『一人一癖。』作者:クーリエ / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
授業中に自分の毛を抜いて暇つぶしする男の物語。とめどなく溢れだすような意識のながれを汲みとってみた。
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原稿用紙約6.11枚
一人一癖。
「なくて七癖あって四十八癖」
日本のことわざ

 つまらなかったり、暇だったりする時、人間というものは癖が一番出やすい。
 それは電車の中で話し相手もおらず、一人座っている時だったり、何かの集まりの冒頭によくあるお偉いさんの紋切形で長ったらしい講話だったりする。
 そう言えば、どこかのテレビ番組では「校長先生の訓話マニュアル」なるものを紹介していた。私はそのマニュアルを読んだことはないが、それでもだいたい中身は予想がつく。
 考えてみれば、毎日の授業という奴も、クラスメイトの癖の展覧会だともいえる。

 今日の授業もそうだった。間延びした空気のなかで、各人はそれぞれの癖を磨くことに耽っていた。
 私もその中にもれず、ペン回しをしていた。
 数学の公式や、計算過程をしるしたノートの上を、円を描くようにくるくるとシャーペンが舞う。
 「舞う」との言葉を使っても、そんなに上手く回転しているわけじゃない。あくまで、癖でただ回しているだけだ。そういえばたしかシャーペン回しのプロは無意識に回していることはないらしい。

 別のことを考えたせいか集中力がぷつんと切れ、回す手がもつれる。あえなくシャーペンは白い紙の上に落下した。軽い音がした。
 その棒を拾って、また回そうとする。
だが、不思議な事にそれを握ったら、手の方に目がいった。その目の動きでペン回しが頭から飛んだ。もともと、それも気がつかないうちにやっていたので、忘れるのも簡単だったのかもしれない。
 よっぽど暇だったのだろう。自分の手などついで見たことはないのに、なぜかまじまじと見てしまった。
私は毛深いたちなので、手の甲のにも毛が生えている。甲の方はまだまだ薄いのであるが、足の方などは、自分で見るに堪えない状況となっている。
 でもこう、自らのてをじっくりと眺めると、色々なことに気がつく。自分の体のことは知っているようで分からないことが沢山あるものだ。
 指の付け根の関節に、もっさもっさと毛が密集している。一本一本の長さがながく、自分のものだというのに何か気味がわるい。だからか目を逸らすようにして、その一段上の関節を見た。
 こちらはすぺすぺ。しかし薬指にゴマ塩のような小さい毛が生えている。まだ剛毛化しておらず。半人前といった風情だ。
 手の裏側も、すぺすぺ。しかしどうして、毛の生える所はこうもはっきりとしているのだろうか。手相を見るときに、そこに毛が生えていたらまたこれはこれで、面白そうではないかと、思ったがすぐによした。実際、手のひらなんかに毛が密集していたら、猛烈な不潔感を感じる。第一、ものを掴むときに絡まったりして不便そうだし、外国人でさえも握手をしてくないだろうし、恋人と手をつなぐのはどうしたらいいのか。手汗でぐっしょりとなった毛で、相手の皮膚を覆うのか。想像しただけでもぞっとする。
 こう思い直して、改めて手のひらを眺めた。
手のしわが巨大な峡谷にみえてくるのは、自身だけか。よくよく見ると細かい肌理が、小さな道路にみえる。なにか皮膚のうえで自分の知らない間に、小さな町が建設されているようにも感じられる。この感は、どことなく、手相に愛着を持たせた。人々は人生を生きる中で、手の上に自分だけの峡谷や道を作っている。手相をみるのももっともだ。
 その思考で、再び表のほうを見ると、指や甲に生えた無数の毛が、森林地帯にみえてきた。さては、「不毛の地」という 言葉のなかに「毛」が紛れ込んでいるのはこのせいかと妙に合点した。
 手の甲の広大な地帯の毛は、まばらで群生せず疎林のような趣である。まるでサバンナだ。すると、さしずめ第三関節の植物群落は、ジャングルであろうか。だが、それにしては、群生の度合いが高くないようにも思われる。
 その上に目を移すと、文字どうり「不毛の地」が始まっていた。となると、この砂漠に位置するゴマ塩みたいな植物の集まりは、オアシスであろう。そこは肌理という砂丘を泳ぐようにして、長い旅を続けるキャバラン達の憩いの場だ。そして彼らは、次のオアシスを求め肌理で覆われた砂漠を渡る。
 そんな妄想に耽っていたら、自分もそのキャバランの一員のような気がしてきて、この小さな二・三本の毛が、果てしなく愛おしくなってきた。何回も何回もその上を撫でて、毛の感触を楽しんだ。
 そうして、楽しむだけ楽しんで、私はその毛をこの授業が終わるまでに一つ残らず抜いてしまおうと思ったのだ。
 まず、右手の方から抜くことにして、右の手でこぶしを作った。
 左の親指とひとさし指をちょうど、毛抜きのように合わせ、例のオアシスにもっていく。そして爪の先で、一ミリか二ミリぐらいのごくごく小さい毛をつまむ。上手く挟めば抜くときに予想外の痛さが薬指を襲うのだ。
 UFOキャッチャーのアームのように、爪の先をもっていく。コツはなるべく早いうちに抜くこと。何回もこの動作を繰り返すと、強い引っ張る力に毛が耐えられず、途中で切れてしまったり、毛の先端がカールを起こしてしまったりして、処理しにくくなる。
 あ、い、痛い。もしかして処理成功か?
 そう期待に胸を躍らせ、オアシスのほうをみると、このキャバランの休息所はたしかに以前よりも貧相になっている。
 こういうことを繰り返しつつ、結局私は全てのオアシスを時間内に破壊し尽くしたのである。



 こんなことを書くと、一体なにをしているんだとか、数学の授業を真面目に受けろ。などどいう人がいるかもしれない。多分そんな人がほとんどだと思う。たしかにそれにも一理ある。
 しかし、今日また新たな別天地、別世界を自らの掌に見出した私の気持ちはそれらより勝っていると、勝手に信じていたい。
 つまらない一時間でも小さな桃源郷をさまようのには十分すぎる時間なのだ。

2009-10-15 20:27:38公開 / 作者:クーリエ
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■作者からのメッセージ
こんにちは。クーリエです。今回の作品は少し奇抜なテーマで書いてみました。それにこの作品も、どちらかというとエッセイの方にかなり近い。小説の中のおいしいエキスとも言える、「筋書き」とか「構成」がほとんどありません。じゃあ、小説として投稿するな!とお怒りの方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれません。でも、こうした主人公の独白で成り立つものを小説の構成の中に「意図的」にとりこんだらどうなるかと考えて、極めて実験的に作ってみました。これ一つを単独で作品とするのは少々如何としても、長編のなかにぐだぐだ防止(この言い方も少し変ですが……)のために上手く挿入して飽きさせない効果を狙ってみるとか。なにしろ「独白」とのスタイルをとっているので、読者になにかしらの新鮮な印象を与えると思います。(自分では)なにしろあくまで、実験作なので言いにくい意見もどんどんお寄せください。たくさんのご意見をお待ちしています。
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは! 羽堕です♪
 つまらない授業から逃避する為の癖の一つだったのかと、なんか不思議な余韻の残る面白い話だったなと思います。
 細かい事ですが、今回の前書きの部分の内容なら、‘作者からのメッセージ’に移しても、いいかなと思います。それと文頭は一字分字下げした方が、読みやすくなるかなと。あとこれは意図的でしたら、申し訳ないのですが、文章の途中で不自然に改行が入ってる所がいくつかあったように思います。
であ次回作を楽しみにしています♪
2009-10-12 19:28:11【☆☆☆☆☆】羽堕
拝読しました。水芭蕉猫です。にゃあ。
細かいことは上の羽堕さんが言ってるので書きませんが、そうですねぇ。私は授業中は小説のネタばっかり考えてましたね(おい)ペン回しなんて出来ないので、ひたすらそんなことばっかり考えてたら、テレパス体質の知り合いにネタの内容を当てられてビックリした思い出が……。題材は面白いのですが、もう少し他のキャラクタを入れるなりして小説の体裁を整えても良いのではないかと思います。ただ、挑戦や実験などは新たな発掘になるのでどんどんしていっても良いとおもいますにゃ。
2009-10-12 21:26:16【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
こんばんは、頼家です!
作品を読ませていただきました^^
 細かい注意点は先に書いていただいた諸先生方にお任せするとして……内容についてです!なんといいますかクーリエ様のおっしゃる通りだと思いますね^^;私見ですがこれ単品では小説にはなり辛いかなぁ……。いえ、決して悪いというわけでは有りません。おっしゃる通り、長編や、又別の作品の中に挿入。例えば登場人物の人となりを表現するには、私などでは到底真似できない大変優れたインパクトと面白さがあると思います!それは間違いないと思いますので、パクらせて頂きます(爆)実験的ということでしたので、結果的にクーリエ様の方向性の一つを切り開いたので大成功ではないでしょうか?
 ちなみに独白というスタイルは、実は以前にこの登竜門に於いて某常連様が一度やっておられ、その時は喧々諤々……とまでは言わないものの多くの意見が飛び交いました(もちろん私はビビリなので参加しませんでしたが)。もちろん多様な見方があるので、これをどのようにより魅力的な物にし、読者を納得させるかはクーリエ様情熱次第だと思います(私は言い回しなど、表現は凄く魅力的だと思いました)!!
……っと私、実力を全く省みず、偉そうな事をのたまってみたいイタイお年頃なので、失礼がありましたら平にご容赦くださりませm( )mでは、次回作を心よりお待ちしております♪
                        頼家
2009-10-14 23:13:34【☆☆☆☆☆】有馬 頼家

羽堕さんいつも参考になるコメントありがとうございます!
さっそくご指摘いただいた部分を改良しました。
なんか初心者的なミスばっかりで非常に恥ずかしいです。

あと改行もこちらのミスでした。余計な心配をおかけしてすいません(汗
2009-10-15 20:32:27【☆☆☆☆☆】クーリエ

水芭蕉猫さんいつもお世話になっています。

たしかに、実験作でしかも独白形式のエッセイもどき……
余りにも自己中心的な作品ですよね。
自分としては一人の濃密な作品が好きなのですが、もう少し作品に奥行きをもたらすならば、人物を増やしてみた方がいいですよね。
現在少し長めの作品を書いているけど、また登場人物が一人なんだよな……
2009-10-15 20:40:05【☆☆☆☆☆】クーリエ

頼家さんいつも温かいコメントありがとうございます。
現在書いている小説の中に、このような独白を生かせるかはちょっと怪しいところですが、頼家さんの実力ならどんどん取り入れることができるはずです。
どんどんパクってください!(おい




2009-10-15 21:08:43【☆☆☆☆☆】クーリエ
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2009-10-23 06:34:09【☆☆☆☆☆】sangerspyro
作品を読ませていただきました。面白い視点で作品を書きますね。感心して読んでいました。物語というよりエッセイ的だなぁと感じましたが、何とも言えない面白味がありました。では、次回作品を期待しています。
2009-11-01 15:40:46【☆☆☆☆☆】甘木
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2009-11-21 07:25:46【★★★★☆】Treker
計:9点
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