『『雪乃さんのバレンタイン?』 第6話 更新』作者:鋏屋 / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
インナーブレインという画期的なシステムで創造された仮想世界で繰り広げられる新時代の体感ロールプレイングゲーム『セラフィンゲイン』そこで、最強と噂される魔導士、『絶対零度の魔女』の異名を持つ『プラチナ・スノー』のプレイヤー世羅浜雪乃【セラハマ ユキノ】は、現実世界では、ちょっとスローリーなしゃべり方をする萌え系盲目美少女。そんな彼女が日頃から密かな想いを寄せるのは、彼女が主催するチーム『ラグナロク』の前衛の要、元凄腕傭兵の魔法剣士『漆黒のシャドウ』のプレイヤー景浦智哉【カゲウラ トモチカ】だった。ある日彼女は大学の親友に智哉のことをつっこまれ、苦し紛れに嘘を付くのだが、やがてその嘘がとんでもない事に発展してしまう。果たして雪乃は、セラフィンゲインより過酷なこのクエスト(?)をクリアー出来るのか?『セラフィンゲイン』の鋏屋が贈る、セラゲンキャラ総出演のドタバタコメディ。『雪乃さんのバレンタイン?』始まり始まり〜
全角66707文字
容量133414 bytes
原稿用紙約166.77枚
ここから読む人の為に、登場人物紹介をのせておきます。

登場人物

世羅浜 雪乃【セラハマ ユキノ】(スノー)
この物語の主人公。セラフィンゲインでは『絶対零度の魔女』と恐れられるレベル40を越える最強魔導士『プラチナ・スノー』のプレイヤーだが、現実世界ではちょとおっとりとした盲目の美少女。二次元萌えギャルキャラがそのままリアルに居るような容姿を持つ。下に挙げるチームメイト『漆黒のシャドウ』のプレイヤー、景浦 智哉に密かな恋心を抱く。

景浦 智哉【カゲウラ トモチカ】(カゲチカまたはシャドウ)
雪乃がセラフィンゲインで主催するチーム『ラグナロク』の前衛を受け持つ元傭兵の『漆黒のシャドウ』のプレイヤー。ゲーム内では凄腕のキャラだが、現実世界では、完全な秋葉ちゃんで、ヘタレヲタ野郎。緊張したり、女子が2m以内に近づくとどもって言葉が上手く喋れない持病を持つ。しかし彼のゲーム内のキャラ名「シャドウ」と呼ばれると、現実世界でも『漆黒のシャドウ』を演じてしまう仮想二重人格者。現実世界では下に挙げるマリアに常に虐げられ、頭が上がらない。

兵藤 マリア【ヒョウドウ マリア】(ララ)
アメリカ陸軍突撃隊の父と日本人の母を持つハーフでチーム『ラグナロク』の前衛を受け持つモンク【武闘家】ララのプレイヤー。現実世界でもマーシャルアーツの使い手。智哉、雪乃が通う大学の同級生で、その大学のミスコンを2年連続、2位を大差でぶっちぎり優勝するほどの類い希なる美貌の持ち主。その容姿からか男子から交際を申し込まれ、中にはストーカーまがいなことまでする物が現れたが、そのことごとくを病院送りにしたことから『ビジュアル系悪魔』と呼ばれる。容姿とは裏腹に性格は悪魔出来サディストで完全自分中心主義者。ゲーム内ではシャドウに惚れているが、現実世界では智哉を『犬』または『奴隷』として扱う。

真藻鳥 竜平【マモトリ リュウヘイ】(マチルダまたはドンちゃん)
その巨漢とフランケンのような顔立ちにもかかわらず、ニューハーフと言う事から『二丁目ドズル』と智哉に賞される。新宿2丁目に『クラブ・マチルダ』というコスプレオカマバーを経営する。ゲーム内では『ラグナロク』の後衛を勤め、魔法弾を放つ巨砲『撃滅砲』を操るガンナー【砲撃手】マチルダのプレイヤー。その容姿に似合わず仲間内のイザコザには非常に気を遣い、しかも涙もろい。

庚庵【コウアン】(サモンまたはサンちゃん)
ゴルゴ13のデューク東郷似の現職の曹洞宗僧侶。『ラグナロク』の後衛を勤める、回復と守護、及びサポート魔法を得意とする僧侶【ビショップ】サモンのプレイヤー。ゲーム内では智哉とは逆に、ほとんど口を開かないお地蔵キャラだが、現実世界では話し上手で聞き上手。時々『クラブマチルダ』でお客やホステス達に説法を聞かせたり、相談に応じたりしている。もしかしたら『ラグナロク』内ではリアル・バーチャル合わせて一番まともな人かもしれない。

織我貴 臥璃雄【オリガキ ガリオ】(リッパー)
父親が経営する『織我貴精肉所』の2代目で、幼い頃から父親の手伝いで食用肉を捌いているうちに快感を覚え、普段町を歩いている最中でも肉を切りたくなる衝動が出てしまい、それを押さえるのに自分の皮膚を切り痛みでその衝動を抑えるという切り裂き癖を持った危ない男。セラフィンゲインでは不人気な『双斬剣』またの名を『ダブルブレイド』という2本1組の剣を使う二刀流の戦士で、ララやシャドウと同じく前衛を受け持つリッパーのプレイヤー。いつも素っ気ない言葉でツッコミを入れたり智哉をからかったりするのだが、意外に仲間思いな一面もある。

エポックビル・鷲尾アンダーソン・JR(サムまたはイーグルサム)
日系のクオーターだが、智哉曰く『どう見ても日本人の遺伝子が混じってない』と言われるほど容姿が完璧な長身の黒人。一見するとNBAの選手のようだが、生まれてから一度も日本を出た事が無く、英語が一切喋れない。そのくせ和製英語を会話の端々に交ぜるので胡散臭いインチキ外人。極度な難聴であるにもかかわらず、何故かクラブDJをやっていて、その業界では結構有名。セラフィンゲインでは、その扱いにくさと熟練度の成長スピードが遅い事から、リッパーの使うダブルブレイドと同じく不人気装備『槍』を使う黒人の『槍使い【ランサー】』イーグルサムのプレイヤー。智哉がかつて所属していたチーム『ヨルムンガムド』で一緒だったこともあり、ゲーム内での智哉とはつきあいが長い。

北野森 のりす 【キタノモリ ノリス】
雪乃の同じ研究室の同級生で雪乃の入学当時からの親友的存在。目の不自由な雪乃の事を何かと気に掛けてくれる。智哉に密かに想いを寄せる雪乃に何かとアドバイスをする。彼女のツッコミに慌てた雪乃は反射的に嘘を付いて誤魔化してしまった事で、学生バンドを結成していることになってしまうのだが……

疾手 美由紀 【ハヤテ ミユキ】
世羅浜家のメイドさん。雪乃専属のお世話係で幼い頃から雪乃に仕えている。雪乃のお姉さん的存在。雪乃が智哉に想いを伝えるのに悩んでいるのを見て、助言を与える。一見クールな出来る女性の常識人っぽいが、世羅浜家の庭で放し飼いされているペット、ピューマであるジブリールとミカールを『大きな猫』と言い切ることから、常識人とは言い難い。本編ではさわり程度しか出てこなかった彼女だが、今回はその変人ぶりがカミングアウト予定。

折戸 英寿 【オリド ヒデトシ】
世羅浜家の専属運転手。以前は英国のとある良家のお抱え運転手だったのだが、4年前に当主が他界したのを期にそこを辞めて日本に帰ってきた。在志野とは旧知の間柄で彼の誘いで世羅浜家の運転手となる。非常に温厚な性格だが、若い頃はラリードライバーでパリダカールにも参加した経歴がある。

在志野 元康 【アリシノ モトヤス】
世羅浜家に仕える使用人。執事長。一見品の良いロマンスグレーだが、きらりと光る細長眼鏡から覗く眼光には、何者も逆らえない迫力がある。雪乃と共にやってきた智哉に、何かと怖いツッコミを入れ智哉の恐怖を誘う。幼い頃から雪乃、朋夜兄妹を世話してきて、家にいることが少ない父親に変わって、2人の父親代わりを勤めてきた経緯もあってか、智哉が雪乃の『想い人』と感じ、何かにつけて智哉を吟味しようとする。雪乃曰く『気に入られている』とのことだが、どう考えても嫌われているとしか思えないプレッシャーを感じ、智哉にとっては超苦手な人でしかない。

世羅浜 朋夜 【セラハマ トモヤ】(鬼丸)
かつて、シャドウやサムが在籍していたチーム『ヨルムンガムド』のリーダー。Lv40を超える最強魔法剣士で伝説の『太刀使い』鬼丸のプレイヤー。智哉を『仲間』と呼び、リアル、バーチャルひっくるめても友達の居ない智哉自身『友』と慕った人物。『ヨルムンガムド』の解散を期に、その愛刀『童子切り安綱』をシャドウに託し行方不明になる。
本編では超重要キャラだが、今回は名前程度しか出てこない。現実では1年半前に死亡している。

屋敷戸 拓也【ヤシキド タクヤ】(オウル)
秋葉原のゲーム・フィギアショップ『耳屋』の角野卓造似の店主でセラフィンゲインの古参のプレイヤー。シャドウと同じ傭兵で職業はドンちゃんことマチルダと同じくガンナーのオウルのプレイヤー。かなりの情報通で色々な方面に不思議なパイプを持ち、時々智哉に情報や助言を与える。智哉にセラフィンゲインの存在や傭兵に誘ったのもこの人。智哉の過去やかつての『鬼丸』を知る数少ない存在。
本編で『耳屋』以外でも、実はとても重要な場面で本名で登場している。本編でそれに気が付いた人が果たして何人いるかな? つーか気が付いた人は凄い! でも言わないでねw そう、彼は○○なんですよ♪   


プロローグ


「またね…… 智哉君」
 私は見えるはずのない目で、座席の横にある窓の方を見てそう呟いた。
 私を乗せた飛行機はゆっくりと旋回しながら高度を上げていった。
 さようなら…… 楽しい日々……
 私は心の中で、大変だったけど思い出に残る楽しかった時間と、その思い出を一緒に過ごした仲間達に別れを告げた。
「智哉君…… それはどなたですか? 雪乃様」
 不意に隣の座席に座っていた私のお世話係、疾手美由紀がそう質問した。私はクスっと自分に笑いながら答えた。
「カゲチカ君です。本当は景浦 智哉【カゲウラ トモチカ】って言うんですって。マリアが縮めてそう呼んでいただけ。私はてっきり下の名前なんだと思って呼んでいたんです」
「まあ? マリア様もお人が悪い……」
 美由紀は呆れたようにそう言った。
「うふふ、ほんとにね…… でも、そんなに悪いことばかりじゃなかったですよ。だって彼をそう呼べるのは、私とマリアだけ…… 私は最初から彼をそう呼べたのだから」
 私はそう言って笑った。また会えたら、またそう呼んでみよう。今度は確信犯で。マリアに負けないくらい気持ちを込めて……
 私は心の中でそう誓った。
「さあ、雪乃様。到着まではまだまだ時間があります。昨日はあまりお休みになっておられませんから、少しお休みになられてはいかがですか?」
 そうね…… 向こうに着いたら色々忙しくなるから、今の内に休もうかな。思い出に浸りながら眠るのも悪くは無いかも……
「そうします」
 私は美由紀にそう答えて、ポケットからIpodのイヤホンを取り出し、耳にはめた。そして再生ボタンを押すと、曲が流れてきた。
 初めに流れてくるギターのソロパートに、私は心を委ねた。
 ああ、懐かしい…… それほどたってはいないのに、何故か遠い昔の事のよう……
 そう思ったとたん、私はクスっと思い出し笑いをした。
「? 何を笑っておられるのですか?」
 私の思い出し笑いに気づいた美由紀がそう聞いてきた。私は「これですよ」と片方のイヤホンを美由紀に渡した。私の手からイヤホンの片方を受け取った美由紀は、すぐに納得がいったように答えた。
「ああ、この曲ですか…… 良い思い出ですね」
 そう言って美由紀も笑った。
 そう…… 本当に良い思い出……
 ギターソロにやがてキーボードの音が重なり、リズムカルなドラムの音と、それを支えるベースの音が続く。そして、あの透き通るような透明感と彼女らしい力強さが合わさった歌声が流れてきた。

♪ ♪ ♪ ♪

あなたの耳に届く私の声は現実【ホンモノ】?
あなたの瞳に映る私は虚構【ニセモノ】?
きっとそれはどっちでも良いんだよね?
だって私たちはもう違う道を歩んでいるんだもの……

あなたが私にくれた言葉は真実【ホント】?
あなたが私の心を包んでくれたのは幻【ウソ】?
でも今ではそれを確かめる手段を忘れちゃったよ
だって私たちはもうあのころの2人じゃないから……

でもね……だけどね……
私があなたを見ていたのは紛れもなく現実なんだよ?
私があなたを想ってたのは幻なんかじゃないんだよ?
あの世界ではいつもあなたは輝いて
あのころの私には怖い物なんか1つも無くて
背中には羽があって
空は2人の物で
周りには光があふれてて……

きっと、絶対、本当に、あなたを想ってた
It is my desire of the real thing!
それだけは本当よAngel's desire!


あなたから伝わるぬくもりは現実【ホンモノ】?
あなたがあの日見せた涙は虚構【ニセモノ】?
きっとそれもいつかは薄れてなくなっちゃうんだよね?
だって私たちはもう会わなくなるんだもの……

でもね……だけどね……
私があなたを忘れたくないって思ってたの知ってた?
私があなたに見た夢を今でも持ってること知ってた?
あの世界ではいつもあなたは前を見てて
あのころの私はあなたの手を強く握ってて
あそこには天使がいて
風は2人に暖かく
目の前には未来があって……

きっと、絶対、本当に、あなたを好きだった
It is my desire of the real thing!
それだけは忘れないでAngel's desire!

そんな嘘はつかないで、あなたじゃないみたい
大丈夫、私は覚悟してるよ
だから、だから、前だけ向いて、振り向かないで
最後の最後の最後まで、夢見た私の騎士でいて……

きっと、絶対、本当に、あなたを好きだった
もっと、絶対、本当は、あなたを好きでいたかった
It is my desire of the real thing!
それだけは嘘じゃないよAngel's desire……

♪ ♪ ♪ ♪

 心地よいギターのソロパートを聞きながら、私は眠りに落ちていく。
 本当に大変だったけど、本当に素敵だったあの時を思い出しながら……


第1話 『結成! ラグナロク・ニア!?』


 前衛の黒衣の剣士の太刀が龍族特有の堅い表皮に弾かれた瞬間、巨体に似合わない俊敏さで大きな前足を振るう。
 弾かれた太刀を流すように側面に構え直し、体をひねって直撃を免れた黒衣の剣士だったが、さすがに体長15mのセラフの一撃を全て受けきることは叶わず、ヒットした衝撃で吹っ飛ばされた。
「シャドウ―――っ!!」
 後方で構えていた白衣の女はそう叫び、直ぐさま呪文詠唱に入る。
『しまったっ! 私のミスだ。タイミングを見誤った―――!』
 そう心の中で毒づきながらも凄まじいスピードで呪文を詠唱し、最後の発動条件である呪文名を叫ぶ。
「メテオバースト――――!!」
 高々とワンドを掲げると同時に、正面で自分たちを睥睨するセラフの頭上に火球が出現する。直径3mほどの球体の中は、この世に存在する全ての物を燃やし、溶解し、蒸発させる灼熱の地獄の業火。凄まじい高温のせいか、周囲には陽炎のように空気が揺らいで見える。
 その膨大な熱エネルギーを凝縮した弾が、次の瞬間、対象物の努吼とともに逆落としに降りかかった。
 閃光と衝撃、爆音と熱風。瞬時に超高熱にさらされた空気が、爆発的に膨張し周囲に大きな渦を作り、同時に肺まで焦がしそうな熱風が辺りを席巻する。
 爆炎系、または燃焼系に大別される魔法では最高位の呪文『メテオバースト』
 レベル30を超える魔導士の特権とも言えるそれを、平然と唱える白銀の魔女。
 少し大きめの瞳には、知性の色をたたえ、されどその顔立ちは『美人』と言うよりまさに『美少女』と評した方がふさわしい表現だろう。
 幼さを残した愛くるしい顔立ちとは裏腹に、その少女はこの世界では最大級の『暴力』を振るった。
 灼熱の業火は爆心地に大きなクレーターを残し、出現した時と同じように速やかにその勢いを失っていき、しばらくして消滅した。中心にいたであろうセラフは影も形もない。 少女はそれを確認するよりも早く、先ほどセラフの一撃で飛ばされた黒衣の剣士の方に走り出した。しばらくして、大きな岩の影で蹲る彼を発見すると、さらに急いで駆け寄る。
「シャドウ! 大丈夫っ!!」
 蹲る彼の傍らに跪き、そう必死に呼びかける。
「あ、ああ、大丈夫だ。ちょっと間抜けな避け方をしただけだ……」
 彼はそう言いながら上半身を起こして少女に笑いかけた。その彼の反応に安堵し、少女は深い息を吐いた。
 日頃彼女の通り名である『絶対零度の魔女』からは、ちょっと想像できない仕草だった。
「ごめんなさいシャドウ。タイミングを見誤ったわ。魔法を行使するのが遅すぎた……」
 そう謝罪しながら、スノーはシャドウに右手を差し出した。
「いや、アンタのせいじゃないさ。結果的にスノーのおかげで俺はこうしてデッドしなかったんだしな……」
 そう言ってシャドウはスノーの右手を掴み、起きあがろうとした。
 その時、少しバランスを崩したのかヨロッと足がもつれ、シャドウはスノーにもたれ掛かった。
『えっ? えっ?? ええ――――っ!?』
 いきなりの状況にスノーは慌てた。さらにシャドウはダメージが残っているのか、自分に体を預けてくるので、それを支えようとするスノーは丁度シャドウと抱き合うような格好になってしまい、ますます動揺する。そして耳元に近づいたシャドウの口から、さらにそれを加速させる言葉が……
「いつも助けてくれて感謝しているよ、スノー……」
 その言葉と同時に、背中に回ったシャドウの腕に力が入った。
「俺はスノー…… いや、雪乃の事が…… 好きなんだ…… 愛してる」
『あ、あ、あ、あの……コレって……告白―――――!?』
 高鳴りすぎる鼓動で心臓が口から飛び出そうなほどだ。頭の中が真っ白になっていくのとは反対に、その自分の鼓動が相手に悟られるんじゃないかと、そういうところだけ妙に冷静に考えている自分がいた。
「あ、あ、あの、シャ、シャドウ…… そんなこと言われてもっ…… ほ、ほら、み、みんな見てるし―――」
 と言いながら周囲を伺うが、さっきまで一緒に戦っていたメンバーの姿がない。この状況が全く理解できないスノーは混乱する頭で状況を整理する。
『一体どうなってるの? さっきまで戦っていたはずなのに…… いきなりこんな場所で告白されるなんて! ―――でもコレってチャンスかも……』
 恥ずかしい気持ちと、嬉しい気持ちの狭間でオーバーロードしかける頭の中には、自分の都合のいい妄想しか浮かんでこなかった。そしてつい言葉に出た本音。
「あ、で、でもララ―――マリアさんが……」
 そう言う脳裏に自分とは正反対の破天荒な女性がよぎる。彼の傍らにいつもいる女性には、自分は絶対勝てない気がする。彼はいつも『虐げられている』と言っていたが、端から見た2人は他の人が入り込めない何かがあるように思えてならない。
「マリアは関係ないよ、俺は雪乃が好きなんだ……」
 その言葉にスノーは天にも昇るような気持ちになり、自然にシャドウの背中に回した手に力が入った。
「わ、私も、シャドウ…… いえ、カゲチカ君のことが……」
 スノーは自分の気持ちを伝えるべく、一世一代の勇気を振り絞る。
『言うのよ、雪乃っ! セラフィンゲインは平等に勇気が試される場所でしょっ!……ちょっと違う勇気だけど……』
「好き―――――」

☆ ☆ ☆ ☆

「雪乃様、お目覚め下さい」
 あれ? この声は――――?
「雪乃様、起きてください、雪乃様!」
「……美由紀さん?」
 そう言って雪乃はベッドから上体を起こした。
「まだ夢の中でございますか? 雪乃様」
 そう言いながら雪乃専属の世話役兼お部屋係の美由紀はクスリと微笑み、ベッド脇のカーテンをあけた。
「ロマンティックな夢だったんですか?」
 カーテンをフサ掛けにまとめながらそう聞く美由紀の言葉にびっくりする雪乃。
「み、美由紀さん? 私寝てる時に、なにかその……」
 恐る恐る聞く雪乃に美由紀はニッコリと微笑みながらこう答えた。
「ええ、お布団をこうぎゅーっと抱きしめて『好きーっ!』って…… 雪乃様にもそう言える方が現れたのですねぇ…… もしかして、前にお屋敷にいらしたあの方ですか? あのジブリーが握手した……」
 その美由紀の言葉に雪乃は耳まで真っ赤にして俯いた。
 さ、最悪だわ……
「あ、あの美由紀さん。このことは秘密に…… くれぐれも、その、在志野さんには……」
「はいはい、言わないでおきましょう。さあ、早くしないと講義に遅れますよ。お召し物は用意しておきますので、お顔を洗ってきてください」
 そう言って美由紀は部屋を後にした。
「はぁ…… それにしてもリアルな夢だったなぁ」
 夢の内容を思い出すと、また鼓動が高鳴ってくるのを感じて布団に顔を押しつけた。
「欲求不満なのかな…… 私……」
 そう呟きながら、雪乃は枕元にある杖を持ってゆっくりとベッドを降りた。

☆ ☆ ☆ ☆

 昨日見た夢のせいで、午前中の講義もいまいち集中力が欠けてしまう雪乃だった。
「どうしたの雪乃? なんか今日は『心此処にあらず』って感じじゃない?」
 午前中の講義が終わり、学食で昼食を取っているときに同じ学部の同級生、北野森のりすがそう声を掛けてきた。のりすは雪乃が入学してから知り合った友達で、何かと目の不自由な雪乃を気に掛けてくれる親友だった。
「ちょっと夢見が悪くて……」
 いや、むしろ良すぎたと言った方が……
「へ〜、夢ねぇ……」
 そう呟きながら、のりすは学食人気ランキング3位のナポリタンを口に運んだ。いつもは研究室で美由紀の作ったお弁当を食べるのだが、今日は昨日の夢のせいか、お弁当を忘れてきてしまったのだった。すぐに気づいて自宅に電話を掛けると、持っていくと言う美由紀に、なんだか悪い気がして断ったのだった。
「よっぽどの夢だったんだね。雪乃がお弁当忘れちゃうぐらいだったんだもの。どんな夢だったの?」
 のりすの言葉に、雪乃はお気に入りである学食人気ランキング1位のスペシャルオムライスを運ぶ手を止めた。思い出してしまうと、また鼓動が高鳴り顔が熱くなる感じがした。
「ちょっと言えないの……」
 そう答えるのが精一杯だった。そんな雪乃の変化にピンときたのりすはすかさずツッコミを入れる。
「……さては男ね」
「いや、で、でもアレは夢だし、彼があんなこと言うわけないし……」
 その雪乃の反応に、のりすはにんまりする。
「やっぱりなぁ、雪乃わっかりやすいなぁ〜」
 のりすの言葉に雪乃は自分がカマを掛けられ、見事に引っかかった事をさとった。
 や、やられた……
 いつもの自分なら、こんな誘導尋問めいた言葉に引っかかるわけはないのだが、どういう訳か今日は物の見事に引っかかってしまった。やはり夢の影響が出ているようだ。
「ねえねえ、誰々? 私の知っている人? その人イケメン? つっても見えないから判らないか……この大学の人? もう告白したの?」
 のりすの『告白』という言葉に反応して、さらに鼓動が早くなる。
「そんな告白なんて絶対無理っ! 第一私なんて彼は興味ないかもしれないし…… きっとただのチームメイトとしか見てないだろうし……」
「チーム? 雪乃、なんかサークルでも入ってたっけ?」
 まずいっ! 体感ゲームのチームだなんて、のりすには言えないよ〜
「あ、い、いや、個人的にやってる、お、楽器関係でちょっと……」
「ふ〜ん、雪乃楽器なんかやってるんだ。何やってるの?」
 ヤバイ、ヤバイよ〜、とっさに出ちゃった。楽器!? 何言ってるのよ私は!?
「わ、私は、キ、キーボードよ。そ、そう、キーボードを担当しているの。ほ、ほら、目が見えなくても鍵盤に印付ければ弾けるし……」
 ゴメンナサ―――イっ! 『猫踏んじゃった』もまともに弾けませ〜んっ!!
「あ、そっか。なるほどね〜 じゃあ、その彼は?」
 ええっ!? カゲチカ君!? カゲチカ君が楽器!? だ、ダメだ、カゲチカ君が楽器を弾いている姿を想像できないよ〜
「か、彼は…… ギター…… そ、そう、ギターを、ひ、引いているのよ」
 バカバカ私のバカ――――っ!!
 あ、あり得ない…… カゲチカ君がギター…… 今ちょと想像しただけでも右手に安綱握ってるし……
「へ〜、格好いいじゃない。会いたいわ〜」
 神様っ! 今日だけはカゲチカ君が学食に現れません様に……
 しかし、そんな雪乃の願いは甲高い自分を呼ぶ声に消し飛んでいったのだった。
「あれ〜? 雪乃じゃない」
 ああぁ! あの声はマリアさんだぁ…… 彼女がいるって事はやっぱり……
「カゲチカー、雪乃がいたよ〜っ!」
 マ、マリアさん、よ、呼ばなくて良いから……
「あ、あれって兵藤マリアさんじゃない? 雪乃知り合いなの?」
 と、のりすが雪乃が聞いてくる。
「えっ? マリアさん知ってるの?」
「知ってるも何も、この大学のミスコン2年連続ダントツ優勝の人でしょ。でもそれを全く鼻に掛けずに我が道を行くっていうあのスタイルに、女生徒の大半があこがれているのよ。今じゃ隠れファンクラブもあるって噂だし」
 知らなかった……
 確かにセラフィンゲインでもあの容姿だし、リアルでも相当綺麗なんだろうと思っていたけど、そんなオプションまで付いていたなんて……
「もしかして彼女もその音楽活動に参加しているメンバーな訳?」
「え、ええ、まあ似たような物かと……」
 ダメだ、もはや収拾つかない所まで来ている気がする……
 そこに、今の雪乃が今一番聞きたくない声が掛かった。
「ゆ、ゆ、雪乃さん。ま、ま、また学食で、で、デスカ?」
 カゲチカ君――――!! ああ、なんてタイミングの悪い……
 しかもあの夢のせいで妙に意識してしまい、声を聞いた瞬間、またあの不可解な鼓動の高鳴りが復活してきてしまった。急速に顔全体が熱くなっていく。
 ヤバイよぉーっ、顔が見れないよ―――っ!! 実際には見えてないんですけど―――っ!
 もはや後戻りの出来ないところまで来ている雪乃の心情をあざ笑うかのごとく、何も知らないマリアと智哉は雪乃達のテーブルへとのんきに歩み寄ってくる。
「ゴ、ゴメンのりす。ちょっ、ちょっと待っててね」
 雪乃はそうのりすに告げ、そそくさと席を立ち「どうしたの?」というのりすの言葉を背にマリアの声のする方へと歩いていった。
「何? 雪乃」
 直ぐ前からマリアの声が掛かり、息つく暇もなく雪乃が言う。
「ゴメンナサイ、マリアさん、カゲチカ君。少しだけ私の話に合わせてくださいっ!」
 そんな雪乃の必死さに妙な物を感じ、マリアが聞き返す。
「ど、どうしたのよ、藪から棒に……」
 礼によってマリアは普通の女の子が取るカロリー摂取量のおよそ3倍の量のランチを乗せた2つのトレイを器用に持ちながら智哉と顔を見合わせる。
「あ、あの、理由は後でちゃんと説明しますから、今だけは私の話に合わせてもらえませんか? お願いっ!」
「なんだかよく判らないけど…… まあ良いわ。他ならぬ雪乃の頼みだしね。話を合わせればいいのね?」
 そうマリアは軽く答えた。
 ありがと〜マリアさんっ!!
 そう心の中で感謝する雪乃だったが、後にマリアに頼んだことを最大に後悔することになる。そう、マリアは典型的なトラブルメーカー、通称『ビジュアル悪魔』と呼ばれる完全自分中心主義者なのだ。
「コイツはとりあえず女の子の前じゃ上手く喋れないから話を合わせる以前の問題だしね」
 そう言ってマリアは智哉の方にアゴをしゃくった。
 そうね、とりあえずマリアさんが協力してくれれば何とかなりそう…… カゲチカ君はとりあえず黙っていてもらって……
 とりあえず下打ち合わせもそこそこに、マリアと智哉は雪乃とその親友、のりすの居るテーブルに着いた。
「初めまして、兵藤さん。私、雪乃と同じ研究室の北野森のりすっていいます。兵藤さんにはずっとあこがれてて、まさか雪乃と知り合いだったなんて……」
 そう言ってのりすは目をきらきら輝かせて自己紹介をした。
 知らなかった…… マリアさんがこの大学でそんな有名人だったなんて…… ますます私じゃ太刀打ちできないよ〜
「雪乃の友達ならあたしの友達でもあるわね。宜しくね、のりす。私のこともファーストネームで呼んでよ。そっちのがしっくり来るし」
 出会ってわずか2秒で呼び捨て。完全自分中心主義者、ビジュアル系悪魔の本領発揮である。
「ど、ど、どういう、ろ、ろ、論法だよ、そ、それ……」
 横で座る智哉がぽつりと呟いた。
「雪乃とは楽器関係で知り合いって聞いてるんですけど、兵藤さんは何を弾かれるんですか?」
 そんなのりすの質問に、慌てて雪乃がフォローに入る。
「マ、マ、マリアさんはヴォーカル担当なのよっ! ね、ねえ、マリアさん?」
 ごめんなさいっ! マリアさん!!
「えっ? あ、ああ、そうよ。あたしはヴォーカル担当なのよ……」
 とりあえずマリアはそう答えた。そして……
「それで、こちらの彼が……」
「ぎ、ぎ、ギター担当の、カ、カゲチカ君」
 もう必死の雪乃であった。
「えっ? あなたがギター?」
 のりすが訝しげに智哉を見る。
「えっ、ぼ、ぼ、僕がギ、ギ、ギターっすか?」
 ああ―――!!
 思わず正面に座る智哉の足をテーブルの下で踏みつける雪乃。
「あぐぅっ!!」
 と奇妙な声を上げる智哉。
 ご、ごべんなざ〜い!! カゲチカ君―――っ!!
 引きつった笑顔を智哉に向けながら、心の中で号泣する雪乃であった。
 もうダメだ…… 終わった…… 私絶対嫌われたよ――――――――っ!!
「そそ、コイツ見た目はこんなんでも、ギター弾かしたら凄いのよ〜」
 そこへすかさずマリアがフォローを入れた。こういう空気を読みとる感覚は非凡な物を見せるマリアだった。
 マリアさん、ナイスフォローっ!!
「へ〜、そうは見えないけど…… でも、人は見かけによらないって言いますもんね」
「そうよ。もうね、プロ顔負けって感じ……」
 あ、あの……マリアさん? もうその辺で止めましょうよ…… 何となく深入りされると引っ込みつかなくなりそうで怖いんですけど……
「じゃあマリアさん、今年のバレンタインライブに出ちゃいましょうよ!!」
 な、な、な、何ですか―――? それ!?
 のりすの言葉にただならぬ物を感じ青ざめる雪乃。
「バレンタインライブ? 何それ?」
「毎年やってる学生会主催のコンサートですよ〜 2月14日のバレンタインの日に講堂で開かれるアマチュアバンドのコンサートです。知りませんか?」
「へーっ そんなのやってたんだ? 知らなかった」
 マリアの場合コスプレカフェのバイトでバレンタインは掻き入れ時なので毎年バイトをしていたので知らないのも無理はなかった。
「アンタ知ってた?」
 と横にいる智哉に聞いてみるが、首を横に振るだけだった。
 智哉の場合、12月24日と2月14日はキモヲタにとって死の日なので必要以外家から一歩も出ないと決めている訳で知るよしもない。
「そこでバ〜ンと披露しちゃってくださいよ〜 私、マリアさん達のバンドの曲、聞いてみたいな〜」
 きょ、きょ、曲を披露―――――!! な、何言ってるのよ〜のりす〜っ!!
「い、いや、それは……」
「面白そうね―――― よし、やってやろうじゃない!!」
 な、な、な、何言ってるんですか、マリアさ――――――んっ!!
「本当ですか!? 楽しみ〜!! 私絶対応援しますねっ!!」
「ちょ、ちょと、のりす、あ、あのね……」
 そう言いかける雪乃の声はのりすの耳には届いておらず、のりすは右手にはめた腕時計で時間を確認すると慌ててこう言った。
「ああ、そうだ。私教授にレポート提出し忘れてたんだ。教授が戻る前に出してこなくっちゃ…… すいません、マリアさん、カゲチカ君。私これで…… 雪乃、じゃあ後でね」
 そう言ってのりすはそそくさと席を立ち、足早に学食を後にしていった……
 あ、ああ…… のりす…… 行っちゃったよぉ〜
 がっくりとテーブルに倒れ込む雪乃。その前で黙々とランチを口に運ぶマリア。とりあえずよく判らないので、マリアに習ってランチを食いだす智哉。端から見ればまったくもって意味不明な3人それぞれの行動だった。
 や、やりすぎです、マリアさん……っ!
「で、雪乃。どうしてあたし達がバンドやってることになったわけ?」
 そう言うマリアに雪乃はのりすとの一件を話した。しかしもちろん智哉のことは話せない。とりあえずセラフィンゲインのプレイヤーであることを知られたくないので、とっさに楽器をやっていると言ってしまったことを説明する。
「なるほどね…… しかもコンサートまでやることになるなんてね〜」
 と、まるで人ごとのように言うマリア。
 コンサートは完全にマリアさんのせいですぅ―――――っ!!
 と、心の中で絶叫する雪乃だったが、無理矢理話を合わせて欲しいと頼んだ手前、文句も言えない。今更ながら自分の迂闊さを後悔していた。
「どうしよう……」
「なに、バレンタインまでまだ3週間あるんだし、特訓すれば何とかなるわよ」
 そう軽く答えながら、特製海老グラタンの最後の一口を口に運ぶマリア。
「で、で、でも、メ、メ、メンバー、ど、ど、どうするんだ?」
 そこへ智哉がぽつりと呟いた。
「そうねぇ…… 今日あっちでドンちゃん達にも相談してみようよ。それに確かサムもリアルじゃDJやってるって言ってたし、何か良いコネ持ってるかもしれないわ」
「そんなに上手くいくかなぁ……」
 超楽天的なマリアのアイデアに、一抹どころか狂おしく不安な雪乃だった。
「大丈夫よ、バンドなんて多少下手でもノリと勢いで何とかなるから。ね、カゲチカ」
「ぼ、ぼ、僕に、ど、同意を、も、も、も求めるなよ。だ、だ、大体こ、こ、コンサートは、マ、マ、マリアのせ、せ、せいだろ。ご、ご、ゴメンね、ゆ、ゆ、雪乃さん」
「い、いえ、ゴメンだなんてそんな…… 元々私が無理にお願いしたんであって、その、カゲチカ君が謝ることなんて……」
 やっぱりカゲチカ君優しい〜♪
 そう思うとまた今朝の夢が頭の中に蘇って来てドキドキしてしまう。

『俺は、雪乃のことが好きなんだ……』

 夢の中でシャドウが自分に言った言葉が、何度も雪乃の頭の中を駆けめぐる。
 カゲチカ君とバレンタインコンサートかぁ…… 自分が出なきゃ最高なシチュエーションなんだけどなぁ……

☆ ☆ ☆ ☆

 そして数時間後、セラフィンゲイン内での沢庵にて……
「――――と言う訳で、急遽バンドを結成することになったんだけど、メンバーが足りないの。ねえ誰か楽器出来る人いない?」
 クエスト前に集まった『ラグナロク』メンバーは、いつもの46番テーブルでクエストとは全く関係ない件でミーティングしていた。
 とりあえず昼間の大学での一件をみんなに説明するララ。
「おいサム、お前リアルじゃDJやってんだろ? お前なんかできねーの?」
 すでに強制的にメンバー入りが確定しているシャドウがサムに質問する。
「ミーはね、アレンジ専門なのネ。前説とかエスコートコールとかならOKだYo」
 そう言いながらサムはオーバーに長い手を万歳する。毎度のことだが、彼のその行動には全く意味がない。
「ねえリッパー、アンタ前にベースやってたって言ってなかったっけ?」
 そこへドンちゃんがリッパーに話をふった。
「確かにやってたけど、もう何年も弾いてないぜ?」
「でもプロ目指してライブハウス渡り歩いてたんでしょ? アンタのバンド」
「えっ? そうなの?」
 とスノーが目を輝かせてリッパーを見る。
「あ、ああ…… でも昔の話だ。今じゃ弾けるかどうかわかんね」
「でも、昔やってたんならちょっと練習すれば出来るわよ。コレでベースは決まりね」
 とまたもや勝手に決めるララ。もはや完全にその気になってエンジン全開なのであった。
「後はドラムかぁ…… イメージ的にドンちゃんっぽいんだけど」
「あたしはダメ。楽器って超苦手なのよ。何故か知らないけどあたしが弾くとみんな壊れちゃうんだもん。ギターとかもね、ちょっと力はいるとすぐネックがボキッって……」
 一同沈黙。
 それって「壊れる」じゃなくてきっと「壊してる」んだと思う……
 雪乃は心の中でそう呟くが、此処にいるメンバー全員そう思っていることは疑いなかった。
「私が叩こうか?」
 日頃ちょっと聞き慣れない声に、一同びっくりして声の主を見る。
「サ、サモン…… マジ?」
 リッパーが驚いてそう訪ねる。
「昔、学生の頃叩いていた経験がある。今でも時々渋谷のスタジオで叩かせて貰っている」
 マジで―――!! ありえな―――い!!  サンちゃんって現職のお坊さんなのに…… 木魚だけじゃなくてドラムも叩くなんて!?
 サモンの意外な特技に雪乃は唖然とする。人は見かけによらないと言うが、まさにこのメンバーは見かけによらなすぎる気がした。
「コレで一通りメンバーがそろったわね」
 とララが結論づけた。
「ララ、お前何やんの?」
 リッパーの質問に自信満々で答えるララ。
「あたしはもちろんヴォーカルよ。こう見えてちっちゃい頃から歌ってて、横須賀のベースじゃ結構有名だったんだから」
 確かにララの声は澄んでいて良く通る。それに美人だしステージに立ったら栄えるかも……
 そう思う反面、ますます自分と比べてしまいちょっと悲しくなる雪乃だった。
「確かに歌は上手いよな。良いんじゃないか?」
 とシャドウ。彼は前にマリアに無理矢理カラオケを付き合わされ、50曲ほどノンストップで聞かされた経験があった。
「次はバンド名なんだけど…… あたし、実はもう考えてあるんだよね〜」
 妙にやる気のララはどんどん話を進めていく。
「言って見ろ……」
 シャドウはそうララに言った。彼は基本的にこういうネーミングセンスは無いので、こういう事には口を出さないようにしていた。
「『ラグナロク・ニア』ってのはどう?」
「ラグナロク・ニア…… 響きは悪くねぇな」
 と、リッパーが感想を漏らした。そこにシャドウがぽつりと呟いた。
「『ラグナロク』って確か、『世界の終わり』とかって意味だったよな。『ニア』って『近い』とかって意味だろ? つーことはなんだ? 『終わりに近い』って…… グエッ!」
 と、意味を詮索するシャドウの脇腹にララの拳が入る。テーブルに崩れ落ちるシャドウに一瞥しララがしめる。
「余計なツッコミは無し。意味はどうでもいいの。ようはノリとフィーリングよ。このメンバーでやるんだから『ラグナロク』でしょ。ドンちゃんとサムがいないから『ニア』な訳よ」
 そう言い放ち、他のメンバーを見渡すララ。完全にリーダー気取りである。元来仕切屋なだけにこういうことは好きなのだ。
「バレンタインデーまで残り3週間だから特訓しなくちゃならないんだけど、誰かどこかいい練習場所知らない?」
「ああ、それはミーに任せるネ。ミーはこう見えてもDJだYo 貸しスタジオにもコネが利くよん」
 とサムが答えた。
「ホント? サム」
「ララちんの為ならミーはノーインポッシブルね〜」
 とオーバーに長い両手を広げてララに言う。どことなくオラウータンの求愛行動に似ている。
「よ〜し、メンバー、名前、練習場。オールOK! 明日からみんなで練習よ!」
 拳を上げて「オーッ!」と意気込むララ。
「オイオイ、セラフィンゲインはどうするんだよ?」
「曜日を決めてやればいいじゃん。それで良いでしょ? スノー」
 シャドウの質問にそう答え、ララはスノーに聞いてみた。
「え? ええ…… それに元はと言えば私が原因だし……」
 そう言って語尾を小さくするスノー。のりすに正直に言えば良かったと今更ながらに後悔が沸き上がってくる。
 なんだか大変なことになっちゃったなぁ……
 そう思いながら大きなため息をつくスノー。
「大丈夫よスノー。絶対成功するって。このメンバーなら向かうトコ無敵でしょ。サイコーに格好いいギグにしようよ!」
 と励ますララに微妙な笑顔を向けるスノーだった。
「さ〜て、バンド結成式しなくちゃ。あ、おね〜さ〜んっ、こっちにビネオワ7つおねが〜いっ!!」
 と少し先のテーブルの間を歩いているNPCの定員にビネオワを注文するララ。
「あ、あの…… あのねララ。一つ問題が…… その…… 私は……」
 とスノーがおずおずと言った様子で言った。
 そう、重大な問題が残っているんですぅ……
「スノーはキーボードでしょ? 確かに目が見えなくても弾けるってのは頷けるわ。盲目のピアニストなんてカッコイイじゃない。流石お嬢様って感じ」
 とスノーの言葉を先回りしてララが言う。
 ああ…… や、やっぱり…… 
 そのお嬢様ってのも止めて欲しいけど、どうしてこう『ピアノやってる』って標準装備的な考えになるかな……
「あのね、私…… じ、実はキーボードって弾いたこと無いんです」
「えっ、そうなの? でも大丈夫よきっと。ピアノと似たようなもんでしょ?」
 とすかさずララが言った。
 だ、だから、とりあえず一端ピアノから離れてください―――っ!
「でも、ピアノより鍵盤が軽いから最初はちょっと戸惑うって聞くぞ」
 シャドウがララにそう言った。
「そんなもん3週間ありゃ慣れるだろ普通に」
 リッパーが問題なしって顔で答えた。
「いや…… あの、そうじゃなくて、ですね……」
 こまったよ〜 私がピアノ弾ける前提で話が進んでる〜っ!
「ところでユー達、楽器は持ってるのかい?」
「俺はあるぜ。サモンは…… 普通持ってねぇか、ドラムのフルセットなんて」
「いや…… 確か寺の裏の倉庫に仕舞ってあるはずです。去年の大掃除の時に見ました」
 サモンはちょっと考えてから答えた。「マジかよ」とリッパーが驚く。
「俺も確か実家にあるはずだ。高校時代に使ったのがな」
 とシャドウも続いて言った。
「え? シャドウってホントにギター弾いていたの!?」
 スノーは驚いた様にシャドウに聞いた。完全なその場の思いつきで言ったのだが、まさか本当に弾けるとは思っていなかったようだ。
「高校時代にちょっとだけ…… かじった程度だけどな」
 スノーの質問にシャドウは苦笑しながら答えた。
 そうなんだ…… 意外だけど、見てみたいなぁ…… カゲチカ君が弾いてるトコ♪ 見れないけど。
「ララはヴォーカルだから良いとして、なあ、スノーはどうする? キーボード」
「えっ!?」
 頭の中でギターを演奏しているシャドウの姿を想像して、ちょっと違う世界に旅立っていたスノーだったが、リッパーの言葉で現実に引き戻された。
 そうだ、妄想トリップしてる場合じゃなかったんだっ!
「あ、あの、私……」
 と言いかけるスノーを遮り、ララが口を挟む。
「レンタルもあるけど…… どうせなら買っちゃえば? お金持ちなんだし」
 ラ、ララ! それ以前の問題なの〜っ!
「となるとどこのが良い? コルグM50とかヤマハのS90あたりかな」
「初心者じゃないんだから良い奴の方が、長く使えるだろう。ローランドも結構いい音出るって聞いたぞ」
 とリッパーの言葉にシャドウが反論する。
 いやいやいや、思いっきりド初心者ですから!!
「思い切ってノードつー手もあるな。高けーけど」
 なんだかよくわからない単語が飛び交ってる…… 何でみんなそんなに食いつきいいのよ…… みんな結構音楽好きなんだ…… 私もクラッシックは好きだけどもっぱら聞くだけオンリーだし…… ってそんなこと考えてる場合じゃないってば!
「ちょ、ちょっとまってくださ〜い、私ホントはキーボードもピアノも弾けないんです――――っ!!」
 その声に一同静まりかえってスノーを見た。
「マジで?」
 リッパーがスノーに聞いた。
「はい…… 鍵盤のある楽器なんて小学校のピアニカぐらいです……」
「でも、スノー昼間のりすに自分から言っちゃったんでしょ? キーボード担当って」
 スノーの言葉にララがそう聞いた。
「あ、あの時は、その…… 目が見えなくても出来そうな楽器って考えて、とっさにそう言っちゃったんです…… ゴメンナサイ……」
「そうだったのか……」
 そう言ってシャドウは長いため息を吐いた。聞いたララも困った顔でため息を吐く。
「じゃあさ、なんか他に出来る楽器ってあるか?」
 と言うシャドウの問いに、スノーはおずおずと答える。
「触ったことがあるのは、カスタネットとタンバリン、トライアングル…… それに小学校の時のクラス発表会でやったシンバルと…… あ、あと音楽の授業で使ったリコーダーぐらいですかね」
 スノーは自分の使ったことのある楽器を指折り数えながら上げていった。
「9割が単音打楽器か……」
 とシャドウがこぼした。
「ステージの隅っこにカスタネット持って立たしたらどうだ? マスコットみたいに」
 とリッパーが笑いながら言った。
「そんなのネタにしか見えん。第一スノーは「キーボード担当」って言っちゃってるんだぜ、友達に。まあ、幸いキーボードだ。最悪プログラム演奏をあらかじめ仕込んで、本番は弾いてるフリすれば何とかなるだろう」
 シャドウはそう言って考え込む。だがそこに、ララが口を挟んだ。
「そんなんじゃ面白くないわ!」
 ララがいつになく真剣な表情で言った。
 ちょ、ちょっと待ってララ! 『面白くない』とかって意味わかんないからっ! お願いだからもう余計なこと言わないでよ〜っ!
「一緒にプレイしてこそ、感動があるんじゃないの? 自分で弾くから魂が籠もるんじゃないの? プログラムの演奏で、観客の心に何か伝わると本気で思ってるの?」
 そのララの言葉に一同静まりかえった。
「下手でも一生懸命、魂込めて演奏する…… バンド魂ってそう言うもんでしょ? スノーは絶対自分で弾くべきよ、それがアマチュアバンドが観客に曲を聴いて貰う最低限の礼儀だとあたしは思うんだ。『決して仲間を見捨てない。一人の願いはチームの願い』いつでも全開の本気モード! それがあたし達『ラグナロク』じゃないっ!!」
 テーブルの他のメンバーは、そのララの言葉に、雷に打たれたように痺れていた。
 か、かっこいい…… 
 ってそうじゃなくて、何こんなところで力説してるのよララ―――――っ!
「いや、あのですね、その、バ、バンド魂とかって……」
 一瞬意味無く感動してしまったスノーだったが、慌てて訂正しようとそう言いかけた時、リッパーの言葉で遮られた。
「悪りぃ、ララ。俺が間違ってた。ララの言うとおりだよ」
「ああ、そうだな。『とりあえず』なんて思ってた自分が恥ずかしくなった、なんか大事なこと忘れてた気がする…… たまには良いこと言うな、お前!」
 シャドウもリッパーの言葉にそう同意した。
 え? ええっ? シ、シャドウ! そこ恥ずかしくならないで良いからっ! このまま行ったら恥掻くの私なんだってば〜っ!!
「フ〜っ! 流石はララちん、ナイスソウルっ! ミーはベリーインプレシードしたネ」
「バンド魂…… 懐かしい響きだ……」
 サムのトーンの高い声に続いて、口数少ないサモンも目を閉じて頷く。
「あ、あのねみんな、わ、私は別に観客に何か伝えようとかって……」
 とスノーは何かを言いかけるが、スノーの言葉は誰の耳にも届かなかった。
「あたしも感動しちゃったわよ〜 う〜ん、青春って感じ! いいわね〜! あたしもなんだか出たくなっちゃう。超合金かなんかで出来たギターとかってどっかに無いかしらね」
 ドンちゃん…… それもうギターじゃないからきっと……
「そう? いやあたしもね、今ちょっと自分でも良いこと言ってるかな〜って思ったんだ」
 ドンちゃんの言葉にそう笑いながら答えるララ。日頃言動を褒められる事の少ない彼女だからか、少し照れたように頭を掻いた。
 みんな何でそんなに熱くなってるの!? 誰か止めてよこの流れ―――っ!?
 そう心の中で絶叫するスノーに、ララがポンと肩を叩いて言った。
「じゃ、スノー、そう言うことだから」
 どういう事ですか――――っ!
「ちょ、ちょっと待……」
 そう反論し掛けるスノーに、まるで計ったかのようなタイミングで彼女の密かな想い人から声が掛かった。
「俺、リアルじゃさ、たぶん言葉にならんだろうから今言っておくよ。急な話で最初は戸惑ったけど、他ならぬリーダーの為だ、俺も久しぶりだし、一緒に頑張ろうな、スノー!」
 そういってスノーに笑いかけるシャドウの顔に、昨夜の夢で見た顔が重なり、スノーはドキドキして見つめ返した。そして結果的にこの言葉が彼女にとどめを刺すことになる。

『俺はスノー……いや、雪乃の事が……好きなんだ……愛してる』

「あ、は、はい、私も……」
 あ、あれ? 私今なんて言われたんだっけ…… 
 あれ―――――っ!?
「よく言ったわスノー、さっすが『白銀の魔女』根性あるよ〜 よ〜し、なんだか燃えてきた、特にスノーは猛特訓になりそうね!」
 な、何でこんな事に……っ!
 思えば昨日の夢から変なことばかり…… ううぅっ…… ララに相談するんじゃなかった……
 後悔先に立たずの意味を噛みしめる雪乃だった。
「決意も固まったことだし『沢庵』名物、『ビネオワ乾杯』決めようよ! あ、すいませ〜ん、さっき注文した46番『ビネオワ』7つまだ来ないよ〜っ!」
 と歩いているNPCの店員に先ほど注文したビネオワを催促するララ。程なくしてビネオワがやってきて、皆に杯を回した。
 一同妙なテンションで盛り上がる中、一人放心状態のスノーにララが声を掛けた。
「じゃ、リーダー、『ラグナロク・ニア』の結成を祝って乾杯宜しくっ♪」
 あはは…… ほんとのお酒だったら酔っぱらって忘れちゃうんだけどな……
「みなさん…… がんばりましょうねぇ…… はは……」
「「かんぱ〜いっ!」」
 力のないスノーの声とは裏腹、嫌にテンションの高い乾杯コールが響き渡った。スノーは泣きそうな気持ちでその光景を見ながら、やがて「どうにでもなれっ!」と思い、手にした酔えるはずのない酒を一気に飲み干すのだった。
 今日のクエスト、中止にしよう…… グスンっ


第2話 仰天! 美由紀の変身!?


 次の日の放課後、雪乃は智哉、マリアを伴いサムから紹介された御茶ノ水にあるスタジオに向かった。昨日セラフィンゲインの帰り、サムが早速知り合いに連絡を付け予約を入れてくれたのだった。
 智哉は一端実家に戻り、自分のギターを持ってくると言うので、御茶ノ水駅にて待ち合わせをし、それから3人でスタジオに向かったのだった。
「でもサムって顔広いんだね、この業界」
 スタジオに向かう途中、マリアが感心したように呟いた。
「本当に…… 昨日の今日で予約入れられると思ってませんでした。しかも本番までずっと使い放題なんて……」
 雪乃もそのマリアの言葉に同意して応えた。
 何でもサムはそのスタジオのオーナーと親戚だとかで、6つあるスタジオの内、倉庫として使っていた部屋を格安で借りれるよう話を付けてくれたらしい。しかも中の置いてある機材は去年すっかり処分したらしく、本当なら今年からスタジオとして貸し出す予定だったそうだ。そこにタイミング良くサムから話しが来たとのことだった。短期間だけど気兼ねなく使えるというのが思いっきり初心者の雪乃にはありがたい限りである。
「しっかし、あんたがギターケース持ってるのは似合わないわね〜」
 マリアが後ろから付いてくる智哉を振り返り言った。
「お、お、大きな、お、おお、お世話だ」
 そう言う智哉の声を聞きながら、雪乃は頭の中でギターを手にしたシャドウを思い浮かべる。真っ黒な鎧姿に同色のマントで、さらに同じく漆黒のギターを下げる姿が雪乃の
頭の中に浮かび上がっていた。
 リアルのカゲチカ君ってシャドウの時とはギャップが激しいって聞いたけど、どんな感じなのかな……
「あ、あそこ! サンちゃんとリッパーだ。お〜い!」
 とララが正面に見える雑居ビルの前にいる小柄な男と法衣姿のお坊さんに手を振った。「ど、どうでも、い、いい、けど…… サ、サ、サンちゃん、あ、あ、あの姿で、ド、ド、ドラム、た、叩くのか?」
 そうどもりながら智哉が呟いた。だが、お坊さんの姿を見たことがない雪乃は、その姿が想像できなかった。
「2人とも、もう来てたんだ」
「さっき着いたところだよ。サモンのところでドラムセット乗せて車でな」
 マリアの質問にリッパーはそう答えて後ろに路上駐車してある軽のバンを指さした。しかしその軽バンの後ろには何も乗っていなかった。そしてポケットから鍵を取り出し、ララに見せる。
「さっきサムが来て鍵をくれたんだ。俺達は一足先にサモンのドラムセットを入れさせて貰ったよ」
「ふ〜ん、で、サムは?」
「なんかこれから仕事があるつーんで鍵渡したら行っちまったぜ? それにしてもリアルのあいつってスゲーカッコしてんだもん、さっさと帰ってくれて逆に良かったよ。鍵貰ってるときなんかも、なんか非合法のドラックの受け取りと疑われるんじゃないかって思ってさ」
 リッパーがそう言って肩をすくめる。
 一体どんなカッコだったんだろう……
 雪乃はそんなリッパーの言葉を聞きながらそう思った。他の人はリアルで会うときの、その人のギャップを見ることが出来るのだが、リアルでは盲目である自分は当然見ることが出来ず、少し寂しく思えるのだった。
 そんなことを考えていると、ララから声が掛かった。
「あれ? 雪乃そういや楽器は結局どうすることにしたの?」
「ああ、私は美由紀さんに頼みました。彼女昔ピアノやシンセの教室で講師をやっていたことがあるんですって。相談したら私の特別講師役を買って出てくれました。今日折戸さんと御茶ノ水でキーボードを買って、そのままここに持ってきてくれるそうなんですが……」
 そう言う雪乃の耳に、聞き慣れたなじみのエンジン音が聞こえてきた。
「あ、どうやら来たみたいですね」
 目が見えない代わりに、雪乃の聴力は並はずれた物がある。集中して注意深く聞けば、知り合いなら足音だけでその人物を8割方当てられるほどだ。加えて記憶力も抜群で一度聞いた声なら絶対忘れないという特技もある。
 その雪乃の耳と記憶力を証明するかのように、タイミング良く雪乃の専用車である『バンプラ』が通りの向こうから現れ、雪乃達の前に停車した。そしてその助手席からジーンズにボタンダウンシャツ、そしてハーフコートといったラフな姿の女性が、長い黒髪をなびかせながら降り立ち、雪乃にお辞儀をした。
「お待たせいたしました、雪乃様」
 世羅浜家の使用人であり、雪乃専属のお世話係である疾手美由紀【ハヤテ ミユキ】だった。
「あ、美由紀ちゃんだ、久しぶり〜!」
 とその美由紀にマリアがそう声を掛けた。流石に呼び捨てではない物の、本日でまだ2回目の顔あわせにもかかわらず、本人に了解も取らぬままファーストネームでちゃん付けするマリアだった。流石は完全自分中心主義、ビジュアル系悪魔だった。
「これはこれはマリア様、それにカゲチカ様も…… 先日は大したおもてなしも出来ませんで、申し訳ありませんでした」
 マリアに負けず劣らない高身長がすらりと伸びたジーンズを引き立てる。長い黒髪に切れ長の目元が、まるで日本人形のような顔を演出している。恐らく智哉達とそれほど変わらない年齢であるにもかかわらず、やはり良家に仕える使用人という事が影響しているのか、落ち着いた雰囲気で実年齢より1,2歳上に見え、またその雰囲気が『出来る女性』というか、キャリアウーマン的な印象を醸し出していた。
 口元に上品な笑みを浮かべつつ、美由紀はそう言いながらマリアと智哉に頭を下げた。
 そうこうしている内に、運転席から降りた折戸は後部座席から段ボールに梱包されたキーボードを降ろしていた。
「とりあえず私の独断と偏見で選びました。一応鍵盤には点字を付けてあります。もし使いづらいようであるなら明日また別の物をご用意いたします」
 そう言う美由紀に雪乃は微笑みながらこう答えた。
「私は善し悪しとかわかりませんし、美由紀さんが選んだ物だったら大丈夫でしょう。無理言って済みませんでした。折戸さんもありがとうございます」
「いえいえ、滅相もございません。それで、どちらにお運びいたしましょう?」
 折戸はその雪乃のその言葉に、人の良さそうな笑顔でそう聞いた。
「ああ、こっちだ。地下なんだ。案内するぜ」
 そう言ってリッパーとサンちゃんが、目の前の雑居ビルの横手にある階段を下りて案内する。智哉達他のメンバーもその後に続いて階段を下りていった。
 階段を下りると、少しひんやりした空気が肌を触り、若干カビ臭い感じがするが、それほど気にならなかった。階段の目の前にアルミの扉があり、その向こうにはPタイルが張られた廊下があって、壁に3つの扉が並んでいた。リッパーはその一番奥の扉を開き皆を招き入れた。
「わぁ…… 案外広いじゃない♪」
 とマリアが率直な感想を漏らした。部屋にはすでに照明が点灯していて地下とは思えないぐらい明るかった。畳15畳ほどのスペースで、一面に薄いグレーの直塗り壁に同じ色の天井、正面の壁には一面に鏡が貼られ、そしてその隅に先ほど運び入れたというサモンのドラムセットが鎮座していた。その奥にはアンプやスピーカー、マイクやエフェクター類が数台並んでいる。
「あ、あ、あの、アンプとかって?」
 智哉がその機械類をさして聞いた。
「いや、サムが急遽用意してくれたみたいだぜ。俺も自分のベース用のを持ってきたんだけど、こっちの方がイコが多くて良さそうだから使わさせて貰おうと思って降ろすの止めたんだよ」
 とリッパーが智哉に説明した。智哉は「ふ〜ん」と呟き、自分のギターケースを置いてジッパーを開いた。
 一方折戸は部屋の隅の方に持ってきたキーボードの段ボールを置き、雪乃に声を掛けた。
「それでは雪乃様、疾手さん、また帰られる頃ご連絡下さい。私はこれで一端戻ります」
「あ、はい。ありがとうございます」
 雪乃はそう言って折戸を見送った。その傍らで美由紀もお辞儀を返すと、早速キーボードを段ボールから出し、一緒に持ってきた箱からスタンドの部品を取り出し組立始めた。
「一応ローランドをチョイスしてみたのですが…… アンプ類もローランドみたいです、相性良いかもしれませんね、雪乃様」
 美由紀はキーボードスタンドを組立ながら部屋の奥の機器類を見てそう言った。しかし雪乃には、何の事だかさっぱりわからなかった。
「私、楽器のことさっぱりで…… それにだんだん不安になってきました……」
 美由紀の傍らで雪乃がそう不安そうに呟いた。
「大丈夫です雪乃様、その為に私がおります。ただ、後3週間しかないので、不肖ながらこの疾手美由紀、必ずや雪乃様が、世羅浜家の名に恥じない演奏が出来るよう、心を鬼にしてビシビシ指導いたしますからそのおつもりで」
 スタンドを組み立て終え、その上に新品のキーボードをセッティングした美由紀はそう雪乃に宣言した。
「は、はあ……」
 美由紀さん、普段は優しいんだけど本気になると恐いんだよなぁ…… 妥協を許さないと言うか、中途半端とか嫌いだし……
 そう思うと、どんどんげんなりした気分になっていった。するとその時、そんな雪乃の心の内を見抜いたかのように、美由紀が雪乃に耳打ちしてきた。
(雪乃様、これは雪乃様の想いを伝える、いわばチャンス…… 頑張って弾けるようになれば、雪乃様の想いは、必ずやカゲチカ様に届くはずですよ)
 その美由紀の言葉に雪乃はビックリして顔を赤らめた。
「み、美由紀さん、何を言って……!?」
 雪乃は周りに聞こえるんじゃないかと冷や冷やして美由紀に言った。
(その想いを曲に込めて弾くんです。カゲチカ様のこと、お慕いしておられるのでしょう?)
「そ、それはその…… もちろんですけど……」
(なら大丈夫、雪乃様なら出来ます。それに本番はバレンタインデー…… 殿方を恋の魔法に掛けるにはまたとない機会。女の子にとっては奇跡には事欠かない日じゃないですか!)
「でも、私超初心者だし、想いを込めて弾くなんて……! かといって告白も絶対出来ないチキンガールだし……」
(初めからそれでは成る物も成りませんよ! 雪乃様、音楽は時として言葉を越えます。言葉で伝えることが難しくても、音楽ならそれ以上の想いを伝えることが出来る…… 昔私が先生から聞いた言葉を、雪乃様に贈ります)
 音楽は言葉を越える…… そんな物なのだろうか…… いまいちピンと来ないんだけど……
 だが、雪乃はその美由紀の言葉に、胸を支配していた不安が少し和らいだ様な気がした。
「頑張ってみようかな…… 私」
「その意気ですよ、雪乃様」
 嬉しそうに言う美由紀の声に、雪乃も自然に笑みがこぼれた。そしてふと思ったことがあった。
「美由紀さんも、今の私と同じように、言えない気持ちを音楽にして誰かに伝えるなんて事があったんですか?」
 雪乃の質問に、美由紀は一瞬考え、そして苦笑しながらこう続けた。
「昔の話ですよ……」
 やっぱり! 
 少ししか違わないはずなのに、自分よりもずいぶんと大人びた印象を受ける美由紀だったが、今は凄く近い存在に感じて嬉しくなった。
「私の場合、結果は聞かないでくださいな」
 美由紀はそう言って、少し照れたように笑った。雪乃はその表情は見えなかったが、その声で美由紀がどんな表情をしているのか目に見えるようだった。
「でも、私の想いは届いた…… そう信じています」
 そう言う美由紀の声は、雪乃はどこか誇らしげに聞こえていた。そんな美由紀を雪乃は凄く可愛いと思った。
 すると部屋の隅のスピーカーから、「キュィーン」とギターの弦を弾く音が流れてきた。智哉が持ってきた自分のギターを繋いでチューニングを始めていた。
「ストラトキャスターか……」
 リッパーが智哉の黒塗りのギターを見てそう言った。
「レ、レ、レスポール、よ、より、キ、キ、キャスター、の方が、ぼ、僕に、あ、あってるん、で、です」
 クロマチックチューナーを睨みながらペグを巻きつつ智哉は数回弦を鳴らして音を確かめる。正月休みに実家に行ったときに久々に、弦を張り替えて合ったのでとりあえず弦の張り替えはし無くて良さそうだった。
 フィンガーボードに指を走らせ、音の流れを試して智哉は久々に感じる楽器の感触を味わった。
「ねえ、カゲチカ、なんか弾いてみてよ」
 その様子を見ていたマリアが智哉にそう声を掛けた。
「え、ええ? な、なんで……」
「良いじゃ〜ん あんたのそんな姿初めて見るんだもん、かる〜くで良いからさぁ」
 尚も渋る智哉に、マリアは尚も催促する。
「雪乃も聞いてみたいよね? カゲチカのキターね〜」
 カゲチカ君の弾くギターの音…… 確かに聞きたい♪ でもかじった程度って言ってたけどどのぐらい弾けるんだろう?
「ええ、私もちょっと聞いてみたいですぅ♪」
 雪乃もそう智哉に言った。智哉は少し困ったような顔で答えた。
「ブ、ブ、ブランク、ある、か、ら、あ、あまり、う、う、まく、弾けない、かも、し、しれないけど……」
 そう言って智哉はピックを弦に滑らした。スピーカーから猫の鳴き声の様な音が漏れる。
「じ、じゃあ、軽く、か、か、肩ならしに、お、お、オールデイズ、か、から……」
 そう言って智哉は足で軽くリズムを刻むとフィンガーボードの指が弦の上を走り、右手のピックが弦の上で弾けた。
 スピーカーから軽快なアップテンポのメロディーが流れだし、智哉のギターの音が、スタジオ全体を狂おしいまでに振るわせる。
 すご……っ!!
 音がまるで自分に向かって飛び込んでくるような感覚に襲われ、雪乃は言葉を失った。
 智哉の指がフィンガーボードの上を踊るたびに紡がれるメロディーに、雪乃は心をわしづかみにされる思いだった。
 その曲は雪乃も知っている、50年代のアメリカロックシーンを代表するチャックベリーの名曲『Johnny B. Goode』と言う曲だった。
 凄い上手いっ! っていうか上手いなんてモンじゃないよっ! これがかじった程度なんて絶対うそ――――――っ!!
 素人である雪乃でさえ、確実に上手いとわかる智哉のギターソロプレイ。元の曲を所々自分なりにアレンジして、時にはコミカルに、時には力強く、時には繊細にとその音色を変化させていく。しかも雪乃はエレキギターの演奏自体、こんな近くで、しかも生で聞くことなど生まれて初めての経験で、その迫力に雷に打たれたような衝撃を受けた。しかもそれを演奏するのは、誰でもない雪乃の想い人、智哉なのだ。もう雪乃の頭の中には、黒い鎧姿のシャドウが、真っ黒なギターを格好良く演奏するイメージであふれかえっている。
 ふと気が付くと、隣にいる美由紀が足を叩いてリズムを取っている気配が伝わってきた。
 すると突然、そこにドラムの音が響いてくる。サモンが智哉に触発されドラムを叩きだしたのだ。すると間髪入れずにリッパーもベースで追走し始めた。智哉のギターの音が、それに呼応するかのようにさらにリズムカルにはね回る。すると……

「―――――Where lived a country boy name of Johnny B. Goode !He never ever learned to read or write so well 〜♪」
『チャックベリー Johnny B. Goodeより』

 突然マリアがマイクを手に歌い出した。元々ハーフで、しかも幼い頃から横須賀基地で育っただけに英語が堪能なマリアはよどむことなく自然に歌を曲に乗せていく。そしてその歌声は、確かに自分で言うだけのことはあり、透き通るような透明感と彼女らしい力強さとがミックスされた天声だった。
 智哉のギターの音が弾み、リッパーのベースがそれを押し上げ、サモンのドラムがそれを加速させ、マリアの歌声が全ての音を昇華させていく……
 智哉のギターソロから始まり、いつしかそれはみんなのセッションを誘発し、雪乃と美由紀だけの贅沢なミニライブと化していた。
 音が曲という波に乗り、歌が陽光となって輝き弾けていく。雪乃は初めて超間近に聞く生の楽器の音と歌の競演に酔いしれた。
 みんな、凄すぎるっ! そしてなんて楽しそうなんだろうっ!! もうさいこーっ!!
 気が付くと自然に体が揺れ、足が床にリズムを刻み、曲に合わせて両手が手拍子を弾けさせていた。そんな自分に驚きつつも、雪乃はそれが楽しくて仕方がなかった。
 そして曲が終わり、再びスタジオ内に静けさが戻ったが、雪乃はしばらくその余韻から抜け出せずにいた。
「ふ〜っ! 気持ちよかった〜! さいこーっ!! カゲチカ、あんたすっごい上手いじゃない! ちょっとビックリっ!!」
 マリアがそう智哉に声を掛けた。すると雪乃の隣に立つ美由紀も頷いて言った。
「確かに…… 失礼ですが、こんな場所でこれほどの演奏が聴けるとは思っておりませんでした、雪乃様」
 ほんとだよ〜! マリアさんの歌声も、リッパーとサンちゃんの演奏も、それになんと言ってもカゲチカ君超上手い! うわ〜っ、もう惚れ直しちゃうよ〜っ!!
「おお、マジでビビったぜ、思わず乗せられちまったよ。俺が昔組んでたバンドのギターの奴よか上手いぜきっと!!」
 とリッパーも驚いたように智哉に言う。智哉は少し照れたように頭を掻きながら言った。
「こ、高校の、とき、け、軽音部の、し、知り合いに、た、た頼まれて、む、無理矢理、やらされて、ま、ま、毎日、やってたら、お、お、面白く、な、なって…… さ、3年間、か、欠かさず、ひ、ひ、弾いてたら、こ、こう、なった、んだ」
「へ〜、あんた軽音部だったんだ?」
「あ、い、いや、り、臨時の、だ、代役で…… け、結局、バンドは、ビ、ビジュアル、じ、重視、だ、だったから、ぼ、ぼ僕が、ス、スス、ステージに、立つ、こ、こ、事は、な、なかった、け、けどね」
 マリアの問いに智哉は「はは……」と照れ笑いをしながら答えた。
「それだけのテクがありゃ、他のバンドでも十分やってけるぜ。他から誘いとかって無かったのかよ?」
 リッパーは不思議そうにそう聞いた。
「ひ、ひ人前で、ひ、弾いた事、な、な、ななかったし、そ、そもそも、そ、そそ、そんな、ど、ど、度胸も、な、なな、なかったから」
「もったいねーな、それだけの腕があって…… でも、本番は大学の講堂でみんなの前でやるんだぜ? 大丈夫かよ?」
「い、い、言わないで、ほ、ほ、欲しい。き、き、緊張、す、するから」
 とそこへマリアが口を挟んだ。
「出来るか出来ないかじゃないわ、リッパー。『やるしかない』のっ! 元々カゲチカには拒否権無いから。あんた、死ぬ気でやんなさいよ!」
 元来人を追い込むことに掛けては非凡な才能を発揮するマリアである。そしてそれは、ただ単に『面白いから』という理由だけで動いている場合がほとんどで、それが智哉がマリアを『ビジュアル系悪魔』と恐れる所以である。
 そのマリアの言葉を聞いて智哉はため息を吐いた。その声を聞きながら、雪乃は智哉を巻き込んで本当に済まないと思った。
「で、でも、こ、こ、このメンバー、だ、だったら、だ、だ、大丈夫、かも、し、しれない。そ、それに、ほ、ほ、他ならぬ、リ、リ、リーダーの、た、た、頼み、だ、だ、だし」
「カゲチカ君……」
 カゲチカ君はやっぱり優しい〜っ! なんかもう嬉しくて倒れそう……
 智哉の言葉に雪乃の頭は、暴走気味でピンク色に染まり、ほとんどショート寸前であった。とそんな雪乃に冷や水を掛けるかのごとく、美由紀が耳打ちする。
(これほどとは正直思っておりませんでしたが、皆様と同格とまでは行かないにしろ、雪乃様には恥ずかしく無い演奏をして頂かなくてはなりません。仕方ありませんね…… 『猛特訓』どころでは追いつきませんので、『超特訓』で行きましょう!)
 はい――――――っ!?
(私もなんだか燃えてきました。爪が割れ、指の関節が悲鳴を上げようと鍵盤を叩き続けたあの日々が懐かしい…… その先に見える感動…… 雪乃様にも是非とも味わって頂きたいですっ!!)
 どんな練習よそれ―――――!!
「雪乃様、少々お待ちを……」
 そう言って美由紀は持ってきた自分の鞄をごそごそとまさぐり、眼鏡ケースを取り出した。そして眼鏡を掛けた後、シュシュでその長い黒髪を後ろ手にまとめ上げ、続いて取り出した小豆色のジャージの上着に袖を通す。そしてその手にはいつの間にか竹刀が握られていた。その様子を見ていたリッパーがぽつりと呟いた。
「なあ、あの人どっから竹刀出したんだ?」
 竹刀っ? なに竹刀ってっ!?
「あ、あの、み、美由紀さん?」
 と雪乃が恐る恐る声を掛けると美由紀は振り返った。赤いフレームの細い眼鏡の奥に、キラリと光る瞳が、異様な光を帯びている。雪乃はただならぬ気配を察知し、背筋が寒くなった。なまじ見えない方が怖さを増幅するようだ。
「やはり昔から何でも『形から入れば上達も早い』と申します…… 用意してきて正解でした」
 いえ、聞いたことがありません! てか上達しなければならないのは私の方で、美由紀さんが変身する理由がわかりませんっ!!
「教師と言えば眼鏡、特訓と言えば竹刀、そして師弟愛の象徴である小豆ジャージは外せません…… これは絶対的かつ普遍的な法則であり何人たりとも逆らえません。たとえ、雪乃様であっても」
 眼鏡? ジャージ!?
 い、意味わかりません! 全く持って何一つわかりませんからその法則っ!!
「雪乃様の不安はわかるつもりです。ですがご安心下さい。
 星飛雄馬に星一徹が居るように
 岡ひろみに宗方仁が居るように
 鮎原こずえに本郷俊介が居るように…… 
 雪乃様には私、疾手美由紀がおります。万事お任せ下さいっ!」
 全部スポコンじゃないですか―――――っ!? 逆に不安倍増ですよっ!! 美由紀さん私に何教える気ですかっ!?
「あ、あの美由紀さん? キ、キャラが……」
 そう言い掛ける雪乃を美由紀は制してこう言った。
「今から私のことは美由紀ではなく『コーチ』とお呼び下さい。私も敬称を略し、『雪乃』と呼ばせて頂きます」
 ダメだっ! つっこめる雰囲気じゃないっ! てか美由紀さんってスポコンヲタクだったんだ……
「み、美由紀さん、なんかちょっとちが……」
「コーチですっ!!」
 その言葉と同時に美由紀は手にした竹刀で床をドンっと突いた。雪乃は反射的に直立不動でその場に凍り付いた。
「カ、カッコイイ……」
 その美由紀の姿を見て、マリアがぽつりと呟いた。その呟きに智哉以下男子3人が反応して、少し距離を取ってマリアを見る。
 一方雪乃は心の中でマリアに文句を言っていた。
 マリアさん! 人ごとだと思って〜っ!!
「不安なときは、あの空に燦然と輝く星を見るのです。涙も許します、女の子ですからね。でも泣きたくなったらコートで泣くのですよ、雪乃!」
 ははは…… 私は一体どこで演奏するんですか……
 マリアから始まり、ことごとく人選ミスをしていると痛感する雪乃であった。
「なあ、ところで俺達、何の曲やるんだ?」
 とリッパーが智哉に聞いた。
「さ、さあ? そ、そ、そもそも、ジ、ジャンルも、き、き、き決まって、な、ないですね」
 と智哉が答えた。
「確かにジャンル決めないと、何コピーするか決められませんよね」
 サモンがスティックをクルクル回しながらそう言った。そこにマリアが割って入ってきた。
「コピー? 何言ってるのみんな。オリジナルで行くに決まってるじゃない。ジャンルはもちろんロックよ」
 相変わらず自分勝手なマリアがそう宣言した。他人の了解など端から取る気は皆無。世界は自分のためにあり、自分の周りを世界が回る。マリアはいつだってそうなのだった。
「流石にオリジナルは無理だろ! 作詞、作曲、編集に練習期間もあるんだぜ? どう考えても時間が足りないって。第一誰が作るんだよ?」
 リッパーがマリアに抗議した。智哉もその横で首を縦に振っている。だが、マリアは一端そうと決めたらよほどのことがない限り撤回しない。どんな手を使っても、自分のやりたいようにする。というか、最終的に周りがそうせざるを得なくなってしまうのだ。天性の『女王様』キャラである。
「やってみなくちゃわからないじゃない。いい、リッパー、私が出来ると思ったことに『無理』って言葉は付かないようになってるの。それにね、時間なんてもんは作る物なのよ。カゲチカ!」
 そうリッパーに言い放ち、マリアは続いて智哉を呼んだ。智哉は嫌そうな顔でマリアを見る。こういう時のマリアは、確実に難題を振ってくることを、彼は経験で知っていたからだ。
「今からあんた作曲担当ね。明日までに2曲作ってMDに録音して来なさい!」
 カラン…… 
 智哉の右手からピックが滑り落ち、床に当たって乾いた音を立てた。
「む、む無茶、い、い、言うな! ぼ、ぼ、僕は、さ、さ、作曲なんて、や、やったこと、な、なな、ないんだぞっ!」
「あたしも無いわ。でもあんたギター出来るんだからそれ使って作ればいいじゃない。エリック・プランクトンもギター弾きながら作ってたわよ。あたしTVで見たことあるモン!」
「ララ、『クラプトン』だ。ミジンコやゾウリムシじゃギター弾けねぇ……」
 とリッパーがマリアの微妙だが大きな間違いを指摘する。世界屈指の有名ミュージシャンも、マリアに掛かれば顕微鏡の中の住人になる。恐るべし、『ビジュアル系悪魔』
「ア、ア、アホか! あ、アッチは、そ、そ、それで、め、め、飯、く、食ってるんだ! ぼ、ぼぼ、僕と、く、く、比べる、い、い、以前の、もも、問題だろ!」
 リッパーの指摘をスルーし、マリアの言葉にそう反論する智哉だったが、マリアは意に介さないで言い放つ。
「そんなもん、気合いと根性よ。世の中ねぇ、その二つで大抵のことはクリアー出来るようになってるのっ!」
 無茶苦茶な論法だが、リアルの智哉がマリアに逆らえるはずもなく、がっくりと肩を落として智哉は降参した。
(とりあえず適当なの作って誤魔化そう……)
 そう心の中で呟いた智哉だったが、それを見抜いた様にマリアが追い打ちを掛ける。
「あんた、適当なの作ったらぶっ飛ばすわよ。半殺し…… いや、5分の4殺しの刑よ!」
 マリアさん、それほとんど死んでます……
 マリアの言葉に心の中でそうツッコミを入れる雪乃だった。
「ま、まあ、とりあえず作曲はシャドウがやるとして、作詞もシャドウがやるのか?」
 そのリッパーの問いにマリアは智哉を見る。その視線に、智哉は激しく首を振った。
「う〜ん、言葉もまともに喋れないカゲチカに作詞は無理そうね……」
 そう言ってマリアは考え込む。智哉は『それは関係ないだろっ!』とつっこみたかったが、それを言った結果は火を見るより明らかなので黙っていた。これ以上めんどう事を1グラムも背負い込みたくない智哉なのであった。
「しょうがないわね…… カゲチカの曲を聴いて、あたしと雪乃がそのフィーリングで詞を作るわ」
 ―――――はぁ!? マリアさん、何言ってるのっ!?
「マ、マリアさん、ち、ちょっと……」
「いえ、待つのです雪乃!」
反論しようとした雪乃を、傍らに立つ小豆ジャージ姿の美由紀が制した。そして雪乃に耳打ちする。
(これはチャンスです。自分の想いを歌詞に綴ることが出来るのです。ここは引き受けて損はありません)
(で、でも、マリアさんと一緒なんですよ? そんな自分の都合の良い歌詞なんて絶対出来ませんよ!)
 その雪乃の答えに美由紀は目を閉じて呆れたような表情を作った。
(これではダメね…… やる前からそれでは、到底想いは届きません。諦めた方が良さそうですね…… 悪いことは言いません。カゲチカ様のことはお忘れなさい。殿方は別に彼だけではありませんから…… もっと相応しい殿方がきっと現れます)
 顔は見えないが、その声には明らかに失望が含まれていた。だが、雪乃は美由紀を失望させたことより、最後の言葉が聞き捨てならなかった。
(……『もっと相応しい』ってどういう事ですか?)
 その美由紀の言葉に、雪乃は自分の思い人である智哉への侮辱が含まれているように感じたのだった。一方美由紀は心の中で『しめた!』と思った。しかしその想いは一切表面には出さずに続けた。
(言葉通りの意味です。私は常々、あの方はあなたに相応しくないと思っておりました。朋夜様亡き今、世界で5本の指に入る大企業、セラフ・マゴイットグループの後継者である方の想い人としては、あまりにも不釣り合い…… 一時の迷いと思っておりましたが、あなたがそのようなお考えなら……)
「お黙りなさい!!」
 突然雪乃は大声を上げた。周りに居たマリアや智哉達もビックリして雪乃を見た。
「それ以上の侮辱は…… 許さない。喩えあなたでも……っ!」
 雪乃は静かにそう言って見えない目で美由紀を見た。その姿は、セラフィンゲインでの彼女の異名、戦慄の『絶対零度の魔女』を彷彿とさせた。
 雪乃は自分より、智哉を侮辱された事に怒りを感じたのだ。そう思った瞬間、雪乃は考えるより早く言葉に出していた。一方美由紀はその姿にしびれにも似た感情を味わいつつ、自分の主を見る。
「いいでしょう。引き受けます。私とマリアさんで最高の詞を書いて見せますっ!!」
 マリアに向き直り、雪乃はそう言った。そこに美由紀がまた耳打ちした。
(それでこそです。お見事でした…… 無礼をお許し下さい)
 美由紀の言葉に、雪乃は急に我に返った。
 えっ? あれ? あれ――――っ!?
 私、まんまと乗せられてるじゃな――――――いっ!?
「な、何だかよくわからないけど、これで決まりね。オッケー雪乃、最高の詞を2人で作ろうよ! カゲチカ、あんた責任重大だよっ!」
 そのマリアの声を聞きながら、雪乃はその場にへたり込みそうになった。
 私、こんなキャラだったっけ……
 そう何度も自分に問いかけ続ける雪乃だった……


第3話  『曇天! 作詞の心得?』


 次の日のお昼、智哉、マリア、雪乃の3人は学食で昼食を取っていた。
「こ、こ、これ、き、き、昨日、つ、つ、作ったき、き、曲の、え、え、MD」
 智哉はそう言ってマリアにMDを渡した。マリアはキノコクリームグラタンの最後の一口を口に運びながらそのMDを受け取ってにんまりした。
「ほほう、関心関心。ちゃんと作ってきたようね」
「と、と、とりあえず、1曲、メ、メインの、フ、フ、フレーズと、さ、さ、サビの、ぶ、部分、だ、だけ」
 智哉の答えにマリアは少し不満そうに言う。
「え〜、2曲って言ったじゃ〜ん」
「む、む、無理言うな、こ、こ、これだけでも、け、け、今朝の、さ、3時、まで、か、か、かかったんだ!」
 智哉のその答えにマリアは「しょうがないわね」と呟き、もう一つの皿にあるトマトスパゲティを口に運んだ。このトマトスパでもう3皿目のランチである。マリアの胃袋は一体どういう構造をしているのか開いて見てみたい衝動に駆られる智哉であった。
「1曲でも凄いですぅ、さすがはカゲチカ君です」
 雪乃はそう智哉を褒め称える。自分が楽器ド素人なだけに、本気で感心していた。雪乃は見えるはずのない瞳を輝かせて智哉を見ていた。
「どれどれ…… 早速今朝まで掛かったっていうその名曲とやらを聴いてみようか」
 そう言ってマリアは右手に持っていたフォークをくわえながら、コートのポケットをまさぐりMDプレイヤーを取り出すと智哉から受け取ったMDをセットした。
「あたしは未だにコレ、ホントはipodが欲しいんだけどね〜」
 と言いながらイヤホンコードを伸ばし、片方を自分の耳にはめ、もう片方を雪乃に渡した。
『食べ物減らせば買えるんじゃねぇか?』と智哉は心の中でつっこむが、それが無理なのはわかっているのであえて何も言わなかった。
 雪乃が片方のイヤホンを耳にはめたのを確認すると、マリアは再生ボタンを押した。
 程なくして、そのイヤホンから、ギターの音が流れてきた。雪乃は昨日聴いた智哉の弾くギターを思い出しながら、イヤホンから流れてくる曲に耳を澄ました。
 それは昨日聴いた、あの弾けるような楽しい曲調ではなく、力強いが、どこか切なくなるような、ロック調のバラードだった。
 時には狂おしいほど激しく、そして時には締め付けられるように切なく響く智哉のギターの音色……
 雪乃はそのギターの音色が奏でるフレーズに酔いしれた。いや、そのフレーズが自分の心にシンクロする感覚に酔ったという方が正しい表現かもしれない。
 そして唐突にその音が止んだ。しかし雪乃の頭には今聴いた曲が頭の中に何度も繰り返し響いていた。
 なんか…… この曲良いかも……っ!
 普段クラッシックぐらいしか聴かず、ロックやポップスなどはあまり聞かない雪乃だったが、その曲はすんなりと受け入れられる、優しさのような物が含まれている気がした。
「ロック調のバラードって感じ…… 悪くないわね」
 どうやらマリアも気に入ったようだった。マリアの言葉に雪乃も頷いた。
「ええ、なんかとっても切なく感じました。こんな曲を1日で簡単に作っちゃうなんて、カゲチカ君凄いですぅ!」
 そう感激した様子で言う雪乃に、智哉の脳はトロトロ状態だった。
「い、いや、かか、簡単じゃ、な、な、なかった、で、ですけど、ね。こ、ここ、これから、サ、ササ、サムに、き、きき、聞いてもらって、へへ、編集、し、し、しなきゃ、な、なな、ならない、し」
 智哉は照れながらそう答えたが、内心『これからが大変なんだよな』と考えていた。
 今マリアと雪乃に聞いて貰ったのは、あくまでメインフレーズとサビ部分である。これからコードやスケールを繋いだり変化させたりして編集して行かなくては曲にはならないのだ。コードやスケールの繋げ方一つで、全く違う雰囲気の曲になってしまうからである。
 このあたりは編集者のセンスに大きく依存する。智哉の場合、ただひたすらいろんな楽曲をコピーしていたので、ある程度の『コード進行』や『スケールの変化の付け方』などを、その時の経験から感覚でわかっているだけで、酷く偏った物になってしまっていると自覚していた。しかもアメリカンロックを多くコピーしていたこともあって、その繋ぎ方には自己流の独特な『癖』があった。この部分はどうしてもその人本人の好みが出てしまうので、どうしても曲調が単調になってしまう事が多い。そう言った理由で智哉はDJとして日頃から曲のアレンジやミキシングを手がけるサムにその編集を頼んでいたのだった。
 本来はその編集の作業が終わった段階で歌詞付けした方が良いのかもしれないが、今回は時間が無く、またマリアの『鉄板指令』があったこともあり、智哉は歌詞担当である2人に聞いて貰い、『曲のニュアンス』見たいな物を感じ取って貰うつもりで、あえて編集前の元音を録音してきたのだった。
「とりあえずこの調子で、次の曲も頼むわよ」
 とマリアは軽く言った。智哉はそのマリアの言葉にため息をついた。もう一曲作るためには、また今日も徹夜しなければならないのである。
「じ、じ、じゃあ、さ、さ、ささっそく、サ、サ、サムに、へ、編集を、た、た、頼もう」
 智哉はそう言って席を立った。
「よ〜し、あたし達も歌詞作りがんばるぞ〜! ね、雪乃!」
 そう言うマリアに、雪乃は「はぁ」と力の無い返事をした。歌詞どころか、詩すら作ったことのない雪乃は不安で仕方がなかったのだ。しかしマリアはそんな不安は全く感じていないようだった。
「あれ? カゲチカ、そのエビフライ食べないの?」
 不意にマリアはカゲチカが残したエビフライをさしてそう言った。
「な、なんか、し、し、食欲が、な、な、無くなった、マ、マ、マリア、た、食べるか?」
「うん! あ〜ん……」
 マリアはそう言って口を大きく開けた。それを見て智哉は思わず動揺した。
「ば、ば、馬鹿、な、な、ななな何、やって……っ!?」
「何照れてるの? あんたの食べ残しなんだから食べさせてよ。はい、あ〜ん……」
 な、な、何やってるんですかマリアさんっ!?
「まま、全く、お、お前は……」
 智哉はそう言いながらエビフライの尻尾を掴んでマリアの口に運ぼうとした時、その腕を雪乃が掴んで自分の口に持っていった。見ている者が盲目であるという事を忘れさせるほど瞬間的な動作だった。

ぱくっ!

 雪乃はその智哉につままれたエビフライを自分の口の中に入れた。
「ああっ!?」
 それを見たマリアが驚いてそう言った。智哉も突然のその雪乃の行動に驚いて、残った尻尾の部分をつまみながら唖然とする。一方雪乃は口に入れたそのエビフライが思いの外大きく、詰め込むのに必死だった。
 もがっ!!
 声にならない呻きを漏らしつつ、我に返る雪乃。
 何やってのよ私は――――――っ!
「わ、私(もぐもぐ)エ、エビフライ(もぐもぐ)だ、大好き(もぐもぐ)なんです(もぐもぐ)っ!」
 口の中にエビフライを頬張りながら、必死にそう弁解する雪乃。衣が喉に支えそうになり、その目にうっすら涙が滲む。雪乃は、目には見えないが自分の目の前で智哉がマリアに『あ〜ん』をしてあげるという事がスルーできなかったのだった。
「だ、だからって、何も飛びつくこと無いのに……」
 マリアの言葉に、雪乃は恥ずかしさでいっぱいになった。
 た、確かにごもっともですぅ……
「で、で、でも、泣くほど、す、す、好き、なな、なんですね……」
「え、ええ(もぐもぐ)もう(もぐもぐ)子供の(もぐもぐ)頃から(もぐもぐ)だ、大好きで(もぐもぐ)ゴホ……っ!」
 そう言って咳き込み、コップの水でエビフライを喉に流し込む雪乃。もう必死である。
 ホ、ホントは海老苦手なんですけどね…… ううっ…… ほとんど咬まずに飲み込んじゃったけど、き、気持ちわるっ……!
 雪乃は子供の頃から海老が苦手なのだった。幸いアレルギーとかは無いのだが、海老やら蟹と言ったいわゆる『甲殻類』の甲殻の手触りがダメなのだ。手で触ったあの感触が、どう考えても『食材』として認められなかったのだった。
「そうなんだ〜 でも、それならそうと言ってくれればいいのに…… でも良家のお嬢様なのに割と庶民的な『子供舌』なのね、雪乃って」
 早くうがいしたいよ〜っ! でも……
 必死に脂汗を垂らしながら作り笑いを浮かべる雪乃は、今すぐにでも洗面所に行って歯磨きとうがいを心ゆくまで続けたい心境だったが、思いがけず智哉の『あ〜ん』をマリアから奪ったので、ちょっぴり嬉し恥ずかしな気分の雪乃であった。
「と、とにかく、これから歌詞を作らなくちゃ。私は今日の講義はもう無いのでこれから家に戻ります。マリアさん講義が終わったら私の家に来ませんか?」
 雪乃はコップのミネラルウォーターを飲み干し、マリアにそう言った。
「オッケー行く行く〜っ! てかこのまま行く〜!」
 とそこへすかさず智哉がつっこむ。
「バ、バ、馬鹿言うな。マ、マリアも、た、たた、単位、や、や、やばい、だ、だろ!」
 その智哉の言葉に頬を膨らますマリア。
「なによ〜 あそうだ、あんた代返してよ」
 マリアさん、それカゲチカ君じゃ無理だから…… てかそれ以前にカゲチカ君男の子だから……
 そう心の中でツッコミを入れる雪乃だった。
「じゃあ私は帰ります。マリアさん、また後で」
 と言って席を立つ雪乃をマリアが呼び止めた。そして自分のMDウォークマンから智哉のMDを抜き取ると雪乃に渡した。
「これ、雪乃が持っててよ。帰って聞いてイメージ沸かせといてね。あそうだ、美由紀ちゃんにも聞いて貰ってくれる? あの人なら良い感じのワード浮かぶかもしれないし」
 そう言ってマリアも立ち上がった。雪乃は「はい」と答えながらマリアからMDを受け取った。
 カゲチカ君の作った曲……
 雪乃は手のひらに乗ったMDの表面の感触を指で確かめながらぼんやりと考えた。
 カゲチカ君の作ったさっきの曲に、私が詞を乗せるのかぁ…… なんか2人の共同作業って感じで思いの外嬉しいかも……えへへ♪
 コーチ、私な〜んかやる気出て来ちゃいましたよぉ〜
 そう心の中で美由紀に言いながら、自然に口元が緩んでいると、マリアが不思議そうに訪ねてきた。
「雪乃、なにMD握ってニヤけてるの?」
 そのマリアの言葉で、雪乃は妄想世界から現実に引き戻された。雪乃は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら慌てて答えた。
「い、いえいえ、な、何でもないです。し、しかと承りましたっ!」
 な、何やってのよ私!
「雪乃ってさ、もっと取っつきにくいイメージがあったけどつきあい始めたら意外に面白いよね」
 ああ、私のキャラが崩れていく……
「で、でも、ぼぼ、僕はい、い、い今の、ゆ、ゆ、雪乃さんも、は、話し、や、や、やすくて、す、好きで、で、ですよ」
 ―――――――っ!!
 今確かに好きって言われた―――――っ!!!
 ああ、もう私、幸せすぎて倒れそう…… 
 妄想酔いでクラっときた雪乃は、座っていた椅子にもう一度座り込んでしまった。それを見ていたマリアと智哉は心配そうに声を掛ける。
「ちょっと雪乃、大丈夫!?」
 そう心配そうに声を掛けるマリアに雪乃は少し赤い顔で答えた。
「大丈夫です。ちょっと血糖値が低くて……」
 いや、代わりに幸せ数値が高すぎて平衡感覚がなくなったというか……
「え、そうなの? でも顔赤いよ? 熱あるんじゃない?」
 尚もそう心配そうに訪ねるマリアに雪乃は必死に答えた。
「い、いえ、いつものことなので…… 午後の講義に間に合わなくなったら大変です。2人とも行ってください」
 てか、今の私にそういうツッコミは無しの方向で……っ!
 そう心の中で叫びながら、雪乃は2人を見送った。そして一人残ったテーブルで、今の余韻に浸っていた。
 ラブソング…… ラブソングよ。ラブソングを作って、それをみんなで演奏する! 美由紀さんの言っていたことが何となくわかってきた。そしてキーボードを演奏する私に、ギターを弾くカゲチカ君が、そのラブソングを演奏しながら私を意識しちゃったり……うはっ!
 うん、良いっ! それすごーく良いっ!! いや〜んもうどうしちゃおうか私っ!?
 頭の中で暴走する妄想に照れまくりながら、学食のテーブルを両手でバンバンと叩く雪乃。そしてその様子を微妙なまなざしで見守る周囲の学生達…… その場にいた学生達の頭の中に、雪乃は『ちょっと痛い娘』と記憶されることになるのだが、無論雪乃は知る由もない……


 その日の午後、雪乃とマリアは世羅浜邸の雪乃の部屋で智哉の曲に付ける詞を考えていた。
「う〜…… ダメだ〜 今一瞬鳥肌立っちゃった」
 そう言ってマリアは自分の書いた詞を読んで書いていたレポート用紙を引きちぎると、ビリビリと破りごみ箱へ放り込んだ。そして体を掻きむしる仕草をする。
「ちょっとマリアさ〜ん、真面目にやりましょ〜よ〜」
 と雪乃は困った顔でマリアにそう言った。
「だってさ〜、『好きだ』とか『愛してる』とか…… 『愛』だ『恋』だなんて言葉書いてると痒くなってくるんだもん…… 大体あたしはそういうの向いてないのよね〜」
 と、自分から詞を作ると言っておきながら、まるで人ごとのように言い放つマリアの言葉に、雪乃はため息をつきながら、パソコンに打ち込んだ言葉を音声にしてリピートしてみる。だが雪乃もヘッドフォンから流れてくる自分が打ち込んだ言葉に妙なむず痒さを感じており、マリアと同じような心境で正直行き詰まっていた。とそこにマリアの手が伸び、雪乃の手元にあったノートパソコンを持ち去った。
「雪乃どんなの書いたの? ちょっと見せて〜」
 その言葉に雪乃は慌てて奪い返そうとするが、マリアはするりと雪乃の手を交わす。
「なっ……! ダ、ダメですよ〜っ! かえしてくださ〜いっ!!」
「なになに…… 『君の言葉で私はDOKI!DOKI! 頭KURA!KURA!……』わ〜! 雪乃女の子してる〜♪」
 わきゃー!! 恥ずかしいから読まないでー!!
「わーっ! 何で声出して読むんですかーっ!!」
 雪乃は顔を真っ赤にしてマリアからノートパソコンを奪い返す。その動作はやはり盲目と言うことを感じさせない動きだった。
「良いじゃ〜ん、ちょっとぐらい〜♪」
「良くないですーっ! それにずるいじゃないですか、私はマリアさんのは見えないんですから!!」
 と雪乃は口をとがらせてマリアに文句を言うが、マリアは涼しい顔でさらりと返す。
「それなら安心して、あたしまだ1行も書けてないから」
 そのマリアの言葉に仰天して雪乃はさらにマリアに言う。
「今まで何してたんですかーっ!」
 マリアと2人でここに座って、かれこれもう1時間以上経過している。その間だたの1行も書いてないマリアに比べ、雪乃は照れながらも恥ずかしい言葉でラブソングの詞を打ち込んでいたのだった。
「にゃはは、ゴメンね〜 いやもう全然浮かばなくて正直飽きてたのよ〜」
 こ、こ、この人って……っ!
 とそこへ、美由紀が紅茶を運んできた。
「お二人ともはかどっておいでですか?」
 美由紀はそう言いながらテーブルの上にある空いたカップに紅茶を注いだ。湯気と共に上品な紅茶の香りが漂ってきた。その香りに雪乃は鼻をヒクヒクとさせて美由紀に言った。
「良い香り〜 美由紀さんの入れる紅茶って本当に香りが良いですね」
 その言葉に美由紀はクスっと微笑えんだ。
「セイロン産とダージリン産のオレンジ・ペコをブレンドしてみました。先ほどのアッサム産のフラワリー・オレンジペコは独特の甘みがありましたが、こちらは香りが良いようですね。ゆったりとした気分を演出してくれます」
 と美由紀が解説する。美由紀は雪乃の気分に合わせて紅茶の葉を選定しているのだった。元々凝り性な事もあってか、そのマニアックなこだわりぶりが出ている。
「うわ〜 ホントだ、良い香り〜」
 とマリアがカップの上に鼻を近づけてその香りを堪能しつつ紅茶を口に含んだ。口当たりの温度も完璧で、紅茶特有の上品でまろやかな味わいが口いっぱいに広がった。
「ん〜 おいしい〜!」
 マリアのそんな言葉に、雪乃も嬉しくなり微笑んだ。
「美由紀さんの入れる紅茶は絶品なんですよ〜」
 そう言う雪乃に、美由紀は「ありがとうございます」と言いながらスライスレモンの乗った小皿をテーブルに置いた。先ほどはミルクだったが、今度はレモンティーのようだ。
「先ほどのアッサム産フラワリー・オレンジペコは独特の甘みがあるのでミルクを添えましたが、今回はレモンでお楽しみ下さい」
 その美由紀の言葉にマリアが首を傾げて美由紀に聞いた。
「紅茶って葉によってミルクティーかレモンティーにするか分ける物なの?」
 マリアのその素朴な疑問に、美由紀がお盆を抱えながら頷いた。一方雪乃はその瞬間、瞼を閉じて眉を寄せた。
 聞いちゃった…… マリアさん、美由紀さんに紅茶の話は聞いちゃダメ……
 心の中でそう呟く雪乃だったが、時すでに遅かった。
「もちろんです。それには紅茶の葉の等級から説明しなくてはなりませんね。
 等級(グレード)とはリーフの形状や大きさ別の分類の事です。これは品質の良し悪しとは関りなく、ただ単に茶葉の形状と大きさを表します。マリア様は紅茶にOP、FOP、BOPといった表示が記されているのをご覧になった事はありませんか? それが等級を表す表示です。
 紅茶として出来あがった茶葉は製茶途中の砕け具合によって、大きな茶葉から細かい粉状になった茶葉まで、いろいろな大きさのリーフが混ざった状態です。そのままでは商品として市場に出すのに適しません。細かく砕けた茶葉と大きな茶葉とでは最適な抽出時間が大きく異なるので、商品としてとても具合が悪いのです。
 そこで最後の仕上げとして、めの粗さが異なる"アミ"を幾つも組合せたふるい機にかけられ、大きさ別に等級分けされるのです。
 主な等級を挙げると、まずOP(Orange Pekoe)オレンジペコです。茶葉の形状としては一番大きい茶葉を指します。レモンやハーブなどと相性が良いです。またバラの花を散らしたローズティーなど、若干セレブ指向のティー向きでもありますね。
 よくオレンジの香りがする紅茶だと勘違いされている方も多いですが、違います。細くよじれた長い形状の茶葉を表す等級名です。オレンジペコと銘打たれて販売されている紅茶がありますが、オレンジペコという特定の種類の紅茶がある訳ではありません。オレンジペコは茶葉の大きさと形状を示す等級名なので、一口にオレンジペコと云っても、産地も収穫期も異なる無数のオレンジペコが存在します。もちろん香味も様々です。市販されている「オレンジペコ」と銘打たれた紅茶は、オレンジペコ等級の複数の茶葉をブレンドして商品名として「オレンジペコ」がつけられた紅茶です。
 次に上げるのがFOP(Flowery Orange Pekoe)フラワリー・オレンジペコです。
 これはFOPを"フォップ"と読まれる方がいますが、正式には『エフ・オー・ピー』です。OP等級並の大きさの茶葉で芯芽や若葉が多く含まれるものを指します。先ほどお出ししたのはこの茶葉で、芯芽や若葉が多いのでミルクとの相性がいいですね。
 そしてFBOP(Flowery Broken Orange Pekoe)フラワリー・ブロークン・オレンジペコ。これはFOPがひとまわり小さくなった茶葉を指します。
 BOP(Broken Orange Pekoe)ブロークン・オレンジペコ は"ボップ"ではなく『ビー・オー・ピー』と読みます。その名の通り、OP(オレンジペコ)になるのと同じ茶葉が細かく砕ければBOPになります。これも基本的に初めに上げたOPと同じなのでレモンティーやハーブティーに向いています。
 続いてBOPF(Broken Orange Pekoe Fannings)ブロークン・オレンジペコ・ファニングス はBOPより更に細かくなった茶葉を指します。同じFでも"FOP"のように頭に付けばそれはフラワリー或いはファインの略で、 BOPFのように末尾につく場合はファニングスの略で細かい茶葉という事になります。
 最後にD(Dust)ダスト。これは一番細かく粉状になった茶葉を指します。ダストというと、名前からして低級品というイメージがわきますが、実際はダストといってもピンからキリまであります。上質なダストはイギリスなど大メーカーをかかえる国々へ輸出され、主にティーバッグに加工されますし、低級品のダストは生産国の庶民によって消費されます。
 等級によってもですが、実際には産地などでも相性のいい、悪いがありますので注意が必要ですね。例えば有名なインドのダージリン産の特徴は水色は明るい燈色〜オレンジ色で比較的淡いものが多く、フルーティーな香りが豊かで渋みもあり、しっかりした味わいと言うのが一般的です。まあ実際は茶園や収穫期によって大きく香味が異なって来まして、
3〜4月摘みのファーストフラッシュ、5〜6月摘みのセカンドフラッシュ、雨期にあたる7〜10月摘みのレイニィシーズン、秋摘みとも呼ばれる11月摘みのオータムナルのそれぞれで全く別物になります。今お出ししたのはセカンドフラッシュのものをブレンドしてます。フルーティーな香りがするのが特徴ですね。
 また入れ方なども楽しみ方によって異なってきまして、基本的な抽出時間は葉の等級によって異なってきます。今回お出ししているオレンジ・ペコやフラワリー・オレンジペコなどの比較的大きな葉は大体4分前後です。温度は葉の発酵期間を期間を考えて決めています。発酵が比較的浅い物は高温ですと渋みが強く出てしまうため若干低めの80度前後がベストですが、他の葉では高温で入れる方がより格調高香りを演出できるでしょう。
 また紅茶の水は軟水が良いです。よく一般に市販されているミネラルウォーターで入れる方がいらっしゃいますが、アレは硬水なので紅茶向きではありません。幸い日本の水道水は軟水なので紅茶に向いていますので、私は水道水をお勧めしますね。
 ただし、長時間沸騰させたり、沸かし直しは水に含まれる空気が抜けてしまうので注意です。その辺を考えると電気ポットのお湯はあまり紅茶には合いませんので、お湯はそのたびに沸かした方が良いでしょう。
 次にミルクティーに合う茶葉とミルクの相性についてですが……」
 と美由紀がさらに話を続けようとするのを雪乃が制した。
「あ、あの美由紀さん、紅茶のお話はまた今度にしませんか? 私たち作詞をしなければならないので……」
「し、失礼しました…… つい……」
 雪乃の言葉に、慌てて美由紀は頭を下げた。一方マリアはそんな美由紀の姿を見ながらぽつりと呟いた。
「な、なんか美由紀ちゃんって不思議な人だよね……」
 マリアはそう呟きながら、美由紀には紅茶の話はもう聞くのはよそうと心に誓ったのだった。そんなマリアの言葉にちょっと恥ずかしそうにする美由紀は、話題を逸らそうと2人に作詞の進捗状況を訪ねた。
「と、ところで作詞の方は順調ですか?」
「それが全然進まないのよね〜 美由紀ちゃん、なんか良いアイデアない?」
 と紅茶のカップを置き、マリアがそう言った。雪乃は『マリアさんは端から作る気ないでしょーっ!?』とツッコミたかったがぐっと堪えた。
「そうなんです、なんか白々しくなっちゃって…… せっかくカゲチカ君が素敵な曲を作ってくれたから『良い詞を作ろう』って頑張ってるんだけど、全然ダメなんですよぉ。作詞ってこんなに大変だとは思わなかったですぅ」
 そう言う雪乃に、美由紀はため息をついた。
「はぁ…… 根本から違ってますね、雪乃」
 不意に美由紀の声音が変わったことに気づいた2人は揃って美由紀を見た。いや若干1名は実際見えていないのだが……
「『良い物を作ろう』なんて思うから空回りしてしまうのです。世に溢れる名曲はどれもそんな気持ちで書かれた物ではありません。『人を感動させよう』とか『良いと思わせよう』なんて事を考えて作った物が白々しくなるのは当然です」
 美由紀はピシャリと厳しい口調で言った。先ほどの紅茶の話の時とは別人のような『コーチ美由紀』が降臨したのだった。
「で、でもコーチ、じゃあどうすればいいの?」
 そうマリアが美由紀に聞いたのを聞いて、雪乃はぎょっとした。
 な、なんでマリアさんが『コーチ』って呼ぶの?
 そんな雪乃の動揺をスルーして、美由紀はどこからか手品のように眼鏡とシュシュを取り出し装備し、続いてメイド服のスカートから、竹刀を取り出すとそれを逆手に持ち、ドンっと床に突き立てた。
 右手に竹刀、左手に銀のお盆という訳のわからない格好で仁王立ちし、眼鏡の縁がキラリと鈍い光を放った。
「作った言葉が白々しい…… それは『想い』が籠もってないからです! 愛だの恋だのと、いくら書いても『想い』が籠もらなければ、誰の心を打てるのでしょう? 『想い』は込めるから伝わるのです! 熱い心が込められるから、相手にその熱が伝わるのですっ!!」
 美由紀のその言葉に、雪乃とマリアはまるで雷に打たれたような感覚を味わった。
「想いを…… 込める……」
 そう呟く雪乃は、その言葉を確かめるように頭の中で何度も繰り返していた。
「カゲチカ様の作った曲、私も聞きました。素直に良い曲だと私も思います。でもそう感じるのは、きっとあの方の気持ちが籠もっているからだと私は思います。サビとメインフレーズでしたが、そこに込められた想いが私やお2人の心に響いたんでしょう。だから良い曲だと感じた……」
 美由紀はそこまで話すと若干その表情を緩めた。
「自分の中にある気持ちを自分の言葉で表せばいいのです。格好付けることはありません。自分が一番大切に思う殿方に文を書くように…… 自分の素直な気持ちを伝えるように…… ラブソングではなく、ラブレターだと思って書いてご覧なさい。その人への気持ちが本物なら、きっと想いは籠もるはずです。その想い無くして、どうしてラブソングなど作れましょうか」
 おかしな出で立ちの美由紀だったが、美由紀の言葉は2人の心に竹を割ったように響いたのだった。
「コーチ! あたし、やってみますっ!!」
 そう言うマリアの手をひしっと掴む美由紀も「そうよ、マリア!」と答えていた。
 その雰囲気に微妙な温度差を感じつつも、雪乃は美由紀の言葉に後押しされる自分を感じていた。
 一番大切に思う人に想いを伝える詞…… 飾らない私の言葉で紡ぐ歌……
 心の中で、そう何度も繰り返すうちに、何だか凄く簡単なことのように思えてきた。
 やってみよう! どんな言葉で伝えるか今は全く浮かばない。でも、私の気持ちは嘘じゃない! 私の気持ちは、きっとカゲチカ君に届くっ!!
「ところで、カゲチカ様は、一体どなたを想ってあの曲を作ったんでしょうかね?」
 その美由紀の空気を読まない言葉に、マリアと雪乃は絶句して固まった。
 み、美由紀さん! この場でそれを言うっ!?
 微妙に空気の重さが変わったのを感じる2人とは裏腹に、美由紀は眼鏡とシュシュ、それに竹刀を仕舞ってメイドモードに戻ると「紅茶、もう1杯いかがです?」とにっこり笑って2人に聞くのだった。



第4話 『呆然! 悩めよ乙女?』


「…… 悪くないと思いますよ」
 美由紀は手にした2枚のレポート用紙に書かれた歌詞を読み終え、眼鏡を外しながらそう答えた。
「ほ、本当ですか美由紀…… じゃなかったコーチ」
 雪乃は危うくまた「コーチですっ!!」と言われるところを間一髪で修正して聞いた。アレから試行錯誤の上、マリアと2人でどうにかこうにか言葉をひねり出し、お互いに気に入った部分をつなぎ合わせて歌詞にしたのだ。しかしできあがった詞に2人とも納得はしたのだがどうにも自信が持てず、そこで美由紀に読んでもらい意見を貰うことにした。
「ええ、お二人の熱い想いがヒシヒシと感じられます」
 そう言って美由紀は2人に笑いかけ、メイド服の上から無理矢理着た小豆ジャージを脱いだ。その小豆色のジャージに一体どんな意味があるのか全く謎なのだが、どうやら彼女の脳内にある『コーチ』と言う役割には眼鏡同様欠かすことの出来ないアイテムらしい。「エンジェルデザイア、直訳すれば天使の願いですか…… あの曲のフレーズにはピッタリの言葉って感じがしますよ」
 美由紀はそう言って手元のMDラジカセを操作し、智哉の作った曲のMDを再生させた。スピーカーから流れるロック調のバラードを思わせる曲が流れ出し、部屋の空気が曲の色に染まっていった。するとその曲に合わせてマリアが小さな声でその曲に合わせ、今作った歌詞のサビの部分に当たる詞を歌い出した。
「きっと、絶対、本当に、あなたを好きだった It is my desire of the real thing〜♪ それだけは忘れないで〜 Angel's desire……」
 呟くような小さな声だったが、それは透き通った清水をイメージさせるマリアの声だった。
 マリアさん、やっぱり歌が凄い上手い。初めて歌詞を乗せるのにもう自分なりのアレンジを入れて歌ってる…… 
 雪乃は生まれつき目が見えないせいか、声や音と言った鼓膜から入る情報にとても敏感だった。音であれば、例えば足音などで人物を8割方特定できたり、友人や知り合いの声から相手の気持ちや大まかな体調まで推測する事が出来るほどだ。そんな鋭敏なセンサーのような雪乃の鼓膜に、マリアの天性とも言える美声が染み込むように流れ込み、雪乃は心地良い気分になった。
 しかし、そんな音に対して敏感すぎる感性が、雪乃にもう一つの真実を教えることになった。

『―――想いは込めるから伝わるのです! 熱い心が込められるから、相手にその熱が伝わるのです―――』

 雪乃の脳裏に先ほどの美由紀の言葉が蘇る。
 マリアはただちょっと曲に合わせて試しに歌ってみただけだった。しかしその歌声は智哉の曲に乗って雪乃の心に響いてきたのだ。ただ何気なく口ずさんだフレーズ。しかしそこに込められた想いを雪乃の鼓膜は確かに感じ取っていた。そしてそれはいつも先頭に立ち、目の前に立ちはだかる脅威に挑む黒衣の男の姿が脳裏に浮かんできたのだった。
 雪乃は直感的に分かった。いや、この場合彼女にしてみれば『分かってしまった』と言った方が正しい表現かもしれない。
 やっぱりマリアさん、カゲチカ君のことが……
 心の中ですら、恐くて最後まで繋ぐことが出来ない自分と、どうしてもマリアを比べてしまう。こういった時、雪乃はマリアを凄く羨ましく思うのだ。
 大胆にして行動的。刃に衣を着せないキツイ口調だけど、その代わりにどんな相手にでも絶対差別せず話すその人間性。自分を曲げない意志の強さ。失敗しても後ろを振り向かない超ポジティブな思考。周りの人間を強引に自分の領域に取り込み、いつの間にか親しい友人にしてしまう強力な個性と麻薬的な影響力。オマケにミスコン2年連続でダントツ優勝するほどの超美貌。
 自分とは正反対。自分では欲しいと思ってもぜったい手に入らない物の殆どを持つスーパーガール……
「良いじゃん良いじゃんっ! 良いよこの歌!! あたし達って作詞の才能あるんじゃん? ねえ雪乃っ!」
 とマリアは嬉しそうに笑った。そんなマリアを見ながら雪乃は考える。
 彼女が、自分の気持ちに気づき、その気持ちに本気で正直になったら……
 そう思うと雪乃は苦しくなってしまう。別にマリアが嫌いじゃない。羨ましいと思うことはあるが、同時にあこがれる存在であり嫌いどころか、今ではのりすと同じくらいの友人だ。しかしだからこそ苦しく思ってしまうのであった。
 でも…… まだ負けてない! だって私も同じくらい、誰よりも彼が好きなんだもんっ!!
「ええ、私とマリアさん、2人分の想いが詰まってるんだもの、良い歌になるハズです。と言うか絶対良い歌にするんですっ!」
 そう、この歌詞に込めた私の気持ちが、カゲチカ君に絶対届くって信じる。雪乃がんばるっ!!
 雪乃は拳をつくってそうマリアに言った。マリアはその雪乃の妙なテンションに一瞬面食らいながらも「そ、そうだよね!」と答えるのだった。
「よ〜し、このノリのまま、もう一曲、今度は曲無し状態で作っちゃおうか!」
 そのララの宣言に雪乃も「お〜っ!」と答えてパソコンに向き直り、カタカタとキーボードを打ち込んでいった。

 そうして数時間後もう1曲も作り終わり、その歌詞をまた美由紀に読んで貰って、若干の修正を経てようやく2曲分の歌詞が完成した頃には、外は日が落ち暗くなっていた。
「ふい〜っ、やっと終わった〜 あたしこんなに机に向かって何か書いたのって受験以来かも」
 と美由紀が運んできた本日3回目の紅茶を口に運んだ後、そう言って机に突っ伏した。
 受験以来って…… じゃあ普段の講義は何してるんですか……
 と心の中でツッコミを入れる雪乃もため息をつきながらノートパソコンを閉じた。
「でも良かったぁ〜 作詞する事になって一時はどうなることかと思ったけどね」
 そう言ってテーブルに頬杖を付いて笑うマリア。
「作詞することになったのはマリアさんのせいじゃないですかーっ! 何そんな人ごとみたいに言ってるんですか!?」
「やぁ〜だ雪乃ぉ〜 細かいことは気にしな〜い。良い詞出来たんだしぃ 結果オーライってことで♪」
 こ、こ、コノヒトってホントにもう……っ!!
「マリア様、本日は後夕食をご用意させていただきますので、お召し上がりになって行ってくださいませ」
 とそこで美由紀がマリアを夕食に誘った。それを聞いて雪乃も頷きながら言った。
「美由紀さんそれ良い考え。マリアさん、是非ご一緒していってくださいよ」
 しかしマリアはその誘いを渋い顔をして断った。
「くぅ〜っ! 食べたいのは超山々なんだけど、今日はこれからバイトなの。雪乃んちのごちそうなら普通バイトなんて逝ってヨシ! なんだけど、今日はあたしが企画したイベントの日でさ、それに時給倍になるんだ〜 あーくそっ、なんでイベント今日にしたんだろっ!」
 実は企画した自分が独断と偏見で日程決めたのだが、自分の計画性の無さとかには一切触れない。人生の4割をその場のノリと思いつきで生きてるマリアである。
 そうして帰るマリアを美由紀と2人で見送った後、雪乃は再び部屋に戻りさきほどのMDを再生しながら先ほど作った詞を口ずさんでみた。
 うん、良いかも……♪
 この詞を見せたとき、そしてこの詞がみんなの演奏で歌になったとき、智哉がどんな顔をするのかを想像し、雪乃は自然と頬が緩んでしまう。目の見えない自分にそれを見ることは叶わない事だとは分かっている。でも彼の声からその顔を想像することが楽しみで仕方がなかったのだった。
「さて、雪乃様」
 とそこへ美由紀が雪乃に声を掛けた。自分がニヤニヤしていたことが分かっていた雪乃は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら慌てて振り向いた。
「は、はいぃ!」
「御夕食までに、まだ少々時間がございます。そこで…… 少々お待ちを」
 美由紀はそう言って胸元から眼鏡を取りだし、それを掛けた後今度は先ほど着ていた小豆色のジャージに袖を通し、メイド服のロング丈スカートの中からするりと竹刀を出した。
 目の見えない雪乃だが、ただならぬ気配を感じ、ごくりとツバを飲み込み恐る恐る美由紀に質問した。
「あ、あ、あの美由紀さん? な、何を……」
 雪乃の言葉が終わらない内に、美由紀は手にした竹刀を逆手に持ち、その切っ先を床にドンっと付いた。その音に「ひっ!」と雪乃は引きつった声を漏らして硬直する。
「歌詞は出来ました。曲の方も遠からず出来上がるでしょう。さあ、ここからが我々の本番です」
 美由紀の眼鏡がキラリと光る。当然雪乃には見えるはずもないが、この部屋に満ちる異様な空気が恐怖を促進する。
「あ、で、でも美由紀さん、ほ、ほほ、ほら、私今日、慣れない作詞してちょっと疲れが……」
「それは存じ上げております」
 空調で完璧に快適温度に調節された部屋のハズなのに、寒く感じるのは何故だろう? そんな部屋にひんやりと響く美由紀の声。
「ですがあなた様にはもう一つ、とても重要な課題があります。おわかりでいらっしゃいますね?」
 こ、こ、こわ――っ! 美由紀さんこわ――――っっ!!
 さっきまで脳内で繰り広げられていたピンク色の妄想はどこかに吹っ飛び、代わりに背中に冷たい汗が走っている。
「じ、じゃあ、私キ、キーボード持って来ますね」
 その隙に地下のお兄さまのラボに隠れて……
 頭の中で必死に逃走方法を考える雪乃。
「その必要はありません。テーブルの横に用意してございます」
 その言葉に雪乃は左手をテーブルの外に移動させると、そこには確かにキーボードの手触りがある。マリアと一緒にいたときは間違いなく無かったはずなのに、一体いつのまに用意したのか全く分からない。
「さあ、練習の時間です。これからは家にいるときは食事と入浴、睡眠以外は全て練習に当てます。『絶対良い歌にするんですっ!』私はあの決意の言葉に胸を打たれました。エンジェルデザイア…… 雪乃様が無事デザイア【願い】を遂げる為、不肖疾手美由紀、いえ、『コーチ美由紀』が全身全霊でご教授いたします! さあ、超特訓です。その指の関節が動き続ける限り、たとえ爪割れようともっ!!」
 そんなのいやぁぁぁ――――――っ!!
 そう心の中で絶叫しながら、雪乃はその後夕食までの1時間半に加え、夕食と入浴後の眠るまでの4時間、半べそで鍵盤を叩くハメになった。そのせいでその夜、大きな手足の生えたキーボードが竹刀を振りながら追い掛けてくるシュールな悪夢にうなされることになったのだった。

☆ ☆ ☆ ☆

 そして週明けの月曜、智哉とマリアは再び学食で雪乃と会ったのだが、雪乃はのりすと2人で昼食中だった。
「『ド』は『どうしてこんな事になっちゃんだろう』の『ド』…… 『レ』は『連日超特訓で死にそう』の『レ』…… 『ミ』は『美由紀さんは絶対ドS』の『ミ』……」
 雪乃はオムライスを食べながら小さな声で『ドレミの歌』を口ずさみ、テーブルの隅の一点をその見えない瞳で凝視していた。
「ど、どうしたの雪乃? なんか変だよ。それにちょっと痩せたと言うか、やつれた感じがするんだけど……」
 マリアはそんな雪乃に心配そうに声を掛けた。
「ああ、マリアさん。こんにちはぁ〜」
 と気の抜けた返事を返す雪乃。目の下にはうっすらとクマも浮かんでいる。
「先週の終わりからずっとこうなんですよ〜 何でも家で『特訓』してるとかで……」
 のりすはため息混じりにそうマリアに説明した。
「だ、だだ、だいじ、じょうぶ、で、でで、すか? ゆ、ゆゆ、雪乃さ、ささん」
 智哉も心配そうに雪乃に声を掛ける。すると雪乃は智哉にニッコリと笑いかけた。
「ああカゲチカ君、大丈夫デスよぉ〜? すこ〜し疲れてるだけだしぃ。あははは〜」
 その時、雪乃の後ろで『ガシャン』と食器が落ちる音がした。どうやら他の生徒がトレイを落としたようだ。
「今の音は『ラ』と『シ』……」
 スプーンでオムライスをいじりながら雪乃がぼそぼそっと呟いた。どうやら連日のコーチ美由紀の特訓で絶対音感がインストールされたらしい。元々耳が良いだけに音自体を憶えるのは早いのかもしれないが、それにしてもこの短期間で身につけられる感覚ではないだろう。恐るべし美由紀の『超特訓』なのである。
「『コーチ、もう指が動きませ〜ん!』『どうした雪乃! お前の想いはそんな物か!?』『爪が割れそうです〜っ!』『割れてから言いなさい!』…… キーボードが、キーボードが襲ってくるーっ!! ううっ、竹刀…… 竹刀やめてーっ!!」
 雪乃はそんな一人芝居を演じた後、テーブルの上で頭を抱えている。端から見ればコントにしか見えないのが哀しいところだった。
「美由紀ちゃんの特訓、スパルタっぽいもんね……」
 そんな雪乃を見ながらマリアはそう呟きつつ席に着いた。智哉は雪乃の隣の空いている席に座った。
「ところで、その後どうですか? コンサートの練習。私マリアさん達の演奏すっごい楽しみなんですよ〜」
 とのりすは笑ってマリアに聞いた。
「ええ順調よ。曲も出来たし残り2週間で完璧にするつもり」
 とあっという間にチーズハンバーグをたいらげ、2皿目の親子丼に箸を付けつつマリアは答えた。席に着いてからわずか2分と少々、相変わらず手品のようなマリアの食べっぷりだった。
「曲が出来た…… ってことは今回用の新曲なんですか? うわぁ、ますます楽しみです。それに雪乃も出るんだし絶対ノリノリで応援しますね〜!」
「そうなの、出来たてほやほやの新曲なの。それで今日初めてみんなで集まって合わせてみるのよ」
 とマリアは言うが、そもそも新曲も何も今回作った2曲しか無いのである。そんなマリアの言葉に呆れながらチャーシュー麺をすする智哉だった。
「ゆ、ゆゆ、雪乃さん、ほ、ほ、ほんとに、だ、だ、だい、じ、じ、じょうぶな、な、なの?」
 智哉が隣で心配そうに雪乃を覗き込み声を掛ける。すぐ近くで智哉の気配を感じた雪乃は慌てて顔を上げる。
「だ、大丈夫ですよっ、もう好きな想いが届くならこんな疲れぐらい……」
「す、好きな、お、おお、想い?」
 雪乃の言葉に首を傾げる智哉。雪乃は慌てて弁明する。
「いやいや、きょ、曲に、た、音楽好きの魂を込めるんです。ソウルハイッテル? みたいな、あは、あはは」
 ななな、何言ってるの? 私のバカバカバカ――――っ!
「ゆ、雪乃さん、ちょ、ちょっと、か、かか、変わった、よね」
 あ、ああ、わ、私のキャラが…… 絶対アホだと思われてる。もうダメだ死のう……
「マ、マリアや、ぼぼ、僕に、あ、ああ、合わせて、む、無理して、な、なな、ないです、か? い、い、一緒に居て、ぼ、ぼぼ、ボクは、た、たた、楽しい、で、ですけど。こ、今回の、バ、ババ、バンドの、こ、ここ、ことも」
 一緒にいて楽しい――――――っ!?
 ああもうダメ〜 寝不足もあって意識飛びそう。コーチぃっ、幸せすぎて死にそうですぅーっ!!
 智哉の言葉が雪乃の脳内でどんどん増殖していく。自然と口元が緩み、熱くなった頬を両手で押さえる。さっきまであれほど引きづっていた疲れが嘘のように引いていった。恋は盲目という言葉があるが、雪乃の場合実際に盲目なだけにその影響は大きいようだった。
 するとマリアが食事が終わり立ち上がった。
「じゃあ雪乃、後でスタジオでね。ほら行くよカゲチカ! あんたいつまで食ってんの?」
 と言って智哉の襟首を引っ張る。それはまるで首輪を引っ張られるイヌのようだった。
「お、お、オイ、ま、まま、まだ、た、た食べ終わって、な、な、ないから……」
 と抗議する智哉を無理矢理立たせるとマリアは智哉に自分のトレイを持たせ、引きずるように離れていった。智哉が1杯のチャーシュー麺を食べる間に3品全てを完食したマリア。魔界にリンクした胃袋というのもあながち間違いじゃないのかもしれない。
 マリアと智哉が行ってしまったあと、雪乃がオムライスの最後に一口を口入れると、向かいに座るのりすがポツリと聞いた。
「ねえ雪乃、あのカゲチカ君って人でしょ? 雪乃が好きな彼」
 丁度オムライスを飲み込んだ瞬間だったので、雪乃は思いっきり咽せこんだ。
「ごほごほ……っ な、何で……!?」
「だって雪乃わかりやすすぎでしょ? モロバレよ」
「も、モロバレ!? 」
「むしろアレだけ動揺して違ったら、雪乃ただの『痛い娘』だよ?」
 はは…… 痛い娘ね…… だよね……うじゅぅ
「でも彼も相当鈍そうだし、よっぽどのことがない限り気が付かないわね」
「そうかな…… そうだよね……」
「そうよ、ああいうタイプは今まで女子に好かれたこと無いだろうから、いくら思わせぶりな態度をしても『そんな訳無い』って思っちゃうの。ああ言うタイプはね、もう間違いようが無いぐらい直球で勝負しないと無理ね。自分に球が飛んできても『俺じゃない』って思いこむから気づきもしないわ」
 のりすはそう雪乃に説明する。その分析は恐ろしく正確に智哉の性格を言い当てていた。雪乃は頷きながら真剣にのりすの言葉を聞き頷いていた。
「じゃ、じゃあどうすればいいと思う?」
 雪乃は身を乗り出してのりすに質問した。メモまで取りそうな勢いである。
「そうね…… もう面と向かって『好きです』って言って、強引にチューでもしない限り無理なんじゃない?」
 ち、ちちち、ちゅーっ!? 無理無理無理無理ぜった――――い無理っ! ハードル高すぎててっぺんが肉眼で確認できないよ―――――っ!!
「それ絶対無理だじゅー……」
 雪乃はそう言ってテーブルに突っ伏した。脳内で想像するが、お互いの顔にモザイクがかかっている始末である。
「でもそれ越えたらたぶんあっという間に堕ちるわね、ああ言うタイプは。もうイチコロよ間違いなく」
「そんなの分からないじゃん。もしかしたらもう一生口聞いて貰えないかもしれないじゃんっ!」
 テーブルに向かってそう愚痴る雪乃。
「それ本気で言ってるの? はぁ〜 コッチも同じくらい鈍いといきたか…… こりゃ大変だわ。でもそうか、鏡なんて見たこと無いもんね、気が付かないのも無理無いか」
 そう言ってのりすはため息をついた。その言葉に雪乃は少しだけ顔を上げてのりすに聞いた。
「……どういう意味よぉ?」
「雪乃って無茶苦茶可愛いのよ? 尋常じゃないくらい。普通に考えて雪乃のマジ告白にゴメンナサイする男の子なんているとは思えないよ。周りに他の男がいる中でそんなコトしたら、その人生きてないと思う」
 のりすは呆れた声でそう言った。
「そんなオーバーな……」
「は〜っ、それだけの容姿しててその自覚の無さは犯罪よ、は、ん、ざ、いっ! 雪乃が本気出したら殆どの男子が殺到するわよ。あ〜 なんか腹立ってきたんだけど」
「で、でも彼の側にはマリアさんがいるのよ? ミスコン連続ダントツ優勝するほどの美人がよ? 私なんて足元にも及ばないよ」
 するとのりすは人差し指を振りながらチッチッチと舌を鳴らした。
「確かにマリアさんは超美人よ。でも雪乃だって負けて無いわ。美人の系統が違うのよ。言ってみればビューティVS萌えって感じかな。来年のミスコン雪乃も出てみたら? 面白い結果が出るよきっと」
 ミスコンなんてそんなの無理に決まってる。人前で自分を披露だなんて考えただけで倒れそうだよ。
「それに、彼も絶対萌え好きと見た。あの目は絶対アニヲタでゲームヲタね、恋愛シュミレーションとかにツッコミとか入れてるタイプよ、間違い無いわ。だから雪乃みたいな娘の告白なんかされよう物なら気絶するかもね、まじで」
「それ言い過ぎ……」
 雪乃はそう言ってまたテーブルにおでこをくっつけた。のりすは「そんなこと無いって〜」と反論していたが、雪乃は聞く耳を持たなかった。
「でもさ雪乃、一つ聞いても良い?」
 のりすが改まって言ったので、雪乃は顔を上げてのりすに目を向けた。
「彼のどこが良いわけ?」
 その言葉に雪乃は少し考える。雪乃は智哉の『ここが好き』とかって考えたことがなかった。ただ好きなのだ。出来ることなら常に一緒にいたいぐらいに…… 言うならば全部だ。好きじゃない部分なんて、今の雪乃には思い当たらない。
 だが、それでもあえてどこが一番好きかと問われると……
「ゆ、勇気があって、カ、カッコイイところ……かな」
 そう言ってうつむきながら顔を赤らめる雪乃を眺めながら、のりすは首を傾げた。
「へ〜 彼がねぇ……」
 思わず『どこがっ!?』と速攻で切り返したくなったのをぐっと堪え、のりすはそう呟いた。
 まあ、目が見えないってのは、こういう場合幸せなことかもしれない……
 とのりすは心の中で納得したのだった。


第5話 蒼穹! 恋も仲間も!?


 午後の講義が終了し貸しスタジオに集まったメンバーは雪乃とマリアが書いた歌詞と、サムが編曲した曲を一通り確認してみた。
「なんか良くね? これ」
 曲を聴きながら歌詞を目で追っていたリッパーがそう呟いた。
「ええ、なかなかの名曲になりそうですね。そんな予感がします」
 サモンもリッパーの言葉に頷きながらそう言った。お坊さんの法衣を着た姿で『予感』と言うと『お告げ』みたいだと智哉は心の中でツッコミを入れつつ、2人の意見に同意した。
「そ、そそ、そうで、すね、ね。ゆ、ゆゆ、雪乃さ、さん、こ、ここ、こ、この歌詞、い、いい、良いです、よ」
 相変わらずのどもりでそう言う智哉の言葉に、雪乃は口元がほころびるのを感じた。
「ちょっと、あたしも一緒に作ったんだからね」
 マリアが口を尖らせながらそう言う。智哉は「そ、そ、そうだった、な、な」とマリアに声をかけた。
「曲も良いですね。この誰かを想う歌詞にピッタリの、切なさを感じるフレーズが心に響きますよ」
 サモンは目を閉じて曲の流れに耳を傾けた。
 うん、とっても合ってる気がする。サムって凄い! この曲、きっとすごい素敵な曲になると思う!
「よ〜し、早速練習開始しようよ!!」
 そんなララの言葉に一同頷き、練習を始めた。雪乃も美由紀に手伝って貰いながらキーボードをセッティングして音を確認した。
「美由…… いえコーチ、本当にありがとうございます。あんなにも素敵な歌詞が出来たのはコーチのおかげです。カゲチカ君も良い詩だって言ってくれました」
 チューニングゲージを見ながらセッティングする美由紀に、雪乃は頭を下げてお礼を言った。
「私は自分の思ったことをただ言っただけで、礼を言われるほどのことはしておりませんよ。あの歌詞を書いたのは雪乃とマリアです。あなた達の心が、いえ、想いが籠もったからああも素敵な詩が書けたのです。それはあなた達2人の功績に他なりません」
「でもそれに気付かせてくれたのはコーチです。私達だけでは書けませんでした」
 美由紀の言葉に雪乃はそう答えた。
「ですが、お礼を言われるにしてもまだ早計ですね。本番が終わってから改めてお聞きしましょうか」
 どこまでもクールな美由紀だったが、その口元には笑みが浮かんでいた。それから美由紀が雪乃の耳元に口を寄せてきた。
(それにマリアには歌があります。彼女のあの声は天性の美声でしょう。あの声に想いがこもればちょっとやそっとじゃ対抗できません)
 そんな美由紀の言葉に雪乃は思いっきり動揺していた。確かに美由紀の言うとおり、マリアの歌声は雪乃がどう頑張っても手に入らない物である。透き通るような透明感と、秘められた力強さ。そして時折見せる儚いほどの繊細なビブラート。まさに天性の美声だった。
 それに引き替え自分は楽器初心者である。連日の超特訓で何とか聴けるぐらいまでには演奏できるようになったが、間違わないように引くだけで精一杯だ。そんな今の自分の演奏に何かを籠めることなど考えられなかった。なるべく考えないようにと今までやってきたが、改めて言われるとその差がとてつもなく大きいことに改めて気付かされ、気分が沈んでいくのである。
(これは私のカンですが、たぶんマリアも彼を……)
 美由紀は最後の言葉を飲み込んだ。
「ええ、私もそう思います…… でもコーチは良くわかりましたね?」
 雪乃は美由紀にそう聞いた。美由紀は納得したように頷いた。
(あの歌詞を読んだとき、そして彼女があの詩を曲に乗せて口ずさんだときにそう気付きました。『音楽は時として言葉を越える……』我が師の言葉はやはり嘘ではありませんでした)
 サビにあたるフレーズを軽く口ずさんだだけで美由紀はそれに気付いた。逆を言えば、たったそれだけで美由紀に気付かせてしまうほど、マリアの歌には力があると言うことだ。そう考えると益々落ち込んでしまう雪乃だった。
(落ち込ん出る場合ではないですよ雪乃。まだ負けたわけではありません)
「で、でも……」
(私の予想では、彼女はまだ自分の気持ちに気付いていない…… いや、薄々は感じているのかもしれませんが、まだ微妙な段階です。自分の気持ちに正直になれないでいる…… 私はそう見ました)
 雪乃は驚き目を丸くして美由紀に顔を向けた。それは雪乃の考えと全く同じだったからだ。雪乃は美由紀が何故そこまでわかるのか不思議で仕方がなかった。マリアと接している時間は当たり前だが雪乃の方が圧倒的に長い。それなのに自分は、マリアの気持ちについ最近気付いたのだ。それも自分が『智哉が好きなんだ』と意識し始めて初めて気が付いた事だった。
「マリアさんが自分の気持ちに気付いて、それに素直に答える道を選んだら、私なんか……」
(なら、彼女が自分の気持ちに正直になる前に彼を振り向かせればよいのです。雪乃は自分の気持ちに気付いています。現時点で明確に彼を好きだと自覚している分、私は有利だと思いますよ)
「そ、そうですか?」
 やはり何となく自信がない雪乃だった。でも美由紀の言うとおり、自分は智哉を好きだとハッキリ自覚している。たとえ自分の色々な部分に自信が持てないとしても、その事だけは迷うことなく断言できる。私はその気持ちに少しの迷いも無い。今はまだそれを伝える勇気がないけれど、せめて自分のこの気持ちにだけには正直でいたい……
 雪乃がそう考えていると、そんな雪乃の瞳を美由紀が覗き込んだ。雪乃は気配を察して「何ですか?」と美由紀に聞いた。
(自分の気持ちに初めて気付いたとき、どんな気分でしたか?)
「え? え、えっと……」
 美由紀の言葉に雪乃は少し考えた。
 こんな気持ちになったのはいつの頃からだったろう……
 カゲチカと初めて出会ってからの事が脳裏に蘇ってきた。セラフィンゲインで一緒に戦っていたとき、沢庵でみんなとミーティングをしていたとき、大学の学食で一緒にお昼を食べているとき。いつの間にか彼の姿を追い、彼の声を探している自分に気付いた。それが好きだからと気付いた時に、私は……
「意識し出すと、まともに見れなくて、会う度に、声を聞くだけで恥ずかしいような……」
 雪乃は顔を真っ赤にして俯いた。
(でも、彼を好きだとわかったとき、その事が何よりも嬉しかったでしょう? それと同時にそんな気持ちになった自分自身をとても愛おしく思いませんでしたか?)
 その美由紀の言葉に雪乃は思い出した。
 そうだ、初めて自分の気持ちに気付き、それが間違いなく自分の本当の気持ちだとわかったとき、私はとても嬉しかった。そしてそんな気持ちになった自分自身を、彼にそんな感情を持ってくれた自分の心を、「彼を好きになってくれてありがとう」って褒め称えてあげたかったんだ!
(誰かを好きになって、その人に良く思われたい、かっこわるい所など見せたくない、いつでもとびきりの自分を見せたいと願う事は自然なことです。でもそれ以上に、そんな感情になる事が嬉しくてたまらないものなんです。誰かを愛おしく思うことは、そう感じる自分を好きになること…… 恋愛はそれを認めて初めてスタートラインに付くことが出来るのです。マリアはまだその場所に立っていない。私が雪乃が有利だと言った理由は、そう言うことなのですよ)
 そんな美由紀の言葉に雪乃は心が軽くなった気がした。端から見れば都合の良い解釈かもしれない。でも美由紀の言ったことは今の自分にはとても響いたのだ。
 私って単純だな…… でもその分迷わないで良いかな。なんだかとても心地良い感じがする。
(基本は教えたつもりです。間違う事など恐れず、彼を想う自分自身の嬉しい気持ちで、精一杯楽しく弾きなさい。恋愛も音楽も、まず自分自身が楽しむことが第一歩です)
 美由紀の言葉の一つ一つが雪乃の胸に染み込んでいくようだった。
 今出来る精一杯の自分をカゲチカ君に見て貰おう。面と向かって言う勇気はまだ無いけれど、私がカゲチカ君を好きな気持ちは嘘じゃない。私は今、その事がとても嬉しい!
「はい、コーチ!」
 雪乃は笑顔でそう答え鍵盤にまだぎこちない指を走らせた。そんな雪乃を眺め、美由紀は目を細めて微笑んだ。それは彼女が普段雪乃を特訓するときとは違う慈愛に満ちた表情だった。  

☆ ☆ ☆ ☆

 それからさらに七転八倒の練習の日々が続き、いよいよコンサートの当日……
 午後の講義が終了し、前日から学生会主導の元で入念なリハーサルを繰り返しセッティングされた講堂ステージにたくさんのカップル達がつめかけ、大盛況といった様相を呈していた。
「すっげ…… 超満員じゃん」
 講堂に入った人の数を2階席から見下ろしてリッパーが驚いた。
「さ、さ、ささ、さすが、に、カ、カカ、カップル、ば、ばかり、で、でですね」
 リッパーの隣から智哉も身を乗り出して下を覗き込みそう漏らした。
「ま、バレンタインだからなぁ」
 リッパーはそう言って手摺りに肘を突きもたれかかった。
 雪乃も見てみたかったが盲目である自分にはそれは叶わない事だった。でも、会場を包み始めた熱と雰囲気は感じることが出来た。
 カップルかぁ、羨ましいなぁ……
 頭の中で智哉と手を繋ぎながら観客席に座っている自分を想像する。流れるのはロック調のバラード。曲に乗った美声は否が応でも2人の気持ちを盛り上げる。そんなシチュエーションが脳内を埋め、雪乃は口元をほころばせていた。
 なんて素敵なシチュエーション! そんな憧れの世界がすぐそこにあるんだぁ……
「――――おいスノー? お〜い!」
 不意にそんなリッパー声でふと我に返る。
「え? あ、ああ、はい、な、何ですか?」
「大丈夫か? こんな人が居て緊張するのはわかるけど……」
 いえ、すみません、全然違う事でぼーっとしてました……
「いや、もう降りようぜって言ってたんだよ。でもなんか考え事してた様だからどうするかって聞こうと思ってさ」
「いえいえ、ただ妄想してただけで……」
「妄想!?」
 そう聞かれ慌てて言い直す雪乃。
「……じゃなくって、想像、そう、想像してたんです! ほ、ほら、ステージで弾く場面を」
 あ、危なかった…… 何言ってるのよ私はっ!
「ああ、なるほどね。イメージトレーニングか。まあ確かに初めて人前で演奏するんだもんな……」
 ま、まあ、違うイメージでしたけどね、似たような物ですよ、ははは……
 内心ドキドキの雪乃であった。
「でもよ、もうそろそろ始まるから控え室に行こうぜ」
 リッパーの言葉に雪乃も頷き、みんなで控え室に向かった。
 控え室はステージの横の扉を潜った奥にあった。スタッフルームや機材倉庫などが並んでいて、出演予定の演奏者の控え室には3部屋が用意されていた。雪乃達ラグナロク・ニアは他の2バンドとの相部屋だった。
「あ、来た来た、みんな何やってたの?」
 中にはいるとすでにマリアが先に控え室入りをしており、4人を見てそう言った。手にはほかほか弁当が乗っかっている。
「ま、まま、また、く、食ってる、の、のの、か?」
 そんなマリアの姿を見て智哉が呆れたように呟いた。先ほど講堂前に出ていた出店でお好み焼きを食べていたのは、つい20分ほど前のことであったからだ。
「腹が減っては戦は出来ぬっていうじゃん。決戦前の腹ごしらえよ」
 そう言ってチキンの山賊焼きを口に放り込むマリア。どれだけ食ったらその腹がこしらえるんだか教えてくれ! と心の中でツッコミを入れる智哉だった。
「あ、そうそう、みんな一息ついたらこれに着替えてね」
 マリアはそう言って箸をくわえながら脇に並んでいる紙袋を指した。
「なにこれ?」
 その紙袋を覗き込みながらリッパーが首を捻った。
「ステージ衣装よ、先週演劇部と手芸同好会に頼んで作って貰ったの。セラフィンゲインでのみんなのコスチュームに似せて作って貰ったんだから!」
 マリアは箸をくわえながら「えっへん!」と胸を反らした。そんなマリアに「ほぉ〜どれどれ……」とリッパーが紙袋を覗いた。
「おおう! 良くできてるじゃん!!」
 リッパーが紙袋から衣装を取り出して声を上げた。サモンも「これはありがたいですね」と言いながら衣装を広げて呟いていた。確かにサモンの場合、衣装はありがたいかもしれないと智哉は思った。
 そして10分後、更衣室で着替えてきた一同が再び控え室に戻ってきた。皆各々、流石に武器こそ無いがセラフィンゲインでの姿に似た格好で、一瞬ここが現実ではない様な錯覚を憶えていた。しかし同じ控え室で待機していた別のバンドのメンバーはその異様さに少し引き気味ではあった。
「はは、ホント良くできてるわ。このままクエストに行けそうな雰囲気じゃね? なあシャドウ?」
 リッパーにそう振られ、智哉の中でスイッチが入る。
「ああ、本当に良くできている。愚者のマントまであるなんてな」
 智哉は眼鏡を外しながらそう言い、背中に羽織ったマントの裾を持ち上げていた。リッパーにシャドウと呼ばれ、シャドウモードに入ったらしい。
「雪乃も見えないでしょうけど、ちゃんとスノーになってるから安心してね」
 緑色の胴衣に着替え、髪を後ろに束ねたモンクのララになったマリアが雪乃にそう言った。着替えはどうやらマリアが手伝ったようだ。
「そうですか? えへへ。でもちょっと目立ちますね、アッチと同じ衣装だと」
 雪乃は照れ笑いをしながらそう答えた。
「でも、やっぱりこのメンバーでやるとなったら、これが一番しっくり来るんじゃない?あたし達の場合」
 そんなマリアの言葉に一同が無言で頷いた。と、そこへ控え室のドアの向こうで言い争う声が聞こえてきた。
『……だから私は関係者だって言ってるでしょっ!! そこをお退きっ!!』
 そんな声が聞こえたかと思うと、派手な音を立ててドアが開き、和服姿の巨漢が現れた。
「はぁ〜い、みんな応援に来たわ…… ってアレ? なになに、何よその格好!」
 入ってきたのは和服姿のドズル中将…… もとい、巨漢のオカマガンナーマチルダだった。手にはそこそこ大きな花束を持っているが、それが一際小さく見えるのは仕方あるまい。突然入ってきた和服姿の巨漢オカマに、同室にいた他の2バンドのメンバーは声も出ないで固まっていた。
「ララが知り合いに頼んで作って貰ったんだと。どうよマチルダ、なかなか良い出来だろ?」
 そんなリッパーの言葉にマチルダは一同を見回して大きく頷いた。
「ええ、なんかアッチにいるみたいよ〜 いいわ〜 あたしも出たくなって来ちゃったわ」
 そう言って身をくねらせる和服ドズル。その姿を見た他のバンドのメンバーは皆総じて青い顔だったのは言うまでもない。
「マチルダまで応援に来てくれるなんて…… ありがとうございます」
 雪乃がそう言いながら頭を下げると、マチルダはシャドウを突き飛ばして雪乃に駆け寄りその大きな手で雪乃の小さな手を握った。
「何言ってるのよスノー、あたしだって出来れば出たかったぐらいなんだもの、応援しかできないのが悔しいぐらいよ」
 そう言うマチルダの目が潤んでいる。顔体に似合わず、仲間思いで涙もろいマチルダなのであった。
「それに…… 皆さん、私の軽率な言葉でこんな事になってしまったのに、今日まで嫌な顔見せずに付き合ってくれてありがとう。なのに私、一番みんなの足を引っ張って……」
 そう言って下を向く雪乃にマリアが声を掛ける。
「『どんなに窮地でも仲間を見捨ててリセットしない。全員で戦い、全員で帰還する』ウチの交戦規定、まさか言い出しっぺのスノーが忘れたなんて言わせないよ?」
「マリアさん……」
 若干潤んだ瞳で顔を上げる雪乃に、マリアは尚も続ける。
「メンバー一人の望みがチーム全体の意思に変わる。そう言うチームじゃないと行けない場所を目指してんでしょ? あたし達。でもってスノーはリーダー、スノーの望みはチームの望み。何でも全開本気モードがあたし達ラグナロクじゃん!」
 そんなマリアの言葉に、一同頷いてスノーを見る。
「だな、それに結構楽しいぜ、俺」
「ええまあ、そう言うことですよ、スノー」
「う〜ん、青春ねぇ〜!」
 リッパー、サモン、マチルダと皆マリアの言葉に同意して声を掛ける。そして最後に雪乃の想い人であるシャドウこと智哉が声を掛けた。
「変なこと言うなよスノー、『仲間』だろ? 俺達」
 そのシャドウの言葉は、かつて彼が唯一友であった男から掛けられた言葉だった。そしてその言葉に雪乃は今は亡き兄の面影を見たのだ。
 お兄さま、私はとても素晴らしい友人に恵まれました。だってこの仲間となら、私は何でも出来そうな気がしてくるんですもの……
 感極まり、思わず零れそうになる雫を堪え、雪乃は元気良く答えた。
「はい、その通りですね!」 
 その笑顔は兄に勝るとも劣らない極上の笑顔だった。


第6話 快感! ステージライブ!?

 バレンタインライブは、会場である講堂を立ち見が出るほどの満員でスタートした。参加バンドは5組、雪乃達ラグナロク・ニアは3番目の演奏であった。
「凄い……っ!」
 雪乃は思わずそう声を漏らす。前のバンドの演奏をステージの袖で聞いていたのだ。
 生憎盲目なので、ステージそのものを観る事は叶わないが、演奏のテクニックや歌のパワーのようなもの。そして会場全体が一つの生き物になった様な一体感と熱気に当てられ、目眩すら覚えていた。
「くわ〜、流石にうめーなマジで。奴らインディーズでCDも出してるんだぜ」
 とリッパーがため息と同時にそんな呟きを漏らした。
 CD!? それってもうプロなんじゃ……そんな人たちの後に私達の出番なんて……っ!
 雪乃の心は動揺と緊張で潰れそうになっていた。雪乃は連日の超特訓で、通しでなんとか間違えずに弾けるようになった程度だ。なのにそんなプロ同然のような人達の後の演奏なんて、ドン引きされるに決まっていると思っていた。
「いいじゃない。相手にとって不足無し! 上等よっ!」
 ララがそう言って拳を握り、口許を歪めた。そんなララの言葉に一同無言で頷くのだが、ただ一人雪乃だけはローブを深く被り下を向いていた。
 ララ……いや、マリアさん。あなたは何でそんなにも前向きで、力強くて、かっこ良いの? 何で私はこんなにも弱くて、ダメなんだろう……
 さっきから足に接地感が無い。緊張しすぎで喉がカラカラだ。雪乃は何度も自分に『大丈夫、私は弾ける』と心の中で言い聞かせるが、その度に心臓の鼓動が早くなって行く。そして、前のバンドの演奏が大きな歓声とともに終了しステージの幕が降りた。次はとうとう自分達ラグナロク・ニアの番である。雪乃緊張は最高潮に達していた。
 ステージでは、イベントスタッフによる機材のセッティングが同時に行われており、雪乃のキーボードの設置も終わったところで、雪乃は手探りでその前に置いてある椅子に腰を下ろした。
「まず初っ端エンジェルデザイアで行く。初心者バンドってフレコミだから度肝を抜いてやろうよ! その後流れでメンバー紹介。で、2曲目つー流れね」
 とララが楽屋で打ち合わせした段取りを再度確認した。一同無言で頷いた。雪乃も奥歯を噛み締めながらこくりと頷く。
 大丈夫、あんなに練習したんだ。やれる、出来る! 雪乃はそう心の中で呟きながら震える指を鍵盤に置いた。
「よし、行くよみんなっ!」
 ララの掛け声に「おうっ!」と全員で返すとゆっくりとステージの幕が上がり、それと同時にシャドウこと智哉のギターの音が流れ出した。その音にサモンのドラムとリッパーのベースが追いかける。そしていよいよスノーのパートになった。いざっ! と意気込んだ瞬間、スノーの指が鍵盤の上で固まった。
 ―――――っ!?
 頭の中が真っ白になり、半ばパニック状態のまま、薬指が鍵盤を叩くと全く違う音が出てしまった。
 きょ、曲が……っ! 音が思い出せないっ!?
 それでも必死に覚えた指使いを思い出そうと無理矢理指を鍵盤に走らせるのだが、スノーの思いとは裏腹に、まるで泥の中に両手を突っ込んでいるかのように指の動きがスローモーションになってしまい、音が全く曲に着いていかなかった。
 右に座っているサモンはそんなスノーの異常に気づき、ドラムを叩きながらチラリとスノーを見る。シャドウも肩越しにスノーを見やるが、スノーはその白い顔を青くさせ、額に大粒の汗を光らせながら慌てていた。
 やがて着いて来れないキーボードの音に、他のメンバーも演奏をやめてスノーを見た。
「あれ? ゴ、ゴメン、ナサイ……も、もう一回」
 スノーの口からかろうじてそんなつぶやきが漏れた。するとララが「よっし、オッケー!」とスノーに声を掛け、続いて観客席に向かって大きな声で叫ぶ。
「すみませ〜ん! しきり直しさせてくださ〜いっ!!」
 そして再び曲のイントロが始まる。スノーは『今度こそっ!』と心の中で気負いを入れて望むが、結果は先ほどと同じく指が殆ど動かなかった。
 な、なんで……なんで……!?
 会場から次々とブーイングが上がる中、スノーは必死に自分にそう問いかけていた。
 スノーは極度の緊張でパニックに陥り、一時的な記憶障害を引き起こしていた。究極の仮想世界セラフィンゲインで戦慄の異名『絶対零度の魔女』と呼ばれる日頃の彼女なら、そんな自分の置かれた状況を冷静に分析できるのだろうが、それすら今の彼女にはかなわない。あの世界で最強の『神の身技』と見まごう最強魔法を苦もなく操る彼女は、現実世界では目の見えない弱々しい一人の女の子で、緊張【アガ】って指も動かない、情けない心しか持ち合わせてはいないチキンガール……そう思ったとたん、視界の中の鍵盤がぼやけだした。
 ああ、自分は何でこんなにダメな娘なんだろう……
 ああ、なんでララ……いや、マリアさんはあんなにも強くて素敵に出来るんだろう……
 やっぱり私には元々無理だったんだよ。
 もう消えて無くなりたいよ……
 そう思うと、瞼に溜まった滴がボロボロとこぼれ落ちてきた。
「スノー……」
 隣のサモンがそう呟いた。耳のいい彼女には、その声音から、彼が自分を励まそうとする意志が感じられた。でも今はそれがとても悲しい。
 ありがとう、サンちゃん。でもね、違うよ……私はスノーじゃないよ。私は世羅浜雪乃なんだよ。
 強くてクールで、みんなを率いてどんな困難にも負けない、そんなスーパーガール『プラチナ・スノー』なんて、現実には居ないんだよ。ここにいるのは、弱虫で、目が見えなくて、好きな人の声を聞くだけで満足してるだけの、ダメな女の子なんだから……
 だからもう、私を逃げさせてください
「ははっ、やっぱり私はダメだった。アガって頭が真っ白だもん。もう弾けないよ。ごめん……ごめんなさい。もう私……帰って良い……かな」
 そう口に出すスノー、いや、雪乃の涙声は悲しいほどか細い声だった。
 とそのとき、鍵盤に置いていた雪乃の右手を誰かが掴んだ。
 ――――!?
 驚いて引っ込めようとする雪乃だったが、手首を掴む手の力は思いの外強く、雪乃はその場でよろける。そして捕まれた手がゆっくりと上がり、手のひらが何かに押しつけられた。
 トクトクトクトクトク……
 規則正しく、それでいてやたら早い間隔で脈打つ感覚。雪乃はそれが鼓動だと判断して顔を上げた。
「同じだよ、スノー」
 その声は、雪乃がこの世で誰よりも愛おしいと思う声だった。
「カゲ……シャ、ドウ……?」
「わかるだろう? めっちゃドキドキしてんの。俺もさ、すっげー緊張してるんだ。マジで逃げ出したいくらいによ」
 その言葉の通り、手のひらから伝わるシャドウの鼓動はとても早かった。そのことが雪乃の心をほんの少しだけ和らげる。だが、シャドウにはそんな緊張を跳ね返す強い勇気がある。しかし自分には……
「照れくさくて言わなかったけど、実は俺、昔一度だけステージに立った事があるんだ。今みたいに大勢の前で弾いたことが。そのときはやっぱり今のスノーみたく最初はアガって上手く弾けなかった。だからスノーの気持ちがよくわかる」
 自分の右手を胸に押しつけたまま静かに語るシャドウのの声に雪乃は耳を傾ける。
「でもどうにか弾いていくうちにさ、俺、すげー楽しくなっちゃってさぁ……知っちゃったんだよ」
「知っちゃった? な、何を?」
 雪乃は見えない瞳をシャドウの顔に向ける。目は見えなくとも、彼女の瞼の奥には自分にほほえみかけるシャドウの顔がはっきりと映っている。
「なんつーのかな? 極上の瞬間ってやつ? なんか上手く言い表せないかな……」
 シャドウは少し考えて言葉を選ぶ。
「『もう、ここで終わってもかまわない』って思える瞬間。セラフィンゲイン以外でそんなことを感じることが出来る瞬間ってあるとは思わなかった。大勢の観客を前にしたステージに立つ奏者にはさ、あるんだよ、そんな一瞬が。俺はこのメンバーなら、またあんな一瞬が味わえるんじゃないかって思える。だからやってみようって気になったんだ」
 シャドウの声が、いや言葉が、雪乃の心に染み込んでいく。そして自然に顔を上げる自分がいた。
「俺はスノーにも味わって欲しいと思うんだ。きっと凄く楽しくて、この上ないぐらいに嬉しくなる。そんな瞬間に出会えたことに……」
 シャドウはそう言って雪乃の手を放した。しかし雪乃の手のひらには先ほどのシャドウの鼓動の感触が残っていた。そしてそこから発せられる熱も……
「間違えたって良い、上手く弾こうなんて思うなよ。今この瞬間、このメンバーで、このステージで演奏できる事を楽しもう。
 満点の演奏なんて俺たちには必要ないさ。今自分が出来る100パーセントの演奏をしよう。観客は誰も評価しないかも知れない。それでも良いじゃん? この仲間と、このステージで演奏出来るって事を楽しもう」
 シャドウの一言一言が雪乃の固まってしまった体を溶かすようだった。
「シャドウ……」
 雪乃の呟きにシャドウはにっこり微笑み、肩に提げたギターの弦を鳴かせる。普段の智哉なら絶対に出来ないし、キマらない事だが、今のシャドウほど似合ったアクションはないだろう。
「スノー、あんたの指で呪文を唱えろ! あんたの音で観客に魔法を掛けろ! あんたは至高の魔女、プラチナ・スノーだろっ!!」
 少し下を向いてうつむき、溢れる涙を未だ感触が残る右手の人差し指で拭い、雪乃……いや、スノーは胸元でギュッと固く拳を握りしめた。そして再び上げた顔にはもう涙など無く、現実世界では光を写さない筈の瞳に強い晄が静かに宿る。
 そう、私はセラフィンゲインの魔女、プラチナ・スノー。
 セラフィンゲインは真の勇気が試される場所。あの世界で最強を張る為のチームのリーダーが逃げたりなんて出来るものかっ! たとえそれが現実世界であろうと、ラグナロクである以上、それは私を否定する事になってしまうっ!!
「ごめんなさいみんな……でももう私は大丈夫、どんなにヘタっちょでも逃げたりしない。最後まで弾く。だからもう一度……もう一度だけ、チャンスをちょうだい」
 スノーの言葉に、一同無言で頷く。そして客席側に振り向いたシャドウがニヤリと笑いながら言葉を漏らす。
「……にしても、我らがリーダーのデビューステージがこんな冷え切った客席じゃあ納得いかないよなぁ?」
 そう言ってシャドウは不敵な笑みを浮かべる。そして再び弦に指を走らせギターが鳴く。
「だね。なんせあたし等伝説のチームになるんだし」
 とララも笑いながらそう相槌を打つ。サモンとリッパーも頷いていた。
「ちょっと予定と違うけど、少々暖めてやろうぜ……」
 尚も上がるブーイングの客席を見ながらシャドウはギターを構える。その姿は凶暴なセラフを前にして、不敵に笑うあの世界の彼、『漆黒のシャドウ』を彷彿とさせた。
「We Will Rock You……OK?」
 シャドウは振り向き、メンバーに目配せをした。スノー以外のメンバー全員がシャドウの意を悟り無言の答えを返す。
 えっ? 何、何なの?
 一人意味がわからずアタフタしているスノーにシャドウは声をかけた。
「緊張なんて吹き飛ばしてやるよ。アガってたら『勿体無い』って思えるくらい、楽しくなるさ!」
 その言葉が終わると同時に、サモンのドラムが響き渡った。
 ドン、ドン、ダンっ! ドン、ドン、ダンっ!……
 規則正しく、そして力強いドラムの音と、それに合わせてステージが振動する。見ると音に合わせてメンバー全員が片足でステージの床を踏み鳴らしている。
 そこにララの歌声が乗っかってきた。
「Buddy you're a boy make a big noise Playin' in the street gonna be a big man some day……」
 ララの透明感と力強さがミックスした声が、会場全体を包み込んだ。
「You got mud on yo' face!
 You big disgrace!
 Kickin' your can all over the place Singin'……」
【QUEENより】
 いつしかあれ程ブーイングが激しかった客席から手拍子と同時に、床を踏み鳴らす音が沸き起こった。その音は会場全体が震えているような錯覚をスノーに与えた。
 な、何なのコレっ!!
「「We will we will rock you!!」」
 会場にいる人間全員が声を張り上げる。
「「We will we will rock you!!」」
 いつしかスノーも無意識に声を張り上げ歌っていた。ステージと客席が一つになったような一体感。その中心に自分がいる。その高揚感はスノーの感覚に電撃のような快感を与えていた。
 こんなに楽しくて、こんなに嬉しくて、なんかもう、涙が出そうっ!
 シャドウの言うとおり、アガって動けないなんて……勿体無いっ!!
 無意識に指が鍵盤を走り音を打ち鳴らす。もちろん弾いたこともない曲。奏でてる音が合ってるかなんて分かるはずもない。でも指が止まらない。気持良すぎてブレーキが掛からない。間違ったって関係ないじゃんっ!!
 やがて曲が終わり、演奏が止まっても熱気が会場全体を包み込んでいた。
「このまま行くよ、みんなっ!」
 そんなララの言葉に一同「okっ!」と勢い良く答える。スノーもさっきまであれ程強張っていた指が、今では弾きたくてウズウズしている状態だ。
 そしてシャドウのギターソロからサモンのドラム、リッパーのベースと続き、スノーが鍵盤に指を走らせた。
 正直、出だしが少し滑った。でもスノーはその事が全く気にならなかった。いや、楽しすぎて気にできないといったほうが正しいかもしれない。
 そんな快感を味わいながら、スノーはシャドウのギターの音を追い掛ける。シャドウが音で問いかけ、スノーが答える。スノーがフレーズに乗せて想いを語り、シャドウがそれに答えるかのようにギターを鳴かせる。そして曲はスノーが一番気に入っているフレーズに差し掛かった。

♪ ♪ ♪ ♪

だから、だから、前だけ向いて、振り向かないで
最後の最後の最後まで、夢見た私の騎士でいて……

きっと、絶対、本当に、あなたを好きだった
もっと、絶対、本当は、あなたを好きでいたかった
It is my desire of the real thing!
それだけは嘘じゃないよAngel's desire……

♪ ♪ ♪ ♪

 スノーはララの声に自分の声をハモらせた。
 もうここで終わっても構わない、そう思える瞬間……そのシャドウの言葉がスノーの鼓膜に蘇る。
 スノーの、いや、雪乃の想いが歌に籠る。今なら素直に自分の思いを伝える事ができるだろう。スノーは喉が痛くなるのも構わず声を出す。その声にありったけの想いを込めて……

 世羅浜雪乃は、カゲチカ君が好きです! 世界中の誰よりも大好きですっ!!

『きっと、絶対、本当に、あなたを好きでいいですか?』

 雪乃は心の中でそう歌ったのだった。



 
2012-08-20 16:44:48公開 / 作者:鋏屋
■この作品の著作権は鋏屋さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めての人は初めまして。おなじみの人は毎度どうも。鋏屋でございます。
いや〜随分と長い間放置プレイしてしまい申し訳ありませんでした。でも最近なんか妙にこのお話を書きたくなってしまい続きを書きました。
忘れてしまった人も多いでしょうが「おい鋏屋テメエイイカゲンニシロヨ!」というクレームは横に置き、生暖かい目で見守ってくれると助かります(マテコラ)
予定では次回が最終回です。はてさて、雪乃の恋の行方はどうなることでしょう? 私も興味津々でございます(オイ)
因みにこの回のお話は全てiPhone&iPadで書いてみました。投稿までiPadでやっておりPCは一切使わなかったです。意外と書けるもんですねw
鋏屋でした。
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こんにちは! 羽堕です♪
 早くも投稿されてて「オオっ」てなりました。前回のラストシーンの続きからというのも嬉しいです♪ この歌詞は、マリア作詞だと思ったのですがあってるのかな? とにかく良い詞だと思いました!
 いきなりの夢オチには、ちょっと笑ってしまいましたw そして大学での雪乃が、どんどんとドツボに嵌って行くような展開は面白かったです。そりゃマリアに、そんな話をふったらノリノリでOKするに決まってるよなってw コメディだと、やっぱりタイミングが良すぎたりするのが逆に良くて、テンポよく楽しめました。
 ドラムのイメージはドンちゃん発言で、ララの考えてるバンドのイメージが見えた気がしました。サモンの木魚だけじゃなくは、パッと思った!w スノーなのにハッキリ言えないとか、ちょっと萌えなのかなと思いつつ、良い感じにまとまって良かった、良かった♪ それとララは良い事いったな。雪乃の受難は続きそうで、出だしから面白かったです!
 プロローグの美由紀の行動などは予測として書いてもいいのかなと少し思ったのですが‘〜〜したようだ’とか、でも長い付き合いからそうしているという確信があるから言いきる形なのかなとも思ったり。この部分は完全な一人称だったので、少し気になりました。
であ続きを楽しみにしています♪
2010-03-09 18:55:21【★★★★☆】羽堕
 早いですねぇ〜♪ もっと長く待つことになるかと思いましたがよかったです。
 待ってましたドタバタ劇w てか誰か本当にあの歌詞で曲作らないかしら^^
 マリアは絶対にノッてくるとは思ってました。ですが、まさかシャドウがギター経験者だなんてっ。どんなタイミングでやったのか気になりますw
 相変わらずテンポとノリの良い話に癒されました。次回も楽しみにしております。
2010-03-09 20:52:10【☆☆☆☆☆】湖悠
》羽墜殿
早速の感想&ポイントどうもです。この物語は前に一回投稿した分を手直しして、大幅に加筆して投稿したのでそれほど時間が掛かってないんですよ。書きためていた分がありますのでw お約束なタイミングの良さはコメディならではです。沢庵のシーンが難しかったです。この部分のスノーの対応がちょっと雪乃化しちゃうんですよ。内心では「え〜!?」って思っててもスノーの時は「それが何か?」見たいな感じの方が良かったのかなぁ…… でもそれだとその先の展開が微妙な気がしたんでこうなってしまいました。う〜ん、難しい。
プロローグで羽墜殿が感じた違和感は読み返して私も思ったので、修正入れますね。感謝です。
ホントはこの話、雪乃の1人称で行こうと考えたのですが、『目が見えない』つー設定ではどう考えても無理があるので3人称にしました。雪乃が居ないシーンも出てくるでしょうから。しかし、やはり一番の不安は音楽を扱うことですね。私がかじってたうん十年前とはずいぶん違うだろうしなぁ…… ギタとかベスとかの知識もそうだし、音楽を文章にして読み手に伝えるって凄い難しいですよマジで。今更ながら甘木殿は凄いなぁって思いましたw それでも楽しんでいただけるよう頑張りますね。
鋏屋でした。

》湖悠殿
早速の感想ありがとうございます。いやいや、書きためていた分を投稿したので早かっただけですよw これからどうなるかわかりません(オイ!
今回は投稿の量をちょっと多めにしました。『セラゲン』の時の1回の投稿量が23〜25枚くらいだったので今回はそれの2話分ですね。今回セラフィンゲインでの話はほとんど出てこないかもしれません。リアルメインで行くつもりです。雪乃の慌てぶりもそうですが、他のキャラの意外な一面も書いていこうと思います。てんやわんやのドタバタ劇、でもってちょっぴりホロリ感をミックスするような後味すっきり系の物語を作っていきたいです。
鋏屋でした。
2010-03-10 15:22:40【☆☆☆☆☆】鋏屋
こんにちは、浅田です。
早く読もう読もうとは思っていたのですが折角の機会と思いまだ読んでいなかったセラフィンゲインを読んでいたら遅くなってしまいました(汗
サモンがドラム経験者というところでは思わず坊さんが法衣を着てドラムを叩いてる姿を思い浮かべて笑ってしまいましたw
なんというかキャラクターもみんな魅力的で、個人的にはスノーの墓穴っぷりにグッときました^^
それでは次回を楽しみにしてます♪
2010-03-11 10:42:17【★★★★☆】浅田明守
千尋です。
 まさに、ドタバタ・ラブコメって感じで、とっても楽しかったです! 湖悠様もお書きになっていましたが、ほんと癒されます。
 だんだん、シャドウ、いやカゲチカが、本当にかっこいい気がしてきて、鋏屋様の雪乃視点の描写に、思いきりノセられている気がします〜w
 でも、音楽ができるっていうのは、確実にモテ要素になりますからね♪
 妄想気味のあたり、意外に雪乃とカゲチカは、似た者同士なのでは? と思ったり^^。
 続きも楽しみにしています!
2010-03-11 12:35:39【☆☆☆☆☆】千尋
 こんばんは、鋏屋様。上野文です。
 御作を読みました。
 カゲチカのイメージちゃうwww
 事件が解決したことや、セラフィンゲインでの成長もあって、ものすごく雪乃ちゃんが可愛かったです。本編ではときに痛々しく感じられるほど背伸びしてましたから、ギャップもあってすごくいいです。グスンって♪
 面白かったです。新しい側面を見せるセラフィンゲインワールド、続きを楽しみにお待ちしています!
2010-03-11 23:02:13【☆☆☆☆☆】上野文
》浅田殿
初めまして、鋏屋【ハサミヤ】と申します。本編も読んでくださって感謝です〜w
今回はリアルサイドでの話が多くなります。本編での『クラブマチルダ』のときみたいなノリがほとんどかも…… 雪乃のドタバタぶりに楽しんでいただければ嬉しいです。
鋏屋でした。

》千尋殿
早速の感想ありがとうございます。癒されますなんて聞くとこそばゆいですw
智哉が格好良く見えるのは雪乃の妄想で勝手に補完されてるっぽいですね。確かに雪乃と智哉は似たもの同士かもしれませんね。キャラ名で呼ばれると人格変わっちゃうしw
またおつき合い下さいね
鋏屋でした。

》上野文殿
確かに智哉はイメージ違うかも……
雪乃のギャップを感じていただけて嬉しいですw まあ、彼女には災難でしょうが、頑張って奔走して貰いましょうw
またまたしょーもない物語ですが、おつき合いのほど
鋏屋でした。
2010-03-12 10:43:31【☆☆☆☆☆】鋏屋
遅ればせながら拝読しました。水芭蕉猫です。にゃあ。
セラゲンキャラ沢山ということで、楽しく読ませていただきました。リアルだと皆、やっぱり何か違う(おい)カゲチカ、普通にかっこいいじゃないですか。どもってるけど、それだけですし、そのうち吃音を直していけばただのオタクじゃ無くなると思うんですけどね。あ、でも今でも十分モテてますか……。いいなぁ(おい)雪乃も普通に可愛い。私としてはセラゲン世界の凛々しいスノーが好きなので、そのギャップが激しい。そしてメイドさんも……スポコン怖い。体育会系怖い。そしてサモンが木魚とドラムを鳴らしている姿がちらついて!! もしかしたら現実でもゲームでも一番ギャップがあるのってサモンなのでは?(笑
2010-03-13 23:02:22【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
こんにちは! 羽堕です♪
 雪乃の妄想というのかな、本当に恋に夢見てる乙女って感じで可愛いです。それから美由紀の本気がヒシヒシと感じるようで、これは雪乃も大変だろうなって思いました。そして智哉のギターの腕とか意外だけど、その真面目さの賜というのは分かる気がします。才能も必要だろうけど、楽器って毎日の積み重ねも大きいだろうから。休んだら取り返すのが大変とか、よく聞きますし。
 コーチ美由紀は、本当に雪乃のツボを心得ているし、雪乃の為に真剣だから、これからの技術面も含めて成長が楽しみです♪ そしてマリアの強引さが、なんかクセになりそうな感じです。
であ続きを楽しみにしています♪
2010-03-15 17:38:33【☆☆☆☆☆】羽堕
 2話一気読みさせてもらいましたよ。
 なんだろう、あの美由紀さんの神がかりキャラ。愉快すぎて話にならない。マジでどっから竹刀出したんだ? そしてそのわけのわからん情熱もどっからわいて出た? しかも流石は世話係というか、雪乃の動かし方がうめぇ。物語を後半は彼女がだいたい物語の流れを掴んでましたね。最高でした。
 しかし恋をすると人は馬鹿になるといいますが、雪乃はちょっと馬鹿になりすぎでは……。まあそれくらいシャドウに燃えてる(萌えてる?)ということなんでしょうけどね。
 気になった点を一つだけ。雪乃以外全員、プロ級の腕前を最初から持ち合わせているっていうのは、ちょっと見過ごせない。都合がよすぎないかと思ってしまいました。
 けど気にせず次回を楽しみにしています。
2010-03-15 22:10:06【☆☆☆☆☆】コーヒーCUP
 美由紀さんいいキャラしてるなぁ。
 ども、みずうみです^^
 カゲチカかっこええ!! なんか、カゲチカじゃないみたいですw カゲチカどんな曲作るんだろうか。JAMのような燃え曲作るんでしょうかねw
 そしてコーチ美由紀さん。過去にどんな恋愛してるんだろう。ほろ苦い恋だったんでしょうかね……。だからこそ雪乃には頑張ってもらいたい、といった所でしょうか。泣ける話ですなぁ……ジャージ着た場面では笑ってしまいましたがw
 次回も楽しみにしております^^
2010-03-15 22:25:10【☆☆☆☆☆】湖悠
千尋です。
 どうしたの、カゲチカ? かっこよすぎでしょ! でも、特殊脳の持ち主だから、本当はやればできる子だったんでしょうね。
 ローランドのキーボードか……。そういや、うちにもローランドが一台。「絶対に練習してうまくなる!」と決意のもと買ったのに、いつの間にかホコリをかぶってン年……T T
 最初のうちは、三人称がしっくりこなかったけど、だんだん馴染んできました。
 続きも楽しみにしています! 
2010-03-16 09:53:36【☆☆☆☆☆】千尋
こんにちは、浅田です。
2話も読ませてもらいました。
なんかもう……ほんとうまいですね^^
今回はとくにカゲチカがかっこよすぎ!あれむしろシャドウじゃね?とか思って読んでましたww
スポコンネタもいいですよね〜。あれはある意味ギャグ系小説の特権みたいなもんですから^^
それだけのために久々にギャグものでも書いてみようかなw
一か所だけ、ミスかな?と思ったのが。スタジオでリッパーたちと合流するシーンで2か所ほどリアルなのにマリアがララと表記されていたのが少し気になりました。
それでは続きを楽しみにしています♪
2010-03-16 20:55:50【☆☆☆☆☆】浅田明守
 こんばんは、鋏屋様。上野文です。
 御作を読みました。
 えーと、皆パラメータ高すぎでは…。と当初は若干引っかかったのですが、ま、これはこれでいっか。
 皆どこかしらギャグ化してますが、それが心地よく、また楽しく読めました。
 面白かったです! 続きを楽しみにしています。
2010-03-21 00:10:23【☆☆☆☆☆】上野文
》猫殿
読んでくださって感謝ですw
アッチの雪乃とはもう別人に近いかも…… アッチでは結構無理をさせていたのでこっちではコミカルなキャラになってもらってますw 美由紀は普通に変人ですねw てか世羅浜家にいる人は皆どこか変な感じですw サモンはリアルじゃちゃんと喋ってくれるので楽ですが、智哉がエライ大変で困ってますww

》羽墜殿
感想どうもですw
智哉は一人でひたすら弾いていたのでああなりました。ホント楽器って毎日の積み重ねというか、練習あるのみですよね。弾けると楽しいしw
美由紀は雪乃のお姉さんみたいな感じなので、雪乃のことをよくわかっています。その扱い方もねw ただちょっと変人なのは世羅浜家の特徴ですww

》コーヒー殿
感想ありがとうございます。
恋をすると馬鹿になる……重い言葉だなぁ。確かに本編に比べ雪乃はアホになりつつありますが、まあお笑いなのでご容赦をw ご都合主義もギャグならではです。みんなの違った面を出していきたいなぁと思ってます。またおつき合いのほどw

》湖悠殿
引き続きのご愛読、まことに嬉しいですw
美由紀の恋は…… さあ、どうだったんでしょうねw でもきっと糧になった恋だったんじゃないですかね。ジャージは欠かせませんw コーチと言えば小豆色のジャージですww 智哉君のカコイイのはこの物語だけなので許してやってくださいなw

》千尋殿
感想どうもですw
やや、ちぃ姉さんもローランドだったんですか。しかも埃被ってるなんてもったいない。弾いてあげましょ、楽器は弾いてこそその価値が出るんですから。弾いてあげると喜びますよw 私はクロマチックハーモニカをもってて、たまに吹いてあげると気持ちいい音で喜んでくれます。智哉はそうです、やれば出来る子なんですよwww

》浅田殿
感想ありがとうございます。上手いとか言われると照れてしまいます、ぽっ!(マテコラ)
スポコンネタはちょっと古かったですね。今の若い人じゃ知らないかもね……
あら? ララになってましたか? 何処だろう。ちょっと見てみますね。ご指摘感謝です。

》文殿
感想ありがとうですw
コメディなので、皆どっかしら頭が悪いですw でも智哉のギターや他のメンバーが楽器が上手いってのは、ある意味雪乃イジメな要素…… い、いや、苛めてるわけではないですよっ! みんなのそういう姿をみて、頑張って欲しいという親御心から……
(雪乃)「ひ、ひどい…… やっぱり、ヒック…… 苛めてたんだぁ…… ヒック…… 私の事苛めて、ヒック…… 面白がってたんだ…… 」
(鋏屋)「い、いや、面白がっていた訳じゃなくてだな、さ、さ、作者の親心つーか……」
(雪乃)「鋏屋のぶぁか――――っ! わぁぁぁぁぁ―――――――んっ!!」
(鋏屋)「……」 
萌え泣きキャラの扱いは非常に難しいとしみじみ思う鋏屋であった。

皆様、遅くなりましたが感想本当にありがとうございました。またおつき合い下されば嬉しく思います。
鋏屋でした。
2010-04-20 14:53:36【☆☆☆☆☆】鋏屋
 書けなインフルエンザ中のみずうみです^^;
 
 今回も面白かったですw 俺はシリアスな空気よりも、どうやらほのぼのとした方が好きなようですな。にやけが止まりませんでしたよ^^
 相変わらず雪乃のはじけっぷりが可愛かったです。てかカゲチカもよくあ〜んやったなぁw 度胸があるのやら、疎いだけなのやら。
 コーチッ!! 今回も出てくれましたね。出番が多くて嬉しい限りです。


 それではっ。
 
2010-04-20 23:15:53【☆☆☆☆☆】湖悠
こんにちは! 羽堕です♪
 雪乃カワイイなぁ! 海老フライの所で、智哉の手を取るとか恋のパワーというのか、普段以上に感覚が鋭くなってるから出来た行動じゃなかったのかなと、必死さも含めて萌えですねw でもマリアと智哉が「あーん」しているのを想像して悶々としちゃう雪乃も、ちょっと読みたかったかもです。それにしても智哉は、責任感の強さかマリアの恐怖かw 頑張ってるなって思いました。
 美由紀の紅茶の所とか、ちょっと相棒の右京さんを思い出しながら、自慢とかじゃなく本当にスラスラと、こいう物なんですよって教えてる様な感じかなと楽しく読めてしまいました。
 それから作詞に悩む二人へのコーチモードでのアドバイスなど、二人の反応も含めて面白かったです。
であ続きを楽しみにしています♪
2010-04-22 17:24:15【☆☆☆☆☆】羽堕
こんにちは。書か“な”インフルエンザな(マテコラ 浅田です。
とりあえず……ゆ、雪乃がかわいい! カゲチカのあ〜んを横取りするために苦手なエビに手を出すとか……もう健気過ぎです。
紅茶の知識とかもよく調べたな、と。ああいうマニア系のキャラは書いてて楽しいし使いやすいんですがいろいろと下調べがいるのがなんですよね(汗
読んでいて少し気になったのが、
・三話前半、「あ〜ん」のシーンで、「雪乃はとっさにその智哉に〜」という文がありましたが、そもそも自分でカゲチカの手をつかんで海老フライを自分の口の前に持ってきたのだからあそこで「とっさに」という表記は少し違和感があるように思えます。
・それを突っ込むかといった感じの話ですが、目が見えない雪乃がどうやってパソコンに文字を打ったり、その文字を読んだりできるのだろうか、と。自分が打った歌詞を完璧に覚えている、とかですかね、やっぱり。

それでは続きを楽しみにしています♪
2010-04-23 16:01:00【☆☆☆☆☆】浅田明守
》湖悠殿
感想どうもです。
書けなインフルエンザは痛いですね〜 ネタが浮かぶのに書けなくなるのは書き手として最悪な状態ですよ。早めの回復を祈っております。
ほのぼのしてくれて何よりでしたw 雪乃も苦手な海老フライを我慢した甲斐があるという物ですww
美由紀の変人ぶりに拍車が掛かってきた感があり、ちょっとやりすぎか? とも思っていたんですが、そう言っていただけてほっとしています。これからもちょくちょく登場しますので、またおつき合い下さいね。

》羽墜殿
感想ありがとうございます。
雪乃萌えでしたか? 良かったw マリアよりな羽墜殿にも萌えて頂いて本望でございます。智哉は間違いなく「恐怖」で頑張っていますねww 紅茶の話は若干くどかったと反省してます。私は紅茶って午後ティーぐらいしか飲まないんですけどね。調べるのが面倒だったわりに、いまいちだったかな……
コーチモードの美由紀は『熱い女』なのでああなりました。メイドモードは主従がハッキリしますが、コーチモードでは暴走しますww 彼女の変人ぶりがお約束めいてきた感があります……

》浅田殿
感想どうもです。
書けないんじゃなく、書かないんだ…… 新種ですねw
雪乃は本編よりアホになってますが、健気さアップでイーブンかと……(オイ)
紅茶の話は若干失敗だったかなと…… でも調べるのは結構大変でした。ほんと思いつきで入れたら、調べていくウチにどんどん嵌ってしまって…… でも私は飲みません(マテコラ)
読み返してみると「とっさに」は確かにおかしいですね。自分で智哉の手を引っ張ってなければそれもアリだけど、雪乃目が見えないですモンね。修正入れときます。
あと、パソコンはやはり無理がありますかね。一応キーボード同様点字を入れて、打ち込み文字は『音声』つー設定でヘッドフォンさせていたんですが…… でもよく考えると、変換出来ねぇじゃん…… 
ああ、何で盲目なんつー面倒な設定なんだよ雪乃!(自業自得) てか目が見えないのに作詞なんか受けるなよ……(馬鹿か私は?) 今のところ良い打開策が見あたりませんのでスルーする方向で…… 修正入れるかもしれませんが、今のところはちょっと見ないふりでお願いします。

お三方ともありがとうございました。
鋏屋でした。
2010-04-23 16:54:09【☆☆☆☆☆】鋏屋
千尋です。
 いい意味で、力をぬいて楽しく読めていいですね〜^^。
 すごいな、女二人のバトル……。でも、陰湿でなくて可愛らしいですよね。
 でもこの話、やっぱり雪乃の一人称でもよかったんじゃないかな、と。もともと目が見えているような言動が多い雪乃だし。そういう雪乃目線(?)も知りたかった気がします。
 続きも楽しみにしています!
2010-04-23 20:38:28【☆☆☆☆☆】千尋
》千尋殿
感想どうもです。ちぃ姉殿には脱力系ですかねw  バトルってほどのもんじゃないですよ。だってまだこの段階では雪乃はマリアが智哉をどう思ってるかハッキリ知りませんからねw この物語は聖櫃戦の前の話ですからw
雪乃の一人称はやっぱりキツくないですか? う〜ん、他のキャラの動きをハッキリ書けないしw たぶん私の腕では無理かもです。またおつきあい下されば嬉しいです。
鋏屋でした。
2010-04-26 16:19:53【☆☆☆☆☆】鋏屋
拝読しました。水芭蕉猫です。にゃあ。
書けないインフルエンザ、わたしも現在患っておりますにゃorzんでも、今回の話はつるりと飲み込むように読めましたので、鋏屋さんはそこまで酷い書けない病ではないのではないかとお見受けします。私のも治してくれ(おい
冗談はさておき、おお、女同士のなにやら可愛らしい争いが……女同士の血で血を洗うような恐ろしい策略合戦を目の当たりにしたことがあるので、この二人がやたらと可愛らしいと思いました。マリアがまだ自分の気持ちに気付いていないというのも大きいのでしょうけれど。それで、目の見えないキャラの一人称ってきついですよね。私も昔チャレンジして壮大に挫折した経験があります。うふふ、何はともあれ、次が楽しみです。
2010-04-26 22:56:15【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
 こんばんは、鋏屋様。上野文です。
 御作を読みました。
 美由紀さん、引っ掻き回してるなあ。
 本編のシリアスな雰囲気とは裏腹のラブコメチックな展開が、肩がこらない楽しさがあって良かったです。
 続きを楽しみにしています。
2010-04-27 23:41:02【☆☆☆☆☆】上野文
お久しぶり、ということになりますか。感涙にむせってきた木沢井です。
 それはさて置きまして、雪乃は新たなイメージというか、前作とのギャップが出ていて、何とも言い難い悲喜劇になっていますねぇ。特にエビフライのくだりが。
 カゲチカがギター。ううむ、何故でしょう、彼がギターを弾けると知った時、不純な動機があったのではという邪推が……まあ、どのような動機があっても、音楽が好きだというのはいいことですね。
 みんなで何かを作る。いいですねぇ。前回も『みんなで』でしたが、今回のように何かを作っていくというのも、一つの形が組みあがっていく過程を共有できるようで楽しみです。
 以上、来月末の演奏会に頭を捻る木沢井でした。
2010-05-07 15:28:22【☆☆☆☆☆】木沢井
鋏屋様。
こんばんわ。御作を拝読しました。
ふむふむ、これは貴方の前作のアンソロジー的立ち位置にある作品ですかな。たまにありますよね、長編を書いていると途中で無性に一味違ったスパイシーなものを書きたくなることって。
やはりキャラクターを作者である鋏屋様は明確に脳内でイメージできているのでしょうね。ですから、とてもよいキャラクター小説になっていると思います。気が付いたらパソコンの画面に向かって「雪乃たん、もへえええぇぇぇぇ!!」と叫んでいました。そろそろアパートの隣の住人から苦情が来るころですかね、どうしようかな(笑)。
ただ、本当に趣味の小説みたいになっています。僕なんかはとても楽しめましたが、広く読んでもらうのなら――まあこんなことを言うのは不粋ですかねw
変な話ですが、鋏屋様のエンジェル・デザイアも僕は好きですが、こちらの方がさらに好きだったりします。雪乃たんがかわいいからかなぁ? どうしてかしら?
次回更新、お待ちしております。ピンク色伯爵でした。
2010-11-11 20:45:11【☆☆☆☆☆】ピンク色伯爵
》猫殿
放置ゴメンナサイ(汗)せっかく感コメ貰っててレス返さなくて。
いやマジ最近感想すら書けないでいますよ。どうしちゃったんだ俺。でもようやっと書けてくるようになりました。これに懲りずにまたおつきあいのほど……

》上野文殿
遅くなってゴメンナサイ
美由紀は扱いやすいキャラですw 彼女のおかげで色々助かってますよ。本編の主人公なんて喋らせるだけでイライラしますものwww
本編はシリアスと笑いが6:4ぐらいですが、こちらは2:8ぐらいでほとんどコメディですから肩が凝らない程度に楽しんでいただければよろしいかとw
またおつきあい下されば嬉しく思います。

》木沢井殿
感想どうもです。レス遅くなってゴメンナサイ。書けなインフルでもう死にそうでした。いや今回はきつかった。一時期本気で物書きから足洗おうとか考えましたもの……怖い病気ですよ。最近はあまりお名前を拝見しませんが、ご息災であることを祈っております。

》ピンク色伯爵殿
あらあら、こちらでも引き続きのごひいき、感謝でございます。ええもう前作『セラフィンゲイン』のキャラ遊びですw 恐らく本編は読んでおられないでしょうから、軽く説明しますと、雪乃はセラゲン本編では『絶対零度の魔女』と味方からも恐れられる最強魔導士です。生まれつき目が見えない彼女が幼い頃、大好きな兄に「お兄さまを見てみたい」というたわいもない言葉がきっかけで、彼女の兄である朋夜(鬼丸、Eデザイアではナイトね)は半身不随でありながらその天才的頭脳でインナーブレインシステムを完成させ、仮想世界ではありますが雪乃の願いを叶えました。その大好きだった兄を消滅させるため、シャドウ他メンバーを集め、自分を含めたチームメンバー全員を道連れに兄鬼丸を消すために『冷血』の仮面を被り、自分を偽り続けてきた痛い娘です。でも彼女のたった一つの誤算、それがシャドウこと智哉に恋心を抱いてしまったことでした。本編では、幼い頃から仄かに恋心さえ抱いていた兄。半身不随で普通の生活が出来なかったそんな兄に、せめて人間らしい死を迎えさせてあげたいと言う想いから、セラフィンゲインの中に残留する兄の意識を消滅させるという目的と、仲間を道連れにする恐怖との板挟みで葛藤するキャラだったので、この物語では本編でさわり程度だった彼女の恋を全面に出し、思いっきりコメディにしてみました。本当はどこにでもいる普通の女の子ってイメージです。
このお話のプロローグは前作のラストシーンから始まりますが、雪乃がアメリカに向かう飛行機の中での過去の回想ですので、時間的な設定は本編の途中という位置づけです。
長々と説明すいません。こんな厨二臭ぷんぷんな話ですが、またおつきあい下されば嬉しく思います。


みなさま、特に猫殿、上野殿、木沢井殿、大変長らく放置してしまいホントすみません!
ようやっとまともになりつつあります。こんなダメ人間な私ですが、またおつきあい下されば嬉しく思います。
鋏屋でした。
2010-11-12 00:58:08【☆☆☆☆☆】鋏屋
 ライトノベル物書きのakisanです。読ませていただきました。
 エンジェルデザイアは前作みないで感想書いたから、こちらは前作をさーっと一気読みしてから感想書きます。
 では今作雪乃さんの物語から。
 一つもったいないと思うことがありまして。他でもない鋏屋さんがキャラのコントロールを失っていると思うのです。頭の中にあるイメージが先行しすぎていて、各キャラの差異化がおろそかになっている感じです。作者の内面とノリがキャラを振り回している感じです。だからみんなで喋っていると途中で混ざってくるんですよね、紅茶に垂らしたミルクみたいにじわじわと。

 続いてセラフィンゲインを含めた感想。
 鋏屋さんが想定している媒体は、インターネットで見る連作ネット小説なのかでしょうかね。市販の小説や映画の尺じゃなくて、アップロードする分だけで楽しませること。だから小説や映画の感覚で一気読みすると全部同じテンションで書いてあるように見えてくるんですね、山と谷がないように思えてくるんです。でもアップロードごとの区切りで考えると見え方が変化してくる。なるほど、想定する媒体によって見せ方がちがうんだなーと勉強になりました。
 だからこそ、鋏屋さんが小説の呼吸で書いた250ページから300ページ程度の長編を見てみたいです。
2010-11-12 22:28:42【☆☆☆☆☆】akisan
》akisan殿
感想ありがとうございます。あと貴重なご意見も超感謝ですw
キャラのコントロールを失ってるってのは確かにあります。まあ元々表現の引き出しの少なさをカモフラージュするため、台詞だけ読んでも誰かわかるようにと思いっきり濃いキャラにしたのが始まりですからねw 少し前の書き方に変えてみようかなぁ……
それとセラゲンの方まで感想頂くなんて感激です。ホントありがとうございます。実はこの感想ではっとしたんです。『アップロード分だけで楽しませる』って部分です。「これそのとおりだわー」って思いました。私の書き方は小説より雑誌連載漫画のネームに近いんですね。たまに書きながら頭の中でコマ割りしてたりしますものw 自分じゃ気が付かなかったのですがakisan殿に言われて初めて気が付いたんです。ちょっと書き方いじってみますね。
鋏屋でした。
鋏屋でした
2010-11-13 00:24:16【☆☆☆☆☆】鋏屋
こんにちは! 羽堕です♪
 雪乃、もう大丈夫なんだろうか? というぐらいに変わってきているなぁ。スノーを連想する部分が今回はないので、ギャップなどを楽しめないのは残念です。雪乃は胸のうちで自己完結しているような所があるから、夢見る乙女のように感じました。駆け引きや対決、ハプニングなど、これから何が起こるか期待しています!
 それとマリアって智哉と一緒にいると、更に輝くんだなって今回の更新分を読んで思ってしまいました。この文章の読みやすさというか、どんどんいけちゃう(読めちゃう)のは凄いなって改めて感じます。
 二か所だけ気付いたので‘刃に衣を着せない’、マリアを夕食に誘う所が‘後夕食’となってました。
であ続きを楽しみにしています♪
2010-11-13 13:35:23【☆☆☆☆☆】羽堕
 待ってました!
 相変わらずのセラゲンキャラが見れてホッとしました。雪乃がどうしようもなく可愛らしい。報われてほしいなぁ。カゲチカが羨ましいです。
 マリアとの対決が見てみたいですねー。どんな形でもいいので。二人が戦う中板挟みになるカゲチカとか想像すると楽しいですww

 俺自身インターバルが長かったので、小説自体前のように読めるかと心配だったのですが、鋏屋さんの変わらない読みやすい文章のおかげですいすいと読み進めることができました。俺も早く書けなインフルを直して復帰したい……。

 それではっ。
2010-11-14 00:42:12【☆☆☆☆☆】湖悠
 こんばんは、鋏屋様。上野文です。
 御作の続きを読みました。
 鋏屋様の描かれたいのがコミュニティの交流の楽しさ、なら、あるいはこちらの方が向いているのかもしれませんね。バトルは悲哀や憤怒の描き方でも変わるから。そんな印象を受けました。
 雪乃ちゃんやカゲチカくん、キャラクターがいきいきして面白かったです。
2010-11-15 23:27:44【☆☆☆☆☆】上野文
あっ、気づかなかった。そっかー、ここにもエンジェルデザイアというキーワードが! そうするともしかして、もう一つの作品に雪乃も絡んできたりするのかなあ。わくわく。
えーと、しつこいようですけど、人称の話。こういうふうに三人称の中に一人称が交じってくるというのは、ラノベではポピュラーなんでしょうか。まあ、そういうのもアリと思えば思えるのですが、でも、作品自体のノリからいえば、これはやっぱり一人称向きだと思うのですよね。だから、三人称の部分がちょっと無理をしているように感じてしまうのです。私だけかも知れませんが。
いやしかし、「恋は盲目」という言葉は雪乃のためにあるみたいですね。この恋の行方、少しは発展して終わるといいなあ。
2010-11-21 08:32:55【☆☆☆☆☆】玉里千尋
 こんにちは、浅田です。
 こっちの作品だと雪乃さんが本当に可愛くて可愛くて。こんな子に告白されたらノーウェイトでOK、むしろノックアウトされちゃいますね。少なくとも私なら悶え死にマスww
 結構インターバルが長かったにもかかわらず不思議と違和感なく(?)すらすらと読めました。
 それでは次回更新も楽しみにしてます^^
2010-11-21 11:58:34【☆☆☆☆☆】浅田明守
拝読しました。水芭蕉猫ですにゃーん。
内容、綺麗さっぱり忘れてました。ので、前後をちらりと見て思い出したり。前後ちらりだけで思い出せるのは、やっぱり面白いからだと思います。脳の許容量少ないのです。四話は面白かったです。ノリが良いですよね。乙女っぽくて。それから、エンジェルデザイアの単語が出てきてわっふるしましたよ!! そっかー、ここからが全ての始まりだったのかなとかついついおもってしまったりね。いろいろ感想が遅れましたが、次回も楽しみにしておりますよ。これは本当よ。
2010-11-26 22:22:28【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
〉羽墜殿
遅くなって済みません。感想どうもです。
この間世間的にも個人的にも色々なことが起きすぎて、自分の中の整理がつかず、レスが遅くなってしまいました。まことに申し訳ないです(汗)
読みやすいと言って頂けて嬉しい限りです。雪乃は確かに夢見る乙女と言った感じですね。マリアとは大違いですよw でも私的にはマリアみたいな女子の方が好きだったりしてwww
せめてご引退する前にレスを返せれば良かったですが、また覗きに来たときは是非ともお付き合い下さいませ。

〉湖悠殿
感想どうもです。湖悠殿も最近忙しいようでお見かけしておりませんね。元気であると信じます。それとレス遅くなって済みません。
確か湖悠殿は雪乃をことのほか愛してくれておりましたねw イラストまで書いてくれましたもんね。またレス等やり取りが出来ることを楽しみにしております。

〉文殿
いやもうホントすみません。大変遅くなってしまいました。
仰るとおり、私にはこの方が合ってるのかもしれませんね。書いてて楽しいですしw
キャラが生き生きしていると言うお言葉に感激です。でも私としては文殿の『七鍵』のようなお話に憧れるのですよw 感想ありがとうございました。

〉ちぃ姉殿
レスが遅くなってすみません。この間に本当にいろんな事がありました。
エンジェルデザイアはそう、この物語に出てくる歌の名前なんですよw でもこのお話とリンクするかは……う〜ん、どうでしょうね(マテコラ)
三人称…… そうなんです。千里殿が違和感を感じるのも無理もないんです。仰るとおり一人称向きなんですけど、雪乃の視点ってのがネックになってるんです。彼女、現実世界じゃ目が見えないからw このお話を書き始めた最初の頃、この問題に気が付かずに少し書き進めてて、「あぁっ!?」と気づき慌てて変更したアホですww 自分で作った設定忘れて書き始めるつー言語道断な話でした。で、三人称にすると今度は一人称が邪魔になってくるんですが、話しの雰囲気は絶対一人称だと思ったので強引にねじ込んでおります。たまに台詞か考えなのか、書いてる自分もわからなくなります(マテコラ!)
うん、まさに『恋は盲目』ですよ雪乃は。じっさい見えませんしwww

〉浅田氏
レス遅くなってゴメンナサイ。雪乃可愛いと言って貰えると嬉しい限りです。でもマリアも良くないですか? 私的にはマリアみたいな方が好きカモですw 疲れそうですけど……
》結構インターバル長かったけど……
ぎくぎくっ! え、ええ、もう…… ほんとうに……
この枚数で早1年が経過してますしね…… でも完結目指して微速前進です。というか、たぶん次か、遅くともその次で完結予定です。彼女はエンジェルデザイヤにも出てこないですから、言うなれば雪乃の見納め? になるのかもw

〉猫殿
レス遅くなってこめんなさいにゃーんw…… いてっ、いててっ、ご、ゴメンナサイ! 爪っ、爪立てないでっ!!
ホントすみませんしたっ(汗っ) いやもう全然ダメダメですわ自分。時間も根性もないっす。
楽しみにしてますよって言葉が嬉しい反面、妙に心に刺さります。でももう少しでお仕舞いなので、これに懲りず、またのお付き合いの程……

皆様、感想を貰っておきながら長い間放置してすみませんでした。まだコンスタンスには書けませんが、徐々に書いていこう、時間を作ろうと色々やっております。こんなしょーもない私ですが、生暖かい目で見守ってください。
鋏屋でした。
2011-04-08 14:52:21【☆☆☆☆☆】鋏屋
どうも、久々でカゲチカの本名を素で忘れていた浅田です。(ヲイ
なんというか、ほんと雪乃が可愛い(あれ? なんかデジャビュ……)持ち前の僻み魂を発動させて思わずリア充カゲチカ地獄に落ちるがいいと念じてしまいましたwww
私としてはこの作品のようなのほほんとした雰囲気の小説は好物ですので、次の最終回が寂しかったり楽しみだったりで少し複雑な気分ではあります。
2011-04-11 01:06:35【☆☆☆☆☆】浅田明守
〉浅田氏
感想どうもですw ええ、智哉が羨ましいのは書いてる私も同じです(オイ!) でもまあ、このお話の結果は本編読んでる浅田氏にはわかってると思います。ですからその過程の雪乃を楽しんで頂ければうれしいですねw
ただ、このお話の後に聖櫃戦前のあの告白があるので、今考えるとえらいギャップだよなぁ…… ま、いっかw この頃の雪乃は『絶対零度の魔女』の仮面が外れ掛かってるんでしょうね。うん、そういうことにしておこうwww(マテコラ!)
さて、いよいよ無駄にインターバルを空けすぎたお話もラストです。コンサートの行方は? そして雪乃はチョコレートを渡すことが出来るのか? こうご期待です!
鋏屋でした。  
2011-04-11 20:19:20【☆☆☆☆☆】鋏屋
 こんばんは、鋏屋様。上野文です。
 遅ればせながら御作を読みました。
 カゲチカ君が、リア厨爆発しろな件について(TT)
 将来的に爆発してる気もするけど、この際今爆発(オイ
 しかし、思えば雪乃さん変わりましたね。
 自分を押し殺していた過去から、日常を謳歌する今を手に入れた。
 明朗なはしゃぎっぷりが、憎しみから解放されてブイブイゆーてる兄貴と一瞬被って、兄妹だw
 と思いました。
 ほんわかした恋愛もので読んでて心地よかったです!
 続きを楽しみにしています。
 もう一作もあとで感想を書きますね!
2011-04-23 18:46:37【☆☆☆☆☆】上野文
あ、ポイントつけ忘れたのでポチっとな。
2011-04-23 18:47:40【★★★★☆】上野文
〉文殿
ポイントまでいただいておきながら長い間放置してごめんなさいゴメンナサイっ!
智哉のリア充は本人がそのことに全く気づいて無いので許してあげてくださいw でも雪乃はこんなやつのどこに惚れたんでしょうねぇ?(オイ)
ようやくまたこのお話を書きたくなったので続きを書きます。といっても次回でお終いですけどね。放置していてなんですが、またおつきあいくだされば嬉しく思います。
鋏屋でした。
2012-08-20 16:32:48【☆☆☆☆☆】鋏屋
計:12点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。