『口裂け女の記録【蛇足】』作者:浅田明守 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
都市伝説の『化け物』になってしまった少女の終わってしまったはずの記録に付け足された蛇足。あってはならない、バッドエンドのその向こう側。
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原稿用紙約7.8枚
※注意
この物語は前作「口裂け女の記録」の続編となります。前作を読んでいないとわからない部分が多々ありますので、未読の方は前作からお読みください。
また、タイトルにもあるように、この物語は蛇足です。前作の雰囲気が大きく崩れる可能性があります。そういったものが苦手な方はブラウザバックを推奨します。



   prologue『始まりの終わり』
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは…………は?

 笑い声が消えた。あの日からずっと鳴り止まなかった笑い声が。
 ここはどこなんだろうか?
 いや、それ以前に私はどうして? あの日、私という存在は『化け物』に喰われてなくなったはずじゃ……?
 身体が冷たい。手足はピクリとも動かない。私は……地面に倒れているのだろうか?
 辛うじて動く首を緩慢に動かして周囲を探る。辺りは薄暗い。どうやらここはどこかの裏路地のようで、月明かりに照らされたゴミやらゴミやらゴミなんかが薄ぼんやりと見える。
 少し無理をして首を持ち上げ、自分の身体を見る。
 服装は……たぶんあの日から変わっていない。ただ、あれはなんだろうか? 私のお腹のあたりから、奇妙な形をした棒が……生えている? 違う。何かが刺さってるのか?
 そこまで考えて、私はようやく私意外の『何か』の気配に気が付いた。
「あら、あらあらあらあら。お久しぶりですねぇ。お帰りなさいと言った方がいいかしら?」
 『何か』は忘れたくとも忘れられない子の声で、でも私が知っているその子には似ても似つかない口調で、歌うように言葉を紡ぐ。
「よく戻って来れたわねぇ。完全にあなたは消えたはずなのに。あぁ、困った。困ったわ」
 髪の毛を掴まれ、無理やり引き起こされる。鼻と鼻が触れ合いそうなほどの距離に『何か』の顔が、忘れたくとも忘れられない、ここにあるはずのない顔が、現れる。
「あなたには用はないのよね。あなたじゃ意味がない。『化け物』でなくてはダメなのよ」
 『何か』の顔が歪む。憎悪に満ち、焦りに侵され、どこか憔悴しきったような笑みを浮かべる。
 眼鏡越しに『何か』の瞳を見て、思わず背筋を凍らせた。
 そこにあったのは狂気に沈み、濁り切った悪魔の瞳だった。決して人間が持っていていいものではなかった。
「残念だけどまた今度の機会にしましょうか。それじゃあ次に会うときまで元気でね。私の愛しい『口裂け女』さん」
 かつて私が殺したはずの『何か』が歌うように言うのと同時に、私の意識は闇に沈んでいく。
「早く目を覚ましてね。『物語』はまだ終わっていないのだから……」
 黒く塗りつぶされていく意識の中、そんな声が聞こえた気がする……


   Another if 〜過去〜
 かつて、私は普通の女の子だった。ずば抜けて頭がいいわけでもない。運動神経がいいわけでもない。強いて人と違うところを挙げれば、ほんの少しだけ口が大きい。ただそれだけの女の子だった。
 同時は怪談話とか都市伝説とかが流行っていて、そのせいか私はよく口さがない男子たちから『口裂け女』とからかわれていた。まあ、私は私で負けん気が強かったから負けずに色々と言い返していたんだけど……。
 ある日、事件が起きた。『誰か』が通り魔に殺された。その最初の『誰か』が誰だったのかは覚えていない。とても身近な人だった気もするし、どうでもいい誰かだった気もする。覚えているのは、『誰か』が死んだことによって学校がしっちゃかめっちゃかになったということ。それと殺されたのが『誰か』一人では終わらなかったことだ。
 月に1人か2人。早いときは週をまたぐことなく、人が殺されていった。犯人は神出鬼没で、目撃情報はいくらでもあるのに、いつまで経っても捕まらない。殺された人がいずれも口を切り裂かれていたことから、いつしか犯人は『口裂け女』だ、という噂が流れるようになった。正直、私としてはたまったものじゃない。
 いつしか私に対するイジメが始まっていた。
 初めは陰口。次にシカト。ヒートアップしてからは教科書ノートを破られたり、机に彫刻刀やカッターで落書きされたり、窓からバケツで水をかけられたり。友達は一人また一人と私から離れ、大人たちは私を腫れ物のように扱い、両親は私になんの興味も示さなかった。
 私は孤立し、少しずつ壊れていった。そして……そんな私の心の隙間で、『化け物』は少しずつ成長していった。
 いつしか私は自殺を考えるようになっていた。誰も来ていない早朝の学校。ハサミで口を切り裂いて、最後に喉を一突きして、教室のど真ん中で死んでやる。そんなことを考えるようになっていた。
 でも、それをいざ実行しようとして、私の手はすんでのところで止まった。死ぬのがバカらしくなった。どうして何も悪くない自分が死ななければならないんだと、そう考えた。それよりなにより……『化け物』が私に囁いた。『悪いのは誰だ?』と。『死ななければいけないのは誰だ?』と。『私がしなければいけないことは何だ?』と。
 そして、私の喉に突き刺さるはずだったハサミは、私の代わりにその日たまたま朝一番で登校してきたクラスメートの命を奪った。それが私の、初めての殺人。
 初めは実感が湧かなかった。ただ、服についた返り血が不快で、『化け物』の象徴である口を隠したくて、早足で家へと向かっていった。
 そして……化け物を見たかのように怯える母と、母の瞳に映る『化け物』を見て、私はついに認めてしまった。
 自分は化け物で、もう二度と元の生活に戻ることはできないのだと。
 そこからはもう、躊躇いも、戸惑いもなかった。
 クラスの男子を、私を腫れもの扱いした大人を、私を追い詰めていったすべての人間を、憎しみに任せてひたすら殺し続けた。
 この頃の記憶は途切れ途切れで、何人の人間を殺したのかわからない。最後の方は、ほとんど無差別に殺していた気もする。『化け物』になった私にとって、人を殺すことに理由なんて必要なかったのだから。
 今でもよく考える。いや、『化け物』になってから考えなかった日はない。
 どうしてこうなってしまったのだろうか。何が間違って、こんなことになってしまったのだろうか、と。
 きっかけは……何だっただろうか。記憶に靄がかかったかのように思い出せない。誰かの一言がきっかけだった気がする。あぁ、そうだ。思い出した。
『お前のせいで』
 確かそんな一言がきっかけだった。そうだそうだ。忘れたくとも忘れられない、あの憎いあの声、あの顔。私を『化け物』に仕立て上げた張本人。 
 あぁ……でも彼女はいったい、誰だったか。それだけがどうしても思い出せない……。
2015-04-29 21:47:35公開 / 作者:浅田明守
■この作品の著作権は浅田明守さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 どうも皆様。初めての方にははじめまして。そうでない方(がいるかどうかは不明ですが)にはお久しぶりです。忘れた頃にやってくる、バッドエンド量産機こと浅田です。
 新しい職場で慣れない仕事に四苦八苦したり、TRPGにはまったりしているうちに気づけば1年以上もの月日が流れていました。もはや私のことを覚えていてくださる方なんて一人もいないのではと(汗
 さてさて、冒頭にも記したようにこの物語は「口裂け女の記録」の続編となっています。一応前作を読まなくとも最低限理解できるように書くつもりではありますが、より物語を理解したい方はぜひ前作を読んでみてください。
 1年以上ものブランクがあるため(いい訳)かなりの遅筆かつ拙筆となっていますが、なにとぞ長い目で見ていただければ幸いです。
この作品に対する感想 - 昇順
 作品を読ませていただきました。
 この話は連載という形でどんどん更新されていくのでしょうか。それとも今回限りで終わりなのかな……? 前者ならまだ序盤なのでこれからに期待ですね! とは言え救いのないお話になりそう。人を殺しまくっているし、ひたすら落ちていくしかないような……。
 ところでTRPGおもしろいですよね。僕も仲間内でクトゥルフやったりします。一時期ははまり過ぎてクトゥルフをモチーフにした話を書いていました。父の遺産の魔導書を取りに行った先で、謎の怪人に魔導書を奪われ、追跡を開始するって内容。登場する旧きものはシアエガでした。『わが名は暗黒』はラブクラフトの作品ではありませんが、結構好きです。
 と、そんな事を書いていたら、前作を読んでいない僕は口裂け女を唆す『何か』がニャルラトホテプにしか見えなくなってきました。なんて冒涜的! SANチェック入りますね! 1D100振ってください!(SAN値直葬)
 次回更新があるならお待ちしています。ピンク色伯爵でした。
2015-05-02 03:37:47【☆☆☆☆☆】ピンク色伯爵
>ピンク色伯爵
浅田明守のSANチェック(65)⇒ 13 成功
SAN喪失1D10 ⇒ 8
アイディア(70) ⇒ 35 成功
一時的発狂(異様な性的嗜好+多弁症)
この臓器いいよね。このテカリ具合といい、ぬめっとした感じと言い、あぁ、でもまだ脈打っている心臓も悪くないよね。最初は力強く脈打っているのがだんだんと弱弱しくなっていく様とか最高だよね。個人的には肺とかも好きなんだけど、タバコを吸っている人の肺はだめだね。あれはどす黒いっていうよりも炭化してるって感じで臓器のテカリ具合を悪くするからね。やっぱりバラすなら幼い子供のほうが……っは!? 私はいったい何を……
(ここまで茶番です)
 どうもお久しぶりです。『何か』の正体はニャル様ではありません。まあ役割的に似たようなものな気がしないでもないですがw
 ブランクによる鈍りと同時進行で別作品を書いているため、更新は遅くなるかと想いますが、この作品は一応連載という形になります。どこまで続くかは例によって未定なんですが(汗)つまりいつも通り、「プロット?なにそれおいしいの?」状態です。
 そんな駄作ではありますが、気長に待っていただけると幸いです。
2015-05-02 19:14:04【☆☆☆☆☆】浅田明守
計:0点
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