『幼馴染と俺と縁切りの影』作者:リーフライ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
これは「幼馴染と猫とドッペルゲンガー」の続編です。前作を見てからこちらを見ていただけると楽しめると思います。 前作あらすじ多助の幼馴染である美月のドッペルゲンガーが現れた!?ドッペルゲンガーをどうにかしたいと神頼みをした神社で多助は琴花という猫の妖怪に出会う。琴花によればドッペルゲンガーの正体はカラスの妖怪、ぺんたちころおやし らしい。自由気ままな琴花の手を借りてぺんたちころおやしを追い詰めるが逃走、琴花はぺんたちころおやしを追いかけて去って行った。
全角11175.5文字
容量22351 bytes
原稿用紙約27.94枚
琴花がぺんたちころおやしを追いかけて行って数週間が過ぎた、琴花はどうしているだろうか。
私と多助はあれから少し変わった。
二人で出かける回数も増えたし、お互いの家に行く事も増えた。
明後日の土曜日には二人で琴花のいた神社の掃除をする予定。
かんかん照りの中鼻歌を歌いながら気まぐれに散歩をしていると綺麗な川を見つけた。
「……ちょうどいい」
あまりにも綺麗なので私は川の水をすくって顔を洗った、冷たくて気持ちいい。
「…………?」
何かが手に乗っている感触がした。
恐る恐る手をみるとそこには小さな蟹がいた。
「かわいい……いたっ!」
蟹に指を挟まれた、慌てて手を振り回すと蟹は川に飛んでいった。
「いたいー……」
指からは血が出ていた。






指を加えて家に帰る途中にそこそこ仲の良いクラスメイトにあった。
「あ、つきじゃん、ヤッホー」
クラスメイトが私に気づいて近づいてきた、私も手を振り返す。
「何してんの? 買い物?」
「散歩」
「散歩? 珍しい事するね」
「そうかな?」
「うん珍しい、てかつきって甘い物好きだった?」
「うん、好き」
「じゃあこれ貰ってくんない? バイト先で貰ったんだけど私の家族甘いもの苦手でさー」
「いいの! ありがとう」
「甘いもの大好きなのね、凄い食いつき」
「う、そうかな」
そういいながらクラスメイトから饅頭を貰おうとした瞬間私とクラスメイトの間になにか黒い影が通った。
「何触ってんの!!」
クラスメイトが饅頭を引っ込めながら私を睨む。
「え? どうしたの?」
「何よ、てかあんた誰よ」
「み……美月だけど」
「みつきぃ? わけわかんない」
もう一回私を睨んでクラスメイトは走り去っていった。
「…………?」
私は呆然と立ち尽くしていた。


家に帰ると母さんが料理を作っていた。
母さんとは最近少し話すようになった。
この件に関してはぺんたちころおやしに感謝している。
「……おかえり」
「ただいま」
「夕飯運んで」
「わかった」
私が夕飯を持とうとした瞬間私と母さんの間にまた黒い影が通った。
ガシャン
母さんが驚いた表情で私を見ている、落とした皿は完全に割れている。
「……どうしたの?」
「あなた誰よ!? なんでうちにいるの!!」
「えっ……」
母さんは顔を真っ青にしながら
「出て行って……通報しますよ」
「母さん?」
「出て行って!!」
叫ぶ母さんから逃げるように私は家を出た。
「美月ちゃんどうかした? 凄い声が聞こえたけど」
呆然としている私に声をかけてきたのは近所の仲の良いおじいさん。
「いえ……」
私があいまいに答えると
「なんか悪さでもしたか、追い出されたかー」
これはおじいさんのいつもの冗談だ。
「……いえ」
力なく答えた私に気づいたおじいさんは優しい顔になり
「悩み事か? とりあえずおじさんの家においで」
「……はい」
頷いた瞬間また黒い影が通った。
おじいさんは何事もないように家に向かって歩き出した、私もそれに続く。
「……ふう」
おじいさんの歩きがいつもより早い気がする、そう思った時におじいさんが私の方を向いた
「なんなんじゃあんたは」
「え?」
おじいさんは少し怒った顔で
「なんでついてくるんじゃ」
「だって家においでって」
嫌な予感がする
「家? 何を言ってる」
やめて
「大体お前……」
言わないで
「お前は誰じゃ?」
その言葉を聞いた瞬間、私は走り出した。





琴花がぺんたちころおやしを追いかけて行って数週間が過ぎた、琴花は気合を出してないのだろうか。
俺と美月の関係はあれから少し変わった……はずなんだけど。
「おかけになった番号は……」
美月が電話に出ない、メールの返信も無い。
時計は午後九時を指している、美月が寝るには早すぎる時間だが……
「まあそんな事もあるか」
明後日の予定を変更したかっのだが
「まあ明日でいっか」




あれから数人の人と話したが結果は同じだった。
しかしよく見てみると黒い影は横切ってるわけではなかった。
影はハサミのような形、相手と私の間に一瞬見える何かの線を切っていた。
そう、まるで縁を切るように。
「…………」
今私は公園にいる、もちろん一人で。
さっきから多助から何度もメールがきているが返信はしていない。
メールでも電話でも話すだけで縁を切られそうで怖い。
「多助……」
それでも多助に会いたいと思うのはわがままだろうか。
好きな歌手の歌が携帯から流れる、表示名は多助。
「…………」
私は携帯を手にとり、電源を消した。



「おかけになった番号は……」
「くそっ!」
翌日の昼になっても電話に出ない美月に会うために美月の家に行った。
玄関から出てきたのは美月の母さんだった。
「えーと……ああ、多助くんじゃない」
「どうも、その……美月はいますか?」
「美月? 誰かしら」
「なっ」
俺は走り出した。
ぺんたちころおやしのおかげで関係が良くなったんじゃないのか。
まさかよくなっても……

「美月!!」
公園にいた美月を見つけたのはそれから数時間後の事だった。
俺を見つけた美月は叫んだ。
「こないで!!」






「美月?」
多助が私に近づいてくる。
「やめて!」
「なんなんだよ、俺が何かしたのかよ!」
私の言葉を無視して多助が近づいてきた瞬間、私と多助の間に黒い影が…………
「やぁぁぁぁぁぁぁ!!」
私は叫んだ。




俺と美月の間に黒い影が見えた瞬間、美月が叫び声を上げた。
それと同時に謎の黒い影を謎の白い影が追い払った。
美月は下を向いて言葉無く泣いている美月に
「……美月、どうしたんだよ」
美月が俺を見る
「私が……わかるの?」
「……はあ? 美月は美月だろ」
「多助!!」
美月が飛びついてきた。
「多助……私……私……怖くて寂しくて……」
俺は黙って美月の頭を撫で続けた。

「……縁を切る影か」
美月の話を聞いた俺は正直安心した、母との仲は大丈夫だった。
「とりあえずうちにこい」
「……うん」



「ままー兄ちゃんが女連れ込んでるー」
「あらあら、多助も大胆になったわねー」
などとからかわれ赤面している美月と俺は部屋に入った。
「二人きりで部屋に入ったー」
「妹はほっとけよ」
「……うん」
それよりさっきから美月が俺の服から手を離さない、座りにくい。
「….…まあ座れよ」
「……うん」
座っても美月は俺の服を離さない。
「……で、どうする?」
「何が?」
「お前家に変えれねぇんだろ?」
「……ここじゃダメ?」
「…………」
美月が上目遣いで俺を見る、反則だ。
「わかった、とりあえずとまってけ」
「うん」

「わかったわ、今日は舞を多助の部屋に近づけないようにするわ」
母さんに話すと快く承諾、てか変な気まで使われた。
その後夕食で美月が質問攻めにあったり、妹が美月に妙に懐いたりと色々あって時刻は午後十一時だ。

「おやすみ」
「……いいの?」
「遠慮すな」
美月はベッドに俺は下にひいた布団にそれぞれ入った。



時刻は午前一時、全然寝れません。
美月は大体十一時半時頃に寝息をたてている。
これまで約三回美月が落ちてきそうになったが全力で止めた。
そんなアニメみたいな展開に俺の理性が保てる気がしない。
まあそんなわけで起きていた俺は美月の上に何か黒い影があった。
その影は何度も俺と美月の間にある何かの線を何度も切ろうとしては白い影に邪魔されている。
影をよく見てみるとそれは
「蟹……か?」
影は蟹の形をしていた、一方の白い影は今だ尻尾のような部分しか見えない。
「聞いてみる必要がありそうだな」
俺は呟いて眠りに……
「な……何回落ちかけるんだよ」つけなかった。



翌日、てか朝。
朝食を食べている時に俺は美月に聞いた。
「美月、最近蟹にあったりしたか?」
美月は少し考えて
「うん、挟まれた」
「そうか……」
「どうしたの?」
「いや、もしかしたらさ、ぺんたちころおやしと同じなんじゃないかと思って」
「どういう事?」
「ぺんたちころおやしにはカラスに襲われて憑かれた、なら今回は蟹の妖怪に憑かれたんじゃないか?」
「……蟹坊主とか?」
「蟹坊主かぁ……」
「ねぇ多助、今日って用事ある?」
「いや……ないな」
明日は家族で出かけるはずだったがパスだ。
「じゃあさ、一日早いけど神社の掃除に行かない?」
「いいよ、昼になったらいこうか」
「うん」

昼、俺と美月は音子神社にいた、琴花が治めている神社だ。
神社にはいつも通り猫が多い、神社はほとんど手入れされておらずなんとなく俺達は掃除しようと考えた。
「美月そっち頼むな」
「うん」
しばらく掃除をしているとチャラそうな男性が神社に入ってきた。
「…………」
「…………」
男性と目があう、何か睨まれてる?
「おい、あんた……あんたら誰だ」
男性は見た目通りの強い声で俺達に向かって睨みながら言った。
「……多助」
美月が俺の服を握る、美月はそうとう弱ってるようだ……
「誰だって聞いてんだ」
俺は少し考えて
「少しここには思い出があるので掃除をしようと思って……」
「……なんだ、そうか」
男性の顔が緩んだ、俺の肩をバシバシ叩きながら
「そりゃあすまねぇ、疑っちまって」
「……あの」
「ああ、俺はここの新しい管理人だ」
「そうなんですか」
美月が俺の後ろから出てきた
「ああ、親父が死んでから長いことたってんだけどよ、まあ色々あって放ったらかしになってこのザマだ、ありがたいや」
「……はあ」
そんなわけで三人で掃除を始めて数分後、美月が周りを見渡しながら
「猫、いなくなったね」
俺と男性も辺りを見渡す
「確かにいないな」
「おめぇら見てみろ一匹だけいるぞ」
男性が指差したのは屋根の上、俺が始めて琴花を見た場所に白い猫がいた。
「……琴花か?」
俺が呼びかけても白猫は反応しない、琴花に毛並みが似ているが違うようだ
「きんかって……なんか聞いた事あんだけどな……何だ?」
「えっと、ここにいる守り神みたいな奴です」
「守り神……ああ、思い出した、確かにここにいる猫神の名前は琴花とかいう猫又だったな」
そんな事を話していると近くにある納屋から何かが崩れ落ちたような凄まじい音が聞こえた。
「何だってんだぁ?」
俺達が納屋に入るといたのはさっきの白猫、口に一冊の本の栞部分をくわえている。
「てめぇかこの白猫」
男性が呟きながら散らばっている本の整理を始める。
手伝おうとした瞬間白猫が俺の肩に飛びのった、くわえていた本が俺の顔面に直撃する。
「いっつ……なんだよ」
本を持ったままジャンプとは猫は凄い
「にゃー」
猫は何度も俺の顔面に本を当てる
「やめい!」
俺は本を奪った、本の題名は
「妖怪談・蟹」
俺は本を開いた、そこには蟹坊主等の蟹にまつわる妖怪が書かれていた。
「笑み切り……」
本に書いてある妖怪、略称 笑み切り、真名 縁切り身切り。
「縁切り….…」
俺は猫の方を見た
「……あれ?」
白猫はいつの間にか姿を消していた。




縁切り身切り
その名の通り縁と身を切る妖怪である。
これは縁切り身切りから逃れられた人の談を元に書く。
縁切り身切りは
縁切り、まず精神を弱らせる。
身切り、身を切りさきその身をたべる。
精神を弱らせない事が肝心である。

「……ちょっと保ててないかな」
そう呟いた俺は美月を見た。
「さぼらないでよ多助ー」
「へいへーい」
縁切りにあってから美月が俺のそばから離れた事はない、絶対に見える場所にいる。
普段の美月ではないこと、それは精神も普段とは違う事をあらわす。
「どうするかな……」





掃除も終わり帰ることになった。
男性が箒を片づけながら俺と美月を見て
「ありがとよ……で、そちらの可愛いのはどちらさん?」
言われた瞬間美月は神社から泣きそうな顔をしながら走り去った。
そう、美月と男性の縁は繋がった瞬間に切られたんだ。
「美月!」
俺は美月を追いかける。
数分で美月に追いついた。
「美月……」
「……もう人に会いたくない」
「………とりあえず家に戻ろう」
美月はゆっくりと頷いた。

「蟹……縁切り……身切り」
疲れたのか寝てしまった美月の方を見る、蟹の影は見えない。
俺はパソコンで縁切り身切りの事を調べた、わかったのは夜に力が少し弱くなり見えるようになるって事だけだった。
「夜か……」
俺はその日の夜、美月を監視することにした。
夜の一時頃、美月の上に蟹があらわれた。
「…………」
俺は恐る恐る手を伸ばして……
「やっ!」
蟹の足を掴んだ。
その瞬間蟹の黒い影は無くなり蟹の姿が完全にあらわれた。
普通の蟹より明らかに長い足に特徴的なハサミ、右は小さく左は大きい。
わけのわからない音を発しながら蟹が突っ込んできた。
なんとか蟹を避けて無駄に長い足を掴んで窓から投げた。
蟹に重さはほとんど無く簡単に投げれた、しかし蟹は他の足で俺を掴んだ。
明らかに重い俺の方に蟹が来るかと思ったが違った、何故か俺が蟹に引っ張られる形となって蟹と俺は窓から落ちた。
「ぐっ……」
背中から叩きつけられて肺の空気が一気に無くなる。
動けずにいた俺の上に蟹がのった。
「…………」
声がでない、息をするのでやっとだ、重くないはずの蟹が重い、物理的な重さではなく凄まじい重圧がかかる。
「あ……ぐっ……」
蟹は俺の首に小さいハサミを近づけて来る。
身をよじるが状況は変わらない。
ハサミは首の横を切ろうとした、美月と俺の縁となる線を切ろうとしているのだ。
切ろうとするたびに白い影があらわれ蟹を止める。
蟹は諦めたのか大きいハサミで俺の左足を切った。
血はでない、傷もない、しかし激痛がはしる。
蟹は止まる事なくハサミを右足に向ける。
その瞬間に白い影が蟹を突き飛ばした。
月光に照らされて白い影が全体をあらわし白い影が無くなった。
「お前……」
そこにいたのは神社で俺に本を渡した白猫だった。
「ニャー」
猫は背中を伸ばして蟹を見た、蟹はひっくりかえってもがいている。
猫は狼の遠吠えのような体制で
「キュィィィィィ」
不思議な声を出した。
猫とは思えない声を出した白猫を恐れたのか蟹は消えてしまった。



翌日、俺はまだ痛みを伴う左足を引きずりながら図書館を歩いていた。
左足の事を美月に聞かれたが階段から落ちたと誤魔化した。
図書館で縁切り身切りについて調べたが何も見つからない。
てなわけでまた夜。

夜一時、蟹があらわれた。
俺は用意していたバットを蟹に向けて振り下ろす。
蟹はよけ、俺は振り下ろす、攻防が数回続いた後に蟹は美月の上に乗った。
「……….…」
硬直状態が数分続いた後あの白猫があらわれた。
「キュー」
昨日と違い蟹は動じない、それどころか敵対心丸出しで白猫に襲いかかった。
猫は華麗によけ続ける、蟹は諦めたのか俺に襲いかかってきた。
俺はよけ切れず次は右腕を切られた。
「がぁ……」
叫びかけて口を抑える、美月を起こしてはいけない。
そう考えてる隙に左足を切られた。
「……!?」
昨日とは比べものにならない激痛がはしった。
もはや声が出ない、痛みが止まらない。
「シュウウ」
蟹はよくわからない音を上げて消えていった。
「なんで……」
理由はすぐにわかった、美月が起きた。
「ん……多助?……多助!」
うずくまっている俺を見て美月が叫ぶ。
「どうしたの! 何が……」
美月にばれてしまったようだ。
「……やられちゃった」
「やられちゃったじゃない! 大丈夫じゃない!」
「……今は寝させてくれ」
「でも病院……」
俺は片足で立ち上がって
「やられたのは腕と足だ、病院には明日行く」
「…………」
少し間を開けて美月は俺をベッドに寝かせた。
「…………」
「…………あの」
俺の言葉に美月が首を傾げる
「眠りづらいのですが」
「……え?」
「いや、そんな見られても」
「だって私一度起きたら中々寝れないから」
「それは知ってるけどさ」
「おやすみ」
「…………」
一言で会話を終わらされた。

「……どうすりゃいいんだ」
起きた俺は部屋で呟いた、美月は椅子の上で寝ている。
蟹を倒す方法はわからない……どうしたものか……
「……多助、おはよー」
「おはようさん」
「……多助! 病院行かなきゃ!」
「大丈夫大丈夫」
「大丈夫じゃない!」
美月が腕を引っ張る
「いたいいたいいたいいたい」
「行く」
「行かん」
行っても無駄だろう、現に見た目に変化は無い、動くが痛みはある、どうせ湿布とかを出されて終わりだろう。
「じゃあ私が治療する」
「……いや大丈夫」
美月が俺の腕をつねる
「いたい! いたいいたい!」
美月が俺を睨み
「どこが大丈夫」
「……治療頼みます」
「じゃあ買ってくるから」
そう言って美月は部屋を出て行った。





「おや、一人なのかい?」
多助の家を出て少し歩いた所で後ろから声をかけられた。
警戒しながら振り向くと男性、音娘神社の新しい管理人さんがいた。
「さがしたぜ、渡里さん」
管理人さんは少し笑いながら言った。
「……なんで私の名を?」
管理人さんは言いにくそうに頭を掻きながら
「信じてもらえっかわかんないけどよ、猫に聞いたんだ」
「猫に……ですか、あの……」
「海斗だ、森岡海斗」
「森岡さんは猫と話せるんですか?」
何かおかしい
「あるていど、一定の猫とだけだがな、ところであの多助とか言う彼氏さんはどうした?」
「多助は家です」
何か……何か違和感を感じる
「そうか……まあいいか、この前は手伝いありがとよ」
違和感の正体がわかった
「森岡さん……私が手伝った事覚えてるんですか?」
森岡さんはニヤついて
「やっと気づいたか、その通りだ」
「え……」
「縁切り身切り」
森岡さんは私を見て呟くようにその名を言った
「笑み切りともいうな、始めに縁を切り最後は身を切る、蟹の妖怪」
「……どうして」
「取り憑かれてるんだろ?」
私は気づいた、この人は知ってる。
妖怪の事を、もしかしたら琴花やペンたちころおやしの事もこの人は知っている
森岡さんは続けて言った
「あの白猫の所に案内してくれ」
「白猫?」
森岡さんは少し考えて言った。
「多助君の所に案内してくれ」



「やっと会えたな、多助君」
薬局に行ったはずの美月は何故か音娘神社の管理人と一緒に帰ってきた
「え……あの」
管理人は戸惑う俺の腕と足を確認するように見て
「派手にやられたね、まあすぐに治るさ」
「え?」
腕と足に外傷は無いはず、なんでわかるんだ
「森岡海斗だ、君に……いや君に取り憑いている妖怪に会いに来た」
「取り憑いている……妖怪」
この人、森岡さんは妖怪を知ってるのか
「ああ、正確には取り憑いている妖怪の子分ってとこかな」
「あ、あの……妖怪について何か知ってるんですか」
森岡さんは周りを見渡して俺の上で何かを摘まむような動作をした。
「親父や爺ちゃんほどじゃあねぇけどここら辺の妖怪なら知ってるぜ、縁切り身切りに琴花、それにぺんたちころおやしの事もな」
森岡が摘まんだ所からあの白猫があらわれた
「こんな所にいたか白猫、探したぜ」
「あ、あの」
状況がわからない、美月も戸惑ってるようだ。
「ん? どうした」
「どうして俺を、その白猫を探していたんですか?」
森岡さんは白猫を離して
「そりゃあ手伝いに来たのさ、妖怪退治をな」
「妖怪……退治」
「そ、渡里さんに取り憑いている縁切り身切りを退治しに来た」



「森岡さんはなんで妖怪がわかるんですか?」
美月が用意したお茶を飲みながら話す
「んーなんつうかな、家系? 血筋ってやつかな」
「血筋ですか」
「そ、妖怪問題解決のスペシャリストにして音娘神社の管理人って感じかな、俺はまだまだ未熟だけどな」
茶菓子を白猫にあげたりしながら森岡さんは気楽に喋る一方美月は
「あ、あの、私に憑いてる妖怪も……どうにかできるんですか」
なんか緊張している、そういや軽くはなったが人見知りだった。
「まあそのために来たんだけどね」
俺は初めから抱いていた疑問をぶつけた
「森岡さんはなんで美月を助けてくれるんですか」
「そりゃあ目の前でその被害を見たのにほっとくのは後味悪いし」
森岡さんは茶菓子をたべて
「それにそれが俺の仕事でもあるからな」
美月が伺うように
「……じゃあ」
「金はとらねぇぜ、代わりに一ヶ月に一回神社の掃除でどうだ?」
俺と美月は同時に頷いた
それを見た森岡さんは手を叩いて
「じゃあ決行は今夜だ、多助君にも手伝ってもらうぜ、白猫は多助君に憑いてるからな」



「多助君も無茶するよなぁ」
美月が寝るのを待ってる間違う部屋で森岡さんは言った
「無茶……ですか?」
「そ、妖怪の対策もせずに生身でたたかうなんて俺にとっちゃあり得ない」
森岡さんは俺の横にいる白猫を指して
「そいつがいないとたぶん死んでたぜ、琴花のやろうに感謝しとくんだな」
「……やっぱりこの白猫は琴花が」
森岡さんは白猫を撫でながら
「そ、琴花が残してったやつだ、ところで琴花のやつ何処行ったんだ?」
「ああ、琴花はぺんたちころ」
森岡さんに止められた、縁切り身切りが出たようだ。
「取り憑くのをやめて貰おうか、縁切り身切りさんよ」
扉を開けた瞬間縁切り身切りは森岡さんに向かってハサミを突き出した。
「きかねっての」
森岡さんは縁切り身切りを虫でも払うように受け流した。
「……確かに縁切り身切りだな、多助君、質問いいかい」
森岡さんは白猫に目で合図をした、白猫が縁切り身切りの周りを音も無く駆け回る。
「渡里さんに縁を切りたいほど嫌いな人はいるかい?」
「……半年くらい前ならいたかもしれません」
半年前、美月の両親が離婚した時、美月は母親と縁を切りたいと思っていたかもしれない。
「半年前か……今は大丈夫なのか?」
俺は頷いた
「ぺんたちころおやしの影響もあって今は大丈夫です」
「なるほど、ぺんたちころおやしが憑いたなら大丈夫だろうな」
森岡さんは頭を掻いて
「ならメンタルケアの方法は無理か」
「え、じゃあどうすれば……」
「実力行使、こっちの力を見せつせて寄り付かなくする」
俺は近くに置いてあったバットを握る
「多助君は何も持たなくていいよ、猫さんよ使命果たしな!」
森岡さんはそう言って俺の背中を押した
「多助君はおとり役な、猫が守ってくれるから命は大丈夫だ」
「え……」
命は……足とかやられるんじゃねぇか!?
必死に避けたりする俺を他所に森岡さんは両端が尖った銀の棒を持っていたポーチから取り出して俺に見せて
「法具の独鈷ってんだ」
「そんなのいいから速くしてくれぇ」
あくまで小さい声で言う。
負傷してる状態のまま蟹に襲われてるこっちの身にもなって欲しい
「へいへいっと」
森岡さんは銀の棒を蟹の甲羅に向かって投げた。
蟹の甲羅が訳のわからない音を出しながら割れていく
「完璧だ、元の場所に帰りな、縁切り身切り」
森岡さんはまるで何かのついでのように軽々しく甲羅から銀の棒を抜いた、蟹は奇声のようなものを上げながら消えていった。
「疲れた、今日は泊まる」
「いいですけどこの部屋では寝かせませんよ」
「襲ったりしねぇよ」
「ともかくダメです、向かいの部屋にしてください、布団もありますし」
「りょうかーい」
森岡さんは気の無い返事をして隣の部屋に行った。





翌日の朝、親にばれないように森岡さんは外に出た。
「ところで二人とも学校はどうしてたんだ?」
「テスト休み……あ」
俺と美月は同時に声を上げた
「レポート……」
テスト休みと言えど休ましてくれないのが学校だ、宿題は普通に出ている。
「美月、今日の昼俺の家に集合」
「わかった」
「渡里さんよ、家族との仲は良好かい?」
美月は不思議そうな顔をして頷いて気づいたように俺を睨む
「縁切り身切りを倒す為に必要だったから」
「本当?」
「本当だから」
本当だからその怖い顔をやめてください。
「良好ならもう縁切り身切りが憑く事はほとんど無いだろ」
「そうなんですか?」
美月が視線を森岡さんに移す、助かった。
「ああ、妖怪ってのは誰にでも憑けるわけじゃねぇ」
森岡さんは咳払いをして
「例えばぺんたちころおやしなら親しくしたい人との仲が悪い人に、縁切り身切りのなら縁を切りたいほどの人ないる人にしか憑けない」
でも、と俺は切り出した
「ぺんたちころおやしはともかく縁切り身切りはわかりません、縁切り身切りに憑かれたとき美月は縁を切りたいとは思ってなかったはずです」
そう言って美月を見る、美月はすぐに頷いた。
「あーそれたまにあるんだよ、以前条件を満たしてから憑いてしまうって事が、運が悪かったな」
「運……ですか」
「ああ運だ、まあ」
森岡さんは白猫をちらっとみて
「その不運も意味があるのかもしれないがな」
美月は首を傾げて
「それは物事には全て意味があるって事ですか?」
「ま、そんな所だな」
森岡さんは白猫を抱き上げ後ろを向いて
「そら猫さんよ、ご主人のお帰りだ」
俺と美月は同時に顔を合わせる
「ご主人……って」
森岡さんがこっちを向いて言う
「そ、音娘神社に祀られし猫妖怪様のお帰りだ」
そう言って森岡さんが見た方向から猫耳を生やしたお調子者が笑顔で走って来た。
2013-09-29 17:42:56公開 / 作者:リーフライ
■この作品の著作権はリーフライさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ

これは「幼馴染と猫とドッペルゲンガー」の続編です。
琴花をメインヒロインにした第三弾「猫と俺と三途の神」も予定しております
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして、鋏屋と申します。御作読ませていただきました。
えっと……
これはある種の技法なのか、それとも知らないだけなのか、はたまた板を間違えたのか……
ちょっと判断がつきませんでした。
強いて言うなら、戯曲小説というのかな? でもまあ、最低字下げくらいはしましょうかw
これを小説と言うには、私にはちょっと抵抗があります。俗に言う携帯小説は小説とは思えないので。
このHPの最初にあります『最低限の小説の書き方』をよく読んでから投稿なされてはいかがかと。
鋏屋でした。
2013-09-30 21:40:50【☆☆☆☆☆】鋏屋
 こんにちは。
 ドラマや舞台の脚本に似た書き方をされていますね。もう少し地の文が多くてもよいと思います。どういう状況なのか読み取りづらいですので……。
 表記方法については、作文と同じですけど「段落の始めは一文字分あける」というのをするべきだと思います。また読みやすさを意識しているのかもしれませんが、一文ごとに改行されているのは少し不自然な気がします。
2013-10-01 20:59:49【☆☆☆☆☆】ゆうら 佑
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。