- 『自分が無くなるとき 』作者:ニシカズマ / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
- 昔っから泣き虫で何にも出来ない高校一年生の青井蓮。ある日突然、彼は幽体離脱を体験することに。しかし、そこから想像もつかない自分の姿を目の当たりにする……
- 全角1376文字
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原稿用紙約3.44枚
蒸し暑い熱気を帯びた部屋で僕は目を覚ました。
―――もうすでに僕は感じていた。
暑さを感じない、トイレに行きたくもならない、腹も減らない……
意外と冷静な僕は体が浮いていることに動じることもなかった。
僕はこの現実を受け止めると即座に喜びが込み上げてきた。
もう学校なんか行かなくていい、勉強なんかしなくていい、そんな解放感にしばし浸っていた。
「いつまで寝てるの!!遅刻するわよ!!」
「はぁ〜…」
毎度毎度の母の怒声にはもう首を横に振るしかほかなかった。
うるさい母、仕事ばっかで短気な父、ぐれて家庭内を壊す兄、そして動かなくなった自分の体を残して幽霊の僕は外へ繰り出すことにした。
今の僕には後に自分の体に生命が宿るなんて知るよしもない。
僕はスーパーヒーローのように飛んだ、壁をぶち壊すように通り抜けた、いつもうるさい隣の犬に真っ向から物申してやった。
僕は今までやりたかったこと、我慢してきたことを全てやった。
幽霊生活一週間、僕は感じた。
「もう飽きた…何にもやりたいことが見つからない……」
パソコン、ゲームに熱中したり、塾の先生や小学校からの数少ない友達と話す方が楽しい、ご飯が食べたい……
「体が欲しい!!」
僕はふと思った。
「自分の体はどうなっているんだろう?」
真っ先に家に戻った。
「もう一週間か〜、葬式はしたのかな〜」
「家族はどれほど僕の死を悲しんでくれるんだろ〜な〜……」
―――僕は自分の目を疑わずにはいられなかった。
「ぼ…僕の体が……何で」
動くはずもない自分の体が動いている。
僕は死んだように固まった。
まるで逆幽体離脱でもしたかのように。
―――驚きはこれだけではなかった。
「家族全員……笑ってる……」
普段からリビングに家族4人集まることなんてめったにないのに……
奴はもう青井家には欠かせない存在になっていた。
「ちょっと待て、じゃ奴は学校でどんな生活を…」
見当はついていた。
ただ気になってしょうがなかった。
奴がどのように友達と過ごしているのか。
日曜の夜、僕は自分の席で奴が来るのをじっと待った。
月曜日、奴はいきなり5人の友達を従え教室に入ってきた。
たちまち奴の周りには人が集まった。
僕が唯一、学校で気になっていた女の子にも平然と話し打ち解けている。
「何で…どうして…」
奴はもうクラスには欠かせない存在になっていた。
「どうすれば、一体どうすればあんな風になれるんだぁ!!!!」
叫んだところでどうにもならない。
「哀れだ……」
すると奴がこっちを見て不気味な笑みを見せた。
「あっ!!」
僕は今になって気づいた。
奴に体を乗っ取られたことを……
- 2012-08-06 21:22:54公開 / 作者:ニシカズマ
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