから。」
 育実の言うとおりに、スポーツ科の寮に来てみた。校門前に近かったので、怪しまれずに通過することができた。後は、姉と兄が居る体育館に行けば問題なく会うことができる。スポーツ科の校舎は、静まり返っていた。だが、少し声が聞こえてきたので、その声がする方向に行ってみた。どんどん声が大きくなっていく。階段を上り、曲がり角を曲がったその時。誰かにぶつかった。
「…すみません。ぼーっとしてましたー。」
「いえ、こちらこ…そ?」
 ぶつかった相手を見て、思わず変な声がでてしまった。そう、その人は、一宮麻利香(いちのみや・まりか)。女子卓球部のキャプテンで、三年生。個人戦でかなりの成績を持つ選手だ。テレビで見たことがある。
「君はー、一年生?誰かを探し中?」
「あー、ええと、まあ。」
 会話をしていると、育実に肩をたたかれた。「何?」と小声で言うと、「この人に案内してもらお!」と返ってきた。確かに、一宮さんに頼るしかないと思った。そのことを一宮さんに話すと、
「いいよ。体育館、案内するね。」
 と、普通に返ってきた。超有名選手と話している感じがしない。そして、一宮さんについていくと、体育館の入り口に着いた。
「今、うちの副キャプに許可取るから、ちょっと待っててね。あ、もちろん秘密前提で。」
 二分位して、副キャプテンさんが出てきた。この人も、もちろん知っている。
「この子は、佐崎エリちゃんだよ!私以上に強くて―」
「それはいいから。で、この一年達が何だって?」
 一宮さんは、佐崎さんに事情を話してくれた。結構皆優しい人ばかりで安心した。
「ま、いいんじゃないの?先生は会議中でいないし。でも、真由ちゃんと少し話したらすぐ帰った方がいいからね。」
「ありがとうございます!佐崎先輩!一宮先輩!」
 ペコペコ頭を下げる育実につられて、オレも礼をした。よし、姉さん探すか。と思っていたら。
「あれ、冬真?久しぶり。」
 …後ろにいた。一年振りの再会なのに、そっけない。すると、育実が姉さんに話掛けていた。
「あの!小野真由さんですよね?初めまして!!加藤育実と申します。冬真のクラスメイトです。」
 もしかして、姉さんのファン?と思ったが、違うようだった。
「今日は、迷っていた私を案内してくださって、ありがとうございました!どうしてもお礼が言いたくて、邪魔してすみません。」
「ああ、今日のあの子かー。育実ちゃんだったの。しかも、冬真と同じクラスなんだって?仲良くしてね。」
 女子同士で盛り上がっている。オレ、入れねえよ。もう帰りたくなってきたので、育実に「帰ろう」と伝えた。育実と姉さんはブーイングしていたが、会議が終わり頃らしいので、帰ることになった。
「楽しかったー。冬真のお兄さんに会えなかったのは残念だけど。」
「しょうがないよ。もともと会えないんだし。あ、でも。兄が招待試合から帰ってきたら会えるかも。」
 そう言うと、育実は目を輝かせた。
「やったあ!じゃあ、また忍び込もう!!もちろん二人でね。」
「ま、またやるの…?勘弁してくれ。」
 そう言うオレだが、実は結構楽しみでいた。育実と出会えて、世界が楽しくなった気がする。
「それで、また行ったら真由さんとも話したいなー。」
 前言撤回。やはり忙しくなりそうだった。
2015-08-04 12:56:52公開 / 作者:ナッキー
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■作者からのメッセージ
はじめまして。ナッキーと申します。今回が初投稿なので、文才がないのがバレてしまっています…。今回の物語なのですが、「こんな学校あったら、恋愛とか大変そー(笑)」と友達と話した学園の話です。実際にあったら、面白そうですよね!私も、潜入したいぜー!!
ここまで読んで下さり、本当に本当にありがとうございました!!アドバイスくださったら幸いです。
この作品に対する感想 - 昇順
会ってはいけないなんて、不思議な学校ですね。
中世の身分制度みたいな感じでしょうか。
勉強に精を出しつつ、恋愛も…どう展開していくのか楽しみです。
2015-08-09 22:40:25【☆☆☆☆☆】肌墓
計:0点
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