『少年時代』作者:中島ゆうき / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角2420文字
容量4840 bytes
原稿用紙約6.05枚
子供の頃の話ぃ?そんなたいして、話すような、これっていう思い出なんてないで。

まぁ、うちは親父がほんまどぉしようもなかったから、オカン苦労して、んで俺ら三人兄弟も、揃ってできが悪かったから、迷惑もかけたしなぁ。

俺次男なんやけど、兄貴が親父の連れ子で、俺がオカンの連れ子。弟だけ、親父とオカンが籍入れてから生まれた。

俺んとこ兄弟、仲良いってわけちゃうけど、仲悪くもないな。まぁ、もう今はお互いいい年して、頻繁に会ったりはせぇへんけど。子供の頃は、家が貧乏で、身なりが汚いとか、親父が働いてないとか、オカンがホステスやってるとかで、いじめられたり、仲間外れにされたりしてたから。兄弟でつるむしかなかったんよな。近所でも、有名な家やったし。構ってくれる大人も、おらんかったなぁ。

常に食べるもん、金になるもん、探しとったわ。電話ボックスの中とか、自販機の下とか見て回って。万引きが犯罪やっていう意識が芽生えたのなんか、だいぶ遅かったわ。他の奴らはスリルを楽しんで、悪さ自慢のネタにしてたけど、俺らは生きる糧やったからな。やっていいことわるいこと、勉強する前に、腹が減ってた。

オカンは工場かなんかで、半分住み込みで働いて、夜はスナックで働いて、週末家帰ってきて、飯食わして金も置いていってくれんねんけど、親父が全部取っていくから意味なかった。オカンもだいぶ殴られてたな。


ある日、飲む打つ買うの糞親父が、打って負けて飲んで暴れて、椅子を放り投げたら、それが兄貴に当たってもうて。椅子の足の角で、スパッと額の真ん中が切れてもうたん。普段から殴られ慣れてる兄貴はこの時も、別に泣きもせず、額を手で押さえて黙っとった。でも、結構深く切れたみたいで、兄貴の顔と、首もとのシャツが、みるみる血で染まっていく。親父はそれを見ながら兄貴に向かって、「自業自得や」と吐き捨てるように言って、出て行った。入れ違いに弟が、いじめられた言うて泣いて帰って来た。膝擦りむいてて、ちょっと血が出てた。そしたら血だらけの兄貴が、自分の手のひらに、額から流れてくる血をためて、そこに唾垂らして、指で混ぜて、それを弟の膝に塗り込んだ。血だらけの兄貴を見ながら、弟はぽかんとしてたな。俺も、兄貴なにやってんねんって思って。兄貴は「消毒や」言うて。先月から水道は止まってて、確かに水は出えへんかったんやけどな。足りひんからお前も唾出せ、って言われて、俺も兄貴の手のひらに唾垂らしたよ。兄貴はそれを、今度は自分の額に塗っとったな。その後、当然病院にも行かず、消毒もせず、しばらくの間ティッシュペーパーあてて、ガムテープ貼っとったな。バイ菌入って化膿したりなんかして、傷塞がるのに時間かかってたな。兄貴の額には、今でもくっきり後が残ってる。一生傷やで。



男で生まれて良かったなぁって、しみじみ感じた時は、親父を殴った時。兄貴と俺は年子で、兄貴が十四、俺が十三になった頃。お決まりで、打って負けて飲んで帰ってきた親父が、家の中で暴れ始めた。今までずっと黙ってた兄弟三人の顔を順番に見て、殴られっぱなしやったオカンが、俺と兄貴の耳もとでぼそっと言うた、「もう今のあんたらやったら勝てるで」って。なんか、玉が弾けたように、俺と兄貴、二人がかりで親父のこと殴る蹴る。途中弟にも声かけて、弟も恐る恐る参加。素手は勿論、鍋やまな板で思いっきり殴ったった。オカンは、お茶飲みながら「もうそろそろ、終いにしとかんと、死によるからあかん」、その言葉で、俺ら兄弟我に帰った。夢中やったなぁ、あん時は。実に気持ち良かった。小さい頃からずっと、殴られて育ってきたから、親父イコール勝てへん、恐いって思ってしもてたけど、俺達の身体は貧乏でも順調に、男として成長してて、俺達が思ったより、親父は老いてたんよな。ほぼアル中みたいなもんやったし。



親父は、家の中で暴れられへんと分かってから、家にめっきり帰ってこなくなって、オカンと兄弟三人、生まれて初めて静かに暮らしたなぁ。二年後に親父が死んだ。真冬に泥酔して、道端で凍死。ショックとか悲しいとか嬉しいとかはなくて、泥酔するだけの金はどこにあったんやろうって、家族みんなの疑問やったわ。親父の遺骨をオカンが、半分を牛乳に溶いて飲んだ。それを見た弟が、骨なんて溶けへんやろ、って言って、砕いて
、ふりかけみたいに米にまぶして食べた。お前ら何でそんなん喰うねん、って俺が言うたら、オカンは「弔いや」って言うてたな。残りは捨てといてくれって。弟は、「好奇心や」って言うてたな。俺は、人差し指に、粉になったそれをちょっとだけ付けて、一舐めだけした。弔いの気持ちも、好奇心も、俺にはなかったなぁ。結局遺骨は全部、弟が喰った。元々、どれくらいの量が入ってたのか、俺は知らんけど、しばらくして覗いてみると、骨壺は空やった。空の骨壺に、兄貴だけが手をあわせ、線香あげてた。「空やと、俺、拝めるわ」とか、言ってたな。






兄貴は、箱ヘルの店員やってる。たまに金貸してくれってメール来るけど無視。弟は、傷害事件起こしてもうて服役中。たまぁに手紙が来るけど、返事書いてないわ。

オカン、半年前にガン見つかってさぁ、今年は持たんかもしれんって言われてるねん。さすがに親孝行のひとつも、考えなあかんな。最後ぐらいはな。





え?面白かったぁ?何が?この話の、どこに面白いところがあんねんな。え?骨?遺骨喰ったとこ?

一年ぐらい前からかなぁ。親父の骨壺で、オカン、アボカド育てとんねん。なんか結構でかなって、すっかり観葉植物みたいになってるで。オカン今入院中やら、俺がたまに水やってるし。めちゃくちゃ気が向いた時にだけ、線香刺したんねん。一本だけやけどな。


2013-10-29 08:17:40公開 / 作者:中島ゆうき
■この作品の著作権は中島ゆうきさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
この作品に対する感想 - 昇順
 こんにちは。
 中島さんっていつも不思議な作品を書かれますよねえ……。独特な雰囲気とか言い回しとか、嫌いじゃないです。作者からのメッセージには何も書かれませんし、コメント返しもそっけないので、どんな人なんだろうとめちゃめちゃ気になってます(笑) 作風としては、ここにたまに投稿されてる中村ケイタロウさんという人と似たようなところがあるかな、とちょっと思いました。ぜひお読みになってみてはいかがでしょうか。おすすめです。
2014-02-04 23:43:05【★★★★☆】ゆうら 佑
計:4点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。