『また会おう、クリスマス』作者:ピンク色伯爵 / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
五年後、彼らは再会を果たした。
全角14875文字
容量29750 bytes
原稿用紙約37.19枚


 フミヤが空を見上げると、宝石のような白雪が宙を舞っていた。
「あ……。雪だ……。雪が降ってきた」
 やや無感動に言うフミヤの横を、長い黒髪が軽やかに駆けていく。くすくす、とこぼれた笑い声が耳朶をくすぐる。白いコートの女の子は、フミヤの前でくるりとターン。それから上目づかいの視線を送ってくる。
「な、なんだよ、レイカ」
 雪に反応するなんて子供っぽかっただろうかと後悔しながらそう口にすると、女の子――レイカは切れ長の瞳を和ませてまた可笑しそうに笑った。
「ううん。もっと子供っぽく言って良かったのになって思っただけだよ。そんな一本調子で『あ、雪だ』なんて言われたら、なんかシュールでさ」
 フミヤはくすくす笑いを続ける彼女に眉と肩を下げた。こうして久々に屈託のない笑顔を向ける彼女を見れただけでも、こうして寒い屋外に繰り出した甲斐はあった。
 駅前の広場は段々と人口密度が上がってきていた。フミヤ達の入る自販機周辺にも待ち合わせをしている男性女性がそれぞれ身だしなみをチェックしている。少し離れたモール街の方からは風に乗ってジングルベルが聞こえてきていた。もう少し――あと五時間もしないうちに、聖なる夜がやってくるのだ。
「……俺達、付き合っているんだよな。信じられないことに」
 ふとそう漏らすと、レイカは形の良い唇を尖らせてふくれ面を作って見せた。
「最後の一言は余計。不思議でも何でもないよ。時間の待ち合わせもしていないのに、お互いタイムラグなしにここにやってきたんだよ? シンクロ率100パーセントだ。予め待ち合わせしているのに、踵を地面に着けたり上げたりして時間を潰してる人たちよりは、ずっとカップルにふさわしいと思う」
「――それは、」
 お互い、家に居場所がなかったからで。そう言おうとして、人差指で唇を塞がれた。その人差し指を自分の口元に当てながら、レイカは妖しくほほ笑んだ。
「それは言わない約束だよ。兄貴」
 兄貴。
 その言葉を口にされると何も言えなくなってしまう。自分達が今している事が、とても後ろめたくて、まるで茨の上を歩いているように痛みによろめいておぼつかなくなるから。自分たちは今、社会的に禁じられた遊びを、皆に隠れてこっそりやっているのだから。
「兄貴……」
 レイカの唇が艶めく。彼女の切れ長の瞳が情欲に蕩けるのを感じて思わず息を飲んだ。黒いタイツに包まれた、すらりとした足がつま先立ちになる。目の前には自分に似たところのある、それでいて、とても綺麗な顔。熟れた果実のように光沢を放つ彼女の唇が近づいてくる。これは楽園の果実だ。口にしてはいけない。何故なら、それを口にすれば至上の快楽を知ってしまうから。もっと欲しいと思ってしまうから。
 黒く落ちても構わない。せめてこの女の子への気持ちだけは、この雪のように白く誠実でありたいと願ってしまうから。
 口にしては――駄目だ。
 駄目なのだ――。


クリスマス企画参加作品『また会おう、クリスマス』





 レイカは頭が良かった。確か、彼女が高校に上がる頃には兄の学力を抜いてしまっていたと思う。フミヤの方の成績が高校で一年留年してしまうほどお粗末なものだったから、当然と言えば当然かもしれない。
 留年していよいよあとが無くなった兄にレイカがしたことは、週に三度勉強会を開こうというものだった。勉強は大嫌いだったが、妹に教えられるという異常な事態に、それなりに危機感を持ってペンを走らせていたと思う(おかげで二年目にしてほとんどの試験で平均点以上を取れるようになった)。何度か国語で満点を取ったこともあった。そんな時、レイカはきりりと伸ばした背筋をさらに反らせて、「えらいぞ、兄貴」と頭を撫でてくれるのだった。
 十一月一日。その日、父・トモゾウが珍しく早く帰ってきた。
「はい、はい、はい。遅れの主な原因は委託会社の変更を行ったことです。赤字を直すための指針変更で……。はい、はい……。すみません」
 夜十一時頃、家族そろっての夕食の席でトモゾウの声が部屋にダイニングに響いている。父の電話の受け答えに、母・サチとフミヤ、レイカの立てる食器の音が合いの手を入れる。
「ごちそうさま……」
 レイカが味気のない挨拶をして、食器を流しに戻し、さっさとダイニングを後にする。そんな彼女の背中を見て、サチはフミヤに顔を近づけた。
「レイカちゃん、どうしたの?」
「さあ?」
 冷凍食品の餃子をかじりながらフミヤは首を傾げる。「自分で聞けばいいじゃないか、母さん」
「そうしたいのは山々なんだけどね。お父さんが全部食べ終わったあと、食器片付けないといけないし」
「そのあとは?」
 尋ねると、サチはぺろりと舌を出してウィンクした。
「狩り仲間とモンスター狩りに行く約束してるの。今経験値一.五倍期間中だし、昨日課金したばかりだからタイムボーナスも付くの」
「さいですか。ネットゲームもほどほどにね。まあ俺も一年前まではハマってた手前、あんまり強くは言えないけどさ」
「分かってる、分かってる」
 全く分かっていない母の言葉を聞きながら席を立つ。ダイニングを出る時には父の営業用の笑い声が背中を追って来ていた。
 入浴は既に済ませていたので、そのまま階段を上り自室へ。まだ食べたものが腹に溜まっているのですぐにベッドに入るのは得策ではないだろう。少し勉強でもするか――フミヤは軽く伸びをしながら自室のドアを開けた。
「お帰り、兄貴」
 ……ドアを開けてまず視界に飛び込んできたのは、フミヤのベッドの上で膝を抱えているレイカの姿だった。一旦部屋に戻ってからわざわざ来たらしく、部屋着からパジャマに着替えている。レイカは赤い縁の眼鏡を少し下にずらして「まあ、座れよ、兄貴」と言って自分の隣をポンポンと叩いた。
 当然、レイカのいるベッドからは離れた椅子に座る。いくら血のつながった妹とは言え、ブラも着けずにパジャマを着ている女性の隣に座ることはできない。というか、彼女だからこそ駄目だ。少し前まではサンタをリアルで信じているような子だった(四年前に彼女の枕元にプレゼントを置こうとして捕獲され、サンタがフミヤだったことがばれてしまった)のに、今となっては高校で副生徒会長をしながら学年トップの成績を維持し、彼女にしたい女性ランキング校内一位の座を獲得する才媛になってしまった。あまりに美しく成長しすぎたのだ。そんな彼女の隣に――しかもベッドの上に座るのは――何かと問題がある気がした。
「何しに来たんだよ。子供はもう寝る時間だぞ」
 ぶっきらぼうに言って見せると、レイカは白い歯を見せた。
「私たちは一つしか歳が違わないじゃないか。私が子供なら、兄貴も子供だよ。――兄貴は何をそんなに焦っているんだ? 私は、ただの妹だぞ」
 ずらした眼鏡の上から、からかうような視線が送られてくる。フミヤは肩をすくめた。
「用件を言えよ。帰れとは言わないから」
「昨日、告白された」
「……誰に?」
「兄貴の知っている人。一つ上の先輩で、東応大学に推薦が決まっている人」
 ――あいつか……。
 一年留年したとは言え、かつての同学年の情報に関しては、それなりに色々耳に入ってくる。レイカの言う相手は、元サッカー部の部長で、成績優秀な奴だった。顔も何とかという男性アイドル似で、女子から結構モテている。
「友達が言うには、こんなチャンス滅多にないって。イケメンで、将来は八割がた約束されていて、しかも女性に優しいらしい。付き合ったらお似合いのカップルになるだろうねって言われた」
 フミヤはのどを鳴らした。
「でも、あいつは来年東京だろ? そんな遠距離恋愛続くわけない。向こうに行ったら綺麗な女の子はたくさんいるわけで。えっと、新宿? 銀座だっけか? リア充の街って。あ、歌舞伎町か」
「兄貴の東京イメージが間違っていることは良く分かったよ」
 レイカがため息をつく。フミヤは身を乗り出した。
「もしかして、相談って言うのは……」
「返事、どうしたらいい?」
 間髪いれずに返ってきた。フミヤとしても、間髪いれずに「そんなの自分で考えろ」と返したいところだったけれども、何故か言葉が出て来なかった。フミヤが口をもごもごさせていると、レイカがぽつぽつと言葉を紡ぎ始めた。
「友達は皆良い子だ。でも、良くも悪くも普通の子なんだ。自分がしたいようにすればいいよ、なんて陳腐な言葉を吐く子もいれば、打算的な意見を述べる子もいる。試しに一回付き合ってみればいいんじゃないかって言う子もいて……」
「そんなの……自分で考えることだろ。俺には、関係ない」
 やっと絞り出した言葉は、やはり月並みなものだった。レイカは専門書に挑むときのような鋭い視線をフミヤに向ける。
「本当に?」
「本当に? って。俺にどういう答えを期待してるんだよ」
「別に。ただ――兄貴は、その、なんていうか、今までずっと、私の相談相手だったから、どう思っているのかな、って」
「相談相手としては、好きにしろとしか言えないな。断るにせよ、受けるにせよ、先延ばしにするにせよ、結局判断するのは本人。良い相談相手なら判断材料を提供できたかもだが、所詮俺じゃレイカのためになることは言えないよ。そもそも――誰かを好きになったことなんてないしな」
「――そっか。ありがとう。参考になったよ」
「参考も何も、俺は一般論しか言ってないけど……」
「いや、充分さ。邪魔して悪かったな」
 レイカは反動をつけてベッドから軽やかに立ち上がると、フミヤに向かって笑顔を作った。自身の使っているシャンプーと同じ香りがふわりと漂ってきて、思わず顔を背ける。レイカは俯き加減で呟いた。
「おやすみ、兄貴」
 レイカはそれだけ残して出て行った。ドアが閉められて、部屋に静寂が広がる。トントンと廊下の方からレイカの足音が聞こえて、しばらくしてドアが閉められる気配がした。彼女も部屋に戻ったらしい。
「くそ……」
 訳も無く学習机に拳を落とす。机の上に乗っていたペンやら消しゴムやらが、ビクンと痙攣するように跳ねた。
「くそ……なんなんだよ……」
 いつの頃からか抱くようになってしまっていたこの気持ち。息苦しくて、もどかしくて、でもどうにもならなくて。でも、それは間違っていることだ。抱いてはいけない感情だ。
 フミヤは首を横に振って椅子から立ち上がった。こういうときはさっさと寝てしまうに限る。

   ×               ×               ×

 次の日からレイカはその東応大推薦男と付き合うことになった。当然学校ではそのことで話題は持ちきりだった。
 校内一の才媛が東応大男と付き合う――いよいよ彼女が雲の上の存在になってしまったと感じる。学校中の生徒から二人はお似合いのカップルだともてはやされていた。片や学年トップの成績を持ち黒髪に制服と黒タイツを纏った美少女、片や東応大推薦が決まった勝ち組男。男の方は少しチャライイメージがあったけど、何だかんだでレイカも楽しそうだったので、これでもいいかと思えてはいた。ただ、小さなとげのようなものは心のどこかに刺さっていて、偶にじくじくと自己主張していた。
 週に三回あった彼女との勉強会は取り止めになった。彼氏ができたと言うのに、兄の勉強に時間を使わせるべきではないと思ったから、頼んで止めてもらうことにしたのだ。もとから勉強は一人するもの。妹に助けてもらうこと自体が間違っていたのだ。そのことを伝えると、レイカは「そっか」とだけ言って、以来フミヤの部屋には来なくなった。
 寂しさや後悔がないと言えば嘘になる。だけれども、ここは分岐点だ。正しく生きるための分かれ道である。
 十一月二十日。
 その日もフミヤは完全下校時刻の鐘とともに職員室をあとにした。授業の疑問点についてとことん教師に聞いてまわり、辟易されながらも、ようやく理解して帰る――それが放課後の儀式になっていた。勉強会が無くなったせいで成績が落ちたのではレイカに申し訳が立たない。彼女の力なしに結果を示せて初めて、彼女との因縁を断つことができるのである。
 門が閉まる前に校門を出ようと、昇降口に駆け足で降りる。げた箱でスマートホンに何気なく電源を入れて、画面の右上のメールマークが点滅していることに気がついた。
「新着メール一件? 誰だよ……」
 頭の中は先程叩きこんだ数式でいっぱいだと言うのに、タイミングの悪いメールである。若干の苛立ちとともにメールボックスを開き――瞬間、フミヤは瞠目した。
 差出人はレイカ。メールは画像が一枚添付されているだけだった。ただ、タイトルに全てが凝縮されていた。
『たすけて』
 気がついた時には足が地を蹴っていた。画像は薄暗い古い教室を内部から撮ったものだ。直感する――山の方にある今は使われなくなって久しい旧校舎だ!
 旧校舎まで全力疾走。メールは十分前に出されたものだ。彼女が本当に助けを求めているなら、間に合うかどうかの瀬戸際だろう。旧校舎に辿り着くや否や、昇降口になだれ込み、靴も脱がずに階段を駆け上がった。窓に木の枝が映っているから撮影された教室は二階か三階の雑木林側。枝の細さと多さからして多分三階だ。
 一気に三階まで駆けあがると、奥の方から水を流す音が聞こえてきた。旧家庭科室と書かれた教室からだ。焦燥感に駆られながら教室の前まで行くと、中には一人の女子生徒が嗚咽を漏らしながらスカートを洗っていた。
「レイカ!」
 大きな声をあげて教室内になだれ込む。レイカは水に濡れた体をびくりと震わせると、フミヤの方に振り向き、くしゃりと顔を歪めた。
「お――」
 彼女の体がぐらりとよろめく。
「おにい、ちゃあああああんっ!!!」
 慌てて彼女を支えようと足を踏み出す。同時に細くて白い腕がフミヤの胴に巻き付いた。女性のものとは思えないほど強い力がこもっていた。彼女の細い体のどこにこんな力が眠っていたと言うのだろうか。決して放すまい――彼女の必死なハグは、ひな鳥が親鳥にしがみつく様を連想させた。
 フミヤは驚きながらも、レイカを抱きしめて頭を撫でるほかできなかった。
 やがて泣き止んだ彼女を介抱しながら校内から抜け出し、国道沿いでタクシーを拾って自宅に帰った。タクシー代が七千円もかかって(二千円しか持ち合わせが無かった)、冷や冷やしたが、足りない分はレイカが払ってくれた。タクシー料金が足りないことを彼女に告げた時、彼女が一瞬気の抜けたような顔になってくれたのが、唯一の救いだった。

  ×              ×              ×

 タクシーから降りて、ほうほうのていで自宅のドアを開ける。玄関でへたり込んでしまった彼女を風呂場まで連れて行き、フミヤは自室に戻ることにした。しばらく待っていると、控え目なノックの音のあと、部屋着に着替えた彼女が入ってきた。ドライヤーで満足に髪を乾かしていないのか、濡れた髪が頬に張り付いている。それが何だか色っぽくて、フミヤは目を逸らせた。
「恥ずかしいところを見せちゃったな、兄貴」
 ベッドに腰掛けていたフミヤの横にぽふりと腰を下ろしながら、彼女はそう言った。
「そんなことはいい。それより、大丈夫か? その――」
「舐められたけど、大丈夫。傷はないよ」
 舐められた。
 その一言にカッと頭が沸騰する。自分のものとは思えないほど獰猛な唸り声がのどの奥から出てくる。
「……相手は、お前の『彼氏』さんか?」
「止めて。彼は悪く無いんだ」
 思わず立ち上がりかけるフミヤの服の袖をレイカがキュッと掴む。
「でも、このままじゃ終われないだろ。まずは学校に報告して、それから俺があいつを一発殴りに行く」
「私が誘ったんだ!」
 レイカは震える声で懇願するように告白した。「私が、彼の下心に気付きながら、ほいほい旧校舎なんかに付いていったんだ。あれじゃ、誤解されても仕方ない。それで、その段になって、思わず彼を拒絶してしまった。むしろショックを受けているのは彼の方だろう」
 彼は悪く無い、ともう一度繰り返す。言葉を紡ぐ彼女の両目には涙さえ浮かんでいた。
「……分かったよ。とりあえず、冷静になろう」
 そう言ってフミヤは向かいの椅子に座ろうとベッドから足を下ろした。
「待って」
 再び袖を掴まれる。「お願い。横にいて。お願い……。――お兄ちゃん」
「っ」
 体に電流が走る。甘いうずきだった。理性は駄目だと警告を鳴らしている。しかし、彼女の風呂上がりの香りにつられるかのように、フミヤは再びレイカの横に腰を下ろしてしまった。これは高価な誤りだ。もう引き返せないかもしれない……。
 それから日が暮れて真っ暗な部屋の中を、二人は何をするでもなくぼんやりと過ごした。冷たい月光が部屋に差し込んできて、我に帰ったときには八時半だった。スマホの新着メールを見ると、サチから今日は遅くなる旨のメールが届いていた。ネトゲ仲間とオフ会に参加しに行ったらしいが、渋滞に巻き込まれてしまったらしい。トモゾウはと言うと帰ってくるのは土日のみで、おそらく今日は家には帰ってこない。
 ――つまり、こいつと二人きり……。
 ベッドでダルマが転んだような体勢でスマホをいじっているレイカを見て自然とのどが動く。こんな微妙な雰囲気の中で? 夜中までずっと? 
「お、おい、レイカ、晩飯どうする?」
 微妙な空気を誤魔化すため、とりあえず声をかけてみた。すると小さく即答が返ってきた。
「要らない」
「それじゃ体に悪いだろ。俺が作ってくるよ」
 これで妹と離れられる――そう思ってそそくさとベッドから立ち上がる。と、またもやキュッと袖を掴まれた。
「おいレイカ」
「分かった。じゃあ、私も作る。一緒に作ろ?」
「……」
 何も言い返せなかった。

    ×              ×             ×

 異様な料理タイムだった。お互い一言も言葉を発せず、黙々と料理を作る。料理はフミヤもレイカもある程度のものは作れた。サチの冷凍食品攻撃に最初に根をあげたレイカが、手料理を学び、それをフミヤに教えたからである。
 何を作り、どちらが調理を担当するのか。そんなことすら話をせず、しかし作業は驚くほど効率よく進んだ。どちらかがどちらかに合わせているわけではない。ただ、気の赴くままに作っていると、気がつけばテーブルの上には和食のおかずが二人分並んでいた。そのままどちらともなく席について、いただきますと合掌したのちに、気もそぞろに平らげる。皿まできちんと洗って、二人とも無言でフミヤの部屋に戻った。
「あのさ、俺、風呂入ってくるから」
「……」
「付いてくるなよな」
「……」
 フミヤはため息をついてクローゼットを開ける。一番下の引き出しから黒いボクサーパンツを取り出した。
「……兄貴。そんなパンツ履いてるんだ……」
「なっ……」
 思わず振り返ると、レイカがこちらを凝視していた。
「見るなよ」
「ごめんなさい」
 しおらしく謝る彼女にそれ以上は何も言えず、フミヤは部屋を後にした。脱衣所に入ったところで、まさか入浴中に彼女が入って来ないよな、と危惧したが、結局杞憂に終わった。風呂からあがると手早く服を身につける。ドライヤーはめんどくさいので割愛することにした。
 部屋に戻ってみると、アルコールの甘い臭いが充満していた。
「あー、兄貴お帰りー。ヒック」
 唖然としていると、ベッドの上でカルピスサワーを煽っていた彼女が乾杯でもするかのように缶を持ち上げる。フミヤは濡れた頭をがしがしと掻いた。
「お帰りー、じゃねえよ! おまっ、何飲んでんだ! 何飲んでんだ!!」
「んー、ジュースだよ。でもちょっと苦いかな」
 レイカはそう言ってまた缶を傾ける。彼女の口の端から白い液体が筋を作り、形の良い顎へと至って白いむき出しの腿の上に滴り落ちた。
「あ、馬鹿!」
 フミヤは慌てて肩にかけていたタオルを彼女の腿に置いた。レイカは白い缶を両手で持って、ぼんやりとフミヤの顔を眺めていた。
「ああ、もう、口から零れてんじゃねえか、みっともない」
 ユウヤはレイカの口元の白い筋に指を伸ばした。
「……」
「おいレイカ、急に黙るなよ」
「……」
 ぺちゃ、と生温かいものが人差し指に触れた。そして次の瞬間には、フミヤの親指と人差し指は彼女の桜色の唇に咥えられていた。ちゅ、じゅ……と粘つく音を立てて、舌が蠢く。
「おい! 駄目だ! レイカ!」
 指に力を込める。彼女の口内を傷つけないように指を引き抜いたあと、ユウヤはふらふらと後ずさった。やがてがたんと音がして尻が学習机に当たった。
「兄貴……。私……。私……っ」
 口の端から涎を垂らしたレイカが、ふらふらとゾンビのような足取りで詰め寄ってくる。アルコールの甘い香りが近づいてくる。フミヤはのどを震わせた。
「こんなこと、許されない。間違っている……」
「どうして?」
 返ってきたレイカの声は驚くほど理性的だった。見ると蕩けた瞳の奥に、確かに理性の光がある。彼女はもう一度訊いた。「どうして間違っているんだ?」
「ほ……法律で禁じられている」
「結婚は法律違反だ。でも性交渉事態は違法でも何でもない」
「こ……子供できたらどうすんだよ!」
「気をつけていれば大丈夫だろう。もっとも回数を重ねれば確率は上がるが、その頃には二人とも就職している。一人くらい問題ない」
「せ、生物学的に、畸形児が……」
 レイカはくすりと妖しく笑った。妹の艶めかしい笑みにフミヤは腰が抜けそうになった。レイカがフミヤの耳元に唇を寄せる。
「フミヤは本当に馬鹿だな。じゃあいとこ同士の結婚は問題になっているかい?」
「い、いとこは禁じられていない」
「だけど無問題なわけは無い。遺伝子が似ている場合もあって、そのときはとても危険だ。兄妹以上に危険なケースだってある。だのにいとこ婚は認められている。これは不公平じゃないか。遺伝的な問題なんてどこにでも転がっているものさ。それよりも、昔の社会を考えてごらんよ。ほら、この前教えてやっただろう? 昔は近親相姦なんて普通にあったんだ。人は遺伝的に近い者に惹かれる傾向にある。私たちは自然なんだ。間違っているのは――社会の方だ」
「んっ」
 無造作に唇が押し付けられる。フミヤは戦慄した。
「止めろッ!!」
 パン、と乾いた音が部屋に響き渡る。レイカの体は軽々と吹き飛び、ベッドの上に飛び込んで跳ねた。ユウヤは荒い息を繰り返しながらその場に崩れ落ちた。
「レイカ、お前は疲れているんだ。今日あんなこともあったし……。人肌が恋しいのは分かるけど、今のお前は自分を見失っている。悪いことは言わないから今日は自室に帰って――」
「私は自分を見失ってなどいないッ!」
 血を吐くような叫び声だった。きーんと響くような反響のあと、彼女はもう一度低く繰り返した。「私は、自分を見失ってなどいない」
「レイカ……」
「昔からずっと好きだった。昔からフミヤは私の味方で、ずっと支えてくれていた。一緒にいて、別段会話が無くても不思議と安心できたし、むしろ居心地が良かった。何をするにしても考え方は似ていて、すごく共感を持てた。フミヤの事はこの地球上の誰よりもよく知っている。理解してる。それに……フミヤだって満更でもないくせに! 知っているんだぞ。私のあと脱衣所に入って、私の下着を見て大きくさせていたこと。私の耳の裏の臭いを嗅いで息を荒くしていたことを。隙あらば私の事を目で追っていたことを」
「や……止めろ!」
「いいや止めない! フミヤ、自分で言うのもなんだが、私は最高の女だぞ。顔は人それぞれ好みがあるだろうが、私の顔は千人に聞いたら九百人は絶対に美人と答えるくらいには整っている。スタイルだってそこらの女には負けない。気は回る方だと思うし、フミヤのためなら奴隷のように盲目に働く。でもお前を堕落させることはない。尽くしながらお前を最高の男に育て上げて見せる。料理はフミヤよりは下手だけど、掃除や洗濯は私の方がうまい。テストで百点取りたいなら付きっきりで教えてやる」
「…………」
「なんでもする。なんでもするから……」
 そこから先は言葉にはならずに意味のない音の羅列だった。言葉は音になり、やがて啜り泣きになった。兄のベッドの上で小鹿のように震えるレイカ。フミヤは心が揺らぐのを感じた。
 いつだって二人だった。昔からずっと。何をするにしても隣には彼女が居てくれたし、ずっと味方でいてくれた。どんな時だってだ。そんな彼女はフミヤの最大の理解者と言って良いだろう。でもだからと言って、社会的な倫理を踏みにじって良いわけは無い。いくら魅力的でも、間違っているものは間違っている。
 ――でも、この気持ちは間違っているのか?
 心の奥で誰かが囁く。純粋に彼女を愛している。それは混じり気のない真実だ。真実を、間違っていると無理やり向こうへ押しやるのか? それこそ非倫理的だ。好きだ。だから一緒にいたい。それでは駄目なのか?
 ――正直になれよ。フミヤ。
「俺は……」
 間違っている。そんなのは分かっている。想いが純粋でも、これは社会的に認められるものではない。だけど――。
『昔からずっと好きだった』
 彼女は、純粋にフミヤを思ってくれていた。思えば苦しい時はいつだって助けてくれたし、寄り添ってくれていた。こんなどうしようもない自分をどうにかしようと頑張ってくれた。そして、何より、彼女と一緒に過ごす時間は、とても楽しかった。
 ――ちくしょう。間違っているから、何なんだ。
 ここで自分が踏みとどまっていていいのか。もう、内面はとっくの昔に一線を越えている。ここで誤魔化すのは今さらだし、勇気を振り絞って告白をした彼女に対する冒涜にもなる。
 ――これは許されないことだ。
 だけど――。
 この雪のように白い女の子に対して、不義理は犯せない。泣かせてはいけない。
 フミヤはゆっくりと身を起こすと、震えているレイカの体をそっと包み込んだ。「え?」と彼女が気の抜けたような声を漏らす。
「俺は、レイカの事が好きだ」
 言いきった。言ってはならない事を言いきってしまった。あとには引き返せない、追放の言葉を口にしてしまった。
「わ、私もフミヤの事が好きだ! 世界中で一番好きだ! 先輩と付き合ったのは、一時の気の迷いと言うか、フミヤにちょっとカッとなって……」
「謝らなくていい。分かっているつもりだ」
 それからレイカの顔を真正面から見つめ、一気に唇を奪った。





「……3、2、1、メリークリスマス!」
「ん。メリークリスマス」
 特に目的も無く街をさまよっているといつの間にやら日を跨いでしまっていた。日付の変わる十分前にもう一度駅の広場に戻ってきてカウントダウン。少し早いお正月気分を味わうことができた。
「私達、結局ふらふらしているだけだったな。どこの店にも入らず、どこか行きたい場所があるわけでもなく。気がつけば街を一周だ」
「そうだな」
「でも、クリスマスの空気はめいっぱい味わうことができた!」
「だな」
「良いクリスマス、だったな」
「うん」
「フミヤ。歩かないか? 学校に行きたい」
「奇遇だな、俺もだ」
 フミヤがそう答えると、レイカは愉快気に笑った。
 駅から学校まではそう遠くはない。だいたい歩いて十分くらいの距離にあるのだ。途中陸橋の階段に滑って転びそうになったり、学校前の坂道が凍っていてなかなか登れないというハプニングも起きたが、二人にとっては全て楽しいアトラクションだった。坂道を登り切り、校門の裏手に周り、グラウンドに忍び込むと、レイカは「うわあ」と歓声をあげた。グラウンドには新雪が降り積もっていた。一面真っ白だ。明日には野球部の連中に踏み荒らされてしまうだろうことが残念になるくらい、見事な雪原だった。
「白い世界だ。この雪原においては、私たちは異物だな。こうして――」
 レイカは右足をずらした。白い雪原に小さな足跡が出来る。「――雪原を荒らしている」
「でも、踏み荒らさずにはいられない」
 フミヤは目を閉じて答えた。するとレイカがふぅ、と白い息を吐いた。
「母さんたち、もう気が付いているだろうな。私たちの関係に」
「……」
 フミヤは目を伏せた。サチは今でこそネットゲーム中毒者だが、もとは勘の良い賢い女性だ。毎晩のようにレイカの部屋の電気だけ消えてフミヤの部屋の電気だけ点いていることに疑問を感じていることだろう。それに、最近の二人の異常なまでの仲の良さにもだ。
 気付いているのはサチだけではないだろう。今日と言う日はもちろん、下校時にも途中から手を繋いで帰ったりしていたのだ。同じ通学路の学生ならもしかしたら何人かに見つかっているかもしれないし、学校でも逢瀬の瞬間が覗き見されているかもしれない。壁に耳あり障子に目あり。関係を隠すには高校生の持てるコミュニティはあまりにオープンに過ぎた。
「フミヤはあと何日でばれると思う?」
 レイカが当てものでもするかのように気軽に尋ねてくる。
「まあ、今の調子でやっていると、来月にはまず家族会議だろうな。親父は例によって不在だろうけど」
「なるほどね。私は今日で終わりだと思っている」
「今日? 何でだ?」
「さっき、私たちが腕組んで歩いているところをクラスの女子に見られてた。明日には噂になっているだろう。そしたらもう、公然といちゃいちゃはできない。愛を貫き通すのもいいが、社会的に抹殺されては貫くに貫けない」
「そうか……」
 分かっていたことではあったけれども、現実を再確認すると辛いものがあった。
「そこで、私たちは策を講じなくてはならない。このままでは粛清されてしまうのだから。私には一つプランがある。フミヤにも策はあるんじゃないかと思う」
「……」
 葉の枯れ落ちた並木道に風が通り抜けた。風は軽い雪を巻き上げ、グラウンドに向きつけた。フミヤは氷の粒が頬に当たるのを感じた。
 レイカは手を後ろに回して、白い息を吐いた。

「フミヤ、別れよう」

「……お前は、それでいいのか?」
 レイカはそれには答えずに踵を返した。グラウンドから並木道に上がり、順路に従ってぽつぽつと歩く。フミヤもそのあとに従った。並木道の終着点は学校名物の噴水だ。今は節電のため水は噴き出してはいないが、プールの水はなみなみと水面を揺らしていた。冷たい風に断続的に煽られているからだろう。
「噴水は止めるのに自販機は二十四時間稼働って、なんか抜けているよな。頭隠して尻隠さずっていうか」
 フミヤがそう言うとレイカは寒そうに手をこすり合わせた。フミヤはコーヒーでも買ってくると言い残してその場を後にした。自販機は噴水から少し離れた位置にある。洋風な外観の図書館の裏手に、ひっそりと備え付けられているのだ。何でも、のどの渇いた寮監が使用するためにずっと置いてあるという話しである(ことの真偽は別にしてだ)。自販機までの道中はできるだけゆっくり歩く。今日のこの逃避行が終われば、おそらく彼女との関係も終わってしまうから。兄と妹という普通の関係に戻ってしまうだろうから。だから、恋人であるこの時間をできるだけ長く過ごしていたいから。フミヤは片道五十メートルもない道のりをたっぷり三分もかけて歩いた。図書館横の竹林が白い雪をかぶってなかなか風情がある。あの竹が風に揺られて全ての雪がふるい落とされるときはどんなに綺麗だろうと想像しながら、カフェ・オレを二人分買った。それからまた元来た道をたっぷり時間をかけて帰る。
 そうして噴水の見えるところまで戻って来て、不意にばしゃばしゃと水の跳ねる音を聞いた。
「え?」
 思わず間抜けな声を出してしまう。何とレイカが噴水のプールに着衣のまま身を浸していた。寒さを感じていないかのように、まるで真夏であるかのように水を蹴って見せる。
「ばっ――。お前馬鹿か! 何してんだよ!」
「あ、フミヤ、お帰り」
 寒さにかちかちと歯を鳴らしながらレイカが呑気な声をあげる。フミヤはカフェ・オレを取り落とすと、噴水からレイカを引っ張り出した。
「お帰りじゃないだろ! 一体全体何やってんだよ! 風邪引いたらどうするつもりだ!? ていうかこんなびしょぬれじゃバスにも乗れねえし、タクシーだって乗せてくんねえぞ!」
「ははは。ごめんよ。でもね、フミヤ――」
 レイカはフミヤの腕の隙間から猫のようにするりと抜け出し、両手を広げてその場でくるくると回って見せた。風が吹き、粉雪をまき散らしながら、彼女の舞いを幻想的なものにさせる。氷の華が煌めく中、彼女は狂い咲きの桜のように笑顔を浮かべた。

「これでもう、帰れない」

「レイカ……」
「水に濡れて死にそうな私を、フミヤは家に連れ帰ることができない。とりあえず国道沿いを歩いて、コンビニで下着を買って、そこからずっと歩いてラブホに入る。そこで風邪をひいた私を、フミヤは最寄りの病院に連れて行くんだ。いつしかクリスマスは終わっていて、だけど私たちの逃避行は終わらない。私たちはどちらからともなくこう口にする『もうちょっとだけ続けようか』って」
「お前がこんなんじゃ今日の散歩は今すぐにでも中止だ。お前をおぶって帰る。ちょっと失礼するぞ」
 フミヤはレイカを強引に引き寄せると反動をつけて背中にしょいこんだ。
「帰ろう。それから戻るんだ」
 兄妹である俺達に。
「嫌だ!」
 レイカは叫んだ。「嫌だ! 戻りたくない! ずっと……ずっとこのままでいたい!」
「レイカ!」
 彼女の金切り声に負けないようにフミヤは叫んだ。どら声は並木道に大きく反響する。
「……五年後だ!」
「え?」
 ユウヤは歯を食いしばった。彼女のコートを伝って生温かい水がじんわりと浸透してくる。

「五年後、また会おう! この日、この場所で!」

「五年後……」
「そうだ。それまで、お互い関係を続けられるだけの地位と富とを用意しておくんだ。大丈夫、五年後だから俺たちはまだ二十二歳だ。まだ十分若いぜ!」
「フミヤ、五年も待てない。アホ」
 レイカがフミヤの肩に回した手をキュッと絞めた。フミヤはレイカを背負って一歩を踏み出す。
「俺は待つ。五年なんてあっという間だ。俺の見込んだ妹もそれくらいの年月を待てない人間じゃないはずだ。大学行って、勉強して、就職して、備えるんだ」
「俺の見込んだって……。はあぁぁぁ……、ほんっと、馬鹿フミヤは馬鹿でしょうがないな。そんな安易な言葉で慰めになっているとでも?」
「慰めとか建前なんかじゃない。俺は本気だ」
 フミヤがそう言いきると、レイカはずっしりと体重を預けてきた。耳元に温かい息が当たる。
「……いいよ。乗った」
「それでこそお前だ」
 二人して顔を見合わせ、にんまりと笑い合う。そう、これは社会に対するゲリラ的リベンジだ。しばらくは地中に潜り、機をうかがう。力が溜まれば、地下にささやかな帝国を築いてやる。法律がなんだ。倫理がなんだ。何より優先させるべきは、この白い願いだ。
 五年間の戦いが始まる。辛いこともあるだろうけれども、その先に見えるのは自由と言う光だ。

 ――これは俺の。
 ――これは私の。

 戦いだ。生きていたら、五年後。

「また会おう、クリスマス」




                       了
2012-12-25 23:08:52公開 / 作者:ピンク色伯爵
■この作品の著作権はピンク色伯爵さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
間に合った! 読んでいただきありがとうございました。メリークリスマス!
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ぐわあ、伯爵め、ぎりぎりで間に合わせやがった!
と言うわけで12時5分前、そろそろ寝るかと思いつつちょっとここをのぞいたら、この作品が投稿されているのを発見。クリスマス担当として、見つけた以上は読まねばならぬ。
結局、5分で全部読んで感想書くのは無理でしたが、まあまだクリスマスの夜のうちってことで。

良く書けていると思いました。今年はお休みのようですが、猫さんの「聖夜」シリーズを思い出しました…っていうのは、この二人のラブラブぶりがあまりに甘くて(兄妹という禁断の愛で、当人たちが必死であるが故に余計に)、砂糖の塊を食べているような「ぐわあ」という感じ(二回目だな、ぐわあ)になってしまい、その感じが「聖夜」を読んだときに近い感じがしたんですね。
二人の会話や行動が良く書けているだけに、読んでて恥ずかしくて落ち着かないというか、「もうやめてくれー」と思ってしまいました(指くわえる場面とか、もうね)。
うん、でもこの甘ったるい落ちつかなさ、それもやはりある意味クリスマスらしいかな、と納得です。きっとあちこちで、男女のさまざまなドラマが繰り広げられていたのでしょうし。
それでは、伯爵のクリスマスがメリーでありましたように。
2012-12-26 00:30:47【☆☆☆☆☆】天野橋立
 天野様。感想ありがとうございました。
 まさかこんなに早く感想をいただけるとは思ってもいませんでした。時間ギリギリの投稿になってしまって、クリスマス気分も何もあったものではないでしょうが、読んでいただけてほっとしています。もうちょっと早く書き始めていればよかったです。
 近親間での恋愛を書いてみようと思い立ったのは、大学で研究している最中でした。なんで兄妹で結婚しちゃいけないんだろうと疑問に思ったのです。よく聞く話が遺伝的な問題があって……というものですが、どうやら安易に遺伝の一言で済ませられない事情があるようです。なかなか興味深いものです。
 話は戻りまして、近親物を書こうとプロット起こしたわけですが最初から嫌な予感がしていました。
「あれ? これってポルノにしかならねえんじゃね?」
 実際書いてみると人間関係の広がりがなくて、物語を展開し辛かったです。恋のライバルにクラスの女子を出したり、東応大男に名前をつけて登場させたりしていましたが、長くなる一方で書くところは兄妹の純粋な愛という一点なわけですから、マンネリ化してしまうんですよね。結果全削除。起承転結もなくひたすらいちゃつくことにしました。難しいです。最近ラノベでも妹系のものが増えてきているみたいで(姉系は少ない)、ああ言うのを読んでいると、この作者は本当にすごいなと思います(だからと言って『妹系ラノベ』をお勧めすることは決してできませんが)。
 指をくわえるシーンは書いている途中で電流が走って追加したものです。今読み返してみて、自分でもドン引きしています。黒歴史決定ですね! しかしこの内なる変態性がある限り、創作意欲は消えないと断言できます。逆に言うと、僕がノーマルになったときが物書きをやめるときです、はい。
 読んでいただきありがとうございました。クリスマスはメリーじゃなかったからこんな話を書いちゃったんですよ!w
2012-12-26 01:36:36【☆☆☆☆☆】ピンク色伯爵
拝読しました。水芭蕉猫ですにゃん。
あまっあまと聞いて飛びつかぬわけにはいかぬのにゃんにゃかにゃん。甘い、甘いぞ甘すぎる!! 二人のラブラブ具合が甘い!! ところどころでニヤニヤしてしまいそうになっちゃったですよ。特にこの妹ちゃんの男前なところが凄いね。この子なら野郎の他に同級の女の子にも告白されていそうだとつい勘ぐりたくなるくらい男前でした。フミヤ少年は……うん(おい)でも最後のオチは気に入った。彼も十分男前! いずれ来る時間にどうなっているのか非常に楽しみです。企業家になってそうなイメージがありますよ(笑)クリスマスの甘さと切なさが心地よく、これぞまさにイチゴとクリームのケーキのようでした。甘くて甘くて、でもちょっと(苦)酸っぱい感じがたまりません。
面白かったです。
2012-12-27 23:07:24【★★★★☆】水芭蕉猫
 水芭蕉猫様。
 感想ありがとうございました。
 そうか、レイカは男前なのですか。まさかそんな感想をいただけるとは思っていませんでした。書いている時は「こいつ駄目かわいいなあ」と苦笑していたんですが、そうですか、かっこいいのか。レイカの人物像は、僕の中ではあくまで「フミヤの女」だったわけですが、紙面にしてみると、そうではなくなっていたみたいです。これは僕がキャラクターではなく人間を描けるようになったということなのか……。いや、思い上がりは禁物だ。精進します。
 でも同性から告白されているだろうことは僕も考えていました。生徒副会長してて、スポーツ万能、成績優秀、眉目秀麗でさっぱりした感じなら、まあ、モテるだろうと。もしかしたら、僕のこういう考察が文章に出たのかもしれません。
 ふう。この際難しいことは考えないようにしましょう。楽しんでいただけて何よりです。あまあまです。砂糖の塊を読者に向かって「このっ! このぉっ!」って投てきしてます。若干自暴自棄も入っていました。来年はこういうクリスマスになっていればいいですね(遠い目)。あ、近親相姦は無しで、普通に彼女作ってです。
 企業家……ありえる未来です。企業家になって、色々なしがらみが生じても、想いは変わらず、二人が末永く幸せに暮らせればよいですね。
 読んでいただきありがとうございました。
2012-12-29 12:22:07【☆☆☆☆☆】ピンク色伯爵
 どうもです、作品読ませていただきました。何を最初に思ったかというと「クリスマスなんてなくなればいいのに」という非常に平和的なことでした。マヤ文明とやらも気遣いってもんができない。もう……。
 さて、自分の愚痴は置いておくとして、物語の感想をちまちまと。
 いや非常に申し訳ないことに、たぶん物語の大半の意味をなくしてしまうことになるとは分かっていても、自分はこの作品のレイカとフミヤは兄と妹なんかの関係じゃないと思いたい。いやなんか……そう思いたくない。悲しいし、なにより個人的に受け付けない。近親相姦は……あかん。
 いやでももしそうなら二人は誰の目も気にせず交際できるぜやっほい! とハッピーエンド。
 どうなんでしょうね。本気で好きなら周りの目なんて気にしてんじゃねぇよ、抱きしめ合えリア充ども!そしてはぜろ!とも思うんです。だって五年経とうとが、権力持とうが、きっと周りの目はかわりません。変わるとすればそれはきっと二人の心の方だし。五年くらいでかわるのならそういうことと割り切るための試験期間については長すぎる気もします。レイカちゃんが「待てない」と泣くのはよく分かる。17からの5年とかもう過ぎてみればどうってことないけど、いざこれかとなるとそらもう長い長い。
 フミヤくんが個人的にちょっと好きになれなかったんですよねえ。いや、悪いとかそうじゃなくて、この彼のいざとならないと行動できない性格がなんというか……じれったい。ああもうって思っちゃう。そこが彼という人間のいい味を出していたんですけどね。
 大してレイカちゃんはいいっすね。大好きです、兄を捨てて自分のところへ嫁に来てください。さばさばした性格がかっこいいし、そのくせいざとなると弱くなっちゃうのがまた守ってあげたくなる。
 ああ、いま感想書いてて気づきましたけど「いざという時じゃないと動けない兄」と「いざというときは動けない妹」なんです。なるほど。そう考えるとすごくお似合いですね。
 なんか、ちょっとしんみりとしたラストになってますが、自分が言えることは一言。
 5年後の話し、読みたいです。では。
2012-12-30 04:06:59【☆☆☆☆☆】コーヒーCUP
 コーヒーCUP様。
 感想ありがとうございました。
 レイカとフミヤが兄妹でなかったら……。多分二人がお互いを意識することはなかったんじゃないかと思います。だから何も始まらないうちに物語が終わってしまう――そんな気がします。レイカはフミヤが兄だったから好きになったのです。フミヤもレイカが妹だったから想いに答えたのです。二人が兄妹として寄り添っていたときの思い出があるから、二人で助け合って生きてきて人格形成をしたから、二人は最終的には「(私の)(俺の)相手はこいつしかありえない」とまで言えたのであって、これが単なる幼馴染とかなら今の関係はありえない。レイカは学問に精を出し研究者に、フミヤは高校出たあと普通に就職して普通に一生を終えると予想します。
 とは言ったものの。
 やはりIFの話は魅力的ですよね。兄妹というしがらみがなくなったら、もう官能小説にしかならないのではないかという指摘はさておいて(笑)。
 ちなみに、作中では二人は周りの目をものすごく気にしていますが、画面の外の見えない部分(たとえば想いが通じたあとの学校生活)では人目をはばからずいちゃいちゃしていたと思います。特にレイカの方は特殊な性癖を持っているので、彼女の提案で彼らは校内でちょっと変わった遊びにふけっていたかもしれません。あ、作者である僕はノーマルです。別に変な性癖は持ってないです。
 ところでフミヤはあんまり人気無いみたいですね(笑)。僕はこういう一昔前のラノベのいわゆる『うじうじ型主人公』って結構好きだったりします。なんか人間臭くていい気がする(笑)。最近流行りの万能イケメン鈍感主人公も好きですけどね。コーヒーCUP様のように男気のある方がこの物語の主人公だったら、きっともっと楽しい話になっていたでしょう(そっち系の意味ではなく、コメディタッチと言うか)。笑いあり、最後にちょっとホロっとなるお話になりえたかもしれません。そう考えると主人公って大切ですね。主役を張るだけあって、物語の方向性をある程度規定してしまう。まさに主人公って感じ。
 一方でレイカを気にいって下さって嬉しい限りです。僕もレイカみたいな女の子は好きです。もうちょっと重い女にしても良かったかなとも思っていますが……。
 五年後の話ですか……。うーむ。長編の予感ですね。五年後、息を切らせて待ち合わせ場所にやってきたフミヤ。少し時間に遅れてしまった彼の手には、アルバイトをして貯めて買った安物の指輪があった。しかし待ち合わせ場所にはレイカの姿はなく、代わりに噴水前の降り積もった雪の上に小枝で文字が書いてある。『バイバイ、フミヤ』。それは、五年越しの恋愛の始まりだった――。
 まあ、嘘ですけどね。ていうか話の説明のところで「再会できてるよ☆」って書いちゃったんですけどね。
 読んでいただきありがとうございました。お暇でしたら、またお付き合いくださいませ。
2012-12-30 07:48:35【☆☆☆☆☆】ピンク色伯爵
ピンク色伯爵様。はじめまして! 1月も半ばになろうかと言う日ではありますがクリスマス作品を拝読させて頂きました。伯爵様の知識、性癖、その他もろもろが垣間見れる上にしっかりとテーマを書ききられている技量に感服しております。
妹ものはどうしても血が繋がるとインモラルなイメージが強く、背徳感でいっぱいになっちゃいますよね。当人達もそれを自覚しているからこそ、理性との狭間で悩み、盛り上がっていく。この部分も丁寧に丁寧に書かれており、凄いなぁと。まあ「僕は妹に恋をする」見たいに凄まじい状況になりそうなので、自分はこれ以上の部分は想像しないようにします。
面白い作品が読めて本当良かったです。また、色々読ませて頂きますね〜
2013-01-18 12:54:09【★★★★☆】も、から始まる格ゲーマー
 もげきち様(で合っているかな? 間違っていたらごめんなさい)。
 感想ありがとうございました。
 クリスマスは一か月前に終わっているというのに、読んで下さって、しかも感想までいただけて、本当に嬉しい限りです! 僕の性癖? 敢えて言うなら黒タイツ万歳教の信者ですがそれが何か? 黒タイツはいいです。何より黒タイツに包まれた足のラインが良いのです。内股の女子高生が黒タイツを履いて電車の中で吊革にぶら下がっている絵とか最高ですね。あれでつま先立ちになると、あの足のラインがさらに細くかわいらしくなるのだろうとか、彼女が見ていた単語帳を落として拾おうと屈みこんだとき、引き延ばされた黒タイツの繊維の隙間からみずみずしい肌色の素肌が透けて見えるのだろうとか色々妄想が膨らみます。黒タイツが破けるシーンが大人のビデオとかにありますが、あれは黒タイツの本当の良さを分かっていない。黒タイツは崇め奉るものなのです。遠くからその黒くて美しいシルエットを愛でて想いを馳せ、アタラクシアを迎えるというのが正しい活用方法です。ちなみに網タイツは肌を見せすぎていてちょっと萎えますね。網タイツ履くくらいなら黒タイツ履いて下さい全国の女の子。肌色のタイツとかもっとなえます。グレーも禁止。黒一択です!
 ……あ、やべ、引かれた? いや、でも僕は黒タイツにちょっと深い思い入れがあるだけで別に変態ってわけではありません。ええ、趣味嗜好の範囲です。性癖ではありません。ええ、ありませんとも。
 ていうか、黒タイツの話しかしていないですね; な、何か真面目なこと書かないと……;;
 妹モノについてもげきち様は良く分かっていらっしゃるようだ。短い文の中に深い造詣を感じられる。さては貴方も妹大好き人間ですかね。僕は妹よりも黒タイツ履いた女の子がいいです。黒タイツの良いところは、足の形を強制的に美しく見せてくれるところですよね。ちょっと昔から足のむくみを矯正する靴下とかありましたけど、それのタイツ版があるみたい(というか、大体のタイツがその特性を持ち合わせている?)。タイツは足の形が綺麗に見えるだけでなく内面の美しさも暗示させるのです。肌を見せない――つまり、素肌は隠されているわけでありサンクチュアリなのです。そこに気を許した相手にしか肌を見せないという貞淑さを感じられるのです。肌が見えない――しかし美しいシルエットとして黒タイツに包まれた足はそこにある。これがいいんです。僕のような豚野郎はおあずけを食らってブヒブヒと鳴くしかないわけです。鳴きながらもお前みたいな豚には見せないって心構えを感じ取り、蔑まれる快感と、おあずけによりもたらされる苦痛によるマゾ的快感が融合しより高位の快感に昇華をとげ、僕たちはその快感を浴びて洗練されたサティスファクションを得るのです。そうすると網タイツとかは背徳感が足りない。肌色はお前素肌を隠す気があるのかって怒鳴りたくなるから却下。グレーは色的にナンセンスですってやべえやっぱり黒タイツの話しかしてねえじゃねえか。えっと、えっと、あ! 『僕は妹に恋をする』こいつは名作ですよね。あの作者はおそらく妹が大好きなのでしょう。原作はもちろん読みましたが、教会のシーンと、兄が夜中妹のベッドにもぐりこみ悪戯(意味深)がバレるシーンが好きです。あれは素晴らしかった。神シーンですね! 確か実写で松潤と榮倉奈々が兄妹を演じていたかな。あっちの方も面白かったですね。どっちにしろ結構過激でしたが。
 ダメだ! 返信内容がまるで変態だ!! このままじゃ通報されてしまいかねない! いえ、僕は口下手なので、こんないやらしい妄想の垂れ流ししか書けないんです。修業が足りないだけなんです。とにかく、僕は、変な性癖は持ってないですからね! 
 ……まあ、でも、なんだろう、黒タイツは良いものだと思います。犯罪はいけませんけど、良いものです。すみません。もうしゃべるのやめます。反省します。
 次回も気が向いたらお付き合いください。
2013-01-19 07:01:25【☆☆☆☆☆】ピンク色伯爵
計:8点
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