『夢』作者:髪の毛 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
彼が「宇宙の果てを知らないまま死んでよかった」。彼女の夕実は葬式でそれを思わされる。
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原稿用紙約3.16枚
「宇宙の果てが知りたいんだよ」
 彼は生きている内に知りたい、とそう言ってある日車に轢かれてあっけなく死んだ。
 私は彼が宇宙の果てを知らずに死んでよかったと、葬式で木魚の音を聴きながら思っていた。

 私はぽく、ぽく、と乱れ無く刻まれる木魚の音が好きだ。一人の人間を想って私たちは泣いているのに、木魚だけは何も思考すること無くただ叩かれているだけ。何故木魚が叩かれるのかは知らないが、きっと深い理由があるに違いない。例えば私たちを落ち着かせる効果がその音にあるとか。現に私は今、木魚のお陰でリラックス出来ている気がする。
「みーちゃん」
 声を掛けてきたのは昔、仲の良かった友達の佳枝(かえ)だった。佳枝は私と彼を出会わせてくれた人でもある。
「久しぶり」
「うん、暫く会ってなかったね。こうして、また会うなんて思わなかった」
「そうだね。私も、こんな形で会うなんて……」
 佳枝は肩を微かに震わした。正座をしている足に涙を点々と滲みさせながら、嗚咽まじりにこう話し始めた。
「正人君は本当に良い人だった……。それに、昔は何をするにも注意だけは忘れずに、何事にも慎重だったんだよ…………。だから、事故で死ぬなんて……。しかも、正人君が左右確認を怠って轢かれたなんて……」
 佳枝は私の肩に手を置いて、俯いて本格的に泣き出してしまった。私もまた涙腺が緩んで、ぼろぼろと釣られるように泣き始めた。
 佳枝と正人は仲が良かったんだ。今初めて知った事実に、余計に涙が誘われる。昔、佳枝が正人を紹介した時は何処か変わった空気を出していた。知り合いと呼べるものでも、友達とも呼べない感じがしていたのだが、気のせいだったようだ。
 不意に佳枝が私の肩をぐっと掴んで、顔を上げた。私はびっくりして涙を引っ込めた。下から怨念が篭った目で睨みつけられているのだ。
「正人君をダメにさせたのは貴女のせいじゃない? だって、私と付き合っていた時はこんな、車なんかで死ぬような馬鹿な人じゃなかった……」
 肩に指が食い込む。ああ、成る程ね。そういうことなの。二人は付き合っていたから、あんな空気だったんだ。
「あなたが正人をダメにさせた……。そうよ。あなたが……」
 うわ言の様にぶつぶつと汚い言葉を吐く佳枝の目は暗く、何も映っていない。静かに肩に凭れ掛かるように置かれている手をずらし、立ち上がった。
 外に出ると正人の大学での友人が欠伸をして立っていた。
「修介くん、」
「ああ、夕実ちゃん。坊さんのお経聞いてたら眠くなっちゃってさあ、外に出てきたんだ。それに、中はしめっぽくて嫌だし……」
「……確かにね」
「俺も木魚叩いたら眠くなんないのかなあ」
「え?」
「ほら、木魚って坊さんが眠らない為にあるもんじゃん。だから俺も叩かせてもらったら眠くならないかなー、みたいな」
 そうだったのか。私は途端に眠くなってきて、光の無い曇り空を見詰めた。

 私は彼の夢を語るときの目が大好きだった。
2012-03-15 21:54:37公開 / 作者:髪の毛
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■作者からのメッセージ
どうでしょう。なんだか分かりやすくてつまらないものになってしまった気が……。
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この作品に対する感想 - 昇順
〒桃花

髪の毛様、とても楽しく(ひやひやしながら)読ませていただきました。
心の表現がとても上手ですね。特に、最後の「私は彼の夢を語るときの目が大好きだった」
という言葉が大好きです!感情がよく伝わり、思わず「ドキン・・・」ときてしまいました。
中身の内容も、とても深いものが伝わってきました。
ありがとうございました。
2012-03-19 19:57:39【☆☆☆☆☆】桃花
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