『陽炎少女』作者:模造の冠を被ったお犬さま / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
 少女のおはなしです。
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原稿用紙約4.97枚
陽炎少女



 博士がいます。たいへん優秀な博士です。とくに生物学が得意です。
 博士が持っている三角フラスコにはタツノオトシゴが入っています。違いました、人間の胎児のようです。とても小さな人間が三角フラスコに入っていました。博士がいるのは理科室みたいな場所です。学校の理科室よりもごちゃごちゃしていて、もしあるのなら魔法使いの部屋のほうが近いかもしれません。博士は研究室と呼んでいました。机の上には馬の陰茎が解剖されて置いてありました。あとは、目玉の取り除かれたトカゲがホルマリン漬けの壜から取り出されていたり、いろいろです。そういえば、この部屋には助手もいました。女の助手で、名前はわかりません。年齢もわかりくい。博士はしゃべっています。ずっとしゃべっているので記述するタイミングを逃していました。しゃべっていることを抜き出します。「……は偶然の産物だ。確かに適量には及ばなかった。なんにせよ任意の組織が不足する。なぜ可能かという問いに答えるすべはない。私の無能を表明するため奇跡と仮に呼ぶことにしよう。この奇跡は実にさまざまな場所で散見される。小さいものは細胞レベルから大きなものは……」。と、本人にしかわからない内容をしゃべっていました。助手にもわかりません。わかりませんが、博士が大きな感動の裏で小さな挫折を味わっていることを感じ取りました。「博士? NaHoM?は成功です。順調に発育しています」。博士は助手の言葉を聞いていませんでした。
 五年後です。博士は髪の薄さを気にしはじめました。場所は研究室と同じ建物の中にある部屋で、病院の一室のようでした。博士はナホミの部屋と呼んでいました。博士はナホミに知っていることをどんどん教えました。あることを除いて、一般常識から博士が専門にしている生物学まですべてです。それはナホミが特別なものであることも含めています。ナホミは人間ではありませんでした。人間の遺伝子を使わずにできるだけ人間に近い生物を作ろうとした結果に生み出せれたのがナホミでした。説明していませんでしたが、ナホミは例のタツノオトシゴです。順調に発育しています。博士と会話することが多いので知能はかなり高いですが、身体能力や感情表現などはふつうでした。ふつうというのは、同じ年齢の人間の機能と同等であるということです。ナホミと助手が会話をすることは、必要とされるとき以外にはありませんでした。ナホミはこのふたり以外の人間に会ったことはありません。ナホミの存在を知っているのは博士と助手とその他、ちょっとです。倫理問題が立ちはだかると予想される以上、一定の成果を得られるまでは発表が控えられたのです。そんなわけで、ナホミは重要機密でした。
 さらに十年が経ちました。博士の頭は禿げ上がりました。ナホミは美しく育ちました。助手はあまり変わっていません。ナホミを開発する計画、NaHoM?は最終段階になりました。博士は毛のない頭をかきむしって悲嘆にくれていました。というのも、ナホミが最終試験をクリアするためには性行為を経験し、生殖可能であることを証明しなければならなかったからです。人間と姿形、機能までもそっくりなナホミを作り出したのは、人類の(とくに女の)生殖能力が著しく低下したためなのです。ナホミは試験のことを知りません。自分の使命のことは知っていましたが、その具体的な方法を博士から教えられなかったのです。なぜ博士はそのことを隠したのか、いくつか推論することはできます。もっとも考えられるのは、博士にとってナホミは娘のような存在だったから、というものです。博士に子供がいないことが、より強くそう思わせたことでしょう。ナホミは疑問に感じていましたが、博士が話したくないことを察して、ナホミのほうからもその話題を避けるようになりました。そんなことですから、ナホミの相手を一般人から募集してモニタリングする案を、博士は頑として拒みました。かといって、最終試験をしないわけにもいきません。
「よく聞け、ナホミ。これから最後の試験を行う。これに成功すれば、お前は世間に渡り、こんな狭い部屋に閉じこもらずに済むようになる」
「はい。ではお父さま、私はどうすればよいのでしょうか」
「服を脱ぐんだ。すべて。俺のペニスをナホミのワギナに入れる」
「はい。でもお父さま、最終試験だというのにとても簡単ですね」
「終わったら経過を待つ必要がある。一度で成功することは稀だ。時機を見て何度もするかもしれない」
「はい。お父さま、準備ができました」
「…………」
「お父さま、なぜそんな辛そうな顔をされるのですか」
 博士は歯を食いしばり、動くことができませんでした。ナホミはお父さまの頭を抱きました。お父さまは胸の中で泣きました。


2009-10-31 19:51:21公開 / 作者:模造の冠を被ったお犬さま
■この作品の著作権は模造の冠を被ったお犬さまさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 「なぜ」という問いに応えるものの、それで相手が必要としているものを与えることができたのか。そんな思いに駆られるので、質問をされると身体がこわばってしまいます。本当に必要なものなど与えることはできないのだと、そう断定することができれば楽なのですが、私を頼って質問したのですからなんとか力になりたいものです。
この作品に対する感想 - 昇順
拝読しました。水芭蕉猫です。にゃあ。
うん、陽炎というより、ナホミは肉感のしっかりした少女だと思いました。たぶん助手の女性のほうが陽炎に近いそんざいだったり……なんて思ったり。
ナホミに足りなかったのは、何だろうなぁ。博士の気持ちもナホミの気持ちも何となくわかるようなわからないような、そんな奇妙な気分になりました。
2009-10-31 21:37:32【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
こんにちは! 羽堕です♪
 ちょっと助手が気になってしまいました。もしかしたら博士も知らないけど、博士の実の娘だったのではと、だとしたらナホミを実の娘のように扱う博士を、どんな気持ちで見ていたんだろうって色々と考えてしまいました。
 ナホミが最後に博士にとった行動は、辛そうにしている相手には、そうしろと教えられた行動ではなくて、自然な行動だったように感じました。
であ次回作を楽しみにしています♪
2009-11-01 10:28:19【☆☆☆☆☆】羽堕
 こんにちは。そんなにどんどん書かれちゃ、感想が追いつかないよう。

 僕も、助手が気になるなあ。限られた紙数の中に登場してくる以上は、出てくる意味があるはずなんだけど。助手も女性ですしね。
 
 いつもいつも「わからない」って書いて申し訳ないんだけど、最後の最後の博士の気持ち(ないしは状態)が、よくわかりませんでした。歳を取ったことと関係ある? ちがうか……いや、気にしないでください。
2009-11-01 16:10:47【☆☆☆☆☆】中村ケイタロウ
 ども、湖悠です。
 博士……(泣) ああ、こういうのは駄目です。俺は。
 自分の娘と呼べる存在と性行為しなければならない……悲しいです。心に複雑なものが押しかかりますね。これは、やばい。俺は本当にこういう系は駄目です。胸が締め付けられます。
 さすが少女シリーズ。悲しいです。これからどういう少女が現れて行くのでしょう。楽しみであり、ちょっぴり怖かったり。
2009-11-01 19:05:30【☆☆☆☆☆】湖悠
……おうおう、ひねくれ者に見えて、健康で若いぜ。
って、それだけかよ。しかしこう矢継ぎ早に投稿されちゃなあ。アラシみたいな一言感想にもなっちまうよなあ、ぶつぶつぶつ。
――失礼しました。アラシではなくいつもの狸です。
真面目な感想としては、今度は不要なセンテンスが当社比2倍になっているような気がしました。
2009-11-02 07:23:42【☆☆☆☆☆】バニラダヌキ
作品を読ませていただきました。ED? だったら辛いだろうな。同じ男として博士に同情を禁じ得ないよ。生物的には野郎なんてメスの出来損ないなんだから、先に生殖能力がいかれるのは野郎の方じゃないかな。ところで「毛のない頭をかきむしって」ってあるけど、掻くことはできるだろうけど、何をむしり取るんだろう? では、次回作品を期待しています。
2009-11-03 12:20:51【☆☆☆☆☆】甘木
 かくあるべきという理想は鏡像。

 水芭蕉猫さん。
 タイトルからストーリを作りました。書いているうちにイメージの変容があったのでしょう。おれは陽炎のイメージを【陽炎少女】に合わせてしまうが。助手が気になる人、多いみたい。なんもしてないのに。

 羽堕さん。
 実の娘? それは、やっぱりまったく考えていない設定だ。【どんな気持ちで見ていたんだろう】の見ているのは誰ですか。黒幕は助手か。ナホミは『人間』という枠の外で生まれた人間です。

 中村さん。
 助手はスペアとか、そんなその程度の意味です。博士の気持ちってわかんないのかな。おっさんだとわからなくて、健康で若いとわかるのか。ふつーにふつーの感情だと思う。

 湖悠さん。
 今後のことは考えてありますけれども、それを書くことはなかろう。これを読んで感じるものは湖悠みたいな感情を想定している。湖悠さんの感想が【陽炎少女】をまっすぐ進む指標になっている。

 バニラダヌキさん。
 えー、ここまででじゅうぶん痛いと思うけれどな。蛇足が百本ぐらいあるってこと? 蛇ムカデ。そんだけ無駄がありながら、やっぱり抜けてるセンテンスは抜けたままなんだろうな。

 甘木さん。
 そうその通りEDでした。よく気付きましたね、バレバレだったか。甘木さんならば幻肢をご存知だろう。博士の高度な頭脳と髪への願望が、毛のない頭に毛を生やしたのです。そして、むしったのです。その後、二度と生えてきませんでした。
2009-11-05 04:31:38【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
「歳を取った」の主語は、「僕」じゃなくて「博士」のつもりだったんだけど。
2009-11-05 17:37:18【☆☆☆☆☆】中村ケイタロウ
 わかっておるよ。中村さんの感想中にある「年を取った」とは関係なく、バニラダヌキさんや甘木さんの感想を併せて読んでいたので、「年長組ヒネてんなー」と思って書いた。んーだから、「年を取った」博士は中村さんやバニラダヌキさんや甘木さんの納得する行動を取るべきだったのかもね。
2009-11-06 06:29:20【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
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