『ヒールとスニーカー』作者：鋏屋 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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　今日、帰りの電車でふと小耳にはさんだこと。
「俺、背の低い子が好みかな……」
　私の視界の隅で、つり革に掴まりながら友達と話している彼がそう言っていた。面と向かって視界の中央に入れることは怖くて出来ない私だったけど、体中全部を使ってその話し声を拾っていた。
「ちょっと、ねえ聞いてる？」
　そんな私の横で、今日帰ってからの買い物の予定を確認していた友達から声が掛かった。今日は中間試験の最終日で、この後帰ってから着替えて買い物に行こうと約束していた。
「え？　ああ、うん。聞いてるよ」
　私がそう答えると、彼女は「ほんとに〜？」と疑るような目で私を見ながらそう言った。
「もちろん、この後帰って２時に北口の改札前でしょ？」
「そうそう。でね？　私さあ、ちょっと水着も見たいんだよね〜」
　そんな彼女に私は「良いよ、一緒に見に行こうよ」と返すと、彼女はにっこり笑いながら頷いていた。私は彼女に悟られないように、相づちを打って、また先ほどのように彼女を見つつ、意識を視界の端に集中した。彼女とはとても仲がいいけど、ちょっとおしゃべりな所があるので、この気持ちだけは悟られたくなかった。
　だって、失敗したくないから。絶対叶えたい想いだから。
　私は彼女の話をそこそこにスルーしながら、また聞き耳を立てた。すると話はもう、彼の好きなサッカーの話になっていた。私は心の中で舌打ちした。もう少し聞いていたかった。好きな子のタイプの話を……
　でも、収穫はあった。

『俺、背の低い子が好みかな……』

　雑踏の中でかすかに聞こえた彼の、その言葉が頭の中で何度もリピートされていた。私は夢中になって話している隣の彼女に「うん、そうだね」と頷きながら、チラリと彼女のその頭のてっぺんに視線を移した。
　うん、私の方が少し背が低い。
　それから一瞬だけ、彼の背中を見る。そして、その横に並ぶ自分を想像してみた。たぶん、私の背は彼の耳よりちょっと下ぐらいだと思う。
　でもそれって、彼が言う『背の低い』って範囲なのかな？
　そんなこと、考えたってわかるはずないって事はわかっている。でもやっぱり考えてしまう。私は彼の言う背が低い子なんだろうか？
　不意に、次の駅に近づいた事を告げる車内アナウンスが響いた。彼が降りる駅だ。私は降りる人を交わす振りをして、電車を降りる彼を見ていた。
　ホームに降り立ち、歩いていく彼は、周りの彼の友達とさほど変わらない背丈だ。ずば抜けて背が高いわけでもなく、かといって低いわけでもない。どの辺りが彼の好みの背丈なんだろうか……でも、それを聞く勇気は私には無かった。
　やがてドアが閉まり、再び電車が走り始めた。それを合図に、私たちはまた、たわいもないおしゃべりを始めた。
　今日の買い物、何着ていこう……
　私は頭の中で、買い物に着ていく服をコーディネートする。頭の中に浮かぶ自分に、次々と洋服を着せ替えていき、最後に履いていく靴を選ぶ。
　先月、少し背伸びして買ったヒールが思い浮かんだ。本来なら、これは外せないところだけど……
　私は頭に浮かんだヒールにバツ印を付けた。そして代わりに、赤いスニーカーをチョイスする。
　うん、スニーカーにしよう。
　私は心の中でそう頷いていた。
　その差は、ほんの数センチ。でも私には譲れない数センチ。
　今日は試験の最終日だったし、買い物先で彼にばったりって可能性もある。準備はしておかないと……
　正直、そこまでして……って気がしなくもない。考えたら、それってホントの私を好きになってくれるって訳じゃないのかも知れない。『それってＮＧなんじゃない？』　頭の中で別の自分がそう言っていた。
　でも、別に良いじゃない。
　私は頭の中の自分にそう言い切った。『誰にでもここまでするわけじゃないんだから』と付け加えた。
　また、電車が次の駅に近づいたことを告げるアナウンスが流れる。私達が降りる駅だ。私は急いで頭の中でコーディネイトした自分を消去した。そして、降りる準備をしながらもう一度一から選び直す。
　もちろん、あの赤いスニーカーが一番似合う、彼好みに近づくコーディネイト。
　

　おしまい。
2012-06-30 01:47:48公開 / 作者：鋏屋
■この作品の著作権は鋏屋さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めての人は初めまして。そうでない人はお久しぶりです。鋏屋でございます。
またまた通勤電車内で、Iphoneで書いたSSですｗ
今回は電車内で見かけた女子高生で、彼女たちを眺めながら想像したお話です。片思いの女の子ってどんな心境？　ってな事を想像しながら書いたんですが、ま、これまたおっさんの想像の中だけの女子高生なんだろうなぁ。
いやもういろいろ忙しくて七転八倒です。ろくに考えずに書いてるので、おかしな部分があるかも知れませんが、こんなお話でも面白いと思ってくれたら嬉しいなぁ
鋏屋でした。
この作品に対する感想 - 昇順
久しぶりだなハサミムシ。読ませて貰いました。
ただ……申し訳ないが、内容が頭に入って来ない。ごめん。自分の精神状態もさることながら、もしこの物語の中にハサミムシが何かしらの「意図」を込めていたのであれば、それを読み取れなかった。だが「意図」が何もないのだとしたらふざけんな――ではなく、ないならないなりに、何かしら注目点みたいなものがあればよかったのだけれども、それも感じることが出来なかった。
しかしハサミムシって小説をIphoneで書けるのか。それは凄いな。勢いだけで生きている神夜からは考えられない神業だぞそれ。「画面の表示」「キーボードの打ち易さ」「キーボードに対する慣れ」「机と椅子の位置関係」、これくらいがすべてクリアされてないと小説なんて書けないんだけど。マジか。Iphoneでこれ書けるのか。すげえなハサミムシ。
2012-07-02 11:22:08【☆☆☆☆☆】神夜
〉かみよる兄ィ
お忙しいのに感コメ下さってありがとうございますw
意図ですか？　あ、あ、当たり前じゃないですか、あ、あああるにきまって……
すみません、ねえっす、カケラもねえっす……ただの思いつきの文章です。ある意味ポエムに近いかもしれません。他人様の様子を観察して、どれだけ妄想を膨らませられるか、それを読める物にできるか、の練習みたいなもんですかね。
スマホでの執筆は長い通勤電車の日潰しつーか、そこしか時間が取れないからやってるだけですよ。決して良い物ではありません。ネットブックを広げるのも面倒だし、ｉpadは会社のなので。
AndroidのIS03が昇天してiPhoneにしたんですが、なかなか動作が機敏で
書きやすくなりました。ただ、Iphoneだとスペースキーが無いので、字下げがちょい面倒です。まあ、それも予め「　■」と単語登録しておいて、■を消せばOKなのでなんとかなるかとw
兄ィの様なコメをよくいただくのですが、慣れるとそんなに難しくは無いけどなぁ……コレはほぼダイレクトでしたが、普通は最終調整はPCだし。プロット段階なら充分Iphoneで書けます。時間の有効活用ができるし、良い暇つぶしになりますよwww
鋏屋でした。
2012-07-03 06:39:37【☆☆☆☆☆】鋏屋
　どもです、読ませていただきました。
　ピュアッ子ですなぁ。身長の高さを気にするのは、何とも青春くさくて良い感じです。
　確かにこれが長編の作中だったら、ほわほわする事間違いなしかと。感情移入は出来ましたが、もうちょっと会話が欲しい気も。

　関係ないけど、タッチの作者の短編漫画で、高飛びの少女の話を思い出しました。目標は大会記録ではなく、彼氏の身長だった、っていうヤツです。……本当に関係ないですね。
　その内『とある鋏屋の観察日記』とかまとめられそうですねｗ

　ではでは〜
2012-07-03 20:41:15【☆☆☆☆☆】rathi
　どうもこんばんは。神出鬼没がモットーの浅田です。
　個人的にはいい感じに創作意欲が刺激されていいのですが、確かに少しばかり物足りない感じもしました。おそらくは日常の一部分を書き出したかったのだと思いますが、短編として出すならばもう少しオチとしてどんでん返し的な何かが欲しかったですね。
2012-07-03 23:58:04【☆☆☆☆☆】浅田明守
〉rathi殿
感想どうもですw　なんとなくですね、電車に乗ってIphoneで書いてると、ショート２が書きたくなってしまうんですよね。会話は故意に減らしてみたんですが逆効果だったですかね。あだちさんの短編は、実は読んだことがないんですよ。あの方の書く漫画は区別がつかなくって、全部同じに見えてしまうんですよ。なのでタッチぐらいしか読んだことがないです。
『とある鋏屋の観察日記』……いいかもw　溜まってきたら括ってみようかな？　いただきますw

〉浅田氏
お久しぶりでございます。お元気そうでなにより。感想どうもありがとうございます。
そう、オチがないですね。ホント、頭に浮かんだことをそのまま書き綴っただけなので、本来なら出す作品じゃないのかもしれません。ある意味練習に近いものです。でもまあ、書いてしまうと出してみようか、などと考えてしまいました。貧乏性なもので。
次回なにか機会があれば、もう少し捻って書いてみようと思います。

お二方とも何かとお忙しそうなのに、こんな拙作に感想いただいて恐縮です。本当にありがとうございました。
鋏屋でした。
2012-07-04 16:26:17【☆☆☆☆☆】鋏屋
こんばんは。
おっさんの想像……いやいや、それもまた佳き哉。僕もつまりおっさんの一人ですから。
できれば女の子には読ませずに、僕たちだけでひっそりと楽しみたい作品です。だって現実の女の子からのツッコミを聞くのがこわいんだもん…。
　別に反論するつもりじゃないんだけど、僕はオチとかドンデンとか無いほうが好きです。そういう読み手もいる、ということで。
2012-07-14 01:05:09【☆☆☆☆☆】中村ケイタロウ
　どうもです！
　これは良いおなごですなぁ（ﾅﾆ　こんな子に片思いされたらなぁと妄想し悶絶し反省する日々でございます。
　それにしても電車内は、こう、空席が多いがらがらの車両であれば、なかなかに良い雰囲気を感じられる場所ではないでしょうか。千と千尋の神隠しのワンシーンを思い出します。夕焼けを背にしていると、何か青春っぽいです。そこで片思いしている女の子と男の子が隣り合って座っていると、何だか無性に叫びたくなるような、そんな甘酸っぱく青臭い何かを感じられますよね。
　ようするに続きが気になってしょうがなくなってしまったというところであります。
　青臭い話やあまずっぱい話は大好物です。湖悠でした。
2012-07-17 01:55:39【☆☆☆☆☆】湖悠
計：0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。