『村おこし』作者:スピンナ / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
過疎化により、直になくなってしまう村があった。柳田は何とか村を残そうと策をねるが……。
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 庭のもみじはすっかり紅く色付いている。
柳田は、縁側に座り、しばしその景色に見とれていた。
「柳田さん、お呼でしょうか」
 やって来たのは岡崎だ。岡崎は副村長であり、実質的なことは役場の仕事は岡崎に任されていた。
「あぁ、わざわざすまないね」
「とんでもございません」
「まぁ、かけなさい」
「はい」
岡崎は、柳田の横に腰を下ろした。
「それで、用事というのは」
「うん」
 柳田は庭に視線を移し、
「美しいと思わんか」
「はぁ……」
 岡崎は、要領をえない。
「この風景だよ。春、夏、秋、冬と、それぞれの四季を楽しむことができる。邪魔する様な雑踏もない。都会ではこうはいかん」
「は、はい、私もそう思います」
「私はね、この村を愛しているんだ。この自然を愛しているんだ。失いたくない。村のみんなを集めてくれ」
「はい」

 まもなく、柳田の家に村人たちが集まってきた。
柳田が口を開く。
「今日集まってもらったのはほかでもない。国は地方のことなど何も考えてない。道路や、ダムみたいな、自分の権威を証明できるものに力を入れても、こんな小さな村が消えようと、どうでもいいんだ。このままでは直にこの村はなくなってしまうだろう。何かいい考えはないか?」
 村人たちは、みな顔を見合わせた。
「そうは言ってもな」
「これといって自慢できるものもないしな」
 と、首をかしげる。
「あの、こんなのはどうでしょう」
 ひとりが手を上げた。酒屋の浅香である。
「でも、子供騙しかもしれませんが」
「いいから、言ってみなさい」
 柳田が急かす。
「それでは……」
 浅香の考えはあまりに突飛なものだった。

「それで、その生き物はどんな格好をしていたんですか」
 アナウンサーがマイクを向ける。
未確認生物が出たとの噂を聞いて、テレビ局がやってきたのだった。
「目が三つあった」
「足が六本あってものすごい速さで走るんだ」
「鋭い牙をはやしとった。ここを噛まれたんじゃ」
 村人は口々に思いついた嘘を言った。
 そうして村は一躍有名となった。

 しばらく経ったある夜。
時刻は午前二時すぎ。
柳田は物音で目を覚ました。庭の方である。
布団を出て障子を開ける。
縁側に出て木戸に耳を押し当てると、やはり庭から何か聞こえてくる。
戸を少し開けて、外を覗いた柳田は、目を丸くした。
そこには、目が三つあり、足が六本、鋭い牙をはやした、奇っ怪な生き物がいた。
2013-04-04 10:44:17公開 / 作者:スピンナ
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この作品に対する感想 - 昇順
こんにちわ、読ませて頂きました。
短くて何ともなのですが、これを序章にしてこれから物語が展開されていくのなら面白そうだなぁと思います。お笑いという要素としては「柳田さん特に策とか練ってないよね?w」という感じでした。
2013-01-12 00:01:40【☆☆☆☆☆】シン
読んでいただいて本当にありがとうございます。
2013-01-16 19:52:05【☆☆☆☆☆】スピンナ
村おこしのために嘘をついた結果、村は有名になったが、
ありもしない空想の産物が、本当になってしまうというオチ。
「目が三つあり、足が六本、鋭い牙をはやした、奇っ怪な生き物がいた。」
その後は、書かなくても想像できる。
村の人たちは、襲われてしまったということです。
つまり、適当に嘘をつくと、最終的には、その嘘に食い殺されるということが言いたかったのです。
2013-04-04 10:43:29【☆☆☆☆☆】スピンナ
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