『全力、中学生―望の闘い』作者:手塚 広詩 / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
中学生の橋本望(はしもとのぞむ)が、彼の通う明湯(めいゆう)中学校でいじめにあいながら、友情や恋愛、家族との絆を通して成長していく物語。
全角24669文字
容量49338 bytes
原稿用紙約61.67枚
 一 登校

 パン一切れとコーンスープ半分。橋本望(はしもと のぞむ)はこれだけ口にすると、食器皿の置かれたテーブル周囲を眺めながら、微動だにせず、じっと座っている。普段ならパン二枚とスープ、目玉焼きにバナナを必ず食べ、それでも足りない時はヨーグルトまで食べる、十三歳の健康な少年である。それが、淡い薄紅色の頬を持つ顔も白く、猫背の背を一層丸めたまま銅像のように動かない。
「もういいの? あんた大丈夫なの?」
「ああ、平気」
 母の信子(のぶこ)が牛乳を望の前に置きながら、驚いて望の顔を伺った。彼の「ああ、平気」という貧弱な声ほど、頼りない返事はなかった。
「『ああ、平気』って、まったく誰がそんなの信じんのよ?」
「いや、平気だって。食べる気がおこらないだけ」
「……あっそう。学校しっかり行きなさいよ。いつもより十五分も寝坊しているんだからね。元気な望君」
 母の信子は息子を上手く演じて見ると、半分呆れたような、また半分心配しているような調子で言い返した。長年生活をともにしただけあって、ため息をはあ、と吐く様子や、眉間に皺を寄せる時の眉の角度、声量やトーンまで繊細に真似ている。
「そうだぞ、望! ピシッと。ピシッと!!」
「あんたは食べすぎよ。」
 父の成実(なるみ)は、まるであえて不快に思われる程の大きく騒々しい声をだした。すぐさま母がつっこみを入れる。
「そうかな? でも朝は夕飯の二倍食べていいんだってよ? 職場の先輩が言ってた。最近職場のズボンが入らなくなっちゃって」
「え? また? 去年ウエスト調整したばっかなのに。 あんたの夕飯の2倍ってどんだけよ。」
「またズボン頼むよ。それじゃ行ってきまーす」
「すこしは自分でやりなさい。全く……」
 成実はお腹をポンポンと二回程たたくと、最後の信子の言葉を聞かず、スリッパの音をパタンパタンと大げさに響かせながら玄関に向かうと、バタンと豪快にドアを開けて仕事に向かった。
 普段だったら何ともなく聞き流せるこの夫婦の会話も、今日は望の苛立ちを一層増した。父の声、急ぎ走る音、ドアを強引にあける音、すべてが彼にとって苦痛だった。
「もう父さんも行っちゃったよ。あんたも早くしないと……」
 視線を上げると、テレビの時計は七時五十五分を示していた。いつもならとっくに家を出ている時間だ。それがまだ着替えてもいない。

 朝、珍しく母の怒鳴り声で目が覚めた。一回の呼び出し音で起きられなかった為にと、携帯のスヌーズ機能をいつも利用しているけれども、今まで携帯が朝に三度なることは殆どなかった。それが今日は三度携帯からミスターチルドレンの「tomorrow never knows」が流れ、それでもベッドから離れられなかった。
 母の大声で上体をベッドから起こすと、彼は呼吸が荒くなっているのに気付いた。「トクトク」と、心臓の鼓動がいつもよりはっきりと、早く打っているのが感じられた。目が激しく泳ぎ回り、視界に移るものは焦点が定まらずにぼやけている。全身が波に揺られているかのような感覚に襲われ、上半身はゆらゆらとし、両手でベッドを支えないと倒れてしまいそうな程だった。
 部屋の照明をつけると、望はまた深くため息をついた。明かりをつけても、なんだか視界が薄暗くぼんやりとしている。ベッドから足を出して数歩歩くと、落ちていた制服のワイシャツに気付かず、右のつま先が袖に引っ掛かり、危うく躓きそうになったが、前に壁があった為、どうにかそれを両手で支えて転ばずに済んだ。
 いつも通り時間に起きられなかったことへの苛立ち、全身の倦怠感で体の自由が利かないもどかしさ、そして、今日これから先に起こることへの漠然とした不安が、彼を襲っていた。彼の頭には、昨日のある出来事がずっと頭から離れず、殆ど眠れなかったのだ。

 制服に着替えて母に「行ってきまあす」とこれもまた頼りなく挨拶すると、彼はのそのそと歩き出した。信子はそんな望の姿を不安な心地で玄関で見送った。「まあ、何があったって、あの子が言ってこない限り、黙っていた方が良さそうね」と、自分に言い聞かせて食器の後片付けに取り組んだ。二人の男の子を見てきた母親は、彼女なりの距離感を意識して振る舞うことを大事にしている。
八時五分。望の通う明湯(めいゆう)中学校は八時三十五分に始業のチャイムが鳴る。家から中学校まではなだらかな勾配の坂道を下り、民家の並ぶ通りを歩いて二十分程で着くから、時間は間に合う。
 けれども、やはりいつもと違う。足が思うように前に進まないのだ。身体が鉛のように重い。いつもより遅れているんだ、早くしないと、という彼の思いとは裏腹に、歩幅が極端に短い。
 周囲から見れば、彼は病人に見えたのかもしれない。もともと猫背な背中はさらに丸みを帯び、頭部は前方に突出し、口角が下がっている。それに、『目力』というものか、彼が普段からよく周囲に言われていた、内面から湧き出る「気の強さ」の象徴である、その丸く大きな瞳からでる活力のようなものが、今日はまるで感じられない。五月の雲も殆ど見えないくらいの清々しい朝なのに。遠くに見える新緑の萌える山々は、今日一日を歓迎している様だった。彼には、すれ違う人―速足で駅に向かう高校生や、スーツを着たサラリーマン風の男性、散歩に連れてもらっている犬が、いつもよりはつらつと幸せそうに見えた。
 坂道を下り民家に差し掛かると、直線の道の両脇を民家が綺麗に整って並んでいる。ここの住宅街は縦と横の道が等間隔に交差しいて、どの家の敷地も大体同じくらいだ。都心から離れても影響ない高齢の方が多く住んでいる。望は民家の中の道をそのゆっくりとした歩調で一度だけ転びそうになった。道の隅を歩いていた望は、足元に散りばめられた嘔吐物に気付かなかったのである。左足でまさに嘔吐物を踏むか否や、ぎりぎりで気づいて体を壁にぶつけた。そのコンクリートで来た家の敷地を囲む壁にも嘔吐物はかかっており、右足を軸にしたままちょうど半回転したように壁にまとわりついた。
 ちくしょう、確か昨日まではなかったな。そう思いながら紺色の制服を確認すると、左肩に位置しているところに少しついた。彼はそれをハンカチで拭うとはあ、と大きくため息をつき、またのろのろと歩き出した。またゆっくりと歩いていくと、小学生の二人組が走って彼を追い越した。
「おい、お前ら遅れるぞ!」
「お前の方がやばいじゃん。何言ってんの?」
「俺はこれから本気出せば走っていけるもん!」
 後ろからヤジを飛ばした太った小学生が、枝を両手に持ちながら歩いて彼を通り越したが、こちらを見ようともしなかった。

 いつもより長い時間をかけて、ようやく校門につくと、望の足はぴたりと止まってしまった。
正確に言えば、今日二回目の「微動だにせず」の状態だ。止まったのは彼の足だけではなく、全身がまるで人形のようにピクリとも動かなくなったのだ。
 望はひとまず、なんとかここにたどり着くことができたことにほっとした。しかしそれと同時に、ここから先に進むべきかどうかという、朝の地点では答えを出していたはずの問い(というより朝の地点で、学校に行かないという選択肢があることに殆ど気づいていなかったのかもしれない)が、再び脳裏をよぎったのだ。
 風邪をひいたことにすれば、今日一日は不安な思いを胸に充満させることなく一日を終えることができる。現に朝食をいつもの半分も食べていないし、身体だってこれだけ重く怠い。体調が『不良』であることは間違いない。
けれど十三歳の彼の中にある小さな正義感は、仮病を使うことを簡単に許さなかった。
 今日一日起こるかどうかも分からない不安の為だけに休むのって、どうなんだろう? もし今日それをやってしまうと、なんだか癖になってしまいそうだと、そんな後ろめたさが残っているのだ。第一、今日休んだところで、また明日はくる。不安の根本を消すことはできない。転校でもしない限り、これから起こりうるだろう未来からは避けられない。
 行けば――その場合、彼ら三人に確実に会うことになる。
 彼自信、別に罪を犯したわけではない。彼はそのデリケートな心に、何度も何度もこの「おれが悪いことをしたわけじゃない」というのを、まるで唱えるかのように言い聞かせていた。ただ、昨日の出来事で彼らが自分に恨みを持つようになったのも明らかだ。
 ああ、どうすればよかったんだろう? 自分ではあれしか考えられなかったんだ。ああするしかなかった……
 そんな考えが何度となく彼の頭で繰り返されては、なかなか判断がつかないでいた。彼は体を校舎に向けては後ろを向き、後ろを向いては校舎を向き、を四度ほど繰り返していた。そうしている間にも、何人かの生徒が校舎に入っていく。三人連れの体の大きい男子生徒の集団が一つと、太った男子生徒が一人、続いて一人の女子生徒が小走りに校舎に向かった。どの学生も彼の前を通るとき、不思議そうに彼を一度見ると、それきり何か話をするでもなく、急いで校舎に入っていった。もうすぐチャイムが鳴る。

「何やってるの?」
 五度目に後ろを振り向こうとしたとき、背後からする声に、望は背部に電気が走ったかのようにビリっとした何かを感じ取り、猫背になっていた背中は急に等身大の高さにまで伸びていった。ビリっとなった、彼がその全身で察したのは、なんというか、「最悪な状況」を示すサインである場合が多いのだが、今後ろを振り返れば、本当にそれが「最悪な状況」であることが、望の頭にもはっきりと理解された。今まで感じていた倦怠感、頻脈、鉛のように重くなった身体のことを一気に忘れ去られる程だった。
「もうチャイムがなるよ。どうしたの? 中に入ろうぜ」
 三人の中の真ん中に立っている、背の高く細い目のした少年が、にたっと笑いながら声を発した。その言い方は、望の挙動不審な様子をあざ笑うかのうようだった。
 ああ、こんなに早く最悪な時が来るなんて。
望は息を震わせながら、それでも目はしっかりと前を見据えていた。この日から、彼の闘いが始まる。

 二 望の生い立ち

 小さいころに母親から「暴力する子は弱い子」と教えられてから、人と競争するのを避けるようになった。その癖、「勝負は嫌い、やりたくない、でも負けるのはもっと嫌い」という自論を展開し、クラスメートとの衝突も多く、教室中をその度に混乱させていた。だから彼はいつもクラスメートから煙たがられていた。それでいて本人はなぜか、自信たっぷりという雰囲気を周囲に醸し出していて、先生や親からも奇妙な存在として見られていた。自分は間違ったことはしていないと思い込んでいるようだった。
 望が明湯小学校に入ると、近所の佐々木和(ささき なごみ)と一緒に遊ぶことが多くなった。学校が終わると和の家で任天堂のwiiとかプレイステーション2といったテレビゲームをするのが日課だった。パワフルプロ野球やドラゴンボールやロックマンをやったが、大抵のゲームは和が勝った。家にゲームがない望と比べ、和はよく鍛錬されていたからだ。
 小学校二年生の時、和の誕生会が彼の家で開かれた。誕生会に来た八人で「マリオパーティー8」をやった。同時に4人しかできないので、負けたらコントローラを交代してゲームから退くというルールになっていた。望がコントローラを握るのは、八人の中で一番少なかった。
 次の日学校に来ると、彼がゲームに負け続けたことがクラス中に広がった。
「いやあ、お前の弱さにはびっくりだわ!」
 望が教室に入るとすぐに大きな声がした。誕生会に参加した木村将太(きむら しょうた)が、彼に向かって皮肉たっぷりにそう言った。将太は和と最後まで一番を競っていたほどゲームに熟練していた。
「しょうがないじゃん、ゲーム持ってないんだもん」
「いや、でも和の家でいつもゲームやっているんだろう? もってないにしても弱すぎるぜ」
「だって」
「だってじゃねえよ。 弱すぎだよ。おい和、よくこんなやつと一緒にいつも遊べるな」
 望の声を遮って、将太は和に向かって言った。望は和の顔を伺った。
「ああ、結構大変だよ。相手するの疲れるぜ」
 和は静かに言った。望は、和から何もためらわずにその言葉が出たことに失望した。望はぐっとこぶしを握り締めた。
「あんまし和に迷惑かけるなよな。あーあ、全く弱すぎてびっくりしたぜ。日本で下から何番目だろうな。和がかわいそうだぜ。幼稚園児でも勝てるんじゃねえの!」
 わざと感心するように将太がそう言うと、教室中どっと笑い声が起きた。その言葉にまるで我慢の糸が切れたように、望は将太に勢いよく襲いかかった。望は一回り体の大きい将太の背中にランドセルを二回叩きつけると、ぽんと軽くて貧弱な音が三度鳴った。三回目にランドセルを振りかぶろうとした時、将太が素早く振り返り、将太の蹴りが望のみぞおちに入った。望は「おお〜!!」と喘ぎ呼吸もままならず、その場に座り込んだまましばらく立てなかった。
「馬鹿じゃねえの! 俺に勝てると思ってるのかよ! がりがりで弱いくせに。痛くもなんともないね! ゲームも喧嘩も弱いんだから、生きてる意味ねえよまったく」
 確かに、とクラスの男子達は笑いながら、興味津々で二人の闘いを見ていた。それが、望にはクラス中が彼を馬鹿にしているように感じられ、たまらなく悔しかった。立てなくなった望の細いからだを見て、将太はその場を去ろうとした。
――これで終わりにしてはだめだ。こんなんじゃ、おれの負けだ。負けを認めては絶対にだめだ。
 望は心の中でそう叫んだ。その思いで頭がいっぱいになり、全身の痛みを忘れ、ものすごい勢いで将太に向かって走り彼の背中に思い切り蹴りを入れた。どんと鈍い音がすると、将太は机ごと倒れ「ああ、いってえ……!!!!」と教室に響き渡るほどに叫んだ。将太は骨盤の前のあたりが机にぶつかり、膝を思い切り机の支柱にぶつけた。「もうやめなよ」と、どこかからか女の子の声がした。将太は殺意の目を望に向けた。それは教室の空気が一瞬で凍りつくような、冷たい目だった。望はその眼を見てああしまったと蹴ったことを今更後悔した。頭が冷静になると一気に血の気が引いた。
「いいかげんにしろよ!!」
 体格差と身体能力差を考えれば、勝敗は戦わずとも明らかだった。将太の大声が響き渡ると、望にとび蹴りを入れた。今度は望の膝にあたり、望は勢いよく後ろに倒れこみ、その時に机に頭を打った。望は意識を失いかけた。それでも将太の怒りはおさまらず、髪の毛を鷲掴みにして顔面を殴った。続いてわき腹を三度蹴り、上履きの裏で強く膝をこすり、足を五回踏みつけた。殴打による全身の痛みと割れるような頭痛でしばらく立てず、仰向けで倒れていた。望は気が付けば声を上げて泣いていた。
「もうやりすぎだよ」
「俺だってやられたんだし」
「泣かしちゃダメでしょ」
「それはあいつが弱いからだし。しらねえよ! 何で泣かせ奴がいつも悪者なんだよ。冗談じゃねえよ」
 将太とクラスの女の子とのやりとりが聞こえた。
「ちくしょう……ちくしょう! 何でだよ。何でそんなにバカにすんだよ」
 寝そべっていた少年から、蚊の鳴くような声が出ていたが、その声はあまりに小さかったので殆ど誰にも聞こえなかった。鼻水と涙でくしゃくしゃになった顔をした望の姿を、数名を除いたクラス中の生徒が楽しそうにそれを見物していた。
――起きろ。起きろ。悪いのはあいつなのに。悪いのはあいつなのに。
 そう唱えて、ようやく机を支えにしてゆっくりと望は立ち上がった。少年は鼻水と涙を拭い、相手を睨みつけた。その睨みは先方に届き、それが将太を一層怒らせる結果となった。望はわき腹にドスンと重い何かを感じると、よろよろと全身から力が抜けたように倒れた。将太のこぶしが二発あたったのだ。
 それは敗北を意味していた。しばらくすると先生が教室に入ってきて、女生徒が起こったことを説明した。先生は二人を怒鳴った後、望を保健係に保健室に連れて行かせた。彼は脇と膝に大きな打撲を負い、口に切り傷、口内炎もできた。手当をしている間、彼はずっと泣き続けた。結局その日は母親が学校まできて望は早退した。次の日望が学校に行くと担任の先生が心配して大丈夫かと彼に聞いた。彼は何ともないというふうな口調で、「痛かったから泣いたんじゃありません。びっくりしたから泣いたんです」と返した。担任の先生は剣幕な顔をして、「頼むからもう喧嘩はやめろ。次やって頭の骨でも折ったらどうするんだ? 身体も細いのに」と注意した。不本意ながら、彼はその時から暴力を振るわなくなった。その日以来クラスメートの多くは彼に近寄るのを避けるようになった。望も元々人に積極的に話しかけるようなことはしないから、クラスメートとの会話は減っていった。
 
                              *

 小学四年生の時にある絵画に衝撃を受けたのも、彼のそんな性質が一因だったように思われる。父親と上野にある美術館に行った時のことだった。成美は大学時代に親しくなった友達と美術館やクラシックコンサートに行ったことがきっかけで、芸術の世界に興味を持つようになった。望はそれまで絵に殆ど興味なんかなかったし、教科書に載っているような作品を見ても特に感動することはなかった。だから父から美術館に行く話が出た時、絶対にすぐに飽きるだろうと思っていた。
 美術館では西洋絵画の総合展示会が開かれており、レオナルドダビンチやゴッホ、ラファエロ、ゴーギャン、ピカソなど幅広い分野が紹介されており、どの絵にも人が群れでできるほど混雑していた。今まで望の知らなかった世界がそこにあった。最初はただこんな世界もあったのかという単純な驚きが大きかったが、館内を回っているうちに次第に絵画の魅力に惹きつけられていった。成美は自分のわかる範囲で、画家の生い立ちだとか作品のタイトルの由来だとかを、望に丁寧に説明した。成美は、望が絵画に興味を持つのに十分な話術を持っていたようだった。この画家はどんな人生を送ってきて、どんな心境で書かれたのか、説明を聞けば聞く程、望には絵の一枚一枚が神秘的で奇跡のように思えた。それはその一枚一枚の絵から画家の「内面」がそれとなく見え隠れし、時にはその何百年前の人とまるで会話をしているようにさえ感じたからだ。
 彼がその日最も釘づけとなった絵は、エドヴァルト・ムンクの「叫び」だった。何層もの曲線で成り立ち見れば見るほど不気味に思える橙と赤で彩られた夕空、明るい青と黒に近い紺色をしていて不自然な形をした川、まるで悪魔に取りつかれ歪んでしまい血の気のない顔をした人。これらの空や川や人はこの世界のものとは思えず、ただ橋だけが望の知っている橋に描かれていて、だから、この絵の中では橋がかえって全体の調和を崩しているような、そんな感覚さえ覚えた。
「この橋にいる人はムンク本人。でもこの人が叫んでいるわけじゃないんだ」
「え? そうなの!?」
 父がそう説明すると、望は困った顔をして父の表情を伺った。
「この橋に立っている人は、周りの自然からでる空気とか風とか光から、叫びを感じ取ってるんだよ」
「……空気とか気温から叫びが聞こえるの?」
「うん。そしてその叫び声から逃れるように、ああいう風にして耳をふさいでいる。そいうことらしいんだ」
 望はただ茫然とした。父の説明の意味が殆ど理解できないという風だった。
「なんでこんな絵を描くんだろう? っていうか描けるんだろう、って言った方がいいのかな? こんな絵が。だってなんか……不気味っていうか、別な世界なような……」
 上手く言葉が出てこない。
「そうだね。ムンクは小さい時から体が弱くて、気管支炎とか、結核とか、当時じゃ下手すりゃ死んじゃうような病にかかってるんだよ。しかも 彼は母を五歳の時に亡くしていて、一四歳の時に姉を病気で亡くしてんの」
「……」
「それがこうして絵に残っている。ムンクって結構そういう不安をテーマにしてるんだよ。病気になって死んだらどうなるかとか、母さんが亡くなった悲しみとか、そういうのを題材とした絵が多いんだよ。
 さっき自然から叫びを聞いたって言ったけど、幻聴って言ってね、実際には音が聞こえるはずないのに聞こえちゃったりすることをいうんだよ。心が病気になると、そういう症状がでることもあるんだよ。ムンクにはきっと、空とか川とかもこんな風に歪んで見えてたんだと思うな。苦しかっただろうね」
 成美は溜息をついて説明した。成美が寂しそうな顔をしているように望には感じた。親しい人が亡くなった後に残る孤独。病気という未知の敵への恐怖。周りの風景が歪んでしまうくらいの気持ちって、どんなのだろう。そう思うと、望に悲しみが襲ってきた。過去の記憶が呼び起されたのだ。そして彼には不思議と、もう一つ別のものをその絵から感じ取っていた。
 生きたい。絶望の中、そんな「叫び」が絵全体から聞こえてくるようにも彼は感じた。それも、とてつもなく大きな力で。
 この「叫び」という一枚の絵は望の心に深く刻まれた。そして、自分にもこんな絵がいつか描けたら―一度見たら忘れることのできない、見た人の記憶にずっと残るような絵が描けたら―と、まるで雷に打たれたかのようにその思いが全身を貫いたのだった。その日から少年は毎日スケッチブックに絵を描いた。人と関わることが苦手な彼にとって、絵を描くことが次第に生きがいとなっていった。
 そんな風に過ごしてきたから中学校に入っても特別に仲のいい友達はできなかった。サッカー部の仲間とも遊ぶことは殆どなかったし、女の子とデートもしなかった。望が初めて気持ちの通じ合える友達と思えた男子は、二年生に進級する際のクラス替えで同じクラスになった黒木楽(くろき らく)だった。
 後に彼からいじめを受けることになるとは知らずに。

三 友情の喪失1

 望が黒木楽と初めて会ったのは、中学一年生の時だった。スポーツが万能で野球部の一年生エースといわれていて、クラスは違うけれど、一年生の時から彼の噂は耳に入っていた。全校集会で並ぶ時、望は彼の姿を遠くから見ていた。肌は白く唇が小さくて、背が高いわりに小顔だ。楕円状のメガネの奥には漆黒の瞳を覗かせ、望にはまるで女性のように顔立ちが綺麗に感じられた。実際学校の女子にも楽は人気者だった。
 中学二年生になって、望と楽は同じクラスになった。たまたま席が隣同士となり、二人はよく話をするようになった。どことなくクラスに馴染めていない望にとって、楽と話をする時間はとても楽しかった。野球のことや流行っているカードゲームやTVゲーム、お笑い芸人、クラスの女の子のことなど、楽が持ち出す話題は望の知らない事ばかりで、どれも刺激的だった。そんな話を楽から聞いていると、望はなんだか未知の世界を冒険しているような気持がして楽しくなっていた。
 楽もまたそんな望の姿に、どこか自分に持っていない魅力を感じたのかもしれない。無知ゆえに心の純粋な部分を望からそれとなく感じていた。楽が持ち出す話題に次々と変わっていく望の表情を見ているのもまた楽しかった。楽は望の他に、一年生の時から同じクラスだった井上勇(いのうえ いさむ)と島田進(しまだ すすむ)を誘ってよく遊んだ。楽の家で四人でゲームをやったり、ガストで食べながら話をしたりした。いつも楽がリーダーシップをとっていて、その場を楽しくさせていた。そこでも楽の考えることは望にとっては仰天するものだった。楽の家で遊ぶと、たこ焼きとかアイスとかチョコレートとか大抵お菓子をもらえるけれど、楽はそのお菓子の中の一つに大量の山葵を入れ、ゲームで負けた者がそれを食べることになっていた。ガストでドリンクバーを頼む時も油断ができなかった。一人がトイレに行っている間、楽は自分の家から持ってきた七味を飲み物の中に大量に入れてかき混ぜてわからなくさせていた。ある時、「何か飲む?」と楽に聞かれて望はコーラがいいと答えた。暫くして楽が持ってきた物を何も疑いもせずに口元に近づけると、いつもと違うつんとした酸味のある香りがする。飲んでみると生温い感覚がした後にシワシワとした気味悪いものを舌で感じた。苦くも甘くもなく、望はパニックに陥っていた。楽がコーラにコーヒーを入れたのだった。望が驚いて体が飛び上がったのを見て、三人は爆笑した。
 望は時々、そんな彼らを「得体のしれない生物」のように思うこともあった。一度楽に騙されて、四人でアダルトビデオを観たことがあった。「大人になってから見る」と何度楽に誘われても頑なにアダルトビデオを見ることを拒否し続けていた望だが、四人の策略に見事にはまってしまう。ある日いつものように楽の家に遊びに行くと、急に進と勇に身体を抑えられた。何が何だかわからない状態でしばらく抑えられていると、楽がアダルトビデオを再生した。「お前はおこちゃまだから、見なきゃだめだ」と、もがいて抵抗する望を叱るようにして楽は言った。望は最初嫌がって体を抑えていたものを振り解こうと抵抗するそぶりをしていたが、結局最後には誰よりも真剣に見入っていた。楽はテレビ画面で行われている男女の行為を丁寧に望に解説した。気が付くと望のパンツはねっとりとしたもので濡れていた。家に帰ってトイレでパンツを脱ぐと茶色い液がついていることに気付いた。頭痛とめまいと吐き気がした。知識のない望は、病気で死ぬかもしれないと恐怖に陥った。次の日望が不安になって楽にそのことを話すと、楽は笑いながら望の体に起こったことを説明した。望はそれを聞いて安心したが、その時から彼らの存在が時々恐怖に思えた。けれども望は彼らと話をするのは本当に楽しく、一緒に過ごす時間は好きだった。第一他に友達という友達もいなかったから、できることならいつまでも付き合っていたい友達だと思っていた。あの事件がおこるまでは。

                                 *

 その日も、いつものように楽の家で四人が集まっていた。
「腹減ったから、松本屋に行くか」
 ゲームがひと段落すると、楽はこう話を切り出した。望は松本屋に行ったことがなく、とりあえず三人についていくことにした。外に出てみると、春の風が時より生暖かく、日の光がぼんやりと民家を照らしていた。遠くの山には霞がかかっていた。
 松本屋は楽の家から歩いて十分も立たないところにあった。小さい店で、作りも古いものだった。看板も埃やさびで「松本屋」という字は霞んで見えた。店の前まで行くと、楽は立ち止まって後ろを振り返った。
「イサ、進、行って来いよ」
「はーい。何がいい?」
 進がそう言うと、楽は「任せる」と短い返事をした。「オッケー」と進が返事をすると、二人は店の中に入っていった。望はその光景をみ見てあれ、と思った。おかしい。楽がいつもリーダーシップをとっていたのは確かだけど、その時は何となくいつもの雰囲気と少し違うように感じた。
「あの」
「うん?」
「あ、いや、楽ちゃんは行かないの?」
「行かないよ。めんどくさいことしねえよ」
 望が思い切って楽に聞いてみると、楽はなんともないというふうに答えた。その姿を見て望はますます困り果てた。
「でも、自分で選んだ方が楽しいんじゃない? っていうか、二人におごらせているの?」
「そんなのかったるいじゃん。それにあいつらも金持ってないよ」
「え?」
 望には何が何だかわからなかった。最悪な状況が脳裏をよぎった。木々が風でがさがさと音を立てていた。やがて五分も立たないうちに、二人が戻ってきた。二人の手には何もなかった。おかしいと思い二人の全身を注意してみると、二人ともポケットが膨らんでいる。二人はそれぞれそのポケットの中から「うまい棒」やら「ブラックサンダー」などを出した。望は息をのんだ。
「えっ、それ……」
 うわずった声が出た。
「お疲れ」
「はいよ。普通にできた。やっぱ簡単だね」
 楽が二人をみて声をかけると、勇が笑顔で答えた。望は体が急に重くなったような気分がした。二人が万引きをしたことを理解した。二人はなんともないというふうにポッケに入ったお菓子を楽に渡した。
「次はお前な」
 楽は望の肩をぽんと叩いた。え、っと大きな声で言った。顔が完全に引きつっていた。
「大丈夫だよ。入ってすぐに防犯カメラがあるから。店の真ん中に菓子が並んである棚が二つあって通路になっているんだけど、そこに死角があるから。店のおばちゃんにも見えないし。そこなら簡単。絶対大丈夫」
「いや、でも……」
「平気だよ。ビビんなよ。行ってこいよ。俺らここで待ってるから」
 心配している望を鬱陶しいようにして楽は言った。
「でも、犯罪だよ」
「一人三百円も盗まねえよ。大金じゃねえし。あの店のお菓子、ほこりかぶっていてかわいそうだろ? だから俺らが盗ってきてやってんの」
「だけど……」
「いいから行って来いよ」
 楽は細い目をさらに細めて望を睨んだ。望はその目に逆らうことができなかった。望は抵抗しがたい何かを楽の全身から感じ取ったのだ。ああと頼りなく返事をすると、望は重い足取りでとぼとぼと歩きだした。
 店の中は人ひとりが通れるくらいの狭いつくりになっていた。店の中の棚にはチョコやせんべいなどのお菓子が並べられていて、シャーペンや消しゴムなどの文具も少し並べてあった。老夫婦がレジのところにいて、この二人が店を開いていることが分かった。二人ともにっこりとして望に挨拶をした。望には、二人に刻まれた顔のしわが、彼らの豊かで素敵な人生を象徴しているかのように美しく思えた。防犯カメラの位置はすぐに分かった。確かに「うまい棒」辺りに並べてある商品は、ちょうど防犯カメラにも死角になり、店の人にも気づかれないところだった。
――確かにやれそう。でも、どうしよう……
 望は心臓の鼓動が激しくなっているのを感じた。全身が震え、唇は青くなり乾ききっていた。一息つくと、目の前にあるチロルチョコをひとつ手にして握り締めた。
――ああ、悪いことをする前って、こんな気持ちになるんだな。そういえば、こんな気持ち前もどこかであったような気がしたな。
 呼吸が深く大きくなり、半分程見開いた瞳孔は泳いでいた。両親や兄、それに楽や進、勇の顔が次から次へと浮かんだ。望はチロルチョコを手にすると、せわしなく店内を歩き回った。防犯カメラや老夫婦、ほこりかぶったチョコレート、薄暗い蛍光灯、入口近くにあるキーホルダーが飾られた回転式ラックなどがぐるぐると目に入っては消えていった。そうして店内を二周ほどした後、少年は何かにはっとしたように目を大きくし、鼻から息を吸いその目をじっと閉じた。
――やるしかない。

                                  *

「楽ちゃん、望遅くねえ?」
 勇はコンクリートの壁を靴で蹴りながら言った。店から少し離れた道の脇で三人は静かに望を待っていた。
「ビビってんじゃねえの?」
「いや、見かけによらず大量の菓子を腹の中に抱えて持ってくるかもよ。太っちゃった、なんつって」
 勇の言葉に、進は腹の前で円を描くように手を動かして笑って変えした。
「まあ、どのみち逃げられないでしょ。これでうちらを裏切ったら、奴はそれだけの男ってことだな」
 進は余裕の表情をして言った。「もしできなかったら、もう遊ぶことはないっしょ?」と勇がやはり苛立ち気味に二人に言うと、「一種の試験だね。究極の肝試し」と進が乾いた笑い声を発しながら答えた。二人の会話を楽は黙って聞いていたが、やがて静かに声を出した。
「まあ、信じようぜ。仲間を歓迎する準備はできている」
「お、さすが楽ちゃん。その準備とは?」
 勇が興味津々といったふうに問いかける。
「バーカ、お前らにはまだ内緒だ」
「えー? なんだか水臭いな」
 もどかしいといった表情で勇は溜息をして言った。
「すぐにわかる。楽しみはとっておいた方がいい」
 そう言った時の楽は口角を微かにあげ、含み笑いをした。進と勇はがっかりしたようにして苦笑した。楽は何かこれから先のことを楽しみに待ちわびているようだった。生暖かい春風が一瞬勢いよく吹くと、どこからか缶コーヒーの缶がカランカランとせわしく音を立てて彼ら三人の前を通り過ぎて行った。
 やがて店の中から望が小走りで楽の待つ方にむかってきた。けれども服が膨れたわけでもなく、ポケットが膨らんでいるわけでもなかった。彼の呼吸は荒く、肺の動きが分かるほどに体が膨らんでは縮んでいった。その目は真っ直ぐ彼ら三人を見ていた。望は一回息をはくと三人の顔をそれぞれ見て言った。三人とも興味津々で望の口から出る言葉を待っていた。
「あの、その、どうやってもうまくいく気がしなくて……」
 進と勇は首をそらして失望した様子を表した。楽はじっと望を見ていた。
「はあ? 男だったら一発やってこいよ」
 進が眉間に皺をよせて強い口調で言った。
「だってカメラはあるし、おばちゃんがすぐ近くにいるし……」
「え、死角になるところ楽ちゃんから教わったじゃん! そこだよ」
 我慢ならないといった表情で勇も怒鳴った。
「でも……」
「いいからやれって!! もう一回……」
「ああやるって! 絶対やるって!! だから……」
 勇の声を遮って、望は声を大きくしていった。
「だから、お願い。一緒に来て、どこにあるものを盗ればいいか教えてくんない? 絶対成功したいんだ」
「……」
 一瞬の沈黙。三人は望の言っていることを理解できないというような表情をしていた。望はできるだけ「絶対」という言葉を強調させるようにして言った。
「お願い。盗みは初めてだし、経験ある人が教えてくれた方が成功する確率が高いだろ? ブラックサンダーとかはなんか盗るの難しそうだし。 自分が捕まったら、三人だってどうなるかわからないし……」
「お前俺らのことチクるのかよ! お前ってほんとに……」
「そんなことはしたくはないよ!」
 勇の怒鳴り声をまた遮って、望は声を出す。
「でも捕まったらどんな状況になるかわかんないだろ? 家の父親の友達が警官やっているから聞いたことあるんだけど、捕まったら結構事細かく聞かれるんだってよ。それこそ仲間の存在とか知られたら、今までやってきたこととか……」
 望は目と鼻の孔を大きくしてそう言った。三人は黙った。風はぴたりとやんでいた。三人の表情に緊張が走り、共にお互いの顔色を確かめているようだった。望はそれを確認した。
「わかったよ」
 楽は一瞬目をつぶって言った。
「進、お前望と一緒に行け。教えてあげろ」
「え、俺?」
「望にはやる気があるんだ。しかも絶対に成功したいという思いも強い。確実にやれるよう手伝ってやれ」
「まじかよ?」
 進はそう言って大きくため息をつくと、「しょうがねえな」と吐き捨てるように言って望を睨んだ。
「ついてこい! そのかわり絶対にやれよな」
「あ、あの、二人は……」
 望は両方の手を広げて楽と勇に向けると、目を大きくして交互に顔色を窺った。
「俺と勇は家に戻っている」
 楽は静かに言った。その声は冷ややかだった。楽と望は十秒ほどお互いをじっと見つめていた。その間、望には一切の音も聞こえないように感じた。
「期待してるぜ」
「ああ、勿論」
 そう言うと、楽と勇はくるりと背を向けた。自分の家の方向に向かって歩いて行った。
「まったくしょうがねえな。ついてこいよ。盗ったもんは腹の中にでも入れとけよ」
「はは、そうだね」
 進の後を望は足早について行った。背中と顔に大量の汗をかいていた。進が先に店に入った。望は心臓の鼓動が一層激しくなったのを感じた。一回深呼吸をしたが、心臓の鼓動の激しさは全くおさまらない。そうして店に入ると、周囲を見回した。そして後ろ振り返らない進に声をかける。
「どこかな?」
「こっちだ」
 そう言って、進は狭い通路さらに前に進み、商品棚の間に入っていった。えっと、いつもここらへんだったよなと、進は思いめぐらせていた。馬鹿だなあいつ、何でわからねえんだよ、簡単じゃねえか。進は冷笑して目の前にあるチョコレートを見ていた。
 次の瞬間、進の背後で大きな音がした。金属がぶつかり合う不快な音が大きく店内に響くと、ジャラジャラと何かが地面に落ちる音がした。何が起こったのかわからず、音がする方向に進は向かう。
 進には目の前に映る光景が信じられず、ただ茫然としてそこに立ちすくんでいた。数秒して状況を理解すると、メラメラと怒りが込み上げてきた。
「おい、望! 望!!」
 しかし進の声は望には届いていなかった。老夫婦と進の三人しか店内にはいない中、彼の叫び声がむなしく響いた。倒れた回転式ラックと床いっぱいにばらまかれた大量のキーホルダーや携帯のストラップが邪魔をして、進は店から出られない状態になっていた。老婆もその音に驚き、「どうしたの?」と進に歩み寄って話しかけた。進は何も答えることができず、その場で立ち止まりただただ狼狽えていた。

四 友情の喪失2

 「どうしたの?」驚いて震えている老婆の声に、進は何も反応できず、ただその場で立ちすくんでいた。
 ――そうか。だからあいつ「一緒に来て」なんて言ったのか。
 進は深い後悔の念に襲われた。店内はキーホルダーやら携帯のストラップが広範囲に散りばめられ静かに押し黙っていた。淡い蛍光灯が二人を照らしていた。
 あの時、少年は必死に考えていた。どうやったらこの現状を打開できるのか、自分が犯罪者にならずに彼らから上手く逃げる方法がないのか。極度の緊張状態の中、少年の脳はいつになくめまぐるしく動く。店内を回りながら次から次へと頭の中に打開策が思い浮かんでは、これはだめ、あれもだめと何度も思考を巡らせていた。時間が経てばたつほど少年は焦った。そうして回転式ラックが入り口付近にあるのを目にした瞬間、一つのアイディアが浮かんだ。「これならいけるかも」。その瞬間少年の目は突然鋭くなった。それはまるでこれから何かに闘いに挑むような、誰にも止められ難いぎらぎらとした目だった。
 狭い店内では死角が簡単にできることは早くから気付いていた。進が商品棚の角を曲がり自分が見えなくなる時を見計らって走れば、その場を逃げることはできると思ったのだ。けれども進は学年で一,二を争うほど足が速く、その場は逃げられても望の足ではすぐに追いつかれてしまうことは想像に難くない。少年は、どうしたら盗みをせずに進から逃げ切ることができるか、その方法を考えていた。そして回転式ラッグを目にした時、それを倒すことで彼の追う道を妨害し、時間を稼げるのではと思い至った。当然店の老夫婦にも気づかれるので、店に一人残った進はますます混乱する、そうすれば追ってこられなくなる――ここまで望は計算していた。進は、望の策略にまんまとはめられたのだ。
 望は店から出ると、すぐに右に曲がって全速力で走った。松本屋の通りは一本道になっていて、店から出ると真っ直ぐ進むか、右に進むかしか道がない。真っ直ぐ進むと楽の家の前を通り、逃げている姿を楽達に見られでもしたら大変だ。望はそのまま50m程度夢中で走った。突き当りを右に曲がる際、望は一度後ろを振り返る。遠くから黒のスーツの女性が自転車でこちらに向かっている以外は、誰もいなかった。
 ――よし、大丈夫だ。これで逃げ切れるだろう。でもまだ安心できないぞ。
 望は右に曲がりほっと溜息をつくと、彼は走るのをやめ小走りで進み始めた。風がなくじとっとした汗がTシャツにまとわりつく。この先十五メートル程進めば十字路になっている。民家もかなり複雑に入り組んでいるので、十字路でどちらかの方向に望が進めば、彼らは追ってこられないはずだ。
 ――やった、勝ったぞ。犯罪者にならずにすんだこれでいいんだ。
 目に映る景色が鮮やかでなくなり、日の光で目が痛い。背中に電気が走ったようにびりびりとしたものが一瞬襲ってきた。民家を囲む壁をつたいながら、少年は小走りに真っ直ぐ進んだ。ようやく少年の呼吸も落ち着いた頃、「遠藤」という表札のすぐ横に半開きになっている門扉が目の前にあった。縦縞でできた、中央には花柄の模様までつけてある、かわいらしい門扉だった。いつもこの家の門は閉まっているはずなのに。今日は忘れていったのかな。そんなことを思いながら、数メートル先の十字路を左に曲がろうかとぼんやりと考えていた。
 「ああ、よかった!!」少し声が大きくなった。望は興奮を隠せず、喜びで満ちた表情で門扉を横目でちらと見て、軽快な足取りでゆっくりと通り過ぎた。全て上手くいった。その喜びのあまり少年は泣きそうになった。自分は今日悪魔に魂を受け渡さずにできた、そう小さな勝利の余韻に浸るように、一回大きく深呼吸をした。背伸びをしようと手を組んで肩を上げようとした瞬間、右肩が急に後ろに引けた感覚がした。後ろを振り返ろうとする間もなく、何かの力で体が勝手に反転すると、目の前には顔が大きく映っていた。
「おれも良かったぜ。こんなことだろうと思った」
 メガネの奥の目は憎悪に満ちていた。望は一瞬何が何だかわからなかったが、すぐに表情をこわばらせた。「あああ!!!」という叫び声とともに首もとが苦しくなり、表情も見る見るうちに恐怖に陥っていった。
 楽だ。
 この時望は初めて彼が楽であることを理解した。
「遠藤ってやつの家に入り込んでいて良かったぜ! やっぱりお前はそういうやつだったな」
 楽は目をかっと見開き、血が上って真っ赤な表情をしていた。怒りで震えた声を出しながら、楽は望の首をさらに強く締める。
 『一緒に来て、どこにあるものを盗ればいいか教えてくんない? 絶対成功したいんだ』――楽はあの場でのやり取りで、望の態度に一種の「違和感」のようなもの感じていた。確かに言っていること自体はそんなに変ではないんだけれど、何かおかしい。言葉を強く強調させたり、父親の友達が警察官ということを取り上げて自分達の不安感を煽ったり、その目もまるでこちらの心理を伺っているような、そんな印象さえ受ける。もしかしたら、窃盗犯にならないよう自分達を騙そうとしているのではないか――楽にはそんな直感がした。
 楽があの場で「家で待っている」と言ったのも、望の警戒心をとく為だった。彼はあの場でいったん家に帰るそぶりを見せた後、気付かれないように後ろからついていき、遠藤家の敷地の外で隠れていたのだった。そして勇には家の前で隠れて待ってもらう。そうすれば一本道の両側を塞いだことになる。店から逃げたとしても絶対に捕まえられることができる。
「ちくしょう! むかつくんだよ!! お前みたいなやつを見てると、最高に腹が立つぜ!!」
「く……く、くる、し……くるし……! はな、て……」
 苦しい、離して、そう言おうとしても声が出ない。
「ふざけんじゃねえ!! だましやがって!! お前みたいな弱いやつ見てると腹が立つんだよ!!」
 楽は片手を望の首から離すとポケットに入っているハサミを取り出し、望の頬に当てた。そうして、微かに口角を上げてゆっくりと言葉をつづけた。
「おい、弱肉強食って知ってるか? 弱い奴は生きている意味ねえんだよ。全部上のやつがこの世を動かしてんだ! 弱い奴は強い奴の奴隷だ!! それ以外はカスだ!! ゴミだ!! お前みたいな弱くて甘っちょろい奴、見てるだけで気持ちがわりーんだよ!!」
 狭く人通りの少ないこの道では、誰も二人の姿に気づくはずもなかった。声量とともに徐々に楽の腕の力は強くなっていった。人に殺されるかもしれないと感じたことは、生まれて初めてだった。望は必死に手足を動かしたが、楽の腕と脚で体を完全に抑えられ体がいうことをきかない。楽は望の肩にハサミをねじ込むようにして押し当てた。鎖骨下に感じる痛みは徐々に増していく。
 「ああああああ〜!!」と大声が出るとともに、望の顔は苦しみの表情で皺だらけになる。
「良かったな、ハサミが肩にあたって!」
 楽はハサミを投げ捨てると、再び、両手で望の首をつかんだ。
「お前を強くしてやろうと思ったのに! だからおれらの仲間に入れてやったのに!! おれが馬鹿だった。もうお前は生きている意味がない」
 望はもう何も抵抗できなくなっていた。ただただ目の前の苦しみから逃れたい一心だった。目は悲しく半開きになり、口は何か訴えるように大きく開き、眉は今生きていることを後悔しているかのように苦しみで歪んだ。楽が強く握れば握るほど、望は意識が徐々に遠のいていくのを感じた。
「死ね。死ね」
 ああ、もう本当にだめだ。そう思った矢先、どこからか声が聞こえた。けれども何を言っているのかわからない。ただ高い声だということしかわからなかった。
「………………」
 不思議なことに、首元の苦しさが和らいでいく。やがて息もできるようになってきた。望は激しくむせこんだ。呼吸をすることで精一杯だった。気が付くと楽は望から手を放していた。そして体はこちらを向いた状態で、顔だけ後ろを向いていた。息がある程度落ち着くと、望には生きていることがなんだか不思議に思われた。状況が呑み込めないまま体を前傾させてコンクリートの地面をぼうっと見ていると、楽が驚いて大声を出した。彼の口から出た言葉は、望にとってもまた信じがたいものだった。

                                *

「その通りね。この世界は弱肉強食。私の教育がしっかりしみついてんじゃない」
 望が首を絞められて息絶えようとしていたその時、自転車に乗った女は言った。
「母さん……!!」
 後ろを見ながら話をする楽からでてくる言葉が、望には信じがたかった。黒スーツにフリルシャツ。腰には金色で縁取られた穴をした大げさなベルト。スーツに合わせた膝上五?以上のスカート。細長い小顔に金髪の髪をなびかせ、淡い桃色の口紅が素敵だ。望は一目見て、すごく美しい人だと思った。よく見ると細い目や顔の輪郭が楽と似ていた。この母親が楽に向けた目は――まるで動物が獲物を狙う時のように隙のない鋭い目は――いつしか望自身が直接楽から向けられたあの目と、とても似ていた。
「君、名前は?」
「あ、橋本望です。」
「ふーん。楽と同じクラス?」
「はい。お世話になっております」
「ふーん。そう。とってもいい名前ね」
 母は少し眉を吊り上げるとにっこり笑った。望はその顔を見て安心した。楽の母はひとまず自転車から降りて静かに道の脇に自転車を止めた。
「私はこの子の母親で、鐘美(かねみ)といいます。初めまして」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「で、どうしたの? 楽に倒されて首を絞められるようなこと、あなた何かしたの?」
 鐘美はじっと望の表情を伺うように目を見つめた。優しい口調だが、同時に芯のあるしっかりとした声だった。
「いや、いや……」
「じゃどうして首絞められたの?」
「それは――」
「こいつが買ったお菓子を独り占めしたんだよ。松本屋から買ったのを。ひでえんだよ。だからだよ」
 望が言葉を詰まらせていると、楽が口を出した。
「私は望君に聞いてるんだけど。望君、今の話は本当?」
「いえ、違います」
 望は両手を振って必死に抵抗した。
「うん? おかしいわね。じゃあ一体……」
「あ、楽ちゃん!」
 鐘美が言葉を続けようとした時、激しい息遣いと共に進が走りながら現れた。進の声に三人とも反応して振り向いた。一瞬静寂になり、重い空気が流れているのを進は感じ取った。
「あれ、進君か。」
「あ、こんにちは」
「ねえ進君、楽が望の首を絞めてたんだけど、何か知ってる? 一緒に遊んでいたの?」
「え?あ、はい……」
 進は状況が分からない、といった風で目を泳がせていた。
「あなた達三人で買い物に行ったの?」
「そうだよな、進。それでこいつが全部食べようとしたんだよな?」
 楽が進をにらんで言った。進は無言の圧力を感じ、楽が求めている返答を即座に察した。
「あ、はい。そうです。だからみんなで追っかけて……」
 進の声が少し震えた。日は少し西に傾きかけていて、強い日差しが三人を照らしていた。
「ふーん。うん? あれ、でもおかしいわね。私も自分の家の方から自転車で走ってたけど、望君が走っているのは見たけど、二人は見なかったわよ。大体あなたがここにいるのが不思議なのよ、楽。あなたここにいたんじゃない?」
 再び沈黙が起こった。どこからどう説明すべきか、望は頭をフル回転させても言葉が出てこない。楽は数秒下を向いていたが、やがて前を向いて母親に悲しい目を向けて言った。
「あーあ、母さん、本当のことを言うよ」
 仕方ないな、という表情をして、楽は息を一回吸ってこう話した。
「望が松本屋から菓子を盗んだんだよ。こいつはいつも悪ふざけを本当にするやつで。そんでよく盗むんだ。で、今日おれがあの店を教えると、こいつ『一人で買い物に行ってくる』って言いだすんだ。一人で行こうってのがおかしいと思ってさ。もしかしたらまた盗むんじゃないかと思ってね。それじゃ進と一緒に行くようにと話したんだ。今日は勇もいたんだけれど、勇は俺の家の前、俺がここで待っていたわけ。今みたいに走って逃げる可能性があるからね。もし盗むんだったらとっつかまえて、もう二度としないように罰を下そうとしたわけさ。そうすれば一本道になっているから絶対捕まるでしょ?」
 いや、本当はこんなこと言いたくないんだけどさ、と楽は続けた。楽は本当に言いにくそうに険しい表情を作っていた。誰が見ても楽が演技をしているようには思えないくらい、巧みだ。楽が話をしている間、望は唖然としたままで何度も小さく首を振った。鐘美はしばらく黙りこみ、二人を交互に見ていた。
「……望君、本当?」
 眉間に皺を寄せて鐘美は質問した。望は何も言えずに黙っていた。その目は不安と恐怖に怯えていた。何を言えばいいのか、どう話せばいいのか、考えても納得しうる答えが出てこない。彼女の髪が風になびいて目を細めた。
「ねえ、答えて」
「……」
 鐘美はじっと望を見つめ、彼からどんな言葉が出てくるのかをずっと伺っていた。望の喉まで出かかった言葉はいつまでたっても出てこない。望は口元がボンドか何かで固められ開かないような感覚に襲われた。鐘美は望の様子を見て、やがて力を込めて目を閉じると鼻から音が聞こえるくらい強く息をすってこう言った。
「そう。仕方ないわね。じゃあ望君、警察に行きましょう! あなたが何も言わない限り、楽の言うことを信じるしかないわ」
鐘美は強引に望の腕を引っ張った。腕に痛みを感じるほど強く握られていた。彼女の表情は険しくなっていた。鐘美を背に、楽がにやりと笑っているのが望に見えた。
「ち、違う、おれはやってない!!」
 望は泣きそうになりながら訴えた。
「いいから来なさい! 進君、悪いけど今日は帰ってくれるかな? 楽も帰りなさい。勇君にもさよなら言って」
 鐘美は怒りの表情で楽と進に背を向け、望を連れて前へ進む。楽と進は静かに楽の家の方角へと体を向け、ゆっくりと進んだ。最悪なシナリオが頭に浮かぶ。これから先のことで頭が一杯になり、不安と恐怖に襲われた。鐘美は楽と進が角を曲がって見えなくなったのを確認した後、強く握っていた望の腕を放した。母は振り向き望の顔を見ると、静かに言った。
「話してくれるね、望君」
 怒るでもなく、優しい口調で言った。
「ごめんなさい。強く握ってしまって。でもああでもしないと、あなたから本当のことを聞き出せないと思って。でももう大丈夫よ、二人もいないし。だから正直に話してくれる?」
 望はほっとして緊張していた顔が緩んだ。そしてゆっくりと丁寧に、正直に全て話した。楽が勇と進に盗みを働かすように指示し、二人とも盗んだこと、そして次に自分が命令されたこと、自分は盗もうとも思ったが結局できず回転式のラッグを倒して逃げたこと(倒さなければ足の速い進に追いつかれてしまうと思ったこと)、「遠藤」の家で楽に待ち伏せされていて捕まり首を絞められたこと、すべて話した。母親は静かに黙って聞いていたが、やがて静かに優しい声で望に聞いた。
「君は楽に盗めと命令されたとき、何で盗まなかったのかな?」
「一瞬やろうともしたんです。でも、色々考えちゃって。その、親の顔とか、学校のこととか、そういうのが頭に浮かんだんです。それでこんなことしちゃまずいなって思って。嫌われてもいいから盗まない、って決めたんです。」
「それじゃあ、なんであの場で正直に言えなかったの?」
「えっと、パニックになってしまいました」
 眉間に皺を寄せて望は言った。望は目を右上に向けて一瞬考えると、か細い声で言った。
「その……嫌だったんです。楽ちゃんたちが悪いことをしたってことを、自分がお母さんに言うことが。お母さんに犯罪を犯したことを知られるってかわいそうだなって思って。それになんだか言いつけてるだけで、その……大人に頼ればいいみたいに皆に思われそうで、すごく恨まれそうだし……。嫌われるのはある程度仕方ないにしても、恨まれると、学校で何されるかわからないし」
 母親はうんうんと頷いた。「そうなんだ」と鐘美は小さい声で言うと、しばらく黙って考え込んだ。
「あなたが盗まなかったのは、本当に偉かったわね。その勇気は、一生自分の誇りにしていいわ」
「あ、ありがとうございます」
 望の表情は一気に明るくなった。
「正直に話してくれてありがとう。でもね望君、しっかりと伝えなきゃだめよ。いつどこで何が起きたのか、自分がどんな気持ちがしたのかとか。そうじゃなきゃあなたは損するし、周りにも結局いい影響を与えないわ。ねえ望君、楽の罪を黙っていることは、母親である私の為にはならないし、楽の為にもならないのよ。それに今回の一番の被害者は、松本屋を開いている夫婦よ。その人達に対して申し訳ないと思わない?」
 はい、と言いながら望は何度も頷き、目を大きくして輝かせていた。それはちょうど、望が美しい絵画と出会った時と同じような目だった。聞こえてくる言葉の響きに、まるでドロドロとした心の部分が浄化される心地がした。
「棚を倒してまでして犯罪への誘惑に立ち向かう勇気があるのなら、あの場で正直に言えることもできるはずよ。友達の為に、あの店の人達の為にね」
 望は黙って頷いた。確かにそうだった。望は、あの場の雰囲気にただ圧倒されて弁解の一つもできなかったことが悔しく思えた。
「はい。ありがとうございます。すいません」
 少年は深々と頭を下げた。
「怖かった?」
「ものすごく」
 母親は大笑いした。緊迫した空気が一気に和んだ。
「あははは! そうだよね。怖いよね。でも気を付けないと、今日みたいにあなたに何も悪意がなくても、あなたが悪者にされることなんて、世の中にはたくさんあるのよ。いい勉強になったわね」
「はい。……あの」
「うん?」
「お母さんは、どうして僕の言うことを信じてくれたんですか?」
「うーん、私には、あなたがそんなことをやる人には見えなかったからよ。というより、そんなことできる人に見えなかったのよ」
「ああ……」
「初めてあの店に行った、って言ってたわよね、楽のやつ。しかも、あなたが何度も普段から盗んでいると言ってた。本当に普段から万引きする人って、雰囲気からして違うものよ。そういう人って、あの場で何も答えずに恐怖に怯えた目して突っ立てるだけなんてこと、しないと思うわ。必死に嘘で取り繕ったり、全力で逃げようとしたりするもんなんじゃない? 第一初めて入る店で盗もうなんて、常習犯は思わないものよ。もっと賢いわよ。それで、あなたは普段からそんな悪事ができるような勇気なんてないんじゃないかって思ったの」
「あの場だけで、そんなことが分かったんですか?」
 望は目を大きくして質問した。
「だって私、キャバクラでずっと何年も働いている人よ」
 当然よ、というふうな口調であっさりと答えた。
「たくさんのお客さんと接してきて、人の心の部分を勉強したっていうのかな、これでも人を見る目は養ってきたつもりよ。それにね、あの子一見嘘つくの上手いけど、私にはわかるわ。だって息子だもの。感じるわよ、何か隠しているなってことくらい」
 母親は豪快に笑った。気品のある姿はその為かと、なるほどと思った。
「よく騙されてきたからね。全くウブな私には本当に辛い世界だったわ、夜の世界って。辛酸をなめまくったって言えばいいのかな。客にもオーナーにもエッチなこともされたし」
 はーあ、と鐘美は大きくため息をついた。二人とも笑顔になった。
「だから楽にはよく言っているのよ。この世は弱肉強食だって。弱いままだと、本当に生きていけなくなる。世間は厳しいから強くなりなさい、ってね」
「ああ、そうなんですね」
 望は楽に押し倒された時の楽から出た言葉を思い出した。彼があれほどまで怒ったのはそういう意味だったのかと、なんとなく楽の気持ちが想像できた。
「そうよ。今日あなたは店の商品棚を倒したけど、本当にあれで良かったのかしら?」
「いや、でもあの場ではあれしか他に方法が思いつきませんでした」
「そうねえ」
 鐘美は口をきゅっと閉じて考え込んで、やがてこう言った。
「何が正しいかなんて言わないけどね。それはその時その状態で違うし、正解が一つとは限らないし。あなたのやったことも間違ったことだとは言えないわ。でも、もっといい答え、「正解」があったのかもしれないわね。それはあなたがこれから色々経験して、広い世界を見て、触れて、わかるものだと思うわ」
「正しい答え、ですか?」
「そう、自分なりの正解をね。その為には一杯経験しなくちゃダメ。でもあなたならもっと前へ進めると思うわ。もっと強くなれる気がする。今日のような素直な気持ちがあればね。うん、大丈夫、あなたならできる」
 鐘美はにっこりと笑った。望は大きく「はい!」と答えた。今日自分に起きた災いも全て許してもいい、そんな気持ちにすらなっていた。そして自分ももっと強くなりたい、鐘美さんみたいにかっこいい大人になりたいと強く感じた。
 鐘美と望は引き返して松本屋に行き、老夫婦に謝罪した。老夫婦は最初疑いの目を少年に向けていたが、やがて鐘美の言葉を信じたようで、「もう二度とこんなことしないでね」と笑顔で望に言った。それから鐘美は望の家の前まで望を送り、「またね」と手を振り笑顔で別れた。夕日が望の顔を赤色に染めていた。
 それから鐘美は家に帰って望から聞いたことを全て話し、楽を厳しく叱りつけた。
 望に恐怖のlineメールが来たのは、彼が翌日の学校の準備を終え寝ようかと考えていた時だった。
「おまえ、絶対に許さない。俺ら味わったおんなじ屈辱をお前も味わえ。絶対に許さない」
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない……」
 十一時半頃に勇から来たメールだった。携帯を持つ手が震えた。
2015-05-30 22:20:01公開 / 作者:手塚 広詩
■この作品の著作権は手塚 広詩さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
何年ぶりかの投稿となります。社会人でもあるので投稿や感想に対する返答が早くできない時もあるかと思いますが、懸命に取り組んでいければと思います。

「二 望の生い立ち」更新しました。本当ならこの回で、前回望がなぜあんな心境で登校したのかを明らかにしたかったのですが、彼の人間性を描写する上で生い立ちを説明する必要があると判断し、そこまでに至りませんでした。長い目でおつきあいしていただければと思います。(更新日:2015/3/28)

「三 友情の喪失」更新しました。相変わらずスローペースですが、徐々に展開していく予定です。今回は望と楽達の心理戦も楽しんで頂ければと思います。

 正直、最近は「どうしたら読者に楽しんでもらえるか」と悩みながら執筆しています。大学の時に「小吉物語」という小説に取り組んでいたときは、「自分の思いをぶつける」という一心で、描きたいことをひたすら描いてたなぁと、反省しています。
更新日:2015/4/27

「四 友情の喪失2」更新しました。結局今回の章が一番長くなってしまいましたが、自分としてはぎりぎり合格点です。
 楽の母親と望との会話をどうしようか、特に鐘美の言葉をどうしようか、最後まで悩みました。小説を面白く思っていただき、かつ自分が伝えたいことを伝えるためにはどう表現したらいいか、そんなことを思いながら描きました。受け止め方は読者それぞれ違うと思うので、ご感想いただけたら幸いです。
更新日:2015/5/30
この作品に対する感想 - 昇順
 はじめまして。ここまでの冒頭、望の重苦しい気持ちだけは伝わってくるのですが、まだその原因なんかもわかっていないわけですし、読むほうとしてはじりじりしてしまいます(笑) 次回あたりで説明があるのでしょうか。最後にいじめっ子らしき三人が出てきましたが、彼らとどう戦っていくんだろう……いまのところはかなり不利な状況というか、望が一方的に押されているような感じですね。大逆転で勧善懲悪ものになるのか、それとも予想の斜め上を行く展開が待っているのか、楽しみにしています。そういえばカギカッコの前にいつもスペースがあるのですが、不要なものかなと思いました。
2015-03-02 01:41:17【☆☆☆☆☆】ゆうら 佑
ゆうら 祐さん、はじめまして。読んでいただきありがとうございます。
次の章で、彼の生い立ちと、今回最後に出てきた三人との関係(なぜ彼らにこんな追いつめられるような状況に陥ったのか)を明らかにしていきたいと思います。
できるだけ現代の中学生の現場をリアルに表現し、かつ自分の経験も踏まえて、「人はいかに生きるべきか」を読者様と一緒に考えていければと思います。それだけに、今から先の展開に結構頭を悩ませています。仕事がおろそかにならない程度に、でもこの話の主人公望のように全力で、この小説に取り組めればと思います。少しでも読者の皆様に喜んでいただける作品にできたらと思います。末永くよろしくお願いします。
2015-03-02 22:37:42【☆☆☆☆☆】手塚 広詩
手塚様
これからどう展開させていくのでしょうか。楽しみです。

物語はこれから紡がれるものだと思いますので、今後のわくわくのためにもそちらは触れず気になった点を少しだけ。

この作品は神様視点で紡ぐ予定なのでしょうか。神様視点であるとしても、神様から望を見てストーリーを進めて心境は望のみを描写するほうが読者にはわかりやすいのかなと思いました。

個人的な感想ですが、数字は漢数字で統一してもいいのかなと思います。

父親が出てくる前に会話が展開されているので、父親がいる風景描写を入れておくと誰が話しているのかわかりやすくなるように思います。

あくまでも個人的な意見なので、ご参考までに。

2015-03-06 00:08:14【☆☆☆☆☆】風間新輝
 作品を読ませていただきました。
 主人公の勇敢で反骨精神あふれる強さで読者を元気にしていこうという趣旨のお話でしょうか。地の文の語り方からしてご都合主義のオンパレードで手っ取り早くカタルシスを与えるものではなく、ひたすら泥臭く戦っていくみたいですね。
 おそらく作者である貴方は、究極的には外部の力によるものでなく、主人公自身の力で困難を克服することを望んでいるのではないかと思います。彼は果たして変わるのでしょうか。ひたすら『自分』を前面に押し出し、周囲に『自分』の存在を押し付けるだけ――というのも面白いですが、その場合、純粋に物語に対して抱く感情はまた別のものになってしまうと思います。いずれにしろとても面白そうな題材だということに変わりはないと思いますが。
 変な話ですが、貴方の考える『強さ』と『理想的なファイターの姿』に興味があります。
 次回更新頑張ってください。ピンク色伯爵でした。
2015-03-06 20:02:35【☆☆☆☆☆】ピンク色伯爵
風間新輝様。
読んでいただきありがとうございました。
また、漢数字のご指摘ありがとうございます。訂正させていただきました。
父親登場の場面もまた、風間新輝様のように感じられた方は他にも多くいるのではと思い、少しだけですが修正しています。今後もおかしいと思った点ありましたらご指摘いただけると幸いです。

第三者の視点で描く小説なので、いつどこで誰の心境をどこまで精密に描くか、今後もっと悩むことになるかと思います。登場人物全員の気持ちがわかったらつまらないものになるし、反対に登場人物の内面を抽象的な表現にして読者だけに想像させるだけでは、作品を通して伝えるべきメッセージが伝わらないだろうし……。皆様の感想、意見を億頂き、勉強していければと思います。

またよろしくお願いします。
2015-03-06 21:43:45【☆☆☆☆☆】手塚 広詩
ピンク色伯爵様。お読みいただきありがとうございます。

これから先話が進むにつれ、望の人間としての大きな欠点が浮き彫りとなります。自分の弱さと向き合うことは、本当に辛いことだと思うし、人はどうしてもそういうことから逃げてしまいがちであるけれど、生きていく上では避けられないところでもあると思っています。そういった望にとっての逆境を経験して成長していく場面を通して、魅力的な小説にできればと思っています。
ピンク色伯爵様のおっしゃる通り、反骨精神―この作品の場合は、主人公の揺るぎない意志や、強い目的意識になるのかな―が、主人公の内面を変えていき、はたまた世間までをも変えてしまう。
そんな、現実世界ではあまり起こらないかもしれないけれど、これからの世の中がそうあってほしいという作者の願いをこめて、この小説の作成に取り組んでいます。

「強い人」と言われてイメージするのが、「るろうに剣心」の主人公、緋村剣心です(笑) いろんな立場の人の色んな気持ち(痛みや苦しみ、喜びなど)が想像できて、優しくできることが、人としての「強さ」なのかなあ、って感じています。これは自分の職業柄(老健でリハビリ職をしています)そういう風に考えてしまう傾向があるだけかもしれませんが……。
『理想的なファイターの姿』は、うーん……これもマンガになってしまうけれど、思い浮かぶのは「進撃の巨人」の主人公エレンかな(笑)。

長々と申し訳ございません。今後ともよろしくお願いします。
2015-03-06 22:40:43【☆☆☆☆☆】手塚 広詩
 こんにちは。続きを読みました。この「二 望の生い立ち」単体で読むとしっかりした密度もあり、丁寧に書かれているなあという印象で、望のことがよくわかったような気がします。前回の流れから考えるとちょっと唐突感もありますが、まだ序盤ですし何とも言えないですね。
 絵のほうの話は今後の展開に大きく影響してきそうだと感じました。が、それよりも前半のケンカの話ですね。望のほうが問題児のように書かれていて、あまり彼に同情できませんでした。何だろう、すごく鬱屈したような子に思えてきます……これが上のコメント欄で言われている「欠点」なのでしょうか。この性格のまま今のいじめっ子と対決しても勝ち目はなさそうですし、彼の人間性の変化もこれから描かれそうですね。続きを待ちたいと思います。
2015-04-09 23:49:51【☆☆☆☆☆】ゆうら 佑
ゆうら 祐様
感想ありがとうございます。今回はひとまず主人公望の断片を描きたいと思い、このような形になりました。もっと詳しく描写したい気持ちもあったのですが、それはまた後々描ければと思っています。これから中学校生活で起こる出来事に対して、望がどう向き合っていくかを楽しんででいただければと思います。
「自分の弱さと向き合いながら成長してく少年の物語」にしていくつもりです。今後ともよろしくお願いします。
2015-04-13 21:45:33【☆☆☆☆☆】手塚 広詩
 続きを読ませていただきました。
 望君、すごく生きにくそうにしているなぁ。勝負事は嫌い、だけど負けたくないというのは確かに周りには受け入れられにくいことなのかもしれません。周りからしたら「あいつは負けたくないから勝負をしない。つまりプライドだけ高い奴だ」と思われる可能性もあるわけで。まあ、なんというか、変わった子だとは確実に思われますよね。
 また望君の生い立ちと人柄を見て、まずは周りの誰かが彼の価値を認めないと成長も難しいのではないかと思いました。彼は今のところ一貫して人から理解されていないように見えます。人から理解されるにはまず自分が相手を理解しなければならないと思うのですが、彼にはそれもできていませんし、大変な時期は長く続くのだろうなと思います。でも、望君、僕は陰ながら応援しているぜ! ガンバ!
 僕はかつて望君より友達がいなくて、その頃は毎日大自然の中で一人で遊んでいました(実家がド田舎なので)。最初に付き合った女の子はアマガエルの雌のガーちゃん(確かそんな名前を付けた気がする)でした。望君も中途半端に人の世界に生きようとするからアカンのやと思います(暴論)。川をせき止めてダムを作って遊ぶのは楽しいですよ〜。僕は庭に生えていた雑草とかを根こそぎ持ってきて、「ヒャッハー! 河川工事ぃー!」と叫びながら近所で田んぼやっているおじさんに大迷惑をかけていました。また風が強い日にはススキの原っぱに出て木の棒振り回して「俺は風の魔法使い!」と言いながら中二病ごっこもしていました。中学校の時はブラスバンド部と水泳部に入部し、部活がない日はA.サックスを家に持ち帰り畑で独奏することで友達がいなくて寂しい気持ちを紛らわせていました。冗談とかではなく、そういう日々が割と楽しかったです。楽しかったです……(涙)。田舎じゃないとできませんがね〜(笑)。
 話がそれました。
 次回更新をお待ちしています。ピンク色伯爵でした!
2015-04-18 08:37:15【☆☆☆☆☆】ピンク色伯爵
ピンク色伯爵様 ご感想ありがとうございます。

 ピンク色伯爵がおっしゃるように、この主人公望を「変わった子」として周囲から見られてしまうようなキャラクター設定にしているので、そういう彼の人物像は読者の皆様にも伝わっているのかなと感じました。

 今の時代では、相手の表情や話している様子などを知らないでコミュニケーションが取れることができて、相手の気持ちを想像するのが難しい場面も多いのではと思うんです。だからこそ、お互いがお互いに寄り添おうとする意識を常に持ち合わせていることがすごく大切なのかなと思っています。

 最初に付き合った女の子がアマガエルとは……なかなか強者ですな(笑)。身の上話をありがとうございます!笑えました。(笑)。周囲から理解されないことへの苛立ちや、相手に思いをうまく伝えられないことへのもどかしさが、望の場合はかなり多くなってくるだろうとは思います。私も趣味がピアノだったりして一人でいる時間が多い傾向はあるので、孤独で寂しいと感じることは何度もありました。
 でもきっと大人になる上で避けては通れないものなんじゃないのかな。それでそいうのって多かれ少なかれ、誰しも似たような経験をしたことがあるんじゃないかと思うんです。
更新はゆっくりですが、長い目でおつきあいお願いいたします。
2015-04-19 15:16:28【☆☆☆☆☆】手塚 広詩
 こんにちは。万引き少年を罠にはめる(?)展開はとてもおもしろかったのですが、ちょっとさらっと書きすぎているような印象を受けました。時系列的には冒頭の前段階で、まだいじめを受けている状況ではないようですが、でもすでに戦いは始まっていますよね。そしておそらく、いじめを受ける直接のきっかけになる出来事だと思われます。ここは第三者視点で淡々と書かず、ある程度望を中心にした文章で進めていくのが良いのではと感じました。今回の最後のように進視点で話が展開するのも、スリルがあっておもしろいのですが、長編であり、望が主人公であることを考えると、読者と望をちょっとでも近い存在にしておくべきなのでは……と思うのです。ただ、群像劇として読むのであれば、このままで十分おもしろいように感じました。
2015-05-01 22:29:18【☆☆☆☆☆】ゆうら 佑
 作品を読ませていただきました。
 万引きかぁ……。中学生の頃スリルがどうのとか言ってやっている奴がいましたね。僕としてはたった数百円で人生棒に振るとか絶対にしたくありません。
 望君の敵は当面の間この楽という子ですかね。もう相手にせずに切り捨てればいいのに。向こうから何かしてきても無視でいいでしょう。行為がエスカレートしたら警察沙汰で。こんなしょうもないことに時間使うより定期テストで全教科学年一位取れるよう勉強する方が絶対に賢いっすね。
 と僕は思うのですが、望君はそんな風には考えられないんだろうなあ。真正面から彼らの相手をするのでしょう。孤独で暗い道のりになりそう。向こうはゲーム感覚ですから、きっと望君が相手になってくれる限り嬉々としてコンティニューしますものね。
 僕が望君に何かしてやれる立場にいたら、彼を連れて日本の百名山を旅するかな。いくつか花の百名山にも寄りながら。中学程度の勉強なんてやろうと思えばいつでもできますから(というか、勉強は学校で教えてもらうものではなくて自分でするものでしょう)、それよりはたくさんの美しい風景に触れて、その中で自分を見つめなおすことが大切だと思います。集団生活を学ぶのはそれからでもいいでしょ。
 次回更新をお待ちしています。ピンク色伯爵でした。
2015-05-02 03:37:10【☆☆☆☆☆】ピンク色伯爵
ゆうら 佑様 感想ありがとうございます。
 おっしゃるとおり、今回の状況としては、「一 登校」で望が登校する前日に起きた出来事、という設定となっており、これが楽達三人が望を嫌う直接の原因となった出来事です。第三者視点で描く小説は久しぶりで、本当に文章には苦労しています。どうやったら先の展開が楽しめる表現になるか、望の気持ちが伝わり共感してもらうにはどうしたらいいか、どの状況でどの人の心情をどれだけ明確に表現されると読者が飽きずに読んでいただけるか……悩みながら描いております。

 今回の盗みの場面においても、望が友達を裏切ることは途中まで隠せるように、でも盗むかどうか悩む彼の罪悪感や緊張感は伝わるようにと、苦労して描きました。「――確かにやれそう。でも、どうしよう……」という箇所や、「―やるしかない」という箇所などで彼の心の声を表現しましたが、確かに「さらっと」した状態でしたね……。自分なり考え、再度文章の推敲をしていきたいと考えています。ありがとうございます。

ピンク色伯爵様 感想ありがとうございます。おっしゃる通り、望をいじめるリーダーは楽です。ただ、2人の直接対決はまだまだ先になる予定です。今までの場面でもうわかるかもしれませんが、楽はとても「頭の切れる子」という設定にしています。簡単に楽自身が「悪者」にならないように知恵を絞り、それがさらに望を苦しめる……という展開にしていく予定です。過酷な状況に対してどのように対応するのか、知恵を振り絞って懸命に向き合っていくことが、成長の一つになるのではと思っています。
 ピンク色伯爵様が述べられた通り、「孤独で暗い」場面もたくさん出てくるけれども、望自身もちゃんと生きていることの素晴らしさを感じられるような、そんな物語にしていきたいと思っています。百名山、いいですね!! 私自身も、望のような人間はきっと美しい情景を見ることが自分を見つめなおすいい機会になると思います。鋭い視点ありがとうございます。
2015-05-02 19:26:49【☆☆☆☆☆】手塚 広詩
 こんにちは。続きを読みました。
 楽のお母さんが出てきたのにはびっくりしました。その急展開はおもしろかったです。彼女の言葉については、そういう考え方もあるのかなあ、という気持ちで読んでいました。ぼくは強いとか弱いとか正しいとか正しくないとかあまり気にしないヌルい性格なので、鐘美さんの話は新鮮でした。
 展開についていうと、お母さんがたまたま通りかかるというのはやや都合がよすぎるかなと思いました。また、自転車に乗っているというのもキャラクターのイメージに合わない気がしました。
2015-06-10 19:21:09【☆☆☆☆☆】ゆうら 佑
感想ありがとうございます。
筆者が思う「理想な」大人を通して主人公望が成長していくシーンを表現したく、このような形になりました。現実味を持たせるため、「なぜあの場に楽の母親がいたのか」を後で説明するつもりです。
またよろしくお願いします。
2015-06-10 23:56:13【☆☆☆☆☆】手塚 広詩
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