『パートナー・ゼロ 〜七話目〜』作者:rathi / t@^W[ - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 僕が落ちこぼれ以下だと知ったのは、小学校に入学した時だった。


 百年ぐらい前に、百体の精霊を連れ、世界を救った英雄が居た。彼は戦友である精霊たちの事を、『パートナー』と呼んでいた。
 当時の国王はその言葉に感激し、英雄を讃えると共に、パートナーを用いた魔法教育を義務付けた。
 それが魔法社会と、そして『パートナー制度』の始まりだった。
 パートナー制度とは、義務教育が始まると同時に、選んだ(選ばれた)精霊と契約する儀式の事を指している。この時に契約したパートナーとは、生涯を通し、戦友として共に歩むことになるんだ。
 だから入学式は、小学校の体育館ではなく、『精霊広場』と呼ばれる場所で行われる。ここには同じぐらい幼い精霊たちが集まっていて、少年たちはその中から気に入った精霊を選ぶことが出来るんだ。もっとも、それは精霊側からも同じで、気に入らなければ逃げてしまう事もあるんだけれど。
 その時の僕は、幼稚園からの友達と一緒に精霊選びをしていた。
 あの犬みたいな精霊がカッコイイなぁ。ネコっぽい精霊も良さそうだ。うーん、アレも良い。コレも良い。すぐに目移りしてしまう事に困りながらも、僕は嬉しかった。きっとそれは、精霊たちも同じだったと思う。いったい、どんな人が自分のパートナーになるのかと、ワクワクしていたに違いない。
 一番最初に決まったのは、意外にも、落ち着きがなくていつも先生に怒られていた子だった。先生の説明が終わる前に、「これ!」と言って選んでしまったのは、さすがの先生も呆れ顔だった。
 時間が経つにつれて、パートナーを決めた同級生があちこちから出てきていた。僕が楽しそうに迷っている間にも、どんどん増えていったんだ。
 早くカッコイイのと契約しなくちゃ。僕が焦り始めていた頃にはもう、既に半分以上のクラスメイトがパートナーを見つけていたんだ。辺りでは、自分が選んだパートナーの自慢合戦が始まっていた。その時の僕は、それが羨ましくて堪らなかった。
 一人、また一人と決まっていき、友達も僕の側を離れていった。早く、早くパートナーを見つけないと。焦燥感は増すばかりだった。
 その時、龍の姿をした精霊と眼が合ったんだ。
 あっ、カッコイイ! パートナーにしたい! やっとそう思えた精霊を見つけた僕は、走り出していた。他の誰かに、とられたくなかったんだ。
 契約といっても、特別な儀式はない。気に入られれば、パートナーが自分の後ろを付いてくるようになるからだ。
 どんな魔法を使えるんだろう? どんな風に成長していってくれるんだろう? 僕は、思いを馳せた。きっと、誰にも負けないような素晴らしいパートナーになるだろうと、確信をしながら。
 ねぇ、僕のパートナーになってよ!
 伸ばした手は――何も、掴めなかった。龍の姿をした精霊は、僕に興味を無くしてしまったかのように、フワフワとどこかへと飛び去って行ってしまった。
 気が付けば、パートナーが居ないのは……僕一人になっていたんだ。
 早く、早くパートナーを見つけないと。僕一人が遅いなんてイヤだ。これじゃまるで、落ちこぼれじゃないか。早く、どんな精霊でも良いから。早く、早く……!!
 僕は、周囲をぐるりと見渡した。
 ……あれ? 精霊は? 僕のパートナーはどこに居るんだ? どうして……? 虫の声や、木々の擦れる音で賑やかだった筈の精霊広場が、いつの間にかシンと静まりかえっていた。
 おーい! どこに居るんだ!? 早く出ておいでよ!! 僕はまだ、誰とも契約をしていないよ!! 僕はまだ、パートナーが居ないよ!?
 耳鳴りがするほど静まりかえった公園に、僕の声が虚しくこだました。何度叫んでも、精霊は――出て来なかったんだ。
 引率の先生が僕の肩を叩き、悲しそうな声で、しかし冷たく無慈悲な言葉を言い放った。
 貴方のパートナーは……居ないのよ、と。
 いつの間にかクラスメイトたちは、離れた場所に移動していた。さっきまで楽しく話していた友達も、その中に居た。みんな、新しいパートナーに夢中だった。僕のことなど忘れて。
 僕は……その輪の中に入ることが出来なかった。――いや、見えない壁が、入る事すら許してくれなかったんだ。
 パートナーが居ない。それが意味する事を知ったのは、その時だった。
 他とは違う。傍らの存在が居ない。ただそれだけ。何も悪いことなんてしてないのに。ただ……それだけなのに。
 その日から、僕は独りぼっちになった。
 学校で、社会で、そして……家でも。
 随分と後に、僕のような人のことを、こう呼んでいることを知った。

 『パートナー・ゼロ』――と。

 ※

 独りぼっちの小学生時代を終え、僕は中学生になった。だけれど、今度は独りぼっちの中学生時代が始まったに過ぎなかったんだ。より一層、辛くて苦しい時代が。
 授業は基礎勉学よりも、パートナーを育成する授業の方が多くなっていった。無垢だった少年少女は、魔法社会という実力主義に染められていき、他者よりも優位に立とうと攻撃的な性格になっていった。
 パートナーが居ない僕にとっては、それはただ虚しいだけの授業であり、机に突っ伏していつも寝たふりをしていた。僕は関係ないんだ、とでも言うように。
 でも、ダメだった。彼らは、少しでも優越感に浸りたかったんだ。
 最初のイジメを受けたのは、中学一年の夏。覚え始めの力を抑え付ける事が出来ず――いや、それを試す場所を探していた彼らにとって、反撃できない僕は格好の的だったらしく、よく無意味な暴力を振るわれていた。
 僕が、何をしたっていうんだ? 僕の、何が悪いっていうんだ? パートナーが、居ないだけなのに……。イジメを受ける度に、そう思った。
 初めて転校したのは、それから三ヶ月後。枯れ葉が舞い散る中、僕は誰にも見送られることなく、その学校を去った。
 それから僕は、イジメを受ける度に転校を続けていた。正直に言えば、学校になんかもう行きたくなかった。それでも登校拒否しなかったのは、家にも逃げ場所がなかったからだ。

 やがて、中学生時代という地獄も終わりを告げてくれた。だけど、僕の気分は沈んだままだった。またどうせ、思い出したくもない学校生活が始まるに過ぎないのだから。
 高校入学と同時に、僕は家を出た。――いや、ちょっと違うかな。落ちこぼれ以下の僕が入学出来るのは、寮制があるたった一校だけ。そろそろ独り立ちした方が良いんじゃないかしら、と母親が待っていましたと言わんばかりに僕を追い出したんだ。世間体的に恥ずかしくない理由と、自分の良心が痛まない大義名分が出来たから。
 もういい。もういいさ。何でもいい。何だっていい。今度は、誰が僕をイジメるんだ? 今度は、この高校から僕は追い出されるのか? 捨て鉢な気持ちで、僕は高校の門をくぐった。
 僕が『パートナー・ゼロ』である事は、すぐに知れ渡った。だけれど、周囲の反応は思いの外薄く、しばらく経ってもイジメを受ける事はなかった。
 僕は、逆に戸惑いを覚えた。そして気づいた。ほとんどの学校で門前払いを受けていた僕が入学出来たのは、この学校――『アルトゥ高校』は階級意識が低いからなんだと。他者を蹴落とせと命令してくるような、あの殺伐とした雰囲気ではなかった。
 有名なパートナー使いを輩出する事はほとんどないが、僕にとってはここが楽園のように思えた。クラスメイトも、パートナーが居ないという理由だけで僕を避けたりはしなかったんだ。
 この時僕は、学校に来るのが少しだけ楽しくなっていた。
 だけれど……ダメだった。まるで呪いのように、そうでなければならないと何者かが操っているかのように、楽しいと思える気持ちは……あっという間に終わってしまったんだ。
 それは、桜が散り終わった頃の話だ。パートナー授業を担当している先生が、僕が最も聞きたくない言葉を口にしてしまったんだ。
 これからの授業は、四人一組で行います。皆さん、チームを組んで下さい――と。
 あぁ。思わず、呻き声が漏れた。
 クラスメイトたちが、ゆっくりと僕の方を向いた。それは無意識なのか、意図的なのかは分からない。だけど、その視線の意味する所は、言葉にしなくてもすぐに分かった。
 コイツとだけは、組みたくないな。眼が、ハッキリとそう言っていた。
 僕は、何も言わずに立ち上がった。怒っているのではない。悲しいのでもない。ただ、呆れていた。こうなることは分かり切っていたのに、それでも何かを期待していた僕に。
 だって、そうだろう? 誰が僕と組みたがるっていうんだ? これからは個人ではなく、チームで点数をもらうことになるんだ。いくら階級意識が低いとはいえ、好き好んで赤点を欲しがるヤツなんて居ると思うのか?
 僕は落ちこぼれ以下。だから、それが当たり前。当たり前なんだ……。
 僕は教室を出た。ーーその時だった。

「ヴィント君、一緒に組まない?」

 彼女――カプリ=オーラに、僕が誘われたのは。
 カプリは、いつもアハハと屈託なく笑っている。クラスのムードメーカー的な存在で、彼女を嫌う人は少ないだろう。僕とは、違って。
 僕と? どうして? 無意識の内に、僕は嘲笑うように返していた。
 どうして。そう、どうして僕なんかと組みたがるのかと。周りには、まだチームを組んで居ない人が沢山居るのに。もっと優秀な人が居るのに。カプリが誘えば、きっとチームに入ってくれる事だろう。彼女には、そういった魅力がある。いや、優秀でなくとも、やる気のない人だったとしても、性格が最低最悪だったとしても……僕と組むよりは、ずっといい。努力すれば、成長するのだから。もしも僕しか余っていなかったら……きっと、組まない方が良い。努力しても、何も成長しないのだから。
 その短い言葉には、それだけの意味が含まれていた。そして、また何かを期待している、愚かしい質問も。
 それでもなお、僕を誘おうとしているのは、どうしてなんだ――と。
「アハハ、だってほら、アタシたちと同じじゃない? 落ちこぼれ同士、仲良くやりましょうよ」
 同じ……だって? 違う! 同じじゃない! 僕にはパートナーが居ない……! でも、カプリには居る! 何が同じだ! 魔法社会的に落ちこぼれかも知れないけど、僕はそこにすら入れてもらえないんだ! いつだってそうだ! 僕は、どこにも入れない! 友達の輪にも、家族の団らんにも、みんなみんな入っちゃダメって、僕を追い出すんだ……!
「大丈夫よ。もう誰も、キミを追い出さないから。だから……ね?」
 そう言ってカプリは、僕に手を差し伸べてくれた。
 どうして? どうしてこの人は、僕なんかと組もうとするんだ? 僕と組んだって、損するだけなのに。分からない。僕は……僕は……。
「みんなも賛成だよね?」
 チームメイトと思われる黒髪の女子は、小さくコクリと頷いた。そしてもう一人、カプリの後ろに隠れていた背の小さな女の子も、怖ず怖ずと頷いてくれた。
 カプリは嬉しそうにアハハと笑い、
「ようこそ、アタシたちのチームへ」
 気が付くと僕は、カプリの手を取っていた。人の手は、こんなにも温かいものだっただろうか?
 井戸の底のように、あれだけ狭くて苦しいと感じていた世界が、急速な勢いで広がっていくのを感じた。
 覚えていないけど、きっと僕は泣いていたんだと思う。大声で。心の底から。ありがとうと叫びながら。
 その時僕は、生まれて初めて『ただの落ちこぼれ』になれた気がしたんだ。
 そして思った。『パートナー・ゼロ』の僕がこう思うなんてどうかしているけど、そうしたいと強く想ったんだ。
 彼女たちを、守りたいと。
 僕が、どうなろうとも。



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 第一話「もっと普通に世界を救えば」

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「始め!!」

 学校のグラウンドに、先生の厳めしい声が響き渡った。それを合図に、対峙していた二人の女子生徒と、二体のパートナーが構える。
「さぁ行こっか、<ピース・バード>! 撃ち放て、風音!!」
 髪を後ろで束ねている、健康的な少女――カプリは、高らかに『合言葉』を唱えた。傍らで羽ばたく、純白の羽根を持った精霊――<ピース・バード>は大きく胸を膨らませ、甲高い鳴き声と共に圧縮された風の塊を吐き出す。
「<グリーン・ロック>、前方に左腕の強固な盾を」
 背の高い少女――クラスメイトのリトイデは、遅れながらも、落ち着いた様子で合言葉を唱える。その体格に見合ったパートナー、苔生した岩石の精霊――<グリーン・ロック>の左腕がスッと消え、迫り来る風の粒を遮るように、地面から巨大化した石の手がズズッと現れた。風玉が直撃し、パァン、と風船の割れるような音が響き渡る。しかし、ヒビどころか、身動ぎ一つしなかった。
「オイオイ。頼むから、もうちょっと気合いを入れて攻撃してくれよな。学校帰りの石蹴り遊びじゃないんだぜ?」
「アハハ、ゴメーン。でも、これでも一応本気なんだけどなぁ。ほら、アタシって速さがウリだから」
「あー……そりゃ悪かった。じゃあ、全速力で攻撃をかわしてくれよ。<グリーン・ロック>、足下に右腕の剛健な掌を」
「うわわっ!? ぴ、<ピース・バード>! 飛んで、風見鶏も高く!!」
 カプリは慌てて<ピース・バード>の足を掴み、合言葉通りに天高く舞い上がる。直後、足下から巨大な右腕が現れ、大地に引きずり墜とそうとカプリに迫っていく。
 速さがウリと口にしたように、カプリの速度が徐々に上がっていく。――しかし、瞬間的な速度は<グリーン・ロック>の方が上だった。
 鳥カゴのように閉じられていく掌。青空は遮られ、純白の羽根に陰りが差す。
「くぅっ!! オニギリにされてたまるもんですか!!」
 <ピース・バード>が甲高い声で鳴いたかと思えば、唐突に羽根をたたみ、上昇するのを止めてしまった。見えない空に、絶望したのか。――いや、そうではなかった。掌は、上から閉じられていくもの。下にはまだ、微かな希望が残っていた。
「<ピース・バード>! 風脚のように、急降下よ!」
 矢尻のように空気を切り裂き、風よりも早く降下していく。巨大な指先が触れるギリギリの所で、<ピース・バード>は束縛のない青空へと舞い戻る事に成功した。
 両腕のない<グリーン・ロック>を眼下に見据え、カプリはついに勝機を見出す。攻防共に優秀なパートナーだが、魔法は腕を切り離して実行される為、連発が効かないという弱点がある事をカプリは知っていた。つまり――。
「チャンスチャンス! さぁ、<ピース・バード>!」
 <ピース・バード>は大きく胸を膨らませ、甲高い声と共に吐き出した風の塊を、自分自身の身体に纏わせる。
「風雲を切り裂くが如く、全力全開で突進よ!!」
 加速による体当たりと、風音による防御壁。攻防一体の、カプリが持つ一番の合言葉だ。
 直撃すれば、ただでは済まない。守る術を失ったリトイデは……不動のまま腕を組み、不敵な笑みを浮かべていた。
「なぁ、カプリ。アンタ、アタシが一つも成長していないとでも思ったのかい? アタシの成長は、パートナーの成長。戻ってくる時間が……前のままだと思うのかい?」
 カプリがこの必殺技を実行したのは、間に合うと判断したからだ。あと五秒はかかると、知っていたからだ。――しかし気が付けば、消えていたはずの<グリーン・ロック>の両腕が、元に戻っていた。
「いぃ!? と、止まって! 急停止して! <ピース・バード>!!」
 カプリは振り子のように身体を揺らしながら、止まるよう必死に合言葉を唱える。しかし、聞き覚えのないそれに、<ピース・バード>は首を傾げるだけだった。
「<グリーン・ロック>、眼前の敵を……!」
 リトイデの力強い合言葉に呼応するように、<グリーン・ロック>の両腕が一気に膨れ上がる。カプリは止まれ曲がれと叫ぶが、<ピース・バード>は『決められた合言葉』通り、愚直に全力全開で突進していく。
「強大な両腕で、思いっきり叩け!!」
 お互い一番の合言葉のぶつかり合い。だが結果は、目に見えていた。
 まるで蚊でも潰すように、<グリーン・ロック>は眼前でパァンッ、と柏手を打つ。風の防御壁は紙風船のように容易く割れ、カプリの肌を覆っていた透明なベールも破れてしまう。
 骨折してもおかしくない、強烈な一撃。しかしカプリは、擦り傷一つしていなかった。模擬戦用に張ったソレが、ダメージを全て肩代わりしてくれたのだ。しかし、ソレが破れたという事は――。
 身が竦むようなホイッスル音が、グラウンドに響き渡った。


「良かったぞ、リトイデ。自分のパートナーを良く分かっている戦い方だったな。指示も的確で、文句ナシだ」
 試合終了の礼が終わった後、審判のプレーディカ先生がリトイデをべた褒めした。周りのギャラリーからも拍手が送られる。
「よしてくれよ。恥ずかしいじゃないか」
 照れ恥ずかしそうに笑うリトイデ。隣に居る<グリーン・ロック>も、どこか誇らしげに胸を張っているように見えた。
「それに比べて……カプリ。躱したまでは良かったが、どうしてあそこで風音と言わなかった? アレなら間に合っていたというのに。それになんだ、あの『急停止して』って合言葉は? それじゃパートナーは動かないと、小学生でも習うだろ?」
「アハハ……すいません」
 カプリは苦笑いを浮かべ、<ピース・バード>と一緒に項垂れた。
 合言葉。その意味の通り、予め決めた言葉でなければ、パートナーは反応してくれない。人によって言葉が違い、自然とそうなった者も居れば、絶え間ない反復練習によって覚え込ませる者も居る。『パートナー使い』の基礎であり、最も重要な部分でもある。
「笑って誤魔化すな。お前の悪いクセだ、全く……。いいか、いつまで経っても成長しないのは、そういった所を正さないからだぞ?」
 プレーディカ先生は眼を閉じてふんぞり返る。カプリの顔が、思わず引きつった。それは、ねちっこい説教モードに入るときの体勢だった。
「アハハ……すいません」
「俺はな、お前が憎くて言ってるんじゃない。お前を――」
「アハハ……すいません」
「笑うな! 説教中だぞ!? ふざけてんのか、お前はッ!?」
 血管が浮かび上がるほどの怒鳴り声を上げ、眼をカッと見開く。……しかしそこに、カプリの姿はなかった。プカプカと浮かぶ風音が、「アハハ……すいません」と木霊しているだけだった。
 
 ※

 グラウンドの隅にある木陰で、ヴィントは暇そうに欠伸を噛み締めていた。
 パートナー訓練は生徒たちに一番人気の授業だが、ヴィントにとっては一番嫌いな授業だ。理由は、言うまでもない。加えて、皆が楽しそうに競っている姿を見ると、忘れ去りたい小中時代を思い出してしまうからだ。
――僕だって……。
 そして、厳重な鍵を閉めた箱の中からソレが漏れ出してくるのが、何よりも嫌だった。
 見学者らしく体育座りで模擬戦を見守っていたが、緑したたる草花がヴィントの頭を垂らそうと誘ってくるので、跳ねるように立ち上がり、思いっきり背筋を伸ばす。突き抜けるような、青空に向かって。
「ふひゅー、危ない危ない」
 試合を終えたばかりのカプリが、逃げるようにヴィントの所へ戻ってきた。一部始終を見ていたヴィントは、笑いながら出迎える。
「お帰り。試合に負けて審判に勝った、って所かな?」
「アハハ、まぁ一勝一敗なら上出来よね」
 カプリは暗い顔一つせず、返すように笑う。その太陽のような朗らかな笑顔に、ヴィントもまた笑ってしまう。見学している内に生まれた暗い気持ちは、もう吹き飛んでしまった。
「あー、疲れた。いつもより頑張ってみたけど、やっぱりリトイデには勝てないなぁ。きっと相性が悪いのよ、相性が。アタシのように羽根より軽いスピード型に対して、リトイデは重厚感あふれるバランス型でしょ? あのデカイ胸も含めて」
 カプリは『デカイ胸』の部分を強めて言った。胸。ヴィントは、つい視線を下ろしてしまう。
 パートナーは自分の生き写し、という格言が存在している。肩に乗っている<ピース・バード>と見比べて、ヴィントは納得したように頷いた。
「……なんか、失礼な視線を感じるんだけど?」
「気のせいだよ、うん」
「アタシは深く傷つきましたとも。えぇ、こうなったらもう、子ネコに癒してもらうしかないわ……って、あら居ない?」
 ここに居る筈の『子ネコ』――チームメイトの一人が見当たらず、カプリはキョロキョロと見渡す。
「ほら、あそこ。捨てネコみたく震えてるから、傘差しながら早く拾ってやりなよ」
 そう言ってヴィントは、後ろにある大きなイチョウの木を指差した。隠れているつもりなのか、スカートの端っこだけがヒラヒラと見えている。
「ありゃ、ホントだ。もう三週間近く経つってのに、まだヴィントが怖いワケ? なんか、ゴメンね」
「ううん、平気だよ」
「どの辺が怖いんだろ? ヴィントには怖さの欠片もないと思うんだけどなぁ。すぐにお腹を見せてくる犬みたく、従順で大人しいから大丈夫だと思ったんだけど。ねぇ、そうは思わない?」
「あ、あのねぇ……」
 信頼されているというよりは、男子扱いされていないようでシャクだった。
 『母ネコ』の気配を感じたのか、木陰から『子ネコ』が怖ず怖ずと顔を出す。小さく身を丸め、微かにぷるぷると震えているその姿は、本当の子ネコそのものだった。
「……あっ、カプリ!」
 待ち人来たる。子ネコのような少女は嬉しそうに走り出し、戻ってきたばかりのカプリに飛びつく。
「あの、その……も、もうチョットでしたね。えと、えと……ケガとかないですか?」
 カプリの胸元で辿々しく喋るのは、チームメイトであるインニャー。ネコのようなつぶらなの瞳と、小柄な体型。更に名前の所為もあってか、カプリからは子ネコと呼ばれ、よくからかわれている。極度の人見知りであり、いつもカプリの後ろに隠れていた。
「うん、大丈夫よ。……いや、ちょーっとケガしてるかな?」
「た、大変! 早く診せて下さい! カプリなら、私のパートナーで治せますから!」
 インニャーは、肩に掛かっている鞄の紐をギュッと握る。鞄はパンパンに膨らんでおり、何が詰め込まれているのか、インニャーの顔よりも大きかった。
 ボタンに手を掛け、開けようとする。しかし、カプリはそっと手を添えて制した。
「じゃあ、お願いするね。さぁ、負けて傷ついたアタシの心を癒やしてちょうだいな」
「は、はい! ……はい?」
 カプリは背中から包み込むように抱きしめ、まるでネコを可愛がるように、喉の辺りをコロコロと優しく撫で始める。
「カ、カプリ!? あ、だ、ダメですよ!! んっ……ふわぁっ……!!」
「うりゃうりゃ。へへっ、ここが良いんだろ? 子ネコちゃんよォ?」
「だ、ダメです!! ヴィントさんが見てるじゃないですか!!」
「へへっ、どうせなら見せつけてやろうぜ? そういうのも好きなんだろ、子ネコちゃんよォ?」
 鬼畜なイケメン的ノリで可愛がり続けるカプリ。イヤイヤしながらも、頬を赤くし、満更ではなさそうな顔をしているインニャー。
「なにやってんだか……」
 ヴィントは、呆れ顔でため息をはく。女子特有の悪ノリについていけなかった。だが、眼は離せなかった。
「いやー、もう負けちゃってヒマだからねぇ。落ちこぼれらしく、インニャーをニャンニャンするしかないのよ」
「い、意味が分かりません! うひゃぁ!? や、止め……!」
 グラウンドの中央では、緊迫した雰囲気の中、意地とプライドを賭けた模擬戦の決勝が開始されていた。沸き上がる生徒たち。声が嗄れる程の熱い声援。僅かな交差の内に繰り広げられる攻防。――だが、より一層激しくなっていくカプリの可愛がりは、何よりもヴィントを滾らせ、やっぱり眼を離すことが出来なかった。


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 パートナー制度が導入されてから最も変化したのは、子どもたちの教育――学校だろう。
 かつては頭の良さが、地位の高さに繋がっていた。しかし今では、パートナーの良さ(強さ)が社会のステータスであり、全てとも言える。社会が、親がそう望んだように、学校がパートナー教育を最重点にするのは至極当然の流れと言えよう。小中高、そして大学に至るまで、パートナーについて学び、勉強し、共に成長していくのが、今の『普通の教育』と呼ばれるモノとなっている。
「かつて私たちは、パートナーと……いえ、精霊たちと激しい戦争を行っていたの。それはとても長く、陰惨なものだったと伝えられているわ。今ではとても、信じられないような歴史だけどね」
 午前最後の授業。社会のアンナーリ先生は、酷く暗いトーンで教科書を読み上げる。傍らに座るパートナーを、愛おしそうに撫でながら。
 そんな姿を見て、生徒たちは窓の外に眼を向ける。傍らの存在を、寂しがるように。生涯を共にする戦友も、室内授業の時は専用の建物に預けるのが学校の決まりだからだ。
 ヴィントだけが、何の感情も無い瞳でそれらを見つめていた。
「争いの理由は、今でもハッキリとは分かっていないの。なぜなら、精霊たちとは言葉が通じなかったから。争う理由が分からないのに、それでも解決しようとお互い多くの犠牲を出したのは、歴史の汚点と言う他にないわ。きっと『彼』が現れなかったら、今も続いていたかも知れないわね」
 彼。その単語に、教室内が静かに色めきだつ。その話を嫌う者など、この学校には居ないだろう。ヴィントも例外ではなかった。
 それは、物心付く前から読み聞かされてきた英雄譚。
 彼――英雄アミカ=ルスの話。
「彼が英雄視される最大の理由は、最大の功績は、敵対していた筈の精霊を仲間にしていたことにあるわ。教科書には『この時、初めてのパートナー使いが誕生した』と書いてあるけど、ある意味正しいし、ある意味間違った情報だけどね。彼の前にも、パートナー使いは存在していたのよ。ただ当時は『精霊使い』と呼ばれていて、仲間と言うより、奴隷のように無理矢理使役していたそうよ」
 奴隷。その言葉を聞いて、生徒たちは顔をしかめる。友達の友達が酷い扱いを受けていると聞いて、良い気持ちになるパートナー使いは居ないだろう。
「知っての通り、私たちは直接魔法を使う事が出来ないわ。合言葉によってパートナーが魔力を溜め、代わりに魔法を発動しているのよ。それがどれだけの戦力になるのか、何となく分かるでしょ? 当時の軍なら、精霊使いというだけで将軍クラスだったそうよ。分かる? 一体の精霊ですらロクに操れないヤツらがその扱いなんだから、彼がどれだけ天才で、神がかっていたのかを。ハァ……ホント、知れば知るほど彼の凄さが底なしだって実感するわ」
 アンリーナ先生は教卓にしな垂れ、恍惚な顔で艶っぽいため息を漏らした。男子生徒は思わず生唾を飲み込み、慌てた様子で再び窓の外を見る。己の内で暴れる獣を鎮める為に。
 顔も良く、スタイルも良く、性格も良い。三拍子揃った先生に言い寄ってくる男はかなり多いが、いつも同じ言葉で袖に振っていた。
 本人曰わく、『歴史が恋人だ』、と。
「ともあれ、彼は絵本や図書室にある本のような物語を繰り広げ、そしてついに魔王と呼ばれた悪の精霊を倒したの。年号はA・A(アフター・アミカ=ルス)と新しく生まれ変わり、今の義務教育であるパートナー制度が始まったわ。そして……もう一つ、これは彼の没後だけど、その名誉が永遠になるよう新しい社会制度が決定されたの」
 今まで無表情だったヴィントの顔が、急に不機嫌になった。自分が今の境遇にあるのは、パートナー制度ではなく、恐らくそれの所為だと強く感じているからだ。
「名誉市民階級制度……通称、市民ランクよ」
 市民ランク。自分の地位を表す絶対的なステータスであり、パートナーの強さを現す単位でもある。だがそれは、パートナーが居る事を前提に作られた制度。つまり、ヴィントは――。
「現在の最高位にして、最高のパートナー使いを表すAランク。けど彼は、更に更に上の……A100。伝説を象徴する数字が、彼の市民ランクなのよ」
 誇らしげに語るアンリーナ先生に対し、生徒たちは羨望のため息を漏らす。一個で良いから貰えないかな、そんな事を冗談混じりに考える者が多かった。
 市民ランクはA〜Jまで存在し、三ヶ月に一回行われる昇級試験をクリアする事によって、そのランクが上がっていく。クラスメイトのほとんどが通称『高校生ランク』とも呼ばれるHランクであり、それを表す真珠製のアクセサリーを各々好きな場所に付けていた。
 教壇に立つアンリーナ先生は、Eランク。教員資格を取るために必要な市民ランクである事から、『先生ランク』とも呼ばれている。大樹のような優しい輝きを放つ翡翠のピアスは、上を目指す者にとって憧れの的だった。
 そしてカプリを含めたチームメイトたちは、一番下のJランク。通称『小学生ランク』とも呼ばれ、中学、高校でもそのままだと、自らがそう口にしたように、落ちこぼれの烙印を押されてしまう。支給されるのはタルク(軽石)のアクセサリー。宝石ですらない。
 ヴィントは、服の中に隠していたソレを取り出す。無数の傷が付けられ、あちこちが黒ずんだタルク。イジメを受けた時は、真っ先にこれを傷つけられた。まるで、お前にはこれの資格すら無い、とでも言うように。
 そう……非常におかしな言い方になるが、本来であればヴィントは、Jランクですらない。書類の手続き上、その下が存在しない為、やむなくJランクになっているだけなのだ。
 指先でタルクをなぞると、そこには深く、深く刻まれた忌まわしい文字が感じ取れた。
 いつの頃からそうなったのかは分からない。しかし、パートナーが居ない者たちを、嘲りと冷笑を込め、Jランクの更に更に下……ランク外である事を指し印す、『Zランク』と格付けされていた。それは、過去に大量虐殺を行った人物や、国家の転覆を謀った政治犯と同じ――つまり、非国民扱いだった。
 ヴィントは、教科書の肖像画をジッと見る。
――英雄は世界を救った。英雄は新しい世界を作った。だけれど、ここは僕にとって暮らしにくい世界なんだ。アミカ=ルスは、こうなる事を望んだのかな? それとも、百年という月日が道を誤らせたのかな? 今の僕を見たら……どう思うんだろうな? 謝ってくれるのかな? それとも、僕の為に壊してくれるのかな? 魔王が居ない、この平和な世界を。……ねぇ、アミカ=ルス。どうして精霊を連れて世界を救ったんだい? もっと普通に世界を救えば、きっと僕が暮らしやすい世界になった筈なのに……。英雄と、天才と呼ばれた君に、僕の気持ちは分かんないだろうね……。
 ヴィントは、静かに教科書を閉じた。


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 第二話「今、この瞬間を、僕は何度でも思い出すだろう」

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 授業終了の鐘が鳴り響くと同時に、生徒たちは我先にと立ち上がる。各教室から溢れ出たそれらが混じり合い、やがて巨大な渦となって流れ込んでいく。
 目指す場所は――アルトゥ食堂。ワンコインで美味しくバランスの取れた食事が出来ると、先生にも人気の学食である。長机や椅子にはそれなりの使用感が漂っており、清潔感あるオシャレとは程遠いが、気兼ねなく食べられると逆に好評だった。
「うーん、今日は何を食べようかな?」
 ヴィントは手書きメニューの前で悩んでいた。今日のランチが、全部で三つもあるからだ。
 一つ目は、唐揚げとコンソメスープ定食。男女問わず人気がある、定番の定食だ。
 二つ目は、ラーメンと半チャーハン定食。かなりボリュームがあり、体育会系の男子から圧倒的な支持を集めている。
 三つ目は、Aランク定食。パートナーともっと仲良くなる為に、パートナーと同じ食事をしよう、という謳い文句の定食だ。野菜が九割なので、名前の割に人気がない。しかし、別名ダイエットランチとも呼ばれ、身体測定前と、海開き前には飛ぶように売れていた。
「三択って、選びやすいようで選びづらいよなぁ」
「何言ってんのよ。今日は四択でしょ?」
 そう言ってカプリは、ヴィントが敢えて無視していた『四つ目』を、何のためらいもなく頼んでしまった。
「あぁー……やっぱり頼んじゃうの? カプリらしいというか、何というか……」
 普段は二〜三つしかないのだが、不定期に、シェフの創作意欲が湧いたときだけに、『幻の四つ目』が出現する時がある。メニュー名は、シェフの気まぐれ定食。しかし、頼んだ者は口を揃えてこう評している。あれは、シェフの悪ふざけ定食だ、と。
「アハハ、もちろん。食事は楽しくなきゃね」
 その使い方は絶対に間違っている。だが、嬉しそうに輝かせる瞳はハズレと知ってネタに走るソレであり、何も言えなくなったヴィントは、無難に唐揚げ定食を頼むしかなかった。
「席、どうしましょうか? 空いてるトコ、なさそうですけど……」
 つま先立ちで周囲を見渡すインニャー。その小さな掌の中には、これまた小さなお弁当箱が。
 全校生徒三百人以上に対し、八十席しかない為、学食はいつも満席だった。
「……おっ? ラッキー、都合の良い所が空いてるじゃないの」
 カプリが嬉しそうに歩き出した先には、偶然にも三席だけが空いていた。
「待ってよ、カプリ。そこって、先に来た人がチームの為に取ってある席でしょ?」
「だから言ったでしょ? 都合の良い所が、って」
 視線の先――窓際に座っている人を見て、ヴィントはハッと息を呑んだ。
 窓から差す陽光に照らされ、ハッキリと浮かび上がった烏羽色の美しい黒髪。幻想的に煌めく、長いまつげ。ここが食堂である事を忘れてしまう程、どこか現実離れした光景だった。周囲に人が居ないのは、触れられない美しさがあるからか。それとも……。
 落ちこぼれの名が最も似合わない生徒――チームメイトの、スイレンだった。
「ハロー、スイレン。席の確保、ご苦労様」
「……何の話?」
 終始笑顔のカプリに対し、スイレンはニコリともせず、冷ややかな顔で聞き返した。
「照れない照れない。さっ、チームで仲良くお昼を頂きましょうか!」
「……別に……。私一人でいい……」
 照れるどころか、無表情でそっぽを向くスイレン。あまりにも素っ気ない態度に、カプリの笑顔が凍り付く。
 スイレンは本当にチームメイトなのかと疑うほど、一緒に行動する事が少ない。何が好きで、何が嫌いか。何が得意で、何が不得意か。ヴィントは、全然知らない。――いや、そもそもパートナーを見せてもらった事すらない、という有様だった。
 言葉の通り、一人で居るのが好きなのだろう。一人で居る事を強制させられた、ヴィントとは違って。
 しかし、
「そんなこと言わないでよ〜! 一緒に食べようよ〜! そんでおかずとか交換しようよ〜! 花も恥じらう乙女のようにさ〜!」
 カプリがそれを許さなかった。プレゼントをねだる子どものように、背中からどっさりと覆い被さる。そして何故か、スイレンと頬を擦り合わせ始めた。無表情だったスイレンも、さすがに眉をひそめる。
「ねぇ〜ん、スイレ〜ン。ほら、子ネコも! 本場本元の猫なで声で誘惑するのよ!」
「え、えぇぇ!? そ、そんな無茶振りは止めて下さい!! ……ス、スイレンさ〜ん!! い、一緒にお昼食べましょ〜!!」
 スイレンを前後から挟み、甘える猫のようにウニャーンウニャーンと頬ずりする二人。
「どこのお店だよ!!」
 そう、突っ込まずには居られなかった。
「……ハァ、好きにすればいい……」
 ついに折れたのか、スイレンは悩ましそうに頭を抱え、深いため息を漏らした。
「全くもう、素直じゃないんだから」
 やれやれ、といった様子で離れるカプリ。あと数センチで触れそうだった、舌先を引っ込めながら。
 一人が好きなのに、どうしてカプリのチームに入ったんだろ? ヴィントは前々から疑問に思っていたが、きっと今のように強引に誘ったんだろうな、と思った。
――カプリの押しの強さには、きっと英雄も太刀打ちできないだろうな。
 狼狽えるアミカ=ルスの顔を想像して、ヴィントはくすりと笑った。

 ※

 アルトゥ食堂では、注文すると同時にナンバープレートを渡され、番号が呼ばれるまでは席で待つ、というシステムとなっている。既にヴィントとスイレンは注文の品を受け取り、残るはカプリだけとなっていた。
「なぁ、スイレン。またうどんなの? しかも、たぬきうどん。よく食べてるけど、好きなの?」
「……嫌いではない……」
 黒髪をかき上げ、スイレンは音もなくうどんをすする。湯気で濡れたまつげに、うっすらと浮かぶ笑顔。口ではああ言ったが、きっと好物なのだろう。
「わぁ〜。ヴィントさんのランチ、美味しそうですね」
「唐揚げは正義だからな。そうだ。この唐揚げと、そこの玉子焼き。交換しようか?」
「いいんですか? じゃあ、はい。やった、ありがとうございます」
「……あぁ〜、やっぱり美味しいね、この玉子焼き」
 ヴィントは、幸せそうな笑みを浮かべる。手作り弁当をほとんど味わったことがない彼にとって、インニャー家の甘い玉子焼きはどの出来合いモノよりも美味しく感じられた。
「お待たせー! アハハハハ−! 見て見てこれ!!」
 半分ぐらい平らげた所で、カプリが意気揚々と戻ってきた。そして、鼻歌交じりにテーブルにドッカリと置いたのは……。
「うわぁ……噂に違わぬ悪ふざけっぷりだぁ……」
 ヴィントは引きつった顔で、率直な感想を述べた。
 この料理に名前は無い。しかし、敢えて名付けるとするならば、『カルボナーラ手巻きごはんうどん』と呼ぶべきだろう。うどんをご飯で巻き、その上からカルボナーラの汁を掛けるという、説明すれば説明するほど意味不明になっていく料理だった。
「じゃあ、いっただきまーす!」
 フォークでソレを刺し、周りの不安そうな視線を余所に、カプリは嬉々として口に運ぶ。
「むぐむぐ……おっ!」
 カプリの顔が、パァッと明るくなった。まさか、美味いのか!? 一気に注目が集まる。
「アハハハハハ! うわっ、マッズーイこれ!! ほらほら、みんなも食べてみなよ!!」
 ハズレを引いたというのに――いや、ハズレを引いたからこそ、カプリのテンションはますます上がっていく。やっぱりな、そんなため息と共に、周囲はバカだなぁと笑いを零していた。
「ふむ、うどんが入っているのか」
 そう言って手を伸ばしたのは、この類いが一番嫌いそうな――最も意外なスイレンだった。一口サイズに切り、どこか洗練された動きで口に含む。
「……うぐっ」
 口に入れた瞬間、小さな呻き声を漏らし、口直しと言わんばかりに自分のうどんを即座にすすった。
「……これは、うどんに対する冒涜だ……」
 怒気が混じった声と、敵対心に満ちた視線がその料理に向けられていた。相手が人だったら、刺しかねない程に。
「さっ、インニャーもどうぞ」
「わ、私はこのお弁当でお腹がいっぱいなので……」
「えー? まぁ、しょうがないか。……視線反らしてもダメだよ、ヴィント。男の子なんだから、もちろん食べるよねぇ?」
 逃げられない。そう感じたヴィントは覚悟を決め、口の中に叩き込んだ。
「……うわっ、うわわっ!? 味が濃いッ! そのくせ、うどんに味が染み込んでないッ!! 巻かれたご飯がニチャニチャと口に残って気持ち悪いッ!!! うわああぁぁぁーーマズイよぉぉぉーーーー!!」
 襲いかかる寒気。手は震え、胃も震える。脳が、脳がこれはダメだと危険信号を垂れ流す。料理を食べてこうなるなんて、初めての体験だった。
 震える手でコンソメスープの器を掴み、一気にゴクゴクと流し込む。それで何とか落ち着いたが、まるで戦場帰りのように、虚ろな眼で天井を仰ぎ、精根尽き果ててグッタリとなっていた。
「アハハ! ナイスリアクション!! ね? ガチンコでマズイでしょ? アハハー……はぁ、ホンッとマズイなぁ……この料理」
 ガックリと肩を落とし、カプリはため息混じりに何度もソレを突く。もう食べたくない、と全身で表現していた。
 ネタに走った代償はあまりにも大き過ぎたらしく、カプリ本人が全然楽しそうではなかった。
「全くもう、何やってんだか」
 ヴィントの口から、笑い声が自然と零れる。インニャーも、スイレンも、どこか可笑しそうだった。
――あぁ、楽しいなぁ。
 食事は楽しいものだと知ったのは、カプリたちとチームを組んでからだった。それまでは、気まずい空気の中で、空腹を満たすだけの行為に過ぎなかった。
 今日でもう、何回笑っただろうか? この一ヶ月近くだけで、小中学を合わせたよりも、笑った回数が多いような気がする。――いや、そもそも笑った事などあっただろうか?
 カプリの周りは、絶えず笑いで溢れている。一人でも多く巻き込んで、ランクの上下なんて関係なく、みんな楽しそうにしている。
――本当に、ありがとう。あの時手を差し伸べてくれなかったら、今の僕は無かった。こうして毎日笑うことも絶対に無かった。今、この瞬間を、僕は何度でも思い出すだろう。カプリのお陰で、思い出したい高校生活になっているんだ。本当に、感謝の言葉をどれだけ並べても、全然足りない。
 ヴィントは、自分の手をジッと見つめる。
――だから僕は、僕がどうなろうとも――。

「もしもーし? 楽しんでるところ悪いんだけどさぁ、そこ、退いてくれない?」

 どこか高圧的な物言いに、楽しく暖まっていた食卓は、水を打ったように冷え切ってしまった。
 無造作な髪型をした男が、不機嫌そうな顔でこちらを睨んでいる。制服の色からして、同級生のようだ。周囲を見渡すと、席は全て埋まっていた。
「あっ……すいません。食べ終わったらすぐに退けますから、もう少しだけ待ってもらえませんか?」
 ヴィントは申し訳なさそうに言った。満席なのに、ゆっくりと楽しそうに喋っていたら、座れない方としては苛立つのが当たり前だ。――そう、思っていた。
「いや、だからさぁ、おかしいよね? どうして俺が待たなきゃないの? 当たり前の話だけど、ここ、全部優先席だよね?」
「優先……席?」
「そっ、エリート優先席。いいからどけよ、落ちこぼれ共。さっさと席譲れっつってんだよ」
 そう言って男は、フローライト(蛍石)の指輪を眼前に突き付けてきた。それは、Gランク――通称『大学クラス』の証だった。
 男の名はバドロ。一週間前に、近くの進学校から『ランク落ち』してきた生徒だ。授業に追い付けなくなった者をそう呼ぶが、ここでは間違いなくトップクラスの実力だろう。
――だから、何だって言うんだ?
 吐き気がする程のガチガチな階級思想に、ヴィントは顔を歪めた。
「……なんだよ、その顔は? 格下が、そんな顔していいと思ってんのか?」
 バドロは手を下ろし、ヴィントに一歩近寄る。気にくわない。眉をひそめた顔が、横暴な態度が、口にせずとも大声でそう言っているように聞こえた。
「ねぇ、ヴィント。外の階段で食べよっか。アタシたちが退ければ、済む話なんだし」
 そっと耳打ちをしたカプリは、しょうがないよね、と悲しそうに笑った。
――笑顔が。
 カプリの笑顔が、楽しい食事が、何度も思い出したいと願ったこの瞬間が。
――壊れていく。
 かつてない喪失感が、ヴィントを襲った。
――またか。またなのか。僕が、何をしたっていうんだ? 笑っていただけなのに。パートナーが居ないだけで、笑う事も許されないのか?
 同時に、信じられないぐらいの苛立ちが沸き上がってくる。階級が上だから偉い。階級が上だから何をしても良い。その顔、その態度、全てが気にくわないのは、
――僕も、同じだ!
「ぐっ……! 食べ、終わるまで……待ってくれませんか?」
 殴りかかろうとする衝動を我慢し、ヴィントは冷静に、声を荒立てずに言った。自らの手で、『今』を壊したくはなかった。だけれど、一歩も引く気はないと、強い態度で。
「……チッ、分かったよ」
 毅然とした態度に押し負けたと感じたのか、バドロは背を向け、吐き捨てるように言った。
――あぁ……やっとだ。
 あの日の誓いが、脳裏を過ぎる。今、この瞬間を。この楽しい食事を。カプリの……笑顔を。
――僕は……僕は。
 ヴィントは満足げに、眼に涙を浮かべ、大きく胸を撫で下ろす――その瞬間、バドロは振り向き様に、ヴィントを思いっきり殴り飛ばした。激しい音を立て、椅子を巻き込みながら、ヴィントは床を転がる。ガラガラと崩れる音がしたのは、外からなのか、内からなのか。
「力尽くで退けさせろって事だな? いいぜ、力尽くは大好きだ。その生意気な面を、焦がしてやる! 来い! <レッド・ピクシー>!!」
 高圧的な叫び声とほぼ同時に、羽の付いた赤い球体が、ガラス窓の一部を溶かしながら飛び込んでくる。変則的に宙を舞い、キャハハハと耳障りな甲高い声を上げた。
「うわっ、ヤベェ! 誰か先生呼んでこい!! マジでやる気だ!!」
 男子生徒が叫ぶと、食堂は一気にパニックに陥った。あちこちで食器が倒れ、食べ残しのランチが床に散らばる。満席だった食堂が、あっという間に空になっていく。
「呼べよ、てめぇのパートナーを。どんな形で、どんな色だったか、思い出せないぐらい真っ黒焦げにしてやるからよ!!」
 赤い球体――<レッド・ピクシー>がバドロの背に付く。焦がれる程の炎を纏い、赤々と輝く中で笑うその姿は、まるで悪魔のようだった。
――呼べたら良いのにね……。そもそも、居ないんだ……。だって僕は、『パートナー・ゼロ』だから……。
 散々味わってきた、意味の無い暴力。一方的にぶつけられる、ランクという名のプライド。待とう。嵐が過ぎ去るのを。このまま横たわっていれば、すぐに終わる。抵抗した所で、余計に痛めつけられるだけなのだから。力が、無いから。
 だがヴィントは、震える膝を押さえながら立ち上がる。
――でも、守るって決めたんだ。僕が、どうなろうとも!
 そして、両手を広げた。降りかかる火の粉を、全てこの身で受け止めようと。
「焦がせ! タルク(軽石)すらも!! レッド――!!」

「……私も、力尽くは嫌いじゃない……」

 獄炎の向こう側に、氷よりも冷たい微笑が浮かんでいた。
「なっ!?」
 振り返るよりも早く、スイレンは手に持った器を頭に被せていた。――つゆが、入ったまま。
「うわあぁぁぁーーー!! 熱ッ、熱ィッ!! ……あ? 熱く……ない?」
 食べ終わった後の温度など、たかが知れていた。にも関わらず、熱い熱いと狼狽える様は、まさに滑稽だった。ましてや、炎属性のパートナーを従えているというのに。逃げ遅れていた女子生徒が、遠くでクスクスと笑い声を上げる。
 バドロの顔は、火よりも真っ赤になっていた。
「こ、このクソ女がぁ!!」
 殴りかかろうと、バドロは振り返る。だがそれと同時に、喉仏にフォークの先端があてがわれていた。
「……安いプライドと、汚いダミ声。どっちが大事……?」
 バドロは、ゾッとした。コイツは本当に刺すと、冷たい金属越しに感じ取ったからだ。
「て、てめぇ、本当に落ちこぼれか?」
 そう聞かずには居られなかった。その動き、その殺気。進学校でトップをひた走るヤツらと、何ら遜色がなかったのだから。
「……えぇ、そうよ。私は、これ以上ないぐらいの、本当の落ちこぼれよ……」
 スイレンは、独白のようにとつとつと答える。宵闇のような薄暗い表情からは何も読み取れず、炎を纏っている筈のバドロでさえ薄ら寒さを感じていた。
 負けを認めたのか、バドロは苦々しい顔で大きな舌打ちをする。背中から<レッド・ピクシー>が離れていき、つまらなさそうな声を上げながら窓の外へと逃げていく。バドロも悪態を付きながら、その後を追っていた。
 残ったのは、くだらないプライドによって荒らされた、『今』だけだった。
「あ、ありがとう、スイレン」
 ヴィントは腫れ上がった頬を押さえながら、申し訳なさそうに礼を言った。
「……別に。大したことはしていない……」
 手に持ったフォークをそっと置きながら、スイレンは事も無げに返す。
――その大したことすら、僕は出来なかった……。
 それは、『パートナー・ゼロ』だから? 違う。スイレンは、パートナーを使わずにバドロを追い払った。つまりそれは、単純に――。
「い、いやー、アハハ、ホンッとビックリしたね−!! でも見た? あのバドロの悔しそうな顔!! ナイスよ、スイレン!! ヴィントにケガさせた罰よ、ザマーミロ!!」
 重々しい沈黙を破るように、カプリはわざとらしいまでに明るい声を上げた。ずっと泣きそうだったインニャーが、安心したように笑みを浮かべる。
「でも、やっぱり一番はヴィントね! いやぁー、守ってくれなかったらこんがり肉決定だったかも。ホンッとありがと!」
 カプリは労うようにポンポンと背中を叩き、何度も褒め称えた。
――違う。僕は、何も出来なかった。僕が、守んなきゃないのに……。
 ヴィントは歯を噛む。ズキズキと痛む頬が、己の無力さを思い知らせているようだった。


 ◆---------------◆
 

 朝、夏の匂いを含んだ風が通学路を吹き抜けていく。最も過ごしやすい季節が、もう少しで終わることを告げるかのように。
 赤く腫れた頬が風にさらされ、じくりと痛む度にヴィントは歯を噛んだ。
 ヴィントが暮らしている寮は、学校からかなり近い場所にある。カプリの<ピース・バード>なら、鐘が鳴ってから登校しても間に合うような距離だ。ゆっくり歩いても、十分と掛からないだろう。だがヴィントは、まだ日直しか来ていないような時間帯に登校していた。これは、極力人に関わりたくないという小中学校時代の名残であり、悪習でもあった。……とはいえ、鐘が鳴る五分前になれば、競うように亜音速で駆け抜けていったり、息も凍るような空気を撒き散らしたり、自慢合戦や、時折起きる合言葉の暴発――『P(パートナー)ラッシュアワー』に巻き込まれない事を考えれば、良習と呼ぶべきだろうが。
 自分のパートナーが居れば、移動に困らない。……というワケでもなかった。分かり易い例が、ヴィントの前でノソノソと動いていた。亀のようなパートナーは歩くよりも遅く、それを踏まえた上なのか、背の上にちょこんと乗った女の子は、布団を敷いて寝ていた。
 そういう人たちの為に移動用の大型パートナーが居るのだが、停留所までの距離が学校と同じなので、ヴィントは利用していない。この女の子も、きっと似たような理由なのだろう。これはこれで大変だなぁ、と横目に見ながらヴィントは追い越していく。
 どのような姿であれ、パートナーに乗って移動する人は多い。主な理由は、『大きくて重い』からだ。しかし、その逆――『小さくて軽い』パートナーはほとんど居ない。そんな数少ない例に入っているのが、目の前を歩く大きな鞄――インニャーだった。
「おはよう、インニャー」
 普段通りの挨拶。にも関わらず、インニャーは「うひゃッ!?」と跳び上がるほど驚き、近くの木に向かってトタトタと逃げていく。そして、ピョッコリと顔を出した。これもまた、普段通りだった。
「あっ、おは、おはようございます、ヴィントさん」
 チームメイトだと分かり、ホッとした様子のインニャー。だが、木の陰からは一向に出て来ようとしない。
――まぁ、これでもだいぶマシになったんだけどね。
 最初は声を掛けても、怯えるばかりで返事すらしてくれなかった。もちろんヴィントに限った話ではなく、誰にでもこういう反応をするのだが。そうなった理由は、まだ聞けていない。
「あっ……ほっぺたが真っ赤。昨日のですよね、それ。痛そう……」
 インニャーは申し訳なさそうに俯き、鞄の紐をギュッと握る。自分の所為ではないというのに。
「……ごめんなさい」
 ああそういう事か、とヴィントは納得した。
「大丈夫。全然平気だから、気にしないで」
 本当は眠れないぐらいに痛むが、ヴィントは笑って誤魔化した。
 インニャーのパートナーは回復型というレアな種類であり、最も重宝されている存在でもある。絶対数が足りないため、どれだけ成績が悪かろうと、医療関係の将来を約束されたも同然なのだ。ランクも、攻撃型と比べて遥かに上がりやすく、擦り傷程度しか治せなくても、簡単にHランクを取得出来る。
 だが、インニャーのランクは、皆と同じJランク。落ちこぼれの烙印を押された理由は――。
「あの……その……」
 気まずそうなインニャーに呼びかけられ、ヴィントは我に返る。いつの間にか険しい顔で悩んでいたようだ。
「あっと、ゴメン。ちょっと考え事してただけだから」
「い、いえ! ち、違うんです! なんて言ったらいいのか……えっと……」
 上手く言えないのか、緊張しているのか、インニャーは「えっと、あの」を繰り返す。何度もつっかえ、その度に大きな深呼吸をするが、言葉は空回りし続ける。だがそれでも、何かを伝えようと必死だった。
 そして、ついに決意を秘めた顔で、
「き、昨日は――!」

「フハハハハ、おはよう諸君! 今朝は良く眠れたかね?」

 空から響く妙に通った声が、インニャーの言葉と決意を掻き消してしまった。
 朝とは思えない、このハイテンションっぷり。姿は見ずとも、声の主は一瞬で分かった。朝露に濡れた白い翼が、本人の騒々しさとは対照的に音も無く舞い降りる。
「はよー、お二人さん。相変わらずの微妙な距離感ね」
 カプリ改め母ネコの到着。インニャーは反射的に駆けだし、頭からダイブしていく。あまりの勢いに、カプリの身体は『く』の字に曲がり、「オゥフ!」と呻き声を漏らした。
「痛たた……この、子ネコめ! いい加減、この安全男に慣れなさいっての! ……って、うワァオ! うわー……見事に痛々しく腫れ上がっちゃったね」
 カプリは引き気味に、しかし興味深そうな顔でそれを指差す。急に恥ずかしくなったヴィントは、反射的にそれを覆い隠した。
――見ないでくれよ。
 これは、自分に力が無い証拠だから。力があれば、こんなケガなんて――。
「隠さない隠さない。むしろ、見せつけてよ。アタシたちを守ったから、そうなったんだって。それって、名誉の負傷じゃない?」
――名誉の、負傷?
 それは、思ってもみない言葉だった。このケガは、自分の無力さを周囲に知らしめる為のものだとばかり思っていた。
――カプリたちを……守ったから?
 あの時の炎を彷彿とさせる赤い頬が憎くて憎くて堪らず、痛む度に憎悪と自分の不甲斐なさを募らせていた筈が、カプリが発した言葉一つで、それが嘘のように消え去っていくのを感じた。
 頬がまたじくりと痛む。さっきよりは、嫌じゃなくなっていた。
 その時、スッと黒い影がヴィントたちの横を通り過ぎていった。素知らぬ顔で登校しようとしていた、スイレンだった。
「はよー……って、コラァァー! アタシたちを無視して行くな!! チームメイトでしょうが!!」
「……気づかれたか」
「いや、そりゃ気づくよ」
 あくまで一人で居たいらしいが、カプリと組んだ時からそれは諦めるべきだろうな、とヴィントは呆れながらに思った。
「おっと、みんな気をつけてね。今日の日直様が通過するみたいよ」
「え? もしかしてアレの事?」
 カプリが注意を促したが、それはまだまだ遠くで、性別すら分からない大きさだった。鳥のようなパートナーを連れていると合ってか、眼が異常に良いらしい。
 数分後、カプリの言うとおり、当番のクラスメイトが馬のようなパートナーと共に猛スピードで通り過ぎていく。本物のポニーテールと、カプリのソレが風になびいていた。
「すごく速いなぁ。うーん、ああいうのって憧れちゃいますよねぇ」
 あっという間に小さくなっていく後ろ姿を見て、インニャーは羨ましそうな声で言った。すると突然、大きな鞄が上へ下へと暴れ始める。「わぁ、ごめん!」と慌てて鞄に謝ると、そっぽを向くようにフンッという鼻息が聞こえてきた。
「あらら〜、相方のジェラシーは怖いわよ〜? よし、じゃあ代わりにアタシの<ピース・バード>に乗ってく?」
 カプリは『お母さんに任せなさい!』とでも言いかねない勢いで、胸を叩きながらそう提案した。当然はインニャーは大喜びでそれに乗る、
「え!? ……わ、私は前に乗ったので……その……」
 と、ヴィントは思っていたが、意外にも当の本人は眼が泳ぐほど動揺していた。
「あっ、スイレンさんはまだですよね? お先にどうぞ!」
「……別に――」
「よし、じゃあスイレンで!」
 断る隙も無く、スイレンは強引に腕を組まされ、「飛んで、風見鶏も高く!!」と合言葉を唱えていた。天高く舞う二人。慌てて顔を背けるヴィント。しかし、彼の網膜にはしっかりと『二人分』が焼き付いてしまっていた。
「も〜……ちゃんと下押さえていってよ……」
 無防備にも程があると、ヴィントは呆れ返っていた。
「……あっ」
 残ったのは、自分とヴィントだけ。その事にようやく気づいたインニャーは、アワアワと慌てふためき、トタトタと木の陰にまた隠れてしまう。
――隠れるぐらいなら、一緒に行けば良かったのに。
 カプリ以外には懐かないと分かっていても、まるで狼のように扱われるのは、やはりショックだった。
「あの……その……き、昨日は……あの……」
 どうしても伝えたい事があるのか、インニャーはまたつっかえながらも喋り出す。そして、大きく大きく深呼吸をし、
「か、かか、格好良かったです!!」
 絞り出すように、精一杯の声で言った。
「……え?」
 突然の事に、ヴィントは反応することが出来なかった。まさか、避けられている筈のインニャーから褒められるとは、思ってもみなかったからだ。
 それで限界を超えたのか、インニャーの顔は茹で上がったように赤くなり、パタパタと逃げるように学校へ走っていく。
――格好良かった? この、僕が?
 殴られ、無様に床を転がったというのに。まともに守ってやれなかったというのに。それでもインニャーは、
――僕を……格好良かったと言ってくれた。
 また頬が痛んだ。その度に、カプリの言葉が脳裏を過ぎる。名誉の負傷。これは、僕なりに守れた証なんだと、ヴィントは誇らしい気持ちになれた。

 晴れやかな気持ちで見上げると、雲一つ無い青い空を飛ぶ<ピース・バード>が見えた。いかにも重そうに羽ばたいており、ふらふらと蛇行運転している。そして、力尽きたのか、そのまま林の方に突っ込んでいった。
 インニャーが乗らなかった理由を、ヴィントはようやく理解した。


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 第三話「少年、君はこの世界を変えたいとは思わないか?」

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 休日まで治らなかったらどうしよう。そんな不安は、ただの気苦労に終わってくれたようだ。あれから数日が経ち、腫れもすっかり引いたヴィントは、惰眠を貪った午前中に後悔しながらも、午後の約束に胸を躍らせていた。
 いろいろと買い込むから付き合ってくれと、一昨日の帰り道にカプリから誘われたのだ。
 デートと言えばデートになるし、もしかすると男手が欲しいだけなのかも知れない。だがヴィントにとっては――きっと男子高校生としては感覚がおかしいと思うが――後者の方が嬉しかった。どういう形であれ、頼ってもらえるのだから。

 ※

 この世界には八個の首都と、九十二個の市町村が存在している。長い『精霊戦争』によって国は一つに纏め上げられたが、平和となった今では、事実上それぞれの首都が小さな国として機能しているのが現状だ。
 百ある街の名前は、当然というべきか、アミカ=ルスのパートナーたちの名前を借名している。書物に多く登場する伝説的パートナーはそのまま首都の名前に繋がっており、その所為もあってか、「歴代最強のパートナー名を拝借しているのはウチの首都だ!」とほぼ毎日のように議論が繰り広げられている。
 戦争時代の名残で、首都は強固で巨大な城壁に囲まれており、それがそのまま上級ランクと下級ランクの境界線へと繋がった。僅か数メートルの隔たりは、世界の反対側よりも遠い。
――そのまま閉じこもっていれば良いのに。
 外から中へ入るためには数週間の申請が要るクセに、その逆はフリーパス。かつてバドロが通っていたであろう進学校も、壁の内側にある。せっかく造った箱庭を荒らされたくないのだろうが、外の雑草を踏みにじっても良いという話など無い。
 交通機関としては一番安い、デブネコ荷鞍――巨大なデブネコの背に座席用の鞍が付いている――に揺られ、ヴィントは遠くに見える首都をぼんやりと眺めては、このクソッタレな階級社会に唾を吐きかけたい思いを募らせていた。
 「ぶなァ〜〜ごろごろ」と、野太い場内アナウンスが鳴り響く。思いの外早い到着に、乗客から歓声が沸く。なにせ到着時間は、このデブネコの気分次第なのだから。
 最近はネコ運が良いな。ヴィントは待ち合わせ場所である街――『オスピターレ』に、上機嫌に降り立った。

 ※

 首都の外に造られたオスピターレは、出来てまだ二十年も経っていない新しい街だ。セピア調の家々が並ぶ首都とは違い、減色していない真新しい建物が線を引いたように並ぶ様は、歴史の重さは感じられないものの、一つの芸術品を見ているような整合された美しさがあった。
「ちょっと早かったかな……」
 街の中央にある大時計を見上げ、ヴィントは呟いた。まぁ待たせるよりは良いか、と思い直し、近くの本屋で暇を潰そうと歩き出す。
――カプリは何を買うつもりなんだろ? 買った後は、やっぱり遊ぶことになるのかな? 用事済ましてハイ終わり、なんて事はないだろうし。今日って、面白い劇はあったっけ? うーん、これってやっぱりデートになるのかな? 一応お金は多めに持ってきたけど……。あっ、マズイ。ちょっとドキドキしてきた。いや、かなりドッキドッキしてきた! うわー、どうしよう! よく考えれば、僕、今日が初めてのデートだ! うわー、マズイ、どうしよう!?
 休日に誰かと遊ぶというだけで興奮気味なのに、女の子と、しかも二人っきりで。冷静に考えれば考えるほど、今までの自分にはあり得ないようなシチュエーションに、ヴィントはアワアワとパニックに陥っていた
 時間と共に膨らんでいく、幸福な待ち時間。
 だがそれは、突然破られた。壁のようなショッピングモールの向こう側から、短い悲鳴と共に、ズズッという地鳴りのような音が聞こえてきたのだ。
――今のは……何だ? 事故か? 向こう側って、確か――。
 思考がその結論に達するよりも、ヴィントは弾かれたように走り出していた。
――まさか、そんな。
 血の気が引き、青ざめていくのを自分でも感じていた。
――違う。そんな筈がない。僕の、ただの勘違いであってくれ。
 向こう側にあるのは、買い物客が足を休める、閑散とした公園。カプリとの待ち合わせ場所は……その、音がしたと思われる場所だった。
――また、なのか?
 嫌な予感が止まらなかった。まるで何者かが操っているかのように、生まれつきの呪いのように、
――僕は、そうでなければならないのか?
 楽しいと思える気持ちが、時間が、また終わりを迎えようとしていた。

 ※

 野次馬を掻き分け、やっとの思いで狭い脇道を抜け出ると、そこには想像以上の光景が広がっていた。
 あちこちで歩道の石畳がめくり上がり、青々とした芝生は穿ったような大きな穴が空き、辺りはむせ返る程の濃い土の匂いが漂っていた。
――あれは……リトイデ?
 右手方向に、力を行使したと思われるリトイデが苦々しい顔で構えていた。誰かを、守るように。
「カプリ!!」
 思わず、その名前を叫んでいた。だが、狼狽えているカプリの耳に、その声は届かなかった。
――何が……何が起こっているんだ!?
 リトイデの視線を追うと、その先には見知らぬ男が立っていた。無精ヒゲに、彫刻のような精悍な顔つき。夏が近いというのに長い黒コートを羽織り、強い意志を秘めた眼でカプリを捕らえていた。
「そこを、退いてもらおうか」
 黒コートの男は、腹に響く低い声でリトイデを威圧した。
「全く……とんでもないシーンに出くわしたもんだね。クラスメイトの誘拐を見過ごすほど、アタシゃ腐っちゃいないよ」
 リトイデは負けじと睨み返す。背に、冷たい汗を感じながらも。
――誘拐……だって?
 状況が飲み込めず、ヴィントはただ狼狽えるばかりだった。何故、どうして。誰か説明してくれと、大声で叫びたかった。
 しかし、目の前の異常事態は、坂を転がるように加速していく。
「<グリーン・ロック>! 目の前の敵を強大な両腕で……!!」
 リトイデが持つ、一番の合言葉。山のように膨れ上がる両腕を前に、黒コートの男は動かない。それどころか、パートナーを呼ぶ気配すらなかった。
「思いっきり、叩け!!」
 放たれる、強烈な柏手。巻き起こった衝撃波が周囲のガラスが割り、木々を激しく揺らす。黒コートの男は、為す術なく叩き潰された。――かのように、見えた。
「……チッ、そう甘くはないか……!!」
 閉じた筈の掌が、ギリギリと強引に開かれていく。黒コートの男は青白い光に包まれ、指先すら触れていなかった。立ち塞がるように現れたのは、月夜を思わせるような、深い青色の重装鎧を纏ったパートナー。
「なんてヤツだよ、全く! 合言葉無しで、パートナーに魔法を使わせるなんてさ!」
 ヴィントは驚愕した。それは、恐るべき事実だった。パートナーは合言葉を聞き、そこで始めてキーワードに組みした魔法を実行する。だが、極一部のパートナーは、何も言わずとも最良の行動と魔法を行使するのだという。以心伝心。まさに最高のパートナーの形と言えよう。
 つまりそれは、眼前の敵が……上級ランクである事を意味していた。
 リトイデも馬鹿ではない。格上なのは、初手を防がれた時点で分かっていた。絶対に勝てない事も理解していた。それでも攻撃を続けているのは、カプリを逃がすためだ。
 幸いにも、相手は空を飛べるようには見えない。<ピース・バード>なら、簡単に空へ逃げられるだろう。……そう、思っていた。
 だがカプリは、ただ狼狽えるばかりで逃げようとはしなかった。あの男が、見えない糸で翼を絡め取っているかのように。
 勝てない。逃げられない。攻撃の一切が通じない。それでも抵抗を続けるのは、ただの無駄な足掻きか? ――いや、違う。引き分けには出来る。相手は防御型。攻め続ければ、時間ぐらいは稼げるだろう。騒ぎを聞き付けた警備隊がいずれ来る筈だ。そうすれば、きっと――。
 だがリトイデは、大きな思い違いしていた事を、その数秒後に知ることになる。
 気が付けば、巨大化した両腕がまるで紙のように切り裂かれていた。学校でも屈指の硬さを誇る<グリーン・ロック>が、いともあっさりと。
 麦畑を撫でる風のように現れたのは――金色の軽装鎧を纏ったパートナー。その手には、一陣の風のように全てを切り裂いていく、金色の羽を思わせる剣が握られていた。
「<グリーン・ロック>!? まさか……二体目……!?」
 リトイデは驚きの声を上げた。パートナーは、一人につき一体が普通だ。しかし、ごく稀に、複数のパートナーと契約を結べる者が居る。英雄がそうであったように、それは……天才と呼ばれる人種にのみ許された特権。
「くぅッ……! 腕が……!!」
 両腕が、まるで糸が切れたようにだらんと垂れた。パートナーのダメージがフィードバックし、両肩から先の感覚が無くなっていた。
「もう一度だけ言おう。そこを……退け」
 圧倒的な実力を前に、リトイデはついに崩れ、気絶した。二体連れというだけでレアなのに、それぞれの力は<グリーン・ロック>の遥か上だった。
 事の成り行きを見守っていた周囲の人々が、にわかにざわつき始める。
「本当に誘拐なのか? あの実力、タダもんじゃねぇぞ。首都の警護長クラスだ」「分からん。だが、どんな理由にせよ、あんな横暴が許されるもんか。早く助けに行かないと」「待て。Bランク……いや、もしかするとAランクかも知れんぞ」
 息を呑む音が、沢山聞こえた。もしも本当にAランクならば、街の人たちが束になっても敵わないだろう。そしてAランクとは、国家の象徴。それに刃向かうという事は、実力的にも、権力的にも、国そのものと闘う事に等しかった。
 それが今、目の前に居る。カプリを攫う、敵として。
「それでも行くのか? 国に、逆らうのか?」「……くそ、どうにもなんねぇのか」
 恐怖に縛られ、誰も動けなかった。――ヴィントも、例外ではなかった。
――なにやってだ、僕は? 動け……動けよ! カプリを守るって、決めたんじゃなかったのか!?
 前に進もうと、頭を上げる。足を動かせ。カプリを助ける為に。――だが、近づく敵は全て斬ると言わんばかりに、金色の剣が鈍く光っていた。
 無力さを噛み締めたあの日が、脳裏を過ぎる。治った筈の頬が、またじくりと痛んだ。
――あの剣を向けられたら……僕は、どうすれば良いんだ?
 痛みなら我慢できる。また床を転がるような屈辱だって耐えられる。だが……今突き付けられているのは、『終わり』だ。

 死。

 死という現実の終わり。足を進めれば、この先は誰も守ってくれない。パートナーは、居ないのだから。あるのはこの身一つ。為す術も無く、ただ……斬られて終わるだろう。
 あの腫れた頬よりも真っ赤に――全身が深紅に染まる自分を想像してしまい、ヴィントは恐怖の虜になっていた。
「さぁ、来るんだ。お前が前に立たねば、この世界は変えられない」
「アタシは……アタシは、お姉ちゃんのようになりたくて……。ただみんなと一緒に、笑いたいなって……」
 眼は焦点が定まらず、カプリはうわごとのように呟いていた。黒コートの男はカプリの両肩を掴み、強固な意志を秘めた声で呼びかける。
「そうする為に、私はここへ来たのだ。ジラソーレの、意志を継ぐ為に」
「お姉ちゃんの……意志?」
 カプリの瞳が、ピタリと止まった。黒コートの男に、姉の姿を重ね見ているようだった。
――動け! カプリが! 早く助けろ! この、この足めぇぇぇ!
 どれだけ強く思っても、どれだけ動けと命令しても、身体は前に進まない。金色に光る剣が、既にヴィントの身体をバラバラにしてしまったかのようだった。
「カプリ!! 今、助けるから!!」
 ハッとしたように、カプリがヴィントの方を向いた。振り絞るように出した声は、ようやくカプリに届いた。
――呼んでくれ! 僕を! 助けてって叫んでくれ! そうすれば、僕はきっと……!
 金色の剣を乗り越え、君を助けに行けるだろう。赤く染まることなど、躊躇うこと無く。
 だがカプリは、いつものように笑顔を浮かべて、静かに顔を横に振る。
「後はお願いね、ヴィント。今度は、インニャーとスイレンを守ってあげて。あの二人、意外と寂しがり屋だから。アタシはもう……充分だから」
 助けを求めればどうなるか。カプリは知っていた。だからこその言葉だった。ヴィントの身を案じて……精一杯の強がりだった。
 カプリは背を向ける。流れる涙が、尾を引いていた。

 あの日、差し伸べられた手が、遠くに離れていくような気がした。

「う……うわあああァァァーーーー!!」
 ヴィントは弾かれたように駆け出す。血まみれの自分が、剣で切り裂かれる自分が、何度も何度も脳裏を過ぎる。死という原始的な恐怖。手が、足が、身体がこの先に行くことを拒んでいる。
――嫌だ、嫌だ!!
 あの救いの手から離れるのが、嫌だった。離れればきっと、終わってしまう。笑顔の絶えない日々が、何度も思い出したい高校生活が。そしてまた……『落ちこぼれ以下』に戻ってしまう。それはヴィントにとって、
「手を、返せぇェェェーーーー!!」
 死ぬ事よりも、辛い事だった。
 迫り来る敵に対し、金色の刃が牙を剥く。ヴィントが最も恐れたそれが、今、音も無く居抜かれようとしていた。
「やっ……ダメ、止めて!」
 カプリは懇願するように叫んだ。だが、黒コートの男が命令しなければ、それは止まらない。――筈だった。
 金色の軽装鎧を纏ったパートナーは、ハッとしたように周囲を見渡し、何故か剣を降ろしていたのだ。パートナーは、契約した者以外の言うことは聞かない筈なのに。
「……まぁいい。下がれ、<パーフェクト・ソード>。パートナーも呼ばず、単身で突っ込んでくる愚か者など……私一人で充分だ」
 黒コートの男はカプリから手を離し、迎え撃つため一歩前に出る。
「うわあぁぁぁァァァーーー!!」
 叫び、ただがむしゃらに突っ込んで来る。そんなヴィントの姿を見て、黒コートの男は呆れ返ったようにため息を吐いた。
 捨て身の特攻。だが黒コートの男はヴィントの襟首を掴み、右へと容易くいなす。
「くそっ!!」
 転ぶ寸での所で踏み留まり、弧を描くように拳を振り下ろす。しかし、渾身の力を込めたそれも、コートの男は容易く受け止めてしまった。
「返せ! カプリを! その手を! どうしてお前らは僕の邪魔をするんだ!? 守りたいだけなのに!! 今を楽しく過ごしたいだけなのに!! ちくしょう!! お前らを絶対に――!!」
「黙れ」
 瞬間、世界が反転した。背負い投げされたと気づいたのは、背中に強烈な痛みが走った時だった。
「喚けば、解決すると思ったか? 怒れば、強くなれると思ったか? 少年、今君が見ている光景が、その答えだ」
 黒コートの男が、遥か高見から見下していた。
「誰かを守るという事は、誰かと闘うという事だ。少年、君は無力だ。誰も……守れない」
――うるさい。知ってるんだよ、そんな事。
 言われるまでもなかった。他の誰よりも、その悔しさを噛み締め続けてきたのだから。
「そこで寝ていろ。起き上がれば……カプリの友人といえど、容赦はしないぞ」
 黒コートの男は、苛ついた様子でカプリの手を掴み取り、乱暴な足取りで歩き出す。しかし、すぐに歩みを止めた。足首を掴む、手があったから。
「……見上げた根性だな。そうまでしてカプリを守りたいのか。だが……何の意味も無い」
 強引に振り解き、黒コートの男は一瞥もくれずに歩き出す。だが、またすぐに止まった。先程よりも強く、握られていた。
「いい加減にしろ!」
 黒コートの男は掴んだ手を蹴り上げ、強く踏みつける。ヴィントの口から、苦悶の声が漏れた。
「これ以上の抵抗は、ただの自己満足だ! 何故分からない!? 『これだけ頑張ったから、しょうがない』と、自分を納得させる為の行為に過ぎないと! お前は、無力である事を認めたくないだけだ!」
 怒鳴り散らしながら頭を蹴り、腹を蹴り、背中を踏みつける。二度と起き上がれぬよう、執拗に何度も。
――うるさいんだよ。自分の無力さなんて、とっくに認めてるよ……。
 何も出来ない。何の力もない。知っている。分かっている。生まれついての、無力なのだから。
 だけどそれでも、
「返せ……カプリを、その手を……」
 守ると、決めたのだから。自分が、どうなろうとも。
 どれだけ痛めつけても、決して引き下がろうとしないヴィントに、黒コートの男は思わず怯んだ。
「何故、そうまでして守ろうとする……? 何故、そこまでされて、パートナーを呼ばない……?」
 黒コートの男は、ハッとなった。
「まさか……呼ばないのではなく、呼べないのか!? 君は、まさか、『パートナー・ゼロ』なのか……!?」
 思わぬ言葉に、周囲はざわめく。ヴィントは答えない。だが、カプリの痛々しい面持ちが、そうである事を物語っていた。
「すまない、そんなつもりでは……。私は、君のような存在こそ救いたかったというのに……! なんて、ザマだ……!!」
 狼狽え、大きくよろめき、黒コートの男は壁により掛かる。そして、そこに頭を打ち付けた。まるで、自らを罰するように。
「……少年、君はカプリについて、どのぐらい知っている?」
 唐突な質問だった。チームを組んでまだ一ヶ月。性格や行動は知っているが、家庭や踏み込んだ事情はまだ何も知らなかった。姉が居る事を知ったのも、ついさっきだ。
「フルネームは?」
 馬鹿にするなと、ヴィントは俯せのまま声を上げた。
 カプリ=オーラ。それが、彼女のフルネームだ。しかし黒コートの男は、顔を横に振っていた。
「そうか。やはり、母方の姓を名乗っていたか。教えてやろう。彼女の本名は……カプリ=ルスという」
 ルス。その名字には、聞き覚えがあった。――いや、まさか、そんな。誰しもが耳にしたことがある、その名字。
「嘘、だろ……?」
 数ある名家の頂点。その名を語れるのは、この世界で一家のみ。
「本当だとも。カプリは、この世界を救った英雄の血筋……アミカ=ルス家五代目当主の次女だ」
 にわかには信じがたい事実だった。だが、カプリは黙ったままで、否定しない。
「今、この世界は、パートナーを中心に動いている。何をするにもパートナーを利用し、パートナーの為に社会が存在している。そして地位は、パートナーの価値によって決まる。……では、我々の価値とは? 存在意義とは? もし、パートナーを従えていない人が居たとしたら……その者に価値はないのか? 存在意義はないのか?」
 黒コートの男は、ヴィントをジッと見ながら言った。先程とは違い、優しそうな眼で。
「そのような悪しき風習を……『市民ランク』を作ったのが、ルス家だ。知っているか? ルス家の人間は、例外なくAランクを取得している。まさに英雄の家系だ。素晴らしき英雄の血筋だ。……本当に、実力で手に入れたモノならば、な。Aランクの合格率は、十万人に一人と言われている。その最難関を、家族全員が突破したと? 答えは否だ。それは、金と家柄を利用して手に入れた、薄っぺらな地位に過ぎない。……カプリも、例外ではなかった」
 ヴィントは、思わずカプリを見た。彼にとって、英雄の血を引いているという事実よりも衝撃的だった。
「努力すれば、Aランクになれる。Aランクになれば、英雄のように偉くなれる。誰しもがそこに届きそうで、誰しもが特別になれそうなこの制度。幼き頃より刷り込まれてきたこの教育は、無意識にこう思わせる為だけの政策だとは、ほとんどが気づいていない。――英雄は、やはり格別なのだと。その血筋もまた、特別なのだと。そう、『市民ランク』とは、極一部が優越感に浸るためだけの愚策だ。……少年のような苦しみを、生み出しているとも知らずにな」
 黒コートの男はヴィントに歩み寄り、
「私の名はブリーガ。この世界を、変える為に。君のように、苦しむ者を救うために。革命軍を発起し、様々な活動を行っている。……少年、君はこの世界を変えたいとは思わないか? 人としての価値は失われ、パートナーが全てだと謳う、この精霊に依存しきった世界を」

 今、ヴィントには手が差し伸べられていた。あの日とは違う、また別の救いの手が。

 ヴィントは、その手を――。
「返してよ……。僕を生き返してくれた、その人を……。守るって……決めたんだ……」
 差し伸べられた手ではなく、ヴィントは足を掴んでいた。地面に這いつくばり、顔のあちこちが腫れ上がっても、口端から血を流しても、絶対に連れさせて行かないと。
「<ピース・バード>!!」
 白い翼がヴィントの服を鷲掴み、ブリーガから離れさせる。カプリは手を払い除け、ヴィントの元に駆け寄った。
「バカ! なんで……!? こんなになるまで、頑張んなくて良いのに……!!」
 諦めていた。もう、あの高校生活には戻れないだろうと。だが、引き戻そうとする手があった。どれだけ傷つこうと、どれだけ自分が嘘にまみれていようとも。必死に。諦めずに。誰に決められたワケでもなく、自らが決めた約束を守るために。
 カプリは涙を拭い、先程までの弱々しさが嘘のように、強い決意を秘めた瞳でブリーガを睨んだ。
「ごめん、ブリーガさん。アタシ、お姉ちゃんの意志は継げない。アタシはここで、精一杯抵抗することにしたわ」
 意志の強さを現すように、<ピース・バード>が大きく翼を広げた。羽は、いつにも増して白く輝いていた。
「……今日は、引き下がろう。すまない、少年。知らないとはいえ、守るべき者に手を出してしまった。早くケガを治すと良い。そして……また会おう。今度は、同志として」
 市内の警備隊が到着すると同時に、ブリーガは二体のパートナーと共に去っていく。怖じ気づいて逃げたワケではない事を、その場に居る全員が分かっていた。その気になれば、皆殺しにされていた事も。


「守るんだ……絶対に……」
 ブリーガが去ったことにも気づかず、ヴィントは見えない敵にうなされていた。
「もう、大丈夫よ。ヴィントが守ってくれたから。アタシはここに居るよ」
 ギュッと手を握り締めると、ヴィントの顔が少しだけ和らいだ。
「黙っててゴメン。アタシは……家が嫌いでこっちに来たの。ほら、アタシって落ちこぼれだからさ、階級が階級がーって、ガミガミうるさくてね。見栄と地位とか、英雄だからとか……。とにかく、お金でAランクになるのがイヤでイヤで……。お姉ちゃんみたく自由になりたくて、Aランクを返上して、それで……」
 握られた手に、ポタリと涙が落ちた。自分でも気づかない内に、カプリはポロポロと涙をこぼしていた。
「アハハ。今頃怖くなって泣くなんて、カッコ悪いね」
 朧気な意識の中で、ヴィントは、カプリが泣いているのに気づいた。
「ちくしょう……また、守れなかった。僕は、僕は……無力だ……」
「……ヴィント? ねぇ、ヴィント!?」
 カプリが必死に呼びかけても、ヴィントはうわごとを口にするだけだった。
 遠くなる意識の中で、ブリーガの言葉をふと思い出す。

『誰かを守るという事は、誰かと闘うという事だ。少年、君は無力だ。誰も……守れない』

 諦めていた感情が、頑丈な箱に閉じ込めていた切望が、またふつふつと沸き上がってくる。
――強くなりたい。誰かを、守れるぐらいに。その為だったら、血を吐くまで訓練をしよう。呆れるぐらいの努力もしよう。でも……どんなに頑張ったって、僕は……強くなることが出来ないんだ……。どんなに頑張っても……パートナーが居ない僕は、強くなる事すら許されていないんだ……。
 パートナー・ゼロ。Zランク。非国民。生まれついての、無力。
――パートナーが……。
 当たり前の願いは叶わない。ささやかな望みも、とうの昔に絶たれている。だが、だがそれでも、願わずには居られなかった。
――パートナーが、欲しい……。
 そう強く想えば想うほど、ただただ虚しさが増していくだけだった。


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 第四話「世界中に、微笑みを配りに」

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 夢を見た。傍らに、パートナーが居る夢を。
 だけれど、分からない。覚えてない。自分のパートナーの筈なのに。誰にも負けないパートナーの筈なのに。
 どんな能力で、どんな姿だったのかを。傍らに居る筈なのに、何故か分からない。
 だがそれはとても強く、とても美しく、とても気高く、皆が憧れるような雄々しさを持ち、敵が恐れるような圧倒感を持ち合わせていた。
 そして、皆を――カプリを守れるほどの力が、そこにはあった。


 ◆---------------◆


 左手に鋭い痛みが走り、ヴィントは苦痛に歪んだ顔で目覚めた。
 泡のように消えるパートナー。そして襲いかかってくる、虚脱感。夢の中で暮らせたら良いのにと、何度思ったことか。
 療養という名の自宅謹慎は三日目を迎えたが、まだ倍以上もあるんだな、と枕に顔を埋めたままため息をはく。早く学校に行きたかった。一人で居ると、嫌なことばかり考えてしまうから。
「おっ、やっと起きた。アハハ、おはよー」「ヴィントさん、おはようございます」「……おはよう」
「くぁ……うん、おはよう。……ん? んんっ?」
 欠伸混じりの、いつも通りの挨拶。だが、今のやりとりに、ヴィントは違和感しか覚えられなかった。
 思わず辺りを見渡す。使い古された木製の机に本棚。買い貯めておいたインスタント食品。そして、薄い敷き布団のベッド。間違いなくここは寮の一室であり、ヴィントの部屋だった。
「……いやいやいや!? なんで!? なんで自然と居るのよ!?」
 さも当たり前のように、買い物袋をぶら下げた三人――カプリ、インニャー、スイレンが部屋の中に居たのだ。もちろん、招待した覚えなどない。
「……思いの外、片付いているな……」
「ねぇ? もっと男の子な部屋を想像してたのになぁー。案外キレイでお姉さんガッカリよ。女の子らしく掃除したかったのにー」
 スイレンとカプリはつまらなさそうな顔をしながらも、興味深そうにキョロキョロと見渡す。
「ふぁ〜、男の子の部屋って、こんな感じなんですね。これなら大丈夫そうです。カプリが謎のティッシュ転がってるかもって言うから、ちょっと怖かったですけど。……ところで、謎のティッシュって、結局何なんですか?」
 インニャーは首を傾げ、純真無垢な瞳で尋ねてきた。その汚れのない好奇心に対し、ヴィントは顔を反らしながら、「さ、さぁ〜? ぼ、僕には何のことだかサッパリだなぁ〜!」と、上擦った声ではぐらかすのが精一杯だった。真っ白なキャンバスほど、触れづらいモノはない。
「アハハハハ! ねぇねぇヴィント、その発生源はどこかな〜? 本棚? それともベッドの下かなぁ〜?」
 その正体を知っているカプリは、ニヤニヤと笑いながら、躊躇うことなくベッドの下に手を突っ込んだ。
「ちょっ!?」
「おっ、確かな感触アリ! 何が出るかなぁ〜? 何が出るかなぁ〜? カワイイ系? 美人系? それとも衣装とかシチュエーション系なタイプ?」
「うわわ!? 待って、止め――!!」
 職人芸とも言うべきその早業に、ヴィントは為す術がなかった。最も見られたくなかったソレが、ズルリと簡単に引っ張り出され、一番見て欲しくなかった人たちの手に渡ってしまう。
「どれどれ? ヴィンちゃんが好きなタイプ……は……?」「いったい何の本なん……ですか……?」「……くっ……」
 三人は、思わず絶句した。

『100人に聞きました! 今のパートナーと契約した理由!!』
『パートナーとの暮らしを100%充実させる本』
『街で発見! カッコイイパートナー100選!!』

 マニアックな内容よりも、ある意味恥ずかしい本の出現に、なんともいたたまれない空気が漂う。
「なんか、ゴメン。謝って済む問題じゃないのは分かってるけど……」「ひっく……ゴメン、なさい。そんなつもりじゃ、なかったんです……ひっく」「……すまない……」
 こんなにも深刻で、悲壮感漂う顔で謝られたのは初めてだった。
「せめて笑ってよ! こっちまで悲しくなるよ! ……じゃなくて、なんで部屋の中に居るんだよ!? カギは!?」
「カギ? あぁ、うん、閉まってたから、そこの窓からこっそりとね」
「え? ここって三階だよ?」
「そりゃまぁ、バサバサーっと」
 初めてこの部屋を訪れた友人たちは、チームメイトであり、女の子であり、そしてパートナーを使った不法侵入者でもあったようだ。
「覚えておきなさい。女子が男子の部屋に無断で入っても、それは合法なのよ」
 と、悪そびれた様子もなく、無駄に説得力のある言葉でヴィントの不満顔をへし折った。
「さっきは謝って、コッチは謝らないとか、もう無茶苦茶だよ……。それで結局、何しに来たの? 僕はこの通りだから、遊べないよ」
 ヴィントはぐるぐる巻きにされた両手を掲げる。他にも、頭、腹や背中、足と、表面積の約半分が真っ白になっていた。
「アハハ、ヴィントってばホントに鈍いなぁ、もう。病人の所に来たら、やることは一つでしょ?」
「え……?」
 思わずドキッとなった。ケガをしても、病気をしても、一人で居る事が当たり前だったヴィントにとって、それは夢のようなイベント。よく見れば、学校帰りなのか三人とも制服だった。
――もしかして、その買い物袋って……?
 中身はリンゴか、それとも桃缶か。生まれて初めてのお見舞いに、ヴィントは――。
「そう、おかゆパーティーですね」
 前のめりに、ズルリとコケた。
「えええぇぇぇぇーーーー!? 確かに病人が食べるものだけどさ!」
「さぁさ、愉快で楽しいパーティーが始まるよー! 良い子のみんなは、おかゆが出来上がるまで大人しく寝ているんだぞ! お姉さんとの約束だ!」
「え!? ここで作るの!? 家主から使用許可取ってないよね!? 一応病室扱いだよね、ここ!?」
「それがおかゆパーティーの醍醐味です」
 まるで答えになっていなかった。
「スタッフの皆さん、会場の準備を!」
 カプリのハイテンションさにあてられたのか、インニャーとスイレンは「はい!」「うん」と珍しく気合いが入った返事をした。
 机を端に寄せ、買い置きの食料をその上に乗せるなど、三人は手際よく準備していく。
「うわぁーお、無駄に手際が良い。いや、そもそもおかゆ作るったって、部外者に一階のキッチンは貸してくれないよ……って、うわぁーお。コンロ持参なのね。ホンッと、無駄に準備が良いなぁ……」
 カプリの買い物袋から出てきたのは、焼石(しょうせき)をセットして火を起こす、携帯用の調理器具だった。焼石は精霊石の一種で、石の大きさにもよるが拳サイズの炎を二時間ほど、パートナー無しで発生させる事が出来る便利グッズである。
 一般的に精霊石とは、魔法が詰まった石の事を指している。宝石と同じように自然と出来上がった石であり、精霊が多く出没する場所に多い事こともあって、この名が付けられた。昔は人工精霊石なるモノも存在していたらしいが、効率の悪さからか、今はもう作られていない。
 片手鍋をその上にセットし、持ってきたミネナルウォーターをコポコポと注ぎ込む。そして最後に、パチン、と栗が弾けたような音と共に着火した。
 本当は火気厳禁なのだが、ヴィントは敢えて何も言わなかった。言っても、無駄そうだからだ。
 インニャーが材料の下準備をし、スイレンは床の上に置いたまな板で材料を切り、仕上げにカプリが無駄に多い調味料で味付けを行う。見事なフォーメーションに思えなくも無いが、最後の味付けにイヤな予感を覚えずにはいられなかった。
「イッツ、ショータイム! さぁさ、おかゆは無事出来上がるのでしょうか!?」
 カプリのテンションとは正反対に、クツクツと静かに煮立つ小さな片手鍋。三人は体育座りでそれを見守る。何も喋らず、ただ無言で。
――怪しい実験をしているようにしか見えないな。
 喉まで出かかった言葉を、ヴィントは飲み込んだ。
「意外と時間が掛かるね、これは」
「……そういう食べ物だからな、これは。私は少し、外の空気を吸ってくる」
 スイレンは軽い背伸びをしながら立ち上がり、
「……借りるぞ」
 そして何故か、インニャーを襟元をひょいと摘み上げる。
「え? え? ス、スイレンさん?」
 そのままスタスタとコンロの側を離れ、ついには部屋を出て行ってしまった。

「………………えっ!?」

 まさかの行動に、さすがのカプリも呆気にとられていた。慌てて追うが、既に二人の姿は廊下になかった。
「や、やられた!! ここぞとばかりにやられたわ!! ま、待ちなさ――!!」
「わぁ!? カプリ、鍋! 鍋が!」
 ブクブクと噴き出す片手鍋。カプリは慌てて引き返し、片手鍋を持ち上げ、コンロの火を消す。
「ふぃー……セーフ。やっぱりおかゆパーティーは危険ね」
 二人はホッと胸を撫で下ろす。二人。この部屋に居るのは、残されたのは、二人。安心した途端、今度は急に気まずい空気が流れ出した。
 一人は、女の子と、しかも自分の部屋で二人っきりになってしまったという緊張感からの気まずさ。
 そしてもう一人は――。
「お、おかゆが完成したね! 煮えたね! 食べるね!」
 操り人形のようなカクカクとした動きで、カプリはおかゆを茶碗に盛る。モリモリと盛る。
「多くないかい、それ……?」
「だって、おかゆパーティーですからね!」
「が、頑張って食べます」
 ヴィントは覚悟を決め、茶碗を受け取る。――と思いきや、何故かカプリはそれを引っ込め、「チッチッチッ」と人差し指を振った。
「さぁ、いよいよメインイベントです! 美女三人からの、『はいアーン』が、今! ドリームがここに実現を!」
「いや、一人で食べられるから大丈夫だって。それに三人って、カプリしか居ないけど……」
「ちょっ、素で返さないでよ! 結構恥ずかしいんだからね、これ! おちゃらけなきゃやってられないわよ!」
 まさかの逆ギレである。
「三人でやろうって打合せしたのに、あんにゃろう共め……!」
 カプリは耳まで真っ赤にし、当たり散らすようにおかゆをかき混ぜ続けていた。
――なるほど、あの二人が……ってか、スイレンが裏切ったってワケか。
 気を利かせたつもりなのか、それとも本当に今までのお返しなのか。どちらにせよ、騙されて悔しがるカプリは、なんだか新鮮だった。
「やってやるわよ……。一人でもやったろうじゃないのよ! さぁ、ヴィント! 口を大きく開けなさい!」
「え? え? こ、こう?」
「そうよ! は、はい、アーン!」
 看病とはいえ、やる方も恥ずかしければ、やられる方も凄い恥ずかしかった。
「どう? 味は? 美味しい? もしかして不味かったり?」
 不安そうな顔で答えを待つカプリ。いつものとは違い、妙にしおらしく感じた。
「……普通だ。普通に美味しい」
 優しいしょうゆ味と、溶き卵のほのかな甘みが口一杯に広がっていった。水を入れすぎたのか、おかゆというよりは雑炊っぽくなっているが、その分喉ごしが良くなっており、するすると胃に落ちていくようだった。
「あー、良かった。……って、何よ、そのアタシが毒物でも入れそうなコメントは」
 ホッとした表情を見せたかと思えば、今度は恨みがましくジト目で睨んできた。よくもまぁコロコロと変わるもんだと、ヴィントは変に感心する。
「い、いやだって、うん、まぁ、ゴメンなさい」
「アタシだって、病人に笑いとリアクションを求めるほど鬼じゃないわ。どう? もう一口食べる?」
「……うん、もらう」
 二口目は、逆にべっとりとした食感で、味もまさにおかゆという感じの素っ気なさだった。どうやら味にバラつきがあるらしい。だがそれでも、ヴィントは三口、四口と嬉しそうに食べる。インスタントのような安定性はないが、いかにも手作りという感じの不揃いな味が、とても美味しかった。
 木々が揺れ、葉の擦れる音が聞こえる。学校帰りの賑やかな声が、遠くから聞こえる。さっきまでの騒がしさが嘘のように、部屋は静かになっていた。
「カプリ」
 急に不安になり、その名前を呼んだ。
「何?」
 カプリは隣に居る。ただそれだけで、どうしようもなく嬉しかった。三日前の事件など無かったかのように、絶対に手放したくない日常が……ここにある。
「……助けてくれて、本当にありがとね。お姉ちゃんの意志を継がないと、って勝手に決めてた。きっともう戻れないだろうな、って勝手に覚悟してた……」
「そんな――むぐっ!」
 ヴィントが喋ろうとすると、カプリは強引におかゆを突っ込んできた。
 何も言わず、ただ聞いてて欲しい。そう、言っているようだった。
「前にも話したとおり、アタシは家が嫌いでこっちに来たの。名誉と地位だけが生き甲斐の家族が、大嫌いだった。みんなが憧れる英雄の子孫は、見栄っ張りだらけだったってワケ。皮肉なもんよ。世界は平和に出来ても、家族は平和に出来なかったんだから」
 カプリは自虐的な笑みを浮かべた。英雄でも失敗することがあるんだと、ヴィントは逆に親しみすら感じていた。
「でも……お姉ちゃんだけは違った。家族の中で、お姉ちゃんだけが本物のAランクを持っていた。見栄も張らないし、ランクが低い人にも優しかった。そして……いつも笑ってた」
 姉の姿を思い出しているのか、窓の外に向けられた眼差しは、憧れに満ちていた。
「だけどね、アタシが中学校に入る前に、お姉ちゃんは家を出ちゃったの。……ブリーガさんと、一緒に」
 ブリーガ。その名前を聞いた途端、ヴィントの心臓が大きく跳ねた。白い光が激しく瞬き、強い目眩と共に嫌な汗がドッと噴き出す。
「あっ、ゴ、ゴメン! 今はその名前を聞きたくないよね? もうこの話はやめよっか? そうしよっか、ね?」
「いや……続けてくれ。今はもっと、カプリの事を知りたい」
 ヴィントは確信していた。彼は、カプリを守る上で最大の障害になるだろうと。そして……もう一度、自分の前に姿を現すだろうと。その時は、きっと――。
「う、うん……まぁ、そういう事なら……」
 カプリの顔は、茹で上がったように真っ赤になっていた。人差し指をつんつんと突き合わせながら、恥ずかしそうにとつとつと喋り出す。
「その時初めて、アタシはブリーガさんと会ったの。頼りなさそうだなぁ、って感じたのを覚えてるわ。……何でだっけ? ともかく、お姉ちゃんはそのブリーガさんと出会った事で、家を出る決心をしたってアタシに言ったの。怒ったなぁ、あの時は。『お姉ちゃんを連れてかないで!』って。そしたらお姉ちゃんが、アタシの頭を撫でながら言ったんだよね」
 あの時の感触を思い出そうとしているのか、カプリは自分の頭に手を乗せ、
「『世界中に、微笑みを配りに行ってくる』……って」
 懐かしくも寂しそうな顔で、そう言った。
「もしかして、お姉さんは……?」
 ようやく、ヴィントは気づいた。彼女が姉を語る時は、その全てが過去形だった事を。
「うん。でも、葬式はやったけど、お姉ちゃんが帰ってくることはなかったなぁ。その理由も、アタシには聞かされなかった。だからかな、何かいまいち実感が湧かないのは。アタシが家を出たのも、そのぐらいだったっけ。……そっか、あれからもう一年も経つんだ……」
 カプリが笑みを絶やさない理由が、やっと分かったような気がする。憧れている姉の真似をしたかったのだろう。だから、家を出た。だからきっと、カプリの周りには、絶えず笑みが溢れているのだろう。
 世界中に微笑みを配る。途方も無い話だ。ブリーガもまたその意志を継いでいるのなら、それを実現する為に活動しているのだろうか。
――その中には、僕も入っているのか?
 あの日、ブリーガが差し伸べた手を思い出す。カプリと一緒で、本当に救おうとしていた手だった。
「……アイツは、何をするつもりなんだ? 意志を継ぐって、この世界を変えるって、そんな事……」
 出来る筈がない。ヴィントは何故か、その言葉を口にしたくなかった。
「分かんない。でも、アタシじゃないと出来ない事だって、ハッキリ言ってたわ。それに……」
「それに?」
「なんだか焦ってた。もうすぐだ、って口にしてたから。何で今更アタシの所にって思ったけど、多分その所為かも」
 もうすぐ。その言葉は、果たしてどちらの意味なのか。理想を叶える為には、力が必要だ。しかし、それを充分に備えていることを、ヴィントは身を持って知っていた。
 ヴィントは、自分の両手をジッと見つめる。己の無力さを象徴するかのような、包帯が巻かれた手を。
――僕はこの手で、何が出来るんだろうか……?
「うん、まぁ、そんな理由でさ、今日はそのお礼のお見舞いっていうか……感謝パーティーっていうか……本当はもっとちゃんとしたお礼をしたいんだけど……ほらっ、アタシのキャラクター的に、普通な事したら逆に恥ずかしいっていうか何ていうか……」
 忙しなく手を動かしては、しどろもどろになって弁解するカプリ。確かに、普通のお見舞いなんてされたら、きっとらしくないなぁと思った事だろう。とは言っても、終始らしくない態度ではあったが。
「……あぁもう! こんな空気になるから、二人きりは嫌だったのよ! 何か……照れるじゃないのよ!! 出てきなさい! どうせ聞いてるんでしょ!? こんな空気にした責任、取ってもらうわよ!!」
 恥ずかしさからなのか、怒っているからなのか。真っ赤な顔でズンズンと廊下まで歩いて行く。
 バァン、と扉を壊しかねない勢いで開けると、そこには……やはり、誰も居なかった。
「ちょっ、なんで居ないのよ!? 話は聞かせてもらったぜ、ってピースサインするのが『お約束』ってもんでしょうが!?」
「……カ、カプリ……」
 ふと眼に入った光景に、ヴィントは苦笑いのまま凍り付く。『お約束』を超えた光景が、そこにあった。
「なによ? ……って、うわッ!?」
 そこには、平然とした顔で屋根の縁にぶら下がっているスイレンが居た。立ち聞きならぬ、ぶら下がり聞きだった。
「びび、ビックリしたー!! な、なんでよりにもよってそこなのよ!? 普通に廊下でいいでしょうが!!」
「……いや、邪魔をしては悪いと思って……」
 良かれと思っての行動だったのか、しゅんとなるスイレン。気づかいが方向音痴だ。よく見れば、小脇にはインニャーを抱えており、三階だというのに片手だけでぶら下がっている。この身体能力の高さは、さすがというべきか、無駄遣いというべきか。
「あれ? 子ネコ、高いトコ嫌いな筈なのに……」
 曲芸さながらな宙ぶらりん状態にも関わらず、インニャーは借りてきた猫のように大人しかった。――いや、気絶していた。


 ◆---------------◆


 身体のあちこちにアザは残ったが、骨に異常はなかった為、自宅謹慎が解けたその日に病院から復学の許可が下りた。ヨシッ、とヴィントがガッツポーズを取ると、担当の女医が珍しい生き物でも見るように眼を丸くしていた。
 一週間振りの登校。誰も居ない、陽が昇りきった通学路。よく買い食いしているお店を横目に通り過ぎ、つぼみのライラックを見てはいつ咲くのだろうかと考えながら歩いて行く。足取りは、いつもより軽快だった。
 だが、学校の校門が見えた途端、ヴィントの足がピタリと止まった。
――あれ? なんか、おかしいな?
 一週間。たった一週間振りだ。その筈なのに、学校が、窓から見える授業風景が、全て変わってしまったかのような錯覚を受けたのだ。
――この感じ。そうだ、思い出した。
 中学の時、ヴィントは初めて登校拒否をした。そして一週間振りに登校したあの時の気持ちと、よく似ていたのだ。誰かが僕を、待っているかも知れない。でも……誰も僕を、待っていないかも知れない。踏み出して、その結果を知るのが怖かったあの時と。
「おや、ヴィントじゃないか?」
 突然後ろから声を掛けられ、ヴィントは驚きながら振り返った。授業中なのに、どうしてリトイデが? その疑問は、ギプスで固められた左腕を見てすぐに解けた。
「ははっ、これかい? 右腕は三日ぐらいで痺れが取れたんだけど、コッチは神経がやられちまったみたいでねぇ。大げさに固められちまったってワケさ」
 ケガ人とは思えない程、リトイデはカラカラと爽快な笑い声をあげた。
「そっちは今日から復帰かい?」
「うん、何とかね。無茶はするな、って釘は刺されたけど」
「そりゃ良かった。あぁ、見舞いに行けなくて悪かったね。最も、このザマで行ったら、どっちが見舞われてるのか分からなくなっちまうけどさ」
 そう言って、またカラカラと笑った。凄い人だと、ヴィントは素直に感心した。ランクの差など気にせず、嫌味さなど微塵もなく、更には他人を気づかい、そして友人の為に気絶するまで身体を張って守ったのだから。
――こんなに完璧な人も居るんだな。……胸も大きいし。
 自然と下がる視線に、ヴィントは必死に耐えていた。
「……そうだ、言い忘れていた。ありがとう、カプリを守ってくれて」
 思えば、リトイデが居なかったら、カプリはあっという間に連れ去られていただろう。約束を守れなかったと、死ぬほど……そう、本当に死んでしまうほど、後悔していたかも知れないのだから。感謝を言わずには居られなかった。
「ははっ、なに言ってんだい。聞いたよ? 最後まで守りきったのは、アンタなんだろ? しっかし、アンタも無茶をするねぇ。ウチの相棒すら切り裂いた相手に、素手で突っ込んでいったってんだからさ。カッコ良すぎて、ウチの活躍がすっかり霞んじまったよ」
 リトイデは呆れたような、感心したような顔で笑う。褒められ慣れていない所為か、ヴィントは背中がむず痒くてしょうがなかった。
「おっと、あと数分で昼休みが終わるようだね。そろそろ入るとするかい?」
「あ、いや……えっと……」
 歯切れが悪い返事に、リトイデは首を傾げる。
 入ろうとすると、思い出したくない光景がフラッシュバックして、足が竦んでしまうのだ。誰も嬉しそうな顔をしてくれなかった、誰も待っていてくれなかった、あの光景が。
「なんだい、久しぶりだから入りづらいのかい? 全く、Aランク様に突貫してったヤツとは思えないヘタレっぷりだねぇ。さっさと入って、アイツらを安心させてやりなよ」
――そうだ。僕は、なんてバカなんだろうか。
 今は、昔と同じじゃない。今は、大切なチームメイトが居る。絶対に嬉しそうな顔で待っていると、信じられる人たちが。
「胸を張って歩きな。アンタの勇気は、ここに居る誰よりも上だよ」
 リトイデは、ヴィントの背中を強く叩いた。見えない壁は、いとも容易く崩れていった。

 ※

 昼休みが終わる少し前、まったりとした空気が漂う教室に、ヴィントは意を決して足を踏み入れた。
 自分にとっては長い一週間。しかし、周りからすればたった一週間居なかっただけだ。もしかしたら、カプリたち以外からも「久しぶり」「ケガ、治ったの?」ぐらいの軽い挨拶はもらえるかも知れない。――少しだけ、そんな期待も抱いていた。
 しかし、クラスメイトはギョッとした顔になり、珍しいモノでも見るようにしげしげとこちらを窺っている。ヴィントが自分の席に向かうと、視線も同じように動く。無視どころか、注目の的だった。
「カプリ……ちょっと、カプリ!」
 いったい何が起こっているのか。嫌な予感がしつつも、右斜め前の席に居るカプリを呼ぶ。ギクリ、と悪さをした子どものように身体を強張らせては、建て付けの悪い扉のようにギギギとゆっくり振り向く。
「アハハー……ふ、復活おめでとう! それと……ゴメン! ほんとゴメン!」
 ワケも分からず、カプリは平謝りした。これ以上何も聞かないでと言わんばかりに、耳を塞ぎ、机に突っ伏してしまう。
――え? え? 何だ? ゴメンって、何で謝ったんだ?
 パニクっていると、唐突に袖をクイクイと引っ張られた。恐る恐る振り向くと、そこに居たのは、噂好きの女子グループだった。
「ヴィント君……カプリを助けたってマジなの? しかも、Aランクからって、マジ話なの?」
 好奇心でらんらんと輝く瞳が、ズズイっと迫ってくる。しかも、「どうなの? 本当なの?」と、知らぬ間にどんどん人数が増えていく。かつてないプレッシャーに気圧され、ヴィントは「あぁ、まぁ、うん」と気のない返事をするのがやっとだった。
「ウッソー!? じゃあ、カプリが言ってたのはマジ話だったんだ!?」「こんなに大人しい顔してるのに……凄い」「ねー? 人は見かけによらないねー?」
 途端、蜂の巣を突いたように、教室内のあちこちで大きなざわめきが起こった。当事者のヴィントは、ただ呆然とするばかりだった。
「やっぱりAランクって凄いよね。あのリトイデが手も足も出なかったんだって」「無理もないよ。リアルに一騎当千をやっちゃうのがAランクだもん。私なら、一個上のランクでも全力で逃げるね」「それを……ねぇ? パートナー無しで、しかも素手でだなんて……」
 ランクの差が実力の差、と言われる程、そこには大きな隔たりがある。つまりブリーガとヴィントでは、天と地もの差があったことになる。
――そうだよな。今思えば、とんでもない事をしてたよな、僕。
 国の代表ともいえるAランクに、千の敵を薙ぎ倒せる相手に、子どものように喚きながら殴りかかっていったのだ。カプリを取り戻し、尚かつアザだけで済んだのは、幸運としか言いようが無い。
「凄いよねー、ホント!」「マジで凄いよねー!」
 褒められてばかりで、ヴィントは逆の意味で居辛くなってくる。――と、ふいに妙な話が聞こえてきた。
「凄いよね! こんな大人しい顔してるのに、Aランクを素手でボッコボコにするなんて! 鬼の形相で、もうボコボコのボッコボッコだったって!」
――へ? ボコボコ? 誰を誰が?
「えぇ? 俺は、ヴィントの正体は実は世を忍ぶ凄腕のパートナー使いで、緊急だから魔法を使ったって聞いたぞ? だからあの公園がボロボロなんだって!」「ハァ!? 私は、カプリの許嫁が現れて、それでヴィントとフェイシングで対決になったって聞いたよ!? 勝ったヴィントは、お姫様抱っこでさらっていったって!」「いや、俺は――!」「ううん、私は――!」
 あちこちから上がるヴィントの武勇伝。合っていたのは最初だけで、尾ひれやら冒険譚やら他人のエピソードやらがごちゃごちゃに混ざり合い、もはや原形がなくなっていた。
「カプリさん、これはどういう事で……?」
 観念したカプリは顔を上げ、
「あんだけ頑張ったヴィントの話を、せずには居られなくなりまして……。せっかくだからカッコ良く話そうと、楽しませようと、ちょっとだけ脚色をしてしまいまして……。そしたら、いつの間にかこうなっちゃいまして……」
 頬をポリポリと掻きながら、照れ恥ずかしそうに説明した。
 クラス中があーだこーだと議論を交わすが、ついには収拾が付かなくなり、全員がヴィントを睨み付けるように見る。
「「「ヴィント! 本当の事を話して!」」」
 カプリの周りには、常に笑いが絶えない。しかし時には犠牲者が発生する場合もあるんだなと、身を持って知った瞬間だった。


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 第五話「生きてる価値」

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 一週間振りの授業は、社会。各首都の成り立ちについて説明――だったのだが、アンナーリ先生が突然外出してしまった為、急遽パートナー訓練に変更となってしまった。外出の理由は、非常にレアな本が露店で売られていたと小耳に挟んだから、らしい。
 皮肉にも程がある。学校に来た意味がないじゃないかと、皆が喜んでいる中でヴィントだけが愚痴ていた。

 ※

 体操着に着替え、みんなゾロゾロと校庭に出る。
 パートナー訓練は個人対個人の勝ち抜きチーム戦が多い為、基本的には二クラス合同で行われる。既に三組と四組の模擬戦が始まっており、ヴィントたちの居る一組がそれに合流する形となった。
 とは言っても、パートナーが居ないヴィントは、モチロン参加出来ない。インニャーは回復型のパートナーなので、直接戦う事が出来ない為、参加出来ない。スイレンは……参加するどころか、この授業になるといつもどこかへと消えてしまう始末だ。
 結局、授業に加わるのはカプリだけだった。
「頑張ってな、カプリ」
 ヴィントは気軽に応援を送る。いつものように楽しく戦ってこいよ、という意味を込めて。
「うん! 勝ってくる! ちゃんと見ててね!」
 ヨシッ、と気合いを入れてカプリは出陣する。<ピース・バード>も嘶き、両者ともやる気に満ち溢れていた。いつもとはまるで違う気迫に、ヴィントは思わず仰け反る。
「す、凄い気合いの入れっぷりだな。なぁインニャー、何かあったのか?」
 隣に居るインニャーに質問すると、少し間を置いてから、納得したように手をポンッと叩いた。木の後ろでもなく、数メートル離れた場所でもなく、こうして近くに居てくれるのは慣れた証拠なのか。
「あっ、そっか、ヴィントさんは知らなくて当然ですよね。えっとですね、一週間前からずっとあんな感じなんです」
――一週間前……というと、あの事件の後からか?
「もう、もう本当に最近のカプリは凄いんですよ! この前なんか、ストレート勝ちもしちゃったんですから!」
「ストレートって……四連勝って事か!? うわっ、それは本当に凄いな!」
 インニャーはまるで自分の事のように喜び、ヴィントも同じように嬉しくなった。
 ランクの差は実力の差。だがカプリは、二段階も上のHランクを下したことになる。一人なら偶然かも知れないが、四人連続ともなれば話は別だ。たった一週間でこうも強くなれるのかと、ヴィントは驚きを隠せなかった。
「……元々、そのぐらいの実力はあったって事よ……」
「スイレン? 珍しい……どころか、この授業に来るのは初めてじゃないか?」
 大きなイチョウの木の陰に、スイレンが隠れるように寄りかかっていた。烏羽色の美しい黒髪を掻き上げながら、「そうかも知れないわね」と素っ気なく返事をする。
「……本当は口止めされているんだけど、あの時の貴方を見て、いろいろと考え直したそうよ……」
「考え直したって、何を?」
「……『ヴィントが頑張ってんだから、アタシも頑張らないワケにはいかない』って、嬉しそうに言っていたわ……」
 それを聞いたヴィントは、ブリーガに向かって放った言葉を思い出していた。『ここで精一杯抵抗することにした』、と。あの言葉は、きっとこういう意味だったのかも知れない。
「カプリ! えっと、頑張れ! とにかく頑張れ! ここでちゃんと見てるから!」
 ヴィントは声を張り上げ、もう一度応援をする。先程とは違い、本気で頑張る人に対する、本気の応援だ。インニャーも顔を真っ赤にして「頑張って下さい!」と続き、スイレンも小さい声ながら「……ファイト」とエールを送った。
 それに応えるように、カプリは右腕を上げる。<ピース・バード>も右翼を上げ、羽を曲げて同時にガッツポーズを取った。
 仲間が戦っているのを、チームメイトが応援し、見守る。初めてチームとしてまとまったような気がして、ヴィントは嬉しかった。


 グラウンドの中央。プレーディカ先生が張った防御壁の中で、いよいよカプリの試合が始まる――その間際、不穏な陰がのそり、のそりと近づいてきているのに、ヴィントはいち早く気が付いた。
 拳を握り締め、立ち塞がるように一歩前に出る。
「何の用だよ? ここも、優先席だって言いたいのか?」
 歩く度にフローライトの指輪をちらつかせているのは、自分は格上であると誇示する為か。この学校で最も関わりたくない人物――バドロだった。
「違ぇーよ。腐れた女みてぇに、いつまで嫌味を言うつもりなんだ、テメェは? いいから退けよ。俺は、そこのインニャーに用があるんだよ」
 唐突に名指しされたインニャーは、跳び上がる程驚き、慌ててスイレンの後ろに隠れていった。食堂での出来事を思い出したのか、身を震わせるほど怯えている。
「インニャーに? どうしてお前が? 何の用があるっていうんだよ?」
 警戒心の強さからか、ヴィントの口調は刺々しかった。
「うるせぇな。黙れよ、出来損ないが。ランク外が俺に話しかけんな」
 その口ぶりだと、あの後に誰かから聞いたのだろう。殴った相手が、燃やそうとしていた相手が、パートナー・ゼロだった事を。
「それに、だ。同級生と話がしたい、ってだけなのに、なんでテメェの許可が必要なんだ? そんな法律、あったっけかなぁー?」
 いちいち神経を逆撫でするヤツだなと、ヴィントは歯を噛む。しかし、態度と口の悪さはともかく、言っている事は間違っていない。不審に思いながらも、ヴィントは一歩身を引く。
――もし、また手を出すような事があれば、その時は……。
 だが、その警戒心とは裏腹に、バドロは満面の――生理的嫌悪感を覚える程の――笑みを浮かべ、インニャーに優しく、甘い声で語りかけ始める。
「聞いたぜ? お前、回復型だってな。それだけでもう人生勝ち組なクセして、なんでそんな落ちこぼれチームなんかに居るんだ? 軽石どもの中に宝石が混ざるのは、勿体ないとは思わないか?」
 その質問をされた途端、怯えていた筈のインニャーの顔が急に強張った。知ってか知らずか、バドロは続ける。
「なぁ、俺のチームに来いよ? そんな掃き溜めに居ないでさ、俺と一緒に上を目指そうぜ? な? お前が居れば、すっげぇーバランスの良いチームになるんだよ。な、来いよ? ケガしたら治してくれるだけでいいからさ、な? チーム戦の時は、俺が全力で守ってやるから。絶対に大切にしてやるから、な?」
 その声、その言葉、聞けば聞くほど吐き気といらつきが増していくようだった。守ってやる。大切にしてやる。空気のように軽い約束の言葉。掌を返したような薄っぺらい態度。そのどれもがヴィントとは正反対で、ことさら気に障った。
――もう、うんざりだ。
 追い払おう。そう決めたとき、誰かがヴィントの袖を掴んだ。
「わ、私が必要なんですか? どうしてですか?」
 隠れていた筈のインニャーが、意外にも自分から前に出てきたのだ。怖々と、しかしどこか怒った様子で問いかける。
「そりゃ必要さ。回復型のパートナーが居れば、ケガをしても安全だからな」
 上機嫌に答えるバドロ。それに対してインニャーは「そう、ですか……」と、諦めが混じったため息をはく。まるで、そう答える事を予想していたかのように。

「じゃあ、私が……私がバドロさんを回復出来ないって言ったら……どうしますか?」

 予想だにしない返答に、バドロは呆然となった。回復型なのに、回復出来ない。謎かけなのか、バカにされているのか。「どういう意味だ!?」と、バドロは不機嫌な声で問いただす。
「わ、私は……カプリしか、治す事が出来ないんです。理由は、私にも分かりません。けど、どれだけお願いされても……私は、他の人を治せないんです……」
 ヴィントは、カプリからその事を聞いていた。昇格試験の時、審査員の擦り傷さえ治せばランクは上がるのだが、インニャーはそれすら出来なかったのだと。
 回復型は、全ての場所から、全ての人から必要とされている。故に、万人を治せなければならない。個人だけでは、意味がないのだ。それが、彼女が落ちこぼれの烙印を押された理由だった。
「それでも……それでも良いからって、私を……チームに加えたいですか? 回復出来なくても良いって、言ってくれますか?」
 インニャーは、すがるような眼で問う。その姿は、ヴィントがチームに誘われたあの時と重なって見えた。
 途端、バドロの顔色がガラリと変わった。
「ハァー!? なんだよ、それ!? アイツしか治せないって……何の役に立つんだよ、そのパートナーは!? この俺が頭を下げても無理だっつーのか!? どうなんだ!?」
 あまりの豹変振りに、インニャーは短い悲鳴を上げた。恐怖で眼に涙を溜めながらも、怖ず怖ずと頷く。
「クソッ!! うわっ、なんだよ、やっぱり落ちこぼれじゃねぇーか!! あー、要らねぇ。あー、期待して損した。あーあ、盛大に時間を無駄にしたわ……」
 勝手に盛り上がり、勝手に期待しただけだというのに、バドロはわざとらしいまでに大きなため息を漏らし、見せつけるように大げさに落ち込んだ。まるで、インニャーを責め立てるように。
「また、なの……? どうしてみんな、同じような反応ばかりするの……? 私は……薬箱なんかじゃないのに……」
 悔しさからなのか。裏切られてもなお、それでも人を信じたいと思う自分が情けないのか。インニャーはポロポロと大粒の涙をこぼす。その涙は、かつてヴィントが抱えていた『痛み』そのものだった。
「お前は……!! どこまで人をバカにすれば気が済むんだ!?」
 あまりの暴挙に耐えかねたヴィントは、バドロに掴みかかる。――が、予想していたのか、バドロはあっさりとそれをかわした。
「オイ、出来損ない。格下は逆らっちゃダメって、センセーから教わらなかったのか? 丁度良い。鏡を見る度に思い出すよう、『Z』って焦げ目を入れてやるよ!!」
 バドロは天高々と手を上げ、パートナーの名を――。
「……さすがに私も、怒りを覚えたわ……」
 後に居た筈のスイレンが、いつの間にかバドロの背後に回っていた。その手には、尖った木の枝が。
――今度は刺す気か!?
 ヴィントは見た。冷徹な瞳の中に、青い炎が宿っているのを。
「……ッ!?」
 しかしスイレンは、寸での所で止めてしまった。逃すまいとバドロが手を伸ばすが、黒蝶のようにひらりと舞い、音も無く元の場所に戻っていく。
「……腐ってもGランクって所ね……」
 見れば、刺そうとしていた木の枝の先端が、黒く焼け焦げていた。
「チッ、マジで勘の良いヤツめ。お前の為に、わざわざ準備をしてきたってのによ」
 封をしていたものを解き放つように、バドロから激しい火柱が上がった。服の中から<レッド・ピクシー>が現れ、悔しそうに甲高い声を上げる。
――もし、あのまま刺していたら……。
 ヴィントはゾッとなった。恐らく、こうなる事を予想して準備していたのだろう。『ランク落ち』とはいえ、かつて進学校に通っていただけあって、戦闘センスが段違いに高い。しかし、直前でそれに気づいたスイレンもまた、格が違っていた。
「どうだ? これでお得意の奇襲は効かねぇぜ? 一人は出来損ないで、もう一人は役立たず。残る一人は、もう俺に手出しが出来ねぇ。完全に手詰まりってワケだ」
 バドロは饒舌に語り、勝ち誇ったように笑う。だがヴィントは、思わず首を傾げた。言葉の意味が、分からなかったから。
「手詰まりだって? まだこっちには……」
 スイレンの、パートナーが居る。まだここには居ないが、その姿も能力もヴィントは知らないが、きっとスイレンに似て格が違うパートナーなのだと信じている。
 さぁ、呼んでくれ。ヴィントは、期待を込めた視線を送る。――しかしスイレンは、顔を反らし、初めて表情を曇らせた。
 そのやりとりを見ていたバドロは、怪訝な顔をした後、急に腹を抱えて笑い出す。ゲラゲラと、キャハハハと、耳障りな笑い声を上げて。
「お前、もしかして知らないのか? 悲しいなぁ、チームメイトなのに、教えてもらえないなんてなぁ! 俺ですら知ってるってのによぉ! かつての神童も今じゃ見る影がないって、同級生が嘆いてたぜ?」
 食堂でのお返しだ、と言わんばかりに嫌らしい笑みを浮かべ、
 
「なぁ、『パートナー殺し』さんよぉ?」

 衝撃的な事実に、ヴィントは言葉を失った。
――スイレンが……パートナーを、殺した……?
 パートナーとは、生涯の戦友。そして、社会的地位のステータス。それを自らの手で殺めたという事は、全てを捨てたと同じ事。自殺と、何ら変わらない行為。
「嘘、だよな? そんなデタラメなんか、僕は……」
 信じない。そう、口に出来なかった。なぜなら、スイレンの事をほとんど知らないから。パートナーを……一度も見たことがないから。今すぐ呼び寄せれば、簡単に否定できる。なのに、スイレンは押し黙ったままだった。
「聞きたいんだけどさ、なんで殺したんだ? どうやって殺したのか、詳しく――」
「……それ以上、口を開くな……!」
 全てを射殺すような、鋭い睨み。優位に立っている筈のバドロが、喉元にナイフをあてがわれたような冷たさを感じ、思わず後ずさった。慌てて合言葉を唱え、再び<レッド・ピクシー>を服の中に忍ばせる。そうでもしなければ、心臓すら凍ってしまいそうだった。
「お、お前こそ黙れ! 睨むだけしか出来ないクセに、指図するな! お前にはもう、生きてる価値なんかねぇんだよ! パートナーを殺した時点で、お前も死ぬべきだったんだ!」
 生きてる価値なんかない。死ぬべきだ。それがスイレンに向けられた言葉だと分かった瞬間、頭が真っ白になった。
 気が付けばヴィントは、拳を振り上げていた。ありったけの力を込め、怒りのままに叫びながら。
 <レッド・ピクシー>は愉快そうに声を上げ、炎でバドロを包む。攻撃すれば、その炎が襲いかかってくるだろう。だからこそ、スイレンは攻撃を止めた。木の枝では、魔法に勝てないから。パートナーが居なければ、パートナーには勝てないから。
 だがヴィントは、そんな事など気にも留めず、そのままバドロの頬を殴り飛ばした。
 殴った拳に炎が纏い付き、ヴィントの皮膚を焦がしていく。
「……なんだ、ただ熱いだけじゃないか」
 カウンターといっても、火傷をするだけ。たった、それだけだ。何も、終わりはしない。
――あれだけ自慢げに喋ったのに、僕の手を燃やすしか出来ないのか。
 それなら、胸の内に宿る怒りの方が熱い。
――たったこれだけしか出来ないのに、パートナーが居ないだけで死ねと言うのか。
 今までずっとそうだったから分かる。これが、魔法社会の現状なのだと。これが、パートナー制度によって、市民ランクによって生み出された『歪み』なのだと。それを目の辺りにする度に、ブリーガの言葉が脳裏を過ぎった。『この世界を変えたくはないか』、と。
 アイツも炎に怯んで止まるだろう。そう高をくくっていたバドロは、何が起こったのか理解出来ず、仰向けのまましばらく呆然としていた。やがて、殴り飛ばされたという事実を、頬の痛みで理解する。ふらつきながら立ち上がり、
「熱いだけじゃ足りないか。じゃあ……全部焦がしてやるよ。手も足も、目玉も脳みそも、何もかも! 全て灰になるまで全部!!」
 怒りはそのまま巨大な炎となり、周囲の草木を焦がしていく。格下に――一番出来損ないのヴィントに自慢の合言葉を突破された事が、何よりも彼のプライドを傷つけた。
「灰になれ! パールすらも!! <レッド・ピクシー>!!」
 今までとは桁の違う炎の塊が、バドロの前に集約していく。スイレンですら怯む業火の前で、ヴィントは、火傷を負った方の手で拳を握り締めていた。怒りが収まらないのは、ヴィントも同じだった。自分が出来損ないと言われても構わない。だが、
「証明してやる! パートナーが居なくても、生きてる価値はあるって!」
 生きる価値を与えてくれたチームメイトを――スイレンを否定されるのは、我慢ならなかった。

「<ピース・バード>! 風脚のように、大地を駆け巡って!」

 青空に響き渡る、高らかな声。白い翼と共に突風が吹き荒れ、集まりだしていた炎は散っていった。
「あーあー、また無茶しちゃって。何回ケガすれば気が済むのよ、もう。……でも、さっすがヴィント。ちゃーんと二人を守りきったね」
 ヴィントたちの前に、カプリがふわりと舞い降りる。一片の炎も通すまいと、<ピース・バード>は雄々しく羽を広げた。いつにも増して広大で、白く輝く翼は、熱さを忘れるほど美しかった。
「退け! 焼き鳥にされてぇのか!?」
「出来るもんならやってみなさい! こっちもね、大事なチームメイトをケガさせられて、頭にきてんのよ! 湿気た焼石のように、二度と点かないようにやるわよ!」
「俺を殴った罪とソイツのケガを、同じ天秤に乗せるな!」
 二人の怒りは同時に爆発し、互いの合言葉を以て闘いの火蓋が切って落とされた。
「焦がせ! タルクすらも!! <レッド・ピクシー>!!」「<ピース・バード>! 撃ち放て、風弾!!」
 同時に放たれる、火の塊と、風の塊。――しかしそれは、両者に届くことはなかった。見えない壁が、それらを遮っていた。
 騒ぎに気づいたプレーディカ先生が、寸での所で割って入ったのだった。
「二人とも止めろ! ケンカしたいなら、防御壁の中でやれ!」
 怒鳴り散らす先生の言葉を聞いて、バドロは「そんなんで収まるかよ」と、ツバを吐き捨てながら言った。
「二度だ。落ちこぼれ共のクセして、二度も俺をコケにしやがった。絶対に許さねぇ。絶対に焼いてやる」
「それはこっちも同じよ。でも、『三度目の正直』は止めた方が良いんじゃない? Gランクだから甘やかされているようだけど、次はきっと停学処分が下るわよ。その意味、分かるでしょ? まだ、エリートを目指したいのなら」
 カプリの言い含んだ忠告に対し、バドロは苦々しい表情を浮かべる。
 Hランク以上の昇格試験では、実力以外にも知識の多さ、品行方正さなども求められるようになる。一つでも飛び抜けているのなら話は別だが、バドロは進学校から外された身。停学処分を受ければ、エリート街道に戻るのはより困難となるだろう。
「……一ヶ月後だ。オスピターレの街で、祭の催しの一つに、この学校主催の『学年別チーム対抗のパートナー大会』がある。そこでなら、テメェらをじっくりと炙ってやれる。真剣勝負での事故なら、処分なんて何もないからな。泣いて許しを請うまで手を焼き、家畜のように這いつくばるまで足を焼き、二度と俺に逆らえないよう全身を焼いてやる。……いいか、逃げるなよ?」
 こちらの返答などお構いなしに、バドロは一方的な約束をし、フェンスに当たり散らしながら去って行く。
 勝手に来ては、勝手にインニャーを勧誘し、勝手に侮辱して、勝手にケンカして帰っていく。何もかもが横暴で、自分の事しか頭にない行動にヴィントは、はらわたが煮え返りそうだった。
「大丈夫だった、ヴィント? 全く、あの野郎め。アタシが居ない隙を狙って来やがってからに」
「うん、ありがとう。お陰で手の火傷だけで済んだよ」
 何気なく右手を上げると、それを見たカプリは眼を丸くする。
「ちょっ!? そこそこ酷い火傷だよ、これ!! は、早く保健室に行かないと!! あぁ、でも、アタシは次の模擬戦が始まっちゃうし。いや、でも、そんな事言ってる場合じゃ……」
 先程の威勢の良さが嘘のように、オロオロと狼狽えるカプリ。見かねたインニャーが慌てて手を上げ、
「あ、えっと、私、保健委員なので連れて行きます!」
 立ち直れたのか、いつも通りに戻っていた。眼は、まだ赤かったが。
 先導しようと、インニャーは手を差し伸べる。しかし、スイレンはその手をそっと押さえ、
「……すまないが、今日だけはその役目を譲ってくれ……」
 そう言って、静かに頭を下げる。チームを結成して以来の、初めて聞く頼み事だった。


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 第六話「少しだけ、話をさせてくれ」

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 足早に保健室を訪れるが、先生の机には今朝も見かけた紫のライラックが飾られてあるだけで、姿は無かった。
 ヴィントはベッド近くの丸イスに座り、スイレンは慣れた手付きで消毒液、ガーゼと治療に必要な道具を準備していく。
「うっ……熱い。なんだこれ……?」
 痛み自体はピリピリとする程度だったが、時間が経つにつれて風邪をひいたような熱っぽさと、怠さを感じていた。
「……ベッドに寝た方が良い。もっと悪化すると思うから……」
「悪化する? この熱っぽさが?」
「……生身で魔法を受けると、たまに魔力の素が身体に残って悪さをする。きっと、それの所為……」
「あぁ、だから怠いのか。ありがとう、心配してくれて。悪いけどそうさせてもらうよ」
 ヴィントは右手を抑えながら、ベッドに寝転がる。濡れたハンカチで、シーツを汚してしまわないように。
――これ、買って返さないとな。
 見慣れない天井と共に、それを透かし見る。彼女の黒髪とは正反対の、純白のハンカチ。ここに来る途中、スイレンが応急手当を施してくれたモノだ。
「……右手を。かなり染みると思うけど、我慢……」
 スイレンは丸イスに座り、力無く上げたヴィントの右手をそっと掴む。ハンカチを避け、消毒液を付けたガーゼで傷口を洗う。
「――――ッ!?」
 あまりの激痛に、ヴィントは声にならない叫びをあげた。下ろし立てのシーツをしわくちゃになるほど握り締め、暴れ回りそうになるのを必死に耐える。
「……すぐ、終わる……」
 その言葉通り、スイレンの手際は見事なものだった。消毒が終わると、すぐに新しいガーゼを火傷の上に乗せ、慣れた手付きで包帯をぐるぐると巻いていく。
 適切な処置のお陰か、思ったよりも後を引く痛みは少なかった。
「ゴメン、また迷惑かけちゃって。僕はもう、大丈夫だから……」
 心配を掛けまいと、ヴィントはそう口にした。しかし、息も絶え絶えな様子を見れば、無理をしているのは明らかだった。
「……迷惑なものか。それに、いつ体調が悪化するとも限らない。先生が戻ってくるまで、もう少しここで待つつもり……」
「そっか、ありがとう。僕は、ちょっと寝させてもらうよ。なんだか……眠くて……。飽きたら……帰ってもいいから……さ」
 半ば気絶するように、ヴィントは深い眠りに落ちていった。

 ※

 一際大きい鐘の音で、ヴィントはゆっくりと眼を覚ました。窓から差し込むオレンジ色の光を見て、「もう放課後か……」と呟く。
――一週間振りに来たってのに、今日も寝て終わりか。これじゃあ、家に居る時と変わらないな。
 ヴィントは自嘲気味に笑う。せっかく治ったってのに、またケガをしてるなんてバカみたいだな、と。
 何気なく隣を見ると、とっくに帰ったと思っていたスイレンが、まだそこに座っていた。
「スイレン? どうしてまだここに?」
 古びた本から眼を離し、
「……あぁ、先生がまだ帰って来ないからな。やむをえず、まだここに居る。体調が悪化したら、カプリから何を言われるか……」
「先生が来てない? ……そっか、それはしょうがないよね。ゴメン、放課後まで待たせちゃって」
「……言った筈だ。迷惑なものか、と……」
 ヴィントは申し訳なさそうに――しかし、どこか嬉しそうに――笑う。飾られていた花が、黄色のムギワラギクになっていたのに気づきながらも。
「さて、もう帰らない……と……?」
 起き上がろうとするが、強い目眩を感じ、またベッドに倒れ込んでしまう。熱さは無くなったが、全力疾走した後のような疲労感が残ったままだ。
「……無理はするな。まだ、そのまま横になっていろ……」
「ゴメン、もうちょっとだけ休ませて。スイレンは暗くなる前に帰りなよ? 僕はもう――」
 大丈夫。そう言いかけて、止めた。また無理をしていると思われたくなかったから。
「……構わない。調子が良くなるまで、私も待とう。……チームメイト、だからな……」
 小さな声で呟くように言った後、スイレンは古びた本に眼を戻した。退屈はしていない。そう言っているようだった。
 保健室の前を、賑やかな声が通過していく。学校が終わったという開放感と、傍らの存在が戻ってくるという嬉しさからか。玄関の方からは、預けておいたパートナーたちが心なしか寂しげな声を上げていた。
 よくある日常。当たり前の光景。だがここに居る二人には、その日常も、当たり前も無かった。
「はぁー……情けないなぁ。たった一発殴っただけで、こんなボロボロになるなんてさ」
 包帯が巻かれた手を見て、ヴィントは苦笑いしながら肩をすくめる。
「……いいや、情けないのは私の方だ。反撃が来ることを知って、思わず躊躇ってしまったのだから。すまない、その火傷は私の所為だ……」
「あっ、いや、違うんだ。そんなつもりで言ったんじゃ……」
「……分かっている。だが、私が情けないという事実は変わらない。でなければ、私は……私は、パートナーを殺すこともなかった……」
 パートナー殺し。バドロの嫌な顔と共に、その言葉が脳裏を過ぎった。
 人間とは違い、パートナーが死ぬのは非常に稀な事である。致命的なダメージを受けても、長い時間を掛けて再生する事が可能だからだ。しかし、治療に専念させる為、ここでドロップアウトするパートナー使いが多いのも事実だ。だが、闘う事は出来なくとも、交通機関の乗り物として、或いは建築、工事の手伝いなど、どのような場所でもパートナーは活躍する事が出来る。重荷になるような事は、まずないだろう。
 そう、殺す理由などない筈なのだ。パートナーが死ぬという事は、社会的な死を意味し、更にはライフラインが断たれたも同然なのだから。
――それでも、それでも殺したいと願う理由が、本当にあるんだろうか……?
 そしてそれが、どのぐらい覚悟の居る事なのか、ヴィントには想像も付かなかった。
「……さぞかし腹が立っただろう? 手にする事も出来なかった者が居るというのに、私は、自ら望んでパートナーを捨てたのだから……」
「別に、そんな事は……」
 ヴィントは言葉を濁した。嘘だからだ。スイレンの言うとおり、腹が立っているからだ。だがそれは、今に始まったことではなく、前々から抱えていた怒りだった。パートナーを蔑ろにするヤツらを見る度に、胸ぐらを掴んで叫びたくて堪らないのだ。『要らないなら、僕にくれ!』と。
「……パートナーは、パートナーでしか殺せない。しかし、自分のパートナーならば、いとも容易く殺せる方法があるのを知っているか……?」
 ヴィントは首を横に振る。知る筈もなかった。
「……たった一言だ。たった一言、禁断の合言葉を口にしてしまえば、最強のパートナーであろうと……容易く死んでしまう。この世界の全てを担っていると言っても過言ではない筈なのに、たったそれだけで……居なくなってしまうんだ。パートナーというのは……なんて脆い存在なのだろうな。それなのに、私は……私はその合言葉を……」
 スイレンの表情は、いつものように凍り付いたままだ。しかし、本を持つ手が、微かに震えていた。
 絶対的で、孤高な存在。人を寄せ付けず、弱みなど一つも見せない。――いや、元より弱みなど一つも無い。それが、スイレンという人物。そう、思っていた。
――なんだよ……本当は、傷だらけなんじゃないか……。
 何故かは分からない。今のスイレンを見て、傷だらけで、血を流しながら荒野を駆けていく狼の姿を連想していた。その先には、安らぐ場所も、仲間も居ないというのに。
「ゴメン。僕には、パートナーを持つ辛さが分からない。けど、それだけ辛い事があったって事なんだろ? 辛くて辛くて……そうしなきゃならない状況に追い込まれてしまったんだろ?」
 自分が、イジメに耐えかねて転校してしまったように。
「……どうして、そう思う? 私が望んで、喜んでそうしたのかも知れないというのに……」
 ヴィントは静かに首を横に振る。それはあり得ないと、確信を持っていた。
「だって、殺した理由を聞かれて、本気で怒ったじゃないか? 望んで殺したら、きっとあんな風には怒れないよ……」
 今の境遇が似ているからこそ、スイレンの気持ちが何となく分かった。そこにはきっと、そうせざるを得なかったんだという、割り切れない感情があるからに違いないと。
 スイレンは表情を変えず、すぐさま本に眼を落とした。まるで、何かをごまかすように。
「……お前に、ずっと質問したかった事がある……」
 本から眼を離さずに、スイレンは唐突にそう切り出した。
「……何故お前は、それ程までのケガを負ってまで、私たちを守ろうとする? 私は……恩になるような事など、何もしていないというのに……」
「恩ならあるよ。僕を受け入れてくれたじゃないか。あの時、スイレンたちだけが……輪の中に入ることを許してくれた」
 思いもよらない答えに、スイレンは眼を丸くする。
「……たった、それだけの事で? お前は……命がけで私たちを守ろうとしているのか……?」
「それだけ、って言わないでくれよ。僕にとっては、命を救われた思いだったんだからさ。――いや、実際そうだったんだろうな。スイレンたちが受け入れてくれなかったら、きっと僕は死人のままだった。命の恩人だから、命がけで守りたいんだ。……ダメかな?」
 ダメと言われても、ヴィントは守り続けるだろう。あの日、約束したように。例え、この身がどうなろうと。
 スイレンは古びた本を閉じ、眼を閉じたまま天井を仰ぎ見る。
「……つまらない話をさせてくれ。少しの間だけ。お前が、起き上がれるようになるまで……」
 そして、重い口を開いた。


 ◆-----------◆


 スイレンが小学校に入学した時、ヴィントとは別の精霊広場でパートナー選びを行っていた。
 あれにしようか、これにしようか。そう悩んでいる時、一番眼を惹いたのは、広場の端っこでポツリと独りで座っていた精霊だった。
 その凛々しさと格好良さから、強そうだから契約しよう、みんなに自慢できるから契約しよう、と皆がその精霊に押し寄せていった。だがその精霊は、興味なさそうにそっぽを向くだけだった。
「無視すんなよ、精霊のクセに。……そうだ、乗ったら契約できるかも!」
 小学生の一人が、そう口にした。精霊の毛を掴み、強引に乗りかかろうとする。だが、精霊は大きく身を震わせ、その小学生を振るい落とした。そして、気安く触るなとでも言うように、地鳴りのような低い唸り声を上げた。
 こんな怖いパートナーなんか要らないと、一人、また一人と去って行った。残ったのは、スイレンだけになっていた。
「ゴメンね。あんなにたくさん来たら、ビックリするよね。見せ物じゃないのに、ゴメンね。みんな、アナタの毛並みがキレイだから、つい触りたくなっただけなの。許してあげて」
 元より気にしていないのか、また興味なさそうにそっぽを向き、ついには眼を閉じてしまった。
「ねぇ、誰かのパートナーにはなりたくないの? アナタも、人のパートナーを探しに来たんじゃないの?」
 何度呼びかけてみても、反応は同じだった。それでも諦めずに、スイレンはその精霊に話しかけ続けた。正直に言えば、少し怖かった。でもそれ以上に、
「明日も、ここで会えないかな? 私は、アナタともっともっとお話をしたいの」
 この精霊と、友達になりたかった。愛想が悪いだけで、本当は寂しがり屋なんじゃないかと思ったからだ。そうでなければ、今日この場所には来ないだろう。そして……自分と、どこか似ていると感じたからだ。
 精霊はゆっくりと起き上がり、まるで忠誠を誓う騎士のように、手の甲に恭しく口づけをしてきた。契約が、結ばれた瞬間だった。

 スイレンは、今でも時折考える。もしこの時、他のパートナーを選んでいたら、自分は神童と呼ばれなかったのだろうか? これから起こる悲劇を、回避出来たのだろうか?
 答えは、ない。答える者も、居ない。それでも、考えてしまうのだ。無駄な事だと、分かり切っていても。

 ※

 頭角を現したのは、小学四年生の時に行われた、初めての昇級試験の時だった。
 JからIランクに上がるためには、合言葉の正確さと、ある程度の実力が認められれば合格となる。この時の試験官は、Gランクで防御型のパートナーだった。
「うー、緊張するよ。私なんか、本当に昇級できるのかなぁ? ……うん、うん。ゴメン、そうだね。疑ったりしたらダメだよね。友達と一緒に頑張ったんだから、大丈夫って信じないと。さぁ、合言葉を唱えるよ!」
 まさか、小学生が。そんな油断もあったのだろう。初めて人に向けて放った魔法は――試験官の防御魔法を突き破り、直撃。十歳も年上を――Gランクを気絶させてしまうという、前代未聞の珍事が発生したのだ。
 どれだけ幼かろうと、実力に見合ったランクを与えるのがこの社会。スイレンは飛び級となり、一気にHランクを獲得。そして中学校を上がる頃には、異例の速さでGランクにまで登り詰めていた。
 その類い希なる才能から、いつしか彼女は、神童と呼ばれるようになっていた。
 そんな時だった。噂を聞き付けたのか、首都から――分厚い城壁の内にある進学校から、声がかかったのは。
 Aランクを数多く輩出してきたその学校は、王族、貴族、そして極々一部の実力者のみが入れる、指折りのエリート校だった。
 母は泣いて喜び、父は大きく喜びはしなかったものの、酔う度に自慢の娘だと言うようになった。彼女も、その事を素直に喜んだ。母に何度も読み聞かせてもらった、あのアミカ=ルスのような英雄になれるかも知れないと。

 ※

 進学校に入ると同時に、スイレンは寮での一人暮らしを余儀なくされた。外側の出身者なので、出入りする度に申請が必要となってしまうからだ。
 ただ、金銭面で困る事はなかった。招待されたとあって、立派な個室にも関わらず、無料で住めるように手配してもらえたのだ。それとなく寮費を聞いてみたが、父親の給料よりも上だったのには、ひっくり返る程驚いた。
 さすがの進学校とあって、まだ中学生だというのにそのほとんどがHランクであり、Gランクの者もそう珍しくはなかった。地元では神童と呼ばれた彼女も、ここではただの一生徒に過ぎなかった。
 その事実に、スイレンは少なからずショックを受けた。だが同時に、競い合える仲間が出来たことに、嬉しさも覚えていた。犬同士のじゃれ合いに、虎は参加する事が出来ない。彼女は孤独だった。強すぎるが故に。だけど、ここなら――。そう期待せずには居られなかった。
 ろくな説明もされずに始められた授業は、恐ろしく厳しかった。声が枯れるまで合言葉を唱え、パートナーが疲れて動けなくなるまで訓練は続いた。泣きながら授業を受ける事も珍しくなかった。睡眠時間以外は、全てパートナーの為に費やしていた。
 一月も経たない内に、『ランク落ち』していく生徒が出てきた。三ヶ月経つ頃には、空席が目立つようになっていた。スイレンも辛くて辛くてしょうがなかったが、パートナーとの一体感が日毎に増していくようで、反面楽しくもあった。そして何より、同じ辛さを味わっている仲間たちからの励ましが、彼女を支えた。
 地獄のような特訓を耐え抜き、そしてついに……昇級試験の日を迎えた。
 Gランクの壁は厚い。上を目指す者が、一度は口にする言葉だ。天才だ、神童だ、と持てはやされた者も、この壁にぶち当たり、留まっている者が数多く居る。
 その理由は……試験内容が、実戦形式に切り替わるからだ。
 そもそも市民ランクとは、強さのパロメーター。実戦で強くなければ、上級ランクへの仲間入りなど許されない。
 格上と真剣勝負を行うのだが、重要なのは勝ち負けではなく、怯えずにどれだけ戦えるのか、必死にどれだけ抵抗できるか、それを見るのが試験内容となっている。
「真剣勝負……かぁ。うー、イヤだなぁ。……え? だって、パートナー同士で傷つけ合うんでしょ? 同じ仲間なのに、なんかおかしいよ。……うん、うん。そっか、そういう時って、お互い覚悟の上で戦うんだね……。ゴメンね、こんな頼りない友達で。でも、もう大丈夫。私も……覚悟を決めたから。友達のアナタと一緒なら、どんな相手だって怖くないもの!」
 スイレンの相手は、二つ上のEランクだった。彼は、魔法の威力はさほど高くないし、かといって特別に速いワケでもなかった。しかし、戦い方が非常に巧く、のらりくらりとかわしながらも、着実にダメージを与えてきた。実戦経験の少ないスイレンとは、非常に相性が悪いタイプだった。
 何も出来ないまま時間は過ぎていき、周りの審査員からは、ため息が零れ始めていた。神童と呼ばれていても、所詮はこの程度か――。そう、嘲るように。
 泣くほど悔しかった。それは、侮辱された事でも、不合格かも知れない事でもなかった。この子を、もっと上手に使ってやれない事が悔しくて悔しくて堪らなかった。
――この子は、もっともっと強い筈なのに! 私の所為だ。この子を、自分の意のままに動かすことが出来ないから……!
 スイレンは、ハッとなった。友達を……自分の意のままに動かす? それは、何か違う気がした。それは、パートナーとしての関係であって、自分とこの子の関係ではないと、今更ながらに気づいたのだった。
 そうだ、逆だ。この子の意のままに、友達の……親友の思うがままに戦う事が出来たのならば――。
「そこに辿り着こうと焦ってはいけない。『そこ』など、どこにもないのだから。本当にあるのは、『ここ』だけ。『いま』という時に留まれ」
 知らない合言葉が、自然と口から零れていた。それは、百年という長い歴史の中にすら存在しない、全く新しい呪式だった。
「体験を愛しめ。一瞬一瞬の不思議に集中せよ。それは、美しい風景の中を旅するようなもの。日没ばかり求めていては、夜明けを見逃す」
 長い合言葉の末に、『それ』は発動した。他とは一線を画する魔法。恐らくは、英雄でさえ不可能だった事。
 戦い方が巧いといっても、それはあくまで『普通のパートナー使い』に対してだ。その規格外の魔法の前では、太刀打ちできる筈もなく、スイレンは勢いそのままに猛攻を掛け、そして……制限時間ギリギリの所で、勝利を収めた。
 史上最速の、Eランク獲得者が誕生した瞬間だった。

 ※

 それからというもの、首都内はスイレンの話題で持ちきりになっていた。『本物の神童』が現れたと、英雄アミカ=ルスの再来だと、彼女を持てはやした。
 かつてない快挙に、学校を挙げてスイレンを褒め称え、全校生徒に向かって『彼女のように偉業を成し遂げろ!』と何度も檄を飛ばした。
 噂が噂を呼び、興味本位とはいえ貴族や王族のパーティーに両親と共に呼ばれ、夢のような一夜を過ごしたりもした。何より嬉しかったのは、今まで鬼のように厳しかった先生たちが、涙を流しながら喜んでくれた事だった。
「ほら、こんなにも大勢の人たちが、私たちを褒めてくれている。ありがとう。全部全部、アナタのお陰ね。だからこれは、アナタが付けていた方が相応しいと思うの」
 そう言ってスイレンは、Eランクの証である翡翠のネックレスを、その子の首に掛けた。
「アナタが友達になってくれて、本当に良かった……。これからもずっとずっと一緒に頑張ろうね、<――――>」

 幸せの絶頂だったあの頃を、スイレンは今でも鮮明に覚えている。覚えている筈なのに、何故か……自分のパートナーの名前だけが思い出せなかった。
 なんて、呼んでいたのだろうか? 声が枯れるまで叫んだその名を、一文字も思い出せない。
 スイレンは分かっていた。その理由を。あんな出来事があった為に、その名前を呼ぶ資格を無くしてしまったのだろう、と。

 ※ 

 それは、十月頃――秋の昇級試験が再来週に差し迫っていた頃だった。
 注目はもちろん、スイレンへと集まっていた。もしDランクへ上がれば、再び最年少の記録が塗り替えられるのだから。
 過剰な関心、重すぎる期待。押し潰されそうなプレッシャーに対し、スイレンは……誇らしげな顔をしていた。
 スイレンは気づいていなかった。――いや、大きな勘違いをしていた。その関心も、期待も、自分ではなく、全て『親友』の方に向けられていると思っていたのだ。だから、その親友が褒められる度に、彼女は誇らしい気持ちになれたのだった。
 その日は、数週間振りの休日だった。スイレンは、『昇格記念のお祝いをしようよ』と、仲の良い友達から招待を受けていた。彼女は、声を上げて喜んだ。個別の訓練や、連日パーティーに招待されたりと、何かと忙しくてろくに会えていなかったからだ。何より、友達からはまだ一度も祝いの言葉を貰っていなかったのを、彼女は寂しく感じていた。友達なのに、と。
 集合場所は、街の外れにある一軒家だった。うっそうとした森の中にポツンと建っており、避暑地には最適だろうなぁとスイレンは思った。ここならきっと、どれだけ騒いでも近所迷惑にならないだろう。
 きっと、『Eランクおめでとう!』と書かれた垂れ幕と花吹雪、それに耳を塞ぎたくなるぐらいのクラッカーが出迎えてくれるに違いないと、スイレンは、ワクワクした気持ちでその扉を開けた。

「やっと来やがった! 早く入れ! こっちはずっと待ってたんだ!」

 入ってすぐに浴びせられたのは、クラッカーではなく、冷たい罵声だった。
 昼間だというのに家の中は薄暗く、見れば全てのカーテンが閉め切られていた。そこには垂れ幕も、花吹雪もなく、見知ったクラスメイトと、顔も知らぬ上級生が十人近くもソファーやイスに座って待っていた。招待状をくれた仲の良い友達も、その中に混じっていた。
 皆一様に、暗闇の中から覗き見る幽霊のように、生気の無い眼を――しかし恨みだけはハッキリと感じられる視線を、こちらに向けていた。
「お前は俺たちの名前を知らないだろ? だけどな、こっちは知ってんだ。嫌というほど聞かされてきたからなぁ!」
 身形の良い男が、声を荒げて言った。彼は、貴族――首都出身者であり、他にもスイレンと同じく外からスカウトされてきた者たちも居た。
 彼らには、共通点があった。幼い頃から、神童、あるいは天才と崇められてきた者たちだ。
 すぐAランクになって、アミカ=ルスの再来だと言わせてやる。皆、同じようにそう意気込んでいた。――だが、Gランクの壁がそれを阻んだ。初めて味わう挫折。それでも、人はそれを乗り越えて大きくなるのだと自分に言い聞かせ、二度、三度と昇級試験を受け続けていた。
 彼らは思った。才能の所為じゃない。俺たちは、まだ若いだけなんだ、と。どれだけ特別な人間だとしても、時間という絶対的なモノを埋めることは出来ないんだ、と。そう、高校生になれば、きっと――。
「お前の所為だ! お前なんか居なければ……!!」
 だが、彼らを支えていたモノ――自分たちは特別だというプライドは、スイレンの活躍によって粉々に砕けてしまった。同じ年齢なのに、年下なのに、どうして彼女だけが前に進んでいるんだ。一歩どころか、二歩も先へ。
 だから彼らは、今日こうして集まった。決して昇級試験の祝い事などではなく、その、理由とは――。
「謝れ! お前の所為で、学校に居辛くなったんだ! 同郷ってだけで、いつもお前と比べられる!」「そうだ、謝れ! 家に帰ればパパとママから、まだランクが上がらないの、っていつも言われるんだ! あの子は年下なのにもうEランクなのよ、って! いつもいつもだ!」「謝れ!」「謝れ!」「お前の所為だ!」「全部お前の所為だ!」
 スイレンは、ただ狼狽えるばかりだった。謝れと言われても、何に対して謝るべきなのか分からなかった。何も、悪いことはしていないのに。ただ、一生懸命頑張っただけなのに。あの子を……活躍させたかっただけなのに。
「謝れ! 土下座しろ!」「いや、それじゃ足りない。俺たちは、それだけ傷ついたんだ。そうだ、これはもう謝って済む問題じゃない!」
 そして、誰かが言った。
「そうだ、コイツのプライドを傷つけてやろう」「そうだそうだ」
「そうだ、コイツに俺たちよりも屈辱的な気持ちにさせてやろう」「そうだそうだ」
「そうだ、服を脱げ」「そうだ、裸になれ」「そうだ、それで土下座をしろ」「そうだ、俺たちの気が済むまで何度もだ」「そうだそうだ」「お前の所為だ」「そうだそうだ」「全部、お前が悪いんだ」
 呪いを掛けるように、何度も何度もその言葉を繰り返していた。つい先日まで仲の良かった友達までもが、眼の色を変え、にじり寄ってきた。
 異常だった。彼らの引きつった笑みを見て、もう何を言っても通じないだろうと感じた。
 恐ろしさのあまり、スイレンは逃げ出した。だが、草のツルが彼女の足に絡みつき、前のめりに倒されてしまった。
「お前の所為だ」「全部、お前が悪いんだ」「俺たちを……慰めろよ」
 十の口が、彼女を責め立てた。二十の手が、彼女を蹂躙しようと、衣服に手を伸ばした。
「恐怖そのものに傷つけられることなどあるものか? あなたが恐怖に動かされなければ、恐怖はあなたを傷つけることはできないのだ」
 またしても知らない合言葉が、口から零れた。そう恐怖が、濁流のような恐怖が彼女に押し寄せていった。
「自ら恐怖に飲み込まれてしまったら、恐怖があなたの主人になる。あなたが恐怖を支配するか、恐怖があなたを支配するか。いずれにしても……どちらかが主人になる」
 そしてスイレンの記憶は……そこで途切れた。自分の中で、何かが爆ぜるのを感じた後に。

 ここから先は、人伝に聞いた話だ。

 衣服が破られる前にその子が駆けつけ、蹂躙しようとしていた彼らを一蹴した。だが、それだけで終わらなかった。先程の合言葉がキーとなり、『それ』が発動してしまったのだ。錯乱していたのか、スイレンは叫びながら彼らに襲いかかっていった。
 誰かが言った。
「格上とはいえ、こっちはGランクが十人も居るんだ! 袋叩きにして、屈辱的な格好をさせれば、俺ら以上に傷付くだろうよ!」
 そうだそうだ、と彼らは声をあげ、自慢のパートナーと合言葉で、一斉に攻撃を開始した。――だが、彼らの記憶も、そこで途絶えていた。黒い影が見えたかと思えば、次の瞬間にはもう白い天井を見上げていたそうだ。
 スイレンは叫びながら――まるでダダをこねる子どものように泣きながら――暴れ続け、周囲の木々を薙ぎ倒し、ほとんど原形が無くなるまで別荘を破壊し、集まった全員に重傷を負わせた。
 警備隊が駆けつけた時には、もう既に暴れ終わった後だった。スイレンとその子は、堆く積み上げられたガレキの天辺で、気絶していたそうだ。

 ※

 その事件は、瞬く間に広がった。中学生とは思えぬ凶行に、皆が閉口し、そして恐怖した。尊敬の眼差しは、いつしか軽蔑の眼差しに変わり、本物の神童は、実は本物の悪魔だったとあらぬ噂を流された。
 更には、ケガを負わせた相手も悪かった。彼らの親は、外でも首都でも高い地位を持つ者ばかりで、しかもその中には市民ランクの運営委員長も居たのだ。
 二週間後に開かれた裁判は、ただの公開処刑に過ぎなかった。予め口裏を合わせていたのだろう。彼らは揃って、『昇格祝いのパーティーをしていたら、突然彼女が暴れ出した』と口にしたのだ。真実は――彼女の証言はいとも容易く握り潰され、誰の耳にも届くことはなかった。
 運営委員長はその裁判で、『このような者に輝かしいEランクを与えるのは、国家の恥だ!』と怒り狂ったように叫び、他の権力者と結託してスイレンを一番下のJランクにまで下げさせた。罪を犯しても、例え殺人を行ったとしても、決して下がる事がない筈なのに。完全な越権行為であり、ただの私怨だった。
 そしてスイレンは……強制的に転校を命じられた。まるで疫病神を追い払うようなあの眼は、今でも忘れられない。
 実家に帰ったスイレンは、両親に全てを話した。娘がそんな事をする筈がないと、両親が信じてくれたのがせめてもの救いだった。
 あれだけの事があったにも関わらず、スイレンはもう一度上を目指そうと誓った。Eランクを――いや、それ以上を取得して、自分の……友達の不名誉を返上しようと思ったのだ。
 しかし、それが叶うことは……なかった。昇級試験でどれだけ良い成績を出しても、何故かJランクから上がることが……出来なかったのだ。
 後になって、運営委員長が手を回していたことを知った。当時は、まさかそんな事までするとは夢にも思っていなかった。
 どうして、こんな事になってしまったの? 何も、悪いことはしていないのに。ただ、一生懸命頑張っただけなのに。あの子を……活躍させたかっただけなのに。
 Eランクになってしまったから? この子が強すぎたから、こんな風になってしまったの?
 だったら、要らなかった。普通が良かった。みんなと励まし合いながら、同じ速度でランクが上がりたかった。
 友達はもうこの子だけ。他の人たちは、もう何も信じられない。だけど、だけどもう……親友すらも……。
「消えて、私の前から! もう二度と姿を見せないで!」
 それは、決して口にはしていけない禁断の合言葉。あの子は、音も無くスゥッと消えてしまった。Jランクの、ネックレスだけを残して。

 それ以来、姿を現していない。


 ◆-----------◆


「……そして不審に思った者たちが、パートナーすらも殺したのではないか、と噂を流し、いつしかその名が付いて回るようになった。そう、『パートナー殺し』と……」
 全てを話し終えたスイレンは、深いため息をはき、自嘲気味に笑う。本当につまらない話をしてしまったと、後悔するように。
 過去の話をしたのは、初めての事だった。理由は、反応が分かり切っているから。それに、もう、誰も――。
 ポタリと、一滴の雫がシーツを濡らす。
「……どうして、泣いている……?」
 想像以上の反応に、スイレンは驚きを隠せなかった。どうせ哀れみか、同情されるだけだと思っていたからだ。しかしヴィントは、本気で悲しみ、泣いていた。まるで自分の事のように。
「だって、あんまりじゃないか!? 何も悪くないのに! 頑張っただけなのに! ちくしょう! 何でそんなクソッタレ共の所為で、スイレンがこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!?」
 悔しさと怒りで歪んだ顔は、涙で濡れていた。ヴィントは、抑えきれない気持ちを壁に叩き付ける。包帯が、巻かれた方の手で。
「あっ、ヤバッ……あだだだだだだだッ!?」
 ワンテンポ遅れてやって来た痛みは、消毒した時よりも痛く、ヴィントは悶絶して更に大量の涙を流した。
「……治療したばかりの手で殴るな、馬鹿者が……」
 スイレンは呆れたように、しかし可笑しそうな顔で叱った。
「……あの子は、私を恨んでいるだろうな。他の者と組んでいれば、きっと今でも活躍していたというのに。それなのに……私は……。もう二度と、私の前には現れまい。あの、合言葉通り……」
 スイレンは虚空を仰いだ。消えてしまった、パートナーの後を追うように。見つからないと分かっていても、無意識の内に。
――でもそれって……本当なんだろうか?
 ヴィントは、ずっと引っかかっていた。傍らの存在。生涯の戦友。それだけ大事な絆を持っているのに、たった一言で全てを失ってしまうのだろうか、と。ましてや、スイレンにとってのパートナーとは――。
――あぁ、そうか。
「大丈夫だよ。きっといつか、スイレンの前に現れてくれるよ」
 ヴィントの言葉に対し、スイレンは珍しく露骨に嫌な顔をした。
「……何が大丈夫なものか。気休めは止めてくれ……」
 いつの日にか、また――。スイレンは、何度も何度もそう願ったのだろう。しかし、何年待っても現れない。当たり前だ、と。自分が、禁断の合言葉を口にしてしまったのだから、と。そうしていつしか、罪悪感に押し潰され、スイレンは諦めた。……だが、何度諦めの言葉を口にしてみても、心が……納得してくれなかった。
 ヴィントは確信めいた顔で、自信たっぷりにハッキリと言う。
「だって、親友なんだろう?」
 スイレンにとって、パートナーはパートナーではなかった。かけがえのない、親友なのだ。
「口ゲンカぐらいなら、きっと元に戻るよ。ただ今は……その時間がちょっと長いだけさ。案外、近くに居たりしてね? 仲直り出来る切っ掛けを、待っているのかも知れないよ。親友ってのは、きっとそういうもんだと思う」
 思いもよらない言葉に、スイレンはハッとしたように顔を上げる。
「……近くに、居る? あの子と……仲直りが、出来るの……?」
 つうっと、涙がこぼれ落ちた。まるで憑き物が落ちたように、表情は晴れやかになり、眼に光が戻っていくようだった。
「……すまない、先に帰らせてもらう……」
 スイレンは慌てて顔を隠し、立ち上がる。去り際に、
「……ありがとう、相談して良かった。ヴィントがチームメイトで、本当に良かった……」
 そう、小さな声でお礼を言った。
「僕もだよ」
 ヴィントがそう返すと、スイレンは微笑みを浮かべながら、保健室を出て行った。


 それから数分して、ようやく調子が戻ったヴィントは、「いい加減に帰らないとな」とぼやきながらベッドから起き上がる。
 ふと見ると、丸イスの上にスイレンが置き忘れていったであろう古びた本があった。
――珍しいな、忘れ物だなんて。まぁ、それだけ慌ててたって事なんだと思うけど。今度会ったら渡しておこう。……それにしても、何の本を読んでいたんだろ?
 気になったヴィントは、その古びた本を手に取った。
 タイトルは、『零部隊〜栄光なき英雄たち〜』。発行されたのは、九十年も前のようだ。そして前書きには、こう書かれてあった。

《英雄アミカ=ルスの活躍により、この世界は救われた。しかしその影には、歴史に名前も載らぬ英雄たちが居たことを、君たちは知っているだろうか?
 アミカ=ルスというパートナー使いが生まれる前に、彼らはどうやって戦っていたのか、君たちは知っているだろうか?
 最も過酷な任務をこなし、どれだけ敵を討ち滅ぼしても、彼らは英雄扱いされなかった。誰よりも前線に立ち続けた彼らに、栄光は与えられなかった。
 祖国を守る為、愛する者を守る為、散っていった彼らの為に、私はその功績と歴史をここに書き記そう。彼らの名は――零部隊》

 ヴィントは、愕然となった。
――そうだ、そうだよ! 精霊戦争は、百年以上前から続いていたんだ! アミカ=ルスが、生まれる前から!
 あまりにも当たり前過ぎて、その事実を見逃していた。パートナー制度が出来上がる前までは、パートナー無しで戦っていたという事を。そう、つまりそれは――。
――僕にも、戦う術がある……!
 ヴィントは、震える手でページを一枚一枚めくっていく。一文も見逃さないよう、瞬きすら忘れて。
 それは、忘れ去られた歴史だった。パートナーという輝かしい宝石が現れ、打ち捨てられていったガラス玉のような、泥にまみれる戦い方。だが、ヴィントにとってそれは、何にも代えがたい宝石を手にした想いだった。
――やっと、やっとだ! これで僕は、戦える! これで僕は……!
 本当の意味で、あの日の約束を守る事が出来る。

 これは、偶然か。あるいは、必然か。スイレンたちを守り、ケガの為に保健室に来なければ、更にはスイレンが置き忘れなければ、ヴィントはこの本に一生出会う事は無かっただろう。
 落ちこぼれ以下になったあの日から、ヴィントはこの運命を定めた神様をずっと恨んでいた。だが今日、生まれて初めて、その神様とちょっとだけ仲良くなれたような気がした。


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 第七話「このチームに入れてくれて、本当にありがとう」

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――それから一ヶ月が経ち、この近辺では最大規模を誇る、オスピターレ祭が開催された――

 平日は閑散としているこの街も、食べきれない程の出店が所狭しと並び、数え切れない程の人々でごった返していた。訪れた人の目的は、この祭の目玉でもある、アルトゥ高校主催の『学年別チーム対抗のパートナー大会』――通称『アルトゥ杯』の観戦だ。
 ここまで盛り上がるのは、理由がある。それは、法律で『パートナー同士を戦わせ、金銭のやりとり、あるいは賭博行為に及ぶ行為を一切禁ずる』と定められている為だ。つまり、パートナー・バトルをまともに見る事が出来るのは、年に一回の世界トーナメント戦か、地域活性化の為のボランティア活動、という名目で行われる催しのみだからである。
 このアルトゥ杯は、祭の開催期間のみという制限があるため、一チームにつき一回の試合しか行えない。その為、優勝チームは決めず、各学年ごとにMVPと五名の優秀者を選ぶ形となっている。
 対戦相手は、祭の前日にクジを引き、同じ番号のチーム同士が戦う事になる。ただし例外として、双方さえ納得すれば、戦いたい相手チームを指定する事も可能だ。
 また、昇格試験よりもこちらに力を注いでいる者も少なくなかった。ここで圧倒的な実力を見せつければ、進学校からスカウトされる事も珍しくないからだ。だから生徒たちにとっては、祭という名の選抜会とも言えた。
 オスピターレ祭は一週間に渡って行われ、目玉である試合は各学年ごとに二日を要する。最終日は、休息日という名の後片付けとなる。
 ヴィントたちの試合は、二日目に振り分けられた。クジは引かず、双方納得の上で決まった対戦相手は……因縁の、バドロチームとなった。

 ※

 初日から来客数は一万人を超え、会場の外も内も熱気に包まれていた。小さなトラブルはあったものの、試合は滞りなく進行し、前半戦とも言える一日目は問題なく終了した。
 そして、二日目。長机と丸イスが乱雑に置かれたテントの中で、ヴィントたちは円陣を組むように座り、緊張した面持ちで出番を待つ。
「さぁて、いよいよデビュー戦ね! あんなヤツ、コテンパンのケチョンケチョンのボッコボコにしてやりましょう!」
 真向かいに座るカプリは、鼻を鳴らして気合いを入れた。
「うー……緊張します。あの、本当に私が出ても良いんでしょうか? 足手まといになるようなら、ここで待ってますけど……」
 左隣のインニャーが、俯いたまま弱気に言った。カプリは叱り付けるようにデコピンをし、
「なに言ってんのよ。あのね、インニャー。これはチーム戦なのよ。役に立つとか立たないとか、そういう話じゃないの。チーム全員が出場して、チーム全員であのトンチキ野郎をぶっ飛ばさなきゃ意味がないのよ?」
「うん、カプリの言う通りだ。吐かれた暴言は、コイツで返さなきゃな」
 ヴィントは、完治した左手の骨を鳴らした。賛同するように、右隣のスイレンが静かに頷く。
「アハハ、ヴィントちゃんったら過激ね。アタシなんか、インニャーとスイレンの心の痛みとヴィントに火傷を負わせた痛みをミックスにして倍の倍の倍にして返さないと気が済まないってのに」
 爽やかな笑顔の裏に、超大型台風のような激しい怒りを感じた。一番過激なのは、間違いなくカプリだろう。
 チームとしての意気も高く、気合いも充分だ。……しかし、勝とうという気持ちが高ければ高いほど、反面、周りからの嘲笑も大きくなっているような気がする。JランクがGランクに勝てるもんか、と。あんな落ちこぼれだけで本当に勝つ気なのか、と。
――確かに、その通りかも知れない。
 一人はカプリしか回復が出来ず、もう二人はパートナーすら居ない。唯一まともに戦えるカプリは、格上にストレート勝ちを決めたとはいえ、未だにJランクだ。
 突然カプリは、アハハと高らかに笑った。嘲笑の声を、掻き消すかのように。
「相手チームに比べたら、楽なプレッシャーよ。負けて当たり前のアタシたちと違って、絶対に勝たなきゃいけないんだからさ。気楽に戦いましょうよ。……まっ、勝ってみんなを驚かせるのが、一番面白そうだけどね」
 そう言ってカプリは、Jランクを証明するネックレスを外し、口づけをする。インニャーも、スイレンもそれに続く。
 ヴィントも隠していたそれを取り出し、傷だらけのタルク(軽石)をジッと見つめる。深く刻まれた、Zの文字。非国民の証。無力の象徴。
――証明してみせる。僕はもう、無力じゃないと。彼女たちを守れる力を、手に入れたんだと。
 唐突にヴィントは、奥歯でその文字を噛み潰した。まるで、過去の自分と決別するように。
「おぉ!? アハハ、ヴィントってば気合いバッチリじゃない! さぁ、アタシたちも負けてられないわよ!」
 四人はそれらを高く掲げ、
「楽しみましょう! このチームで! この試合を! 全ての力を尽くして! 最後は笑顔でいられるように!!」
 コツンと、突き合わせた。

 ※

 五段しかない小さな階段を上がり、ヴィントたちは会場に立つ。
 耳を塞ぎたくなるような、大きな歓声。観客席は人で溢れ、数万という視線がヴィントたちに注がれていた。試合会場はサッカーコート二枚分ほどの広さがあり、その中央には、対戦相手――バドロチームが不敵な笑みを浮かべて待っていた。
「ハハッ、本当に来やがった。ようこそ、キリングフィールドへ。ご褒美に盛大な焼死から派手な火葬に至るまで、『業火絢爛』なフルコースを無料でやってやるよ」
「悪いけど、遠慮しとくよ。僕は、君を完膚無きまで叩きのめすのに忙しくってさ」
 立ち会って早々、ヴィントとバドロの間に激しい火花が散っていた。
「ぷくく、バッカみたい! あんたみたいなド底辺が、Gランクのバドロ様なんかに敵うわけないじゃない!」
 隣でケラケラと笑うのは、真っ黒なアイラインを入れた女子だった。頭の上にはトマトのようなカエルのパートナーが乗っており、
不必要にテカる真っ赤な唇とよく似ている。
「パヴォーネ……。アンタ、バドロのチームに入ってたんだね……」
「そーよ。だってねぇ、バドロ様がパヴォーネの事が必要だってゆーからさ−。ねぇ見てほら、お似合いだと思わない?」
「うん、何て言うか……これ以上ないぐらい、とってもお似合いよ……」
 カプリは、呆れ顔で祝福の言葉を贈った。パヴォーネはそれに気づかず、「アリガトー!」と満面の笑みを浮かべて喜んだ。
「知り合いなの?」
「まぁ、一応ね。アイツは宝石とブランドとエリートが大好きな……まぁ、何て言うか、ある意味分かり易いヤツよ。他のチームから移った理由は……ご想像通りでしょうね」
 カプリは、こっそりとヴィントに耳打ちをした。
「それはそうと、アンタたちは二人だけで戦うつもりなの?」
 最大四人まで出場可能なのだが、バドロとパヴォーネの二人しか見当たらない。
「本当は俺たちでも充分すぎるんだが……今日はビッグゲストが来てくれるってんでな。楽しみに待ってろよ」
「そうそう、お楽しみは後にってねー!」
 バドロは小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、パヴォーネはニヤニヤと笑いながら言った。腹立たしいぐらいにお似合いだなぁと、ヴィントは思った。
「あと一人が来るんだね? もし五分以内に来なかった場合は、君たち二人で戦う事になるから注意してくれたまえ」
 脇に立っている審判が、申請されたメンバー表を確認しながら、それとなく注意を促した。
 審判はこちらを振り向く。そしてヴィントたちの方を見た途端、怪訝な顔になってしまった。
「こちらは申請通り四人で来ているようだが……そこの二人、パートナーはどうしたのかね?」
 悪意も他意も無い、至極当然な疑問と質問。それが来る度、ヴィントは胸の下辺りが締め付けられる思いだった。
 先にスイレンが一歩前に出て、毅然とした態度で答える。
「……私のパートナーも、少し遅れている。いずれ、姿を現してくれるだろう……」
 パートナーが遅れてくる。意味の理解出来ない答えに、審判は「そ、そうか」と相づちを打つのがやっとだった。
「君も、同じ理由かね?」
 ヴィントは、静かに首を横に振る。いくら待っても、自分のパートナーは来ない。最初から、居ないのだから。そう、だからこそ――。
「いえ、僕は……これで戦います」
 ヴィントは、上着を脱ぐ。その下にあったのは、彼の希望そのもの。戦うための、唯一の術。
「な、なんだこれは!? 正気か、君は!?」
 審判は、思わず眼を剥いた。人差し指サイズの棒のようなモノが、腰のベルトにギッシリと並んでいたのだ。そして、見たこともない古びた武器が二つも。
「なんだありゃ? オモチャで戦おうってか?」「うぇ、変なヤツが出ちまったよ。盛り下がるなぁ」「何でパートナーを出さないんだろ? 意味分かんない」
 予想外の展開に、観客たちは大きくざわめく。彼らは、パートナー同士の戦いを見に来たのだ。それ以外は、望んでなどいない。
 不穏な空気を察知した審判は、険しい顔で警告を促す。
「君、冗談はいい加減にして、早く自分のパートナーを連れてきなさい。さもないと、失格にするよ?」
――冗談、だって?
「冗談なんかじゃありません!」
 ヴィントは、思わず声を荒げた。唯一の希望を、否定されたような気がしたから。
「僕は、これで戦います! これしか……戦う術がないんです」
 冗談でも、悪ふざけでもない事は、その真剣な眼差しを見れば分かった。だが、だからこそ観客たちは混乱する。どうして、そんなモノで戦おうとしているのか、と。何故、パートナーを連れてこないのか、と。
 波のように広がる混乱。このままでは試合を始める事が出来ないと判断した審判は、収拾を付けるために、失格を告げる手を――。
「待って! そ、それはもしかして……『精霊銃』!?」
 向かいの控え室から飛び出してきたのは、歴史担当のアンリーナ先生だった。審判を押し退け、ヴィントの装備を食い入るように見つめる。
「やっぱりそうだわ! このピン・ファイヤ式の『バレット』に、魔力の排気を重視したデザインと、暴発を防ぐためのシングルショット仕様の銃身! しかもこの装備は……まさか、零部隊を模倣しているの!? 国立図書館でも、博物館でも知ることの出来ない歴史を、貴方はどこで知ったの……!?」
「本に載っていました。九十年ぐらい前の、とても古い本に。銃とこの装備は、古道具屋を数十軒回ってやっと見つけたんです」
 その答えを聞き、アンリーナ先生はハッとなる。
「……あの日、零部隊に関する貴重な本を買えなかったのは、貴方の所為なのね? 全く、私の恋人を奪った罪は重いわよ。……けれど、それ以上に面白いモノが見られそうね」
 アンリーナ先生は、Eランクの証である翡翠のイヤリングを審判に突き付け、
「彼を失格にせず、このまま戦わせて下さい。Eランクであり、アルトゥ高校の教師でもある私が、全て責任を取ります」
 有無を言わさぬ迫力に圧され、審判はその手を下ろした。観客席も、Eランクのお墨付きという安心感からか、騒ぎは徐々に収まっていく。
「チッ、そのまま失格でも面白そうだったが……まぁいいさ。そのオモチャで何が出来るのか知らんが、何も出来ないまま焦がし尽くしてやるよ」
「お前を殴り飛ばしたときは、素手だったって事を忘れたのかい? 今度は……頬だけじゃ済まさないよ」
 ヴィントとバドロは牽制するようににじり寄り、更に睨み合う。

「いいねぇ、そのギラギラした感じ。アタシも混ぜておくれよ?」

 遅れてきたにも関わらず、堂々とした態度で入場してきたのは――。
「リトイデ!? な、なんでアンタがここに!?」
 予想外な人物の登場に、カプリの声は裏返っていた。リトイデチームの試合は、昨日の内に終わった筈なのに、と。
「いやいや、アタシは一回こっきりの、ただの臨時メンバーだよ。コイツに人徳なんてもんはこれっぽっちも無いから、メンバーが全然集まらなくてねぇ。そこでアタシの出番、ってワケさ」
「リ、リトイデ。それは言わない約束だろうが……」
 格上のバドロも、リトイデの前ではたじたじだった。確かに思い返してみれば、昨日の試合ではリトイデ本人の姿は一度も見ていなかった。
「アハハハハ! 全くだわ! で、泣き付かれてリトイデが入ったってワケね?」
「いいや、アタシから志願したのさ」
 したり顔で答えるリトイデに、カプリはまたしても驚きの声をあげた。
「理由は、このバドロと大して変わらないよ。カプリ、アタシらもこの華やかな舞台で決着を付けようじゃないか。もう、全力で戦えるんだろう?」
「全力って……。アタシは別にケガなんかしてないし、いつも全力で挑んで――」
「黙りな。ご託を並べてる場合じゃないだろ? 理由なんて要らないのさ。ただがむしゃらに戦いな。全力で、本気で。でないと、なにもかも叩き潰しちまうよ?」
 カプリは、ゾッとなった。そこに居るのは、いつもの大らかなリトイデではなかった。強い者と戦い、常に上を目指そうとする、『ランカー』の眼だった。
 審判はこれ以上の私語を慎むよう笛を鳴らし、事務的にルール説明を始める。
「事前に説明を受けていると思うが、試合時間は一時間ちょうど。どちらかのチーム全員が戦闘不能になるか、ギブアップした時点で終了となる。時間切れになった場合は、審判を含めた複数の審査員によるジャッジで判定される。なお、今回のフィールドには相手の魔法を防ぐ為の障害物が設置してあるので、利用するかどうかは選手の判断に委ねる。両チーム、所定の位置へ」
 屋根の無い廃墟のような障害物を避けながら、バドロチームは左端へ、カプリチームは右端へと移動する。
 あれだけ熱気に包まれていた会場内も、この時ばかりは水を打ったように静まりかえる。緊張で破裂しそうな心臓の音が、ハッキリと聞こえてくる。今、このフィールドには自分だけしか居ないのでは、と錯覚してしまう程に。――いや、カプリの荒々しい鼓動も、インニャーの不安そうな鼓動も、スイレンの静かな鼓動も、ヴィントは背中越しに感じていた。自分が一人ではない事を、チーム全員がここに居る事を、ハッキリと感じていた。
 そして審判は、様々な想いが交差するこの試合のホイッスルを、高らかに鳴らした。

 ※

「マズイわね……。まさか三人目が、リトイデだったなんて……」
 カプリは、苦虫を噛み潰したような顔で言った。
 思わぬ人物の登場に、ヴィントたちは背の高いL字型の障害物に隠れ、様子を窺いながら作戦会議を開いていた。
 ランクも実力もバドロの方が上だが、炎は風で散らすことが出来る為、どちらかと言えばカプリの方に分があった。だから、三人同時に攻撃を仕掛ければ、何とか勝てるだろうと見込んでいたのだ。……しかし、そこにリトイデが加わるとなると話は別だ。恐らく急造チームにも関わらず、リトイデの統率力によって連係攻撃を仕掛けてくるだろう。となれば――。
「何とか切り離して、一人一人倒していくしかないか?」
「厳しいわね。バドロはともかく、リトイデは単独でアタシたち全員と相手できるぐらい強いわよ?」
 過大評価ではないことを、ヴィントは分かっていた。Hランクなのにも関わらず、Aランクのブリーガに対してあれほど抵抗できたのだから。何より、カプリはまだ……リトイデに一度も勝ったことがない。
「……奇襲を仕掛けよう。先にバドロを潰せば、数で押し切れる……」
「そうね、それしか方法がなさそうね」
 スイレンの案に、カプリは頷く。善は急げと動き出すが、慌ててヴィントが制止する。
「待って。バドロは、スイレンの奇襲を誰よりも警戒している筈だよ。だからここは、敢えてリトイデにした方が良いと思うんだ」
 このフィールドは、まるでゴーストタウンのように障害物が点在している為、その分死角も多い。インニャーを誘いに来た時でさえ、予めカウンター魔法を仕込んでいた程だ。であれば、今回はそれ以上の罠を仕掛けている可能性が高いと考えるべきだろう。
「なるほど、それもそうね。……よし、アタシが囮になってバドロを引きつけるから、その隙にリトイデをやってちょうだい」
「いや、囮なら僕が――!」
「ダーメ! 全く、言うと思ったわよ。バドロだけならアタシ一人で抑えられるし、もしもの時でもインニャーが居るから平気よ」
「はい! カプリの事なら、私に任せて下さい!」
 頼りにされているのが嬉しいのか、インニャーの眼はランランと輝いていた。
「それに、この奇襲作戦はヴィントが要なのよ」
「僕が要……?」
「そっ、あっちのチームはまだ、ヴィントの新しい力を知らないわ。だからこそ、対処するのにワンテンポ遅れる筈。そこをスイレンが突いてくれれば……」
 カプリの期待するような眼に、スイレンはただ静かに頷く。期待通りに、こなしてみせる。そう言っているようだった。
「よし、じゃあ行くわよ!」
 <ピース・バード>に掴まり、カプリは空へと羽ばたく。バドロをいち早く見つける為と、障害物を無視した移動が出来るという優位性を生かす為である。
 カプリは周囲を見渡す。――が、すぐさま不敵な笑みを浮かべている……リトイデと眼がカチあった。まるで、こうなる事を予想していたかのように。
「<グリーン・ロック>、後方に右腕の剛健な掌を」
 カプリの真後ろに、障害物よりも高い壁が出現する。何故、直接攻撃を仕掛けてこないのかとカプリは疑問に思ったが、退路が塞がれていると気づいた瞬間、その目的もすぐに理解した。
 巨大な腕が、カプリとヴィントたちを一瞬にして分断したのだ。
「カプリ!? くそっ、いきなりやられた!」
「くっ……! みんな待ってて! 今行くから!」
 大きく迂回して合流しようとするが、そこを見逃すリトイデではない。もう片方の掌が目の前に現れ、カプリは慌てて急停止し、それをかわした。
「言った筈だよ、カプリ。アタシは、アンタと戦いに来たんだって。逃げようもんなら、この手で捕まえるだけさ。助けに行きたきゃ、アタシを倒してからにしな」
 カプリの背筋に、冷や汗が伝う。翼があっても、絶対に逃げられないと感じた。眼下のリトイデは、完全に獲物を狙う眼だった。
――マズイ! 作戦を逆手に取られた!
 最悪のパターンだった。奇襲で各個撃破するつもりが、逆に主力である自分が切り離されてしまったのだから。
 先にヴィントたちを潰し、数で押し切るつもりなのだろう。ただでさえ不利なのに、一部の勝機も与えないその戦略に、カプリは戦慄さえ覚えた。
――早く、早く助けに行かないと!
 しかし、退路は塞がれている。ましてや、そう簡単にリトイデを倒せるとも思えない。どうしようか。どうするべきか。カプリは、焦る一方だった。あちらには、戦えるパートナーが居ないというのに。
――アタシが行かなくちゃ、ヴィントたちは……!
「待ってろ、カプリ! すぐにバドロをぶっ倒して、助けに行くからな!」
 思いがけない励ましの声に、カプリは、思わず笑ってしまった。
――まいっちゃうね。先に、その台詞を取られちゃうなんてさ。
 早く助けに行かなければ、このチームは負けてしまう。そんな風に焦っていた自分が、急にバカらしくなった。
――ゴメン、思い上がってた。このチームで戦えるのは、アタシだけだって。
 ヴィントは言っていた。守れる力を手にした、と。そして、スイレンも言っていた。自分のパートナーは遅れてやって来る、と。
「うん! 頼りにしてるわよ!」
 ならば、信じよう。みんなを。このチームの力を。
 カプリは、眼下の敵を真っ直ぐに見つめる。あれだけ散漫していた意識が、全てこちらに注がれているのを、リトイデは肌で感じていた。
「さぁ、全力で来な」
「えぇ、全力で行くわ」
 大空を舞う白い翼と、大地にそびえる苔生した岩石が、真っ正面からぶつかり合い始めた。

 ◇

 巨大な壁が出現したとほぼ同時に、複数の火球がヴィントたちに襲いかかる。
「カプリ!? くそっ、いきなりやられた!」
 ヴィントは咄嗟にインニャーを抱きかかえ、寸での所でかわし、慌てて体勢を立て直す。
「あっ!? ご、ごめん、インニャー! つい……」
「い、い、いえ! わ、私の方こそごめんなさい!」
「いや、僕の方こそ……」
「いえ、私の方こそ……」
 お互い真っ赤な顔で謝り続ける二人。難なくかわしたスイレンは、どことなく不機嫌そうな顔で、
「……二人とも、集中……」
 ピシャリと注意を促し、更なる奇襲に備えた。
「メインディッシュは焼き鳥で、前菜は能無し共の燻製焼きって所か」
 障害物の影からゆっくりと現れたのは、炎の中で悪魔のような笑みを浮かべているバドロだった。隠れているのか、近くにパヴォーネの姿は見当たらない。
「俺はさ、有言実行するタイプなんだよね。泣いて許しを請うまで手を焼いて、家畜のように這いつくばるまで足を焼いて、二度と逆らえないように全身を焼いてやるよ」
 恐怖心を煽るように、バドロは炎をじわじわと掌に集めていく。
「待ってろ、カプリ! すぐにバドロをぶっ倒して、助けに行くからな!」
 ヴィントは巨大な壁に向かって叫んだ。それは虚勢でも、励ましの声でもなかった。守ると決めた以上、どんな敵でも蹴散らして助けに行くという、本気の言葉だった。
「うん! 頼りにしてるわよ!」
 いつものような笑い声と共に、カプリの嬉しそうな声が返ってきた。頼りにしている。その言葉は、何よりもヴィントを勇気づけた。
「俺をぶっ倒す? パートナー無しで? そんなオモチャでどうやって倒すのか、教えてくれよ?」
「あぁ……教えてやるよ。二度と忘れられないぐらいにな!」
 ヴィントは、精霊銃に手をかけた。バドロは一瞬怯んだが、口早に合言葉を唱える。何が飛びだして来るのか分からないのなら、その前に潰すのみ。
「灰になれ! パールすらも!! <レッド・ピクシー>!!」
 放たれる炎。同時に、ヴィントは精霊銃を抜く。
「スイレン! インニャーを頼む!」
 そして撃鉄を起こし、
「さぁ、新しい力のお披露目だ!!」
 炎に向かって、トリガーを引いた。ガギン、と鉄を撃つ鈍い音が鳴り響く。『バレット』に詰め込まれた精霊石がその衝撃で連鎖反応を起こし、次々と魔力を生み出していく。やがてそれは臨界点を突破し、バレットの先端部分を突き破り、凝縮されたソレが銃口から発射される。
 それは紛れもなく――水属性の魔法だった。
「パ、パートナー無しで魔法を使っただと!?」
 小さな水球は炎の進行を妨げ、威力が弱まった隙を突き、ヴィントは脱出する。同時に、動揺しているバドロまで、一気に距離を詰めていく。
「接近戦に持ち込む気か!? この、命知らずめ!!」
 バドロは<レッド・ピクシー>を身に纏い、瞬時にカウンター攻撃に備える。だがヴィントは、またしても何の躊躇いもなく、バドロの胸ぐらを掴んだ。
 腕に炎が絡みつき、皮膚を焦がして――いかなかった。初めから接近戦に持ち込むつもりだったのだろう。防炎に特化したガントレットが、腕を守っていた。
「な、何なんだよ、それ……!?」
 更に困惑するバドロを無視し、ヴィントはもう片方の手で精霊銃を引き抜き、眉間に突き付ける。
「お、おい!? 待て! 止めろ!」
 そして――。
「<ケチャップ・フロッグ>ちゃん! 膨らんで弾くガムフーセンよ!!」
 隠れていたパヴォーネが姿を現し、頭上のカエルから透明な風船のようなモノを吐き出させる。それはバドロだけを包み込み、トリガーを引く直前で、ヴィントは弾力性のあるバリアーに弾かれてしまった。
 呆気に取られ、未だに立つことが出来ないバドロに、パヴォーネは手を差し伸べる。
「だ、大丈夫? かなーりヤバかったみたいだけど?」
「あ、あぁ……。マジで助かった……」
 バドロは、思わず眉間に手をあてた。冷たい銃口の感触が、まだ残っているようだった。もし、あのまま発射されていたら、どうなっていたのか……。恐怖を振り払うようにヴィントを睨み付け、
「テメェ、何だその武器は!? 魔法を使えるなんて、聞いてねぇぞ!! ありえねぇだろ!? 反則だろ!? そんなもんまで使って勝ちてぇのか、このクソ野郎め!!」
 失格になりかねないその汚い罵声に、観客は――賛同の声を上げていた。
「ズルいぞ! ちゃんとパートナーで戦え!」「何であんな危険なモノに使用許可を出したんだ!?」「審判! アイツを失格にしろ!」
 何故なら、バドロと同じ気持ちだったからだ。その『未知なる武器』に、恐怖を覚えていた。
 パートナーが居て、合言葉を唱えて、初めて魔法が発動する。幼き頃より、彼らはそれが常識であると学んできた。だが、今目の前にある武器は……パートナーが居なくても、合言葉を唱えなくても、魔法が発動出来てしまう。彼らの常識を否定するソレに、嫌悪感を抱かずにはいられなかった。

「夜の静寂のように、この小さな声を遠くまで響かせて。<ブック・ミネルヴァ>」

 これだけの騒ぎにも関わらず、アンリーナ先生の声がまるで耳元で囁かれているかのように、ハッキリと聞こえてくる。
【突然で申し訳ありませんが、私はアルトゥ高校で教師を勤めている、Eランクのアンリーナと申します。この混乱を鎮める為にも、彼が使用している武器に関して、補足説明をさせて頂きます。その説明をお聞きすれば、彼に使用許可を出した理由が納得できるかと思われます】
 観客たちはその声に戸惑いながらも、待ち望んでいたかのように安堵の表情を浮かべていた。
【彼が使用しているのは、精霊銃と呼ばれている武器です。細かくした精霊石を特殊な筒――バレットに入れることによって、擬似的な魔法を発動する事が出来ます。それが造られたのは、もう百年以上も前の事です。敵対していた精霊と戦う為に生まれた兵器の一種であり、パートナー制度が出来たことによって忘れ去られてしまった武器でもあります】
「そんなに前からあったのか……。でもよ、あんな便利なもんを、どうして使わなくなったんだ?」
 観客の一人が、疑問をそのまま口にした。パートナーが居なくても、魔法が使える。そんな夢のような武器が、どうしてなくなってしまったのかと。
 アンリーナ先生はトーンを下げ、寂しそうに答える。
【パートナーが発動する魔法と比べると、威力が……悲しくなるほど低いからです。十分の一……いえ、恐らくはそれ以下の威力しかないと思われます。暗闇を照らすとき、たいまつの炎を持っている人は、マッチの火を欲しがらないでしょう?】
 授業さながらの分かり易い説明を受け、観客たちは納得したように頷く。だが、まるで息をするように自然と、次の疑問が浮かび上がってくる。
 ではどうして、彼はそんな弱々しい力をわざわざ使っているんだ、と。
【今、この試合を見ている方々は、とても幸運です。百年以上前に起きた、精霊戦争と同じような光景を見ることが出来るのですから。……もしかすると、英雄アミカ=ルスも皆様と同じような気持ちだったかも知れませんね。パートナー無しで、そんな弱い力で、どうやって戦うのか、と】
 そしてアンリーナ先生は、魔法を解き、自らの声で宣誓する。
「彼を失格にするのならば、私はEランクの証を捨てます! この試合には、それだけの歴史的価値がある!」
 その覚悟と毅然とした態度に、もはや反論する者は居なかった。判断に迷っていた審判は、同じように覚悟を決め、続行の合図を送る。
「ありがとうございます、アンリーナ先生!」
 ヴィントは礼を言いながらも、精霊銃に弾を込め直し、再びバドロに向かって突進していく。
「ふふ、礼を言うのはこちらの方だわ。危険を顧みない突進に、命を懸けた接近戦。そして……覚悟を決めた瞳。貴方は、噂に聞いていた零部隊そのもの。影の英雄を、まさか生で見ることが出来るなんてね」
 アンリーナ先生は知っていた。その力が廃れた、本当の理由を。そして何故、零部隊と呼ばれているのかを。

 ◇

 炎は風で散らすことが出来る。だが、岩を風で吹き飛ばす事は、並大抵の事ではない。
「<ピース・バード>! 撃ち放て、風音!! 風音!! 風音ォ!!」
 眼下のリトイデに向け、三連続で風の塊を撃ち放つ。しかし、リトイデは合言葉すら使わず、障害物を巧く利用しながらかわしていく。
「<グリーン・ロック>、足下に右腕の剛健な掌を」
 かなりの距離があるにも関わらず、リトイデは正確にカプリを狙い撃つ。だが、元々長距離用の魔法ではない為、威力は随分と落ちていた。カプリはそれをひらりとかわし、すぐさま反撃に転じる。
 <グリーン・ロック>は一発一発が強力だが、腕を切り離して実行する為、連発が効かないという弱点がある。加えて、発動した場所の距離が遠ければ遠いほど、腕が戻ってくるのが遅いという難点も抱えていた。一方<ピース・バード>は、威力は弱いものの連発が可能であり、距離に左右されない攻撃が出来る。
 カプリはその優位性を生かし、遠距離からの連続攻撃で押し切ろうと考えていた。しかし――。
――くっ、当たらない! デカイ胸して、どうしてあんなにかわせるのよ!?
 既に数十発の風音を撃っているが、一発も当たらなかった。決して素早い動きではない筈なのに。
 リトイデは、先程攻撃した場所に向かって走り出す。まるで、投げた小石を拾いに行くかのように。カプリはその軌道上に風音を撃ち込むが、跳んでかわされ、障害物に遮られ、またしても当たることはなかった。
「アンタの攻撃は、素直すぎてつまらないねぇ。愚直は美徳の一つだが、強さには繋がらないよ。もっと工夫をしな。例えば……こんな風にさ
! <グリーン・ロック>、後方に左腕の剛健な掌を!」
 カプリの真後ろに、またしても巨大な掌が現れる。今更、退路を断ってどうするつもりなのか。しかしリトイデは、続けざまに唱える。
「そして、前方に右腕の剛健な掌を!」
 今度は真正面に現れ、カプリの視界を遮る。本来は防御用の魔法なのだが、先程の合言葉と合わせれば――。
――こ、これは!? ヤ、ヤバッ……!?
「光栄に思ってくれよ! コイツは、カプリ用に改良したんだからさ! 仕上げだ、<グリーン・ロック>! その強大な両腕で……思いっきり叩け!!」
 決して油断していたワケではない。だが、近距離でしか発動出来なかったそれを、まさか合言葉の組み合わせによってここまで届くようになるとは思いもしなかった。
 迫り来る巨大な両腕。気づいたときにはもう、翼が触れるような距離にまで来ていた。
――逃げても間に合わない! でも、喰らったらお終いだ! どうする!? どうすれば逃げられる!?
 だが、どれだけ必死に考えても……何も浮かんでこなかった。やはり、リトイデには勝てないのか。掌が迫るにつれて、諦めの気持ちが大きくなっていく。
――せめて、ヴィントが来るまで保たせたかったなぁ……。
 カプリは――諦めずに、逃げずに、土壇場で合言葉を唱え、風音で大きい防御壁を作り出す。
「そんなシャボン玉で、耐えられると思ったのかい? そいつは、一番やっちゃいけない選択だよ」
 巨大な両腕は容赦なく防御壁を押し潰していき、やがて……大きな音を立てて破裂した。
「またアタシの勝ち、か……。残念だよ、カプリ。アンタは、もっと強いと思っていたのにさ」
 勝利の余韻に浸ることもなく、リトイデは背を向け、バドロたちに合流しようと歩き出す。

 バサリ、バサリ……。

 今にも落ちてしまいそうな、弱々しい羽ばたき音。まさか、そんな筈は。リトイデが振り返ると、そこには――。
「あ、あの状況から脱出したってのかい!? いったい、どうやって……?」
 風船を押し潰せば、空気の逃げ場がなくなり、やがて四方に破裂する。しかし、わざと弱い部分を作り、そこだけすぐに壊れるようにすれば……空気は、その穴から勢い良く噴き出す。それは、押し潰す力が強いほど勢いは増していく。カプリは、それを利用して脱出したのだった。
――また、ヴィントに助けられたかな……?
 そう、それは……精霊銃の仕組みとよく似ていた。ヴィントから教わっていなければ、この脱出法は思い付かなかっただろう。しかし、その代償は大きかった。直撃を免れたとはいえ、左の翼に大きなケガを負っていた。
「ははっ……はははははっ! そうだよ、そうでなくちゃ面白くない! しかし、これでハッキリしたねぇ。アンタは、今まで本気を出していなかったって。落ちこぼれのJランクが、今の攻撃をかわせるもんか」
「それは……」
 カプリは、何も言い返せなくなっていた。少なくとも、今までは本気で戦っていたのだと思う。しかし、最近の快進撃と、この試合での熾烈な戦いを考えれば、どちらが『本当の本気』なのかは明らかだ。
「だけど、おかしな話だねぇ。何度も戦ったから分かるけど、アレはアレで真剣だった。けれど、今みたいな本気じゃなかった」
 真剣に見せかけて、手を抜いていたのか? ……いいや、違う。スランプや、コンディションの問題だったのか? ……それも違う。カプリは――。
「……アンタ、本気を出すのを怖がってたんだろ?」
 まるで嘘がバレた子どものように、カプリはビクッと身を竦めた。
「なるほど、無意識の内に力をセーブしてたってワケか。ヴィントたちに遠慮でもしてるのかい? 自分たちが足を引っ張っているんじゃないかって、劣等感を持たせないように」
 カプリは答えない。もっと叱られるのではないかと、怖がる子どものように。
「……まぁいいさ。けどカプリ、今の戦い方は良かったよ。もっともっと工夫して戦いな。アンタなら、アタシの期待に応えてくれる筈だ。……それとも、これが限界かい? それならそれで仕方ないさ。残りと一緒に……叩き潰すだけだよ」

 ◇

 攻めてはかわされ、接近されては守りに入り、常に牽制し合う――。そんな一進一退の攻防に痺れを切らしたバドロは、ついに口火を切る。
「あー! もう面倒くせぇ! テメェら、とっとと焦げて死ね! 灰になれ! パールすらも!! <レッド・ピクシー>!!」
 一気に決着を着けようと、バドロは二番目に強い合言葉を唱えた。
 急速な勢いで集約していく炎。その桁違いの威力の前では、精霊銃など水鉄砲に等しかった。――それが、完成すればの話だが。
 ヴィントは、狙い澄ましたかのように風のバレットを装填し、発射する。着弾と同時に、巻き起こるつむじ風。集まりかけていた炎は、何とも呆気なく霧散していった。どれだけ巨大な火球も、始まりはマッチの火程度しかない。
 そしてヴィントは、またしても突進していく。何度弾かれようとも、決して諦めずに。
「クソッ、近寄るな!!」
 <レッド・ピクシー>はけたたましい声で鳴き、威嚇するように小さな火の玉を飛ばす。しかしヴィントは、立ち止まらずに右腕のガントレットでソレを弾き、更に詰め寄っていく。
「<ケチャップ・フロッグ>ちゃん! 進入禁止のコールタールよ!!」
 何としても食い止めようと、口から粘着性の高そうな真っ黒な液体を吐き出し、ヴィントの進行方向に撒き散らす。踏めば、間違いなくその場に固定されるだろう。それでもヴィントは、走り続ける。あと一歩という所で再び風のバレットを装填し、下に向けて発射した。風が巻き起こる反動で彼は浮き上がり、真っ黒な液体を難なく飛び越える。そして、空中でもう片方の精霊銃を抜き、バドロに銃口を向けた。
「嘘!? そんな魔法の使い方ってアリ!? ケ、<ケチャップ・フロッグ>ちゃん! 膨らんで弾くガムフーセンよ!!」
 尖った石杭が発射されるのと、泡のようなバリアーがバドロを包み込むのは、ほぼ同時だった。至近距離にも関わらず、尖った石杭はいとも簡単に弾かれてしまう。
「ふぅ、ヤバヤバだったわ。何とか間に合っ――」
 スッと、黒い影が見えたかと思えば、それは既に懐の中に居た。油断する隙を狙っていたのだろう。音もなく忍び寄っていたスイレンが、パヴォーネのみぞおちに強烈な掌底を喰らわせる。その威力のあまりに、パヴォーネは激しく吹き飛んでいった。誰が見ても一撃必殺の攻撃だったが、スイレンは浮かない表情だった。
「……ゲホッ!! あ、危なー! またギリだったよ!!」
 寸での所で、防御が間に合っていたのだろう。スイレンの手には、ゴムを叩くような感触が伝わってきていた。過剰なまでに激しく吹き飛んだのは、恐らくその所為だ。
「惜しい! けど、あとちょっとだ! 勝てる! いや、勝つ!」
「……えぇ、何度でも仕掛けてみせる……!」
 落ち込むどころか、更に闘志を燃やすヴィントとスイレン。絶え間ない猛攻に、バドロとパヴォーネは疲れをみせていた。
「クソッ、コイツら本当に落ちこぼれなのか!?」
 バドロは、思わず愚痴を零した。こちらはパートナー使い二人に対し、あちらはパートナー無しの二人組だ。力の差は歴然の筈なのに、何故か善戦に――いや、苦戦してしまっている。こんな事では、再スカウトなど夢のまた夢だ。何か、何か打開策はないかと、バドロは周囲を見渡す。

 ◇

 パートナーが居ないにも関わらず、必死で戦い続ける二人を、インニャーは障害物の陰から見守っていた。
――すごい……! ヴィントさんも、スイレンも本当にすごい! 二人だけで、あんなに戦えるなんて……!
 インニャーは、服をギュッと握り締める。同じチームとして誇らしく思える反面、羨ましくもあった。
――悔しいな。私だけ、役に立ってない。でも、私は……。
 スイレンのような身体能力もなければ、ヴィントのような武器も、勇気も持ち合わせていない。出来るのは、たった一つだけ。
――……今なら、カプリの所に行けるかな? もしかしたら、ケガをしてるかも知れないし……。
 ここに居ても、何の役にも立たない。カプリと合流するのが一番だ。そう分かっていても、動く事が出来なかった。
 見つかれば、バドロは真っ先に自分を狙ってくるだろう。それは、とても恐ろしい事。きっと、凄く痛い事をされるに違いない。そう思うだけで、足が竦んでしまうのだ。
――やっぱり、私は……。
 試合が始まる前に、カプリは言った。このチームで参加する事に意味があるのだ、と。きっと、この試合で役に立たなかったとしても、誰も責めはしないだろう。
――でも、でも……。
 カプリは、こうも言っていた。全ての力を尽くして、最後は笑顔でいられるように、と。
――私は、みんなの役に立って、みんなと笑っていたい……!
 意を決し、走り出す。少しでも、リトイデを早く倒せるように。少しでも、カプリがこちらの応援に早く来られるように。
 全ては、みんなの為に。

「弱いヤツから倒していく。チーム戦の基本だよなぁ?」

 悪魔のような声に、インニャーは身を竦める。障害物の隙間を縫うように、炎の中で笑うバドロと、ハッキリと眼が合ってしまった。
「パヴォーネ! ヴィントを五秒間食い止めろ!!」
「オッケー! <ケチャップ・フロッグ>ちゃん! 膨らんで弾くガムフーセンよ!!」
 パヴォーネは、足止め用ではなく、防御魔法であるソレをヴィントに向かって吐き出す。
「えっ!?」
 不意を突かれたヴィントは、かわしきれず、弾力性のある泡に包まれてしまう。慌てて脱出しようとするが、触っても破れず、殴っても跳ね返されるだけだった。それは、防御壁という名の檻の中に閉じ込められたも同然だった。
「無力さを噛み締めな! 灰になれ! パールすらも!! <レッド・ピクシー>!!」
 再び集約していく炎。スイレンに防ぐ術はなく、救出したくともこの距離では……どれだけ急いだとしても、間に合わない。
「破れろ! 破れろ!! このぉぉぉーーーー!!」
 火のバレットを同時に発射し、泡を溶かして強引に突き破る。跳ね返ってきた火が頬を焦がすが、ヴィントは気にも留めず、すぐさま風のバレットを両方に装填し、大きな風の渦を放つ。しかし、集まってしまった巨大な炎は、もはや散らすことも、消すことも出来なかった。
――イヤだ……! 怖い! 怖いよ!
 押し寄せる恐怖の塊に、インニャーは立ち竦んだままだった。
「間に合え! 間に合ってくれ!!」
 再び風のバレットを両方に装填し、下に向けて同時に発射する。驚異的な速度で駆けつけるが、巨大な炎は、インニャーのすぐ目の前にまで迫っていた。
 赤く染まる視界。インニャーはギュッと眼を閉じる。もう、間に合わな――。


「届けえぇぇぇぇぇーーーーー!!」


――私は……どうなっちゃったのかな?
 巨大な炎に襲われた筈なのに、何の痛みもなかった。もはや痛みすら感じない身体になってしまったのかと、インニャーは恐る恐る眼を開ける。
 火傷は、一つもなかった。服にも、焦げ跡すらなかった。どうして助かったのか、分からなかった。だが答えは、すぐ目の前にあった。
「ヴィント……さん?」
「あはは、何とか間に合ったよ……」
 大きく両腕を広げたヴィントが、嬉しそうに笑った。
 誰しもが、絶対に間に合わないと思っていた。だが、ヴィントだけは……最後まで諦めなかった。空中で再装填し、風のバレッドを羽ばたくように発射する事で、爆発的に加速し、コンマ数秒という本当にギリギリの所で間に合ったのだ。ただ守りたいという一心から生み出された、神業だった。
 だが、その代償も大きかった。身体のあちこちに酷い火傷を負い、背中からは未だにぶすぶすと黒煙が上がっている。
「そんな、こんなに酷い火傷を……!? ケガを負うぐらいなら、私を助けないで下さい! 私なんか……全然役に立ってないのに……! 必死に助けてもらったのに、こんなに酷い火傷なのに、私は……それでも治す事が出来ない、薄情者なんです……!!」
 インニャーは、ポロポロと大粒の涙を零す。自分が、情けなくて情けなくてしょうがなかった。パートナーが居ないヴィントがこんなにも頑張っているのに、自分は何も出来ず、ただ守ってもらっているだけだと。
 ヴィントは、困ったように笑う。
「泣かないでくれよ。僕は今、すごく嬉しいんだからさ」
「え……?」
「やっと……やっと守る事が出来たんだ。あの日の、約束通りに。守れる力を手にしたことを、僕は今、やっと実感する事が出来たんだ」
 責められるどころか、逆に感謝されてしまい、インニャーは大きく戸惑う。そして、ずっと不思議に思っていたが、怖くて聞けなかった疑問が自然と口からこぼれ落ちる。
「どうして、そこまでして私を守ってくれるんですか……? 私は、何も返してあげられないのに……」
「はは、みんな同じ事を聞くんだね。僕を受け入れてくれたあの嬉しさに比べたら、こんな痛みなんてちっぽけなもんさ」
 火傷の痛みで顔が歪むが、それも一瞬だけだった。ヴィントは大きく深呼吸し、気合いでそれを吹き飛ばす。そして、晴れやかな笑顔で、
「僕はいいから、早くカプリの所に行ってあげてよ。きっと、苦しんでいる筈だから。それは、インニャーだけにしか出来ない事なんだ。勝とうよ、みんなで。役に立たない人なんて……誰も居ないんだ」
 火傷などものともせず、ヴィントは再びバドロに突進していく。倒す為ではなく、インニャーをカプリの元へ届ける為に。
――一回も、言わなかった。
 治してくれと。お前は、その為に居るんだと。薬箱のような扱いを、ヴィントは一度もしなかった。
 小学校の時からずっとそうだった。どんなに小さな擦り傷でも、必ず自分が呼ばれ、治す事を強要されてきた。手に負えない大きなケガの時でも、必ず呼ばれた。治せないと、決まって「役立たず!」と罵声を浴びせかけられた。他にも、「わたしが嫌いだから治さないんでしょ!?」
「何の為にお前を呼んだと思ってるんだ!?」とも言われた事があった。
――痛いのが続くのは、誰だってイヤだ。だから、すぐに治したがる。便利な薬箱があれば、すぐに手を伸ばしたくなる。でも、私は……。
 いつの日からか、インニャーは治す事が出来なくなっていた。知らない内に、薬箱にカギが掛かってしまったのだ。それは、自分でも開けることが出来ず、みんなもそれに手を伸ばしたがダメだった。
 使えない薬箱に用はない。口にせずとも、そう言っているのが伝わってきた。ケガをしても、何があっても、自分が呼ばれる事がなくなったからだ。誰も、インニャーを必要としなくなっていた。
 カプリと、出会うまでは――。
――カプリは、私に必要だって言ってくれた。一緒に居るだけで良いって、カプリだけが言ってくれた。
 初めて自分自身を認めて貰えたようで、インニャーは嬉しかった。みんな、パートナーしか見てくれなかったから。
 だからなのだろうか。カプリだけ、治せるようになったのは。自然と、薬箱が空いたのは。
 だからなのだろうか。目の前の大きな背中を、治してあげたいと強く想うのは。
 例え、この薬箱のカギを壊してでも。

 ◇

 命懸けで大切なモノを守り、黒く焼け焦げたその背中は、儚くも雄々しくあり、そして何物にも代えがたい美しさがあった。
 スイレンは、側に居るであろう『誰か』に語りかける。
「……私は、誰も信じられなくなっていた。友に裏切られ、社会から切り捨てられ、何もかもが敵のように思えていた。……親友ですらも……」
 人は裏切る。いつか、絶対に。ほんのささやかな理由で、いともあっさりと。だからリトイデは、人を信じることを止めた。信じなければ、裏切られることもないから。
「……だが、こんな私の為に、本気で怒ってくれる人が居た。本気で悲しんでくれる人が居た。受け入れてくれたという理由だけで、命懸けで守ろうとする人が居た……」
 人は裏切る。いつか、絶対に。――だが、あの人は裏切るのだろうか? ほんのささやかな理由で、命懸けで守ろうとしている人が、果たして裏切るのだろうか?
 スイレンは、もう一度あの背中を見つめる。黒焦げの背中が、雄弁に語っているような気がした。裏切るぐらいなら、死んでやる――と。
「……ずっと、気のせいだと思っていた。でも、あの人にハッキリと言われて、それは確信に変わった……」
 あの人が保健室で口にしたように、パートナーが消えたその日から、誰かが側に居るような気配をずっと感じていた。だがそれは、気のせいだと、勘違いだと思っていた。――いや、そう思い込む他になかった。二度と現れるなと口にしたのは、自分なのだから。
 しかし、あの人は言った。案外側に居て、仲直り出来る切っ掛けを待っているのかも知れない、と。
 もし、そうだとしたら――。
「……ずっと、言いたかった。貴方に、ごめんなさいって。仲直りをしたいって……」
 つうっ、と涙が零れ落ちる。
「……もう一度、人を信じたいって……」
 だがそれは、地面を濡らすことはなかった。

 ◇

 両腕は、もはや感覚が無くなりつつあった。それでもヴィントは精霊銃を握り締め、突き進んで行く。一歩踏み出す毎に激痛が走り、跳ぶ度に背中が裂けるような思いをしても尚。
 先程のような俊敏な動きは、もはや見る影もなくなっていた。
 それでもヴィントは、近寄らねばならなかった。大半の魔法は、距離が離れれば離れるほど威力が落ちる。この精霊銃は、それが顕著に現れてしまうのだ。だからこそ、少しでも距離を詰める必要が――零になるまで近づく必要があった。
 それは、覚悟を決めた者たちだけが踏み込める領域。故に、零部隊と呼ばれていた。
「テメェは良くやったよ。落ちこぼれのクセに、な。……だがな、オモチャで遊んでやるのはもう終わりだ。落ちこぼれは落ちこぼれらしく、テメェは俺の踏み台にならなきゃねぇんだよ!」
 <レッド・ピクシー>はバドロの身体から離れ、ゆっくりと身体を丸めていく。周囲から急速な勢いで炎が集まり、ソレは膨らまずに中へ中へと凝縮に凝縮を重ね、ついには小さな青い炎へと変貌していく。それは、バドロが持つ一番の合言葉。
「俺は上へ行く! だからテメェはここで死ね! 蒸発しろ! フローライトすらも!! <レッド・ピクシー>!!」
 放たれる、青い火球。炎の筈なのに、ヴィントはゾッとするような寒気を感じていた。アレは、純然たる炎の塊。アレに当たってはいけないと、本能が激しく警鐘を鳴らしている。
――うるさいな、分かってるよ。でもさ、もう……。
 もう……身体が動いてくれなかった。水や地のバレットを撃ち込んだところで、アレには無意味だろう。風のバレットは既に弾切れで、防ぐ方法も、避ける方法も何一つとして無かった。
――結局、精霊銃があってもパートナー使いには勝てないのか。でも、コレのお陰でインニャーを守れたのは嬉しかったなぁ。もっともっとみんなを守りたかったけど……落ちこぼれ以下だった僕にしては、頑張った方なのかな? これが、限界なのかな? ごめんね、カプリ。迎えに行けなくて……。
 ヴィントは、精霊銃をゆっくりと降ろし、ついに諦め――。

「……恐怖そのものに傷つけられることなどあるものか? あなたが恐怖に動かされなければ、恐怖はあなたを傷つけることはできないのだ……」

 まるでその気持ちを繋ぎ止めるかのように、黒い影がヴィントの前に降り立つ。
「……自ら恐怖に飲み込まれてしまったら、恐怖があなたの主人になる。あなたが恐怖を支配するか、恐怖があなたを支配するか。いずれにしても、どちらかが主人になる……」
 あの日の光景が、フラッシュバックする。十の口が責め立て、二十の手が彼女を蹂躙しようとする。恐怖が、恐怖が濁流のように押し寄せてくる。……だが、彼女は微笑んだ。長年の呪縛から、解かれたように。
 ヴィントは確かに見た。傍らに、黒い狼のようなパートナーが居たのを。
「<ニグレド・ウルフ>よ! 恐怖の主人は、この私だ!!」
 その名を呼ぶのと、青い火球が時限式に破裂したのは、ほぼ同時だった。衝撃波で周囲の障害物が吹き飛び、辺り一帯が粉塵に包まれる。
「ぐぅっ……! 無事か、スイレン!?」
 辛うじてその場に踏み留まることが出来たヴィントは、土煙の中に浮かぶ黒いシルエットに向かって叫んだ。
「……ヴィントよ、見ているか? これが、私の親友だ。やっと、仲直りすることが出来たんだ。お前の、お陰でな……」
 徐々に煙は晴れていき、その姿が露わになっていく。
 だが、スイレンの傍らには、黒き狼の姿はなかった。――いや、そうではなかった。
 烏羽色の美しい髪は、まるで尾のように垂れ下がり、地面に付きそうな程長くなっていた。そして手足には、凛々しくも猛々しい黒き甲冑が装着され、大地を駆ける狼を連想させた。
 そう、傍らよりももっと近く――スイレンと<ニグレド・ウルフ>の融合した姿が、そこにあった。
「……お前が皆の盾となるのなら、私はお前の剣となろう……!」
 それは、かつて英雄アミカ=ルスの再来と謳われた――スイレンの復活だった。

 ◇

 翼が傷付いた鳥は、もはや自由に大空を舞うことは出来ない。それでも、片翼だけで必死に羽ばたき、果敢に攻めていく。……だが、ケガをする前から当たらなかった攻撃が、今になって当たるはずもなかった。
 もう何十発目か分からない風音を、リトイデに向かって放つ。だが、ぐらりと意識は傾き、狙った場所とは全く違う場所に着弾していた。まだまだ余力のあるリトイデは、その隙を見逃さず、冷静沈着にカプリを狙い撃つ。
「まだまだよ……!」
 朦朧とする意識の中で、カプリは大きく羽ばたき、ギリギリの所でかわした――筈だった。
「ど、どうしてこんな所に石が!?」
 迫り上がってきた巨大な掌から、無数の小石が発射される。そう、この攻撃はカプリを捕まえる為ではなく、本命は……この石つぶてを突き飛ばす為だった。
 それは翼に、手に、脚に当たり、羽ばたく力さえ失ったカプリは、きりもみしながら地面に落ちていく。
 そもそも、相性が悪いのだ。そもそも、実力差があり過ぎるのだ。一度も勝ったことがないのは、自分が本気を出していないからではない。リトイデが……強すぎるのだ。
――なんて、少し前のアタシなら、そう思っていたかもね。
 相性が悪かろうとも、実力の差があり過ぎようとも、そんな事など関係ない。飛べなくなっても、風音を撃てなくなっても、動けなくなるまで戦えば、きっと何かが起こる筈。希望論にしか聞こえないこの言葉を、カプリは信じて疑わない。目の前で、それを見たからだ。あの時、ブリーガに立ち向かっていったヴィントが、それを証明したのだから。
 落下する直前で羽ばたき、転がるように地面に降り立つ。そしてすぐに警戒態勢を取り、カプリは思考を巡らせる。まだだ、まだ何かが出来る筈だと。
「良い眼だねぇ。何も諦めてない眼だ。だけど……もっとだよ。もっともっと魔法の使い方を工夫しな。じゃないと、一生アタシにゃ勝てないよ?」
 リトイデの言うとおりだと、カプリは痛感していた。魔法の使い方を少し変えるだけで、近距離用を遠距離攻撃にし、本来持っていない筈の攻撃方法を可能としているのだから。
――全く。工夫しろ、工夫しろって、簡単に言ってくれるわね……。
 自分の力を最大限に生かす方法を見つけるのは、新しい合言葉を覚えるよりも難しい事だ。だが、それを探し出せなければ……確実に負けてしまうだろう。
――どうする? いったい、どうすれば――。
 それは、全くの偶然だった。明後日の方向に発射してしまった風音が、今頃になって破裂したのだ。不意を突かれたリトイデは、驚き、警戒しながら振り向く。だが、当然というべきか、それは破裂音だけで終わってしまい、リトイデは首を傾げながら前を向く。
――……今、初めて、リトイデの不意を突けた。
 遅れて破裂した風音。不意を突けたその理由。カプリは、この偶然に感謝した。
――体力的にも、作戦的にも、恐らく次が……ラストチャンスね。ここまで粘らなきゃ、このチャンスは無かった。
 そして、諦めない心を教えてくれた、ヴィントにも。
「休んでる場合かい? <グリーン・ロック>、前方に剛健な右腕を」
 足下から聞こえてくる、地鳴りのような音。だがカプリは、その場を動かなかった。この魔法を見続けていて、分かったことがあった。それは、一定の距離以上腕を伸ばさないと、掌を握り締める事が出来ないのだと。
 巨大な掌は、カプリを上へ、上へと突き上げていく。そして掌が閉まる直前、先程の小石のように、その反動を利用して<ピース・バード>は高く、高く舞い上がる。
「撃ち放て、風音!! 風音!! 風音ォーーーー!!」
 カプリは朦朧とする意識に活を入れ、一気に六連射という、これまでにない数を撃ち放つ。――しかしそれは、リトイデの左右にばらけ、一発も当たることはなかった。
「もう、限界だねぇ。酷なことばかり言って悪かったよ。アタシは、本気のアンタと戦ってみたかっただけなんだ。楽しかったよ。今日は……もう休みな」
「リトイデ、それはちょっと気が早いわよ。アタシの限界は、もうちょっとだけ先なんだから!」
 後方から破裂するような音が聞こえたかと思えば、リトイデは凄まじい勢いで空中に打ち上げられていた。
「な……何が起こったんだい!?」
 状況を把握する間もなく、再び破裂するような音と共にグンッと弾かれるように跳ばされ、更に加速していく。そして、更にもう一度。息も出来ないような速度で、リトイデはカプリに引き寄せられていく。
 そもそも風音とは、風を圧縮した魔法だ。着弾した瞬間に風の渦を巻き起こし、攻撃する。だが逆に言えば、その瞬間を遅れさせることが出来れば、好きなタイミングで破裂させる事が可能だと気づいたのだ。これならば、不意を突いてダメージを与える事が出来る。だが、相手はリトイデだ。一度見せてしまえば、対策をとられてしまうだろう。そうなれば、ただダメージを与えただけで終わってしまう。カプリが勝つには、一度きりの不意打ちで、一撃で仕留める他になかったのだ。
 風音では威力が足りない。一撃で仕留めたいのなら――。
 カプリは考えた。遠くから当たらないのなら、近くで当てれば良いと。近寄れないのなら、近付けさせれば良いと。高く舞い上がったのも、左右にばらけるように発射したのも、全てはこの為だ。
 今まで気にもしなかったが、渦には回転方向があり、カプリは無意識の内にそれを操っていた。だがもし、意識的にそれを操ったのなら? ――そう、左側には左巻きの風を、右側には右巻きの風を設置する事によって、リトイデは逆回転の渦に挟まれ、まるでボールのように打ち上げられたのだった。
「これが……本当に最後の合言葉。これでダメなら、アンタの勝ちよ、リトイデ。さぁ、<ピース・バード>!! 風雲を切り裂くが如く、全力全開で……突進よ!!」
「はは、最後は小細工無しのぶつかり合いかい? 上等じゃないか! <グリーン・ロック>! その眼前の敵を、強大な両腕で……思い切り叩け!!」
 雌雄を決する一番の合言葉が、今、青い空の下で交わる――。

 ◇

 会場内は、一際騒然となった。それもその筈だろう。あのようなパートナーの形を、一度も見たことがないのだから。
「まさか……まさか!?」
 以前バドロは、スイレンの素性を探ったことがあった。そして、かつての進学校仲間から、彼女は『パートナー殺し』だという話を聞いていた。同時に、その逸話と、『本物の神童』と呼ばれる事になった経緯を。
 英雄アミカ=ルスですら出来なかった事。それは、パートナーとの融合――『半精霊化』する事だった。
「パヴォーネ! アイツを抑えろ! 一秒でも長く!」
「う、うん! <ケチャップ・フロッグ>ちゃん! 包んで弾くガムフーセンよ!!」
 弾力性のあるバリアーが、スイレンを包み込む。しかし、事も無げに右腕を振るうだけで、それはいとも容易く切り裂かれた。
「い、一秒すら保たないのか!? くっ……! 焼け崩れろ! ジプサム(石こう)すらも!!」
 <レッド・ピクシー>は八個の火球に分裂し、スイレンを瞬時に囲む。そして、八方向同時に――逃げ道を塞いだ状態で、一斉に襲いかかった。それは巨大な火柱となり、中心に居る者が焼け崩れるまで燃え続ける。
 だが、火柱が消え去った後には……誰も居なかった。
 バドロは、ゾッとなった。あの食堂での出来事が、フラッシュバックする。以前はただのフォークだったが、今回は――。
「う、うわああぁぁぁーーー!!」
 みっともない悲鳴を上げながら、バドロは腰を抜かしたように地面を転がる。――瞬間、黒い刃が、彼の頭上を掠めていった。
「だ、ダメだ! ランクが違いすぎる! 退くぞ、パヴォーネ! こんなバケモノ、まともに相手してられるか! リトイデも居なきゃ、話にならねぇ!」
 バドロとパヴォーネは背を向け、全力で逃げていく。あれほど優勢だったにも関わらず、たったの二撃で立場が逆転していた。英雄アミカ=ルスの再来。本物の神童。その二つ名に相応しい、圧倒的な力だった。
 スイレンは何故か追い掛けず、ヴィントの方に振り返った。そして、深く頭を垂れる。ヴィントは、何となく分かっていた。今、お礼を言っているのは、恐らく<ニグレド・ウルフ>の方なのだろうと。
 そして、大地を駆ける狼のように、風を切って追い掛けていく。
「仲良く……なれたんだね……。あぁ……本当に、良かった……」
 膝から力が抜けていき、ヴィントは地面に崩れ落ちていく。そして両手からは、唯一の希望である精霊銃がこぼれ落ちていく。
「イヤだ……これだけは、絶対に離したくない……」
 抱きかかえるようにそれを掴み取り、ヴィントは安心した顔で……前のめりに倒れた。
「ヴィントさん! しっかりして下さい!」
 隠れていたインニャーが、慌てて駆け寄る。そして、決意を秘めた顔で、
「私が……私が今、治してあげますから!」
 大きなバッグをヴィントの前に降ろし、祈るように手を合わせた。
「お願い、<メディカル・キティ>。ヴィントさんを治してあげて!」
 バッグの中から初めて姿を現したのは、純白の看護服を着た三毛猫だった。空を見上げ、透き通るような声で鳴く。すると、淡い光がヴィントの背中に降り注ぎ、やがて身体全体を優しく包み込んでいった。
「……やった。やりました! ヴィントさんを治せ――!」
 だが、そう思った矢先に、
「あぁ……ダメ! 消えないで!」
 願い虚しく、何も治療できないまま、それは霧のようにスーッと消えていってしまったのだ。
「どうして? どうしてダメなの? もう一度お願い、<メディカル・キティ>! どうかヴィントさんを治してあげて!」
 先程よりも強く願いながら、同じ合言葉を唱えた。再び淡い光が降り注ぐが、結果は……全く同じだった。
 なんて薄情者なんだろうと、インニャーは自分が情けなくてしょうがなかった。こうなってしまったのは自分の所為なのに、擦り傷すら治してあげられないのだから。
「ありがとう……インニャー。もう、無理をしなくてもいいよ。僕は……治ったから……」
 精霊銃を握り直し、ヴィントはよろめきながらも立ち上がる。嘘ではなかった。インニャーのお陰で、折れ掛けていた心だけは治っていた。
「このままなんてイヤです! 私は、ヴィントさんを治したいんです! 貴方の役に立ちたいんです!」
 黒く焼け焦げた背中に抱きつき、インニャーは泣きじゃくりながら合言葉を唱える。
「お願い! お願いよ、<メディカル・キティ>! ヴィントさんを治してあげて! 今だけでいいから! 私を守ってくれた、この人の為に! お願い! 薬箱を、開けて!!」

 ――カチリ。

 音が、聞こえたような気がした。手の中に残る、カギの感触。だがそれは、一瞬にして消え去ってしまった。
 それを境に、消え去っていった光が再び集まり始め、ヴィントとインニャーの二人を優しく包み込んでいく。
「これは……? 痛みが、消えていく……?」
「嘘……じゃないですよね? やせ我慢……でもないですよね?」
「あぁ、本当だよ。もう、全然痛くないんだ。ありがとう、インニャー」
 多少の傷跡は残ったが、徐々に痛みは無くなっていき、焼け焦げた背中もだいぶ綺麗になっていた。だがインニャーは、それを確認出来なかった。今だけは、離れたくなかったから。この温かい背中に守られたことを、実感したかったから。
「ヴィントさんが笑った理由が、今なら凄く分かります……」
 誰にも聞こえないような声で、インニャーは嬉しそうに呟いた。

 ◇

 まさかこうなるとは、想像すらしていなかった。相手は、ただの落ちこぼれ集団。圧倒的な勝利を収め、再スカウトを受ければ、この呪われたGランクの壁だって乗り越えられる。そしていつしかAランクとなり、英雄アミカ=ルスの再来と呼ばれるようになるだろう。バドロは、そんな未来予想図を描いていた。
「クソッ……! クソがッ……!!」
 だが現実は、その真逆になりつつあった。追い掛けてくるのは、Gランクの壁を乗り越え、そして……英雄アミカ=ルスの再来と呼ばれたスイレン。このままでは圧倒的な敗北を味わい、もう二度とエリートコースに乗ることは出来ないだろう。
 パヴォーネは進路に足止め用のトラップを仕掛けていくが、障害物の屋根を、壁を、縦横無尽に跳び回るスイレンには、何の効果もなかった。
 一秒でも時間を稼ごうと、バドロは何度も炎を撃ち放つ。だが、右腕を軽く振るうだけで火球は真っ二つに割れ、一瞬すら立ち止まらなかった。
 半精霊化する事によって、身体能力も格段に上がっているのだろう。差は縮まっていく一方だった。
「パヴォーネ! リトイデとの合流は無理だ! アレを唱えろ! ここがデッドラインだ!」
「オッケー! 信じてるよ、バドロ様! <ケチャップ・フロッグ>ちゃん! 跳んで転がれコールタールボール!」
 撒き散らしていた黒い液体を、大きく、大きく膨らます。そして、追跡してくるスイレンに向けて、勢い良く放った。
 触れれば、足止めされる可能性が高いだろう。いくら巨大な泡とはいえ、今のスイレンなら避けるのは簡単だ。……しかし、かわすわけにはいかなかった。後方には、インニャーと、大ケガをしているヴィントが居るのだから。
 スイレンは立ち止まり、大きく深呼吸をしながら右腕を高々と掲げる。そして――。
「……シッ……!」
 息を短く吐き出すと同時に、それを力強く振り下ろす。その軌跡は鋭い爪となり、地面を深く抉りながら、黒く巨大な泡を触れることなく切り裂いた。半精霊化したスイレンは、全ての行動が魔法級の威力を誇っていた。
「バカが! テメェならそうすると思ったぜ!」
 バドロが、歓喜の声を上げた。切り裂かれた泡の中から現れたのは、小さな炎――いや、潜んでいたのは、<レッド・ピクシー>だった。
「……何っ……!?」
 姿を現したかと思えば、<レッド・ピクシー>は恐ろしい速度で膨らんでいく。黒い泡の中は、いわば密閉状態だった。酸素が少なくなれば、火は小さくなり、やがて消えてしまう。だが、密閉から解放され、急激な勢いで酸素が流れ込んでくると、小さな火は……爆発的に大きくなる。『バックドラフト現象』を応用した、バドロの奇襲劇だった。
 甲高い声を上げながら、<レッド・ピクシー>はスイレンに直接襲いかかる。今にも爆発しそうな、その身体で。

「残念だけど、その台詞をそっくりそのまま返すよ。バドロなら、弱いヤツを狙うフリをして罠を仕掛けるだろうなって」

 <レッド・ピクシー>の首を掴み、スイレンから引き離していくのは――治療を終えたばかりの、ヴィントだった。
「……そうか。インニャーも、私と同じようにお前を信じることにしたのか……」
 うっすらと濡れた背中を見て、スイレンは微笑む。心のどこかでは、こうなる事を期待していたのかも知れないと。守りたいと思うのは、助けたいという気持ちになるのは、何もヴィントに限った話ではない。
「……証明してやれ、お前の手で。パートナーが居なくとも、パートナーに勝てるのだと……!」
 ヴィントはバドロの元へ、スイレンはパヴォーネの元へ駆けていく。決着をつけるために。
「こ、こっちに来ないでよ! ケ、<ケチャップ・フロッグ>ちゃん! 弾いて弾いて弾くガムフーセンよ!!」
 頭上のカエルは連続で泡を吐き出し、パヴォーネ自身を三重の結界で包み上げる。
「……ハァァァーー……!」
 スイレンは深く息を吐き出し、右拳に力を溜めていく。そして……勢い良く解き放った。
 それは黒い槍となり、三重の泡結界をパパパンッ、と一瞬で突き破っていく。<ケチャップ・フロッグ>をも貫き、ダメージがフィードバックしたパヴォーネは、その場に崩れ落ちていった。
「パヴォーネ!? クソッ! 俺のパートナーを離しやがれ!」
 首を掴んでいるお陰か、<レッド・ピクシー>は炎を吐き出せず、魔法を使う事が出来なかった。しかし、膨らんでいた炎は徐々にガントレットを蝕んでいき、肩、胸、そして全身へと燃え移っていく。
 それでもヴィントは手を離さずに、炎で息が出来なくなっても構わずに、走る。走る。走る――。
「なんで……なんでそこまでやれるんだよ……? お前は、絶対にスカウトされないんだぞ? パートナーが居なきゃ、どれだけ頑張ったって無駄なんだぞ? なのにお前は、何の為に……!?」
 バドロの目前で<レッド・ピクシー>から手を離し、両手に精霊銃を構える。そして、両者の眉間に銃口を突き付け、零距離で水のバレットを撃ち込んだ。
「無駄なもんか。こうして、みんなを守る事が出来たんだから」
「クソッ……バカくせぇ……。たったそれだけの理由で……俺が、負けんのかよ……」
 納得いかない顔のまま、バドロは仰向けに倒れ、そのまま気絶した。
 一際大きく盛り上がる会場。だが、試合終了のホイッスルはまだ鳴らない。そう、カプリとリトイデの一騎打ちは、まだ終わっていなかった。
「急ごう! もう限界な筈だ!」
 ヴィントは駆け出す。――が、足下に突然大きな影が現れ、思わず立ち止まってしまう。見上げると、そこには――。
「おわぁ!? か、カプリ!?」
「あはは……キャッチよろしくねー……」
 羽ばたく力すら無くなったカプリが、空から真っ逆さまに落ちてくる。ヴィントは慌てて精霊銃を仕舞い、お姫様抱っこの形で何とかキャッチに成功する。
「全く、もう……。ダメじゃない、ヴィント。女の子との約束は、間に合わせないと……」
 カプリは冗談混じりに、しかし辛そうにとつとつと喋った。ケガをしている翼に、疲労しきった顔。もう戦えない事は明らかだった。
――まさか……間に合わなかったのか!?
 ヴィントは警戒心強め、周囲を見渡す。障害物を薙ぎ倒すように、それはあった。
 穴の空いた、巨大な掌。リトイデは、その近くで仰向けに倒れていた。
「勝ったよ……アタシも。ギリギリだったけど、初めてリトイデに勝てたんだ。後で、たっぷり褒めてよね……」
 そう言ってカプリは、ヴィントの腕の中で弱々しくVサインをし、まるで眠るように気絶してしまった。

 けたたましく鳴り響くホイッスル。それに負けじと、スタンディングオベーションで拍手する観客たち。
「本当に……勝ったんですよね? 勝ったんですよね!? やった! やりましたね、カプリ、スイレン、ヴィントさん!! このチームで勝ったんですよ!!」
「……あぁ、そうだな。こんなに嬉しい勝利は、初めてだ……」
「あはは……ホントにね。死ぬほど疲れて、凄い苦労したけど、こんなに楽しい事はないわ……」
 跳び上がって喜ぶインニャー。微かに笑みを浮かべ、勝利を噛み締めるスイレン。カプリはケガというより心身の疲労が激しいため、担架の上で応急処置を受けている。ヴィントだけが、未だに呆然としていた。
 これは夢か幻か。落ちこぼれ以下と、非国民と、Zランクと忌み嫌われ続けてきた自分が、今、称賛の的となっている。
「ヴィントさん。私は貴方のお陰で、一歩前へ進めた気がするんです。守ってくれて、本当にありがとうございました。この試合でのMVPは、間違いなくヴィントさんですよ」
「……そうだな。ヴィントが居なければ、この勝利はなかった。全てお前のお陰だ。……ありがとう……」
「ちょっとはアタシも褒めてよね。ホント、大変だったんだから……。でもまぁ、みんなの言うとおりね。アタシも、ヴィントのお陰で勝ったようなもんだし」
 三人から贈られた、感謝の言葉。ヴィントは、そこで初めて実感出来た。このチームで、勝ったんだと。
 初めて、自分の力だけで彼女たちを守れた。初めて、こんなにも沢山の人たちから称賛をもらえた。
「あぁ……あぁ……嘘みたいだ……こんなに……うぅ……」
 言葉にならなかった。嬉しすぎて、どんな表情で、どんな風に喜んで良いのかも分からなかった。
「このチームに入れてくれて、本当にありがとう……」
 ただただ、涙ばかりが溢れ出ていた。


>続
2013-06-15 14:03:37公開 / 作者:rathi
■この作品の著作権はrathiさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 ども、お久しぶりです。案の定一ヶ月も掛かってしまいましたが、絶対に外すわけにはいかないシーンだった為、時間を要してしまったワケです。
 その分ボリュームは多めとなりました。……本当に多いな、今回は。

 さておき、恐らく次回が最終回となる予定です。読んで頂くとお分かりの通り、今回は最終回っぽいテンションでしたがw
 今回のテーマは主人公の成長物語、ってなワケで次回はその締めくくりとなります。他にもいろんなテーマが絡んでいるだけに、巧くまとめられるか不安ではありますが。
 これだけ気合いを入れて戦闘シーンを書いたのは初めてなもんで、若干燃え尽きつつあったりw
 楽しんで頂けたのなら幸いです。

 ではでは〜
この作品に対する感想 - 昇順
どうも、お久しぶりです。鋏屋でございます。新作読みに来ましたw
途中結構読むのが辛かったです。あ、いえ、読みにくいというわけでは無く、主人公の境遇が痛々しくて。希望に満ちあふれていた学校生活だったのに、初っぱなから奈落とかってもう……
それまでの描写がとても楽しそうだったので、その落差を激しく感じましたよ。自分の努力だけじゃどうにもならない事で仲間はずれにされるのは見ていてつらい物ですね。
しかしこの話、本当にライトファンタジーになるのでしょうか? 是非とも主人公にはがんばって欲しい物です。
まだ始まったばかりなので、私にはたいした感想が書けず申し訳ないです。
ところで、『魔王様……』はダークファンタジーじゃないですよねwww
ではまた、次回更新もお待ちしております。
鋏屋でした。
2012-10-03 15:42:08【☆☆☆☆☆】鋏屋
鋏屋さん>
 ども、さっそくの感想ありがとうございます。
 自分も辛かったですが、意図通りに書けていたようで良かったです。ラストのシーンで書いている自分も救われた……って気持ちになれたらなぁ、と。
 どこ行ってもそうですが、自業自得ならまだしも、どうにもならない事での仲間外れはしんどいですよねぇ……。

 さておき、設定上はライトファンタジーですw 明るいですよ。楽しいですよ。……多分。こっちの方がダークになりそうな感じがぷんぷんしてますがw

 ではでは〜
2012-10-08 21:04:53【☆☆☆☆☆】rathi
作品を読ませていただきました。
是非とも主人公はパートナー・ゼロのまま進んで欲しいな。だって、途中から落ちこぼれ精霊(実は潜在能力が高い)がパートナーになるなんて展開は王道すぎだもん。仲間(人間)をパートナーとして使う一種の司令官タイプとして進んで欲しい(人間のパートナーを使い捨てにするタイプだとなおいい)。
まだ始まったばかりだからしょうがないかもしれませんが、精霊や社会システムについての情報がほとんどないため、やや物語が薄っぺらく見えてしまいます。
では、次回更新を期待しています。
2012-10-14 15:32:20【☆☆☆☆☆】甘木
拝読しました。水芭蕉猫ですにゃん。
バトルファンタジー良いなぁ……一度書いてみたいジャンルの一つでありますね。
高校脱落は自分にも耳が痛い……パートナーゼロは寂しいよね。主人公の性格がそこまで悪くは無さそうなので、余計にね。
個人的には自分も主人公には最後までパートナーゼロのままで進んでほしいなぁ。
それはそれとして、精霊のパートナー良いなぁ。まぁ、どこにでもいそうだから、ちょっと怖い面もあるけれど、私も友達になってみたいと思ったりね。
それではにゃ!
2012-11-04 22:18:31【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
返信が大変に遅くなって申し訳ないです。

甘木さん>
ども、お久しぶりです。おおう、久々の感想、凄く有り難いです。
さておき、主人公の扱いについては……まぁ、一応秘密という事でw まぁ、王道は好きですが、ベタは嫌いなカブキモノの端くれですけどね。
人間のパートナーを使い捨て……。それどこのゴクドー君でしょうかw
それも面白そうですが、さすがにコンセプトから外れるので今作では無理そうです。
精霊や社会システムについては、今回で大ざっぱに説明してみました。もっと細かいところは、追々という感じです。

猫さん>
ども、これまたお久しぶりです。日記はほぼ毎日見てるのですが、なかなか書き込めずに申し訳ないです。
バトルファンタジーは良いですよねぇ。前回は(どちらかというと)リアル志向だったので、今回はライト寄りな設定にしてたりします。
……といいながら、主人公の境遇はなかなかにヘヴィーなモノですがw たまにはこういった障害に立ち向かう主人公も良いかなぁーと思ったり。
精霊のパートナーは自分も欲しいなぁ−、と思いながら書いてます。秘密な道具を出してくれるパートナーが欲しいなぁ……。タヌキ科の。

楽しんで頂ければ幸いです。

ではでは〜
2012-11-11 19:54:31【☆☆☆☆☆】rathi
どうも、鋏屋でございます。続きを読ませていただきました。
やっぱりと言いますか、パートナーバトルの授業がありましたな。バトルの描写はスピーディーで私好みでした。
一つ疑問なのですが、このパートナー同士の戦闘訓練って、どう言った状況を想定しているのかな?
中学や高校の授業科目としてあるわけだから結構重要度の高い科目な気がします。けどこの授業の目的がよくわからない。
パートナーの魔法(でいいんですかね?)を見るとあきらかに対人用としては過剰に思えるので、卒業後は戦争やら、何某のモンスター討伐やらをやらなくてはならない世界情勢なのかな?って思いました。
あと、歴史の授業は世界観が掴めて面白かったです。ああ言う自然に世界観とかを伝えるのには、学園物ってやり易いのかなぁって思いました。あ、いや、それを伝える表現力があってこそでしょうけどw
やっぱりrathi殿の学園ものは面白いです。
ヴィント君はきっと実は凄いレアな大きな力を持ってるって信じてます。みにくいアヒルの子からのお約束ですからw いつか時がくれば白鳥になるんです!(←思い込み)
あ、そうだ、一箇所、インニャーとカプアがジャレてるシーンでヴィント君が「なにやってんだが」になってました。「が」じゃなくて「か」ですよね。
なんにせよ、スラスラ読みやすくてあっという間に終わってしまいました。しかも今回は学園もののお約束であるバトルあり、女子同士のじゃれ合いもあり、授業ありと3点セットで楽しめました。
ではまた次回更新お待ちしております。
鋏屋でした。
2012-11-13 07:03:14【★★★★☆】鋏屋
拝読しました。水芭蕉猫ですにゃん。
最初の方のパートナー同士のバトルできゃっきゃうふふしてるシーンと、主人公がぼっちで落ち込んでるシーンの対比がはっきり書かれていて良いなぁと思いました。
主人公の落ち込んでるのなんて見てて何だかにやにやします(おい
とは言いつつも、こういうのってあんまり国家的に見ても良くないんじゃないかと思うのよねぇ。だってパートナーを持たない人に対する政策があんまり出来てないんじゃあ……。黎明期というわけでもないし、何かないのかなーと他人事ながら心配してしまいます。
うーん、これからどうなるんだろう。
2012-12-01 22:09:39【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
返信が遅くなって申し訳ないです。更新と返信は切り分けた方が良さそうだなぁ……。

鋏屋さん>
感想+ポイントありがとうございます。いぇい、初ポイント。
後々説明する予定ですが、今は平和な世の中なので、自衛という意味合いが強いです。やはりパートナーを悪用する輩が居るので、それを取り締まったり、もしかすると現れるかも知れない魔王に備えて、などです。現実に例えると、銃社会っぽいものを想像してもらえれば何となく分かるかと。
まともな学園モノを書いたのは、実は魔王様が初めてだったりするのですが、向いてるって事なんですかね? 自分自身驚いています。
誤字の報告ありがとうございます。それと、ヴィントの今後については、まだまだ秘密ですw

猫さん>
>主人公の落ち込んでるのなんて見てて何だかにやにやします
ドSやわぁ……。猫さんドSやわぁ……。と言いつつ、書いている自分もこれでもか、と落ち込ませているワケですがw
この世界はパートナー中心なので、連れていない人は「はぁ? なんで連れてないの? バカなの?」という扱いです。弱者に厳しい、というより、そういう人が居るとは思わなかった、的なニュアンスが近いかも。
それもまた今後明かされていく……予定です。


感想ありがとうございました。

ではでは〜
2012-12-16 19:55:06【☆☆☆☆☆】rathi
 どうもです、コーヒーです。ご無沙汰しております。
 さて、一気に作品の方読ませていただきました。主人公が暗さがもうなんだろう、共感しかできない。今後どのように物語が進もうが、お前だけはずっと暗くじめじめしてて欲しいなどと、訳のわからない願望と、薄暗い同族意識を持ってしまいました。
 どうでもいいですが、パートナーゼロとかむっちゃかっこいいやん、パートナーなんかいらんそのあだ名だけあれば生きていける!と、中二心全開で思ってしまいました。けどまあ、これって現代社会における「学力」みたいなもんですよね? それがぜろはまずいか。まあ、自分は元々ないようなものなのだけど。
 市販の小説ではバトルがあるのとかあんま読まなくて、そういうのはもっぱら登竜門で読むんですが、このよくある「世界観の説明をかねたバトル」というもの。いや、とってもわかりやすかったです。あれでするっと、どういう世界観なのかということが理解できました。楽しい授業で内容がすぐに頭に入ってくるみたな感じで。
 主人公が体をはって意地を通すシーンは、決してかっこよくはないけど、きまってましたね。いやうまく言えない。かっこいいですよ、やったことは。けど主人公にその気がなかったからか、外から見たら決してかっこよくはうつらなかっただろうなって。けどそれがまたその主人公っぽくていいですね。
 カプリたちに言われてはじめてあれが正解だったと気づいてるあたり、好感がもてます。
 カプリの明るさ、スイレンのクールさ、子猫の小心さ、いいバランスですよね。読んでて安心できる。
 これからどうなっていくのか。楽しみにしております。ではでは。
2012-12-24 02:08:27【☆☆☆☆☆】コーヒーCUP
拝読しました。水芭蕉猫ですにゃん。
打撃系など花拳繍腿、サブミッションこそ王者の業よ!! などとまくしたてながらこんばんにゃ。あうあうあう学歴社会こわいぃぃぃ!! そんな主人公くんの気持ちがよく解ります。そうそう学歴を鼻にかける奴ら等肉体的にも精神的にもフルボッコしてしまえ。そんなわけで新キャラだよね。スイレンちゃん。個人的にこういう子は現実に居たら嫌いですが、物語中なら大好きです。不思議キャラというよりツンデレちゃんになっていくのかな?
カルボナーラ手巻きうどんってぜんぶ炭水化物やんけ!! でも個人的にはおいしいと思う。炭水化物プラス炭水化物で、これがアツアツで深い器に入っていたら解してリゾット風にすれば美味しいと思うんです。
今回、とてもテンポが良かったですね。面白かったです。
で、どうでも良い話ですがデカいゾウガメタイプのパートナーはどうやったら召喚できますか? カメの上でまったり通勤したいと思う猫でした。
2012-12-26 21:23:02【★★★★☆】水芭蕉猫
コーヒーCUPさん>
ども、お久しぶりです。一気読み感謝です。
主人公に共感出来たようで良かったですw 共感してもらえなかったら結構厳しいお話なもんで。ヤツは基本暗いから多分大丈夫です、えぇ。
能力無しをどういうネーミングにしようか、かなり悩んでいましたが、中二心をくすぐれたようで良かったです。いやぁ、マジで悩みましたよ、ここは。
仰るとおり、パートナー・ゼロって事は、テストでいうと絶対に「0点」しか取れない状態なワケで。強制のび太クンなワケで。考えた自分が言うのもなんですが、恐ろしいなぁ。
冒頭からバトルって、やっぱり効果的なんだなぁとしみじみ思いました。楽しい授業と言って頂けて素直に嬉しいです。
おぉ、やっと主人公っぽいって言われたw 暗くて能力無しで主人公っぽくないなぁーと我ながら思ってましたが、やっと認められたような思いです。

猫さん>
どもです。ポイント感謝です。イェイ。
それなんて大魔法峠? さておき、ランクが全てな世界なもんで、やはり上に行っちゃうと高慢ちきな野郎が蛆のように増える社会なワケで。自分もボコボコにしてやりたいぜw
スイレンのような寡黙で強いキャラはまぁー動かしやすいです。ツンデレー……というより、きっとツンペラ(?)になります、えぇ。
カルボナーラうどんは胃がもたれます……。それを手巻きにしたらきっとマズイだろう、って発想です。意味不明ですね、はい。
今回はテンポと展開に相当苦しんだだけに、感謝感激です。
ゾウガメタイプは、精霊広場でグッスリ寝ていると勝手に背に乗せてくれる仕様となっていますw

それでは皆様良いお年を。

ではでは〜

2012-12-30 21:28:33【☆☆☆☆☆】rathi
どうも、鋏屋でございます。続きを読ませて頂きました。
ヴィント君頑張った、よく頑張った! それでこそ男だっ!!
と、単純な私はそれだけで胸熱くしてしまうのです。自分の無力さを認め、弱さを知っても尚立ち向かえる勇気を持つことが本物の勇者であると信じたい。で、それが認められる世界であって欲しいと願います。
やっぱりこういう少年が成長していく過程を見るのが面白いなぁと思います。大人になるんじゃなくて、ヴィント君は是非とも男になって欲しいw (なんだか大昔のハムのCMみたいだw)
てなわけで、今回は胸が熱くなるほどもっそ頑張ったヴィント君に1ポイントwww
鋏屋でした。
2013-01-15 17:08:55【★★★★☆】鋏屋
拝読しました。水芭蕉猫ですにゃん。
 おお、これこそ私が見たかったシーン!! ブリードさんのやり方やその他もろもろはそっちに置いといて、パートナーゼロがダメというのは確かにおかしいよね。パートナー制度によるファシズムだよね。この後の展開がとても気になります。
 んで、ヴィントくん良くやったよ! まだパートナー欲しがってるけど、その勇気は何に勝ることの無い宝だと思うのですよ。胸が熱くなります。あと、リトイデちゃんがかっこよかったです。
 今後の展開に期待して、座布団一枚。
2013-01-23 23:23:45【★★★★☆】水芭蕉猫
 読んでて辛かった……。自分前回の感想で「パートナーゼロとかかっこええやん」的なこと言いましたが、そうかこれっていざというときに、ここまで無力なのか……きっつ。
 そう、ブリーガの「圧倒的力」と主人公の「圧倒的無力」。ぶつかるとほんとうもう、なんつうかマジで悲しくなっちゃった自分がいます。敵うはずはないんですが、とりあえず立ち向かうしかないんですよね。ブリードが言ってましたけど、それってポーズなんです。言い訳の準備。それを否定するには、結果がないといけない。今回の場合はカプリを助けるっていう結果がないと、もし彼女が連れ去られてたら主人公はずっとその敗北感を背負うことになる。
 結果として助かりましたけど、この事実は主人公わかってたね。無力。これがいかに辛いか身にしみちゃってますよね。それがマジで辛かったです。なんかむっちゃ感情移入しちゃいました。
 でも、なんか前回主人公の薄暗さに同族意識をもってましたが、今回でそれは捨てました。どうやらかなり男らしいぞこいつ。しかも大きな成長を見込める。ゼロってことはどこでもいけるってことですからね。
 非常に何かこみ上げてくるものがありました。では、次回更新も期待しております。
2013-01-30 03:55:41【★★★★☆】コーヒーCUP
rathi様、始めまして。も、から始まる格ゲーマーともうします。御作拝読させて頂きました。
何でしょう、一気にするすると読んでしまいもう続きが気になって仕方ありません。とても苦しく、面白く読ませて頂きました。キャラクターをしっかり見せ、その心情に読み手が圧倒される筆力が凄いです。まだまだヴィント君の苦難はつづきそうではありますが、自分とは違って立ち向かえる意志は捨てていない彼を応援しております。
良い作品に合えて良かったです! 普通に感想しか書けなくてすみません。面白かったです。いじょ、格ゲーマーでした。
2013-01-31 12:41:35【★★★★☆】も、から始まる格ゲーマー
うぉぉ、返信しよう返信しようと思っている内に一ヶ月近くも過ぎてしまった……。皆さんゴメンなさい。
そしてうぉっ!? 何か今回は評価が高くってビックリです。苦労したかいがありますとも。

鋏屋さん>
感想+ポイント感謝です。
ヴィントには今回かなり頑張ってもらいました。漢だと認めてもらえたようで良かったですw
この世界が正しいのか? あるいは間違っているのか? その辺が今後のストーリー展開に深く関わってくるかなぁと。
ハムのCM……ってアレか。わんぱくでもいい、ってヤツでしょうか? 昔は「たんぱくでもいい、ふとましく育って欲しい」とか変えて遊んでたなぁ。

猫さん>
感想+ポイント感謝です。
パートナー制度については、現実世界を皮肉った一面を持っています。同時に、その矛盾さと、正しさも。
その辺については、追々作中で話そうかなぁと思っていたり。
それにしても、まさかヴィントの行動がここまで評価されるとは……。ちょっと驚き。まぁ、書いている私も胸熱でしたがw
リトイデは初期プロットに居なかったのですが、まさかここまで活躍するキャラになるとは……。
多分、これからもおいしい役を持っていくと思いますw

コーヒーCUPさん>
感想+ポイント感謝です。
名前だけはカッコ良いですよw もうね、ゼロってだけで中二病が燃え上がりますからね。
さておき、コーヒーCUPさんの言うとおり、圧倒的力と圧倒的無力ってヤツを演出したかったワケで。パートナーが居るのと居ないのとでは、どれだけ違うのか。その辺の対比を表現したかったワケで。
最後まで抵抗するのには、作中でも語ったように、二種類あると思うワケですよ。まぁ、ヴィントは言い訳するつもりはなかったと思いますが。それを何故ブリーガが言ったのか? その辺もまたお楽しみにw
>「ゼロってことはどこまでもいける」
おぉ、カッコ良い。決め台詞として使えそうですね。良いなぁ、これ。

も、から始まる格ゲーマー>
感想+ポイント感謝です。
ども、初めまして。rathiと申します。大して文章が上手くないもんで、読ませやすさに重点を置いているだけに、ありがたいお言葉です。
今のラノベの真逆を行くような主人公ですが、苦しくとも楽しんで頂けたようで何よりです。
もう何でも良いので、感想を残して頂けるだけでヒャッホーと更新速度は上がりますので御安心をw



ではでは〜
2013-02-11 22:05:49【☆☆☆☆☆】rathi
 こんばんは、rathi様。上野文です。
 御作を読みました。
 ど、どっかでみたようなありふれた、と冒頭部で思い込みましたが真逆でしたね。
 報われないヴィントくん。
 ただ、安易な道を、誘惑を選ばない彼は、格好いいと思います。
 面白かったです。
2013-02-20 21:10:34【☆☆☆☆☆】上野文
上野文さん>
返信遅くなって本当に申し訳ないです。
仰るとおり、みんなが憧れる魔法ファンタジー。でも主人公だけが何の能力もない。という真逆のパターンをやってみたかったワケで。
藻掻く主人公はカッコ良いですが、書くのは非常に難しいと痛感中ですw

ではでは〜
2013-03-25 23:06:27【☆☆☆☆☆】rathi
 読みましたー。
 4話の前半部分、おかゆパーティーのくだりは四人でおかゆを囲んでいるだけで「なにこいつ、うらやましい」とか思っていたのに、二人きりになったあとのやりとりはもう平常心を保っていられませんでした。楽しんで読みました、すげえ面白かったです。でも心の中でずっと「爆発しろよこの二人」と主人公とヒロインの爆発を望んでいました。
 しかし話しが進むごとにヴィントが男らしくなっていく……最初の薄暗くてじめじめした彼はどこにいってしまったのか。もう同族意識をもつことができない。こうなればヴィントが男になるのを見届けようか。
 カプリがもう完全にデレキャラになっててほほえましい。前々からのその傾向があったけど、4話に入ってからもうひどい。なにこの乙女。
 ただ自分はチームの中ではスイレンのクールさが一番好きなので、次回更新がマジ待ち遠しい、たぶん彼女がメインなはずだと、今から楽しみにしています。
 しかしバドロの「THE小ボス」みたいな雰囲気が憎らしくて、こいつ絶対物語で報われないんだろうなあ、いい気味だなあと思いながら、優しく見持っています。
2013-03-26 23:59:24【☆☆☆☆☆】コーヒーCUP
 初めまして土塔です。以前から気になっていた作品でしたが、ここのところ仕事が忙しくネットを開いておりません。久々に開いたらすぐ目に入りましたので読ませていただきました。とても考えさせられる内容です。弱者を主人公にするのは難しいですよね。三国志がつまらないのは(つまらないと思うのは私だけでしょうか)、負け戦を主題にしているからだと思います。でもここの主人公はとても生き生きと描けていて参考になります。物語の展開、楽しみにしています。
2013-04-08 00:41:37【☆☆☆☆☆】土塔 美和
何度も何度も返信遅くなって申し訳ないです……。

コーヒーCUPさん>
もうデレッデレ過ぎて書いている自分も「そこを代われ!」と言いたくなる程でしたw 末永く爆発すればいいのにね、この二人。
さておき、一応主人公の成長物語的なお話なのですが……自分でも知らん内に男らしくなってますね、この人。作者はバターになりそうなぐらい同じ場所をグルグル回ってるってのに、コンチクショウめ。
カプリの暴走というか、乙女らしさには結構悩みました。好評なようで良かったです。
今回はもう、コーヒーCUPさんに捧げるお話といっても過言(?)ではないかとw クールキャラ評論家としてのジャッジを宜しくお願いします。

土塔 美和さん>
ども、初めまして。読んで頂きありがとうございます。
オレサイキョーが流行ってる今に、こういう弱者を主人公にするってのは我ながら冒険してるなぁと感じています。
三国志は蒼天航路から入ったクチなもんで。曹操の最強っぷりが楽しかったですよ。横山光輝版がお嫌いなようなら、こちらをオススメ致します。
主人公が生き生きしてるのは、きっと自分と似ているからでしょうねw 自分が常日頃から感じている事をぶつけているので、その辺が生かせたようで良かったです。


なるべく早くアップするように頑張ります。

ではでは〜
2013-05-11 17:24:23【☆☆☆☆☆】rathi
 こんにちは江保場狂壱です。感想は初めてです。
 パートナーが必需の世界でパートナーがいない主人公は読んでいて辛くもあり、逆にパートナーなしで高ランクの相手に挑むなど、痛快でもありました。
 第六話のスイレンの過去ですが、ある意味主人公よりつらい話でした。そして過去にパートナーがいなくても戦っていた事実を知った時の喜びなど、暗さと明るさがよかったです。
 ここからパートナーなしでも戦う術を得て、勝ち進めばかなり面白いと思います。では。
2013-05-12 12:39:50【☆☆☆☆☆】江保場狂壱
 読みましたー。
 スイレンかわえええ。なんやこの生き物、お持ち帰りでお願いします。
 はいふざけすぎましたすいません。感想感想。意外とスイレンが明るい子だったんだというのが、意外な過去なんですが、今のスイレンと過去の彼女が自分の中でうまいこと繋がらなかったというのが、正直な感想です。なんだろう、ちょっと違和感があったんですよね。たぶん他のキャラならこんなこと思わなかったんでしょうが、スイレンだから思っちゃう、クールキャラには厳しいのです(ごめんなさい)。
 けど、全体としては彼女の悲しい過去には普通に悲しんでしまいました。嫉妬っていうのは恐ろしく、憎らしいんですが、これがまた心のどこかで理解しちゃうのが嫌なんですよね。スイレンに罪はないんですが、彼らがああいう暴走をしたのもわからんでもないという……うーん。でもスイレンを傷つけた罪は重い、全員極刑で。
 スイレンのパートナー、生きてるだろうか。生きてるんだったらはよでてこいと。彼女が傷ついてんだろ。
 さて、ヴィントはヴィントで何かヒントを見つけ出したようで、これからが楽しみですな。いよいよ彼がゼロではなくなる、ないしは「ゼロを活用した何か」になるのか。このへんも期待膨らみます。
 いやーしかし今回はとにかくスイレンでしたね。部屋の出て行き方もかっこいい。まったく、惚れます。
 では、次回更新も楽しみにしております。
2013-05-19 01:08:13【★★★★☆】コーヒーCUP
江保場狂壱さん>
ども、初めまして。感想ありがとう御座います。
最初から最強が流行ってるので、反骨精神といいますか、逆に敢えて最初から最弱という成長物語が書きたくなったワケで。
あのシーンは最弱なのに最強(現時点で)に立ち向かうという、一種のカタルシス的な演出をしたかったワケで。その辺が上手くいったようで良かったです。
どちらが辛いかというと、意見の別れる所ですが、パートナーが居ないときの辛さと、強いパートナーが居た時の辛さってのを対比的に書きたかったのですよ。
本を見つけた時のシーンは悩みましたが、あんまり暗く重いのが続くのもなぁ、と思ってあんな感じになりました。こちらも上手くいったようで良かったです。
今回を読んで頂くとお分かりの通り、この主人公には残念ながらパートナーは付きません。だからこその、っというワケなのです。

コーヒーCUPさん>
感想+ポイントありがとうございます。イェイ。
残念ながらお持ち帰り、お触り厳禁です。お巡りさんこの人です。
さておき、やったー! クールキャラ評論家のコーヒーさんに褒められたぞー! と思ったら、そうか、過去編が引っかかってしまったのですか。
何故今が暗くて過去が明るいのかというと、いろいろ落ち込んで人間不信になったりと、拒絶に拒絶を重ねて今のようなクールキャラになってしまったワケなんですよ。
むぅ、手厳しいぜ。
あの嫉妬心は、まぁ自分が常日頃抱えている気持ちなんで、それをありのままに書いたから妙な親近感を覚えるのかも知れないですねw あっ、私は手を出さないですよ、モチロン。家でハンカチを噛んで伸ばす派ですからw
スイレンのパートナーと、見つけた何かについては、今回の更新分を見て頂ければお分かりかと。


お楽しみ頂ければ幸いです。それでは次回まで、

ではでは〜
2013-06-15 14:29:01【☆☆☆☆☆】rathi
執筆お疲れ様です!
いやー面白かったです。一気に読んでしまいました。
落ちこぼれ以下のヴィントとカプリ、インニャー、スイレンという仲間。キャラが立ってる。
ヴィントは最初、内気でじめじめしたタイプかと思っていたら、もう全然。
きちんとエロい目を持っていらっしゃるし、優しいし、何よりも皆を守ろうとする信念を備えている「漢」でありました。カッコいい。
カプリ、インニャー、スイレンの隠された謎を明かしていく展開も良くて、飽きずに読めましたし、3人ともかわゆいですね。
特に気に入ったのはスイレンかな。クールビューティって感じで、回想時とのギャップもあって微笑ましい。ちょっと天然な行動は魅力倍増です。うどん好きも質素でよろしい。
しかし、いつの間に手に入れたんだ、あのレアな本。読書好きなタイプではあると思いますが、まさかアンナーリ先生より早いとは。でもきっちり授業には出ているじゃないか……イチョウの木の陰にクールに寄り添っていらっしゃる。さすがスイレン様、にしてもちょっと引っ掛かった部分です。
あとはインニャー。とても可愛らしいんですけど、いまいち外見のイメージが掴めていない。スイレンとカプリについては描写がまあまああったのですが、インニャーについては小柄ぐらいしかなかったような。
もう少し、着ている服とか、髪の色とか、肌の色とか、おっぱ○のぐふふとかwあれば良かったかなぁと。ここはヴィントさんの肥えた目線に注目していきたいです。基本的に外見描写が少ないかも。まぁ個人的な願望かもしれませんが。せっかく皆かわゆいので個人的にはもっと可愛らしさをその都度アピールして欲しいです。ぐふふ。
第七話、戦闘描写から気合が伝わってきました。手に汗握る展開で、すごいの一言です。
これまで張った伏線の回収も綺麗に進み、スイレン、カプリのパートナー登場。メディカルキティちゃんかわいい。スイレン様!スイレン様!
で、ヴィントがかっこよすぎました。特に気に入ったのが、インニャーが回復しようとして一回失敗した後の文章、
>「ありがとう……インニャー。もう、無理をしなくてもいいよ。僕は……治ったから……」
 精霊銃を握り直し、ヴィントはよろめきながらも立ち上がる。嘘ではなかった。インニャーのお陰で、折れ掛けていた心だけは治っていた。
 
かっこよすぎ。こりゃイケメンですわ。
この成長したヴィントを見れただけでも良かったです。パドロを倒したところではスカッとしました。
あとは3話の謎ですね。革命軍とか、世界全体にかかわりそうな問題ですね。これだけ重厚な世界観なので、あと一話で綺麗に収束させるのは難しいのでは?
というわけで続編を早くも期待しています。
いや、決して終わらせるなと言っている訳ではございませんのでw
はい。ではでは最終話の執筆頑張ってください。
2013-06-25 14:26:23【★★★★★】リョスケ
リョスケさん>
初めまして。三百ページ近くを一気に読んで頂き、ありがとうございます。+まさかの満点感謝です。
余談ですが、自分の本名とニアピンなペンネームでしたので、ちょっとビクッとなりましたw

さておき、今回はとにかくキャラ重視でいきたかったので、キャラが立っているという言葉は素直に嬉しいです。
ヴィント君も男の子ですからね。草食系でもエロいもんはエロいですよw ムッツリ……とはちょっと違うかも知れませんが。
おぉ、スイレンの人気が高い。そしてメインヒロインっぽい立場のカプリは全然人気がないぜw まぁ、ハルヒで言うところのメインヒロインあっての長門って感じだとは思いますが。

レアな本に関してですが、手に入れたシーンを書くかどうか悩んだ結果、テンポが悪くなるので省いてしまいました。
裏エピソードとしては、スイレンの通学路途中にその露店がたまたまあって、100円ぐらいの値段だったのでまぁ暇潰し程度に、って軽い感じで買っていったワケで。
アンリーナ先生の所に情報がいった時にはもう、買われた後だったのですよ。

外見のイメージ……ですか。ううむ、痛いところを突かれました。反面良く読み込んで頂いたようで嬉しくもあります。
大きな理由としては、服装のイメージが固められないからなのですよ。ファッションセンス・ゼロなもんで。絵も画伯レベルなんで、細かく書きたくともなかなかそこまで踏み込めない感じです。
どこかのタイミングでは全体的にその辺を加えたいと思いますので、ご了承をば。

七話を盛り上がらせる為に伏線に伏線を重ねてきたようなもんなので、もう気合い入りまくりでした。まだまだ書き込みたい気持ちはありましたが、自分のレベル的に今はこれで精一杯なワケで。ともあれ、満足して頂けたようでなによりです。
>「ありがとう……インニャー。もう、無理をしなくてもいいよ。僕は……治ったから……」
おぉ、そこを気に入って頂けましたか。台詞回しにだいぶ苦労した部分なので、すごく報われた気分です。

綺麗……と言えるのかどうなのかはリョスケさんに任せるほかないのですが、一応着地地点は最初から決まっていたので、納得して頂けるような形に仕上がる……と思います。
本当はもっともっとこのヴィントたちを書きたいんですがね。終わらせようとしている私もまた寂しいワケで。
さておき、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

ではでは〜
2013-07-05 22:23:46【☆☆☆☆☆】rathi
読みました。
スイレン強すぎワロタw。ってのが一番の感想だったり。さすが神童、これは嫉妬されてもしゃーない。
敵キャラが一人を除いて馬鹿と阿呆という、これは絶対にいい噛ませ犬だ、こいつらがどう負けるんだろうと思いながら読み進めました。いい負けっぷりです、スカッとしました。報われないキャラだと思いますが、それがお似合いです、はい。褒め言葉ですよ?
さて、ついにヴィントがゼロではなくなってしまったか……。そうかそうか……。なんだろう、この置いていかれた感。第一話のあの根暗はどこにいったんだよ。別人じゃねえか。嬉しいよ。いい具合に彼の成長具合が描かれていますね。着実に彼は変わってる。これからが楽しみ。ましてや武器を、ある意味パートナーを手に入れたことでどう変わるか、楽しみです。
インニャーもようやく踏み出せたみたいですし、これはある意味、「役者は揃った」状態では? ようやく戦える集団になったわけですから、確実になにかありますよね。
ただ、今回自分がMVPを送るのは、リトイデだったり。敵キャラなのに、かっこよすぎでした。なんでお前が敵にいるんだよと思いつつ、全力で戦うのが理由だとか、なにもんだよとつっこんでしまった。でも、終始かっこよかった。リトイデvsカプリのバトルがかなり熱かったです。
では、次回も楽しみしておいります。
2013-07-25 01:21:30【★★★★☆】コーヒーCUP
初めまして。
先ず初めに、面白い設定で、しかも奇をてらったものと思わせない話の作り方に感心しながら読ませて頂きました。
こういう話を読むのが苦手な私でも、世界観がしっかりしているのですんなり物語に入っていけました。主人公の成長を応援したくなる描き方が上手いと思いました。
ただ、上手いだけに、たまにある、改行無しの「」の連続が気になりました。スムーズに読めていたのが、そこで突っかかる感じがしたので。私だけかもしれません。
ここまで一気に読め、面白かったです。
続き、お待ちしております。
2013-07-28 10:39:07【★★★★☆】蜻蛉
計:41点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。