『気に入ってるみたい』作者:遥 彼方 / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
美代子は現在市内の共学高校に通っていたが、密かにある男子生徒に想いを寄せていた。そうしてのんびりとした変わり映えのしない毎日を送っていたが、そんなある日、下校中にその男子生徒とばったり廊下で鉢合わせしたのだった。
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原稿用紙約7.53枚
 可愛らしい鳴き声を耳にして振り向くと、柴犬が息を切らしながらこちらへ赤い舌を出していた。
 美代子は手の平を差し出して、「お手」とつぶやくが、その犬は飼い主の方へと駆けて行ってしまった。
 女性がその子犬を抱えて、ふと「どうも」と言ってきた。
 美代子が「こんにちは」と挨拶を返すと、女性は駐車場の方へと歩いていく。そうして美代子が校舎の中へ戻っていこうとした時、階段の暗がりからふと声がした。
「……やあ」
 男子生徒が階段から降りてきて、瞳を微笑ませてそう言った。美代子も元気な声で挨拶を返す。二人はそっと歩き出して、どこか歩調が早足になった。
「教室に鞄を置いたままなのか?」
「……見ての通りよ」
 そんな会話を交わしながら廊下を曲がり、一番奥の教室へと入った。そしてすぐに鞄を手に取ると、「早く!」と男子生徒が叫び、美代子は「わかってるよ!」と返事をしてその後に続いた。
 学校を出ると、バスが停留所に到着したところだった。二人はそのまま乗車口へと飛び移り、中へ踏み込んで周りを見渡した。バスは同校の生徒で溢れ返っていて、運動部員が楽しそうに談話していた。二人は彼らの横で吊り輪につかまり、互いに顔を見合わせた。
「なんとか間に合ったね」
 うん、と美代子は頷き、外の景色へと視線を向けたがその時、「あ」と彼が突然身を乗り出して窓の外を見遣った。美代子も彼の視線の先を追った。
 先程の女性が歩道を歩いていたが、突然トラックがその背中へと迫った。すぐに彼女は横へ飛び移って逃れたが、しばらく口論になって何かを言い合っているらしかった。
 運転手はそのままトラックを走らせていき、その男へ向かって女性は何かを叫んだようだった。
 そうしてその姿も遠のいていき、美代子はずっとその背中を視線で追っていた。見えなくなっても、頭の中でそれが浮かび続けた。
 彼女は髪をポニーテールにしており、細い体のラインに沿ってそれは下がっていた。半袖シャツから白い肌がのぞき、明るい色のジーンズがすらりと脚を引き立てていた。
 美代子はその姿がとても綺麗だと思い、それは美代子にとって魅力的な姿であると、胸の高揚感が語っていた。彼女の顔を自分のものと取り換えてみると、何故だかとても興奮するのだった。

 *

 女子寮へと帰ってきて、傘を格子引き戸へ立てかけた。すると扉が開き、管理人が「早くお入りよ」と促してきた。美代子はうなずいて中に入り、階段を上がって廊下を進んだ。
 そのまま自分の部屋へと戻り、そうして畳の上で仰向けになっていると、その時ドアがノックされた。
「入っていいよ」
 そう言うとすぐさま扉が開いて、寮生である里美が中へ入ってきた。
 彼女の長い髪はかすかに濡れており、蛍光灯の明かりに光っていた。そうして里美はにっこりと笑って言った。
「帰ってくるの、遅かったね。何してたの?」
「……ちょっとね」
 それが意味深な言葉に思えたのか、里美は「何? 彼氏でもできたの?」とすり寄ってくる。美代子ははにかみながら笑った。
「……そうなったら、良いなと思ってね」
「相手決めてるんだ?」
「まあね。……里美は?」
「もちろん、私にもいるよ」
 二人は畳の上で横に並んだが、その時、美代子が口を開いた。
「ねえ、ポニーテールにしてみてよ」
 その言葉に里美は首を傾げてみせる。
「なんで、また?」
「今日、ポニーテールの綺麗な女の人を見たんだけど、スタイルがすごく良くて、私、見惚れちゃったわ」
 美代子はそう言って「実験よ、実験」と自分のスカートからゴムを取り出して、里美の髪に通していった。
 里美は訝しげな顔をしていたが、美代子の優しい手つきに頬を緩ませたのだった。

 ***

「これで良いかな」
 里美は鏡に映った美代子の髪を見つめながらそう言った。
 美代子は顔を傾けて確めていたが、「うーん」と唸って首を傾げた。
「……微妙、ねえ」
 少し落胆したようにそう言うと、美代子は里美の髪を見遣って言った。
「負けたわね。まあ、仕方ないわ」
 美代子はそう言って畳にあぐらをかいた。
「私には、ポニーテールは似合わないわね」
 そう言ってそのままゴムに手をかけようとしたが、里美が「待って」とそれを制した。
「このままでいようよ」
「え? 嫌よ、変だもの」
 里美は「まあ、いいから」と上機嫌な様子で立ち上がった。
「これから、コンビニに行くの。この髪型のまま、一緒に行こうよ」
 美代子は里美の艶やかな黒髪をじっと見つめていたが、「わかったわよ」と立ち上がった。
 そうして二人は顔を見合わせて、笑ってみせた。

「あら、お揃いの髪型」
 台所から顔を出した管理人がおかしそうに笑いながら言った。
 二人は微笑み返して、「行ってきます」と玄関へと向かった。「門限までに帰ってくるのよ」とのんびりとした声がかかった。
 そのまま彼女達は線路沿いの道を足早に歩いた。電車が二人のすぐ側を走っていき、二つの髪を逆立てていった。
 その風が心地良かった。おそろいの髪がふわりと浮き上がり、そして二人はその優しい感触にうっとりとしていた。
 コンビニを見つけて中に入り、まず始めに雑誌コーナーで立ち読みしている男性に目がついた。
「飲み物と、お菓子を」
 里美はそう言って奥へと向かっていき、美代子は一瞬迷ったが、その少年に近づいていった。
「金子、君?」
 恐る恐る問いかけてみると、その少年が振り向き、それは案の定、金子だった。
「あれ、長谷田?」
 彼は目を瞬き、そうしてすぐに笑った。美代子は口元を緩めて言った。
「……放課後は楽しかった。金子君は雑誌の立ち読みかしら?」
「いや、ちょっと……」
 彼は雑誌を棚に戻して、そして美代子へと向き直った。こうして見ると、眉がどこか凛々しく見えて、美代子はしばらく彼をじっと見つめてしまった。すると、ふと金子が美代子の髪を食い入るように見つめていることに気付いた。そうして、彼はつぶやく。
「髪型、変えたんだね」
 その言葉を聞いた瞬間、美代子の心に衝撃が走った。
「ちょっと試しに」
 彼女はどこか緊張しながらそう言った。すると、
「……似合ってるよ」
 その言葉に「え」と美代子は声を上げた。
「最初、誰かと思ったよ」
 彼は美代子の髪を眺めながら、感心した様子でうなずいた。そこで、里美が近づいてきて、「この人は……」とつぶやいたので、そのまま金子を紹介しようとしたが、
「じゃあ、僕はこれで」
 金子はそう言って軽く頭を下げ、店を出て行ってしまった。
「美代ちゃん、もしかしてあの人が……」
「うん。良い人でしょ?」
「なんだか真面目そうな人だね」
 里美が会計を済ませている間、美代子は髪を弄んでいた。手の中で、柔らかい房がさらさらと揺れて、その触り心地に笑ってしまう。
「なんだかんだ言って、気に入ってるみたいだね」
 里美が戻ってきてそう言った。
「うん、そうみたいだわ」
 美代子はそう微笑み返した。そして、「本当に気に入っているみたいね」と言葉を付け足したのだった。
2013-02-01 21:09:29公開 / 作者:遥 彼方
■この作品の著作権は遥 彼方さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
数度目の投稿になりますが、知っている方は、本当にお久しぶりです。初めての方、はじめまして、遥彼方と申します。
最近は全くネット上での更新を行っていませんでしたが、細々と執筆を続けています。今回は以前書いたある作品を手直しし、投稿させていただきました。
ご指摘・ご批評、何か感じたところがありましたら、ご感想をお聞かせていただけたら、とても嬉しいです。それでは、よろしくお願いします。
*H25年2月1日第2稿投稿
この作品に対する感想 - 昇順
こんばんは、作品読ませていただきました。
ポニーテールの髪型、というものにフォーカスを当てたスケッチという感じの作品で、ちょっとフェティシズム的な感じもしますが、不思議な味わいがあって面白いですね。最後の一行もいいなと思います。
ただ、ところどころ文章にぶつ切れ感があって、意図されてそのように書かれたのかも分かりませんけども、ちょっとぎこちなさを感じてしまう部分がありました。まだまだ手を入れる余地が多くある作品のように感じました。
2012-07-15 00:07:26【☆☆☆☆☆】天野橋立
天野橋立様、本当にお久しぶりです。そして、感想をいただいてしまって、とても嬉しいです。ありがとうございます!
ポニーテールがいいな、と思っていた頃がありまして、その時に衝動書きしたものなのですが、少しでもその雰囲気が伝わっていただけたら幸いです(笑)
文章にぶつ切れ感があるというのは確かにその通りだとうなずけます。ぎこちなさがあるというのも、推敲が足りない状態で投稿してしまったのが原因だと思います。
よりよいものに仕上げ、また掲載したいと思いますのでお時間がありましたら、ご一読していただけたら幸いです。
それでは、ありがとうございました。
2012-07-20 16:12:38【☆☆☆☆☆】遥 彼方
読ませていただきました

とてもやわらかで優しい文体だと思います

ただもっと膨らますことのできる可能性が多く含まれている文章だとおもいます
続編や、改良版などを楽しみにしてます
2013-02-11 16:01:45【☆☆☆☆☆】なるみ
遥 彼方様、始めまして。も、から始まる格ゲーマーと申します。御作拝読させて頂きました。
良いですね、こういった日常の中でのちょっとした動作、行動での気持ちの流れの描写。思わず微笑んでしまう感じであります。
やっぱ、変化に気づいてくれるのって嬉しいですよね。それが特別に意識してる異性だったなら尚更です。ドキドキしながら外に出て、しかも偶然出会って変化に気づいて貰えるとか、気持ち的にはビッグイベント過ぎるぜひゃっはー! と、小さく大きなイベントに、によによによ。←再び癒され中。

ただ、筆が乗って来ている中盤、後半辺りはともかく、序盤の舞台設定の部分が改稿された後であろう今回でも、かなりぶつ切りになっており読むときのリズムが作りづらかったです。重箱の隅をつつくとしたら、そんな感じかなぁ(失礼しました

では、また遥 彼方様の作品を楽しみにお待ちしております。
いじょ、格ゲーマーでしたー。
2013-02-13 12:51:41【☆☆☆☆☆】も、から始まる格ゲーマー
なるみ様
はじめまして! この度は、貴重なお時間を割いていただき、ありがとうございました! 感想までいただき、とても嬉しいです。
読む人が少しでも楽しんでいただけるようなわかりやすい文章を心がけていたので、その気持ちが伝わったらとても幸いです。
ご指摘の通り、もう少し言い回しを工夫したり、物語に起伏を作ったりと、やるべきところはたくさんあるかと思います。ただ書き進めるたけではなく、書いている途中で工夫していくコツをつかむことが今後の課題ですね。
また何か作品を掲載した時には、ご一読いただければ幸いです。それでは、ありがとうございました!


も、から始まる格ゲーマー様
こちらこそ、はじめまして! 貴重なアドバイス、そしてご感想、ありがとうございます! 書いている時にこうなったらいいな、とか妄想しながら書いていましたので、作者のそんな意図が少しでも伝わったら嬉しいです(笑)
序盤の文章についてのアドバイス、ありがとうございます。読んでみて確かに一文一文が前後で繋がっておらず、読みにくくなっていますね。今後、こういう癖を何とかしてみたいと思います。
それでは、暖かいお言葉ありがとうございました。また何か作品を書いた時には、機会があればお読みいただけたら幸いです。それでは、ありがとうございました!
2013-02-15 22:02:21【☆☆☆☆☆】遥 彼方
計:0点
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