『トイドール 舞・カレン 1〜10更新』作者:鋏屋 / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
神の手を持つと言われる秋葉原のフィギアマイスターMA・JIN。その最後にして最高傑作とされる伝説のフィギア『舞カレンシリーズ』。この世に7体しか存在しないそのフィギアは、今では途方もない値が付き、至高のフィギアと呼ばれていた。しかし、その7体の舞姫は作者であるMA・JINとともに行方がわからなくなっていた。そんなある日、高校生のヲタク少年、赤城結城は偶然にも幻のフィギア、舞カレンシリーズの1体を手にする。それは、この『趣都』と呼ばれる秋葉原でフリーク達に長きに渡って語り継がれる奇跡の戦い『人形戦争』の幕開けであった。これは、7体の人形とその主である『舞繰り』【マクリ】達の、儚くも可憐で艶やかな舞の軌跡である。
全角42476.5文字
容量84953 bytes
原稿用紙約106.19枚
プロローグ

遠い過去か、はたまた遙かな未来か
それはどこか日本によく似た国
その国のとある街
そこは様々な情念の混ざり合う魔女の鍋。
そしてこの国で唯一、妄想と現実が同居する不思議な場所。
人々はその街を『趣都』秋葉原と呼んだ。

 秋葉原が趣都と呼ばれる理由は、その街全体がその国の人々の多彩な趣味の品々が集まっていることにあった。
 コンピューター、テレビゲーム、コミック、アニメーショングッズ、アイドル商品、電気機器、模型…… 実に多種にわたって集まっており、種類と量においては、国内どころか世界的にも類を見ない規模であった。
 その多種にわたる趣味の品々のなかで、フィギアと呼ばれる立体人形があった。
 古くはヨーロッパで使われ始めた言葉で、一般的には彫刻・彫塑・立像などの分類から外れたものを指すことが多く、偶像崇拝などの宗教的な意味合いも含んでいたという。
 英語圏では一般に「人の形を模した物」という意味であるが、ここ秋葉原ではアニメやコミックに登場するキャラクターや、アイドル達のミニチュア立体立像を指す言葉として用いられる。
 アイドルは別にしても、元々2次元の存在であるアニメやコミックに登場するキャラクターを立体的に創造するには、それ相応の技術がいる。
 フィギアのほとんどは商品化される前に、その『原型』を作成する。その原型を作る人は、以前は「モデラー」と呼ばれていたのだが、現在ではよりアーティスティックに『マイスター』と呼ばれるようになった。秋葉原のフィギアマイスター達は作成するフィギアがどれだけオリジナルに近づけられるかに神骨を注いでいた。
 そんな秋葉原のフィギアマイスター達の中で、ずば抜けて卓越した技術を持ち、『神』とまで呼ばれた1人のマイスターがいた。
 彼の創造するフィギアは、美少女限定だったが、その表情やプロポーション、細部の精細さは群を抜いており、彼が手がけた作品を原型とした商品は売り切れ必死の物ばかりで、その人気はファンどころか同業者にまで及び「生きたフィギア」とまで賞された。
 そのフィギアマイスターの名はMA・JIN。
 もちろん本名ではないだろう。だが、彼の本名は誰も知らなかった。彼が何者で、何処に住んでいて、何処でその神の手によるフィギアを作っているのか、すべてが謎だった。
 ある時、MA・JINはマイナーな同人誌に登場するキャラクターのフィギアを作成した。そのフィギアに、彼はまるで魂を込めるかのように、自分のもてる技術をすべて詰め込んだという。そうして7体のフィギアができあがった。
 そのフィギアの名前は、原作同人誌の名前をそのまま使い「舞・カレン」と名付けられた。後に「魔人の舞・カレンシリーズ」と呼ばれる伝説の7体である。
 だが、彼がすべてを注ぎ込んだこの7体のフィギアは、商品化されることはなかった。それは、なぜか作者であるMA・JINたっての希望だったという。
 その後、神の手を持つフィギアマイスター、MA・JINは秋葉原から忽然と姿を消した。彼を惜しむファンや同業者が集まって大規模な捜索を行ったり、そんな騒ぎを聞きつけたマスコミがニュースで取り上げたりしたのだが、彼の行方はようとして知れなかった。今では自殺説が一番有力とされている。
 それと同時に、彼が秋葉原で最後に作り上げた7体の舞・カレンもまた、作者同様行方がわからなくなっていた。
 一目見た者を虜にする魔力を秘め、どのフィギアよりも精細で美しく、そして可憐な美少女フィギア『舞・カレン』
 数多くの海外コレクター達も、彼とその7体のフィギアの行方を追ったが、依然として発見の報はもたらされてはいなかった。一部では自殺したとされるMA・JINと共に灰になったなどという噂も耳にする。
 だがこの説は最近になって覆ることになった。7体のフィギアの1体が秋葉原の小さなフィギアショップで発見されたのだ。何でもそのショップのオーナーは、かつてMA・JIN本人から直接託されたのだという。そのニュースは瞬く間に秋葉原中を席巻し、日本を離れ遠く海外コレクター達の耳にも届いた。
 この世に1体づつしか存在しない、かつて『神』とまで呼ばれた伝説のフィギアマイスターMA・JINの最後の作品シリーズである。状態が良ければ9桁越えの値もあり得るとされる伝説のフィギアシリーズの1体。当然たくさんのコレクター達が大金を積み上げ、ショップオーナーに詰め寄ったが、オーナーはどんな条件にも首を縦には振らなかった。だがその代わりに、MA・JIN本人が直接オーナーに最後に残した言葉を伝えた。
『舞・カレン達が秋葉原を出ることはない。彼女たちはフィギアである限り、この街を出ることは出来ないのだ。だから間違いなく、彼女たちは秋葉原のどこかに眠っている』
 コレクター達は彼の言葉に首を捻る。『フィギアである限り』とは……?
 だが、伝説のフィギアの残り6体がこの秋葉原のどこかにあるという情報に、コレクター達の頭を掠めた些細な疑問など、どこかに吹っ飛んだようで、彼らは残りの6体を探すべく我先にと店を飛び出し秋葉原の街に散っていった。

 静かになった店先で、店主はポケットから煙草を取り出すと、若干曲がったその先に静かに火を灯し、続いて肺に入れた紫煙を深々と吐き出して唇を僅かに歪めた。
「MA・JINが何を残したのか、何を創造したのか、彼女たちを物としてしか見ないおまえ達にはわかるまい。だが、それを知るのは、ただ1体の彼女と、その『舞繰り』のみ…… 最後の1人と1体になる者は、果たしてどのような結末を知るのだろうなぁ? 『時雨』【シグレ】よ……」
 店主は手にした透明のケースに入ったフィギアにそう呟いた。長い黒髪と紫の艶やかな着物のような服で着飾った舞・カレンシリーズの1体『紫の時雨』は、自分を抱える店主の問いに無言の答えを返した。
 だが、その薄紅を引いた口元には、うっすらと笑みを浮かべているように見えた。
 店主は再び深く紫煙を含むと、日の傾いた空に向けて煙りを吐き出し再び呟く。
「もうすぐ始まる…… おまえ達とその舞繰り達の願いを遂げるための聖戦が。この混沌渦巻く趣都…… いや、魔都を戦場として、人の魂の根元を探る戦がだ」
 茜に染まる夕日が、いつもよりその色を濃く写す夕暮れに、フィギアショップ『ネバーランド』の店主、柊純一【ヒイラギ・ジュンイチ】はそう宣言した。
 後にフィギアファンの間で長きにわたって語り継がれていく奇跡の戦い『人形戦争』の幕が、静かに上がった瞬間だった。




1.赤城結城

 頭の上でバリバリとなる目覚まし時計の音で、脳内の細胞までゆすぶられるような感覚になり、それを必死に止めようと手をあたふたと動かして発生源を探すが見つからず、いい加減あきらめてベッドから身を起こすと、音の発生源である目覚まし時計は、枕から離れた机の上に置かれていた。
 そう言えば昨日、まず1檄では起きないだろう自分を予測して、念入りにも起きあがらないと届かないだろう机に置いたのを、まだぼんやりとしか働かないおつむで思い出し、あくびをかました。
 俺はそのままベッドを這い、机の上で己の存在意義を最大限に発揮する目覚まし時計にチョップをくれ、ようやく静かになった部屋を見回しながら、口元に垂れたよだれを寝間着代わりのジャージの袖で拭い、再び大あくびを心ゆくまで堪能した。
 そしてそのまま俺のチョップに沈黙した目覚まし時計で時刻を確認した。現在朝の6時半だ。平日ならば高校生である俺の起床時間であるのだが、今日は日曜日だ。本来ならもっと遅くまで惰眠を貪る事が出来るはずなのだが、今日はそうも行かなかった。
 そう、俺は今日は用事があるのだ。絶対に外せない用事がなっ!
 あ、今「けっ、女か……」と思ったやつ、いるだろ。
 だが安心しろ、平日はおろか、祝祭日であっても一緒にどこかに出かけるような、世間一般で言うところの『彼女』なるものは俺には居ない。
 今「ダッセェ」とか「ヘタレかよ」とか、それに類似する言葉をはいたヤツ、逝ってよし。「おおそうか、心の友よ」とか某アニメのいじめっ子みたいな言葉をはいたヤツも、ちょっとイラっとするので逝って良い。
 いいかおまいら、一言言っておく。
 俺は彼女ができないんじゃなく、作らないのだ。世の女どもには、俺のお眼鏡に適う女子が居ないのだ。ただ単純にそれだけのことだ。だからおまいらとは違う。
 俺の理想の彼女は残念ながらこの世には居ない。なんつーかその、あれだ……俗に言う『二次元の世界』の住人だ。『閃光のルビィ』の主人公、その名も魔久里留美衣【マクリルビィ】ちゃんだ。彼女の、あのえくぼが出来る笑顔で、俺はご飯三杯はいけるぜ。
 おい! 今「ダメだこいつ、早く何とかしないと」とかほざいて、おまけに「ちっ」とか舌打ちしたヤツ!
 死ね、1回死ね、いや、何度も死ねっ!
 ……まあ、脳内でそんな妄想の住人と戯れていても仕方がないので、俺はベッドからのそりと立ち上がった。そして目の前の本棚居並ぶたくさんの『俺のヨメ』ことルビィちんのフィギア達と朝の挨拶を交わした。その愛らしい姿に数秒トリップしたのは言うまでもあるまい。
 ふふふ、小さな小悪魔めら、朝っぱらから俺を魅了しやがるぜ……

 さて、前置きが長くなってしまったがご容赦願いたい。俺はこの部屋の住人で、名前をアカギ・ユウキという。空母赤城の『赤城』に結ぶに城と書いて赤城結城。都内の神田区の高校に通う高校三年生だ。
 名前に城と言う文字が2つあるので、人は俺を『ダブルキャッスル』と呼ぶ。
 ……すまん、うそつきました。つーかそう呼んでくれるのは俺の脳内に住むルビィちんだけです。
 まあ、俺のニックネームなどこの際特に意味はない。場の和みをねらっただけのことなので、これもご容赦願いたい。
 おっと、またまた話が脱線しかかってしまった。俺はどうもこの辺りのことを話し出すと止まらなくなって仕舞うのだ。またまたコレもご容赦願いたい。
 さて…… えっと…… 何だっけ?
 あっそうだ、なぜ日曜なのに早く起きているか? だったな。まあまあ落ち着け。今日はだな、なんとルビィちんの劇場公開記念スペシャル限定フィギアの発売日なのだ!
 しかも原型は、あの精度に定評があるフィギアマイスター『日陰とも』氏の手による物だ。コスも劇場版で登場した物すべてを網羅する4点セットというサービスっぷりだ。限定200体で、1体各々シリアルナンバーが刻印され、コレクター心をくすぐられるし、劇中の最後の舞台をモチーフにした特製ケース付きだぜぇっ!!
 だが、ここまでの代物なのに、なんと予約販売しないつーから驚きだ。俺の行きつけのショップでは10個入荷予定と言う情報をキャッチしたので、俺は朝から整理券目当てに並ぶことにしたのだ。因みにその店は過去に近所迷惑で通報され、前日の夜から並ぶ『夜待ち』は禁止されているので、並ぶのは開店2時間前の午前8時からだ。
 俺は必ず手に入れるっ、ああ、絶対だっ!!
 ハア…… ハア…… ハア……っ
 落ち着くのは俺の方だったな。すまんがこれまたご容赦願おう。
 てなわけで俺は、早速着替えて朝食も取らぬまま、いそいそと行きつけのフィギアショップのある秋葉原に向かった。



2.紅の篝火

「えっ!?な、何で……っ!?」
 整理券を持つ手が震えると同時に、声まで震えているのが自分でもわかる。
「まことに申し訳ありませんが……ご容赦ください」
 と起きがけに脳内で何度か俺が吐いた言葉だが、そのまま自分に返される。
 ご、ご、ご容赦出来るか貴様ぁぁぁぁぁっ!!
「ちょ、ちょ、ま、待ってください。ほら、俺10番ッスよ? 今日10個入荷ッスよね? なのに何で買えないんですかっ!?」
 店全体に響き渡るような声で詰め寄る俺に、初老の店長はすまなそうに頭を下げた。
「いやはや申し訳ありません。ウチも10個入荷と聞いておったのですが、入ってきたのは何度数えても9個なんです。出荷元に問い合わせても確かに10個納品したはずだと答えるだけでして……」
「お、お、おかしいじゃないですか? 出荷元は10個出しているのなら、どこかに届いているはずじゃないですか。もっとよく探してくださいよ!」
 そう怒鳴る俺の横を、9個目のルビィちんを持つデブヲタが、まるで負け犬を見るような目で俺をチラ見しながら通り過ぎていく。くそっ! このデブ脳内の殺すリスト入りだっ!!
「お、お願いします。探すの手伝います。だから、どうかもう一度探してください。つーか売ってくださいっ!!」
「い、いや、そう申されましても、その物が無ければ売りようが……」
「そこをっ! そこをなんとかっ!!」
 俺はカウンターに両手とおでこをこすりつけて店長に頼み込んだ。しかし店長は唸るか謝るばかりで、俺の期待した答えはくれなかった。
 いや、もう俺もわかっていたんだと思う。この人は俺が中学の頃から知っている店長さんだ。この人は嘘など付かない。この人が無いと言ったら本当に無いのだろう。たぶん俺が思い当たる所など全部くまなく探してくれた上での答えなのだろう。
 俺だって初めから整理券が手に入らない順番だったらこんなに粘ったりしなかっただろう。だが、なまじ最後の整理券を手にしてしまったが為に、ここまであきらめが悪くなってしまったのだ。
「わかりました……」
 俺はカウンターからゆっくりと顔を持ち上げつつ、店長にそう呟いた。
「わがまま言って済みませんでした、店長……」
 俺がそう言うと、店長は「いえ、ウチの方こそ済みません」と、また本当にすまなそうに頭を下げた。そう、この人はとてもいい人なのだ。初めてこの店に訪れた時もそうだった。目当てのフィギアを発見し、レジに持っていったところで金が足りないことに気づいた俺に、「初回限定サービスだよ」と有りもしないサービスを言って負けてくれたのだ。それ以来俺はこの店を贔屓にするようになったのだ。そんな人を困らせてはダメだろじっさい……
 俺はもう一度店長に頭を下げて、肩を落としつつ店を出た。そして駅に向かうべく歩き出したところで、店から店長が出てきて俺を呼び止めた。
「お客さん、ウチとしても入荷数を把握出来ていなかった落ち度があります。ですから、1体だけ、お好きなフィギアを表示価格の半額でお売りしたいと思います。もしよろしければ、ですけど……」
「でも俺…… ルビィ以外のフィギアは今のところ……」
 大人げないと自分でも思った。店長の好意を無にしてしまうような発言だった。だが店長はそんなことを気にした風もなくにこりと笑いながらこう言った。
「見るだけでもいかがですか? 私のとっておきもありますよ」
 その店長の笑顔を見ながら、俺は考えた。どうせ帰っても今日一日何をするわけでも無い。ルビィが手に入っていればまた違うのだろうが、結局手に入らなかったので何もなかった。
「じゃあ、ちょっと見ていこうかな……」
 そう呟く俺に店長はにこやかに頷いて俺を店内に誘った。
 この店はさほど大きくはない。ショーケースも数本しかなく、後は箱平置きの陳列状態だ。何かを探すのもなかなかに骨が折れるのだが、そんな発掘行為を好むのも、ヲタの血が騒ぐのも事実だ。俺は一通りショーケースを見て回り、続いて山積みにされた箱を上から順に眺めて回った。
 しばらくそんな漁りをしていたら、ふと奥の列の中段にある箱に視線が吸い寄せられた。俺は上の箱を落とさないよう注意しながら、その箱を手に取った。
 上下左右は赤いプラケースだが、表面はクリアケースになっており、中には手足と胴回りを黒い針金で固定された、燃えるような赤い髪の少女のフィギアがひっそりと納まっていた。コスチュームも日本の着物のような、ドレスのような、何とも表現しにくいデザインで、髪の色と同じ艶やかな赤い色をしている。
 そして、フィギアの命ともいえる顔だが……
 俺はいつしかその顔から目を離せなくなっていた。その精巧さ、その表情の豊かさ、そして色合い。どれをどう表現して良いのかわからない。大きめの瞳で俺を見つめ、口元に僅かに乗った微笑。
 家にあるルビィちんや、先ほど買いそびれたルビィちんも確かに精巧で完成度の高いフィギアだが、コレに比べたら天と地ほどの差があるだろう。
 これはまるで……生きているようだ。
 俺は何のキャラクターかを知りたくてケースをくまなく見たのだが、原作名やタイトルは見あたらない。ただ、彼女が納まっているケースの内紙に赤い文字で『紅の篝火』と書いてあった。
「紅の……なんて読むんだコレ?」
 するとそれを覗き込んでいた店長が「カガリビですな」と教えてくれた。俺はもう一度箱の中の少女の顔を見つめながら「かがりび……か」と呟いた。
「何の作品に出てくるキャラなんですか?」
 俺がそう聞くと、店長はにっこり微笑み「確か……10年ほど前のマイナーな同人誌に登場するキャラクターだったかと…… 作品タイトルまでは思い出せません」と答えた。
 10年前というと、俺がまだ小学生の頃だ。当時の俺はまだフィギアなどに興味を持てなかった。しかもそんなマイナーな同人誌のキャラなど、わかるはずもない。
 だが、このフィギアの出来に俺は魅了されていた。どんな作品であろうとかまわなかった。俺の心はこのフィギアを一目見たときから決まっていたのだ。
 それから俺はもう一度箱をひっくりがえして値札を探したが見つからなかった。
「あのこれ、いくらですか?」
 俺がそう言うと、店長はゆっくりと首を横に振った。
「お気に召したのなら、差し上げますよ」
「ええっ、マジで!?」
 俺は思わず驚いてそう聞き返した。確かにマイナーで不人気なキャラだったかも知れないが、この精巧な作りはそれだけで価値があるように思えたからだ。少しでもこの世界をかじった者ならば、目が節穴でもない限りタダで譲るなど考えないだろう。
「このような小さな店の奥に忘れられ、いずれは処分されるであろう彼女を、あなたは見つけた。10年前の何のキャラかもわからない彼女を気に入ってくれたのが私は嬉しい。コレも何かの縁でしょう。願わくば末永く大事に愛でてください」
 店長はそう言いながら俺の手からそのケースを受け取ると、丁寧に紙袋に入れてくれた。俺は店長にお礼を言うと、彼女が納まった紙袋を下げ、店を後にした。
 お目当てのルビィちんは手に入らず、さっきまで肩を落としていたのだが、その代わりに何のキャラだかもわからないフィギアをもらい、今は結構満足していた。
「カガリビだから…… カガリちんだな」
 そんなことを呟きながら、駅に向かう俺の足は少しだけスピードを上げていた。

☆ ☆ ☆ ☆

 先ほどまで肩を落としていた客だったが、今は満足な様子で駅に向かう背中を見送った後、初老の店主、水守兵衛【ミズモリ ヒョウエ】は店内に戻った。するとカウンターの袖から声が掛かった。
「気前が良いものだ。いや、気前が良いとか言うレベルじゃ無いな」
 視線を流すと、袖の柱に寄りかかった栗色の髪をした青年が、鋭い目つきでこちらを見ていた。
「幻のフィギア、伝説の舞・カレンシリーズの1体、『紅の篝火』を、ああも易々と、あんな小僧に譲るとは……呆れて物が言えない。篝火は末娘、つまりMA・JINの最後の舞姫だぞ。わかってんのか?」
 そう言う栗毛の青年に、兵衛は苦笑を含んで答えた。
「ふん、知った風に言う…… 彼女たちは相手を自分で選ぶ。それが彼女達舞姫に与えられた唯一の自由だ。そのたった一つの自由を摘めというのか? 安岐銛【アキモリ】よ」
 そう言う兵衛には先ほどのにこやかで優しい好々爺然とした雰囲気はみじんも感じられない。まるで抜き身の刀のような鋭さをにじみ出させていた。
「かといって、あんな物の価値もわからぬ小僧にタダでくれてやる事は無いだろう。MA・JINの原型は最低でも7桁の値が付く。ましてや最後の作品にして、商品化されず、複製品のない作品である舞・カレンシリーズともなれば9桁に届くと言われている。すぎた物だとは思わないのか、親父」
「くれてやったなどと、考え違いも甚だしい。私は何もしておらぬよ。あの少年は呼ばれたのだよ。舞姫にな」
 兵衛のその言葉に、安岐銛はクククっと笑いを飲み込みつつ、「まさかぁ」と声をもらし肩を揺らした。だが兵衛は気にせず話を続ける。
「今日の入荷のあの商品な、限定物で数も少なく巷では人気の品だったのだ。ウチも間違いがあってはいかんと思い、昨日念の入れて2回も確認した。今朝荷受けしたときも確かに数は揃っていた。なのにあの少年の分だけが無く、未だにみつからん。それに、去年の棚卸し以降あれほど探しても見つからなかった舞姫を、今日あの少年はいとも簡単に見つけてしまった。偶然と呼ぶにはいささか出来すぎている。そうは思わんか?」
 そう言う兵衛に、安岐銛は含み笑いをやめた。いや、無意識に止めてしまったのだ。そして今度は真剣な顔で父の顔を見る。
「ならばあの少年は『舞繰り』【マクリ】になる可能性があると言うことになるが?」
 店に流れるBGMがポップな音を響かせるが、その一瞬、それがどこか別の世界の音に感じられる、そんな一瞬の租界感が辺りを支配した。
「今現在、確認できている舞姫は3体。ネバーランドの店長、柊純一の『紫の時雨』、そして俺の『白の雪風』、でもって今の小僧の『紅の篝火』……もっとも今の小僧が舞繰りになるとは思えないけどな」
「舞繰りは外見では判断できん。魂の質と総量、そして舞姫との絆の深さによって決まる。たとえ仕込みが短くとも、それらが上回れば舞姫はより艶やかに舞うだろう」
 その兵衛の言葉に、安岐銛の心に棘が刺さった。それは自分でも自覚できぬほどに小さな痛みであった。
「それは、裏秋葉お茶会の裁定者としての意見かい?」
 安岐銛の視線に兵衛の視線が弾いた。それは親子であることが嘘のような険をはらんでいた。そして再び一瞬の沈黙が客の居ない店を支配した。
「人は何処まで行っても人であり、人形はいついかなる時も人形のまま。人は心で愛し、人形は瞳で愛でよ。そう言ったのはあんただったと記憶している。人と道具の区別は付けておかなければ生き残れない。俺は今でもそう思う」
 そんな安岐銛の言葉に、兵衛は深いため息を吐いた。
「かつてMA・JINと我ら4人が集まり、お茶会を組織したときに語った事はそんなことではない……もっとも、舞姫を道具と言って憚らないお前にはわかるはずもないがな」
「はは、雪風は気にしてないさ。彼女はむしろ俺に道具として使われることを望んでいる。機能としての絶対の信頼、それが俺と雪風の絆だ」
 そう言って笑う安岐銛に、兵衛はもう何も言うまいと首を振りため息をついた。
「いずれにせよ、残り4体もじきに姿を現すだろう。MA・JINと我らが夢見、研究した結果が証明されるまで、あとわずかだ。親不孝な息子とは言え、期待せずには居られない。己が魂で艶やかに舞わせるがいい……」
 そう言って静かに目を閉じた兵衛の瞳の奥には、確かにかつての友、MA・JINの姿が浮かんでいた。



3.赤い髪の少女

 愛すべきフィギアショップを後にし、すぐに家に帰るつもりだったのだが、せっかく出てきたのだからと考え直し、秋葉原の街をぶらつくことにした。ゲーマーズやまんだらけ、ソフマップにアキバオーなどを見て回り、結局家に着いたのは午後5時を回っていた。
 劇場版限定ルビィちんを買うためだった金で美少女ゲーム1本と前から気になっていたサークルの同人誌を2冊、それと最近調子の悪かったマウスを買った。
 家に着いた俺は「ただいま〜」の挨拶と同時に階段を駆け上がり、部屋に入るとフィギアの紙袋を机に置き、残りは上着と一緒にベッドに放った。
 それから本棚に並んでいるルビィちん達にただいまの挨拶をしてから机の椅子に座った。そして紙袋からゆっくりとケースを取り出して机の中央に置いた。
 そこでふと、手を洗っていないことに気づき、慌てて1階の洗面で手を洗い、再び席についてケースを覗き込んだ。そこには今朝見た時と同じように、紅いコスチュームの少女が薄い笑みを浮かべて収まっていた。
 それにしてもクオリティの高いフィギアだ。顔の造形やプロポーションはもちろん、手の指一本一本も精巧に再現されている。纏っている紅いコスもちゃんとした生地で作られているようで、裾の艶やかな花柄も非常に細かく描かれている。
 俺は早速ケースを開け、胴と腕を固定していた針金を取り外し、フィギア本体を手に持ってみた。思ったよりも手に重みを感じる。表面素材はキャストっぽいが、むき出しになっている手や太ももあたりをなでてみると妙になめらかな感触だ。
「材質なんだろうな、これ……」
 そんなことを呟きながら手に持ったフィギアをいろいろな角度から観察した。一応パンツも確認。白だった。
 いやいやいや、そこはほら、最重要確認項目だろ? まあなんだ。青少年にはいろいろあるのだよ、察してくれたまえ。
 パンツの色を確認したあと、そのフィギアを机の上に立たせてみた。ポージングは固定されており、左手を腰に、右手は胸元で扇子を構えている。どうもその扇子がスチール製のようで、どことなく武器のようなイメージだ。そう考えると、両の腕にも篭手のような防具を付けており、膝丈の着物からするりと伸びた足に履いているブーツのような履物もどことなくいかついように見える。原作になった同人誌は、もしかしたらバトルものだったのかもしれない。
 そんなことを考えながら、俺は内箱に書いてあるキャラ名に目線を移した。
 紅……『クレナイ』つー読み方であってるのか?
 原作は10年前のマイナー同人誌だという。本来なら名前などどうでもいい。しかし俺は何故か気になっていた。
「『クレナイのカガリビ』……う〜ん」
 悪くはないけどな。
「『アカのカガリビ』……うん、なんかこっちのがしっくり来るな」
 なぜだろう? 口に出すと『アカ』と読む以外に考えられなくなっていた。まあ、原作はマイナーだって言ってたし、どうせ知ってる人いないだろうから自分がしっくりくる名前にしよう。俺はそう考え、もう一度名前を口にした。
「アカのカガリビ、カガリちん、今日からよろしくな」
 その瞬間、俺の時間が止まった。いや、正確には呼吸が止まった。
 い、息が出来ないっ!?
 鼓動が早鐘のように鳴り始め、続いて胸に鋭い痛みが走った。俺は胸を掻きむしりつつ、机に額をこすりつけながら無言で藻掻いた。そして、薄まりつつある意識の中で、頭の中で奇妙な映像が跳ね回った。

 ぼんやりとした灯りの中で、優しそうな瞳がこちらを見ていた。どことなくやつれた面持ちだが、その瞳が放つ彩光は、とても慈愛に満ちた色だった。
 そして、静かだが優しく、耳に心地いい声が聞こえる。
『君には、私の残りの全てをあげる。
 紅は私の情熱の色。私の最後を詰め込むのに相応しい。
 時に妖しく、時に暖かく。揺らぎ、弾け……
 たとえ舞台が闇に染まろうと、君に与えた最後の欠片は、全てを照らす炎になる。
 さあ舞いなさい。
 力強く、焔の様に艶やかに。
 その身に与えた私の欠片で、天に届くほどの火の粉を巻き上げながら……』

 自分の中の何かがむしり取られていくような感覚。いや、吸われていくという表現の方があっているかもしれない。そんな表現し難い不快感に襲われながら、俺の意識は奈落の底に落ちていった。

 俺はどのくらい意識をなくしていたのだろう。
 意識を失う瞬間に、椅子から転げ落ちて床にひっくりがえったのはなんとなく覚えている。で、その後俺の頭を持ち上げる感触があったような気がする。ひどく曖昧で、断片的な記憶のフラッシュバック。ノイズだらけの映像を、何度もつけたり消したりしているような感覚だ。
『アカギ……ユウキ……』
 知らない声で名前を呼ばれた。
 だっ……誰……だ……?
 ぼんやりとした意識の中、俺はごろりとカラダを横に向けた。頬にひんやりすべすべの気持ちのいい感触がする。
 あれ? なんだこのやわこくて気持ちいいものは……?
 うっすらと目を開けると、ぼやけた視界に床に転がった目覚まし時計が見えた。おそらくひっくりがえった拍子に机から落ちたのだろう。秒針を見るとしっかり動いている。俺はそのまま時間を確認した。どうやら意識を失っていたのは10分程度のようだ。
 心臓も動いてる。意識もしっかりあるし、息ができないこともない。手足が動かないこともないようだ。心持ち軽い頭痛がするが、大した痛みではない。
 にしても……なぁんかホントに気持ちいいなぁ、このやわこい枕……
 俺は再びゴロリとカラダを回し、仰向けになった。蛍光灯がまぶし……あ、あれ?
 なんだろ……さかさまの顔が俺を覗き込んでいる。ぼけた頭と逆光も手伝って像がはっきりしない。
「ユ、ウ、キ……」
 なんだ、姉ちゃんか……派手な音でひっくり返ったからびっくりして来てくれたんだな。
 ちなみに俺は姉ちゃんと親父の3人暮らしだ。母ちゃんは俺が小学校2年生の頃亡くなった。それ以来5歳離れた姉ちゃんが俺の母親替わりをしてくれている。ウザイことばかり言うし、うるさいけど、弟の俺から見ても美人系だし、いい嫁さんになると思う。しかし、姉ちゃんの膝枕なんて小学生以来だな。すべすべやわこくてマジで気持ちいい。
「アカギユウキ……」
 なんでフルネームやねん? それに部屋の中でそんな紅い帽子なんか被って……出かけてたのか? つーかそんな派手な帽子なんか持ってたっけか? 俺見たことねえぞ……
「悪りぃ、姉ちゃん。ちょっと立ちくらんだだけだから。マジ心配ないって」
 俺がそう言うと、姉ちゃんはさらに心配してか、顔を近づけて俺を覗き込む。いや、近すぎだろ! それ以上はヤバイだろマジでっ!!
 とその時、俺の頬にパサっと何かがかかった。俺は頬に当たるそれをすくい上げた。
 髪の……毛? 紅い……髪っ!?
 俺は驚いて思いっきり目を見開いた。そこにあったのは姉ちゃんの顔じゃなかった。
 炎のような紅い髪が首筋から俺のほほ撫で、大きめの瞳はほんのり桜色をしている。鼻筋から口元にかけての緩やかなカーブは、まさに神の手による造形といっても言い過ぎじゃない。薄紅を差したような唇はぷっくりとして愛らしい艶を放っていた。
 時間にして数秒、俺は息をするのも忘れ、その顔の造形美に心を奪われていた。



4.目覚めた舞姫

「うわぁぁぁっ!?」
 我に返った俺はバネじかけのように起き上がった瞬間、バシンっ! と鼻が鳴り「ふがぁっ!」とグモった悲鳴をあげてフローリングの上を転げ回った。
 痛ってぇぇぇぇっ!!
 押さえた手から鼻血を滲ませ、涙がにじむ瞳で床にちんまりと座る女の子を見ると、のたうちまわる俺をキョトンとした顔で眺めていた。手に持つ扇子(恐らく鉄製)から考えるに、多分これで叩かれたのだろう。
「な、何しやがる! つーか誰だお前っ!!」
 顔は鼻血で血まみれ、目は涙目つーなんとも情けない姿でそう怒鳴った。
「母様より、初対面で断りもなく下履きを覗く輩は叩いて良いと教わりました。それに名前はご存知のはずでしょう? 呼ばれたから私は、この姿でここに居れるのですし」
 下履き? 下履きを覗いた? 俺が? 何言ってるんだこの娘……
「は、はぁ? お、お前何を……?」
「まあ、改めてご挨拶をいたしましょうか……」
 そう言うと、その娘はすっと立上り、つつっと扇子を持つ右手を水平に上げ、サラリと音もなく扇子を広げた。そして右足を前に出したあと、少し両の膝を折り、くるりとその場で回り始めた。
 右へ左へ、手にした扇子が胸元や顔の周りで翻り、その娘が回るたびに、赤い髪の毛とドレスのような着物の裾がひらひらと舞う。回る裾に描かれた花の模様が風にそよぐように瞬き、夏も近く、蒸し暑い日がちらほらする季節にもかかわらず、この部屋だけ季節が春に戻ったような印象を俺に与えた。
 それはなんとも艶やかつーか、華やかつーか、とにかく見とれるほど綺麗な舞だった。
 ひとしきり舞ったあと、その娘は俺を正面に捉えピタリとその動きを止め、扇子を胸元に構えてポーズを取った。どうやらこれが彼女の決めポーズのようだ。
「舞カレン、七の舞姫、紅の篝火でございます」
 そう言うと、手にした扇子をパチンと閉じ、その娘、紅の篝火はふわりとした動作で床に座り、俺にお辞儀をした。上げた顔の、その紅い瞳には、見据えた先にある俺の顔を写してた。
 アカの……カガリビ……紅の、篝火だってぇっ!?
 いやいやいや、ちょ、ちょと待ってくれっ! えっとなんだ? つまりアレか? 寝オチってベタなやつか?
 やっべ、いつからだ? 俺いつから寝てるんだ?
 そんなことが頭の中でぐるぐる回る。にしても鼻はまだズキズキするし、ボタボタ垂れる鼻血も妙にリアルだ。つーか折れてないか? 鼻。
「さて、私のご挨拶は済みました。今度は貴方の番ですよぉ?」
 着物の裾をハラリと広げ、床に慎ましく正座して両の手は扇子を持って膝の上。俺はといえば、鼻血が滴り落ちる鼻を左手で押さえ、彼女から数歩離れた壁に背をつけて固まり、ぽかんと口を開けた間抜け顔である。これじゃどっちがこの部屋の主なのかわからん。
「ちょ、ちょっとタンマ。いま頭の中オーバークロック状態だから。今話しかけられるとたぶん落ちる。ちょっとフリーズでプリーズな、オ〜ケ〜?」
 いや、寝オチしてるからもう落ちてるのか。しかしなんで語尾がアメリカンなんだ俺?
 紅の篝火。うん、確かにこの破壊力抜群な美少女顔はあのフィギアによく似てる。リアル化してさらにパワーアップした感もある。つーと何か? フィギアがマジもんの美少女にだ〜いへんし〜ん! ってなわけか? 夢にしても美味しすぎるだろ? なんだその電撃系ラノベ展開!?
「いや待てよ? 夢……夢かぁ……」
 とりあえず再思考する。俺の頭のクアッドコアがカチカチ動いている。で、何故か最後にレジの音。
 チーンっ!!
 そう、夢なのだ。リアルな夢なのだ。ふふふ、夢ってことはだよ? 現実じゃないんだよな、うん。目が覚めたら「あ〜、なんだよ夢かよ〜 惜しかった」ってな具合に悔しがるのがお約束なわけだ。駄菓子菓子、今俺はそのあたりをしっかり意識してる。そんなドジは踏まない自信がある。つーか夢であるならゲスだろーが、鬼畜だろーが、もう行けるトコまでいきましょ的な……
 俺はチラリと彼女を見た。彼女はその大きめの赤い瞳で、そんな俺を不思議そうに見つめている。ふむ……さすがフィギアが何かのギャグで人間になっただけあって、世の三次元女とは別もんの萌え精度だ。俺のハートのど真ん中を直球でズバンと貫くテラバイトビジュアルだぜ。
「これはアレだな。フィギアの神様が俺にくれたご褒美だな、うん、たぶんそうだ。あれだけフィギアを大事にしてきた俺だ。そうでないわけがない!」
 口に出したらそうとしか思えなくなった。つーかそう思うことにしよう。俺はそう心の中で繰り返し、のそり、のそりと彼女に這って近づいた。そして膝立ちで彼女の右肩に手を掛けた。
「――――?」
 彼女の赤い瞳が、フワリとかかる前髪から上目遣いに俺を見つめている。その反則的な美貌が至近距離で「何?」と表情で問いかけていた。
 自他ともに認める二次コンの俺だが、3Dに希望を見出したとしても咎められはしないだろう。俺はゆっくりとその美貌に顔を近づけていった。その少女、篝火はきょとんとした顔で俺を見つめている。
 出来れば目をつむって欲しいが……つーか、俺が何しようとしてるのか、マジでわかってないのかこの娘?
 心臓が爆発しそうなほどバクバク言っている。たぶん1年分ぐらいの鼓動を今消化している気がする。夢なのにドンだけリアルなんだよ実際っ!
 まだ覚めるな、俺っ!!
 篝火の顔との距離があと10センチを切ったとき、不意に背中から声がかかった。
「結城……あなたいったい何やってるの!?」
 俺はびっくりして振り向いた。すると目を丸くした姉ちゃんが、開けっ放しのドアの向こうで立っていた。
「あ……ね、姉ちゃん……」
 我ながら間抜けな声だった。
「あなた、鼻血……そ、それに、その娘に何しようと……!」
「あっ、い、いや、これは……」
 見知らぬ美少女を部屋に連れ込み、その娘の肩を掴み顔を近づけ、しかも鼻血……
 …………
 うん、ふつーに襲いかかるの図だなマジで。
 目覚めろ俺っ! 今すぐだっ!!
 しかし俺のそんな願いは空しく、全く夢から覚める気配がない。ここで一つ、何となくだが先ほどから感じている、ある疑惑が俺の心を支配する。
 これは、ゆめじゃ、ないんじゃね?
 すると姉ちゃんは目頭を押さえてその場に崩れるように座り込んだ。
「私……確かに母さんの様にはいかないってわかってる。でも……でも、女の子を無理矢理襲う様な、そんな卑劣な男にだけはならないって思っていたのに……ううっ」
 そう言って口元を押さえてしゃくり上げるように泣き出してしまった。
 いやまて、誤解だ。いや、完全に誤解ってわけじゃないが、とにかく誤解だ。見知らぬ娘が部屋にいるけど、押し倒し掛けていたけど、鼻血出してるけど……
 ――――ダメだ、説得力皆無じゃん。
 いやいやいや、姉ちゃん、俺たち姉弟だろ? 日頃の俺のことを見てれば、誤解だってことぐらいわかるだろ? 弟を信じられないのか?
 そりゃ美少女アニメ見てるけど、毎日フィギアに話しかけてるけど、何度かエロ同人読んでるトコ目撃されてるけど……
 ――――ダメだ、日頃の状況はむしろ逆効果だ。
 だが、だがな、姉ちゃん、決定的なことが一つある。だってこいつは、人間じゃねーんだよっ!
 って信じられるか―――――っ!!
 俺が脳内で色々言い訳を考えつつうろたえていると、篝火姉ちゃんに声をかけた。
「あの、結城さんのお姉さまですか?」
 透き通った透明感のある美声だった。そんな綺麗な声に、姉もはっとして涙に濡れた顔を上げて篝火を見た。
「私、アカノカガリビと申します。この度、結城さんと結ばれることになりました。ふつつか者ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします」
 そう言って篝火は姉ちゃんに向かって丁寧に頭を下げた。それはまた優雅なお辞儀だった。が――――
 おいちょっと待て、今なんつった?
「あ、いえいえ、こちらこそ弟の不埒な振る舞い、まことに申し訳……えっ?」
 篝火の丁寧なお辞儀につられ、姉ちゃんも丁寧に頭を下げ掛けたたまま硬直した。
「むす……ばれ……た……?」
 そんな姉ちゃんの途切れ気味の言葉に、篝火は「はい♪」とにっこり微笑み頷いた。
「あの……赤野さん、と仰いましたっけ? 結城とは、いったいどのようなご関係で?」
 姉ちゃんがそう聞くと、篝火は「関係……? ですから……」と前置きして、改めて姉ちゃんに答えた。
「たった今、結城さんは私の主人になったんですよ」
 そういって再びお辞儀をして微笑む篝火とは対照的に、俺と姉ちゃんはしばらく口を開けたまま固まっていたのだった。



5. 赤城家の人々

 それからは色々と大変だった。半分意識が飛んだ姉ちゃんに有りもしない事実をでっち上げ、その後帰ってきた親父を交え、俺と篝火は1階の食卓で親父と姉ちゃんを正面に並んで座り、そこで改めて俺はこの少女、篝火について2人に説明した。
 おっと、紹介が遅れたが、隣の篝火の前に座っているのが俺の姉で、名を赤城桜子【アカギサクラコ】という。年齢は22で、高校を卒業してそのまま近所の工務店に就職し、事務仕事をしている。
 ちなみに彼氏は確認できていない。嘘か本当か定かではないが、本人も否定している。だが、先ほども述べたが、弟の俺から見ても姉ちゃんは美人な部類に属すると思うので、彼氏の一人や二人はいてもおかしくないのだが、今のところそんな気配はない様だった。
 で、俺の前に座るのがこの家の主、赤城結次郎【アカギユウジロウ】。年齢52歳で、大工をやっている。姉ちゃんの会社からも仕事を受けていて、姉ちゃんの就職も親父が口を聞いてやったらしい。自称腕利き大工とのことだが、姉ちゃんから聞いた話では、お客からの評判もいい様なのでまんざら嘘でもないらしい。この2人が俺の家族だ。
 さて、篝火の話に戻ろう。とりあえずは篝火が何者なのか、なんでここにいるのかを俺は2人に説明するわけだが、俺の行った説明をかいつまんで話そう。
 彼女の名前は赤野篝【アカノカガリ】つーことにした。まあ、まんまって言えばそうだが、なんせ姉ちゃんに自分で言っちゃってる手前、いまさら変えるわけにはいかなくなったのだ。歳は俺の1こ上で18歳。高卒ってことにしておいた。
 篝火は海外で暮らしていたのだが、ご両親が事故でなくなり、単身、生まれ故郷である日本に帰ってきた。日本に帰ってきたは良いが、空港で置き引きにあい荷物を全部盗まれてしまった。かろうじて身に着けていた有り金で秋葉原までやってきたのだが、そこで所持金が底をついた。お金もなく、日本に身よりもなく、それどころか今晩泊まるところもないので途方に暮れていた。
 そこに善良で良心的な俺が登場だ。俺は彼女から事情を聞き、不憫に思って住むところが見つかるまで俺の家に泊めてやる約束をした。ま、大まかにはこんなところだ。
 ――――いい、わかってる。何も言うな。
 俺だってこの説明は『無理ありまくりだろ、実際っ!』とか思う。だがな、もし本当の事を言っても絶対信じてもらえないだろう? 下手したら俺がそのまま病院に放り込まれる可能性が高い。だから多少……いやかなり無理があるが、ダメもとでこんな話をでっち上げたわけだ。
 正直な話、「そんな話が信じられるかーっ!!」と怒鳴られることは覚悟していた。ところが2人の反応は俺の想像とはベクトルが反転したものだった。
 俺がこんな、半ば萌えヲタの妄想じみた言い訳を説明していると、親父と姉ちゃんは涙ダダ漏れで俺の説明を聞き、このヨタ話を完全に信じ切っていた。
 姉ちゃんは「カガリちゃん、私を本当のお姉ちゃんだと思って良いからねぇ〜っ!」と涙と鼻水で顔をグチャグチャにしながら篝火の手を取って何度も頷き、親父は瓶ビールを抱いたまま「くぅぅ、目から汗が止まらねぇ」とこぼしていた。そう言えばこの2人、親子そろって極度に涙もろかったのを思い出した。いつだったか姉ちゃんに「どうやったら『サザエさん』で泣けるのか教えてくれ」と本気で聞いたことがあったっけな。
 2人とも馬……じゃなくて、単純で助かった。結果、篝火はフィギアでありながら、姉ちゃんと親父公認で、人として堂々とウチに居候する事になった。
 あれ? そういやこいつ、人形に戻ったりするのだろうか? う〜ん、後でちょっと聞いておこう。
 俺はとりあえずほっとしながらチラリと隣の食卓の席に座る篝火を見た。篝火は姉ちゃんに「はい、お姉さまとお呼びいたします」と頷きながら鳥の唐揚げを頬張り、空っぽのお茶碗を差し出してお替わりを注文していた。
 人形なのに何で飯を食ってるの? とか、食ったもんがどこに行っちゃうの? とか、そんなのもうこの際どーでもいいが、それ4杯目だよな、たしか……
「それにしてもカガリちゃん、よっぽどおなか空いていたのね」
 篝火の食べっぷりに姉ちゃんがそんな感想を漏らすと、篝火は「はい」とにっこり頷きながら大盛りに盛られた4杯目の茶碗を受け取った。
「生まれて初めてのお食事なので、感動していますし」
 そんな篝火のコメントに、俺は思わず口に含んだ飯を吹いてしまった。ゴホゴホむせり、2人に「汚いな〜」と文句を言われながらも、2人に気づかれないように肘で篝火の腕をこづいた。
 余計なことは言うな、頼むから……っ!
 俺が涙目でそう訴えると篝火は口の中の物を飲み込みながら、コクコクと頷いた。それから何を思ったのか「あ……」と声を漏らした。
 俺が『なんだ?』と首をかしげると、篝火は端を置き、俺の顔にすうっと手を伸ばした。
「結城さんにご飯粒がついていました」
 篝火はそういって俺の頬についていたご飯粒を摘むと、パクリと自分で食べつつ微笑んだ。俺はその顔に、一瞬我を忘れて見入ってしまった。いや、見惚れたといった方が正しいかもしれない。
 なんだ、その……アレだ、脳が溶けるってやつだな、うん。
「なんか本当に夫婦みたいね〜 二人とも」
 姉ちゃんは俺たちを見てそんな無責任な事を言い「ねえお父さん」と親父に同意を求めていた。すると親父も「ああ、見てるこっちが赤くならぁ」といって笑っていた。
 いや、人間じゃないけどな……
 俺は心の中でそう呟いき「何言ってんだよ2人とも……」と言いつつみそ汁を口に含んだ。少しだけ熱くなった顔を見られたくなかったからだ。とその直後、篝火の本日通算5杯目のお替わりを告げる声がかかった。
 ホント、どんだけ食う気だよおまえ……ちょっぴり照れた俺がアホらしいわ。
 篝火はそんな俺の心の中の葛藤など想像すらしていないようで、姉ちゃんから「コレでおしまいなの」という言葉と共に受け取った大盛りのお茶碗に目を輝かせていた。
 食事が終わり、それから姉ちゃんと親父からの質問タイムが始まりかけたのだが、その前に俺は篝火を部屋に連れて行く事にした。
「ちょっと結城、あんたまさかまた……!?」
「しねーよ! つーかさっきのも誤解だって説明しただろっ!!」
 俺がそう反論すると、今度は親父がニヤつきながら姉ちゃんに言う。
「まあ結城もそういう歳頃だしなぁ? 察してやれよ桜子」
 何を察するんだ馬鹿親父っ!
「ちょっとお父さん、何言ってるのよもう……カガリちゃん、何かあったら大きな声出すのよ?」
 すると姉ちゃんのその言葉に篝火は「大きな声?」と首をかしげていた。とそこに、今度はちょっと酔った親父が輪をかけて言う。
「結城、ゴム持ってるのか?」
「いらねぇよっ!!」
「ちょ、お父さんっ!!」
 ほぼ同時に俺と姉ちゃんから怒鳴られ、親父はビール瓶を片手に肩をすくめつつ「なんだよ、心配してやってのに……」とブツブツ言いながらグラスにビールを注いでいた。
 まったく、俺が何をすると思ってんだよ……
 俺は大きなため息をつきつつ、部屋に戻ろうと階段を上がっていたら、ふと篝火が俺に聞いてきた。
「結城さん、ゴムって何のことですか?」
 思わず1段踏み外す。痛ててっ、す、脛ぶつけた……
 振り向くと薄紅色の瞳を丸くした篝火が興味津々といった様子で俺を見つめていた。俺は「いいから、知らなくていいことだから」と言い聞かせ、階段を上って部屋に入った。
 まったく、余計なこと言いやがって。妙な気になっちまうじゃんかよ……
 俺はそんな頭の中のモヤモヤをどうにか追い払い、篝火とりあえずベッドに座らせた。それから机の椅子を引っ張ると、ベッドにちんまりと座る篝火の正面に座った。
 まずは順番に聞いていこう。俺はそう考えつつ正面に座る篝火に声をかけた。聞きたいことは山ほどあるのだ。



6. 存在理由

「さて、篝火……いや、これからはカガリな? 赤野篝。赤信号の『赤』に、野原の『野』でアカノ。篝はそのままだ。分かるよな?」
 俺は手近にあったレシートの裏に漢字を書いて説明した。一応人としてやっていくなら名前が無いと色々面倒だしな。
「はい、わかります……」
 篝火はレシートの裏に書かれた名前を眺めながらそう言うと、含み笑いをした。
「赤野、篝……ふふ」
「なんか変か? だとしても我慢してくれ。もうその名前で親父と姉ちゃんには説明しちまったんだし。そもそもお前、さっき姉ちゃんに名乗っちまってるからな。それしか思いつかなかったんだ」
 すると篝火は首を振った。
「いいえ、名前が変とかじゃなくて……ちょっと嬉しく思って、そんな風に考える私自身が可笑しくてつい……まるで本当の人間の様な名前をつけて下さって、ありがとうございます」
 篝火はそう言って、また丁寧に頭を下げた。口元に柔らかな微笑を浮かべる篝火に、俺は思わず見とれてしまう。それは本物の人間の女の子でもそうそう見れないような、とびきり素敵な表情だったからだ。
「い、いえいえこちらこそ、何のひねりも無くってすみませ……ってそうじゃねえよっ!」
 フィギア相手に、お手本の様な乗りツッコミ入れてる場合じゃないだろ俺っ!
「カガリ、お前には色々聞きたいことがある。そもそも、お前はなんなんだ?」
 他に聞きたい事も当然ある。だがまず、これだけはハッキリさせたい。
 つまりこいつが『どんな存在なのか』ってことだ。宇宙人、幽霊、亡霊、妖精、魔法使い、ホムンクルス、ロボ……もうこの際なんだっていいし、今更驚かん。だが、有害なのか無害なのかだけでも判断できるファクターは欲しいところだ。
 呪われて家族全員不幸フラグが立ったり、どこぞのホラー映画よろしく、寝ている隙に、包丁持った人形に『サクっ』ってのはカンベンだからな。
「なんなんだと言われましても……先程も申しましたが、舞カレン七の舞姫、紅の篝火としか……」
 篝火はそう言って困った表情で語尾を濁らす。少し伏せ気味の長いまつ毛が僅かに震え、その奥の桜色の瞳に困惑の色が浮かんでいた。
 もしかしたら、篝火自身、自分がどういう存在なのか、正確には把握していないのかもしれない。これは質問を変えた方が良いかもしれないな。
「なら……舞カレンって、何なんだ?」
 俺は篝火の桜色の瞳を見つめながらそう質問を変えた。
「お前はさっき『七の舞姫』って名乗った。つーことはだ、お前以外にもその舞カレンって存在するって考えて良いのか?」
 すると篝火は静かにコクリと頷いた。
「今から10年ほど前、秋葉原に一人の天才フィギアマイスターがおりました。その名をMA・JINといいます。MA・JINはご存知ですか?」
 MA・JIN……マ・ジン……魔人……いや、魔神かな?
 いずれにせよ聞いたことがない。つーかそもそも10年前って言ったらまだ小学生だ。流石にその頃に萌え系フィギアにハアハア言ってたらヤバイだろう。どんな小学生だよマジで。
「いや、知らないな。そういやショップの店長さんも、お前を譲って貰うときに、10年前がどうの……って言ってたっけな」
 そうそう、確か篝火のキャラは10年前の同人誌のキャラだとかなんとか……
「MA・JINの作るフィギアは、それは見事なもので、『まるで生きているようだ』と評判になり、いつしか『神の手を持つマイスター』と呼ばれるようになりました。
 しかしMA・JINは病に犯されており、長くは生きられませんでした。MA・JINはその生涯の最後に、自分の全てをつぎ込んで7体のフィギアを作りました。それが舞カレンシリーズです。舞カレンはMA・JIN最後にして最高傑作と言われたフィギアの総称です。
 私はその舞カレンシリーズの7番目、最後の舞姫として作られました。文字通りMA・JINが最後に作ったフィギアです」
 神の手を持つとまで言われた天才フィギアマイスターか……確かに、フィギアであった時の篝火はそう呼ばれても不思議はないほど精巧な出来だった。もっとも今は喋るわ、動くわ、原寸大だわ、おまけに大飯食らいと、まさに『生きているフィギア』になってるけどな。
「つまり、カガリの他に6人……いや、6体の舞カレンが存在するってわけか」
 そう呟く俺を見ながら、篝火は頷いていた。
「ええ、私の他に6体の舞姫が存在します。いずれも同じ時期に作られた、私の姉たちです」
 篝火は何故か少し誇らしげに背を伸ばしてそう言った。
「しかしなぁ、喋って動いて、おまけに飯まで食うんだもんよぉ……ホント、人形とは思えないよマジで。他の……舞姫だっけ? カガリの姉さん達も同じようなことができるんだろ?」
 すると篝火は「ええ」と即答した。原寸大の生きたフィギアなんて、二次コン患者からしたら夢のような話だな実際。おまけに反則的なビジュアルだし、さっき俺が壊れかけたのも無理ないだろ?
「つーかさ、そもそもなんで喋ったり動いたりできるんだよ。どういう原理なんだ?」
 俺がそう聞くと篝火は少し首を傾げた。
「私たちは『舞繰り』の魂の力でこの姿『生き形』になるようなんですが、どういった仕組みかまではわかりません」
 舞繰り? 生き形? なんかさらりと妙な単語が出てきたぞ?
「ちょ、ちょい待ち、なんだその『舞繰り』って? 魂がなんだって?」
 俺が慌ててそう聞くと、篝火は瞳をパチクリさせて不思議そうな顔をする。
「私たち舞姫に魂を分ける者、舞姫を舞わせることのできる魂の共有者、結城さんのような人のことを『舞繰り』と呼ぶのですが……ここまでは解りますよね?」
「わかるかっ! 初めて聞いたわそんなの。魂を分けるってなによ? 意味分かんねーし」
 俺がそう言うと篝火は「そうなんですか……」とため息をついた。いやいやいや、ため息付きたいのはこっちの方だよマジで。順を追って説明してもらわんとわかるわけがない。
「私たち舞姫には、『魂の欠片』が封じ込められています。その方法は私にはわかりませんが、MA・JINはその技術を使って7体の舞姫を作りました。ですがその魂の欠片だけでは不十分なのです。そこで必要になってくるのが、私たちに魂の足りない部分を分けてくれる人、舞繰りなのです。
 ただし、どなたでも構わないというわけではありません。もともとひとつである自分の魂を私たちに分けるのですから、その総量も多くないといけません。そしてなにより重要なことは、舞姫に封じ込められた魂の欠片に合った魂の『色』であることです」
 そんなトンデモな話を真面目な顔で話す篝火。いや、本人は大真面目なのだろうが、内容が内容なだけに、俺は驚くよりもむしろ呆れに近い心境だった。
「ってことはつまりなんだ? カガリは俺の魂で、その姿になっているってわけか?」
「ええ、正確には魂の一部……というより結城さんの魂の力を借りていると言ったほうがいいでしょうか。そのおかげで、私はこうして『生き形』を維持しているのです」
 篝火は俺の言葉に若干の修正を加えてそう答えた。
「俺が偶然カガリの中の欠片と同じ色の魂を持っていて、そんでもって偶然カガリを手に入れた……なるほど、そう言うわけね」
「偶然? ふふふ……」
 俺の言葉に篝火は含み笑いをこぼした。袖で口元を隠しつつ、悪戯っぽい瞳の色で俺を見る。
「今日あのお店で、結城さんが私を手に取ったのは偶然などではありません。3年前、初めてあの店を訪れたとき、私は結城さんを……いえ、結城さんの魂を見ました。それ以来、今日まで待ち続けていたのです。結城さんの魂が育つのを……
 私たち舞姫は、自分の舞繰りを選ぶためだけでしたら、ほんの少しですが因果に干渉できる力があります。3年前からあのお店に何度も足を運んだのも、今日10番の札を手にしたのも、すべては私と結城さんが巡り合う為の布石。全ては必然ですよ」
 えっと……なんつーか、その……こ、これってなんだか告白っぽくないか? いや、別にそう言う意味で言ってるわけじゃないってことぐらい俺でもわかる。わかっているんだが……
 俺は微笑む篝火から思わず目を逸した。わかっているがテレるもんはテレる。ましてや相手は超絶といってもいいビジュアルの持ち主だ。無理ってもんだろ?
「し、しかしなんでまたそこまでして、その……生き形だっけ? その姿である必要があるんだよ?」
 俺はテレを誤魔化すために、なんのけなしにそう聞いた。だが、篝火の答えはちょっと予想外だった。
「ああ、戦うためですよ」
「…………えっ?」
 ああ、そうなんだ……って軽く相槌を打ちたくなるような、そんな感じの答え方だったから、俺は最初聞き間違えたのだと思った。
「戦うって……何と?」
「それはもちろん、お姉様たちとですよ。それが私たち舞姫の存在理由ですから」
 あっけらかんとした表情で、その赤い髪の少女は聞き流せないことを言った。



7. 繰り人【くりびと】達の夜

 姉さん達と戦う……確かに篝火は今そう言った。
 戦う? なんだか物騒な話だが、今の軽い口調からしてゲームか何かか? それとも踊りか何かで競い合うのだろうか? フィギアナンバーワンを決めるコンテストでも開かれるんかな……?
 俺はそんな程度にしか考えていなかった。それほどに篝火の口から放たれた『戦う』という言葉は非現実めいた物だったからだ。
「最後に勝ち残った舞姫のみが、裁定者から『傾城』【ケイセイ】の意を授かります」
「傾城……? 何だそれ?」
 聞いたことねぇな。俺が首をかしげると、篝火は先ほど篝火の偽名を書いたレシートの名前の横に漢字を書いた。その字を見てもやっぱりわからん。どういう意味なんだ?
「それがどのような物なのかは私にもわかりません。ですが『傾城』を得た舞姫は奇跡を遂げる力が宿る、と伝えられています。私たちは無条件に傾城を得る事を目的に存在しています」
「奇跡ねぇ……」
 どうも胡散臭いな。そもそも表現が曖昧すぎていまいちピンと来ない。その傾城とかってのも結局なんだかようわからんし、『奇跡』って言ったって何をどう出来るのかもハッキリしない。某アニメの杯みたいに『何でも1つだけ願いが叶うんだぜ』って方が遙かにわかりやすいし納得できるってもんだ。
「まあ、今じゃよくある設定だな。最近は使い古しって感が否めない。もっとも原作は10年前って事だから当時は新鮮だったのかもな……」
 そんな俺の言葉に篝火は「はあ……」と少し首をかしげつつ答えた。なんにせよ俺にはあまり関係がなさそうだ。篝火の話を信じれば、篝火は俺の魂を借りて人化してるらしいから、篝火がなんだその、この場合『優勝』で良いのか? そうなれば少し嬉しいから、まあ応援ぐらいはしてやろうかと思う。
「まあ、何にせよがんばれよ、カガリ」
 俺がそう声を掛けると、篝火は花が咲いたような笑顔になり「はい、ありがとうございますっ!」と元気よく答えた。その表情を見たとたん、俺は完全にトリップ状態になった。
 この笑顔はやばい。確実にお味噌が萌え溶けるなマジで……
 俺が萌え死にそうになっていると、部屋のドアがノックされ姉ちゃんが入ってきた。
「ねえカガリちゃん、みてみてこのパジャマ。かわいいでしょぉ? 今日はこれ着て寝てね」
 そう言って姉ちゃんが広げたパジャマは半袖膝丈、赤い生地にやたらリアルなヤシガニがプリントされていた。
 俺は姉ちゃんに声を大にして聞きたい。可愛いかコレ?
「黄色のウミガメもあるんだけど、やっぱりカガリちゃんは赤かなぁって思って。去年インドネシア行った時に買ったんだけど、もったいなくって下ろしてなかったのよ。でも、カガリちゃんにあげちゃう」
 姉ちゃんはそう言って篝火を立たせると、その赤いヤシガニパジャマの上着を肩口に合わせて「いやーん、かわいすぎぃ〜」と奇声を上げている。
 わからん! そのセンスがまったくもって理解できんっ!!
 そういえば俺も去年、男物の青のリアルイソギンチャクのプリントTシャツを貰ったのを思い出した。で、確か親父はガルーダつー鳥の形をした栓抜きだった。くちばしの部分で栓を抜くのだが、抜く度にどういう仕掛けか「ぐぇ〜!」と鳴き声が出るつーもので、親父も気味悪がってあまり使ってなかった。
 う〜ん、弟として姉のセンスに狂おしく心配する。この先何年かして、姉の旦那になる人が、どうか包容力のある人であって欲しいと願うばかりだ。
「あ、そうだ、これから一緒にお風呂入ろう。私ね、妹と一緒にお風呂入るの夢だったの。女子トークしながら洗いっこしたり……きっとすっごい楽しいよ。ね? 一緒に入ろ?」
 と姉ちゃんは大はしゃぎだ。こんな姉ちゃんは初めて見るな。ウチは女は姉ちゃんだけだし、やっぱり同じ女同士のおしゃべりとかに飢えていたのかもしれないな。
 そんな姉ちゃんの誘いに篝火も笑顔で快諾していた。
「私の方こそ、お邪魔でなければ、是非お姉様のお背中を流させてください」
 そんな篝火の言葉に、姉ちゃんと篝火が風呂に入ってるのを想像してしまう。

『あら〜カガリちゃんって着痩せするのね〜 こんなにボリュームある〜』
『ああ、お姉様、くすぐったいですぅ〜』
『うふふふ、じゃあここはどうかしら?』
『いや〜ん、そ、そこは……』
『それそれ〜 うふふふふふっ』

 なんかとっても……百合です。
 俺がそんないろんな意味で体に悪そうな禁断妄想をしつつ、黙り込んでいたのどう見たのか、篝火は俺にも声を掛けてきた。
「結城さんの背中も、私がちゃんとお流ししますから、心配しないでくださいな」
 一瞬固まる俺の思考。だが姉ちゃんがそんなこと許す訳がない。結局篝火の提案は却下となった。
 ちっと惜しかったな……

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 フィギアショップ『ネバーランド』の店長、柊純一は潰した段ボールの束を仕舞うべく、店の裏にある搬入用シャッターの取っ手に手を掛けた瞬間、背中から声を掛けられた。
「こんばんは、柊おじさん」
 純一は振り向き、声がした方に目を凝らすが、午後8時半を回った今では、暗がりに人物を目視することは適わなかった。だが、純一はその声に聞き覚えがあった。
「珍しいな、アキ坊」
 純一がそう声を掛けると、暗がりから苦笑の気配が伝わってきた。純一は段ボールをシャッターに立てかけ、ジーンズのポケットから煙草を取り出して1本を口にくわえた。
「二十歳を過ぎた男に、坊はないでしょう?」
 苦笑気味でそう返す声の主が、路地向かいのビル陰からスルリと姿を現した。ベージュの七分丈のチノパンに薄い緑のポロシャツ。手前のビル裏に設置された蛍光灯の光で若干くすんだ感じの栗毛の青年、水守安岐銛である。
「ちょっと前まではこんなぐらいだったのに……」
 純一はそう言いかけ、左手を腰高で構えつつ、片手で器用に紙マッチを擦って咥えた煙草に火を灯した。
「ちょっと見ないとすぐこれだ。俺がおっさんになるわけだな。いくつになったよ?」
 紙マッチの火を消すついでに、口元にフワリと立ち上る紫煙を払う。そうして溶けていく煙の向こうに安岐銛を見ていた。
「先月21になったよ。大学3年さ。夏から就活に汗を流す事になるだろうね」
「就活……店は継がないのか?」
 純一はふぅっと煙を空に吹き、視線を泳がせながらそう聞いた。
「冗談。フィギアショップの店長……それもあんな小さな店のなんてゴメンだね。あの店は親父が作った。店を畳むのも親父って方がスジが通るってもんだよ」
 安岐銛はそう答えて肩を竦めた。そんな安岐銛の姿に純一は僅かに眉を歪めた。
「親不孝なことを言ってるよ。親父さん、可哀そうに」
 そんな純一の言葉に安岐銛は笑った。だが、その笑いは嘲笑めいていた。
「ははっ、親不孝……ね。麗子ちゃんが生きていてさ、今の俺はみたいに『店は継がない』って言ったら、おじさんは彼女に同じ台詞を言ったかい?」
 その言葉に反応して、純一の目元がピクリと痙攣する。しかし純一は無言のまま壁の蛍光灯を眺めていた。その姿はまるで、沈黙の証を立てる修道僧を連想させた。
 つかの間の静寂が場を支配する。安岐銛は冷めた瞳で純一を見つめ、純一は口元から立ち昇る紫煙を眺めていた。そして咥えた煙草が半分以上灰に変わり足下に落ち頃、その沈黙を純一が破った。
「……で、今日は何の用なんだ? 迎え盆にはまだ早いが、かつての彼女に手を合わせるってんなら勝手に上がって行ってかまわないぜ。3年ぶりだが、何も変わっちゃいないから。あいつの部屋もそのままだ」
 純一はそう言って振り返ると先程立てかけたダンボールを持ち、反対の手でシャッターを持ち上げた。その純一の背中を見ながら、安岐銛はギリっと奥歯を噛みしめつつ、爪を食い込ませる程右手をキツく握り締めた。
「人は心で愛し、人形は瞳で愛でよ……笑っちゃうよ、その言葉を吐いた張本人達が出来ていないんだからさ」
 安岐銛はそう言ってククッと喉を鳴らし俯いた。
「親父も……そしてあんたや他のお茶会メンバーも人なんか愛してない。結局あんた達は人形しか愛せないんだよっ!!」
 その安岐銛の怒声に純一が振り向くと、目の前に白いつむじ風が発生していた。純一は頬に当たる白い粒が冷たい事に気づき、驚いて目を見開いた。
 雪……だと…っ!?
 季節は初夏である。日が落ちれば涼みも味わえるが、日中は半袖でも汗が噴き出る陽気だ。しかし目の前のつむじ風に混じる白い粒は紛れもなく雪であった。
 そして、そのつむじ風がはじけるように霧散し、その中央にフワリと何かが舞い降りた。
 身に纏う純白の衣は何処までも清らかで、裾に描かれた薄紅色の寒椿が鮮やかに浮かび上がっている。そして先ほどのつむじ風同様、真っ白な長い髪が、質量を感じさせない動きでサラリと落ち、その前髪の向こうから覗く少女の顔が、色の絶えた瞳で純一を射るように見つめていた。そして次の瞬間、まるで風のような動きで純一めがけて右手を振り下ろした。
 鉄と鉄がぶつかり合う甲高い音が薄暗い路地裏に響き渡った。
 ――――っ!!
 白い少女の瞳に、僅かに驚きの色が混じる。
 見ると白い少女が振り下ろした右手に握られた鉄扇が、純一の額から10センチと離れていない位置で、同じような鉄扇に弾かれ動きを止めていた。
「引きなさい、雪風」
 白い少女の必殺の鉄線を横合いから受け止めたのは、これまた可憐と形容出来る少女だった。裾から這い上がるように淡くなる紫の衣に似合う紫の髪が夜風に揺れて淡い光を放つ。そして神の造形美と言っても過言ではないと思われる美貌に、藤色の瞳が揺らいでいた。
「時雨……姉様!」
 その言葉と同時に、紫の少女は白い少女の鉄扇を上に跳ね上げ、体を回転させながら鉄扇を横に薙いだ。一方白い少女はその一閃を鼻先で交わし、宙を跳ねるようにトンボを切って後退。安岐銛の傍らに音もなく降り立った。一瞬の出来事だったが、もしこの場に第三者がこの2人の少女の攻防を見ていたなら、まるで舞のように艶やかであったと言うだろう。それは美しく、可憐で、そしてどこか儚い2つの舞の衝突だった。
「紫の時雨……流石はおじさん、長女とはいえ仕込みが良い」
 安岐銛はそう言って唇を歪めた。そんな安岐銛を眺めながら、純一は最後の紫煙を肺いっぱいに吸い込み、煙を吐くと同時に煙草を捨て靴でもみ消した。
「白の雪風か……俺たちだけで始めようって言うのか? アキ坊」
 純一の言葉に反応して、傍らの紫の少女、時雨がスウッと純一の前に出る。優雅とも言える動作だが、纏う気配は明らかに殺気をはらんでいた。
 だが安岐銛はふっと力を抜き、肩をすくませて見せた。
「いいや、今日は挨拶……違うな、宣戦布告ってところかな。知った顔に自分の情が流されないかを確認しただけさ。けど自分は躊躇わないことを確認できた。それがたとえ、かつて愛した人の親であっても……ね。だから今日はもう引き上げるよ」
 安岐銛はそう言って純一と時雨に背を向けると、路地の向こうに歩き出した。しかし雪風は未だその場に立ち時雨を見つめていたが、「おいで、雪風」と安岐銛が声を掛けると、クルリと背を向けて安岐銛の後に続いた。
「あ、そうそう」
 ふと安岐銛が何かを思い出したようにそう言いながら振り向いた。
「紅の篝火が舞繰りを見つけたよ。と言ってもまあ何も知らないガキだから警戒する必要は無いだろうけどね。一応教えておくよ。遠からず残り4体も目覚めるだろう。そしたら改めて会いに来るよ」
 安岐銛はそう言って再び純一に背を向けた。そんな安岐銛の姿を純一は無言で見送った。そして安岐銛の姿が路地の暗がりに消えた頃、再びポケットから煙草を取り出し火を灯した。

『――――人なんか愛してない。結局あんた達は人形しか愛せないんだよっ!!』
 
 純一の鼓膜に、先ほどの安岐銛の言葉がこびりついていた。そうして今度は別の声が記憶の底からわき上がってくる。

『お父さんは何でお母さんと結婚したの? 何であたしを作ったの? 人形しか愛せないくせにっ!!』

 記憶の中の娘が、泣きながら自分を罵倒していた。気分を紛らわすために咥えた煙草の味は、反吐が出るほど不味く感じる。だが純一は咥えた煙草を深々と吸った。
「愛したさ……だけど上手くいかなかった。上手く伝わらなかったんだよなぁ」
 純一はそう独り言のように呟き、口に含んだ紫煙を吐き出した。
「言葉にしないとわからない。思ってるだけじゃ伝わらない。ホント面倒くさいよな、人間ってヤツはよ。そう思わないか? 時雨」 
 傍らに立つ、今は亡き娘と同じ顔を持つ紫の少女に純一はそう聞いた。そう、紫の時雨は三年前に他界した純一の娘、柊麗子をモデルにしているのだった。
「私には、それも愛おしいと感じます、純一様」
 そう言って微笑む時雨に、純一は麗子の面影を重ねた。この麗子は魂を共有している。言葉に出さずとも、自分の思っていることを感じる事が出来る。だが、それが同時に本物の麗子に永遠に近づけないと言うことを純一はよくわかっていた。こういうとき、それに否応なく気づかされてしまうことに胸の痛みを覚える。それが辛かった。
 純一は咥えた煙草を捨て、それをまた靴でもみ消した。
「悪い、つまらん事を言った。忘れてくれ……」
 そう言う純一に時雨は「はい……」と静かに答えた。純一はそれを聞きながら、今夜は少し酒の量が増えるだろうな、と思ったのだった。



8.クラスに天使がやってきた

 翌日の学校はかなりキツかった。特にいつもと違う授業やマラソン大会なんかがあるわけじゃない。ただ単純に眠いのだ。別に夜更かししたつもりはない。昨日は篝火の一件で色々あったから11時前にはベッドに横になっていたハズだ。で、たぶん寝入ったのも11時頃だと思う。
 あ、一応言っとくが、篝火は姉ちゃんと一緒に寝た。一時的とはいえ、妹のような存在が出来たことがよっぽど嬉しいらしく、姉ちゃんが篝火を放そうとしないのだ。そんでもって今日姉ちゃんは仕事を休んで、篝火の洋服をなどを一通りそろえるべく、篝火を連れ立って買い物に行くらしい。
 姉ちゃんは「私もコーディネートしてあげられるし♪」と朝から張り切っていた。まさに着せ替え人形状態だな。もっとも、元が人形だけに、あながち間違いでも無いような気がするが……ただし、姉ちゃんの趣味全開だと、キワモノな想像しか湧いてこないので、篝火には「なるべく自分で選べ」と釘をさしておいた。
 まあ姉ちゃんと篝火の買い物の件はひとまず横に置く。昨日はそんなわけで早めに寝た筈なのに妙な睡魔に襲われ、1限目の古典の授業で記憶に残っているのは教師の挨拶と、その後に言われた最初のページを開いたことだけだ。気がついたときはすでに2限目の数学の教師が教壇に立っていたのである。完全に記憶が無いので、まさに爆睡状態だったのだろう。
 確かに授業中に眠くなることは当然あるし、寝てしまうって事もある。しかし、朝一発目である1限目の授業で寝て、それまで全く起きずに2時限目に突入し、さらにその2限目の今も船を漕ぐなんて今までなったことが無い。夜に確実に7時間寝ているにもかかわらずだ。
 まあ昨日は色々なことがあったので自分で気がつかないほど心身共に疲労していたのかもしれないな。
 そんなこんなで、2限目の数学と3限目の英語を船を漕ぎつつなんとか凌ぎ昼休みとなった。
「結城ぃ、お前今日めっちゃ眠そうだな。昨日ルビィちんで遊びすぎたん?」
 俺が弁当を鞄から出そうとしていると、前からそう声が掛かった。見ると左手に弁当を持ったクラスメイトの新村が立っていた。新村はそのまま前の席の椅子をクルリと回転させこちらに向け、そのまま座り手に持った弁当を俺の机の上に置いた。
 こいつの名前は新村伸吾【ニイムラ シンゴ】。2年の時に初めて同じクラスになってからの、俺の数少ない友人の一人だ。こいつとは初めから妙に気が合い、3年も同じクラスだったので今でもこうして昼休みに顔を突き合わせて昼飯を食う仲である。
「1限目、始まってから瞬殺で完全に昇天してたろ? つーか劇版ルビィちんとどんだけコアなプレイしてんだよマジで」
 弁当を袋からだし、長い前髪をヘアバンドでとめながら新村がそう言った。俺から見ても顔は悪くなく、髪はロン毛で若干垂れ目気味だが、そこそこのマスクを持っているが、この会話からもわかるように、こいつも相当なヲタだ。
 俺の記憶では過去に2回、女子とつきあい掛けたことがあるのだが、2回ともその趣味のせいであえなく玉砕している。なんでもまず最初に自分のヲタを自分からカミングアウトするそうだ。前に聞いたら「そういうことは初めに言わないとフェアじゃないだろ?」と言っていた。しかし2回とも後で「やっぱ黙っておけば良かったかな……」と肩を落とし、俺が慰めるというパターンだった。
 こいつアホなんじゃないかと本気で思うことがある。でもその妙に律儀な所も俺は気に入っていたりする。なのでこいつとの関係は結構風通しがいいのだ。
「しねーって。つーか買えんかった……」
「マジで!?」
 新村が俺の答えに驚いてそう言った。手に持った弁当の蓋が机に落ちて乾いた音が響く。
 いや、オーバーだろそのリアクション。お前のそういう演技は無用だ。
「そっか……俺、結城なら死んでも手に入れると思ってたから、今日見せて貰おうと思ってたんだよなぁ。残念だお」
 ――――だお、じゃねぇ! ねらースラングは俺も嫌いじゃ無いが、お前はお前が妄想しているほど似合ってねーよ。
 しかし、まあなんだ、その代わりにとんでもないフィギアを手に入れたんでそれほどショックじゃないんだが、さすがに篝火のことは言えんな。たぶん言っても信じないだろうけど……
「ま、そういうわけなんで、残念だがお前のそのオーダーには答えてやれ……あ、あれ?」
 鞄の中をさっきから散々まさぐっていたのだが、ここに来てようやく俺はあることに気がついた。
「やべぇ、弁当忘れた……」
 やっちまった。そういや今日、1階の居間で弁当を鞄に入れた記憶が無ぇ。今から購買部に行ったところでロクなもん残って無いだろうし、校外のコンビニに行くのには担任の許可がいる。ちょっと考えるだけで面倒くさい。うーん……仕方ない、購買に残り物を探しに行くか。
 俺はそう考え、新村に「悪りぃ、ちっと購買行ってくる」と声をかけ席を立った瞬間「結城さん」と背後から声を掛けられた。それに反応して振り向いた俺は、驚いて声が出なかった。
 教室の後ろのドアの前に篝火が居たからだ。
「な……んで……!?」
 辛うじてそこまで声が出たが、それ以上は言葉が繋がらなかった。先程まで騒がしかった教室内も一瞬で静まり返り、全員の視線がが篝火ただ一人に注がれていた。
 篝火はさすがにあの初期装備ともいうべき着物ドレス(?)ではなく、ジーンズに薄いピンク色のボタンダウンシャツといった、ラフでどちらかというと地味なコーディネートだった。が、しかし元が3次元離れした容姿だ。後ろに結った長い赤髪と、反則的な美貌で目立ち過ぎるほど目立っている。教室の後ろのドアから入った篝火はスタスタと俺の前までやって来て、手に持った弁当を差し出した。
「結城さん、お弁当です。お姉様とのお買い物の前に届けに参りました。間に合って良かったですぅ」
 篝火はそう言ってニッコリ微笑んだ。
 そんな魂まで持って行かれそうな顔で『よかったですぅ』とか言われましても……
 その瞬間、俺を含めたクラスの男子全員が脳を溶かされる。新村など、口から飯粒がこぼれ落ちているにもかかわらず口を閉じることを忘れて篝火に釘付けになっていた。
「あの結城さん、今日は何時頃お戻りになりますか?」
 篝火はすいっと俺に近づきそう聞いてきた。その薄紅色の瞳に映る俺の顔がハッキリと確認できる距離でだ。上目遣いにそう聞く美貌のアップに脳が悲鳴を上げていた。
「あ、ああ、そ、そうだな……何処にも依らないつもりだから、4時前には、か、帰れるかな」
 俺がそう言うと、篝火は「そうですか」と言いながら微笑を浮かべた。
「お買い物はそこまで掛からないでしょうから、私は家で結城さんの帰りをお待ちしております。ですがもし何かあったら私を呼んでください。他の何よりも最優先で参ります故……では、桜子姉様が車で待っておいでですので、私はこれにて失礼させていただきます」
 そう言って篝火はぺこりとお辞儀をした。そして何事も無かったようにすたすたと入ってきた教室のドアの前まで行き、再びこちらにふりかえった。
「皆様、お騒がせいたしまして申し訳ありません。それでは失礼いたします」
 篝火はそう言い残し教室を後にした。教室内は水を打ったように静まりかえり、教室内の生徒全員がその様子を見つめていたが、篝火が見えなくなった瞬間、全員の視線が一斉に俺に突き刺さった。女子は好奇の目で、男子に至っては殺意すら感じる。
 こ、怖ぇぇぇぇぇっ!!
 その無言の視線攻撃に身震いした次の瞬間、いきなり胸ぐらを掴まれ乱暴に引っ張られた。俺の胸ぐらを掴んだ腕は新村の物だった
「おい赤城結城ぃぃっ! 何だ? 何だ今のは? 天使か? 妖精か? あの娘は一体なんなんだぁぁぁ!?」
 新村は胸ぐらを掴んでいた手を、今度は本格的に俺の首にかけ、グラングランと前後に振り出した。
 ちょ、まっ……に、新村、首、首締まってるからぁっ!!
 だが俺のその悲鳴は声にならなかった。
 


9.女帝からの誘い

「ほう……遠い親戚か……」
 最後の春巻きを飲み込み、新村はそう呟いた。ちらりと俺の目を見てから箸箱に箸を仕舞う。
「ああ、彼女の母親が母ちゃんの方と繋がってる……らしい」
 まあよくもこう、スラスラと嘘が出てくると自分でも感心する。もっとも完全に口から出任せだから後で姉ちゃんにも言って口裏を合わせてもらうとしよう。
 俺の答えに新村は「らしいってお前……」と声を漏らした。
「母ちゃん死んだの俺が小学校の時だったからな。だから母ちゃんの方の親戚はほとんど知らないんだ。何人かあったことがあるけど、葬式以来会ったことないから今じゃ顔も名前も思い出せん」
 これは嘘じゃない。俺はマジで母ちゃんの親戚はほとんど知らない。母ちゃんの葬式の時には会ってはいるはずなんだが、全然覚えていない。
「まあ、海外に住んでいたんなら、そうそう会えるわけもない罠」
 と新村は語尾に妙なアクセントをつけて頷いた。もう説明するのも面倒なので、どうか察していただきたい。
「で、家の事情で彼女だけ帰国して、お前ん家で面倒見ることになった……くぅ〜、何だよその萌えゲー設定っ! 美人の姉さんに帰国子女の美少女と一つ屋根の下で暮らすとか……くそ羨ましすぐるっ! 俺以上にキモヲタなのになんでお前だけぇぇぇぇ!!」
 と新村は机に突っ伏して机をガンガン叩いていた。
 おい新村、どうでもいいが『キモ』は余計だ。
「俺なんてそのおかげで振られまくりなのに。前回なんてルビィちんの話したら『キモ! 糞して寝ろ!』とか言われたんだぞ? アニメに萌えて何が悪い、フィギアにハアハアしちゃダメなんか? 萌はダメですか? 何罪ですか? 放火罪ですか? ああコラぁっ!?」
 俺的にその怒りを理解できるし気持ちもわかるが、フィギアにハアハアをカミングアウトはダメぢゃね普通? お前が部屋でフィギアにハアハアしてる姿は流石に俺でもちっと引くわ……
「でも、ヲタを辞める気はさらさら無いんだろ?」
「ああモチロン。アニメやゲームは日本が世界に唯一誇れる最大最高の輸出品だからなっ!」
 と新村は外務省の役人が聞いたら怒り出しそうなコメントを吐きつつ腕を組んだ。
「で、そのカガリちんはヲタとかに拒否反応とか無いんか?」
「う〜ん、たぶん無いんじゃね?」
 新村の問いに、俺はそう答えながら考えた。
 つーかそもそも篝火自体フィギアだからな。拒否反応とかしてたら自分を否定する事になりかねない。
「な、なら理想の女子じゃないかっ! なあ赤城、カガリちん、ちゃんと紹介してくれ。な? 心の友よ〜」
 新村は目を潤ませながら腕にすがりついて来た。俺はそんな新村に「無理だって」と返した。しかし新村はしつこく「紹介〜」と念仏の様に繰り返し、腕を揺すってくる。
 おい、飯が食えんだろが……
 と、その時、再び女子から声を掛けられた。
「ねえ、ちょっと良いか?」
 俺は一瞬、また篝火が何か言い忘れた事でもあって戻ってきたのかと思ったのだが、見上げた先の顔は篝火ではなく、俺の知っている女子ではなかった。
 この暑いなかでも、夏服のブラウスのボタンを首元までしっかり止め、背中まで掛かる黒髪は、しっかりとブラシを通してあるらしく、毛先まで綺麗に揃っており、その辺りをさらっと見ただけでも本人の几帳面さが伺える。なかなかの美形顔だが、その顔に掛かる細いシルバーフレームの眼鏡と、その向こうから覗く、人を見下したような視線が、全体的にシャープつーか、冷たい印象を見る者に与えているようだった。いや、立っているんだから実際見下してるんだけどね。
 ウチのクラスの人間じゃない。誰だ、あんた?
「どちら……さまで?」
 俺がそう呟くと、目の前の新村が大きなため息を吐いた。
「お前さ……自分の学校の生徒会長ぐらい覚えとけよ……」
「せいと……かいちょー?」
 思わずそんな呟きが漏れた。すまんが全然知らない。そもそも生徒会自体、俺に接点が見つからない。ここに本人が居なければ、新村に『何それ美味しいの?』と聞きたいぐらいだ。
「2組の朝倉と言う。今彼が言ったとおり、生徒会長をやらせてもらってる」
 朝倉……生徒会長……ねぇ…… マジで全然記憶にない。そもそも我が校の生徒会長が女子だったのを今始めて知ったりする。なんか口調も男っぽいしアニメかゲームに出てきそうなキャラだな。しかし、その生徒会長様が俺に一体なんの用なんだ?
 俺が怪訝そうな顔で「何の用?」と聞くと、朝倉は俺の目を見つめて目を細めた。
「さっきここで君と話していた私服の女の子の事だが……」
 その言葉に俺は内心ドキッとした。やべぇ、やっぱ部外者がノコノコ教室まで入ってきちゃうつーのは問題だったよな。担任にチクられると面倒だし、コッチから先に謝っておいたほうが良いかもしれない。
「ああ、親戚の子でさ。俺が弁当忘れちゃってて持って来てもらったんだけど、やっぱ教室まで入ってきちゃマズイよな。あいつ最近まで海外にいて、まだこっちに慣れてないんだよ。あいつにはよく言っておくし、俺も今度からは気を付けるから今回は見逃してくれない?」
 俺は少し早口でそう言いつつ軽く頭を下げた。朝倉に何かツッコミを入れられないようにする為だ。こういう見るからに几帳面そうなヤツは俺は苦手なんだよね。細かいツッコミされるとボロが出そうだし……
 すると朝倉はメガネの奥の瞳を少し見開いた。ちょっと意外そうな表情を作っている。
「親戚? 君はもしかして……?」
 朝倉はそう何かを言いかけ、チラリと俺の前に座る新村に視線を流すと、再び俺に視線を戻した。
「君に話がある。少し時間をとれないか?」
 はぁ? 
「ちょっと待ってくれ、俺まだ昼飯食べ終わってねーし。飯食いながらじゃダメなのか?」
 すると朝倉は周囲を見回して首を振った。
「ダメだ。君と二人だけで話がしたい」
 朝倉はそう言って俺の目を見つめた。女子からこんなことを言われたのは初めてでちょっとドキッとしたが、それも一瞬だった。朝倉の視線が妙に険を含んでいるように見えたからだ。
 個人的に注意しようってことか? 篝火が教室まで入ってきちゃったのがそんなにマズかったのか? ああ、めんどくせぇな、この三次元女子……
 が、しかし断って先生とかにチクられたら更に面倒なことになる悪寒がする。ここは素直に従っていた方がいいかもな。
「じゃあ放課後とかなら……俺、部活とか無いし」
 俺がそう答えると、朝倉は「かまわない」と頷き、ポケットから携帯を取り出した。
「携帯は持っているか? 持っているならアドレスを教えて欲しい。後でメールで場所を伝えたいから」
 俺はポケットからiPhoneを取り出し、アドレスを画面に表示して朝倉に見せた。朝倉は俺のアドレスを素早く打ち込むと携帯を折りたたみスカートのポケットに仕舞った。
「後でメールする。分かっていると思うが、くれぐれも一人で来てくれ。以上だ」
 朝倉は俺にそう念を押してからクルリと背を向けた。その際、背中にかかる黒髪がフワリと裾を広げるのを、俺はボンヤリと見つめていた。一方的で、終始高圧的とも言える朝倉だったが、その時だけは何故だろう? 少し寂しげな印象を感じた。
「ツイてねーな、結城。よりによってエカテリーナに目を付けられるとは……俺を差し置いてリア充決めてんからバチが当たったんじゃん?」
 新村はそうため息混じりに言い、同情めいた笑みをこぼした。
 何だその『エカテリーナ』って……
「朝倉凛【アサクラ リン】、成績優秀でスポーツも得意。常に冷静沈着で教師からの信頼も厚い。で、女子でありながら我が校初の2年連続で生徒会長に就任。けど、あの口調に高圧的な態度だろ? どこか他人を寄せ付けない雰囲気を醸し出しているからあまり友達がいないって話だ」
 新村はそう言って「ルックスは悪くないのになぁ……」とため息混じりに呟いた。
「んで、ついた渾名がエカテリーナってんだから気が利いてると思わん? もっとも本人に直接それを言える勇者なんてこの学校にいねぇけどな」
 エカテリーナねぇ……
 あの有無を言わさぬ雰囲気といい、冷たい印象といい、北の大国ロシアの女帝の名前は彼女のイメージにピッタリのあだ名と言えるかもしれない。つけた奴、グッジョブだぜ。
 しかし、そんな女帝様に目を付けらたのは厄介だなマジで。篝火の件絡みだからスルーも出来ないし……やれやれだぜまったく。
 俺はそんな憂鬱な気分のまま午後の授業に突入した。



10.黄金の少女

 放課後、俺は末広町近くの公園に向かった。朝倉に呼び出されたのだ。
 放課後女子に呼び出されたのが生まれて初めての俺だったが、理由が恐らく小言という事もあって、気分はブルーだった。何故放課後も生徒会長様から、しかも直々にお説教を食らわなければならないのか。指定された公園の前まで来ても腑に落ちない。
 正直自分の事だけだったら華麗にスルーする所だが、事がカガリがらみなのでこうして意に沿わない招集に応じているのである。
 ―――が、正直ここまで来たが足が重い。何せ相手はエカテリーナなんつードクロベー様も真っ青な異名を持つドSな女子である。そもそも、普通の3次元の女子に対する抵抗値がほぼゼロな俺がどうこう出来る相手ではない事は明白なわけで、あんな女帝を地でいってるような女子に反論など出来るわけが無い。
 俺が出来る対応策は、平謝りで姉ちゃん相手に鍛えた土下座1級の腕を存分に披露する他ない。心身共に疲労する技だが、この際仕方ないだろう。
 俺は幸せどころか運まで逃げて行きそうな深〜いため息を吐いて公園に入った。
 公園はこの辺りでは珍しく多目的グランドが併設された割と大きめの公園だった。グランドからは近所のガキどもがバットベースをやっていて騒がしい声が聞こえているが、公園の方は夕方近くという事もあってか、人も少なく散歩道をジョギングする女性一人とすれ違ったぐらいだ。
 俺はその散歩道を奥に進み、指定された広場にやってきた。広場の中央には藤棚があり、その下のベンチが待ち合わせ場所だが……
 俺が視線を移すと、そのベンチには制服姿の朝倉が本を読みながら座っていた。
 西に大きく傾いた陽光に照らされたその姿は、どこか神聖な女神像の様な佇まいで、俺は一瞬見惚れてしまっていた。
 新村も言ってたが、確かにビジュアルは良い。けど…… なぜだろう、その姿が俺にはとても寂しいものに見えた。
 俺はそんな考えを振り払い、朝倉に声を掛けようとしてふと考える。
 こういうシチュエーションのとき、果たして俺はどういう風に声をかけるんだ?
 さて困った。俺は自慢じゃ無いがこんな『女子と公園で待ち合わせ』なんつーシチュはゲームやアニメでしか見たことが無い。女子コミュ値ゼロどころかマイナスだ。俺は脳内で必死に引き出しを開けまくった。

『お待たせ。ゴメン、待たせちゃったかい?』
『ううん、私も今来たところだから』
『そっか、良かった』
『うん、うふふふ……』

 ―――――ないわー
 俺も言えんし、つーかそもそも朝倉のキャラじゃねぇな。

『陛下、お呼びに預かり、ただいま参上いたしました!』
『うむ、役目大義』
『ははー!』

 ――――MHKの大河ドラマかっ!?
 しかも妙に似合うから嫌すぎるわ!!

『じゃあ…… 行こうか……』
『うん……』

 ――――何処にだよっ!?
 
 俺がそんな脳内妄想に苦しんでいると、不意に朝倉が本から顔を上げてこちらを見た。俺は一瞬意表を突かれ「よ、よう」とぎこちなく片手を上げた。何とも陳腐な挨拶だ。
「来たか…… 2分遅刻。まあ今日は私が呼びつけたのだから構わんが、女性を待たせる男は嫌われるぞ? と老婆心から忠告しておこう」
 朝倉は左手首の時計をチラリと見てそう言った。
 怒られマスタ……
 つーか妄想してなかったら遅刻じゃ無かったんじゃね? つーツッコミは無しの方向で……
 しかし確かに遅刻だけど、2分って…… 沖縄に住んでる俺の叔父さんなんて『1時間以内は遅刻じゃ無い』って言い切ってたぜ?
「まあいい。早速本題に入ろうか……」
 朝倉はそう言ってパタンと本を閉じ、脇に置いてあった鞄にしまうとスッと立ち上がった。
「話は他でも無い。今日君のクラスの教室に現れた赤い髪の女の子についてだ」
 ほら来た。やっぱりカガリのことだった。どうやら見逃す気ははなはだ無いと見える。頭の固い生徒会長様だぜまったく……
「いや、だからそれは昼間謝っただろ? でもそんなに問題なのか? アイツが教室に入ったぐらいでそんなに目くじら立てて怒ることなの?」
 俺がそう言うと朝倉は眼鏡越しに俺を見て黙っていた。俺はそんな朝倉にたたみかけるように言った。
「なあもう勘弁してくれよ。俺が土下座でも何でもするからさ。カガリにも良く言い聞かせておくし。すいませんでした、このとーりだ」
 と俺は膝を着いて頭を下げた。なんか釈然としないがカガリのためである。俺の1級である土下座っぷりに免じて許してくれってばよ!
「顔を上げたまえ、赤城結城」
 頭の上でそう声が掛かり、俺はゆっくりと顔を上げて朝倉を見た。朝倉は無表情で俺を見つめていた。
「君は何か勘違いをしているようだ。立ちたまえ」
 そんな朝倉の言葉を受け、俺は首を傾げながら立ち上がり、制服の膝についた埃を払った。
「勘違いって…… だってカガリのことだろ?」
 俺がそう聞くと、朝倉はそんな俺を見て薄く笑った。
「無論彼女のことだが…… 」
「だったら、カガリがいったい何だって言うんだよ? アイツはまだ日本に来たばっかで慣れて……」
 俺の言葉を、朝倉は薄い笑みを絶やさぬまま遮った。
「そんな嘘は無用だ。舞繰りが舞姫を見間違うわけ無かろう? 赤城結城」
「な……っ!?」
 ちょ、ちょい待ち。今なんてった?
「朝倉、お前は……?」
 そう声に出した瞬間、朝倉は数歩下がりスゥッと右手を挙げた。俺はそんな朝倉を呆然と見つめていた。
「おいで、黄金の黄華【こがねのおうか】!」
 朝倉がそう言い放った瞬間、朝倉と俺の間にくるくるとつむじ風が巻きはじめ、みるみる大きくなっていった。そして不思議なことに、そのつむじ風に、何かキラキラした物が混じっていた。
「金粉……!?」
 そしてその金色のつむじ風は一際速く、そして高く巻いた瞬間ぱっと弾けた。続いてその中心に、フワリと何かが舞い降りた。
 日本の着物のような、ドレスのような服はカガリのものとよく似ている。しかしその色がカガリの様に赤では無く、黄色地に裾が金色で飾られている。そして目の覚めるような金髪を後ろ手に結った、この世の物とは思えない美貌の少女が、ゆっくりと顔を上げ俺を見た。
「舞カレンが三の舞姫、黄金の黄華」
 その黄色い、いや黄金色の少女は手にした扇子をヒラヒラを踊らせながら、その身に纏う煌びやかな衣装と体を披露するようにその場でクルリと回った。俺はその艶やかな姿に一瞬心を奪われた。
 なぜだかわからないが、間違い無い、と俺の中の何かがそう告げている。この少女はカガリ…… いや、紅の篝火と同じ、舞カレンシリーズの『舞姫』だと。
「朝倉…… じゃあお前も?」
 朝倉は俺のその問いに「ああ」と頷いた。俺は唖然としながら朝倉を見つめていた。
 知らなかった…… 迂闊だったぜ。まさかエカテリーナなんつー異名を持つような、女帝生徒会長のお前が……っ!!
 そう思うと俺は自然と口元が歪むのがわかった。やがてそれは含み笑いとなるのにさして時間は掛からなかった。
「フフ…… まさかだよ朝倉。マジで迂闊だったぜ、俺としたことがよ……今まで気がつかなかったなんてな。俺も鈍ったもんだ」
 夕暮れ時の静かな公園に、俺のそんな声が静かに響いた。
「久々に驚いたぜ。まさかあんたが…… あんたほどの女子が……」
 俺はすうっと右手の人差し指を朝倉と金色の少女に向けた。2人は俺の動作に僅かばかり緊張した様子で身構えた。
 ホント、ビックリだ。予想外にもほどがあるってもんだ。

「――――美少女フィギアヲタだったとはなっ!!」

 その瞬間、朝倉の眼鏡の奥の瞳がカッと見開かれた。ビシッと突き付けた人差し指のその先で、朝倉と黄金色の少女は俺を見つめたまま固まっている。
 朝倉よ…… いや、女帝エカテリーナよ。そんな銀縁眼鏡を光らせてクールに決めても、この俺の目は誤魔化せん。わはははーっ!!
 が、しかし朝倉とその黄華と名乗った黄色い少女は微妙な視線を俺に投げたあと、2人して俺に背を向けて何やら相談している。

「……ねえ凛、この人本当に舞繰りなの?」
「ああ…… そのはずだ。昼間教室で赤い髪の舞姫と親しげに話していた」
「赤い髪…… 篝火か。でもあの人何かモーレツな勘違いしてない?」
「うむ、確かに……」
「それに何この残念な感じ? 私、決めポーズまでしたのにスルーされた気がするんだけど……」
「いや、あの決めポーズは私もどうかと思うのだが……」
「あ、ひどーい! そんな事言ったら凛だって毎朝あの凄い量のぬいぐるみに挨拶するのもどうかと思うよ!」
「ちょ、ばっ、こ、声が大きい、聞こえちゃうでしょっ!」

 全部聞こえてるんだけど……
 でもエカテリーナなんつー渾名があるクールな朝倉がぬいぐるみに話しかけてるのを想像するのはオモロイ。あんなんで意外に乙女チックなんだな。
 それにしてもあの黄色い舞姫はカガリとはずいぶん印象が違うな。堅苦しいカガリとは対照的でフランクな感じだ。7体それぞれ性格が違うんだなたぶん。
 
「特にあの『亀れおん☆』だっけ? あれ両目がてんであさっての方向見ててちょっと怖いんだけど……」
「な、何を言うか!? あのシュールさが良いんじゃないか! 私が持ってるぬいぐるみの中では3本の指に入る可愛さだぞ。黄華は何であの良さがわからないの?」

 と、なんか二人で揉めている。にしても、何のコントだこれ……
 するとようやく朝倉がハッと俺の方を見ると、咳払いをしたあと改めて向き直った。朝倉の頬がほんのり赤いのが、昼間のクールな朝倉とギャップがあって面白い。
「と、とりあえず赤城結城、君の舞姫、『紅の篝火』を呼び給え」
 朝倉はそう俺に言った。
 はあ? カガリを呼ぶ? 何で?
「なんでカガリを呼ぶの? 意味わかんね?」
 俺がそう言うと朝倉は神妙な顔をして聞いた。
「――――君、ひょっとして何にも知らないのか?」
 その朝倉の問いに俺はちょっとイラッとした。なんだそれ? 知ってるさ、カガリは元はとんでもねーレアなフィギアで、超がつくプレミアがついてんだろ? でもって他に6体その舞姫ってのがあるってんだろ? そんなもんカガリから聞いてるつーの! この期に及んでその上から目線はどうにかならないのか?
「いや、つーかさ、カガリは今日姉貴と買い物行ってんだよ。でもアイツ携帯持ってねーし、呼ぶつったら家に帰って呼んでくるしかね−の。会いたいってんなら明日以降にしてくんねーかな?」
 まあ姉ちゃんの携帯に電話すれば良いのだが、なんか腹立つのでそう答えた。
「――――本当に何も知らされてはいないんだな…… んっ? ちょ、ちょっと待て、今なんと言った!?」
 はぁっ?
「だから姉貴と買い物に……」
「買い物…… 君の舞姫は、君の姉君と一緒に買い物に行っている…… と?」
 そんな朝倉の質問に俺は「ああ」と答えた。一体全体この質問の趣旨がさっぱりわからん。
 俺がそんな事を考えつつ首を傾げていると、朝倉は舞姫である黄華となにやら相談していた。
「一つ聞きたい。君がその舞姫と契約したのはいつだ?」
 朝倉は黄華とひとしきり相談したあと、俺にそう聞いてきた。
「契約……? なんかよくわからんけど、アイツを譲って貰ったのが12時ぐらいだっただろ……? んで、家に帰ってヒト化したのが4時ぐらい…… 昨日の今くらいかなぁ?」
 俺がそう答えると朝倉はちょっと驚いたように聞いてきた。
「ま、まさかそれからずっと『生き形』を維持しているのか?」
「あ? ってことはやっぱ舞姫ってフィギアに戻るの?」
 そういや昨日はあの後直ぐに姉ちゃんに風呂に連れていかれて、そのまんま姉ちゃんの部屋で寝ちゃったみたいだから聞き忘れたっけな。やっぱフィギアに戻れるんだ、カガリ。
 俺がそんな事を考えていると、朝倉と黄華は心底驚いたような様子で俺を見つめていた。オイオイ何だよ?
「に、24時間以上舞姫の『生き型』を維持できるなんてどんな魂よ…… ねえ、凛は最長でどのくらいだと思う?」
 そう動揺した声で聞く黄華に、朝倉も驚いた様子で俯いたまま答えた。
「いや、わからないけど…… たぶん私じゃ8時間は無理だと思う。その前に倒れてしまうんじゃないかな……」
 そして2人して俺を見る。あの…… さっきよりちょっと目が怖くね?
「まったく…… 舞姫を丸1日生き形にしておきながら普通に生活出来るなんてどれだけの魂を持ってるのよ」
 ちょっと待てよ? つーことは普通舞姫って常時人化しない物なのか?
「おい赤城結城、君はその状態で身体は何とも無いのか?」
 朝倉は俺にそう聞いて来た。そういや昨日カガリが言ってたな。俺の魂を借りてるとかなんとか……
 オイオイ、そんな風に聞かれるとなんだが不安になって来るだろ!
「いや、特に何とも……」
 無いと思う…… どこかが痛いとか苦しいとかもない。強いて言えば妙に眠いと言う事ぐらいだが。
「そういや、今日はやたらと眠かったな?」
「眠かったって…… それだけ? 魂の一部をずっと舞姫に供給しておいてたったそれだけで済むなんて……っ!?」
 朝倉は唖然とした顔で俺を見つめていた。
「我が妹ながら、とんでもない舞繰りを見付けたもんだわ……」
 黄華も腕を組み、こめかみに人差し指を添えながら呆れたようにそう呟いた。
 ふむ、どうやら今日の午前中やたらと眠かったのはカガリの影響のようだ。なるほど…… つまり俺の魂の一部を使って人型を維持しているから、その供給源である俺に何らかの影響が出てくるつー事のようだ。
「でもこれは…… 驚異ね」
 ふと黄華が右手の金色に輝く鉄扇をフワリと仰ぎ、俺を見つめた。その動作はカガリと同じように、優雅というか艶やかといった感じだったが、その瞳が僅かに不穏な色に染まったように見えたのは俺の気のせいか?
「ええ、確かにそうね。生き形の持続時間が長いというのは、それだけ舞姫を舞わせる時間が長いと言う事になる。何も知らない今のうちに潰しておいた方がいい」
 そう言う朝倉の瞳もなにやら剣呑な色に染まっている…… 様に見える。ちょっと待て、なにやらとてつもなく物騒な話をしてねぇか、キミタチ?
「お、おい、何言って……」
 思わず声がうわずった。つーか潰すって意味わかんないんですけど!?
「別に命をどうこうする訳じゃ無い。ちょっと痛めつけて魂を弱らせるだけだ。なに、心配は無用だ。後遺症もほとんど無い様にするから安心しろ。そうだな…… 『だめ〜』が『らめ〜』になるぐらいかな」
 馬鹿野郎、銀縁眼鏡光らせて何言ってんだよ朝倉てめぇっ! どんなエロゲだそれっ!?
 俺の頭の中のずっと奥の方で、危険を知らせるベルが鳴っていた。
2013-01-14 17:03:30公開 / 作者:鋏屋
■この作品の著作権は鋏屋さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めての人は初めまして。お馴染みの人は毎度どうも。
鋏屋でございます。
皆様、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
てなわけで、年明け初回の更新です。いやもう定番お約束展開まっしぐらで良いのか自分? と思いつつ、ま、いっかw と思い直し(開き直って?)書いてます。
この回で4体目の舞姫が登場します。黄金の黄華【コガネノオウカ】と読みまして、感情は『歓喜』です。非常にフランクで明るい性格で、安岐銛の雪風とは対照的な舞姫です。特性は『光』を操る舞技を使います。
しかし個々でようやく4体目とかもうね……
いや、がんばろうw
鋏屋でした。
この作品に対する感想 - 昇順
 ちゅ、厨二病だァァァーーーー!! というワケで読ませて頂きました。
 人形遣いを『舞繰り』っていう表現が一番好きです。個人的にはひらがなじゃなくて、二文字にするか、『り』も漢字にしてしまった方がよりらしさが出るかなぁと思ったりw
 いやぁ、鋏屋さんが嬉しそうに筆を走らせている姿が思い浮かぶようです。勢いがあって読みやすいです。

 さておき、本編については、まさにこれからという所で続くでしたね。赤髪で礼儀正しいキャラってあんまり見ないから、新鮮です。鉄扇使いは無条件に燃えるなぁ。
 それにしても、マイナーな同人誌からフィギュアを作るって、いったい何があったんだろ……?

 ではでは〜
2012-11-12 21:15:27【★★★★☆】rathi
ちゅ、厨二病ですともぉぉぉ―――!! と返してみますたw
感想&ポイントまで! 感謝ですw
今回は勢いとわかりやすさをテーマに書いてます。ある程度の無理のある解釈もキャラでねじ伏せる的な感じです。7人(7体)で戦って最後に残った人は……っていうドストレートな構図です。
余計なこと考えず、笑って、泣いて、萌えて、たぎってくれたら嬉しく思います。
『舞繰り』は当初『舞繰邐』(つらなるって意味で)って書いたんですが、なんか忍者っぽく(なんだそれ?)感じたのでやめました。でも『舞繰』でマクリって読ませても良かったかなぁ……
因みに、この秋葉原は日本の秋葉原ではありません。上野だのどっかで聞いたことのアル地名もありますが、『日本によく似た国』って設定なので、似て非なる物です(いやむしろ違うところが無……モゴモゴ)ですから何でもありかな(マテコラ!)
こんなしょーもない物語ですが、次回もおつき合いくださいませ
鋏屋でした。
2012-11-13 12:30:28【☆☆☆☆☆】鋏屋
鋏屋さま読ませて頂きました。
えっと面白かったですw主人公の赤城君のキャラや妄想のテンポがよくて楽しく読めました。フィギュアとかあまり詳しくないのですが、ハマッてる人達はこんな感じなのかなと思ったり「駄菓子菓子」がじわじわきて、続きお待ちしてますw
2012-11-22 20:09:55【★★★★☆】シン
》シン殿
初めまして(で良いんでしたっけ……?)鋏屋でございます。
感想&ポイントまで!? 感謝ですwww
面白いと思っていただけて何よりです。このお話はあまり込み入った設定などを入れずに作っている単純なお話ですので、なーんも考えずに読んでくだされば良いように書いてます。ま、そりゃ少しは設定ありますけど、それよりもテンポの良さと言いますか、勢いで読めればと思っております。
ホント厨二丸出しのお話ですが、よろしくお願いいたします。
あ、一応断っておきますが、私はロボ系(主にガンダム)のプラモやガレキは大好きですが、フィギアヲタではありませんw
鋏屋でした。 
2012-11-24 09:59:02【☆☆☆☆☆】鋏屋
てめえ。おいコラてめえ。ふざけんじゃねえぞ。言わなくても判ってるよな、ああそうだよな。こねくり回すぞ虫コラ。
さてまぁ、それは置いておいて敢えてちゃんと感想を書こう。
前にハサミムシだったか誰だったかに言ったことがあるんだけれども、個人的には「完成された厨二病」は最も面白いと思ってる。だから厨二大いに結構だし、自分が書くのももっぱらそういうのだし、そういうのの方が読んでて面白い。作者のオナニーも上等である。受け入れてやんよと思ってる。ただ、「中途半端な厨二病」はゴミだ。不細工のオナニーなど見ていても何も興奮しないし嫌悪感しか出て来ない。それと同じだという訳だ。
真面目な感想を書くとするのであれば、「設定」や「キャラ」は大いに結構。相変わらずにやりたいことを好きにやってんだなこのハサミムシは、と思えて爽快である。が、個人的には「描写」が足を引っ張ってる気がする。どうも地の文、会話以外のところに「素のハサミムシ」が見えてしまって乗り切れない。主人公がそのまま「解説と一緒に描写を形成」しているせいで上手く物語に入り込めないんだ。具体的に言うと、「相変わらずの厨二病だなぁ」とニヤニヤして読んでいる中で、ふと脳裏に四十のおっさんがオナニーしてるシーンが見えてしまって萎える、とかそういう感じだ。いや書いてて意味わからんが、イメージではそんな感じだ。
つまりだ。書きたいことを書くのはいいんだ。物語もキャラも設定も好きに書けばいいんだ。キャラがどれだけ暴走してもいいし、「 」の中なら何を言わせてもいい。ただし、描写にはそのノリを出さずにしっかりと固めて流れに乗せることが出来るのであれば、化けるんだろうな、とはいつも思う。あれだよ、目的は変えなくていいんだよ。今のようにやりたいことをやればいい。その中で、手段を変えてみないか、っていう。手でやってたのをオナホ使おうぜ、っていう。あれ。自分ってこんな下ネタを普通に言う人だったっけ。最近ご無沙汰だったからキャラ変わってね?アク禁とかされねえよね?
狸さんやakisanさんみたいにちゃんとした指摘は出来ないけれども、とりあえずそんな感じ。願わくばもう順番はどうでもいいから、ちゃんと最後まで終わらせろよ、と思いながら待っている。しかし厨二病の小説ってさ。その「設定」のせいで、基本的にクソ長くなるんだよな。
2012-11-27 14:42:32【☆☆☆☆☆】神夜
遅ればせ拝読しました。水芭蕉猫ですにゃん。
うーんと、とりあえずお約束としてちゅ、厨二病だーーーー!! よし、スッキリ。中二病でしたね。香ばしいほどの中二病でした。中二病も大好きなんですよ私は!! 個人的にはこう、しゅっとした美人も良いけど妖しく美麗なお兄様も良いよね的な中二病患者なんですけどね。
さてはて、今の所中二らしい中二なのですけれど、フィギュア(もしくは人形)を使ったバトル作品って結構多いので、ここからどういう風に差別化を図っていくのか個人的に注目してみたいです。フィギュアじゃないけど何となく漫画の「セキレイ」を思い出しましたよ。
しかし、主人公の姉ちゃん可愛いなぁアホ可愛いと思う。
2012-12-11 22:34:26【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
≫神夜兄ぃ
感想どうもですw まあこんなにも食い散らかしてても、それ全部読んでくれてて感想くれる兄ぃが私は大好きですwww(マテコラ)
いやはやほんとに面目次第もござーせん。一度詰まると頭が真っ白になるんですよ。シンクロウなど、ボツにした原稿はたぶん150枚くらいになってます。コンスタントに書ける人がうらやましいねたましい。
ともあれ、貴重な感想感謝です。前にも台詞と地の文の境界が曖昧だという感想をいただいたことがあるのですが、そのあたりなのかなぁと思ってます。ちょっと手法を変えてみようかと思います。
ところで、兄ぃの新作はまだ無いんですか?w

≫猫殿
感想どうもです。ええもう厨二末期です。ノリと妄想だけで書いてる悪寒が……
お話も単純な物にしようと思って書いてるんで、わかりずらい設定はあまり考えて無いです。
セキレイって知ってるんですが読んだことがなくってアレですが、こんな感じの話なんですか? 今度読んでみようかな……
主人公の姉さんは基本真面目なんですが、センスが極悪という設定です。あの姉さんを書くのは私も楽しいんですが、暴走が始まるとページがいくらあっても足らなくなるのでほどほどの登場にしようかと思ってw

お二方とも感想ありがとうございました。また次回もおつきあいくださればうれしく思います。
鋏屋でした。
2012-12-16 11:35:57【☆☆☆☆☆】鋏屋
 どうもっす。
 はい、一気に読ませていただきました。いやはや、これタイトルも作者名も教えられず読んだとしても、自分は「あ、鋏屋さんのだ」と気づける自信がありますね。それくらい鋏屋さんの味……いや、好みというべきか、とにかくそういうものが出ている作品でした。たぶんノリノリで書いてるだろうなあというのが、読んでるだけで伝わってくるのですから大したもんです。
 どうしよう、カガリビより時雨の方がたぶん好みだ。というわけで「チェンジ!」と叫んでしまいたい。いや、カガリビ(変換できない)ちゃんもいいとは思うが、ああいう「引きなさい、雪風」と冷静に言えるタイプの方が断然好みなわけだ。
 そして人間では安岐銛を一番応援している。なぜなら同じ就活生だから。つまり、自分の中では現在時雨チーム>雪風チーム>篝火チームという応援形態をとっている。だから主人公の敗北を願う(暴言)。
 どうでもいこと。篝火ちゃん、人間になった直後に「母様より云々」って台詞があるんだが、思わず「お前母親いんのかっ」と驚いてしまった。母様なるものがMJINなのかな。けどあれって男だよね? この辺の謎もいずれ解けるのかな。
 まあ、なにはともれ更新楽しみにしております。ではでは。
2012-12-24 03:11:31【☆☆☆☆☆】コーヒーCUP
まぁお約束だわな。こういう状況で自分のクラスに来るっていうのは。妄想はたぶん誰でも一度はするよね。うん。
今回は簡潔に書くけれども。――少し登場人物増やし過ぎじゃね? 収集つくの? 漫画やアニメと違って、見た目でインパクトつけるだとかが出来ないから、文章やある種の個性で賄わないとならないんだけど、大丈夫か。ごちゃ混ぜになりつつあるぞ自分の頭の中。まだドールいっぱいるし、その相方もその数だけいよう。全部出さないっていうのも手だけれども、収集つくんだろうか。それが心配でごじゃる。
2012-12-26 13:44:45【☆☆☆☆☆】神夜
ども、読ませて頂きました。前回は読んでいながらも感想を残せずに申し訳ないです。
さておき、今回は定番でガッチリと固めて来ましたね。これはこれで良かったりもするのですが、もうちょっと波があっても良かったかなぁーとも思いました。
クラスメイトがカガリに詰め寄っていて、パニクって扇で吹き飛ばすとかw あぁ、でもそうなるとカガリっぽくは無くなってしまうのか……。難しい所ですね。
エカテリーナって誰だ? と思ってググったら、なんか凄い所から名前を引っ張ってきたなぁと。次々と現れる登場人物とドールシリーズにワクワク感はあるのですが、やっぱりもうちょっと個々を掘り下げて欲しいなぁとも思ったり。
多分、きっと、これからそうなる気はしますが。
それにしても筆が速くて羨ましい。

ではでは〜
2012-12-29 13:55:58【☆☆☆☆☆】rathi
拝読しました。水芭蕉猫ですにゃん。
定番大好きです。はぁはぁ楽しく読ませていただきました。鋏屋さんはキャラの立たせ方が上手いですよね。とくに女性。エカテリーナかぁ。怜悧な女性はとても好きなので、彼女の動向に注目ですね。私としてはこれから少しずつ掘り下げて貰えれば大いに満足できるので、是非ともこのまま突っ走っていってほしいです。何か裏にもたくさんあるっぽいですし、素直に楽しみにしていますよ!!
あと、新村君。フィギュアにハァハァするのは私も似たような人種なので何にも言えないです。そういうわけで、同じ種類の男性フィギュアにはぁはぁする女性を探せばいいんじゃないかな!! これでお互い恨みっこなしだ。
何やらよく解らない感想ですが、これにて。
2013-01-06 00:06:08【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
>>コーヒー殿
感想どうもです。お久しぶりですねw
そうか、コーヒー殿は時雨が好みですか。まあ7人(7体?)の一番のお姉さんなので冷静かもですねw 
あとなるほど、同じ就活生だからという理由で安岐銛を応援するってのが面白いw 安岐銛君には色々と用意してるので、今後彼がどうなっていくのかも一つのテーマです。
おお、なかなか鋭い考察ですね。さてどうでしょう? 今後そのあたりも書いていこうかと思ってます。

>>神夜兄ぃ
感想どうもですw ええもうお約束です。このお話はお約束展開ばっかりかも知れません。
登場人物多いですか? そうか…… 最も舞姫と舞繰りだけで14人だから多いな……
実はこれにもう一人加わる予定なんですが、なんか自信なくなってきたっす。
も、もう少しすっきりさせようかな? 貴重なご意見ありがとうございました。

>>rathi殿
いえいえ、ほんと時間のあるときで構いません。忙しいのにわざわざ感謝ですw
いやもう定番お約束展開で済みません(汗) 個々の掘り下げは少しずつしていこうかと思ってます。舞姫の名前考えるのに結構苦労してます。舞姫は『感情』とそれにちなんだ『色』を名前にしています。時雨は『悲しみ』雪風は『冷徹』篝火は『情熱』といった感じ。で、各々それにちなんだ特性を持つ舞を使います。最初は『七つの大罪』をモチーフにしようかと思ったんですがねw

>>猫殿
感想どうもですw はぁはぁ読んで貰って嬉しいです(おい)
エカテリーナこと朝倉もあんなにクールですが、実は色々と考えているので、ご期待に添えられるか正直微妙ですが……
しかし新村に同意してくれるとは思いませんでしたw 私はフィギアよりプラモなので、正直フィギアを眺める心情という物をよく理解できていません。何といいいますか、手足を自由に動かせないのがどうも…… あと機械じゃないと……
でもきっと私がMS06とかにポーズ撮らせて悦に浸っているのと同じ感覚なのでしょうねw

皆様、感想どうもありがとうございました。またおつき合いくだされば嬉しく思いますw
鋏屋でした。
2013-01-14 16:23:32【☆☆☆☆☆】鋏屋
ギャップの出し方の問題だろうか。やりたいことは判るし「お約束だけど、だからこそ面白い」の雰囲気も出ているんだが、一歩足りない。それはつまり女帝と接触して、ほとんとエピソードも無いままそこに到達してしまったせいか。素直に「きゃわわ」と思えなくて、「いきなりデレたぞなんだこいつ」という、置き去り感の方が強くなってしまう。あと2クッションくらいあってもよかったと個人的には思う。こういう魅せ方というかキャラというか、個人的に好きだから非常に惜しく思えてしまった。
2013-01-17 14:42:11【☆☆☆☆☆】神夜
鋏屋さま続き拝読させて頂きました。
登場人物が一気に増えたのに混乱せず読めました、書き手としては大変そうですがwお姉さんや父親の反応とか友達やクラスメイトの反応やらの定番が個人的に安心して見れたのが嬉しかったです。主人公特有のチートポテンシャルも用意されててわくわくが止まりませんw大した感想が書けずに申し訳ありませんが最後に分からない事が一つ「『だめ〜』が『らめ〜』になるぐらいかな」ってどういう事でしょうかw続き楽しみ待ってます。
2013-01-21 20:42:33【☆☆☆☆☆】シン
拝読しました。水芭蕉猫ですにゃん。
エカテリーナが女帝じゃない。女帝じゃないよ!! というと、神夜さんと感想がかぶってしまう。うぅんどうしよう。今回現れた黄華たんはまだあんまり掘り下げされてないから何とも言えないし、これからバトルのだろうからそっちに期待しよう。
というか、結城くんの魂のデカさが桁違いっぽくて、そこらへんがこれからのキーにもなっていくのかなぁなんて思ってみたり。うん、今回の話が短い!! と思うくらいに続きが楽しみです。
2013-01-28 23:26:18【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
女帝キャラには人一倍厳しい自分がやってまいりました。
そうですよね、みなさん言っておられますけど女帝らしくなかった。朝倉さん登場した時には「完全に俺好みのキャラだわ。きちゃったわ」みたいな状態だったんですが、今回の更新で「うーん……」となりました。いや原因はわかりきっているんだ、弱みを見せるのが早すぎた!この一点につきる。
女帝キャラである以上冷静沈着でどこか冷徹でいて欲しい。そういうそぶりが少なかったのにぬいぐるみのくだりとかで一気に弱みを見せちゃったから、ここで崩壊。
ごめんなさい、辛口になっちゃってます。けどこれ鋏屋さんへの苦情なのか。単純に自分の理想の女帝キャラを書いただけかもしれない。だめだ熱くなりすぎた。すんません。
けど内容はいよいよって感じですね。そうですよ、主人公がこういう巻き込まれかたをしないと、バトルものは始まったって感じがしません。わくわくしてきました。盛り上げ方はさすがだったと思います。
ところでなんだかんだ言いましたが、自分朝倉さん好きなんですよ。で、これで応援する順位が朝倉黄華ペアが最優先になりました。またしても主人公篝火ペアの敗北を願うことになりました。
さて、ちょっと自分でもどうかと思う感想でしたが、次回も期待して待ってます。では!
2013-01-30 03:29:38【☆☆☆☆☆】コーヒーCUP
ども、読ませていただきました。
おぉ、やっとバトルモノっぽくなってきた。舞繰りバトルってどうなるんだろなー。扇使いってだいたい陰が薄くなるから、どんな風に暴れてくれるのか楽しみです。
さておき、主人公の魂パワーがすげぇ。オタク? オタクパワーなの? だとしたら朝倉さんも結構なオタクなんだなぁ。まぁ、みさくら語知ってるぐらいだしなぁ。
そんなワケで、次回も楽しみに待っています。

ではでは〜
2013-02-03 17:19:12【☆☆☆☆☆】rathi
 何やらぼくの知らない世界が広がっている……電車の中で読んでいたのですが、控えたほうがよかったかもしれませんね……隣に女子高生座ってたし……
 などと言いながら、鋏屋さんにはいつもサブカルチャー(?)を勉強させてもらい、感謝しております!
 読んでいてとても楽しかったです。設定についてはみなさんおっしゃられているように、多少の難はあるのかもしれませんが、それでも「上手いなあ」と思えるほど文章がすらすら自分の中に入ってきました。次回にも期待させていただきます。
2013-02-22 22:55:38【★★★★☆】ゆうら 佑
 こんばんは、鋏屋様。上野文です。
 御作を読みました。
 ピグマリオンの時代から、人形に愛を注ぐ者は絶えませんから…。
 って主人公がポジティブな意味でバカだった!?
 すんなりバトルに移行しそうにないですが、それもまた魅力なのかな、と。
 面白かったです!
2013-02-23 22:00:22【☆☆☆☆☆】上野文
こんにちは、鋏屋様。江保場狂壱です。感想は初めてです。
主人公がオタクで事件に巻き込まれる展開ですね。お約束で安定していると思います。
ただオタクを強調する部分はくどい気がしました。もう少しさらっと流したほうがいいです。
ですがカガリとの絡みは面白かったです。オタクを説明するより、カガリなどのキャラと関わったほうがいいですね。
徐々にキャラが増えていき、展開が楽しみです。
2013-05-12 14:30:53【☆☆☆☆☆】江保場狂壱
計:12点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。