『目撃者』作者:スピンナ / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
ある夜、佐藤は公園でもめている二人の男を目撃する。
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原稿用紙約2.22枚
 雲の切れ間から満月が顔を出す。
 コンビニの袋を揺らしながら、佐藤はひとけのない道を歩いていた。会社からの帰宅の途中である。
仕事は順調だった。大きな契約を結び、来月には結婚も控えている。まさに順風満帆という感じだ。 
 公園の横を通り過ぎようとしたとき、佐藤はふと足を止めた。二人の男がもめあっている。
ひとりは、中年の男で、紺のスーツを着ている。もうひとりは、革ジャンにジーパンである。
おいおい喧嘩かよ、と、立ち去ろうとすると、やがてスーツの男が崩れ落ちた。
「あっ」
 革ジャンの男の手もとを見て佐藤は思わず声を上げた。
握られていたそれは、月明かりを浴びて、怪しく光っている。ナイフだ。
しばし呆然としていた革ジャンの男だが、視線に気づいたのかこちらを振り向き、目があった。
 一瞬の静寂が流れる。鼓動が高鳴り、心拍数が上昇するのが分かった。
初めて好きになったこと、偶然にも席替えで、となりの席になった時にも同じものを感じたが、シュチュエーションは随分違う。
 予感がした。逃げなければいけない。
男はこちらに数歩、歩みを進めて、やがて走り出した。
佐藤はコンビニの袋をその場に落とし、走り出す。
 水分を失った喉の奥が張り付くのを感じる。気持ちは前に出ているが、足はイメージに追いつかない。日頃の運動不足を呪った。
徐々に距離は縮まり、高架下で追いつかれる。
 正面から両肩を掴まれ、「違うんだ、違うんだ」と、男が連呼する。
「何が違うんだ、私には関係ない」
 手をはねのけるとナイフは地面に落ちた。なおも、つかまりかかってくる男に押し倒される。
佐藤は、それをはねのけ、立ち上がろうとする。手元にナイフが転がっていた。
思わず拾う。次の瞬間には男の腹につき刺さしていた。
力なく男が崩れ落ちる。手には、生々しい感覚が残っている。
 ふと視線を感じた。
そちらを向くと、ひとりの男が立っている。
やがて、男は尻餅を一度ついて、走り去っていく。
 佐藤の頭には、ただ、彼を追うことしか思い浮かばなかった。
2013-01-31 15:56:24公開 / 作者:スピンナ
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この作品に対する感想 - 昇順
スピンナ様、はじめまして。も、から始まる格ゲーマーともうします。御作拝読させて頂きました。
ループモノですね。エッセンスを抽出し、上手く纏めてあると思います。ただ、佐藤氏のドキドキ感を示す一文が浮いています。というか、この心情は書く必要性があったのかな? とおこがましくも思ったり。
でも、雰囲気は出ていると思いました。次作も楽しみにしております
2013-02-04 12:46:04【☆☆☆☆☆】も、から始まる格ゲーマー
読んでいただいてありがとうございます。次も頑張ります。
2013-02-05 18:55:35【☆☆☆☆☆】スピンナ
計:0点
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