- 『運転士』作者：TAKE / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
- 夏っぽいものを書きました。
- 全角1982文字これはＪＲで働いている知人に聞いた話なんですがね。
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原稿用紙約4.96枚
人身事故で電車が止まる事ってよくあるでしょう。あーいう時って遅延の事ばかり気になって、轢かれた人の事を気にする人、あまりいないじゃないですか。
ある夏の夜、彼が運転していた電車が事故を起こしましてね。その被害者が自殺とかではなくて、酔っぱらってホームから転落したOLだったんですよ。歳は20代後半で、初めて大きな仕事を任された祝いに同僚と呑んだ帰りだったらしく、まさに志半ばの死だったんですね。
歳が近かった事もあって、彼は事故とはいえすごく大きな罪悪感を抱えましてね。しばらく休職する事にしたんですよ。
来る日も来る日も過ちを自責して、人と関わる事も少なくなりましてね、アパートとコンビニを往復するだけの日々が続きました。
数日経ったある日、彼がコンビニから帰ってくると、不思議な事が起こったんです。
些細な事なんですけども、部屋を出る時に付けっ放しにしておいたエアコンが止まっていたんですよ。確かにリモコンに触った覚えなんかは無いのに、変だな―と思ったんですが、スイッチを入れ直して、ご飯を食べた後に昼寝をしたんですね。
目が覚めると、またエアコンが切れていたんです。何だ、壊れてるのか？ なんて思いながらも、彼はまたスイッチを入れて、夕飯を食べ、その日はそれ以上何も起こらずに終わりました。
翌日、彼がまたいつものようにコンビニへ出かけた時に、途中で財布を忘れた事に気付いたんですね。
部屋へ戻って、昨日財布を置いていたあたりを探したんですが、全然見当たらないんです。おかしいなぁと思いながら他のところも見てみると、玄関脇の靴箱に置いてあったんですよ。財布を持った覚えなんて無いのになーと思いながらも、彼はまた出かけました。
それから部屋へ戻ると、またエアコンが切れていました。これはさすがに変だぞと思い、メーカーに問い合わせてみたんですね。しかしメーカーの方は、スリープモードにしなければ勝手に切れる事は無いといいます。修理に来てもらうのも面倒なので、彼は納得した事にして電話を切りました。
入れ替わりにＪＲの事務所からかかってきましてね、仕事にはいつ復帰するのかと訊かれました。彼は「整理がまだつかないので、もう少し時間を頂けますか」と言い、電話を切りました。
次の日から、いよいよおかしな事になりました。
彼がコンビニから帰ると、部屋が異様に暑いんです。あわててエアコンのリモコンを見ると、暖房に設定されていたんですね。これはたまらないと思い、彼はスイッチを切って窓を開けました。
次の日も同じ事が起こり、同じ事を繰り返しました。
もしかすると、事故の現場から被害者の霊を連れて帰ってしまったんじゃないかと考え、彼はネットで見つけた霊媒師の方に、部屋を見てもらったんですね。
「確かに女の人がいますね」と霊媒師は言いました。
自分を恨んでエアコンを弄っているのかと訊いてもらったところ、霊媒師は笑いながらその返答を聞いて、彼に伝えました。
「私は最初から恨んでなんかいません。私の為にずっと自分を責めて仕事を休んでいるあなたを見ていたくないので、エアコンを弄って部屋にいられなくしようと思った」そう言ったんだそうです。
財布が玄関に置かれていた事については、「忘れて困っているんじゃないかと思って」という、なんとも女性的な気遣いが感じられる答えでした。
こりゃーいつまでも休んではいられないなと思い、彼は次の日から仕事に復帰する事にしました。すると部屋では何も起こらなくなり、彼も罪悪感からは解放されました。
何週間か経ったある日、彼が電車を運転していると、突然運転室のドアについている窓が鳴り響きました。
ドンドンドン……ドンドンドンドン！
何事かと思い、彼はおそるおそる左側へ向きました。するとあの時轢いてしまったＯＬが、必死の形相で窓を外から叩いていたんです。
ドンドンドンドン、ドンドンドンドンドン！
ひいっと驚いた彼は、思わずハンドルから一瞬手を離してしまいました。そうすると電車というのは非常ブレーキがかかる仕組みになっていましてね、急激に速度を落としました。と同時に、彼女も姿を消したんです。
次の停車駅のすぐ手前で完全に停止した直後に、本部から無線で連絡が来ました。「何があった？」と訊かれたらどう返答すればいいのかと考えあぐねていると、無線からは全く違う言葉が聞こえてきました。
ホームで転落事故が発生した為、そのまま一旦停車して待機願います。……よく見えましたね？
同じ過ちを起こさないように、彼女はずっと見守っていたんでしょうねぇ。 - 2013-08-03 03:16:29公開 / 作者：TAKE
■この作品の著作権はTAKEさんにあります。無断転載は禁止です。 - ■作者からのメッセージ
ベタベタな話を、稲川淳二を意識したベタベタな語り口で書いてみました。
全然怖くないですが、こんな感じに気遣いの出来る霊がいてもいいんじゃないかと思います。
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いやいや、寝苦しい夏の夜に、結構な話を読ませていただきました。
狸は稲川淳二さんが公に怪談話を始めた最初の頃から大ファンなんですが、稲川さんの語りをそのまんまテキストに起こした場合、なかなか読みにくい代物になります。あくまで話芸だからですね。ところがこのショートは、まんま稲川さんの語りとして通用しそうな体裁を備えながら、文章としても実に達者に流れている。一見無個性に見えながら、なんじゃやら、口語体文芸の天分をひしひしと感じます。
で、あわててＴＡＫＥ様の過去作をここで検索したところ――。
まず『ルチアーノ』、これにも舌を巻きました。海外ノンフィクション・ネタの読み物としては、庄司浅水先生（狸は年寄りです）もかくやと思われる達者な筆致。
『３０秒の奇跡』、これも鮮やかで、阿刀田高先生が作家デビューする前の、ショート・ショートっぽいコラムのようだ。
そして『HOLLYWOOD JOB』は――ごめんなさい、これは続きを読まないとなんともいえませんね。
ともあれ、あ、これはもしや若き実力派の萌芽に立ち会いつつあるのか、などと期待しつつ、次作をお待ちします。
2013-08-04 02:41:25【★★★★☆】バニラダヌキバニラダヌキさん>ありがとうございます。
他の作品も見て頂けたようで、恐縮です。
以前ラジオで稲川淳二が会談を話す時のコツというものを言っていまして、擬音の使い方や感情の出し方などをレクチャーしていました。それを踏まえて文章に落とし込んでみたんですが、成功したようでよかったです。
一気に書かないとやる気やアイデアが薄れてしまう質なので、長編が苦手ですね。なのでHOLLYWOOD JOBは未完のままです。申し訳ありません。似たようなテイストのものですと、2009年の9/5に「JOHN SMITH」というプリズンものを投稿しています。よろしければご一読下さい。2013-08-04 15:07:34【☆☆☆☆☆】TAKE初めまして。
先ず拝読して直ぐに、今、自分が書いているＳＳに被っているので、戸惑いました。しかもよく出来ている。参りました。この、語り口とホラー的って部分。なので、まともな感想ではないかもしれませんが、読ませて頂いたので感想を。
一言、面白いと思いました。稲川サン的語りかけも、怖くない内容も、個人的に好きです。
ただ、ＳＳなので恐らくもう一捻りあった方が読者受けすると思います。もっと怖がらせておいて実は怖くない、いい幽霊だったっていう落ち、とか。
簡単に書いてますけどそれが描ければ苦労しないんですが、分かった上で書いてます。すみません。
私、この幽霊さん好きだなって。優しい幽霊、間抜けな幽霊ってのが好みだったり。
最後にどうでもいい事かもしれませんが気になった部分を。【来る日も来る日も過ちを自責して、人と関わる事も少なくなりまして……】とあるのに対しそのすぐ後に、【数日経ったある日】となっているのは時間軸が狂っていないかなと。休職してしばらく（感覚としては一週間以上程度）経っているのに、数日経った……では２、３〜４日、私の感覚がおかしいのかもしれませんが、少し引っかかりました。
どうでもいい事ばかり書いて済みません。書き慣れているのか、読み易く面白かったです。2013-08-04 17:17:44【★★★★☆】蜻蛉こんにちは。おもしろかったです。最後の擬音のくだりが、どきどきさせられますね。ぼくは稲川さんのファンというわけではありませんが、あの語り口調はいやでも印象に残ってます。
ちょっと気になったのは無線から聞こえてきた言葉です。「よく見えましたね？」と言うならその前の状況連絡はおかしくないだろうか、と思います。少し丁寧・冷静すぎないだろうかと。マニュアルでこう言うようになっているのかな……？ そのせいかどうかはわかりませんが、意味をとるのにちょっと時間がかかってしまいました。2013-08-06 00:56:54【☆☆☆☆☆】ゆうら 佑初めまして、神夜と申します。
読ませて頂きました。
全体を見ても素直に綺麗にまとまっていると思います。ただひとつ思うのが、蜻蛉さんの感想にもありましたが、「ただ、ＳＳなので恐らくもう一捻りあった方が読者受けすると思います」というこの言葉。これで自分の言いたいことがすべて完結してしまっている。何も言えないのが残念でならない。碌なことが言えずにすみません。2013-08-06 19:28:40【☆☆☆☆☆】神夜こんばんは。確かかなり以前に、感想を書かせていただいたことがあるように思いますので、はじめましてではないと思います。
落ち話としては確かにさほどのインパクトはないのかも知れませんが、僕はもう単純に「ドンドンドン」のところでびびってしまいましたので、ホラーとしては十分怖かったです。電車の人身ってただでさえ怖いんですよね…。2013-08-17 23:02:17【☆☆☆☆☆】天野橋立計：8点 - お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。