『Rea『L』 Over〜二番煎じの迷宮〜【前】』作者:雄矢 / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
「『Real Over』って知ってるか?」恭介は、大切な人との死別を乗り越えられずに記憶を失った。春子と秋一郎に支えられながら、新たな恋と共に自分の過去と決別しようとする恭介だが、その背後にはある『見えない少女』の物語があった――。科学かSFかホラーか?心理学と超心理学の飛び交う現代小説前編。
全角31089.5文字
容量62179 bytes
原稿用紙約77.72枚
 〜プロローグ〜

 自分の感じる世界と、実際に流れる世界には、微小な「ずれ」が生じている。

 ある色彩心理学の有名な実験がある。
 ビジネスマンを被験者にして、別々の色を基調とした2つの会議室でそれぞれ会議をしてもらい、その部屋ごとで「感じた時間」を測定するというものだ。
 一つは赤や茶などの暖色。
 もう一つは青や緑などの寒色を基調とした会議室である。
 数時間後、「今何時間経過したと思いますか?」という質問をすると、暖色の会議室で会議したビジネスマンは「6時間ぐらい」と答え、寒色の会議室で会議したビジネスマンは「3時間ぐらい」と答えた。
 暖色の部屋で過ごした人は、寒色の部屋で過ごしたひとより、およそ2倍、時間を長く感じたというのである。
 これは暖色をより視界に多く取り入れる事により、人間の脳がより活発になるからだ。この理論を応用すれば、待ち時間の長い待合室などは寒色、より充実な会議がしたい部屋ならば暖色にした方がより良いという事が分かる。
 色彩の与える影響というものは、私たちが思っているより意外に大きい。
 しかし、今回はそこではなく、実際に行われた実験について少し考えたい。
 この会議室の実験において、2パターンの被験者が時間の「ずれ」に気づいたのは一体いつだったのであろうか。
 答えは至ってシンプルだ。
 時計を見たときである。
 暖色の部屋を出た人も、寒色の部屋を出た人も、会議室を出て時計を見たときに、「思ったより時間はそんなに経ってない」「思ったより時間が経ってた」などと考えたのだろう。
 聞くまでも無い簡単な問題だ。
 では、もし時計が無かったら?
 その後、一生、時計によって確認することがなかったら。
 暖色の部屋で過ごした人と寒色の部屋で過ごした人。
 この2者に生じた3時間の「ずれ」。
 その「ずれ」はいつ、どこで修正されるのだろうか。

 Real Over.

 彼女は、持っていた本を閉じた。
 本の表紙には「Real Over」と記されている。
「リアルオーバー、か……。私が思うよりも、意外に身近な場所で案外簡単に発動するものなのかもしれないわね」
 今日は風が強い。
 彼女の趣味とも言える窓辺の読書も、今日のような風の強い日は、優雅に満喫することすらできない。
 しかし、彼女はその難しさが嫌いではなかった。
「おっと、もうすぐ3時か。コーヒーでも淹れようかな」
 彼女は見上げた時計の針に従うように、座っていた竹椅子から立ち上がった。
 しなやかな膝元から、大きめのストールと本が落ちる。
 そのストールが本の落ちる音を吸収してしまい、彼女は開いて落ちた本には気づく事無く、キッチンへとはたはた歩いていった。
 風が吹いた。
 バラバラと音を立ててページがめくれる。
 その不規則な拍子に溶け込むように、小さなベルがなった。
 いらっしゃい。
 お邪魔します、姉さん。
 いつも通りの和やかな談笑が聞こえる。
 ページはゆるかやにめくり続ける。
 やがて重たい裏表紙が閉じた。
 その裏表紙には、万年筆で書いたのであろう彼女の文字が書かれている。

 『ReaL Over〜二番煎じの迷宮〜』

 この物語は、ある少年が起こした不可思議な事件の話だ。



 【1】



 雨が、どこまでも無情に打ち付けてくる。
 肌に張り付いた衣服が、わずかに残る体温すらも奪い取るようだ。
 ただただ、寒い。
 ――大丈夫?
 ――さむいよ。
 ――きっと、もうすぐお迎えが来るよ。
 もうどのぐらい、こうしているのだろうか。
 弱々しくも健気に励まそうとする声も、容赦ない雨音が打ち消そうとしてしまう。
 ――大丈夫?
 ――こわいよ。
 ――僕が一緒に居るよ。
 ――ほんとう?どっかに行ったりしない?
 ――大丈夫だよ。僕らはずっと一緒だよ。
 手を伸ばした先のぬくもりだけが支えになっていた。
 今は、頼れる大人も居なければ、身体を温めてくれる太陽すらも雲に連れさらわれてしまった。
 ――絶対に一緒だよ。
 ――僕らは絶対に一緒だよ。


 * * *


 橋本恭介が、夏瀬なつみと付き合いだしたのは、秋の文化祭の日である。
 調子よく盛り上がる雰囲気に、お互い乗せられたふりをして、告白をし、誓いの抱擁を交わした。
「なんで俺だけが後片付け役なんだよ」
 そんな青春真っ盛りを謳歌したい時に、恭介はまさにそのキューピット役を果たした『お化け屋敷』の後片付けに追われていた。
 もはやガラクタと化した小道具たちに囲まれ、恭介は何とも言えないため息をつく。
「そりゃお前。あんな目立つ所で愛の告白なんかやるからだろ。噂の美少女転校生を彼女にできたんだ。このぐらいやってもお釣りがくるぐらいじゃね?」
 そんな恭介の姿が面白くてたまらないのか、幼馴染の鍬野秋一郎はケタケタと笑った。
 文化祭休みとして半日授業になった放課後の教室はまだ明るく、秋一郎の笑い声も爽やかに透き通っていく。これが夕暮れ時の放課後でなくて本当に良かったと、恭介はわずかな安堵にすがった。
 夏瀬なつみが恭介たちの学校に転校してきたのは4月の出来事である。
 地上デジタル放送すら満足に届かないくたびれた田舎に、東京から来たという垢抜けた転校生は、華やかな話題としてあっという間に学校中に広がった。
 取られたくないという焦りがなかった訳ではない。
 やっと二人きりになれた焦りで思わず告白した場所は、まさかの教室前の廊下で、二人きりになれたと思っていたのは、ただ単にお化け役が板についた生徒たちの気配に気づけなかっただけの勘違いで。
 要するにクラスメイトから丸見えだったのである。
 完全な失態だ。
 もし無事に付き合えるようになったら次の日の文化祭休みにデートに誘おうと誓っていた恭介の決意もむなしく、アイドル転校生を取られたクラスメイト達の嫉妬は瞬く間に恭介への攻撃となり、天罰とばかりに後片付けを押し付けられたのである。
 恭介はさらにため息をついた。
「泣きたい…」
「ほらほら橋本くん。ちゃんとお掃除しないと、泣いてもゴミは自分からチリトリの中に入ってくれませんよ?」
「お前も少しは手伝えよ!」
 手伝うどころか、人の不幸をふりかけにご飯でも美味しく頂こうとする幼馴染に、恭介は呪いの罵声をぶつけた。
 秋一郎は肩をくすめると「手伝ったところで俺に彼女が出来る訳でもないのになあ」と悪態づき、いそいそと掃除道具箱からほうきを取り出し始める。
 何だかんだ言っても、秋一郎は友人思いだ。
 秋一郎が恭介に親切にする時は、決まって口も態度も悪い。
(手伝うつもりだったんなら、最初からそう言えよ)
 そんな友人の優しさに素直になれず、恭介は心の奥で文句を言いながらも、後片付けを続行した。
(本当だったら今頃なつみと記念すべき初デートだったのなあ)
 悔やんでも悔やみきれない自分の失態を呪いつつ、見上げた窓の外には、爽快この上ない秋晴れが広がっていた。
(なつみ、今頃何してるんだろうなあ)
 恭介がなつみを思い出そうとするとき、決まって柔らかそうな栗色の髪を思い出す。
 次に綺麗に肩で切りそろえられた髪、白い肌、清楚な顔立ち、大きな目、落ち着いた身の振る舞い。
(会いたいなあ……)
 考えれば考えるほど、むなしい。
「そういや恭介。夏瀬さんとの話は『春ねぇ』に通してんのか?」
 教室の隅でダンボールの人形をバリバリと壊しながら、秋一郎が言った。
「春ねぇはお前の姉貴分だし、言っておかないと後で怖いんじゃねーの?」
 秋一郎の言う『春ねぇ』とは、一つ上の幼馴染である卯月春子のことである。恭介と秋一郎と春子は全員家が隣同士で、幼少の頃よりいつも一緒に行動していた。中でも最年長の春子は面倒見がよく、特に恭介に対しては、文字通り姉のような存在だった。
「ああ、うん……。一応春ねぇにはいつか言おうとは思ってるんだけど。ちょっとタイミング逃しててな」
「そうやってズルズルしてっと、また拳骨くらうぞ?」
「分かってるんだけど……」
 恭介はばつが悪そうに剥がしたガムテープをぐしゃぐしゃと丸めた。恭介がなつみの話を春子に伝えないのは、今回だけは面倒くさがりの性格からではない。
「ちょっと言いにくくってさ」
「春ねぇから志雪ちゃんに伝わるのが?」
 『志雪』という 突然の図星に恭介は思わず顔を上げた。
 秋一郎は相変わらず教室の隅で、ダンボールの屑を拾い、ゴミ袋に足を突っ込みながら詰め込んでいる。
「志雪ちゃん、お前の事好きだもんな。春ねぇは春ねぇで志雪ちゃんにべったりだし、言いにくいよなぁ」
「お前、気づいてたのか?」
「鈍感なお前が気づくぐらいさ、俺なら一目で分かる。全くなんでかねぇ、あんな可愛い子までがお前みたいな根暗な先輩を好きになるなんて」
 ぎゅっぎゅっとゴミ袋を絞める音がした。
 秋一郎はそれを抱えるとおもむろに恭介のほうを振り返った。
「お前だけモテすぎなんだよ!1人ぐらいよこせー!」
 秋一郎の叫び声と同時に、ダンボール入りのゴミ袋が飛んでくる。
「お前絶対文句言いたいだけだろ!」
 放課後の静かな教室に、二人のけたたましい笑い声が響き渡った。

 何ということもない日常。
 お調子者で優しい友人、優しく清楚な恋人、愉快なクラスメイト達。
 それが、橋本恭介の世界なのである。



「橋本先輩!と鍬野先輩」
 お化け屋敷の後片付けが一通り終わり、文化祭会場からようやく教室の姿を取り戻した部屋を抜け、黄金色に染まった廊下を歩こうとしたその時、恭介と秋一郎の後ろから、鈴を鳴らすような声が響いた。
 最初に振り返ったのは秋一郎である。
「はいはい、オマケの鍬野先輩ですよー」
「い、いや。そんなつもりでは…。どうしたんですか?今日は午前中授業で午後は全員お休みだった筈ですけど」
「俺と秋一郎で後片付けしてたんだよ、志雪ちゃん」
 恭介が言いながら振り返ると、そこには中間服のベストとチェックのスカートに身を包んだ後輩の柊志雪が立っていた。
 会いたくなかったな、というのが恭介の正直な感想だった。
 まるで中間服がそこに立っているかのような小柄な体格に、柔らかな巻き毛から覗く大きな瞳は、真っ直ぐに恭介だけを映して輝いている。
 無邪気と謙虚を足して2で割ったような彼女の性格だ。決してその視線は何かを要求したり期待したものではないとは分かるものの、自分の明るい未来を考えたなつみという選択肢が、この綺麗な瞳を曇らせるのかと思うだけでも気分が重かった。
「本当は俺らもさっさと帰って今日の午後休みを満喫したかったんだけどね。逃げそこねちゃって。おかげで俺らだけで今までかかっちゃったよ」
「ほえー、大変でしたねー。言ってくれれば私だってお手伝いできましたのに」
 持ち前の天然と明るさが混じった声が、転がるように鳴った。
 その横ではすっかり傍観者気取りになった秋一郎が「どうすんだよ」と言わんばかりにチラチラと目線を向けてくる。
「それじゃあ橋本先輩と鍬野先輩は今帰りですか?今日私も部活帰りなんで、良かったら一緒に帰りませんか?」
「いや、それは…」
「おっと!志雪ちゃん!気をつけたまえ!」
 言葉を濁しかけた恭介に助け舟といわんばかりに秋一郎が割り込んだ。
「男二人の相手を1人でするのは危険だぜ!せめてもう1人、できれば美人で優しくて気立てのいい女の子を追加してから出直しな!」
「え?ええ?」
 それはあと一歩ずれたらセクハラじゃないのか?という恭介の目線をもろともせず、秋一郎は目を白黒させる志雪の目の前に立ちふさがり両手を広げておどけていた。
 恭介は秋一郎の助け舟に、心の奥で安堵していた。
 志雪はお世辞にいっても社交的ではない。放課後も過ぎに過ぎた学校で、今すぐ誰かを呼び出せはしないだろう。
 いくら秋一郎が一緒だからとは言え、今はなつみ以外の女性と一緒に登下校する気にはなれなかった。
 今日はもう秋一郎と一緒にさっさと帰って、なつみに電話して声を聞きたかった。
(でかした秋一郎。あとはさっさと下駄箱まで走るか)
 しかし、この日の恭介は本当に運が悪かった。

「もう1人女性が居れば問題ないんだな?」
「げ」

 秋一郎の方向から、凛とした声と、秋一郎の潰れたような声がした。
 見ると、秋一郎の前で困惑する志雪を押しのけ、秋一郎の前に1人の女性が立っている。
 長い黒髪、すらりとした長身。
(ああ、今日の俺は厄日なのかもしれないな)
 その姿自体に何の威力があるのか、恭介は何かに観念したように、その女性の名前を呼んだ。

「春ねぇ」

 そこには、いち早く冬服に身を包んだ卯月春子が凛と立ちふさがっていたのだ。
「ちょ、え?えと、ご機嫌麗しゅう春子姉様。これはまたまた何でまたこのようなお時間に」
「つまらんお世辞はいらん。あと『卯月先輩』だ。学校では学校にふさわしい呼び名で呼べ」
「はいい!申し訳ありません卯月先輩!私とても反省いたしました!だから頭をつかむのはやめて下さいぃ!」
 春子に頭を鷲づかみにされた秋一郎が情けない声をあげた。
 整った顔立ちに似合わない逞しい言葉遣い。
 黙って立っていれば、大和撫子風の美女に見えるというのに、この言動から彼女の存在は常に畏怖の塊である。
「先ほどから見ていたが、どうやら私の可愛い後輩はお前らと一緒に帰りたいらしい。美人で優しくて気立ての良い私が同伴すれば問題ないよな」
「はい!全く問題ありません!問題ありませんんんん!」
 秋一郎の悲鳴にも似た返事を聞くと、春子は掴んだ手を離し、恭介の方を振り返った。
「そういう訳なので、私はちょっと荷物を取ってきたい。恭介と志雪はここで待っていてくれないか?」
「あ、う…うん」
「すまない、直ぐ戻る」
 そう言うと、春子は無駄のない動きで真っ直ぐ廊下を歩き去っていった。
 目を開いたままぽかんとした表情を浮かべている志雪の隣で、秋一郎は頭を抱えながら「何この待遇の違い。差別だわ」と愚痴っていた。
 鞄を持ってきた春子の提案により、帰りは商店街の喫茶店で紅茶ケーキセットを食べて帰ることになった。
 無論、恭介と秋一郎の奢りである。
(やっぱり厄日だ)
 今日何度目になるか分からないため息をつきながら肩を丸めて恭介はとぼとぼと街を歩いた。
 その隣では、恭介しか見つめない大きな瞳が輝いていた。



 結局その日、なつみの声が聞けたのは夜も更けてからの携帯電話からである。
『そっか、それは大変だったね』
 コロコロと笑う優しい声。
 労わりの言葉がなくても、恭介はその言葉が聴けるだけで、今日一日の疲れも吹き飛びそうだ。
「本当だよ。でもまあ春ねぇおすすめの喫茶店は大体はずれがないし、実際紅茶ケーキセットも美味しかったのが唯一の救いかな」
『へえ、卯月先輩ってそんなに紅茶好きなんだ』
「根っからの紅茶党だよ。なつみが嫌いじゃないんだったら、今度一緒に行きたいかな」
『本当?うれしい。私も行きたい!』
「じゃあ、今度の休みに二人で行こう」
 恋人というのは不思議だ。
 こんな他愛もない会話なのに、心踊る気分にさせられる。
 しかし、そんな幸せな気分を打ち消すような質問が電話口から聞こえた。
『そういえば、さっき恭介くん言ってたけど』
「ん?何?」

『卯月先輩ってひょっとして私のこと、嫌いなのかな…』

 携帯電話を握る手が一瞬固まったような気がした。
「え?なんで?俺なにか言ってたっけ?」
 いくらなんでも彼女に志雪ちゃんの話をする訳にはいかない。
『いや、私と付き合ってることを卯月先輩に言いづらいって言ってたから』
「あ、ああ、ああ。それねそれね」
 人は慌てると、どうして同じことを何度も反復してしまうのだろう。
 恭介は自分の心臓に静まるように暗示をかけながら携帯電話を持ち替えた。
(嘘をつくと俺の場合、直ぐばれるし、志雪ちゃんの事でない本当の話をしよう)
 恭介は、一呼吸おいて口を開いた。
「春ねぇは世話焼きで良い人なんだけど、時々行き過ぎて心配症になるんだよ。特に俺の場合は、ほら…」

『記憶のこと?』

 恭介は自分で出した話題でありながら、後悔の念に襲われた。
 自分の要領の悪さを呪った。
 慌てて出した話題とはいえ、自分でもあまり考えたくない事だからである。
 当たり前の高校生としての日常。
 しかし、恭介の人生は、決して当たり前と言える人生ではない。
 橋本恭介には、5年前の記憶が一部完全に思い出せないのである。
 いわゆる、『記憶喪失』というやつだ。
 春子の勧めで脳神経外科や精神科にも通った。
 解離性健忘。
 それが医師の出した結論だった。
『解離性健忘について、この間図書館で調べてみたよ。確か、大きなトラウマとか、ショックな事があると起きるみたいな事が書いてあった』
「うん」
 そんなこと知っている。
『5年前に何があったのか分からないけど、卯月先輩がそんなに心配するってことは、よっぽど辛いことなんだって事だよね』
「……ごめん」
『どうして謝るの?』
「いや……」
 恭介は自分がどれだけ普通の高校生のように振舞っても、『普通でない』カテゴリに自分がまわる現実があまり好きではなかった。
 失った記憶だって、そんなにショックで忘れたというなら、もう忘れたままでいいじゃないかとさえ考える。
 春子が自分の事を腫れ物のように扱うのも気に食わないし、春子が心の奥で、なつみをあまり気に入っていないと分かることも気分が悪かった。
 そして何より、自分ですら解決できない自分の膿につき合わせてしまっているなつみに大して申し訳ないという気持ちがあったのだ。
『まーた暗い方向に考えてるでしょう』
 携帯電話から光が差し込むように明るい口調が聞こえた。
「そ、そんなことないよ!」
『いいよ、そんなに気を使わなくても』
 優しい、声がする。
『だって、私達、もう恋人同士なんだし』
 ああ、本当に。
 自分はなんて幸せ者なんだろう。
『卯月先輩の心配な気持ち、私も全部じゃなくても分かる気がする。同じ恭介くんを心配する者同士だもん。私は卯月先輩の事、好きだな。だから、卯月先輩が私に恭介くんを任せられないって思うなら、納得してもらえるまで頑張るし、できれば卯月先輩と一緒に協力して恭介くんを支えていきたいの』
 優しい声に似合わない、芯の強い言葉。
 美しい外見でも、優しい心遣いでもない。この彼女の魅力に、他にどのぐらの人間が気づいているのだろうか。
「ありがとう」
 他にもたくさんの言葉が浮かんでいたが、一番シンプルな感謝の気持ちを、恭介は口にした。
「でもそれ、なんだか男女が逆みたいだな」
『ええ!そうかな?』
 思わず笑みがこぼれた。
「できれば俺がなつみを守ってあげたいんだけど」
『じゃあ、お互いがお互いを守るって事にすればいいじゃない』
「なるほど」
『そうしたら、私達一緒だよね』
 ――僕が一緒に居るよ。
「ああ、そうだね。そのままずっと一緒に居られたらいいな」
 ――大丈夫だよ。僕らはずっと一緒だよ。
『ずっと一緒だよ』
 頭痛がした。
「ああ、俺達はずっと一緒だ」
 ぽつり、と窓に雨が落ちる音がした。


 【2】


 身体に厚い膜ができたかのように、感覚が分からない。
 ざあざあと降りしきる雨が、二人の雨宿りする唯一の洞穴にまで染み込んできた。
 ――大丈夫?
 差し出した手の先に、暖かい感触。
 しかし、暖かすぎる。不自然な、熱。
 ――……。
 ――雪花ちゃん?どうしたの?
 返事はない。
 その熱に反比例するように背筋が凍った。
 ――大丈夫?ねえ、大丈夫?雪花ちゃん!
 ――……。
 ――大丈夫だよ!もうすぐきっと春ねぇが来るよ!だから!
 そうだ。
 きっともう直ぐ迎えに来てくれるんだ。
 それとも、ひょっとしたもう既に来てて、回りで面白がって隠れてるだけなのかもしれない。
 わっって言って皆出てきて驚いた?と聴いて笑ってくれるんだ。
 ――神様、お願いです!雪花ちゃんを助けてください!
 まだ年端もいかない子どもに、縋れるのはもうそれしかなかった。


 * * *



『解離性健忘とは、重要な個人情報や、外傷的または強いストレスを伴った出来事を忘れてしまうことを主症状とする解離性障害である』
 ぽつぽつと、窓を叩く雨の音がする。
 湿っぽい図書室の中、なつみはぱらりとページをめくった。
『解離性健忘の最も一般的な症状は、記憶の喪失である。健忘が起きた直後は混乱した様子になることあり、解離性健忘の人の多くは、健忘によって軽度の抑うつ状態になったり、大きな苦痛に悩まされやすい』
 ぱらり。
『このような「健忘する」という現象は、この病気の例に挙がっている原因にも考えられるように「辛い記憶から自分を守ろう」とする自衛の一つだという説もある』
 ぱらり。
『これは悪いことではないのだが、やはり本人にとって「健忘」しているという状態が不愉快なものであったり、実際の生活上困ることがある場合は治療をするべきである』
 ぱたん。
 なつみは本を閉じた。
 紫色の表紙には、『臨床心理学への招待〜著・宮内都〜』と書かれている。
「記憶を失うほどのトラウマ、か……」
 なつみは折り重なる本を隣に、肘をついて誰ともなく呟いた。
 脳裏には、恋人である恭介の顔がよぎっていた。 
 トラウマを持つ人間は、同じトラウマを持つ人間を嗅ぎ分ける力がある。少なくとも、なつみはそう思う。
 ――あんな人のどこがいいの?
 なつみは転校してから出来た女友達の言葉を思い出していた。
 夏瀬なつみが橋本恭介と付き合い始めたのは、文化祭の日からである。
 付き合う理由は、決して向こうが雰囲気たっぷりに告白してくれたからでも、恭介に外見的な魅力を感じたからでもない。
 実際、恭介の容姿は特出して良い訳でもなく、クラスメイトの見ている目の前で告白して、付き合える喜びのあまり抱きついてくる勢いから考えると、雰囲気を読む能力も高くない。
(それでも……)
 なつみは雨水の滴る窓の向こうを見上げた。
 恭介に告白されるよりも前から、なつみは恭介のことが異性と認識するよりの前の段階から好きであった。
 なつみが転校してきたのは春。
 この町では、東京という単語が余程珍しく、興味深いものなのだろう。
 登校したその日から、クラス中や、違うクラス、違う学年の人からも質問攻めにあった。
 東京であっていたドラマでは、地方の田舎では村八分などがあって、などと悪いイメージのものが多かったが、実際に住んでみると、町人たちは冷たい都会人とは違い人懐こく、人情味が厚い。
 きっと、そのせいなのだろう。
 沢山の歓迎に囲まれながらも、なつみはどことなく疎外感を感じていた。
 『普通』とは違う、イレギュラーの人間のみが感じる、独特な孤独感。
(ここの人たちは、きっとトラウマとかいう言葉とは無縁なんだろうな)
 なつみは心中でため息をついた。
 なつみは、中学生の頃、実の妹を交通事故で亡くしていた。
 ほんの少し、目を離した時のことだ。
 気がついたときには、3歳になったばかりの妹が道路に飛び出していた。
 即死だった。
 思い出しながら、なつみはきつく目を閉じた。
 父も母も姉である自分も、一緒に楽しむための旅行の最中だった。
 ――あの時、目を離していなければ。
 幾度となく、自分を責め、両親も自分自身を責めていた。
 ――どうして、見ていてくれなかったの?!
 自分自身を何度責めても妹が生き返る事はなく、責める場所もなくなると、今度は家族が自分以外の誰かを責めるようになった。
 1年も経つころには、家族の心はバラバラになっていた。離婚という言葉を聞いた時も「ああ、そうだろうな」ぐらいにしか感じることができなくなっていた。
 なつみがこの田舎に引っ越したのは、母の実家というのもあるが、何より、妹との楽しい思い出ばかりが残る街を見るのが苦痛で仕方なかったからだ。
 不思議な話である。
 自らの苦痛を知る人達から逃げるように来た町で、何も知らずに笑顔で接してくれる人を見ながら、なつみは更に自分の傷がより深まっていく感覚に襲われていた。
 そこに現れたのが、クラスメイトの橋本恭介だった。
 東京出身だから、都会らしい雰囲気があるから、などという理由でなく、彼だけが普通の転校生としてなつみを扱ってくれた。
 だからこそ、直ぐに気づくことができたのかもしれない。
 彼自身もまた、心に深い闇を持つ人間だと言う事を。
「5年前か…」
 なつみは、サブバックの中から、新聞のスクラップをまとめたリングノートを取り出した。
 解離性健忘を起こしやすい体験として、主に戦争、事故、自然災害などがある。
 5年前にそんな体験をしているのならば、この田舎のことだ。必ず、新聞の記事になったはずだ。
(私は、余計なことをしているのかもしれない)
 苦痛だったからこそ失った記憶。
 失う苦痛と、トラウマ自身の苦痛、その両方から恭介を守る術は、本当にないのだろうか。
 なつみは目を閉じる。
(5年前の記憶――)
 なつみは小学6年生である。妹が2歳の頃。生まれて始めての妹。大変だったおむつかえ、哺乳瓶、ベビーベット、初めて立って、歩いて裾を掴んできたときの笑顔。
 ――トラック。
 なつみは首をふった。
(思い出したくない)
 当たり前だ。辛い記憶なんて忘れてしまいたいに決まっている。
 バラリ、と重たい音を立ててノートがその灰色の中身を見せた。
 そこには、5年前の『ある事件』を示す記事だけが無造作に貼られている。
『連日の大雨で大規模な土砂崩れ。行方不明者多数』
『土砂災害、重傷3名軽傷10名、未だ行方不明者5名』
『小学生2名、未だ見つからず』
『橋本恭介くん(12)無事救出。命に別状なし』
 見出しだけを流し読みしながら、なつきは何とも言えない後ろめたさに襲われていた。
 あまりにも直球な事件。
 恭介は、12歳の若さで遭難を経験し、命の危険に晒されたことがあるのだ。
(それでも、少しでも恭介くんのこと、知っておかないと)
 なつきは、一度息をつくと、バラバラにされた記事に手を伸ばした。


「夏瀬先輩?」
「きゃあ!」
 突如かけられた声に、なつみは思わず声をあげた。
 次の瞬間、なつみは自分が図書室に居ることを思い出した。
 慌てて口を塞いで振り返ると、そこには中間服を身にまとった、小柄な少女がぽかんとした表情でなつきを見つめていた。
 図書委員の柊志雪である。
「ひ、柊さん。吃驚した」
「吃驚なのはこっちですよ。ここ、図書室ですよ。大声はよくないです」
「ご、ごめんなさい」
 なつきは、謝りながら後ろ手でノートを片付けた。
 その仕草よりも、先ほどの悲鳴がよっぽど珍しかったのか、柊はなつみの手先よりも表情をまじまじと覗き込んでくる。
「夏瀬先輩が悲鳴だなんて珍しいですね。その様子だと、閉館時間を過ぎてるのも気づきませんでしたか?」
「え?」
 志雪の言葉に、なつきはまず自分の耳を疑い、次に慌てて周囲を見回した。
 放課後すぐに訪れた図書室は、既に煌々とした蛍光灯に照らされ、窓は雨も見えないぐらいの暗闇に塗りつぶされている。
「ご、ごめんなさい」
「いえいえ。校内指折りの美人こと夏瀬先輩が足しげく通ってくれるお陰で、図書室の貸し出し冊数が右肩上がりになってるんですから!感謝こそすれ責める事なんて何一つないですよぅ」
 おどけて笑ってみせる志雪に、なつみは思わず苦笑いした。
 図書館通いが趣味のなつきにとって、図書委員の志雪は丁度良い話友達である。
 もちろん、先輩と後輩という上下関係はあるものの、二人が仲良くなるのに時間はかからなかった。
「じゃあ、私はそろそろ閉館の作業に戻りますね」
 志雪はそう言うと、中腰から立ち上がって軽やかな足取りで片付けを始めた。
「そうそう、夏瀬先輩に聞きたいことがあったんですよ」
「何?」
「橋本先輩と付き合ってるって本当なんですか?」
 なつみは3度目の驚きに襲われた。
 今日は驚いてばかりである。
「上回生の人が言ってましたよ。何でも文化祭のお化け屋敷の中で抱きついたとか何とか」
「ううー…」
 口に出して言われると恥ずかしい。
 抱きつかれた直後にクラスの人に取り囲まれた時のことをを思い出すと、なつみはうなだれた。
「そっかあ、付き合ってるんですねー…」
 呟くような志雪の声に、なつきは違和感を感じた。
 普段なら、ここぞとばかりになつきをからかってくる絶好のタイミングのはずだ。
 しかし、顔を上げても、そこには少し寂しそうに笑う志雪の表情しかない。
「柊さん?」
「何となく、避けられてるのかな、とは思ってたんですけどね」
 誰にいう訳でもない、声。
 仕方ないですよね。と、志雪は寂しそうに笑っていた。
(ああ、柊さんは恭介くんのことを……)
 なつきはその姿に沢山の事を理解した。
 志雪が春子の親戚であることは、恭介から既に聞いていた。
 恭介は恐らく、志雪の気持ちに気づいていたのであろう。
 そして、この健気で素直な後輩が、真っ直ぐ傷ついて、真っ直ぐ苦しんでしまう姿に耐えられなかったのだろう。
 現に、目の前に立つ少女は、誰を恨む訳でも、誰を呪うわけでもなく、真っ直ぐに自分の失恋と向き合っている。
 だからこそ、彼女の恋心の一途さが分かって胸が痛んだ。
「柊さ…」
「夏瀬先輩、私、夏瀬先輩の事、応援します!」
 何か言おうと開いた口を塞ぐように、ピン、と背筋を伸ばしたような真っ直ぐな声が覆いかぶさった。
「私、夏瀬先輩の良い所、いっぱい知ってますから。夏瀬先輩だったら全然大丈夫です!私の分もいっぱい橋本先輩を支えてあげて下さい!」
 真っ直ぐな瞳。
 言い終えると、志雪は「てへへ」と笑いながら背伸びをした。
「よーっし!気合入れて片付けるぞーっ!」
 そんな後ろ姿に、なつみは好意だけが浮かんだ。
(なるほど、卯月先輩が私を嫌う訳だわ……)
「じゃあ、私も気合入れて手伝うよ。帰りに一緒に喫茶店行こう」
「やったー!」
 藍色に塗られた窓の外では既にみぞれが降り始めている。
 その冬支度にも負けない春の陽気が、図書室を包み込んでいた。


 * * *


「それで、卯月はその夏瀬さんとやらの何がそんなに気に食わんのや」
 古びた化学実験準備室に、どこの方言ともつかない訛りの男声が響いた。
「別になつみ自体が気に食わない訳じゃない。あいつはあいつで良い後輩だ。優しくて気立てがよくて、私個人としては好きだ」
「つまり橋本くんに彼女が出来るんが気に食わん訳か。そりゃ見事なブラコンやなぁ」
「九条。私はブラックユーモアを聞きにきたわけじゃないんだが」
 春子の殺気を帯びた目線に肩をくすめると、男はいそいそと三角フラスコ下のランプに火をつけた。
 男の名前は九条。
 春子と同じ3年生である。
 学校唯一の化学部員であり、暇を持て余しては化学実験準備室で珈琲や紅茶を作っている。
 学ランの上には白衣を羽織っており、その白衣を体育の時間以外に脱いだ姿を見た生徒は居ない。
 要するに、変わり者なのである。
「卯月。今日は何にする?本日は、珈琲、紅茶、玄米茶、ココアからポタージュまで取り揃えとるで」
「紅茶。アールグレイを頼む。ミルク付で」
「ほいほい」
 九条は、お湯の沸騰した三角フラスコをハンカチで持ち上げると、ティーパックを入れたビーカーに注いで卯月の座る机の上に置いた。
「ほいミルク、あとはセルフサービスや」
「ありがとう」
 春子のこのありがとうを聴くのが恭介や秋一郎だったならば、二人が卒倒する姿が見れたであろう。
 九条は特に気にする様子もなく、残りのお湯をインスタント珈琲入りのビーカーに注いでいた。
 春子と九条は、一緒にこうしてお茶を飲むことが多い。
 特に友達という訳でもなければ、恋愛感情などとは全く縁のない間柄だ。
 腐れ縁、というのが最も適切なのだろう。
 アールグレイ独特のフルーティな香りに包まれながら、春子は呟くように口を開いた。
「恭介は、記憶喪失なんだ」
「5年前の土砂崩れのやつか?」
「ああ、見つかるまで1週間もかかった。運よく山中の洞穴に逃げ込んでて助かったんだが、そのせいで…」
「それならホンマに余計なお世話や」
 春子は顔をあげた。
 九条は面倒くさそうにビーカーを揺らしながらこげ茶色の液をまわしている。
「解離性健忘は、本人が膨大なストレスでトラウマをよう処理できへんから起きる。問題なんは記憶を失ったことやない。それだけ処理できない心の傷を背負ってる事が問題なんや」
 まずそうに口をつけたビーカーからこげ茶色の液体が九条の口に吸い込まれた。
「やったら、彼女ができるんは大正解やろ。ラブラブ生活でストレス発散して、幸せ満喫したら心にも余裕ができる。そしたら難しいストレスやていつか処理できるようになるわ。歓迎こそすれ嫌う理由になんてならんやろ」
「……」
 春子は、ふた代わりにおいた手帳をビーカーから持ち上げると、ティーパックを取り出し、珈琲用のミルクを入れてかき混ぜた。
「……そうやって過去を思い出せと言うのか?」
「何心配してるん?橋本くんはもう小ちゃい子どもと違うんやから、思い出したかて潰れたりせえへんよ」
「そういう問題じゃない」
 春子は凛と呟くと、紅茶入りのビーカーに口をつけた。
「私は、乗り越えられるかどうかとは関係の無い位置で、恭介に思い出して欲しくないんだ」
 九条は返事をしなかった。
 それは、言う事を頑なに受け入れない春子への反抗ではない。春子が何か別の次元で何かを考えている事に気づいたからだ。
 どこからか隙間風が吹いた。
「九条」
「なんや?」
「笑わないで聴いて欲しいんだ」
「うちのディフォは笑うことやから、いらん心配はせんでええよ」
 九条の返事に、春子は苦笑いを見せた。
 廊下の向こうから、生徒の笑い声が聞こえた。
 吹奏楽の練習音、運動部の掛け声。
 春子は息を吐いた。

「お前は、幽霊を信じるか?」

 九条の口元が歪んだ。



 【3】


 いつものメンバー、と言われたら、誰を思い浮かべるだろう。
「春ちゃん卒業おめでとう!」
「ありがとう、雪花」
 桜舞い散る校門で、雪花が両手を掲げて笑った。
 雪花の前には、来月には中学生となる春子と、卒業式のお祝いに駆けつけた幼馴染が微笑ましく見守っている。
 恭介、春子、秋一郎、雪花。
 これが、恭介の思う『いつものメンバー』だ。
「でも寂しいなぁ、私ずっと、春ちゃんと恭ちゃんと秋ちゃんと一緒に居られると思ったのに」
「そりゃ無理だろ。中学だけじゃない、高校も大学もあるんだから、ずっと一緒ってのはなぁ」
 黒いランドセルを背負った秋一郎が、呆れたという顔を浮かべている。
「いや、そうでもないぞ。最年長の私が今6年でお前らが5年で雪花が4年生なら、学校さえ同じなら大学まで一緒にすることはできる」
「ちょ!春ねぇ、さすがにそれは…」
「やったー!じゃあ、一緒の中学に行って!高校に行って!えっと、あれ?」
「高校の次は大学か『しゅうしょく』じゃないかな?」
 はしゃぐ雪花に恭介が助け舟を出す。
「そ!そうそう!高校卒業しても全員が大学に行くわけじゃ…」
「じゃあ一緒の大学行って!次は…えっと、あれ?」
「大学の次は『だいがくいん』だったかな」
 不敵に笑う春子が後を続けた。
「じゃ、じゃあ!一緒の『だいがくいん』に行く!」
「あのー、ひょっとしてさっきから物凄いこと言ってない?俺ら」
 秋一郎の一声に、どっとした笑いが生まれた。
「いいじゃないか、夢は大きくだ」
「わーい!これで私達ずっと一緒だーっ!」
 雪花を見守る視線も、4人を見つめる大人たちの視線も、包み込む桜の花びらたちも、全てが優しかった。



 * * *



 恭介と雪花が見つかったと聞いたのは、遠足が土砂崩れに巻き込まれて1週間も経った後のことだった。
 秋も深まった夕焼けの日である。
 カンカンカンカンと革靴から甲高い音を立てながら、春子は切れる息すら忘れて病院へと走っていた。
 恭介と秋一郎のいた小学6年生の、卒業遠足の話だ。
(どうして、どうして――)
 呪わずに居られなかった。
 連日の雨で地盤が緩んでいた。それを知っていても当日にようやく晴れ間が見れ、子どもたちは「てるてる坊主を作った甲斐があった」とはしゃいでいた。楽しみにしていた子どもたちの想いを優先したかったのだろう。学校の落ち度を呪ったところで、2人が無事に帰ってくるわけでもない。
 72時間。
 それが専門家に言われた生存率の壁だった。
 土砂災害の被害者は、恭介と雪花以外全員72時間以内に発見され、大小様々ではあっても死亡者を出さずに済んでいた。
 恭介と雪花だけが、72時間を経過し1週間過ぎてもなお見つからずにいたのだ。
 カンカンカンカンカン。急ぎわたる歩道橋がうるさく悲鳴をあげる。
(それでもいい、見つかってくれたのなら)
 2人が見つかったのは、土砂に流された崖の途中にある洞穴の中だった。
 春子は走りながらセーラー服のスカートからメモを取り出した。ぐしゃぐしゃになったメモからは「県立総合病院」と走り書きされている。
 しかし、目に見える建物とその文字を照合させることなく、夕映えに一際目立つ白い建物が直ぐに目に飛び込んできた。
(病室の番号…いや、先に名前を受付で確認して…)
 すぐさま受付に飛び込もうとしたその時である。
「春ちゃん」
 聞き覚えのある声に呼び止められて、春子は飛び跳ねる勢いで振り返った。
「雪花!」
 そこには、事件の日と同じ紺のセーターに花柄のスカートの雪花が立っていた。
「良かった…、良かった!心配したんだぞ」
「春ちゃん?私が見えるの?」
「何言ってるんだ!当たり前だろ!」
 安堵の感情に背中を押されるように、春子は雪花に飛びつき、きつく抱きしめた。
 腕から、たよりない身体ながらも確かな体温を感じる。
「良かった…本当に良かった」
「春ちゃん…」
「何か食べたいものあるか?お腹すいてるだろう。それとも疲れたか?だったら病室で休もう。雪花の病室はどこだ?」
「……」
「雪花?」
 安堵の気持ちに気を取られすぎていた。目の前に居る少女の違和感に気づいて肩に手を置くと、春子は怪訝そうに雪花の顔を覗き込んだ。夕焼けのせいで黒く深く染まった顔。そこには悲しみとも諦めともつかない微笑があった。
「どうした、何かあったのか?」
 遭難の疲れとも思えない疲労とは違う表情。
 まさか、恭介の身に何かあったのか?と春子が続けようと口を開いた。
「春子。どうしたの?そんな所で」
「え…」
 声に反応して顔を上げると、そこには春子の母親の姿があった。
 その動作と同じくして雪花は少し春子の後ろに隠れるように立った。
「母さん…」
「おばさん…こんにちは」
 春子の母親は、小さく呟く雪花に視線を向けることなく、真っ直ぐに春子を見据えていた。
「恭介くんでしょう?病室ならこっちよ」
「う、うん…」
 足早に春子を中庭の向かいにある病棟へと促す母親。
 春子は違和感を感じていた。
「……母さん」
 母親に促され、春子と雪花は病棟へと続く中庭のタイル廊下を歩き出した。
 夕暮れも傾き、黄金色の光が真横から容赦なく照りつける。
 中庭を歩く春子の正面にそびえる白い病棟が、夕陽を照り返す様は、壁自体が光輝いているように見えた。
「恭介は…無事なのか?」
「あら聞いてなかったの?」
 問いかけた母親の顔が真っ黒に染まっている。
「恭介くんは軽い怪我だけで命に別状はないって。まぁ流石に衰弱がひどいようだから暫くは安静みたいだけど」
「そ、そっか…」
 中庭のタイルに黒い3つの影。
 春子の目の前には半身を黒く覆われた母親。後ろにはほとほとと雪花が歩いている。
(何かが、おかしい)
 春子は自分の感じる違和感が、一体どこから来るものなのか分からなかった。
 先ほどの雪花の表情のせいだろうか。
 雪花も恭介もこうして無事に居るというのに、それとも恭介の元気な姿をまだ目で確認しないまま無事だと聞いたからなのだろうか。
(雪花は、恭介が無事だって知ってたんだよな)
 春子は雪花の方を振り返った。
 雪花の表情は確認できない。彼女は表情が見えないぐらい項垂れていた。
「ほら、春子あそこよ」
 随分長く歩いている気がした。立ち止まった母親が指差す先に中庭に面した廊下と、病室が見える。
『103橋本恭介』
 生きている。
 ネームプレートの存在が、これほど説得力を出してくれたことがあっただろうか。
 春子は胸に手を乗せ息をはき出した。
「そうか、良かった。恭介も雪花もちゃんと無事なんだよな」
「……」
「母さん?」
 病室のドアに手をかけ、まさにあけようとした母親が固まった。
「母さん?」
「春子、落ち着いて聞きなさい」
 再度確認しようとした春子の肩を、今度は母親が掴んだ。
 こんなに、この病院は静かだっただろうか。
 後ろでかすかに衣服を引っ張る感触がした。
「雪花ちゃんはね、見つかった時、もう死んでたんだって――」
 目眩が、した。





 鍬野秋一郎が病院に駆けつけたのは、春子がたどり着いてから30分後だった。
「雪ちゃん、何か飲みたいのある?」
「ココア…」
「春ねぇは?」
「紅茶ならなんでもいい…」
「じゃあちょっと待ってて。そこに自販機あったから買ってくる」
 秋一郎は雪花を一目見て、その場に凍りついていた。恐らく、彼女の死を既に知っていたのだろう。
 軽い足取りで自販機に向かう秋一郎を見送ると、雪花は先ほど春子の前でしたそれと同じように、同じ表情で俯いた。
 3人が居るのは病院の裏庭だ。
 目眩を理由に面会と母親から逃げるようにたどり着いた裏庭に、雪花と共に項垂れていた。
 携帯で秋一郎を呼び出すまでの間、春子と雪花が言葉を交わすことはなかった。
「春ちゃん…」
 俯いたままの雪花から弱々しい声が鳴った。
「なんだ」
「ごめんなさい」
「雪花が謝らなきゃならん事があるか?」
「……」
 雪花は黙って首を横に振った。
 彼女が謝る理由は簡単に想像できた。春子の心中を察しての言葉なのだろう。
 しかし、今一番辛いのは春子ではない筈なのだ
「お待たせお待たせー」
 裏庭の壁から、秋一郎が素っ頓狂な声をあげながら「アチアチ」と3つの缶を運んできた。
「はい、雪ちゃんはココアねー」
「ありがとう…」
「そして、春ねぇには…じゃじゃーん、俺特製のおしるこー…って痛い痛い!」
 紅茶とおしるこの両方を持っておきながら敢えておしるこを差し出す秋一郎の耳たぶを、春子はここぞとばかりに引っ張ると、秋一郎の手元から紅茶を取り上げた。
 その様子が面白かったのだろう、花壇に腰掛けていた雪花がクスクスと笑い出した。
「よしよし、やっぱ雪ちゃんは笑ってる方がいいや」
「あ…」
 秋一郎はいつも通りの笑顔を浮かべたまま、雪花の頭を撫でた。その姿に、春子は敵わないな、と口元をゆるめた。
「俺、ユーレイって見たことなんだけど、こんなにはっきり見えるのもなんだ?」
「わ、わかんない…」
「缶も持ててるし、飲めるみたいだし。他の人には見えないなら、その缶や飲んだものはどう見えてる訳?」
「「あ…」」
 春子と雪花は同時に言葉を発した。秋一郎の指摘が完全に盲点だったからだ。
「まぁ俺頭悪いし、俺が考えてもアレだから。とりあえず恭介にだけでも会っていけば?俺がさっき会った時はもう元気だったからさ」
 秋一郎は左手を腰にあてて勢いよくおしるこを飲み始めた。あずきの流れが悪いのか、時々缶の底を手のひらで叩いている。
 雪花は花壇から地面に届かない足をゆらしながら、空になったココアの缶を指でいじっていた。
「恭ちゃんに…私が見えるのかなぁ」
「大丈夫大丈夫!根拠はないけど、俺と春ねぇが見えるんだ。恭介が見えねーわけないだろ?なぁ春ねぇ」
「でも、お母さんにも私が見えなかったんだよ」
 ぽたり、と音がした。
 ココアの缶に落ちた涙がゆるやかなウェーブを描いて細い指に染み込んだ。
「私、もう誰かに見てもらえないの、嫌だよぅ」
 足を抱えて花壇にうずくまり、雪花は嗚咽をもらし始めた。
 この健気な泣き声すら、もう誰にも聞こえないのだろうか。
 困ったように目配せする秋一郎に頷き、春子は雪花の隣に腰掛けて雪花を抱きしめた。
「雪花、いいよ。今は思いっきり泣け」
 その言葉に応じるかのように堰を切ったような泣き声が響き渡った。弱々しく震える指が強く春子の制服に食い込む。
「大丈夫だ。お前が何回辛い思いをしても、私と秋一郎が何度でも泣き場所になる。だから、泣くことを怯えなくていいんだよ」
 言いながら、春子はようやく病院で会った時の雪花の表情がどういう意味なのかを理解した。
(どうして、どうして)
 こんなに無垢な少女に、あんな表情をさせる事態を生み出した原因を恨んだ。それが何か分からなくても呪うしかできなかった。
「……ひょうひゃんにあいひゃい」
 腕の中から、嗚咽に混じった声が聞こえた。
「恭ちゃんに、会いだい」
 顔をあげて涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、雪花は再度繰り返した。
 迷いはなかった。どんな結果になろうとも、春子にも秋一郎にも受け止める覚悟が出来ていた。
「よし分かった。秋一郎も一緒だ。3人で恭介に会いに行こう」
 春子はそう微笑むと、雪花と共に花壇を降りた。
 夕暮れは既に沈み、あたりは藍色の闇と煌々と照らす水銀灯に輝いていた。

 


 
 どうあがいても絶対的に絶望になると分かっていたら、希望を持たせるような言葉も出てこないのだろう。
 だからこそ、絶望は希望の後にしかやってこないのかもしれない。

 最初に恭介の病室に入ったのは、秋一郎だった。
「よう恭介」
「なんだよ、お前帰ったんじゃなかったの?」
「へっへー、お前を心配してる人に会ったから、連れてきてやったのさー」
 秋一郎の目配せに合わせて、春子は雪花の背中を押した。
 雪花は、一度春子を振り返ったが、何かを決意したように唇をかみ締めて病室に進んだ。
 続いて病室に入った春子の視界に、真っ白なシーツと、ベットに腰掛ける少年の姿が見える。
「恭介…」
 無事である姿に安堵した気持ちが、思わず春子に口を開かせた。
 その言葉に応じるように、恭介はやつれながらも瞳を輝かせた。
「春ねぇ、来てくれたんだ」
「恭介、無事で良かった」
 春子の声にはどれだけ心配と安堵の想いがこもっていたのだろうか、恭介は大丈夫だよと笑うと視線を春子から雪花に移動させた。
(良かった)
 春子と秋一郎は目配せした。
 少なからず、恭介には雪花がきちんと見える。
 春子が続けて雪花に喋らせようと口を開いた時だった。
 恭介が、雪花を見たまま、信じられない言葉を紡いだ。

「えっと、初めまして」

 視界が一瞬、真っ白になった。
 何が起きたのか認識するのに少し時間がかかった。
 ベットの上に腰掛ける恭介は、相変わらず不思議そうな視線で雪花を見つめている。
「おまえ…っ!何言ってるんだよ!」
 最初に言葉を発したのは秋一郎だった。
「誰に向かって初めましてなんて言ってるんだよ!」
 入院用の寝巻きの襟首をひねる勢いで、秋一郎は恭介に食って掛かっていた。しかし恭介が謝る気配はない。それどころか、今度は秋一郎すらも驚いたような顔で見つめ返している。
「誰にってそこの女の子だけど。あの、俺物忘れひどいから…ひょっとして俺と同じクラスの子だった?」
「同じクラス…って」
 秋一郎が息を飲んだ。絶句というのはこの状態なのだろう。弱まった指からぱさりと寝巻きの襟がおちる。
 恭介の表情は変わらない、戸惑いと困惑。
「春ねぇ」
 助けを求めるような恭介の声がした。
 その声に呼ばれてようやく春子は自分が呆然と病室に立ち尽くして居たことに気づいた。
「あの…ごめん、俺、本当に分からなくて。この子、誰なのかな」
「……っ」
 歯の奥歯から不自然な音が鳴った。歯を食いしばりすぎているのである。しかし、そうでもしないと秋一郎のように食いかかってしまいそうだった。
 
「柊志雪です」

 その空間を破った声は、誰のものでもない、雪花本人の声だった。
「雪花、何を言って…」
「雪ちゃ…」
「私の名前は柊志雪。柊雪花の妹です」
 秋一郎と春子をふさぐように立つと、雪花はそういって恭介に微笑んだ。
 恭介は相変わらず怪訝そうにしている。
「ひいらぎしゆき、さん?すみません姉のせつかさんは僕と何か知り合いだったんですか?」
「はい。姉の雪花は、橋本くんと一緒に遭難したんです。でも残念ながら…」
「そうだったんですか…」
 恭介は、雪花の言葉に深く項垂れた。
 違う、そうじゃないんだ。と言おうと前に出る春子の腕を秋一郎が引っ張る。
「すみません、僕、全然覚えてない…それどころか、自分だけ助かって…」
「いいんですよ」
 雪花はにっこり微笑んだ。
「姉は、橋本さんの大ファンだったんです。橋本さんが助かって無いほうが、きっと姉にはつらかったでしょうし。そう悲しんでくれるだけで姉は十分幸せものですよ」
「……柊さん」
「しゆき、です」
 雪花は、恭介の両手を握った。
「私の事はこれから、志雪と呼んで下さい」


 それから橋本恭介が柊雪花のことを思い出すことはなかった。
 雪花の姿は、その後も『子ども』にしか見ることができず、春子の姉の家に住むことになった。雪花の希望もあり、春子はできるだけ制服を手に入れ、雪花を学校に連れて行った。
 それが、柊志雪の始まりである。



 【4】



 何かを崩し落としたような音を立ててドアが開く。
「おはよう」
 極力中の様子を悟らぬように呟いた声に、クラスメイトが戸惑いの笑顔を浮かべた。
「お、おはよ」
「橋本、身体はもう大丈夫なのか?」
「授業、分からないところあったらいつでも言ってくれよ」
 恭介を取り囲んで気遣いの言葉をかける友人達の笑顔には、必ず『誰か』を想い憂う表情があった。
(うるさい)
 そう、思わずに居られなかった。
(俺が、何をしたって言うんだ)
 鉛のように重いランドセルを投げ捨てたい思いで机に置いた。
 ――誰にも言ってはいけませんよ。
 母親の声が心臓を縛り上げるように再生された。
 ――雪花ちゃんのことは。
 うるさい。
 うるさいうるさい。
 視線――。
 机からあげた視線に、クラスメイト。その向こうの教室の窓、廊下。そこには真っ直ぐに恭介を見つめる春子が居た。
 ――うるさい。

 柊雪花なんて、俺は、知らない。



 * * *



「恭介くん、恭介くん。大丈夫?」
 歪んだ視界の中に、優しい声が溢れる。
 ピントを戻していく世界の中に、焦げた色のタイルとなつみの白い顔が映った。
「なつみ……」
 2人が居るのは中央図書館のロビーだった。
 なつみは恭介の声に、安心したような表情を浮かべた。
「良かった……心配したよ。ごめんね、私が図書館に行きたいなんて言ったから。体調が悪かったの?今はもう落ち着いた?何か飲む?」
「いや、ただの立ちくらみだよ。……俺のほうこそごめん」
 去年完成したばかりの中央図書館は、以前の無骨な鉄筋コンクリートの味気なさに相反するように、清楚なレンガ造りになっていた。メインの図書館以外にも1階フロアに自習室・自販機ルーム・小型映画館・レストランまで設けており、高校でも話題のスポットになっている。
 初デートに、なつみが中央図書館を希望したとき、まさに外見どおりのおとなしいチョイスに小躍りするほど嬉しかった。
 しかし、いざ中央図書館に入って1時間もしない内に、恭介は目眩を起こして座り込んでしまったのだ。
「ホント、俺って凡ミスばかりやって、馬鹿だよな」
「ううん、そんなことないよ」
 欲しい言葉。
 なつみは濁りの無い微笑みを浮かべると、硬く握り締めていた恭介の両手にそっと手を重ねると、いったん強く握り締めてから両手をはずして立ち上がった。
「やっぱり何か買ってくるよ。恭介くんはオレンジジュースで良かったよね。直ぐ戻るから待ってて」
 なんでこんなに彼女の笑顔に安心するのだろう。
 軽やかに身体を反転させて、レンガ造りの床を軽やかに歩いていくなつみの姿に、恭介は安堵していた。
(なつみさえ居れば、俺はそれだけでいいんだ)
 深い息を吐いて、恭介は再び両手に額を預けた。
 依存――。
 分かっていることだった。恭介はなつみに縋るように頼ってばかりだ。
(この街は、嫌だ)
 春子の視線を思い出す。
 クラスメイトの視線を思い出す。
 両親の視線を思い出す。
 期待――。
(俺って、今のままじゃ駄目なのかな。こんな俺は生きていない方が良かったのかな)
 頭の中がぐにゃぐにゃと入り乱れ、視界が合わせるように歪んでいく。ぐるぐると回っていく頭の中で、図書館内で偶然目に入った医学書の背表紙だけが鮮明に浮かび上がった。
 解離性健忘――。
『焦らなくていいんですよ』
 5年前から通い続ける精神科のカウンセラー、宮内の言葉が聞こえる。
『思い出せない自分を責めなくていいんです。記憶が無くなるのは貴方の心が抱えるのは限界だって貴方の代わりに言ってくれているんですよ』
(だけど先生、みんなが俺を責めてるんです)
『周りのみんなにもみんななりの辛い気持ちがあるからなんでしょう。何も貴方を責めている訳じゃないんですが、辛いですよね』
(俺が悪いんです。俺が忘れたせいなんです。早く思い出さないと、雪花さんのご両親にも……)
『だから、焦ってはいけません。焦ることが余計に橋本さんの心に負担をかけて、思い出せる余裕もなくしてるんですから。気長にいきましょう』
 でも先生――。
 皆が俺を責めてるんです――。
 春子の視線を思い出す。
(どうして俺は、柊雪花の記憶を失ってしまったんだろう……)
 額を預けた筈の両手が、いつの間にか額に食い込み、細い前髪を掴みあげていた。
 髪を掻き毟る勢いで掴んでいるのに、痛みすら感じない。
『仕方ないですよ』
 志雪の言葉が、トンネル内を反響するように響いた。
 柊雪花の双子の妹。
『姉の雪花は1週間近く橋本先輩と一緒の洞穴に居て、高熱で橋本先輩の目の前で亡くなったんです』
 志雪の言葉はいつだって穏やかで、真っ直ぐだ。
『目の前で幼馴染が苦しんで死んだのに何もできなかったのなら……私が橋本先輩で、雪花が橋本先輩だったら……私だったら間違いなく耐えられませんよ』
(……どうして)
 かみ締めた口の中から歯が悲鳴をあげていた。
(どうして志雪ちゃんが俺を一番庇うんだよ。どうして妹の志雪ちゃんが俺を責めないんだよ)
 それが恋愛感情だと言うのなら、これほど疎ましい恋愛感情があるだろうか。
 髪を掴んでいた指先が、いつの間にか額に爪を食い込ませていた。
 せめて、志雪が口汚く恭介を責め憎んでいていれば、春子やクラスメイト達が気遣う言葉の裏に、あんな飲み込みづらい感情を含ませることもなかったのだろう。
 春子の視線を思い出す。
(どうして、俺は許してもらえないんだろう)
 もうあれから5年の月日が流れた。
 中学に進学して高校に進学し、小学校時代のクラスメイト達とも少しずつ切り離されても、春子とはどこまでも同じ高校で、志雪とも同じ高校だった。
 記憶を取り戻せない自責の念が、どうして自分だけ生きてしまったのかという気持ちに変わることすらあった。
 俺なんか――。
 額に食い込ませた爪が、皮膚を抉る。
 俺なんか、死んでいれば良かったんだ――。
 胸の内の黒い塊が、恭介自身を飲み込む勢いだった。
「恭介くん!」
 甲高い声が響いた。
 その声に弾かれるように、黒い塊が飛び散る。
 そこには、両手に缶ジュースを持ったなつみが立っていた。
「恭介くん!どうしたの?きついの?」
 鞄と一緒に投げ捨てるようにジュースをベンチに置き、なつみの指が強張った恭介の両手を包んだ。
「ごめんね!きついのに離れてごめんね!もう大丈夫だから――っ」
 どうしてその時、そうしてしまったのだろう。
 恭介は、なつみを抱きしめた。
 すべてをかなぐり捨てるように。
「恭介、くん……?」
 戸惑いの声が腕の中から聞こえる。公共の場所であることなんて、もうどうでも良かった。
 腕の中に居る小さな体温が、数秒小さく動いた。しかし、それは周囲の視線を意識することなく、ゆっくり細い腕を恭介の背に回してくれた。
 子どもを慰めるように撫でることもない。添えるような優しさが伝わってくる。
「大丈夫、だよ……」
 呟くような、ささやくような声。
(ああ、どうして)
 恭介の指が、なつみのカーデガンに食い込んだ。
(どうして、彼女は俺の一番欲しい言葉をくれるんだろう……)
「なつみ……」
「ん?」
 うつむいた顔を上げることができない。
 恭介はなつみの両肩に手を添えた。
「約束、してくれないか」
「なに?」
「ずっと……」
 そんな言葉を言う資格があるのだろうか。
「ずっと傍に居てくれ」
 搾り出すような声が、悲鳴のように響く。
「頼む。頼む……」
 依存でも何でも良かった。
 今の恭介にとっては、事件の事を知らないでいてくれる、なつみだけが頼りだった。
 震えるように縋る恭介の指に、なつみの指が重なる。
 その感触に、突き放されるのではと持ち上げた視界には、優しい笑顔だけが移っていた。
「大丈夫だよ。私は絶対、恭介くんの傍にいるよ」
「なつみ…」
 感極まって立ち上がろうとした恭介の動きで、ベンチに置かれたなつみの鞄と缶ジュースが落ちた。
 アルミ独特の甲高い音が館内に響き渡る。
 慌てて視線をずらした恭介の視線に、なつみの鞄が入り込んだ。
 鞄から飛び出たノートの中から、新聞記事らしきものが散らばっていた。

『連日の大雨で大規模な土砂崩れ。行方不明者多数』
『土砂災害、重傷3名軽傷10名、未だ行方不明者5名』
『小学生2名、未だ見つからず』
『橋本恭介くん(12)無事救出。命に別状なし』
『柊雪花ちゃん(11)涙の帰宅』

 そうだ。
 きっともう直ぐ迎えに来てくれるんだ。
 それとも、ひょっとしたもう既に来てて、回りで面白がって隠れてるだけなのかもしれない。
 わっ!と言って皆出てきて驚いた?と聞いて笑ってくれるんだ。

 はじけるように、恭介の世界に神様よりもリアルな現実が飛び散った。



 【5】



 呪うという行為でしか救われない現実なんて、存在しちゃいけない。
 雨の音が、世界の終焉のようにさえ感じる。
「雨、やまないね」
「……」
 指先で感じていた熱は、今は腕の中にもたれかかっていた。
 もう、どのぐらいだろうか。
 恭介と雪花が土砂に流されて、もう何時間、何日経ったのかすら、もうよく分からない。
「でも大丈夫だよ。僕らはずっと一緒なんだから、ね?」
「……」
 励ましの声が聞こえているのか居ないのか、雪花からの返事はない。
 雨の冷たさに腕が弱っているのか、雪花の重みすら増した気がする。
「雪花ちゃん?」
 返事がない。
「雪花、ちゃん……?」
 どうして同じ質問を2回もしてしまったのだろう。
 不安と焦りと絶望の予兆が一気に背中を駆け上がった。
「雪花ちゃん?……雪花ちゃん?雪花ちゃん!嘘だよね!ねぇ!雪花ちゃん!起きて!ねぇ!雪花ちゃんっ!」
 包む筈の恭介の指は、いつの間にか雪花を掴む指へと変わっていた。
 疑いはいつだってそうだ。疑い出した時点で、もう止まらない。
「嘘だよね?だって一緒だって言ったよね?ねぇ!一緒なんだよね!」
 ざあざあと雨が降り続いていた。
 それは果たして声になっていたのだろうか、それとも雨が吸い取ってしまったのだろうか。
 悲鳴とも泣き叫ぶ悲しみともつかない絶叫が世界の外へと撒き散らされた。



 * * *



「先に言うといてええか?」
 化学実験準備室に、香ばしい珈琲の匂いが広がる。
 沸騰した湯が気泡を浮かべる丸型フラスコを転がしながら、九条はその気泡を数えるようにフラスコだけを見つめていた。
「ウチは見ての通り、科学が大好き人間や。非科学的な事は好きやない」
「分かっている」
 覚悟と諦めの入り混じる春子の声と、握り締めるチェック柄のスカートがプリーツの型を崩した。
 非現実だという理由で引き下がれるほど、春子の見た現実は希薄なものではない。
 空になった春子のビーカーごしに九条の白衣が不自然に白く光ったように見えた。
「幽霊は科学で証明されてない分野や。その柊雪花って子の話は不思議でいっぱいやけど、分からんから言うて直ぐ非科学に走るのはナンセンスやで」
「だが…」
 反論しようとする春子を制するように、九条は春子の空のビーカーを拾い、丸型フラスコのお湯を注いだ。
「せやから、今からその雪花ちゃんの事について科学的に説明しようと思てる」
「何?」
 お湯の入ったビーカーと三角タイプのティーパックが渡された。
 思わぬ発言に、受け取ったビーカーとティーパックと交互に見つめる九条の顔には、不敵な笑顔が浮かんでいた。
「卯月は『Real Over』って知ってるか?」
 リアルオーバー。
 初めて聞く単語に、春子は戸惑いを隠せなかった。
「まぁ、知らんで当然やな。つい最近超心理学で発表されたばかりの論文やから」
「超心理学…?」
「超心理学って言うんは、科学の一つで超能力や超常現象を研究してる分野のことや」
「ちょっと待て」
 いきなりの聞きなれない単語続きに、春子は思わず右手を九条の前に掲げた。
 話が長くなること、また、これから春子にとって想像もできない話が待ち受けている事が予測できた春子は、ティーパックをビーカーに入れてビニール製の緑色の手帳を上に載せると、椅子の横に置いた鞄から砂時計を取り出してビーカーの横に置いた。その姿に九条が肩をくすめながら「律儀やなぁ」と笑った。
「お前はさっき『科学』で説明すると言っていただろう?話がいきなり非科学になってないか?」
「この話は非科学やあらへんよ」
 九条の表情は変わらない。
「心理学も超心理学も立派な『科学』や。日本やからまだ占いの域を超えきれてへんだけで、きちんとした統計や数字で説明できるものなんやで?超能力研究をメインにしよる超心理学は1889年にドイツの心理学者から始まった学問で、もう100年以上も研究されとる」
「百万歩譲ってその話を信じてもいいが、それで超能力が科学で、幽霊が非科学になる理由が分からない」
 余程胡散臭そうな表情をしていたのだろう。九条は春子の顔を見ると、苦笑いを浮かべながら背もたれに身体をあずけ「せやなぁ」と笑いながら身体を揺らした。
「人間って生き物は傲慢や。分かってるつもりで分かってないことを思い込んで、それが『思い込み』やて気づかんでおることが仰山ある」
「思い込み…?」
「せや。卯月やてウチに関して思い込んで決め付けよる事があるやろ」
「そんなことは…」
 誰だって相手の事を100%理解することはできない。少なからず憶測で決め付ける事もあるだろう。
「じゃあ言うたるで。例えばウチはこう見えて文系や」
「…………え?」
「得意科目は国語」
「………………それは、意外だ」
 目から鱗とはこの事だろう。目を白黒させる春子の前で、九条は面白そうに笑っていた。
「人は知らず知らずの内に思いこんでるんや。『白衣を着る人間は化学関係の人間である』『化学を好む人間は国語が苦手』やて」
「でも、それは…」
「そうや、大半はそうなんやもな。統計で考えればそう考えるのが妥当や。やけど、そこが盲点やで」
 九条の顔から笑顔が消える。見慣れない表情。
 白衣の腕がゆっくり伸びて春子の机の上にある砂時計を指した。
 いつの間にか砂時計の砂は全て落ち切っており、そのことに漸く気づいた春子は慌ててビーカーから手帳をどけてティーパックを取り出した。
「人は気づいてへん。統計で『大半がそう』なら、そうでないイレギュラーがある筈なのに、それを『大半じゃないもの』やなくて『あり得ないもの』として処理してまう」
 九条がさりげなくシャーレを春子の前に差し出した。
「ウチが文系やて言うた途端、卯月がウチを信じられへんようになったように、大人には『柊志雪』が信じられへん」
 シャーレに出がらしを入れる手が固まった。
「信じられへんから認められへん。どうしても認められへんから見えんのよ」
「…………」
「科学にとらわれない『子ども』には、目に見えたまま素直に『柊志雪』を認識できる。せやけど、大人には『死んだはずの人間が、遺体と別に目視で確認できる訳がない』から認識できへん。そういうことや」
「ちょっと待ってくれ」
 勢いで立ち上がった春子の足が机に当たり、ガタッと言う音と同時にビーカーの紅茶が大きく揺れた。
「そういうことってどういう事だ。死んだ人間が遺体と別に動いているなら幽霊じゃないのか?雪花が幽霊じゃないなら、何だって言うんだ?そもそも『あるはずがない』ぐらいの思い込みで見えないなんて……」
「認めたくないから、橋本恭介ん中から柊雪花の記憶が無くなったんやろ?」
「それは……」
 九条がため息をついた。
 立ち上がったまま動けずに居る春子の机にあるビーカーを持ち上げ、ガーゼで零れた紅茶を拭うと、手元のシャーレからコーヒー用のミルクを取り出し、紅茶の中に注いだ。ガラス棒でゆっくり紅茶を混ぜていく九条の姿に、いつのも笑顔は見えない。
「見えて聞こえて感じるもん全部を100%正確に認識できよる人間は殆どおらんよ。1m先の物が50cm手前に近づいてきて、その物体が2倍に見える人間も殆どおらん。同じ大きさの物やのに、ちょっと周囲に障害物があっただけでその物体を実際より大きく見てしもうたり。人間は見えてるもんやら聞こえてるもんを自分勝手に操作してしまうんや」
 ちなみに今のは認知心理学の話な、と九条は続けた。
「なら、本題にも少し近づこか。『何で超能力がオッケーで幽霊がアウトなんや』って話な」
「……その話は長いのか?」
「なんや面白くないんか?やったらショートカットするわ」
 これから面白くなるんになぁと九条はぼやくと、ひらりと立ち上がり本棚から紫色の本を1冊取り出して春子に投げた。
 慌てて受け取めた教科書サイズの本には、表紙に『超心理学〜リアル・オーバーに関する考察〜:著・宮内都』と記載されている。
「超心理学はそこから入るんがオススメや。超心理学の基礎から、最新情報リアル・オーバーまでバッチリやで」
「……読んでおく」
「今の超心理学ではな、人間は少なからずPSI(サイ)……まぁ超能力やな。潜在的に超能力がある言うんが主流や。転がしたサイコロの目が偶然当たる。宝くじが偶然当たる。やたら当たりやすい奴がおる。つまり、Psychokinesis(サイコキネシス)……ウチらの間じゃPKって言うんやけどな。人間は自分の意思で物体にある程度の影響力を持ってるんや」
 春子は首を傾げた。
 子どもの頃に見ていたテレビを思い出す。胡散臭いバラエティに登場していた超能力者がやっていたことは、主に封筒の中身に描いてある文字や絵を読み取る行為だった気がする。
 その事を指摘すると、九条は「それはESPやな」と続けた。
「超能力は大きく分けて2種類ある。サイコロやらスプーン曲げ言う物体に働くPKと、透視やテレパシーみたいな認知に働くESPや」
 スプーン曲げ、という単語に思わず眉がゆがむ。一気にインチキ臭く感じた事が伝わったのだろう、九条が「ユリ・ゲラーは世界を騒がせたもんなぁ」と笑った。
「PKは現代の測定器やカメラを用いれば測定しやすいのに比べて、ESPは機械で証明するんが難しい。ましてや超能力者って言うんは大抵繊細な神経を持ってたりしてプレッシャーに弱い。そういう意味ではPKよりESPの方がレアなんや」
「話が脱線してないか?」
「そんなに離れてへんよ。ポルターガイストで有名なRSPKって言う能力は最も思春期の子どもや女性が起こしやすい」
 もうとっくに冷めているだろうコーヒー入りのビーカーを、九条が口元に運んだ。
「今から言うんは、ウチらの仮説や」
 春子の目の前の紅茶は、口をつけることなく冷め続けている。
「人間の感情と言われる現象は、脳の伝達物質の関係で発生する。やったらそのエネルギーが物質として外に出よるのかもしれんのや。そう考えたら、より感受性の高い人間ほどPKを持ってて、PKが物に作用してしまうんも説明つく」
 春子は想像した。
 小さい子どもというのは、不思議な事をいう事が多い。
 見えない友達が見える。ぬいぐるみが喋る。鏡の向こうに別の世界があり、たんすをくぐると別世界に続いている。魔法もあれば奇跡も起きる。
 子どもは簡単に嘘をつくが、大人のつく嘘に比べたら自分の利益になる嘘は殆どつかない。
 春子の脳裏に、11歳の雪花の姿が映る。
「雪花がPKだと言いたいのか?死ぬ直前の雪花の強い意思が、エネルギー体となって目に見える姿になっていると?」
「ええ線いってるんやけど、残念ながらはずれや」
 九条がひらひらと手を振った。
「さっきも言うたけど、超心理学ではユーレイって言うのはおらん。研究しよる奴もおるみたいやけど。あくまでウチらが研究してるのは人間の生きてる間に起こす感情がエネルギーとして外に影響を与えるかどうかや。死んだ人間は脳停止やから感情を作れへんしエネルギーも出せん。死んだ時点でアウトなんや。まぁ仮に死ぬ直前の意志が強くてそのエネルギーが残存していたとしても5年も残り続けるんは考えにくい」
 春子は以前秋一郎とした話を思い出した。
 人間が全て霊魂となって現世を彷徨う、もしくは強い意志を残した霊だけが現世を彷徨うのならば、霊感がある人間に、この世界はどう見えるのだろうか。という話だった。
 きっとぎゅうぎゅうでさぞ息苦しいだろうな、と言って笑った秋一郎の言葉を思い出す。
「確かに、ごくまれやけど感情のエネルギーが高すぎて、RSPKどころか物体自体を『作り上げてしまう』子どもがおる。ウチはそれを『ファンタジー』って呼んでるんやけど。ファンタジーの濃さは人それぞれで、しかもファンタジーを読み取れるのは、殆どが同じ感受性の高い人間だけや」
 子どもの言う『見えない友達』が代表的やな。と九条は続けた。
「ファンタジーが物理的に影響を及ぼすことも稀にある。RSPKもファンタジーの一種みたいなもんや。幽霊が見える言うんもファンタジーが見えよるだけやって説もある。ファンタジーは所詮作りモンやし、その存在自体は不安定な事が多い。やけど…」
「だけど?」
「本当に極稀な話や。『ファンタジー』すらも飛び越えて、莫大な感情のエネルギーが『人間』を作ったり、実際存在してる人間を消したりしてしまう事があるんや」
 九条がおもむろに座りなおして、真剣な顔の前に両手を握った。
「それを、ウチらは『Real Over』って呼んでる」
 リアルオーバー――。
 感受性の高い人間が、その強い感情を莫大なエネルギーに変えて一人の人間を作り出す――。
「まさか……」
「そのまさかや」
 ぴちゃん、という音を立てて紅茶が揺れた。


「柊志雪は、橋本恭介が作り上げた『Real Over』や」
2011-04-23 20:53:52公開 / 作者:雄矢
■この作品の著作権は雄矢さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
何と言うことでしょう。あまりの長さにPCが固まりかけてしまった為、前後編を分けての投稿となってしまいました。
こんにちは、こちらでの投稿は3年ぶりになります、雄矢です。
心理学や超心理学の単語が飛び交って「どや?」っとしていますが、実際は殆ど創作になっております。ファンタジーとSFと恋愛小説の足して3で割ったぐらいで読んで頂けるのが一番丁度良いかもしれません。
現代小説だと名前をいつも悩んでしまいます。そんな理由で登場人物は春夏秋冬とかけ橋的な意味で橋にしました。九条?九条は好きな珈琲の銘柄です。しかし私はアールグレイを今猛烈に流行らせたいと目論んでいます。
後書の癖に前置きが長くなりました。こんな小説ですがご指摘頂けると幸いです。宜しくお願いします。
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