『魔法使いの春期講習 プロローグ〜第二話』作者:ゆったいり / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
時は2001年。21世紀が始まっても、車は空を飛ばなかった。高校生になっても、きっとふわふわした日常のままだ。どこか大人びた少年、進道進一はこの春から中学三年生。彼が受けた春期講習は、講習とは名ばかりの怪しい話だった! そこに進道を引きずり込んだ男は、なんと妖怪や神獣が、現代に住んでいると大真面目に主張しているのだ。彼が、狐や竜であると言ってはばからない大人たち。彼らに振り回されながら、少年は次第に謎と精神の大渦に巻き込まれていく。実は進道自身もただ者ではなさそうで……!忘れていたものを探し出す、不思議が溢れ、心震える春休み。
全角20939.5文字
容量41879 bytes
原稿用紙約52.35枚
プロローグ
 
 どうも、筆者の国島陽一だ。と言ってもご存じない方も多いだろう。当たり前だ。筆者は文を書くことを仕事にしているわけでも、テレビに出ているわけでもなんでもない。ただこれからこの物語を書いて、有名になる予定なので覚えておいて損は無い。
 ああどうか読むのをやめないでいただきたい!なんだてめぇは、特に有名でもない作者がしゃしゃり出てんじゃねぇ、と言われても仕方は無い。至極当然のことだ。ただ筆者は一読者、いや、いち観察者?として忠告というか助言と言うかそんなものをしておきたいのだ。
 いや決してこの文がたどたどしいからといって、本文もこんな稚拙な文と言う訳ではない。本文はうまく書けるのだ。そんなふうになっている。
 そうそう前ふりだった。この小説(そう思われるだろう。まあ別に構わない)には、ちょくちょく信じられないような話が出てくる。この話自体は本当でなくとも、語っていることは真実なのだ。それだけ覚えていただきたい。この世界には科学や常識では語れないこともたっぷりとあるし、少年と言うのは短期間で見違えるように成長するのだ。
 前置きが長くなった、それではリーディングを始めよう。
 そう、その舞台は2001年。失われた10年最後の年。21世紀になっても宇宙に人は住めず、車も空を飛べなかった。2000年問題やミレニアム騒ぎも終り、経済も特に目覚ましい動きを見せない。どこか冷めた雰囲気の中、喫茶店の数もどんどん減少の一路を辿っていた。そんな春、とある喫茶店。窓の傍のテーブル席。二人座っている。机の上には何枚かの書類。どうやら、首から銀のコンパス、羅針盤とでも言うべき物を下げた少年が、スーツの男に詰め寄っているところのようだ。
「僕は、春期講習、と、聞いたんですがねぇ、全く」
 少年は頬杖をついて、一昔前の役人のように、ねちねちと言葉を発する。
「ああ、そうだな」
 スーツの男はじらすようにコーヒーを飲む。
「なんなんですか、ええ?」
 少年が身を乗り出す。スーツの男は内ポケットに手を入れる。
「そうだな、言い忘れたことがある」
 男は財布のようなものを机に置く。それに少年の目は釘付けになる。そしてゆっくりと、男は、名刺を差し出した。
「申し遅れたな、俺は捏飾ゼミナールの、安藤玲だ」
「ああ、僕は進道新一……」
 少年、進道新一は乱暴に机を叩く。
「ですから!」
 書類が少し飛び散る。胸のコンパスが飛び跳ねる。スーツの男、安藤玲は名刺を構えたまま平然としている。
「なんなんですかって聞いてるんですよ、これが!」
 進道は、書類、と言うよりチラシを指で突き刺し、まっすぐ、安藤を睨みつけながら話し始める。
「いいですか、読み上げますよ。『中学三年向け改革コース。金額、一回につき二千円。近くに住む人間以外の存在の話を聞き、それを時系列順に、かつ詳細にまとめて提出してもらうことで、理解力、表現力などと、学びの本当に大切なものを獲得できます。』ですよね、違いますか?」
 進道は、安藤を見つめながらも淀みなく述べ切る。安藤はとぼけた様子で名刺をしまう。
「ああ、一言一句間違いはないな」
 安藤はチラシを確認してから、とぼける。
「ですから、人間以外の存在ってなんなんですかって聞いてるんです。草花の話でも聞けってんですか?とんだメルヘンですよそんなの」
 安藤はやけにもたもたとコーヒーを持ち上げ、口に運ぶ。進道の頬がピクピク動く。そのまま数秒。安藤はとぼけたように言う。
「何ってそのままの意味さ、別に犬猫を調査させようってわけじゃない」
 進道の目が飢えてくる。
「だからそれがなんなのかって聞いてるんですよ、さっきから」
 また安藤はコーヒーカップに口をつける。進道の指ノックがだんだん早くなっていく。
「そりゃあ狐とか宇宙人とかだろ、普通に考えて」
 指が止まる。しばしの沈黙。進道はその言葉を理解できなかった。いや、正常な判断力がその言葉をブロックした、といったほうがいい。
「え、なんですって?」
「だから、竜とかエルフとかそのへんだろ、と言っているんだ」
 進道は、あまりに想定外の言葉を会話にぶち込まれ、思考がフリーズする。
「え、あの、は、いるんですか?そんなの」
 進道の反応を見て、安藤は少しニヤリとする。
「まあ、最近は数が少なくなってきたみたいだがな、この近くに住んでるみたいだからこの話を出したんだ」
 何か論点がズレているような気がするが、軽くパニックの進道にはよくわからない。
 安藤はもう一枚書類を出す。そこにはどこかの住所と略地図、そして、『狐 水稲海荷』と書かれている。きっと、この人のところへ行けと言う意味だ。
「さ、やってくれるな?」
 ずっと前からそのことが決まっていたかのように、進道はうなずいていた。その時確かに、この講習とは名ばかりの怪しい話を、価値あるものと思っていたのだ。進道は今でも不思議に思っている。
 ああ、なぜこんなアブナイことを言いだすアブナイ人のアブナイ話を受けてしまったのか! 
 進道は、どこかわかるような気もしている。あれはやはり、春期講習だったのだ。何を教えてもらったか? あまりに大味で、手垢の付きすぎた表現だけれど、それはきっと、人生というものだ。

第一話 隣のきつねえさん

 どうも国島だ。これから章の初めにちょっとしたコラム的なものを書くことにした。読みたければ、この物語の怪奇な部分をすっと読み取る手助けにすればよろしいし、嫌なら飛ばして結構だ。これは、いわば私の親切だから、まあ受け取るもそうでないも自由だ。では始める、飛ばすなら今の内だ。
 ビルの屋上にある小さな神社を見て、なんだこれ、と思った人も多いだろう。あれは稲荷神社だ。都会になればなるほど、会社のビルの屋上には小さな稲荷神社がある。実は外から見えなくても、ビル内や敷地のどこかに結構な確率で建てられている。実は大企業の社長ほど、目に見えぬ力を信じている人が多いのだが、なぜ稲荷神社なのだろう?
 それは稲荷が商売繁盛の神だからだ。なぜ商売繁盛かと言うと、狐が豊作の神と信仰されていたからである。ではなぜ豊作の神と言われたのだろう?現在の邪悪なイメージからは、とても想像がつかないように思える。
 まず狐の生態が関わってくる。彼らは、稲が実る晩秋から冬にかけて、人里付近に食料を確保しに降りてくる。それも、神聖とされていた山から、稲穂を狙って現れるネズミなどを食べに来るのだ。
 少し想像してみてほしい。田んぼが黄金色に染まるころ、藁の色をした獣が、神秘的な山から、実った稲穂のようなふさふさした尻尾を揺らして、颯爽と害獣を退治するのだ。これはまごうことなき豊作の神だろう。筆者だってそう思う。
 そんなわけで古代はあまり現在のような邪悪なイメージは無かった。それでも霊力があるとは言われていたようで、この前こんな不思議なことがあってさぁ、と世間話をする時にはたいてい狐のせいにしていたらしい。狐にとっては迷惑な話だったろうが、やっぱり神聖だったので、せいぜいいたずら好き、ぐらいの認識だったらしい。
 しかし、平安時代から、ぽつぽつと狐憑きなどの記述が増え、江戸時代へとどんどん禍々しいイメージが定着していく。
 なぜなのだろうか?荼枳尼天と結びついたから、と言う人もいれば、中国からのイメージの伝来、果てにはお坊さんのネガティブキャンペーンと言う説もある。調べているとなんだかこっちのほうが化かされている気になってくる。
 けれど、それらを受け入れた土壌のようなものはあるだろう。先にも書いたように、不思議なこと狐は結び付けられて考えられていた。もしかすると、狐のイメージの変化は、不思議に対する意識の変化そのものなのかもしれない。
 知識が増えれば増えるほど、人は頑迷になっていくものだ。

 翌日。進道は首のコンパスを眺めながらさまよい歩いていた。相変わらず緑の少ない街だな、と思う。生まれ故郷なのに、愛着は沸かない。言ってしまえば、交換可能な場所なのだ。
 今でこそ、こんな灰色になっているが、昔は緑豊かな土地だったらしい。それこそ高度経済成長の前までは。そう、あの時代に、多くの人が都市に流れた。焦った行政は乱開発をした。森は材木に変わり、道は灰色になった。熱に浮かされたようなあの時代は終わっても、緑は帰ってこない。ふるさとは、戻らなかったのだ。そうして人すらも帰らなくなり、残ったのは死体のようなコンクリートと、どこかぐったりした通行人のみ。とんだお笑い草である
 だからこそ進道は考える。百歩、二百歩、三百歩譲って化け狐が存在するとしても、まずこの街だけはありえない、あってはならないのと。
 それこそ、化かされてるみたいだ、と、進道は思う。そもそもこの現代社会に化け狐だなんて、それだけでどうかしているとしか思えない。そうと決まれば、さっさと帰ってゲームでもしていればいいのだが、なにかとっかかりのようなものが、進道をとらえて離さない。
 信じたがっているのかもしれない。と、進道は思い、首を振る。たぶん、好奇心のなせる業だ。
 そうだ、そんな民話があった、と進道は思い出す。狐を化かすのを見ようと思ったら自分が化かされていた話。屋敷を覗いていると肩をたたかれ、実は荒れ果てた水車小屋を覗いていた、と言う結末を進道はよく覚えている。
 進道は少し口元を緩ませる。あの時はバカだな、と思ったけれど、今では自分が同じ状況に陥っている。人間って案外適当なものだ。そうだ、狐と言えばこんな民話もあった……と、進道は長い道のりを案外楽しそうに歩いている。
 こんな風に書けば、目的地はずいぶん遠い物なのだなあ、と思われるかもしれない。けれど実際はごく狭い範囲をぐるぐる回っているだけである。
 それと言うのも、彼も現代っ子であり、あまり社会的ではない。なので、ただ道を示されても、何を目印に進んでいいのか分からないのだ。
 進道は二時間ほども迷走した後、やっと目的の家にたどり着く。それは彼の住むマンション、それも彼の部屋の隣、二十四号室だった。進道は、僕の努力はなんだったんだ、と思いながら、生まれて初めて他人の家のチャイムを鳴らす。
 数秒。後悔が後から追ってくる。もはや誰も出ないでくれとすら願っていた。何も聞かずにこの仕事を安請け合いしてしまったが、まさか「あなたが化け狐と聞いて話を聞きに来ました、どうぞよろしく」だなんて言えるわけがないではないか。
数十秒。誰も出ない。進道がほっと一息つくと、肩に誰かの手が乗り、体が跳ねる。
「何してるんだい?こんなところで」
 ひやりとする。一瞬、目の前が水車小屋になるような気がした。
「なあんて、ずいぶん遠回りしてきたんだな、少年」
 慌てて振り返ると、知らないお姉さんが立っていた、美人だ。反射的にそう思う。進道が声を出す間もなく、言葉が飛んでくる。
「はは、驚きに声も出ないか。まあ立ち話もなんだ、中へ入ろう」
 強引に手を引っ張られ、何が何だか整理もできないまま、家に引きずり込まれる。自分が何をしているかもわからないまま、進道は気づけばリビングにいた。
「まあ、座りたまえよ」
 そう言ってお姉さんは座布団を差し出す。
「ソフトドリンクでいいかい?」
 いや、むしろソフトドリンク以外出しちゃだめだろ、と進道は思う。お姉さんは床に散らばったゴミやら何やらを蹴りながら台所へ向かう。
 そろそろ進道も、辺りを観察できるぐらいには頭が冷えてくる。目の前にでんと鎮座しているこちゃぶ台がどこか奇妙だ。というより進道はそんなものを、テレビや漫画でしか見たことはない。
「お待たせっと」
 お姉さんが戻ってくる。丸い黒塗りお盆から、リンゴジュースと思しきものがつがれたコップを、ちゃぶ台に置く。なんだか、その仕草の一つ一つに、引きつけられてしまう。なにげない細かな動きにも、どこか魅力を感じる。なにか水稲は、くらくらするような、甘えたくなるような、不思議な雰囲気を漂わせている。
 進道はしばらく見とれていたが、そうだ、まず確認しなければいけないことがある、と、メモ帳を取り出す。
「あの……水稲 海荷さん、ですよね?」
 化け狐の、と付け足すのはさすがに躊躇した。
 うん、とお姉さん、水稲海荷はうなずく。そして進道の向かい側に正座しようとする。進道はほっとし、グラスを握り、止まる。狐が肥溜めから注いだものが高級なお茶に見えた、なんて民話も多い。そう、進道の知っている限り、狐は好んで妖艶な女性に化ける。
「ん、緊張してんの?」
 水稲に呼び掛けられ、進道はもごもごと答える。どこからか花のような香りが進道をくすぐる。もちろん進道は、狐が人に化けるだなんて、そんな非科学的なことを信じてはいない。けれど、水稲を見ていると、なぜだかここが、本当は田んぼの中でもあるような気がしてくる。
 病院。原稿用紙。砕けた皿。
 進道の脳裏に三枚のイメージが流れる。狐が化けるだなんて非科学的だ。そう、現実と空想は区別しなければならない。
 しかし、なにかじわじわと、進道は水稲に目が吸い寄せられるような、それでいてそらさなければならないような、奇妙な感覚を覚える。武術の達人が、立っているだけで相手を威圧するように、水稲は、なにか心を惑わすような雰囲気を漂わせている。
「あ、真っ赤になってる」
 ふふ、と笑われる。完全に子供扱いだ、と進道は思うが、声はうまく出ない。するとふと彼の額に何かが触れる。それが指先と気づいた時にはすでに、頭の中の霧が吸い込まれるように落ち着いていた。今のはなんだ、進道が考える暇もなく、水稲に、うりうり、と指先を押し付けられる。
「ちょ、ちょっと水稲さん。やめてくださいよ」
 進道は照れることなく、自然に声が出ていた。なぜなのだろう、水稲の指先が触れたからなのか、と彼が考えていると、ふと水稲の指先が止まる。
「あ、そうそう。狐の話聞きに来たんだろ?」
 進道は虚を突かれ、どきりとする、最も話を切り出しにくいところを、先に触れられるとは思ってもみなかった。
 そうだ、こうなったら面と向かって男らしく聞いてやる、と、進道は開き直る。そしてきっぱりと、決意に満ちて顔を上げる。
「待った、少年」
進道の目の前に水稲の手のひらが広がる。進道は、肩すかしを食らった気分だ。少年じゃなくて、ちゃんと自分には進道進一と言う名前があるんだぞ、と思う。
「敬語、やめよう」
 ねっ、と小さな声で付け足し、水稲は進道の目を見つめる。水稲の纏う空気が迫ってくるようだ。自分の意識や感情が何か他人事のように思えてくる、委ねてしまいたくなる、崩れてしまいたくなる。会ったことがないはずなのに、なぜか懐かしい。そんな進道に構わず、水稲は語り始める。
「私の目を見て、あなたの意識はここへ吸い込まれていくの、暖かくて、柔らかくて、心安らぐところへ」
 口調だけでなく、声の色が変わっている。淡々としてほのかに妖艶なそれは、頭に不自然なほどすんなりと響く。
 水稲の目から、視線を外すことができない。どんどん体の力すらも吸い取られるように力が抜ける。瞼が、重い。頭が、温かいものに乗せられる。
「君を、私が受け止めてあげる。あなたはただ暖かな世界で、心地よさを味わっていればいいの。さあ、私に預けて、体の力も、意識も、全部」
 体がふんわりとシビれるように心地いい。声が頭の内部に響くようだ。
「さあ、この暖かな世界で、あなたは私の声を聴き続ける。それはあなたを変える声、あなたを鎖から解き放つの」
 声は遠く、ずっと遠くの雲の上から聞こえるようで、自分の体の中から聞こえるようでもある。
「あなたは自分が大好き。自分が大好きだから、誰にだって優しくできるし、自分を高めたいから、何にだって興味を持てる」
 意識が溶けこんでいく、心地いい、ただ心地いい。暖かい海の中に沈んでいくみたいで、いつのまにか、目は閉じていた。
「そんなことない、って思っちゃった?けれどね、愛された人は、愛せるんだよ。覚えてないかもしれないけど、あなたは、生まれてから、生まれる前から、無条件に愛されてきたんだ、父から、母から、大地から」
 体がどんな形をしていたかも忘れ、温水に意識だけがゆらゆらと漂っている。声の響きが、ゆるやかな波のようだ。
「大丈夫、愛してる、愛されてる。しっかりと、守られてるよ。あなたが嫌いなところも、あなたのどうしようもないところも、みんなみんな、愛してる、愛されてる。だから、ちっとも恐れることなんてないんだ」
 声と意識が、溶け込んでいく
「愛してる、愛され」てる、愛せる。自分や他人の何かじゃない。その人自身、世界自身を愛している。だからいくらでも踏み出せる、苦しみを試練として昇華できる。
 もう思考なのか声なのか分からない。
 そう、落ちていく、落ちながら、無条件の愛の中へ還っていく。目を覚ませば、無感動の鎖は解けて、しなやかな思考と新鮮な感動を取り戻すことができる。ああ、そうだ。あと私に敬語使わないこと、呼び方も、少し甘えた感じで『ねぇちゃん』と呼べよ少年。さあ、眠ろう、すっと、眠くなっていく……

 それから、いくら経っただろう。寒い。進道は目を覚ます。辺りはもう、すっかり暗い。春先といえども、やはり夜は冷える。進道は今、24号室の前に、仰向けに転がされていた。
「化かされたな……」
 進一はつぶやき、しばし放心していた。まとまりのない考えが頭を駆け巡る。それにしてもこのバイトは、なにが目的なんだろう。水稲 海荷は何をしたんだろう。ああ、なにか夢の中にいたような気がする。そう言えばなぜ、夢という言葉には2つの意味があるのだろう。いやそもそも言葉自体だって……
 やがて、進道はむくりと起き上がる。家へ、帰らなくてはならない。子供に、帰らないと言う選択肢はないのだ。
 なにか、流されてばかりだ、と彼、進道進一はつぶやく。そう、いつもそうだった。ユリ・ゲラーなんて大嫌いだ、と、25号室の扉を開ける。
 整然と並ぶ靴の中、自分の靴をうっちゃって、進一はリビングへと進む。レースのかかったテーブルに、さりげないアンティークな時計。自分の家ながら、綺麗に掃除されている、と彼は思う。水稲の部屋を見ているから特に。
 母が本日三度目の掃除機をかけているのを横目に、イスに座る。何の言葉も交わさずに、テーブルに置いてある夕食を無造作に食べる。さほど味は感じない。おそらくレトルトだ。そのまま食器を流し台に置こうとすると、母の声がかかる。
「シンイチ、どこに行ってたの?」
 その声は特に悪い感情を込めた訳でもなかったが、進道、いや、シンイチにとっては特に冷たく感じられた。
「なんでもないよ、春期講習」
 母はホコリをはたき、シンイチは皿を洗い続ける。背中越しに言葉が飛び交う。
「なんでもないわけないでしょ?春期講習でこんなに遅くなるわけなるわけがないじゃないの。まさか、どこかで遊んでたんじゃないでしょうねぇ」
 いつもならなんともない小言が、今日は妙に気に障る。
「来年は高校受験でしょ?悪い学校に入った人がどうなるかぐらい、頭のいいシンイチなら分かってるわよねぇ。お母さんシンイチのためを思って言ってるんだから、ほら、どこに行ってたの?」
 まるで人生のコースが一本しかないような言い草だ。といっても、シンイチにとってそう慌てるような事態でもない。こんなことはしょっちゅうなのだ。シンイチの手がなぜか震える。そうだ、のらりくらりとかわす手段もいくらでもある。
 しかし、進一はそうしたくなかった。シンイチの心の奥に、ぐらぐらと反骨心がたぎる。お前が心配なのは僕じゃなくて、成績のいい、自慢のムスコじゃないのか。
 しかしそれは、声にならなかった。
 コンパスをぎゅっと握りしめ、代わりに、一呼吸置いて言う。
「遅くなったのはね」
 寒い、エアコンで快適な気温になっていてもそう思う。シンイチはすたすたと自分の部屋に向かい、部屋のドアを開ける。
「狐に化かされてたんだ」
 進一は部屋に入り、拒絶するかのようにバタリと扉を閉める。なんだか頭の中がぐちゃぐちゃして、閉じこもりたいのに、叫びだしたい。しばらく収まりがつきそうにないので、風呂も歯磨きも放棄して、さっさと布団に潜り込んだ。

 進道は、マンションの屋上にいた。澄み渡る青空がなぜか怖くなって、逃げようとすれば、安藤にぶつかって、空に投げ出される。しばらく空中を泳いでいると、大きな流れに引き込まれる。その先に、水稲がいた。水稲はたちまち海になり、進道は海底に落ちていった。海面は濁っている。しかし深く潜るにつれ、水は涼やかに澄んでいく。人がいた。どこか中性的な、若い男性だ。深い、深海を思わせる色の外套を着ている。やあ、と呼びかけられる。ハッとする。爬虫類を思わせるように、その瞳は、縦に長かった。

 そこで進道は目を覚ました。その夢は妙に生々しくて、目を覚ましたこちら側の方が、夢のようだ。今まで感じたこともない奇妙な感覚に、進道はしばらく茫然自失していた。けれど気のせいだろうか、目を覚ます直前、美しい銀色の髪を見た気がする。

 翌日、例の喫茶店。寂れた店内を進道が見わたすと、安藤が手を振っていた。ぶあつい書類片手に、ピシリとスーツを着こなしている。
「進道、報告書は進んでるか?」
 この喫茶店は案外暖かいな、と進一は思う。催促ではなく、純粋に気遣っている様子だ。ただの危ないおじさんではないらしい。スーツもよく見ればかなり様になっている。
「ああ、それですか」
 そこで嬉々として、手提げカバンから数枚の書類を机にたたきつける。
「終わっていますよ」
 ほう、と安藤はつぶやき、さも大事そうに手に取る。
「まあ、大事なのは内容だ、早さではない」
 そう言いながら安藤の口元は緩んでいる。しばらくして、コーヒーが空になるころには、一通り読み終えたらしい。安藤がポツリと、雰囲気だけで変性意識状態に叩き込むとはな、と漏らす。
 そのまま次の話に進むかと思えば、安藤は大量のマーカーやボールペンを取り出す。数十秒。安藤は黙々となにやら書き込んでいる。進道は耐えられなくなり、先ほどの発言を掘り返してみることにする。
「あの、安藤さん。変性意識状態ってなんですか?」
 安藤は、進道の存在に今気付いたように顔を上げる。
「ああ、催眠の用語だ。水稲がお前にかけたのはそれだよ」
 進道は、これで沈黙が防げると安心する。
「あれが、催眠術なんですか?なんか、変な行動させるとか、ありえない思い込みをさせる、とかじゃなくて」
 安藤はどこか満足そうに、きらりと目を光らせる。
「そう、本来の催眠はもっと違うものだ。そもそも、本人が嫌がることはさせられないからな」
 隣を通ったウエイトレスは、コーヒー一杯で粘る安藤を気にも留めない。安藤はもう顔を報告書に戻していたが、初対面の時より明らかに饒舌になっている。
「そうなんですか?よかったら詳しく聞かせてくださいよ」
 進道は、なんとか沈黙を埋めようと必死だ。
「ああ、少し長い話になるかもしれんがな。そうだ進道、潜在意識って知ってるか?」
 嬉しそうな声をしている。本当にその分野が好きなんだろう。
「あ、ええ。なんか人生成功できるみたいな、うさん臭いみたいな」
 安藤はさもおかしそうに笑うが、進道は手持ち無沙汰に銀のコンパスをいじっている。
「まちがっちゃあいないかもな、そりゃあ。まあ、簡単に言えば意識してない脳の働きのことだよ」
 そう言いながらも、点検する姿勢はやめない。その姿はなかなかサマになっていて、一流企業の経理のようだ。
「そうだな、キーボードで文字を打つ時、意識する前に指がうごいたり、考えてもない言葉がすらすら出てきたりする時あるだろ?それは無意識が働いてるんだ」
 進道はじっと安藤の話を聞いている。
「他にも、特定の人に会うとなぜか思ってもない態度をとってしまったり、幼い頃とかのつらい経験で、特定のものを怖れたりすることもそうだ」
 その言葉に、進道はビクリとする。
 石。テレビ。鉛筆。それらを振り払うように、進道は声を出す。
「ずいぶん、いろいろあるんですね」
 安藤は満足そうに口角を上げる。
「そうさ、無意識の働きってのは意識より、ずっとずっと大きい。例えるならな、氷山だな。あれは見える所も、大きいけど、地上から見えているのは一割程度にすぎないんだ。浮かんでいる部分が意識、沈んでいるのが潜在意識ってわけさ」
 安藤は、一口コーヒーを含む。
「今は軽くさらってるだけだが、本当に潜在意識のことを話そうと思えば日が暮れるだろうな。後、一つだけ、話していないが重要なことがある。」
 進道は、話が長くなりそうだと予測し、話をそらそうとする。
「まあ、だいたい分かりましたよ。催眠術は、その潜在意識に何かするってことですか?」
 安藤は、空になったコーヒーカップを口に運んだ。
「ああ、そうだ、潜在意識に直接語りかけて、思い込ませたり、逆に思い込みを解かせることを催眠と言うんだ。ま、そこまで突飛なことはできないがな。せいぜい恐怖症とかや変な思い込みを治したり、少し体を操るぐらいだよ」
 進道は、以前ならオカルトとくくって拒絶していた話に、次第に引き込まれていくのを感じている。
「具体的にはどうやるんですか?」
 進道は、いつの間にか自分が、少し身を乗り出していたことに気づく。
「まあ、言ってしまえば、リラックスさせて普段の意識、顕在意識を眠らせるだけだよ。その状態を変性意識状態と呼ぶんだな。それだけかと思っても、結構難しくてな」
 安藤はペン類を置く。
「催眠にかからないと思い込んでいたり、かかりたくないと思えば、かからないんだ。
 よくマンガなんかで、敵や女の子に強制的にかからせてるのがあるが、それは所詮フィクションってことさ」
 ま、水稲はその風体だけでそこへ持っていったみたいだが、と安藤はつぶやき、安藤は報告書を置く。
 書類を手に取っていいのかと、進道が躊躇すると、安藤の声がかかる。
「教育ってのはな、催眠だよ」
 その声は、どこか遠いところに話しかけるようで、進道はきょとんとする。
「なあ、俺がここで突然机の上に乗っかったら、進道はどう思う?」
 進道は少し考える。
「そう、ですね。びっくりしますよ」
 安藤は、進道へ右手を広げる。
「なぜだ?」
 進道は人差し指を曲げて顎に当てる
「なぜって、当然じゃないですか」
 安藤は、ふふ、と笑う
「なるほどな。けど、子供のころ、そんなこと気にしてたか?」
 そういえば、と進道は思い出す。母がくどいぐらいに、しつけに苦労したのよ、と繰り返していた。その中に、魚を追って机に登った、と言うのもあった。
「それが、催眠術だって言うんですか?普通のことを教えることが」
 出た声は予想外に鋭く、進道は驚く。安藤は楽しそうに笑う。ああ、この人はやっぱりアブナイ人だ。
「平安時代の貴族はほとんど体を洗わなかったそうだ。それと言うのも縁起の悪い日に体を洗ったら、毛穴から悪霊が入り込むとかでな。そんな日が一年のほとんどだったらしい」
 それが、どうしたんですか、と、進道がぼやく。
「馬鹿げてるだろ?でも、本気だったんだ、その人たちは。それが当たり前のことで、常識だったんだよ。現代のように、一日一回体を洗う貴族仲間を見たら、驚いたことだろうな。それこそ、当然のこととして」
 進道は、口を開こうとして、止まる。言葉がまとまらない。
「進道、現実を見ろって、つまらない大人は言うさ。けれど、その現実って、どこにあるんだろうな?」
 安藤にパサリと報告書を向けられ、進道は身構える。
「こことここ、二重表現。そして二ページ目の三行目、これでは心理が分かりづらい。この黄色いマーカーは手垢の付きすぎた表現。青いマーカー、擬音語で表現をごまかすな、これでは情景を想像しにくいだろう。その他書き込んである改善点もよく見ることだな」
 さばさばと指摘され、なにかわだかまりも飛んでされてしまった。ただ、指摘の内容に何か違和感を覚える、何なのだろう。
「ただ、それ以外は予想以上の出来だ。まあ最初だからな、細かい修正はこちらでやっておこう」
 なぜか安藤は胸ポケットに手を差し込み、無造作に封筒を置く。
「なんですか、これ」
 当然、進道は訝しむ。違和感なんてもう飛んでいる。
「開けていいぞ」
 進道は不安そうに封筒を開ける。すると、なんと千円札が二枚顔を出した。なんだこれは、まるで意味が分からない。進道は困惑して、顔がひきつる。
「不満ならもう少し色を付けてやろう」
 そう言って、扇のようにした一万円札を惜しげもなく机にばらまく。進道の思考は完全に停止する。
「この講習の説明に、一回二千円って書いてあったろ?それだよ」
 まさか、金額は二千円、と言うのは、こっちが払う料金じゃなくて、その金額くれるって意味だったのか。けどなぜ?何のために?と、進道の思考はかき混ぜられる。
「さて、もう一人やってくれるな?」
 安藤は進道を見つめる。はい、やります。と、気付けば進道は答えていた。なんだか自分の体じゃないみたいだった。
「さ、次はこの男だ」
 安藤はニヤリとして、一枚書類を差し出す。「竜人 和宮光」と見出しがついている。
 それは水稲のものよりはるかに詳細で、付属の写真を見た時、進道は絶句する。
 見覚えがある。縦長の瞳こそしていないが、深海色の外套を着て、どこか中性的な雰囲気だった。

第二話 絶えて桜のなかりせば

 桜は美しい。何を今さらと言われるかもしれないが、美しいのだから仕方がない。どうもその花には日本人の美意識に特別訴えかける力があるようで、その花が咲けば人が群がり、食事をし、あげく酒まで飲まれるのは、世界広しといえども桜のみである。その理由は、日本人の無常観に訴えかるから、らしい。筆者はこの説明がどうも気に入らない。仏教の伝来する前から桜は畏敬されてきたし、そもそも花見で騒いでいる人の中に、諸行無常を感じている人が何人いると言うのだろう? やはり桜は美しいのだ。
 少し唐突だが、桜が恐ろしいと言う人は少なからずいる。夜に桜の木を見て、少しぎょっとした、と言う人もいるだろう。桜に関する現代怪談も多く、梶井基次郎の「桜の樹の下には 屍体 が埋まっている!」というフレーズを知らなくても、桜と死体の組み合わせが焼き付いている人も多い。桜の美しさと同時に、この恐怖も日本人の底に刻み付けられたものだろう。ただそれが無粋とか何とかで抑圧されてきたのだ。
 別に現代だけでもない。陰陽道では、桜は極端に陰である。すこしかっこつけたが、陰気なやつ、とか陽気な宴会、とかのあれだ。どこかの民間伝承では、桜の赤は血の色であるとも言われている。
 とまあ、桜のことになると、どうも話が少し断片的になるが、筆者にはなにか大きな一つのものを別の角度から表現したもののように思える。とはいえ、そろそろこの辺で話をまとめなくてはならない。
 誤解を恐れずに言い切るなら、日本人は桜に「死」を見ている。自分の一生だけではない。桜は散り、また花をつける。散ることだけではない。それと対比して、生を見ている。そこに、美しさを見出している。散ることを受け入れて、無常を乗り越えて、そこから、存在していることの貴重さを見るつだ。だから、桜の木の下でどんちゃん騒ぎする気にもなるのだろう。
 あれほど怖いだとか陰だとかいっても、桜を暗い物と言う人はいない。桜は秋や冬ではなく、やはり草萌え出ずる春に咲くのだ。

 二十四号室。
「で、遠いんですよ、やっぱり」
「それで何がいけないんだ少年、送ってもらえるんだろ?」
 進道と水稲はちゃぶ台を挟んで話していた。それぞれ手元にリンゴジュースが置かれている。
「安藤さんの話だと、その和宮 光さんの調査に、最低3日はかかるんです。それでですね、どうも家族の承認が、ですね」
 進道は自然にリンゴジュースを一口含む。
「よし」
 水稲は豪快とコップを空にし、ちゃぶ台に叩きつける。
「分かった少年」
 そして力強く言う。
「花見に行こう!」

 進道はたちまちの内に、水稲の真っ赤なスポーツカーに揺られていた。水稲の運転は思ったより丁寧だった。明日がある、なんて鼻歌で歌って、なかなか楽しそうだ。
「そういやアンドレはさ、なんで私の家に来させたの?」
 突然、聞きなれない人名が出てくる。
「アンドレ、ですか?」
 そう言うと、水稲は唇に人差し指を当てて考え始め、やがて軽くうなずく。
「あ、そうか、捏飾ゼミナール関係ね。そうかそうか」
 フロントミラーに映る口が、安藤のようにニヤニヤしている。
「アンドレってのは、安藤玲のあだ名のことさね」
 あんどうれい、アンドレ、なるほどな、と進道は思い、ふと気づく。安藤は、水稲のことを「海荷」と名前で呼んでいた。二人はあだ名で呼び合う仲らしい。
「ところでさ、捏飾って意味知ってる?」
 と言うと水稲は突然豪快に笑い出す。進道が呆気にとられていると、水稲は軽く車を止め、外へ飛び出す。
「さあ、着いたぞ少年!」
 小さな公園だ。近所なのに、進道は見たことがない。多分、奥まった場所にあって、あまり目立たないからだろう。そんなことより、とびきり目を引くものがある。公園の中央にそびえ立つ、大きなしだれ桜だ。
 水稲は豪快にドアを開け、進道を引っ張り出す。
「さあ、場所取りだ場所取り」
 場所取りも何も、自分たちしかいないだろう、と、進道は思う。けれど水稲は気にせず進道を引きずりこむ。しだれ桜の根元だ。四方八方に枝が広がり、なにか桜の作った別世界に取り込まれるようだ。
 桜に気を取られていると、いつの間にか水稲はブルーシートを広げていた。ビールの大ビンをケースごと用意している。湯気のあがった焼き鳥や、おつまみが詰まったバッグも置いて、マイジョッキまで用意する始末だ。
「まあ、座れよ少年」
 なにか水稲には振り回されっぱなしである。ゆっくりと進道が、水稲の隣に座った頃には、水稲はもうあぐらをかいて豪傑飲みをしている。
「飲むかい?」
 なみなみとビールの入ったジョッキを、水稲から差し出される。大ビンをもう一本空にして、頬に赤みがさしている。
「僕、未成年ですよ。水稲さん」
 ふわり、と甘い香りが進道をくすぐる。
「なんで未成年だから飲まないんだい? 法律で決まっているから?ここには警官も誰もいないのに」
 と言って、差し出していたジョッキをぐびぐびと飲み始める。
「なぜって、いけないことでしょう、それは」
 もう水稲はジョッキを半分にし、乱暴に口元を拭う。しかしなぜなのだろう、これほどまでに崩れた姿をしているのに、いや、だからこそ、水稲の姿は妖しいぐらいの美しさを持って進道の目に映る。
「確かに害はたっぷりあるさね、脳細胞は破壊され、性機能や臓器の発達も阻害される。さらに未成年は依存性になりやすい。アセトアルデヒドの分解力が未発達なのさね」
 そこでジョッキをぐいと煽る。ちらりとのぞく水稲のうなじに、進道はどきりとする。けれどそれよりも、水稲の意外な博識さに驚く。
「けれど少年、君は自由だ」
 水稲は歌うように言う。
「飲みたかったら飲んでもいいさ、多くの大人がしているように。けれど、体は壊れていって」
 息継ぎをするかのようにぐびりと飲む。
「私は飲めとは言わないさ。けれど飲むな、とも言わない。そこには自由な選択のみで」
 舞い散る桜の花びらが、水稲の髪に、鎖骨に、積もっていく。しだれ桜と声のリズムに、進道はここが夢の中でもあるような気がしてくる。
「禁止なんかはこの世になくて、そこには結果と選択のみさ。殺したければするがいい。何も出来ないことはない」
 水稲の声はさらに響きを増し、空気を震わせる。
「降りかかるはその結果。国家の制裁、罪悪感。そして知るかは知らないが、惑う魂その怨恨。それらを受け入れるならば、なにも恐れることはない」
 進道はまた、桜の樹に目を向ける。なぜか、水稲が桜にまぎれて消えてしまいそうだったのだ。
「最も敬遠べきもの、結果を呑めぬ浅はかさ、因果を知らずに行う無知よ。その次避けるべき物は……」
 水稲は進道を見据える。
「根の無き恐れと自縄自縛」
 ぎくり。進道は、動けなかった。水稲はばさりと仰向けに倒れ、黒髪が広がる。
「進道、酒やタバコはokなのに、大麻が規制されている理由を知っているかい?」
 いつもの声に戻っている。進道はようやく、自分の心臓が激しく脈打っていることに気づいた。水稲の次の言葉を待っていると、ポツりとつぶやかれる。
「あ、捏飾か。次までおあずけだな少年」
 水稲は目を閉じ、しばらくの時間が経つ。進道は蓄えるように考えている。
「世の中に、絶えて桜のなかりせば」
 ふと和歌の一節を、水稲がつぶやく。
「春の心はのどけからまし、でしたっけ?」
 こくり、と水稲はうなずく。
「桜なんて、ないほうが平和だよ。一瞬しか咲かない花のために、やれ開花予想だ場所取りだ」
 水稲の声が催眠をかける時のように、はっきりと絞られている。
「けれど、なかったら、春はさみしいものね」
 桜の匂いと、水稲の香りが進道を惑わす。進道の指が震える。水稲の肢体に、進道は手を伸ばしかけ、止まる。
 ぞくりとした。何か、自分の目に指を突っ込むような感覚に襲われたのだ。
「ねぇ、進一」
 不意に風が強くなる。桜吹雪が荒れ狂う。目の前が白で染められていく。
「桜って、欲望みたいね」
 風はさらに強くなる。進道は不安に立ち上がる。桜吹雪は視界を覆い、もはや水稲すらもおぼろだ。境界が、埋められていく。
 美しい、進道は体の奥からそう思う。美しさが、圧倒的な量で襲いかかってくる。
 我を、忘れそうになっていた。
「進道、進道だな?」
 吹雪の奥から、声が飛んでくる。
 聞き覚えのある声だが、誰かは思い出せない。進道は、桜のグロテスクなまでの美しさに呑まれ、いまだ立ち尽くしている。
 水稲に目をやる。暖かい。ここにいたい。けれど。風に揺れるコンパスのヒヤりとした感触。そうだ、花は散る、散って行く。むき出しになった枝は不気味になほど無骨だった。 
 進道は走り出す。舞い散る桜から逃げ出していく。もしかすると、ずっと逃げ出したかったのかもしれない。
 いつの間にか桜吹雪は晴れて、公園の入り口にいた。空の端はもう赤く染まっていた。肩で息をしていると、誰かから、声をかけられる。
「大丈夫だったか、進道」
 安藤だ、スーツの肩から花びらがこぼれる。その両手には、水稲が抱えられていた。以外と力があるらしく、少しも重そうなそぶりを見せない。
 安藤はくるりと背中を向け、水稲の車に向かう。
「帰るぞ、進道……」
「進一、ですよ」
 ふと進道の頭に花びらが乗り、後ろを振り返った。桜はもうほとんど散って、残るは腐った肉のような花びらと、妙なほどごつごつした幹だけだった。
 そうだ、確かに水稲は、あの時「進一」と呼んでいた。

「そういえば、安藤さんがここに来たということは……」
 帰り、水稲の車。水稲は後部座席ですやすや眠っている。助手席から進道が尋ねると、安藤は、運転しながらも気安く応じる。
「ん、まあな」
 安藤は熱い缶コーヒーを持ち上げ、ちびちび飲み始める。
 湯気が立たなくなったころ、安藤はポツリとつぶやく。
「美人ってのはな、暴力なんだ」
 え、と進道は聞き返す。
「拳の暴力は肉体を傷付ける。けどな、美しさは心を殴ってくる」
 また、コーヒーを一口含む。
「冷静な判断をできなくされるんだ。精神を、ノックアウトしようとしてくる」
 安藤は眉間に人差し指を当て、少し間を置く。何が言いたいのだろう。
「だからな、男は強くならなければならないんだ。自分自身が本当に求めるものは、欲望の下にあるのだと気づかなければならない」
 安藤はここで照れくさそうに笑う。
「妙なこと言ったな、忘れてくれ」
 進道が言葉を探していると、車が止まる。もう、マンションに着いたらしい。
「水稲、すまないが、俺は意気地なしなんだ」
 安藤は車を降りる。待っていたように、水稲がするりと起きる。
「お見通し、だったみたいね」
 一人で車内にいるかのように、水稲は大きく伸びをする。
「あの、いつから起きてたんですか?」
 水稲は大きくあくびをする。
「そうだなぁ……アンドレの声が聞こえたあたりかな」
 最初から起きてたんじゃないですか、と進道はつぶやき、どこかに消える安藤の背中を見送る。
こんなに大きな背中を見たことはないけれど、あれは、紛れもない「父」の背中だ。

「もう、いい加減にしなさい!」
 二十五号室に戻った進道を待っていたのは、ヒステリックな叱責だった。このセリフを、進一は帰ってから三回は聞いている。しかしいい加減に、とはなんだ。まだ二回目だろうに。
 今日は珍しく父さんがいるが、我関せずとソファで新聞を読んでいる。
「シンイチはやればできるんだから、努力しないともったいないでしょう?」
 残念ながらそれは励ます言葉にならない、と進道は思う。
 それはつまり、頑張ればもっと私の自尊心を満たすことができるんだから、そのために努力しろ、というのと同義だ。全く、なまじ変な能力があると、期待されてかなわない。
 すると父が、重そうな体をのそりと持ち上げる。
「シンイチ、あまり母さんを困らせるな」
 母は、我が意を得たりとまくしたてる。
「ちょっと聞いてくださいよ!シンイチはねぇ、無断でどこかへいったあげくにねぇ、狐に化かされてたなんてごまかそうとしたのよ」
 父は至極迷惑そうに聞いていたが、狐、という単語にピクリと反応し、進一に詰め寄る。
「シンイチ、それは本気で言っているのか?もう21世紀は始まっているのに、まさか狐が人を化かすなんてことを」
 気づけば進一の歯がギシギシと鳴っていた。今まで抑えてきた反感やわだかまりが、決壊しそうなっている。
「人間がよりよい未来に進むためには、そんな迷信は切り捨てなければいけない。いいかシンイチ、科学の精神で日本は、人類は発展してきたんだぞ」
 口調が部下に説教する時のようだ。
 発展?そのハッテンの結果が、隣人の顔も知らない社会か。そのヨリヨイ未来は、きっと今よりも息が詰まることだろう。
「いるよ」
 進一の口から、言葉がこぼれていた。
「いるんだ、妖狐も、竜も、宇宙人も!」
 反射的に、進一は家を飛び出していた。
 階段を駆け下り、街に飛び出す。空はもう暗くなり始めていた。
 走りながら、考える。これから、どうしようか。どこへ行くのだ、どこへ泊まるのだ。寒い、進道は身震いする。
 夜になろうとしているのに、街は不気味に明るい。進道はただ、硬すぎる地面を蹴る。進道はいつの間にか、あの桜を、水稲を、「母」を探していた。
 寒い、寒い。いや、大丈夫だ、と進道は思いこもうとする。ポケットには、安藤からもらった封筒がある。おそらく、三日は暮らしていける金額だ。
 しかし、どこで、どうやって?泊まれる場所を進道は知らない。もし見つけても、こんな子供が一人で、部屋を借りられる訳がないではないか。
 ああ、寒い、寒い、寒い!あの桜はどこにもない。強い風が進道の体温を奪う。車はせわしなく通り過ぎる。 現代なんて時代は、壁の内にしか温かさが残っちゃあいない。
 突然。進道は誰かにぶつかり、地面に投げ出される。反射的にコンパスをかばう。ズボンが道路にこすれ、やぶける。
「ああ、海荷の言う通りだった」
 その声に、進道は立ち上がる。
 安藤だ、ネクタイはゆるみ、肩は軽く上下している。安藤はケータイをパチンと閉じ、進道に質問する。
「なぜ、こんなことをしたんだ?」
 その声に詰問するような様子は少しもなく、むしろ「なんでエビフライにヨーグルトをつけるんだ?」といった調子である。
 進道は唇を噛んでいる。
「家庭で、何かあるんだな?」
 沈黙を、安藤は肯定と捉える。
「だとしても、今回のやり方は良くないな。問題を解決するには順序と言う物がある」
 安藤の声はあくまで淡々としていて、進一は目を袖で拭う。
「怒らないん、ですか?」
 安藤は、本当に不思議で仕方がない、と言うように言う。
「なぜ怒る必要があるんだ?俺は進道になにかされたか?」
 安藤はポケットから缶コーヒーを取り出す。
「大人の支配から一時抜け出ただけで怒るなんて、自分は大人げないって宣言してるようなもんだ。本当の大人は、悪いことを見つけても怒らない。ただ、叱るんだ」
 それができてないやつの多いこと多いこと、と安藤はコーヒーを開ける。
「さあ、帰るぞ。進一」
 安藤は進道の手を引く。安藤の高い体温が伝わる。
 やはりこうなるのか、と進道は思う。帰らない、と言う選択肢はないのだ。
 けれど、進一は動かない。
「帰りたく、ないです」
 こんなワガママを言うのはいつ以来だろう、と進道は思う。
「ああ、なにか勘違いしてないか?」
 安藤はいたずらっぽく笑う。
「進一、家が嫌なんだろ?」
 はあ、と進道は答える。
「帰るのは、俺の家さ」
 何を言っているんだこの人は、と、あまりの予想外さに、進道の口元がひくひく動く。
 安藤は、おもむろにケータイを取り出すと、アンテナを伸ばし、開いてどこかに電話をかける。十数秒。進道には十分ほどにもかんじられた。
「もしもし、進一くんのお母さんですね?わたくし安藤玲ですが、お宅のお子さんを預かっています」
 進道は驚く。中々親しげな口調だったからだ。そういえば、この春期講習の話も母からだった。
「ええ、安心してください。奥さん、何も心配することはありません、ええ、何も心配することは無いんですよ」
 安藤はケータイをパタりと閉じる。
「さ、帰るぞ、進道」
 安藤は大きな緑のワゴン車へ歩いていく。安藤の車だ。進道は黙ったままついていく。その背中は、何かをため込んでいるかのようだった。

 帰り、安藤の車の中、進道は決心する。
「一つ、聞きたいことがあるんです」
 運転を続けながら、何だ、と安藤は答える
「あなたが狐とほざいたお姉さんの名前は「水稲 海荷」次の調査対象の名前は「和宮 光」それで、間違いありませんね?」
 そうだが、なにか? と安藤は軽く流す。
「おかしいんです」
 進道は声に力を込める
「そんな人物、存在するはずがないんですよ」
 安藤の背中がピクリ、と反応する。
「僕の苗字、進道は、確かに珍しい苗字です。確か日本に十世帯ほどしか存在しません。けれど、確かに存在します」
 車内の空気が張り詰める。
「何が、言いたい?」
 進道は、安藤から見えない膜に押されているようだ、と思い、ごくり、とつばを飲み込む。
「水稲、そして和宮。そんな苗字は、一世帯だって存在しないんです。そんな名前を持った人間は、存在し得えないんですよ」
 空気が解ける。安藤は慌てて車を停めた。そのまま微動だにせずに聞く。
「本当なのか、進一?」 
 その声はいつもより乱れていて、進道は、ええ、と答えながら驚いていた。まさか、こんな反応が返ってくると思わなかったのだ。進道の積み上げた推理が、ガラガラと崩れる。
安藤は、缶コーヒーを取り出して一気に飲み始める。なにか必死に考えているようだ。飲み干すと乱暴に口を拭い、話し出す。
「それよりも俺は進一の方が気になるな、なぜ全国の名字の数なんてことを覚えてるんだ?一切お前はパソコンに触らないよう教育されてるはずだが」
 進道はその発言に噛みつく。この時。ごくわずかにだが、安藤を、進道が押していた。
「安藤さんもなんで我が家の教育方針まで知っているんですか!それに安藤さんは僕の能力のことも、知っているはずなんです。
 覚えていますか、僕がチラシの内容を読み上げた時、あなたは驚かなかった。そう、その時僕はチラシではなく、あなたの方を見て読み上げていた。それも、一言一句間違えずに!」
 どうだ、と進道が思っていると、安藤は振り向く。なぜか、微笑んでいた。余裕をたっぷりと湛えていて、進道は面食らう。
「進一、そんなことはどうでもいいことだ」
 確かに、よく考えてみればどうでもいいことだ、と、進道は納得しかけてしまった。進道は反撃しようと構える。
「いや……」
 しかし、なぜか気勢がそがれる。
「そう、どうでもいいことなんだよ、進一」
 進道は頭がかき回されるような感覚を覚える。
「進一。もう寝ろ、もう寝るんだ。今日は、色々ありすぎたな、疲れてるんだよ」
 どうでもいいな、いや、そんなわけないだろ、と進道は格闘しながら、次第に眠りの渦へ落ちていく。
「すまない、まだ、お前にその準備は出来ていないんだ」
 そこで、進道の意識は途絶えた。

 草原を走っている。草原が後ろから、どんどん白くなっていく。自分はそれから逃げているのだ。林道に入り込む。明るかったが、いくつかの木がひどく傷ついていた。懐中電灯が落ちている。拾うことにした。
 するとそれは白いカラスになり、羽ばたいていく。翼が上下するたび、どんどん地面は海になり、いつしか自分はイルカになっていた。
 澄んだ海をどんどん泳いでいくのは本当に楽しい。やがて小島に辿りつく。見た目、少し年上の少女が佇んでいる。その髪は、月を思わせる銀色だった。
 そこで進道は目を覚ます。また、やたらリアルな夢だ。暖かい。どうやら布団に寝かされているらしい。あの銀色の髪の少女は誰なのだろう。まあいいや、と進道は目をつむる。
 なぜだか、また会えそうな気がしたのだ。
2014-05-07 12:24:02公開 / 作者:ゆったいり
■この作品の著作権はゆったいりさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
14/05/07 一二話の公開をしました。そして時代設定、語り手、小道具までも追加しました。プロローグをいじり、一話もマイナーチェンジすることになりましたが、読みやすくなっていれば幸いです。
14/04/23 改題と、一話まで加筆修正、タイトルやハンドルネームまでも変更しました。

初投稿です。
まだまだ書けていませんが、感想を頂ければとても喜びます。
まだ勝手が分からないので、至らないところはビシバシ指摘して頂ければ幸いです。
この作品に対する感想 - 昇順
 初めまして、天野敬二様。
 作品を読ませていただきました。
 こういうシーンが書きたいんだという思いがとてもよく伝わってきました。
 ただ、登場人物や構成ほかいくつかが詰められておらず、物足りない部分がありました。でも、書きたいことを気持ちよく書けていらっしゃるようですし、これでよいのかもしれませんね。
 次回更新、頑張ってください。ピンク色伯爵でした。
2014-03-16 21:40:15【☆☆☆☆☆】ピンク色伯爵
ピンク色男爵様、感想ありがとうございます。
いきなりですが、僕はあまり小説を書いた経験がありません。
この作品も、推敲や加筆修正を重ねながら、良いものにしていきたいと思っております。
ですので、その物足りないところをもう少し詳しく教えて頂ければ幸いなのです。
まあつらつらと書き連ねましたが、作者からのメッセージにもあるように、今はただ勝手が分からなくて、少しでも多く感想やアドバイスが欲しいんですよ。
なので、この不躾な願いもどうか寛大な心で接してやって下さい。
感想ありがとうございました。次回更新、それはもう張り切って参ります。
2014-03-16 23:00:36【☆☆☆☆☆】天野敬二
 こんにちは。ぼくこういうの好きです。狐とか神様とか。ただ、そういうのを背景に持ってくる意図があるのであれば、もう少し書き込んだほうがいいかもしれません。たとえば一話、二話の冒頭に置かれた文章(「日本ほど、狐に親しんできた国はないだろう。〜」「節分も行わない家庭が増え〜」)は、ちょっと荒いというか分量が少ないというか、物足りない気がしました。また、この導入部と章の内容がもっとうまくマッチすればいいのになあ……とも思います。とくに二章のほうですね。ただの学説の羅列になっても味気ないですし。
 それから文章の書き方について
「翌日、特に都会というほどでもないが、緑の見られない街。進道の住んでいる街である。進道はそこをさまよい歩きながら、名刺を見ている。そこには、『深層ブラインド 代表 安藤 玲』とあった。」
 このへんは文章の感じがほかのところと違っていて、ちょっと変ですね。この作品は全体的に進道視点で書き進めているので、それで統一していいんじゃないかと思います。
 内容についてですが、安藤との出会いの場面(プロローグ)はもう少し書き込むべきかと。状況が分かりにくいです。
 えーと、はじめに書いたようにこういう民俗学的な(?)題材は好きなので、そのあたりも細かく突っこんでみたいのですが、本筋からは外れますので今回はこのあたりで。続きを楽しみにしています。
2014-03-22 18:03:18【☆☆☆☆☆】ゆうら 佑
 ゆうら 祐さん、感想ありがとうございます!
 やはり民俗学的なところが薄くなっていたようですね。いやはや、にわか知識しかないもので、申し訳ありません。もっと知識や技量を磨き、再挑戦させていただきます。
 文章の書き方、ああ、視点がブレてましたか。なかなか自分の文章は冷静に見れないものですね。書き直させていただきます。
 プロローグのことは僕の悪い癖ですね…普段から説明が足りないと言われます。読者がどう思うか、を常に考えなくてはいけないのでしょうね。
 今回ご指摘いただいたところは三話の更新と同時に直させていただきます。細かい突っ込みをいただけるよう頑張りますよ(笑)
2014-03-22 18:53:41【☆☆☆☆☆】天野敬二
 修正したものを読ませていただきました。
 前回は自分の書きたいことを思うがままに書かれていましたが、今回は何とか修正しようとして迷走してしまっている印象を受けました。一度、完成度などは考えずに最後まで突っ走られた方が良かったと思うのですが、修正するなら修正するで良いと思います。つらつらと行間をよみますに、貴方は妖怪やら魔術やらが日常の裏側に潜む世界というのを書きたいのですよね。ならばそのイメージを具体的なシーンに落とし込むことをしてみるのがよいのではないかと思います。いわゆるプロットレベルまでのものを作るのはしんどいですから、「自分が書きたいこと」「読者にアピールするポイント」を書き出してシーンを構想するわけです。小説の書き方は人それぞれですので、何とも言えないというのが正直なところですが、物語のイメージを脳内に描くという行為は大体の物書きさんがやっていることなのではないかと思います。
 この小説ですと、テーマが前述の通りだとしますと、僕なら最大のアピールポイントをそのような世界観にすると思います。日常の裏側に潜む非日常、主人公は日常から非日常へといつしか足を踏み入れ、何かしらの「変身(仮面ライダーとかの変身ではない。さなぎが変態し成虫になるさまに似ている)」をする。そして魅力的な世界へ入ることを許された主人公が特別なのだということを読者に印象付けるかなと思います。したがって人物の配置もそれに適したものになる。主人公、主人公を非日常へと導く存在、そして変わっていく主人公を観測する存在、この三人は主要キャラクター。あくまで変わるのは主人公の力によるものであり、他人に助けられるだけになるのは極力避ける(なぜなら彼が主人公でなくなってしまうから)。物語の終着点は、変わり切った主人公を観測者に見せつける時になります。ここまでおおまかな骨組みを作って、あとは肉付けをしていく。大事なのは、非日常を知るのが人間サイドでは主人公オンリーであるということ。妖しくも美しいこの世界は主人公だけの宝物なのです。魔術側に属さない者は垣間見ることしかできないのです。ラノベなら非日常への案内人、および観測者(一般人)は萌え萌えでかわいいヒロインちゃんです。
 大人気WEB小説で現在電撃文庫より刊行され、アニメ化もされた『ソードアート・オンライン』の作者、川原礫は『アクセル・ワールド』という作品も書いています。『アクセル・ワールド』でも、現実では力のなかった主人公が非日常に触れて、少しずつ強くなっていくという構成を取っています(案内役がメインヒロイン、観測者がサブヒロインと言う構造)。世界は主人公たちだけのものであり、読者はこれに憧れるわけですね。この作品の非日常も、読者が歯ぎしりしてほしがるような魅力的なものにしてみれば面白いと思います。また『アクセル・ワールド』と同様に、この『魔術やら、妖怪やらの暗躍する世界が現実に影響を及ぼす』という構造をとり、最終的には成長した主人公が非日常がらみの問題を解決するというものを目標にするというのは、安易ではありますが、王道的なストーリーラインかと思います。巻き込まれて、助けられて、「進道君変わったよね」と噂されるだけでは足りない。助けれられてぬるま湯につかっているだけでだともっと足りないないわけです。
 以下細かい点を。改行したら一字空けてください。またクエスチョンマーク・エクスクラメーションマークのあとは一字空けてください。さらに、三点リーダーは二つ重ねて「……そういえば」のように使った方が良いです。リーダーだけで文が終わる場合は、四つ重ねて「…………」というようにしてください。また、日本最古の仏教説話集は『日本霊異記』です。ご確認ください。
 次回更新、頑張ってください。感想で指摘された箇所を直せなくていつまでも悩んでいるよりは多少大雑把に済ませちゃうのがいいかもです。全部を完璧に書くのは不可能ですので、どんなに短くても、中途半端でも、粗だらけでも良いから一度最後まで書ききれば、また新たな視点が得られるかもしれません。偉そうなことを色々書きました。ピンク色伯爵でした。
2014-04-26 02:52:39【☆☆☆☆☆】ピンク色伯爵
ピンク色男爵さん、非常に緻密で的確なアドバイス、ありがとうございます!
実はなかなか次が書き出せず、最初の方をいじっていたら、いつの間にか一ヶ月もかかってしまったんですよね(苦笑)
何が一番書きたかったかと言いますと、自分でもまだ、よく分かっていません。それは、それこそ一度最後まで書き切ってから分かることかもしれませんね。
それでも、こんなシーンが書きたい、と言うものはありました。
自分の書きたいものはあふれるほどあっても、それを表現するための組み立て方と言うものが、まだ習得できていなかったのかもしれません。
ですが、もうこうなったら自分を信じて突き進もうと思います!
遅筆なものでまた長い時間かかるかと思いますが、張り切って書かせていただきます。
付けたしのようになりますが、細かい点でやはり不備があったようですね、ご指摘ありがとうございます。次回更新に直させていただきます。
2014-04-28 22:36:37【☆☆☆☆☆】ゆったいり
 修正したものを読ませていただきました。
 む……。二話まで……。お話自体はあんまり進んでいませんね。どうやら続きを書くのに困っていらっしゃるようだ。焦らずゆっくりと書かれるのが良いと思いますが、完結させるのがあまりにも絶望的だと感じられましたら、さっさと伏線だけ回収して強引に終わらせてしまうのも手です。書きたいものを書きながら模索するというのは、自分の中に物語の大まかな流れ(起承転結・序破急)を作る感覚がかなりの高いレベルで要求されると思いますので、途中で多くの書き手さんが失踪してしまいます(ていうか僕も結構失踪しています)。『何が書きたいか』は『全体的な話の流れ』にかなり影響を与えるものだと個人的には考えています。もし続きに困っているなら、書きたいシーンというのを並べて、どうすれば最後まで物語を紡ぎ切れるかという全体的なビジョンを持つことをお勧めします。話を書くたびに全体的なビジョンを持つことが貴方の言う『自分の書きたいものはあふれるほどあっても、それを表現するための組み立て方』に直結すると思うのです。
 ここまで登場した問題要素って、進藤の家庭環境と銀髪の少女は誰? ってことだと思います。多分これじゃ最後まで書き切る要素が足りないんじゃないかなーと思います。物語だともう起承転結の承の辺りだと貴方は無意識にイメージされていそうなんですけど、個人的にはまだ転に行くには早すぎる感じで、多分まだ起の辺りなんじゃないかなと思うのです。そうすると最終的な文章の量が物凄いことになってしまいそうで、どこかで強引に物語の流れを捻じ曲げて物語を短く終わらすという工程が必要になるかもです。
 作品自体の感想としましても、まだお話が始まったばかりという印象で、感想らしい感想を書けません;(じゃあ何でレスした)何を書きたいかと言うのは、読み手がこの物語を読んで何を感じるかにも直結します。で、僕の読解力不足もあり、それが全くわからない状況なのですよね。世界観が書きたいのかというとそうでもない、みたいな。そういう時は素直に雰囲気を楽しむようにしているのですが、まだ雰囲気もこれからのような感じがしますし……。
 ともあれ、難しいことをあれこれ考えるより、書きたいことを書きたいように書けばよいのではないかと思います。やっぱりそれが創作の楽しみですよね。
 色々と偉そうなことを言いました。次回更新、頑張ってください。ピンク色伯爵でした。
2014-05-11 19:28:24【☆☆☆☆☆】ピンク色伯爵
[簡易感想]軽く読めてよかったです。
2014-05-30 04:08:37【☆☆☆☆☆】Andressa
[簡易感想]文句無しのおもしろさです。
2014-05-30 17:46:49【☆☆☆☆☆】Mmz
計:0点
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