『強烈な腹痛のせいで目が覚めた。』作者:空春 / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
『あのとき始まったことのすべて』に書かれてあった 好きな女の子を護るということは好きな女の子を笑わせるということなんだよ。という考え方が、いいなと思った。とても良いなと思った。僕が好きだった女の子の笑顔は何点だったか?と聞かれれば、具体的にはわからないが あの満面の笑みから19%くらい困った顔を含ませたような顔で笑う彼女は凄く可愛かった。きっとそれは、100点でも足りないくらいに素晴らしく美しくて 確かに僕にはもったいないくらいだった。あらゆる邪気から取り払ってあげられていると感じられる 溶けるほどに眩しかったその笑顔に救われたのは、紛れもなく僕の方だろう。
全角2857.5文字
容量5715 bytes
原稿用紙約7.14枚

 ビッグバンのような激しさを伴って始まったそれは、しばらく下腹部に力を込めて我慢していると少しずつ収まっていったが、体力を消耗した所為で力が入らず随分とげっそりしてしまったような気分になった。
 風邪をひいた時なんかもそうだが、布団の中で横になることしか出来ないこのような時は、作ってもらったおかゆを口に流し込み自分の身体の熱を感じながら漠然と天井を見上げていた幼少時代のことを思い出す。
 今は、同じように小さく息を吐き目を擦って天井を見上げたとしても、誰も声をかけてくれる人はいない。おでこに手をかざして、まだ熱があるねと不安そうな顔で告げてくれる人もいない。天井の色が変わったことに気づいて目を瞑ろうとも、もうあの頃のように誰かにあんなに優しくされることなんてないのだろう。そういうことを僕は、はっきりとした理由はわからないけれど何故だか心得ている。
 そういえば、月曜日に用事があって実家に電話した時、電話に出てきた母は熱を出しているらしく、今の自分よりも更に弱弱しい声で僕の話を聞いて、薄く伸びた僕とその人を結ぶ見えない糸よりも細い声で頷いていた。一週間ほど経ったが、果たして少しくらいは良くなったのだろうか。
 だが、他人(ひと)の心配をしている余裕は今の僕にはなく、予想外に朝早くに目が覚めてしまい、寝不足から来る更なる体調不良を懸念してもう一度眠りに就こうと試みた。しかし、その目論見はとても甘くどことなく浮ついた腹の調子に全身の意識を逸らすことはそれほど簡単ではなかった。
 眠れない代わりに、手元にある携帯の中身を眺めることにした。二ヶ月以上も前に送信したメールが残っていた。半年前の僕は、この状況を予想出来ていなかったように思う。140字より多くの情報量を含んだ情報をあまり持たない僕は最近、伝達のツールに携帯のメールを使うことが減った。二ヶ月前にタイムワープして、あの時の僕に「そのメール送っちゃダメだよ」と囁いたところで、何かが変わっただろうか。あの頃からすると未来ということになる今という時間、それを取り巻く環境に何か違いが生まれたのだろうか。
 メールを眺めている間は腹部の感触を忘れることが出来たが、その代わりに胸が苦しくなるような感覚がした。それがなんだか悔しかったので、メールを漁るのをやめてwebのお気に入りに登録されてあるページを巡ろうと思った。ふと恋愛相性診断の言葉が目に止まり、その瞬間に1年ほど眠っていた懐かしい感情が甦った気がした。
 ページを読み込むと、突然でかでかと大きく「81点」の文字が飛び込んできた。一瞬手を止めるも、何事もなかったかのように下の方へと詳細な分析結果を読み進めていった。当時、気をつけるべきことの欄にあった文章を僕はちゃんと守ろうとしていた。そう思っていたという記憶は、1年ぶりじゃないかのように強く覚えている。ひょっとしたら、相手の診断結果よりも強く覚えているかもしれなかった。自分の感情だから当然かもしれない。だけど、あの時の僕はもっともっと本気で、相手の気持ちを理解してあげたいなと思っていた。あなたは人の感情を読み取るのが下手です。更にあなたの相手は気持ちをなかなか表に出しません。その診断結果に逆らうように僕は強く誓ったはずだった。
 携帯を閉じて僕は点数を付けられたことに反発したい気持ちになった。なんで、会ったこともない話したこともない人に僕らの点数を付けられなければいけないのだろうか。僕が当たり前のように毎日彼女のことを想像して、愛しいと想うだけでは何かが足りなかったのだろうか。
 僕らの心は、きっと糸みたいなもので編み込まれているのかもしれない。精一杯作り上げても、3cmほどもないであろう小さな針をうんと力を込めて念じる。祈るように見えるようにわかるように、気づいて欲しくて願いを込めながらその小さな針を相手の心にえいっと突き刺す。それを何回か繰り返して不器用にも相手の心を編み込もうとする。すーっと相手の心を通した針が自分の心に返って来て、1本の赤い糸を巻き込みながら自分に突き刺さってくる。或るバンドのあの『25コ目の染色体』だとかいう曲のジャケットの写真のように、僕は繋がっていることを頭に思い浮かべて満足する。
 だけど、針を突き刺していたのは僕だけではなかった。彼女にも彼女なりの針と糸があって、彼女なりに僕の心を突き刺して僕の心を包み込んでいたのだ。そのことをちゃんと理解出来ない自分を恥ずかしく思う。糸はどんな関係においても、1本ではなく2本あるのだ。それを解けないように手を握り締めるよりも強い力で結び目を作る2人もいれば、そのことに気づかずに解れる糸を尻目に全部解けてしまってから後悔を始めるカップルもいる。もちろん、これは男女の関係に限ったことではないだろう。僕が母との糸を未だに繋ぎ止めていられるのは、解けそうになる度に母が新しい結び目を作ってくれたからに他ならない。
 僕は20年以上生きた中で、いくつそれが出来ただろうか。いくつの結び目を結んで来られたのだろうか。1つ2つと時間が経つにつれて結び目が解けていくのを感じる。僕が今繋がれていると思っている糸も、そこに相手の同意はなく知らず知らずのうちにこうしてる今も解けていってるのかもしれない。だけど、それは他の誰かではなくすべてが僕に委ねられていることだった。痛いと怒られるほど強く抱きしめたときよりも強い力を込めて結んで来た糸を、2人で結んでいった糸をあのとき僕はわけもなさげに切った。
 81点はいつか100点に変えられると思ってた。算数や理科のテストだって、そうやって点数を伸ばして来た。どんな教科でもそうだったが、最初からいきなり100点が取れるわけではない。相性診断を巡っていくと、僕にはまだ100点が残されているんだ、いつか100点の人に出逢えるんだ、なんて幻想にとり憑かれて傷口を無理矢理塞いでみたりする。
 本当はわかってるんだ。10点は50点になるように、50点は80点になるように、80点は100点になるように、100点は120点になるように。それを繰り返して、僕は誰かと握手をするよりも強い力できゅっと2本の糸が解けることのないように結んでいかなければならない。それは時々想像が追いつかないくらいに難しいことだけど、本当はそれほど難しいことじゃないのかもしれない。
 再び目を開けると3時間ほど時計の針が進んでいた。心地良いような悪戯心を含んだ夢を見ていた気がするが、メール受信音に起こされるような形で目が覚めたので、夢の内容はうまく思い出せない。ただひとつ、解けていった糸の感触を確かめるようにそれが僕の意図とは違う結果であったとしても僕は、天井に溶けていってしまいそうなあの時のあの表情を思い出すことが出来た自分を誉めてやりたい気持ちになった。









2010-07-31 03:12:43公開 / 作者:空春
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■作者からのメッセージ
今朝の話。半フィクション。

もうひとつ『あのとき始まったことのすべて』にあって、確かに!と思ったのが
僕らは誰かを思い出す時、その表情はいつも一定だということ。
あの子を思い出す時はいつも笑顔だし、あの人の顔はいつも怒っている。
また別の人の顔は、泣き顔だったりする。
そういうのって面白いなぁと思うとともに
1人でも多く、身近にいる人、触れ合って関わり合っている人は
その人の笑顔で記憶に収めていきたいなぁと思ったよ。
この作品に対する感想 - 昇順
 こんにちは、プリウスです。二日酔いの状態で読んだので、非常に親近感が持てました。文章表現が遠まわしな感じなので、こちらに思考を強いる感じがあると思います。だからこそ集中して読めたと思うので、そこは良い書き方をしているな、と。物語全体にはさほど興味を持ちませんでしたが、個々の思考はとても興味深いものでした。特に一つを挙げれば、母との糸のやり取りが素晴らしい。これだけで人間関係一般のことをうまく表現していると感心しました。
2010-07-31 11:42:19【☆☆☆☆☆】プリウス
空春様。御作を拝読しました。
僕たちは人とのかかわりあいの中で生きています。その中においては、きっと意識しないうちに「糸」がほどけたり、まれに絡まっているのかもしれません。無論、結ぶという意識的な行為でさえ無意識に行われていることも否定はできません。無数に絡まった糸たち。その様子を高いところから見下ろせばどんなに美しい模様になっていることでしょう。
 感じたことを素直に文章にしたこの作品は、境界があいまいとされる散文詩に該当するといえます(散文詩といえば川端康成が有名でしょうか)。すばらしい感性をお持ちですね!
 ただ、ストーリー性がなく(散文詩ならこの指摘は野暮としか言えませんが)僕個人としてはあまり興味を持てませんでした。感情を吐露するだけならやはり詩か、エッセイ、悪く言えば作文の領域を出ません。結局は起承転結が小説には必要不可欠なのです。
貴方がもし小説をお書きになるのなら、それはきっとすばらしいものになるのでしょう。
偉そうにぐだぐだと述べてまいりましたが、もし不快に感じられたなら無視して下さって結構です。
次回作を待っています。では。
2010-07-31 21:58:18【☆☆☆☆☆】ピンク色伯爵
プリウスさん
こんばんは、あしゅんです。
遠回しになってしまうのは力不足の面も大きいのですが、ポジティブな面を挙げてもらえて嬉しいです。
人間関係はとても難しい問題で、それを文章で表現するなんて恐れ多いような気もしますが
それについて自分なりの形で書けたかなと思える点は、自分でも良かったなと思ってます。
思考、というか自分なりの解釈を加えるというのは、僕がものづくりをする上で最も大切にしている部分のひとつ
というか、プロではないので、ほぼそういうのがある時にしか創作活動をしていない状態なのですが
自分の生み出した作品が誰かに少しでも影響を及ぼせたのだとしたら、凄くわくわくしますね。
読んで頂き、どうもありがとうございました。


ピンク色伯爵さん
僕は普段歌詞を描いていて、小説には詳しくないので、起承転結が絶対条件だという認識もなかったですし、ご指摘は的確なものだと思います。
たまに読む小説も、好きになるような作品に対してはあまり起承転結が上手だなぁという感想は持っていませんでした。
今回は、(母にも好きだった女の子にも宛てた)ラブレターに近いものを如何に小説に昇華出来るかを自分の力を試してみたく思い書いたもので
前後のストーリーを作品内に取り入れられなかったのは、実力不足の所為なのかもしれません。
対象の相手にしかわからないような81点の件や2ヶ月前のメール等は、やっぱり普遍性が足りなかったようですね。
個人的には、そこを各々の読み手なりに補完してもらえるという甘い予測を持っていましたが
僕と同じ状況・似た状況になったことがあり、大部分を個人の経験で補えるのは一般的ではなかったというのを理解していなかった点は反省です。
歌詞を描くときでも、こういう解釈をしなきゃダメだ、というものを作るのを1番嫌うのですが
そういう性格が、具体性・ストーリー性・普遍性の物足りなさに繋がっているのかもしれません。
読んでもらえて嬉しかったです。どうもありがとうございました。
2010-08-01 04:24:57【☆☆☆☆☆】空春
 空春さま、はじめまして。作品を読ませていただきました。
 心情を淡々とつづった感じの文章については、割と正統派の感じで好感がもてたのですが、いかんせん省略されている部分が多すぎるような気がしました。敢えて語らないことで語る、というやり方ももちろんあるのと思うのですが、読んでいていささか説明不足を感じてしまいました。
 起承転結については、おっしゃっておられるとおり、あまり重視しない小説も多いので、気にされなくても良いのではないでしょうか。ほんの少し前まで、ストーリーなどよりも心情の描写を重んじるというのが文学の本道とされていたこともあったのに、ちょっと世代が変わるとこうして極端に正反対な意見が出てくると言うのも、不思議な話です。もちろん僕も、意識的にエンタテインメントを書くときはストーリー性を重視はしますけれども、それは小説の一形態に過ぎないわけなので。
2010-08-01 18:57:58【☆☆☆☆☆】天野橋立
 ライトノベル物書きのakisanです。読ませていただきました。
 
 なるほどな、と思う文章です。これは読者がそのまま額面どおりに読むよりも、頭の中で自分なりに比喩や連想をして楽しむものなのでしょう。純文学的な表現力の勝負だと思います。行間で省略されている部分がもう少し補完されると、想像しやすくなるものではないでしょうか。もしくは緩い骨組みを決めて、読者に想像をさせやすくするように文章を配列するとか。

 感想コメントの中でストーリ性に関して意見が分かれたのは、小説という媒体に対する個々の捉え方だと思います。エンターテイメント的か、純文学的か。
 私は面白いとは思いますが、多種多様な意見は出てくるでしょう。
 だから、空春さんは萎縮しないで、どんどん作品書いてください。ついでに私を含めて他の作家さんたちの作品に感想もプリーズ(笑)
2010-08-01 21:02:10【☆☆☆☆☆】akisan
天野橋立さん、初めまして☆
説明不足の点は、恐らく実力不足なのだろうと受け止めています。
そういう流れがあったのですね!全然、知らなかったです。
今ふと考えてみたのですが、僕は割りとストーリーというものを表現する傾向があるような気がします。
受け取る方でも、素敵なストーリー展開を見せるものを鑑賞するのも好きですが、ストーリーを引き立てるアイテムの魅せ方により興味を持っているのかもしれません。
ありがとうございました。




akisanさん
そうですね。作り込みが足りないのは、毎度ながら大反省です。結構感覚的に仕上げてしまうことが多いのですが、でも、そういう僕の苦手な作り込みというのは作品を作る上では、とても重要なのでしょうね。
読んでもらえて嬉しいです。ありがとうございました。
2010-08-02 19:40:09【☆☆☆☆☆】空春
はじめまして。作品を読ませていただきました。
お母さんとの糸が解けないのは、お母さんが新たな結び目をつくってくれているから。といったような一言に、大きく納得してしまいました。自分がそうだから。私がいろんな人と疎遠になるのは、私からの針と糸がなかったからかー。なんて、変に納得する部分も。もっと他人を大事にしよっと。
最後にたくさん空白があることに違和感を感じたけれど、おもしろかったです。
2010-08-03 02:05:49【☆☆☆☆☆】目黒小夜子
目黒小夜子さん、初めまして☆
針を刺されることを拒絶しているわけじゃないんですけど、自分からの積極さが足りないんでしょうかねぇ。
この位のテンションで、もっと長い物を書けるようになりたいものです。
遅くなってすみません、読んでもらえて嬉しいです。
2010-08-08 01:33:58【☆☆☆☆☆】空春
計:0点
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