『紅病少女』作者:湖悠 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
闇に沈んだ少女の物語。※グロテスクな表現がありますので、苦手な方はお気を付けください。
全角1495文字
容量2990 bytes
原稿用紙約3.74枚
 紅病少女〜ベニヤマイショウジョ〜


 赤かった。
 私の居る部屋は、ただひたすらに赤かった。窓から望める黄昏の空が赤かった。私が昔した落書きが赤かった。窓のすぐ外で回転するパトカーのランプが赤かった。そう、その部屋はひたすらに赤かった。落書きだけではなく、何か赤い液体が、まるでペンキのように塗られている。いや、塗られているのではない。まるでこぼしてしまったかのように、そこら中に飛び散っている。その赤は、私に悲しみと、哀しみと、嘔吐感を与えた。
 赤いペンキの出どこは、まるで壊れたマネキンのようにバラバラになって横たわる――母さんだった。
 首がテーブルの上に乗せられ、両腕は畑に放られた大根のように床に散らばり、指は全部切り落とされてそこら中に落とされていた。しかし良く見ると小指だけなかった。折り曲げられた足はカーテンレールにひっかけられている。胴体はそこにはなかった。ただ、どう考えても豚肉ではない大きな肉の塊が冷蔵庫に無造作に置かれていた。冷蔵庫も、赤く染まっている。
 私はただただ、切り刻まれた母を眺めていた。何も言葉を発せなかったし、何も零すこともできなかった。だから、私は私自身を罵った。――この人でなし、と……。
 部屋の中には、通報を聞きつけた警察で溢れていた。私はつい先程、警察が来た音で目を覚ましたのだ。私は、散らばった母さんの血液の上で眠っていたらしい。それ以前の記憶は薄かった。
 ぼうっと突っ立っている私に警察の人は言った。
 ――早くこの家から出なさい。
 その顔は、私に対する同情で溢れていた。口調も、優しかった。
 確かにその部屋に居ると気分が悪かった。それに、悲しかった。
 母さんは優しかった。
 私に時々暴力をふるったりしたけど、でも、女手一つで私を育ててくれた。父さんが変死してからずっと、今日、高校に入学するまで、ずっと私を育ててくれた。
 勉強で100点を取れないとよく怒られた。でも、100点を取った時、観音さまみたいに優しかった。
 私が反抗すると、すぐ殴った。でも、言う事を聞いている間は、何でもしてくれた。
 母さんは厳しかった。でも、優しかった。
 父さんの事はよく覚えていない。思いだしたくない。汚されたのに、そんな父を思いだしたい娘はいないと思う。でも、私にはそもそも断片的な記憶しかない。
 
 断片的?
 
 断片的なのは今なのだろうか。もっと前は覚えていたような……もっと鮮明に頭にあったような……。
 警察に押されていく中で、私は洗面台に寄らせてもらった。一人になりたい、と言うと、警察の人は無言で私を一人にしてくれた。
 鏡を見た。
 目元は赤く腫れ、頬には涙が流れた筋が残っていた。
 良かった、と思った。私でも泣けたんだ。こんな私も、やっぱり泣いたんだ。

 
 おかしいな。


 父さんを殺した時は、涙一つ流さなかったのに。


 私を汚した父さんをばらばらに裂いた時は、何一つ感じなかったのに。

 その時、ふとある事に気付いた。断片的だと思われた、まるでばらされたパズルのピースのような記憶が、だんだんと完成されていった事に。
 私はポケットに手をつっこみ、そしてそこにあった物を触り、静かに笑った。
 ――そうか、私が持っていたのか。
 洗面台のドアをノックする音が聞こえる。そろそろ行かなければ。
 


 私は、父さんの小指が入ったごみ箱に、暖かく、血が滲んだ小指を投げ入れた――。

 

2009-10-31 20:20:16公開 / 作者:湖悠
■この作品の著作権は湖悠さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 皆さんの作品を読んでたら、ダークな作品を書きたいなぁと思い、やってみたらまぁ(汗) “赤い部屋”と“ヤンデレ少女”をテーマにして思いのままに書いたらまぁ(汗) タイトルは、考えても考えてもいいのが出なかったので、造語にしました。ネタばれしてもいけませんしね。
 ショートショートって難しいですね。とてもじゃないけど便乗して上手くいくもんじゃないってことが分かりました;;
 
この作品に対する感想 - 昇順
拝読しました。水芭蕉猫です。にゃあ。
とても短いのに、少女の母に対する思いが鈍く重くのしかかるように感じられて面白かったです。とてもダークなのに、心の琴線に触れるような感触が確かにあるのが良いな。父さんは、この娘にとってものすごく嫌いな存在で、母親も嫌いだったはずなのに、やはり人間、一度情が沸いてしまうとどんなに酷く扱われてもどうしようもなくなってしまうのかな、と。殺すというのは無くすという事で、無くしてしまってから惜しいと思えたことが少女の救いなのかもしれないなと思いました。
2009-10-31 21:42:53【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
こんにちは! 羽堕です♪
 少女にとって自然な行動も、周りから見ると病気だと見られるものだったんだろうなって感じました。自分を傷つけるものを壊さずにはいられない衝動って、とても怖いなって、その中には本当は大事なモノも混ざっていたのだから。少女は何かに気づけたようだけど、でも変わらない様な予感が悲しくもありました。
であ連載の続きも楽しみにしています♪
2009-11-01 10:35:12【☆☆☆☆☆】羽堕
どうも、鋏屋です。
私はてっきり皮膚病かなにかにかかってしまった少女だとばかり……
読んでみてあうぅ…… サイコダークだった。そう来ましたか……
狂気ってこんな感じなのですかね? それで紅病か。うん、こりゃ確かに病気だ(鬱 頭の中でパトカーランプを反射した部屋がなんかもうすごいことになってますw
いやいや、面白かったです。
さて4人目ですね。お次は猫殿か……
鋏屋でした。
2009-11-01 16:18:53【☆☆☆☆☆】鋏屋
 こんにちは。

 むむむむ。こりゃ無理です。申し訳ないのですが、僕はこういうのは恐くて、気持ち悪くて読めません。……と言いつつ読みましたよ。せっかくの「少女祭り」です。全部読みたいので。

 うーん、しかし、一人称で少女の内面を描いている割には、少女にここまでの行動を起こさせるモノの存在を、僕は彼女の独白から見出すことが出来ませんでした。
 それに、ここまで人間をバラバラにするというのは、物理的に並大抵の作業ではないはずです。かなりの体力、腕力と、おそらくは道具や技術も要するはずです。朦朧とした状態でできるようなことではない、かなりの「仕事」だと思うんですよね。

 このように申し上げては大変失礼かとは思うのですが、読者に与える衝撃を優先した結果として、物語としてのリアリティを犠牲にしてしまわれたのではないかという気がします。そうなると作者の「たくらみ」や「意図」ばかりが前面に出てしまって、いわゆる「操り人形の糸が見える」状態になってしまいます。面白かったのは面白かったのですが、作り事のように感じられて、僕は、入り込めませんでした。

 自分のことを棚に上げて、こんな感想で申し訳ありません。
2009-11-01 16:38:18【☆☆☆☆☆】中村ケイタロウ
水芭蕉猫さん>>
 嫌な事をいつも言う人が時折見せる優しさが大きく見えてしまう事と同じように、母親の優しさも怪しく輝いて見えたのかもしれません。映画版ジャイアン効果と同じですね(笑)
 少女の心は壊したかったのですが、あまり人間離れしすぎてもなぁと思い、母親への愛情も綴りました。まぁ人間一人バラバラにしてる時点で人間離れしてますが(汗)

 
羽堕さん>>
 病んでますからね(汗) 俺の頭の中でも、少女のこれからの物語を思い浮かべても、何も変わってません。っていうかこれ以上少女の物語を描いても、どんどん死人がでるだけです(笑)
 連載もできるだけ早く更新したいと思います^^


鋏屋さん>>
 あ、皮膚病ってのも面白いですね^^ ちょっとイメージが沸きました(笑)
 もっと紅病っていうタイトルを生かせればよかったんですが(汗
 次回は頑張りますっ。

 
中村ケイタロウさん>>
 すいません。少女の病的物を押しだそうとしたら、少女が明らかに人間離れしてしまいました(汗)
 リアリティを犠牲……確かに。ダーク性を出すために、“少女”というものの本質を失っていました。
 祭りにはまだ参加する予定なので、この反省を次回に生かそうと思います。


 ご感想ありがとうございましたっ! 
2009-11-01 18:55:35【☆☆☆☆☆】湖悠
こんにちはー、お久しぶりであります。もげきちでっす。
おー、なるほどサイコ系ショートですね。短いながらも、母親の解体には愛情があった。
でも、その印象的なシーンはともかく自分も何故母親をバラバラにしたのかが見えなかったです。
衝動的だったのかな? の割にはバラバラにするには冷静だ。
あ。人格を分割して、もう一つの自分がやったのかな? 朦朧としていて、というのは新しい人格を逃避の為に作り出して、その人格が殺人を犯していたと。断片的な記憶の共有? あうあう、なんだか自分で迷路を作ってしまいましたw
しかし、象徴的なシーンの描写がやはり上手い。自分は見せる部分を強く打ち出し、それから整合性をあわせていくのも良いと思いますので(えへ) どんどんと楽しく書いていってください!
ではでは失礼しましたー
2009-11-02 18:38:04【☆☆☆☆☆】もげきち
もげきちさん>>
 お久しぶりっす^^ ご感想ありがとうございますっ。
 父親の解体にはもっともな理由(凌辱なわけですが)が付けられたのですが、母親だとどうにも……。冷静さが、計画的な殺人を予想できますが、しかし少女がそんな事をするとも思えない……となると、やはりもげきちさんの出した解答がなんだかんだで一番当てはまりますな。逆に客観的に自分の書いた小説を見ると、色んなものが浮き彫りになりますね。これは連載中の小説を書く時に肝に命じておかねば。
 それではっ^^

2009-11-02 23:56:07【☆☆☆☆☆】湖悠
こんにちは。
順番に読んでいないため、こちらの感想が後になってしまいました。
この系統の話は大好きです。ご指摘に上がっていましたが、確かに現実的ではない殺し方ですね。いっその事、映画【キャリー】のようにホラーっぽくしてしまえば良かったのかも。後、母親を殺す理由が不鮮明過ぎて、初め、誰を殺したのか混乱してしまいました。
ではでは。
2009-11-03 05:14:39【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
作品を読ませていただきました。導入部の情景がインパクトあり、つかみとして良いですね。陰惨な状況なのに主人公が淡々としているのが良いと思いますが、主人公が母親を殺した理由づけがないのが不満が残ります。父親殺害にはそれなりの理由があるだけに理由が欲しかったです。では、次回作品を期待しています。
2009-11-03 12:31:27【☆☆☆☆☆】甘木
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。