『思走〜短編』作者:グリム・メモリード / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
冬休み中担任からの電話で学校に呼び出された主人公。ただ、なんとなくあるようなないような、そんな感じの日常。ただの登校を少し、ほんの少し、面白おかしく、主人公は思走(しそう)します。
全角15808文字
容量31616 bytes
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空が寒くなってきた。
 俺の体はヤカンの様に白い息を出し、ポケットの中のなんてまさにクーラボックス、それに加え、次々と吹き荒れる風は冷たすぎて、北風小僧も真っ青だろう。唯一背中に張ったカイロがじんわりと体を温めていた。
 子供は風の子、というがこの時代そんな古い言葉をかけられようものなら、俺は首を括るつもりで外に出なければいけない、何故って? 俺は寒いのが苦手なんだ。そして冬が嫌い。
木枯らしが吹いて、枯葉は忙しく走り回った。
とぼとぼと歩く自分の足は、ひたすら重い、お昼近いこの時間に何故今更登校しなければいけないのか、そう考えれば考えるほど、すぐさまUターンし、家のベットに飛び込みたい気分になる。
 もちろん、そんなことは学校だって、俺を呼び出した担任だって、電話を盗み聞きして俺を叩き出した親だって、許しはしないだろう、いつの時代でも学生はせせこましく動かないといけないのだ。
 上りたての朝日は、あってもなくてもどちらでもいいぐらい、弱い。おかけで家を出る前にあった、眠気はすっかり吹き飛んでしまった。忌々しい。
首に巻いた、微妙に風を遮断する百円マフラーが少しばかり首を絞める。
登校時間約十五分の道のりが、やたら長い、こうしていること自体無意味に思えてきて涙がでてくる。今頃他の生徒は、家庭にある文明の利器でぬくぬくと過ごしているに違いない。
何故俺が学校に呼ばれたか、まぁそんなこと俺だってわからない、わかっていたら、これが無意味かどうか、なんてキッパリ決めて、行くか行かないかを決断しているはずだ、八十%の確立で自宅待機だが……
事の始まりは冬休みに入ってようやく登校時間に起きなくていい、と自覚し始めた頃……なのに、担任は俺の家に電話してきて、
「今日、用事があるから、学校に来なさい、内容は来たら話すから!」
自分で作ったカップ麺をのんびりと食べていた俺は、もちろん色々と言い返す、だが、来たら話すの一点張り、まぁそれが原因で、リビングで寝ている親を起こす羽目になり、こうなったのだ。
 で、そんなこと言われてもそう簡単に休みに入った学生が動くもんじゃない、外が寒ければ尚更だ。行った挙句「ここに名前書いてね、用事はそれだけ、テヘッ」なんて言われた日には、学校に泊り込むかもしれん。
「あっ、来ないと絶対後悔するから! わかった!?」
と最後に、こちらの返事も待たずに切る始末、そしてノそりと動き出す親、ああ魔人覚醒! 逃げ、しまった退路がない!
「ほら、らぶこーるに答えて行って来なさい」
言っておくが担任とはそんな関係など一切無い、そんな関係になるもんなら北極で寒中水泳をしたほうがましだ。
 こんな感じで、親に講義するも、ずるずると押され、YESと言わざる終えなくなったのだ、この際その会話の内容は無視しよう、一方的な言葉攻めなのだ、話す価値も無い。
 背中に背負った鞄は空っぽ、いつものことだから別に気にしないのだが、結果として担任は用事があって呼び出しているわけなので、俺が忘れているだけなのかも知れないが、プリントだとか、教科書類がいると大変困ることになる。くそ、考えれば考えるほど不安になってくる、普段テストとかでもこんなに悩まないのに、なんでこんなことで頭をフル回転させなければいけないのか、不思議で堪らない。
「くそ、なんでこんな……」
マフラーの間から漏れる愚痴、嗚呼情けない、コタツギブミー。
 その時、俺の横を華麗に通り過ぎるちっさな物体。
 とぼとぼと歩く俺を追い越す形で、優雅に歩く、推定年齢十歳ちょい上、背中にリコーダーがはみ出た赤いランドセルを背負って、頭には黄色い帽子を浅く被り、暖かそうなジャンパーに何かのロゴが入ったジーパン、なんていうか……小学生。どっからどうみても小学生だった。
(なんで、こんな時間に?)
俺が首を傾げて其の後ろ姿を見つめていると、ちっさいなりに視線を感じたんだろうか、ふっと振り返り、俺の顔を確認するとなんでもなかったかのようにまた前を向いた。
 そして何を思ったか、感じたか、考えたか、知らないが、もう一度振り返ると、その少女は‘ふっ’と挑発的に笑うと、目がこう語りかけてきた。
「おそっ」
その瞬間俺の中の何かが、けたたましい音を立てて鳴り出した。だが、そんなちっさな女の子に挑発されたぐらいで、熱くなる俺ではない、けたたましい音は吹かして終わり、俺は元の冷静な心を取り戻す。
 だが、所詮離れてもたかが三、四年、中学校一個分で追いつく年の差だ、その十六年かけてこの境地に至った俺に対して、たかが数年で俺と同じ境地にいる小学生が居たとしても、なんら可笑しいことではあるまい。そう俺はそのことを忘れているんだ。
 少女は三度振り返ると、今度は‘ハッ’と見下したような目と一緒に俺を笑ったのだった。
 その瞬間、俺の中で再びエンジン音が鳴り響いた。
「何? こんなちいさな女の子にも勝てないの? あっ、負けるのが怖いんだ……」
執拗に語りかけてくる少女の見下した目つき、完全にこちらを馬鹿にしている目だ、許すまじ、たとえこれが俺の被害妄想……否! これはれっきとした少女が出した挑戦状だ! 即ちこれを冷静にやり過ごすということは、俺は勝負をする前に負けたことになる、男なら、叩きつけられた挑戦状は真っ向に受けてたつのが礼儀だ。
「いいだろう! 俺に勝負を売ったことを、地球が何回回ったって後悔させてやる!」
ギリ、と睨み返す俺、その意思を汲み取ったのか、その時は少女も脚を止め、互いににらみ合った。だが所詮相手は小学生、睨むといってもかなり易しめだ。
 しばらく睨み合った後、少女は前を向く、そこがスタートラインか……
 馴染みの店の前、駐輪所から遠く離れ違法駐車された赤いフレームの自転車、その横に並ぶ俺と少女、それだけで道をふさいでしまっている。
 後ろから自転車の気配、段々と近づく、左側には車道、道のだいぶ前からガードレールがあるから自転車が車道にでることはない……後少し。
 チリンチリン。
 俺等に向けられた警告音、それを合図に二人で歩き出す。
 ルールは簡単、歩きか早歩きで目的地までどちらが先につくかである。もちろんその間に走っては駄目だ、それは反則になる。そして決して危ない行動は取ってはいけない、例えば「狭い道で前に出るために車道にでる」、「相手を掴んで引っ張る」等である、暴力など言語道断、正々堂々只己の足を信じて競うのみである。後基本的な交通ルールは守る。
 すでに犀は投げられた、俺と少女はゴールである、少女の学校校門までを暗黙の了解とし、歩き続ける。
 乾いた風が肌を強く叩く、引き裂かれそうな寒さに少しばかり身震い、だが、心の底はふつふつと煮えているのがわかる。自然と口がにやける、慎重さと歩幅からの余裕、年齢差は埋められないんだよ。
 だが、あからさまに競争してます。なんて他人から理解されたら恥ずかしい、だがら、あくまでも普通に歩かなければいけない、そこが難しい、一番の難関だと言っていいだろう。
 しばらく歩き最初の信号が点滅し始め、俺は早歩きでいけばいける、と強く足を踏み出す。
 だが、横断歩道の一歩手前で、後ろから服を掴まれる。おい! 反則! と言おうとして振り返り口をあけようとし、やめた。
 振り返ったそこには少女がきつく睨みつけて、長い髪を揺らしながら首を横に振る。
「赤信号、駄目」
 大人気なかったと思い直し、服を掴まれたまま、信号をただ待った。
 目の前を車が過ぎる、その度に冷たい風と排気ガスが通り過ぎる。
「ゲホッゲホッ!」
後ろから聞こえる咳、少し気になって横目で振り返る。
 手で口を押さえ、苦しそうに咳をする少女、その姿をしばらく見ていると、こちらに気づき睨んでくる、その少しつり目の目尻には涙が浮かぶ。
 どうしたものかと声をかけようとしたら、思いっきり膝の裏側を蹴られ、カクンと崩れ落ちる俺、そこにもう一段の蹴り、曲がって力が抜けた足首に蹴り、成すすべなく地面に膝をつく。暴力反対! そして反則、だがそれぐらいで食いかかる俺じゃない。
 だが、次の瞬間には少女は歩きだす、そう信号が青になったから、なんて卑怯な、と思いつつ素早く立ち上がり、追いかける。
 いちいち子供相手にムキになっては大人気ない。大人って大変だ。
 この先いくつかある信号機、その一つはパスした。だが、信号機もそうだが、他にも色々難所がある、厄介だ。
 ポケットに手を入れ、大股で少女を追いかける。
 風は相変わらず冷たいが、首に巻いたマフラーの暑苦しさと打ち消しあっていた、どうしてこうも百円マフラーってのはこう機能が悪いのかな。
 一向に縮まらない少女との差、距離にして約一メートル半、それ程ないじゃん、みたいなことを思った奴はまだ甘い、純愛ドラマを見ながら砂糖たっぷりのチョコレートケーキを食べるより甘い、この差が勝敗を分ける。そう、なんとしてでも縮めなければいけないのだ。だが、俺としてはチョコよりモンブランがいい。これはガチだ。
「ショートケーキよ、あのイチゴを最後まで取っておいて、甘甘になった口の中をクリアにする、あの瞬間が最高なの、モンブラン? 甘くて黄色いだけじゃない」
長い髪を躍らせながら、振返っていった言葉はモンブランの侮辱……はや歩きをしながら、手が小刻みに、いや怒りのあまりに震えていた。
「はっ! ショートケーキなんて、ガ! キ! が食べるものさ、精々イチゴ程度で喜んでな」
全国のショートケーキファン、すまない、イチゴに恨みはないんだ。
 俺の言葉が効いたのか、後姿でも髪がオーラを纏ってふわりと宙に浮くのがわかる。いや錯覚、丁度真下が地下鉄の空気口だ。だが背中から発せられる殺気は尋常じゃない……全く、こんな子供に育てた親の顔が見たい。
 顔は見えない、いや見せないようにしているんだろう、多分歯を噛み締めているに違いない、イチゴを馬鹿にしたことと、相手を餓鬼呼ばわりする、二段コンボ! 子供相手には効果絶大! 自分を子供呼ばわりするのが嫌いな奴はさらに二倍! 仇はとったよ、モンブラン。
 お互い顔は真っ直ぐ向いて、無口、しかも殺気付で、通学路を歩く。
 そして次のポイントがやってくる、目測約十メートル……ここでいくか。
 右、左、右! と力を込めて踏み出す。
「なっ!?」
真横を約二倍のスピードで抜き去っていく俺に慌てて歩調を合わせる、だが遅い、後数秒したら少女はこの差を広げるつもりだったろうが、こちらは体格も上なら体力すら上、一度速度に乗ったら追いかけるだけで精一杯だろう。
 俺たちは第一の難所、大通り沿いの直角カーブに差し掛かる。
 スタートダッシュでインサイドは頂いた後は曲がった後の対向者に気をつければ、文句なしのぶっちぎり。
 少女との距離は入ったことすらないガラスで確認したところ、約二メートル、顔を伺うかぎり追いかけるだけで精一杯。予想は的中だな。
 だが、余所見をしたのがミスだった、直角カーブを曲がる際、ガラス越しに対向者を確認するはずが、遅れ、向かってくる自転車に気づかなかった。
「わっ! すいません!」
幸い向こうは気づいていて、衝突は避けられた。
 自転車に素早く一礼すると、再び歩き出す。だがその時には少女は横についていた。
「作戦失敗だね、ちゃんと確認しないと、プッ……」
頭に血が上るのが解る、こんな子供に笑われるなんて、一生物の恥、三代先まで語り継がれるだろう。
――耐えろ、耐えるんだ。
 レースはやっと序盤が終わり、中盤に入った。仕掛ける場所は二箇所、しかもその距離感は短い。
 直角カーブを後にして、俺たちは三度の信号を渡る、渡った後は少しばかり広い車道にての直線、だが道は本当に二人分、ガードレールがコース脱線を許さない、しかも途中の道には、道の真ん中に立てられている電柱がいくつもある、しかもそれらは歩行者に対する嫌がらせにしか思えない、という具合に絶妙な位置にある。
 それを華麗に避ける二人、しかし少女は身軽で細いので楽々通れるが、俺にとってこれは至難の業だ、スピードを落とさず、尚且つこけたりしないように気を配らなくてはいけない、しかもところどこに、犬が残した爆弾が落ちていて、危うく踏みそうになったりする。飼い主後始末不届きで通報したい気分だ。
 道路側に少女、そして壁側に俺、道路側は電柱のせいで狭いが少女には関係ない、だが俺側は壁の上から生えてたりする木々や、爆弾などで障害物が半端な数じゃない。
「気にせず歩いたら? まぁそしたら後が悲惨だけどね」
華麗に電柱とガードレールの間をすり抜ける少女は余裕たっぷりに、俺に話しかける。
「ほらほら、どうしたの? ちょっとづつ距離、開いてるよ? がんばらな……きゃ!」
それは少女の慢心が起こした悲劇、俺を挑発するのに気を取られ、足元に伸びた木の陰と同色になった爆弾に気づくのが遅れた、だが少女は上手い具合に足を大股にしてそれを避ける。が、バランスを崩し電柱に抱きつく感じで激突、幸いなことに顔面衝突は避けられおでこをぶつける。
 もちろん、でこだけで済んだのは俺が少女の襟首を掴んだお陰だ。まさに間一髪、自分でもよく洋服ではなく髪の毛を掴まなかったなと関心する。
「……、痛い」
支えた少女は軽かった、驚くほど軽くて成分は空気ででもできているんじゃないかって思うほどだ。
「大丈夫、立てるよ」
電柱に手を当てて、ぐいっ、と自分の体を押し返す少女、その間手はなぜだか離さなかった。もちろんそういう趣味があるわけではない、そこは勘違いされたら困る。
 そして、しっかりと立ち上がって電柱を通り過ぎ、一度立ち止まって小さく“ありがとう”と俯きぎみに呟いた。よくみれば顔まで赤くしている、こりゃまいった……
 なぜだろう、笑いはでてこなかった。それよりあまりにも恥ずかしそうに少女が礼を言うものだから、こっちまで照れてしまう。これはあれだ、もらい泣きの一種だ。
 何故、俺は小学生相手に照れなければいけないのだろうか、俺はロリ○ンではない、断じてな。
 自分を恥じて仕切りなおす。
「ほら、並べ、まだゴールは先だ」
その言葉に少女は顔を上げて、再び挑発的な目をしてこういった。
「あ、当たり前! あんたなんかに負けるわけない、今のは…ハンデよ!」
なんだか、語るに落ちる、みたいで少し笑ってしまう、子供ってこういうもんだったかな、って……
「まぁ、そういうことにしておいてやろう……じゃぁ次の車が通り過ぎたらスタートだ、異論はないな?」
こくり、と頷く少女。遠くには車体が見え、こちらに向かってきていた。
 三度スタートを切りなおす俺たち、そこにはよく映画とかでみる、感動のシーンかもしれない、左右に並ぶ観客が静かに拍手をしながら、二人の健闘をたたえる。そして二人そろってゴール……なんてことだったら、この少女に肩を貸してやってもいいな。
 さて、気持ちを切り替えよう。ここから先は体力勝負、この少女がどんな戦法にでるかわからないが、目の前に聳えるなかなか傾斜のある坂道をどう乗り切ろうか、考えなければいけない、さすがに俺としても、全力疾走していたら体力が持たない、いや上りきる自信はあるのだけれど、その後の問題だ。もし少女が体力を温存していたなら正直やばい、後ろからじわじわ追い上げられる羽目になる。だが、もし俺の全力疾走に合わせてくるのなら勝機はある、体格の差がでるからな。
 坂道前の横断歩道にて作戦を考える俺、幅数メートルとない信号だが守らないわけにはいかない、それがたとえ車が一台も通らない状況でもだ。
 横に渡る信号が点滅し始める……青になるまであとちょい。
 タンッ、と横で素早く前進する少女の影、これは、フライングスタート! いや、だが微妙な線、ここは悔しいがセーフという言葉がでてしまう、絶妙なタイミングこちらは下を巻くしかない。
 だが、所詮子供だ、その差は高が知れている。
 そう思った俺は考えが甘いというのだろうか。
 少女はぐんぐんとスピードを上げる、もうそのスピードは走っているかと思わせるぐらいの速度で、俺が五キロだとしたら少女は十キロ以上で走っている。
(まずいっ!)
急いでこちらも速度を上げる。
 しかし、これが子供の底力とでも言うべきか、見る見るうちに速度を上げる少女、おいおいあんなに飛ばして大丈夫か? 誰もがそう思っただろう、現に少女はペースを自ら無視していた、どうしてそんなことをする?
 逃げ切りを想定しているのなら、この少女はそこまでの存在だったということになる、その理由は、たとえこの坂を上りきったとしても、そこからゴールまではまだまだある、もちろん信号だって、体力を温存した俺相手に追いつかれないとでも思ったのだろうか。
――それとも他の策が彼女にはあるのだろうか。
 いや、これ以上深く考えてしまえば、余計な体力を消費してしまう、だがこれだけははっきりしている。
 少女が身を捨ててまでも勝負をかけているのだ、ここでそれに乗らない奴は男じゃない。
 いい加減火照りきった体が動きたくてしょうがないみたいだ。
 少女の後ろ姿を追う、旗からみたらかなり危ない奴だが、この際気にしてなんか居られない、ここが山場だと、体が教えてくれた。
 淡々と歩く二人、足の筋肉が少しばかり悲鳴を上げ始める。少女の髪が左右に大きく揺れる、車道で車が軽々と登っていく、あたりは静かだが、俺たち二人にはそれこそが観客のように思えた。
 坂道も後少し、だが少女はいまだに速度が落ちない、小学生にしてはすばらしい体力だ、賞賛に値する。
 遠くに目的の建物が見える。だけど冬だと言うのに揺らいでいた、多分熱気のせいだろう、これだから冬は嫌いだ。外は寒いから何重にも厚着をして、もうこれで寒さ対策ばっちりという格好なのに、いざ動くと体が暖まって段々と熱くなる、屋内に入れば尚更だ。俺の着込む服を見繕った時間とちょっぴりの労力を返せ、と言いたくなる。
 だけど、これはちょっとした蜃気楼でいいじゃないか? そう思う俺もどこかで居た。
「これだから、冬は嫌いだ」
いつだったか、そんなことを、満更でもなさそうに言う自分がふと脳裏に浮かんだ。
 まだ、小学生ぐらいの頃だったかな、親に連れられて行った場所、そこで五重ぐらい着込んでいた服を脱ぎ捨ててその後親に怒られた……何故かは忘れてしまった。
 ぐっ、と、足に力が入る。今はそんなこと思い出している暇はない、この少女には勝たなくてはいけない、男のプライドと……と? プライドと、なんだろうか、思い当たる節がない。
 景色がとおりすぎる、いつもの二倍ぐらいの速さで、もちろんゆっくり見ている暇はない、むろんいつも通っている道なので見る気もないのだが……今は少女の後ろ姿と、その前に続く道だけを、すっと、見据え続けている。
 乾いた風がとても涼しく感じた。
 それで俺は、ようやくマフラーが邪魔だということに気が付いて、首から外し、鞄に入れようと思ったが、開くのが面倒なので右手首に巻きつけた。
 気づけばすでに坂は終わっていた、気づかなかったのは少女のせい、今も尚緩めないスピードに、俺は追いつけない焦燥と少しの心配心を抱いていた。
 少女は肩で息をしている、もうほとんど無呼吸状態で必死になって、歩く、人間極限になればいつまででも走り続けられると聞く、だけど、少女の顔が見えないからなんとも言えないが、そんなことまでして勝ちたいものなのだろうか?
 今のままで行けば少女の勝利だ、俺も男として受けた勝負に負けるのは悔しい、そうこれは正直な気持ちだ、いつもだったら、どうでもいい、と、勝ち負けなんて、と愚痴や言い訳をするだろう……本当は悔しいはずなんだ。
 いつからだろう、そんな風になったのは、勝負事に熱くなるのは駄目なことなのかな? 暑苦しいのは迷惑なのか? そりゃ笑って出来ればそれでもいい、それだけでも楽しい、だけど、真剣に真面目に、たとえトランプの婆抜きだって、色々なことを試行錯誤しながら相手の手札を取るなんて、やってもまた楽しいんじゃないか? その元々が楽しくないから、楽しめない、じゃない、物事はどう楽しむかで笑っておき楽にやるよりも、違う楽しさが増すんじゃないだろうか? 
 カンカンカン――。
 遠くで、線路の踏み切りが下がり、電車が通り過ぎて、上がる音がする。
 これで、終盤の望みは消えた、ここでもし踏み切りに引っかかったら、お互い振り出しだ、そしてこの場合損をするのは少女の方、だった。この先ずっとこのペースで行かれたら、走りでもしないかぎり追い抜けはしないだろう。
 そろそろ、俺の体力が切れる、普段運動してないんだ、当たり前だ……でも、悔しいな、なんでこんなに悔しいんだろうか、俺が普段努力していないからだろうか、そうなんだろう。
 俺たちは進んだ、ものすごい勢いで、遠くに小さく見えていた踏み切りも、もうすぐそこだ。
 幸い、体力が少ないと言っても、ゴールまで少女のペースと同じで歩けるだけの力はある、それが幸いだ。
 多分高校についた俺は息が上がって、まともに担任と話なんてできないだろう、うなだれるしかないんだ。あの時と同じように。
 息が詰まる中、目の前を歩いていた少女が急に立ち止まった。
 驚いて、あわや衝突と言うところで、急ブレーキをかけた。
「あぶ、ない…なんで…止まった?」
切れ切れの言葉で、膝に手を突いて、前かがみになり、少女に話かけた。
「電車……」
少女は前かがみになりはしなかったものの、肩で息をし、小さく呟いた。
 だが、もちろんのこと左を見ても右を見ても電車の姿など、微塵も見えない、もとより踏み切りが降りる気配さえしない、そんな中で少女は立ち止まり、多分「電車が来てるから止まる」と伝えたいのだろう、これは多分だ、そう、そんな気がした。軽いデジャブとでも言うべきか?
「そっか……電車、か」
そりゃ、またなきゃな、と小さく小さく呟いた、聞こえているかは定かではない。だって少女は「電車」としか言わなかったから。
 少しして俺はようやく、普通に立てるだけの体力は得た、少女もその様らしく、深い深呼吸の後、ため息を一回ついて口を開けた。
「覚えてない、よね?」
そう言って、またため息をつく。
「何を?」
まったくわからない、こんな初対面の少女相手に覚えていることなど何もない、筈だ。
「……約束」
少女は俯いて答えた。
約束? なんの話だ? と俺は線路の先を見つめながら、眉間に皺を寄せて質問した。
「やっぱり、覚えてない」
三回目の深いため息、吐く息がとても白い。
「最初っから、覚えてないだろうなぁ、って思ってたんだよね、案の定だよ、ほんと……普通見ず知らずの相手にこんなことしないでしょう?」
「まぁ、確かに…」
おずおずと返事をする俺、なんで小学生にこんなこと今更教えられなきゃいけないんだろうか? 怒りよりも悲しくてしかたない。
「じゃあ、私と初対面じゃない、ってことぐらい、覚えて……ないよねぇ、忘れてそうな顔だったもんな、私はすぐにわかったのに、まぁ当たり前だけど」
自傷気味に笑う少女、名前どころか顔すら覚えていない、俺に妹は存在しないし、小学生の友人なんてもってのほかだ。あるのなら親戚関係?
「本当に、私、わからない?」
そう言ってまっすぐに見つめる顔、その顔は凄く白かった。そして瞬時に連想されられたのは、白い部屋、揺れる白いカーテン、窓から見える乾いた青い空、そして花瓶に備えられた色とりどりの花と、黄色い帽子とランドセル、そして純白の世界に居座る子供、そしてそれが口にした言葉が「おそっ」で、次の瞬間にはにっこりと微笑んで、こう言った。
「どお? 思い出した? 『私の、お婿さん』」
にっこりと、そう、こんな可愛い笑顔だった。
 俺の時間はそこで、軽く止まった。
 内容を話すとこうだ、俺は、母親に母親の中のいい友人の娘が、なんとか…とか言うちょっと入院しないといけなくなるような病気に掛かって、寒さ極まる日に病院へ連れて行かれた。そこで母親の手に繋がれたまま、その子の部屋に行き、この少女とご対面したのだ。
 最初の印象は最悪だったのだろうか? いや小学生にそんなことを言ってもしかたないちゃしかたない、だが小学二年生の子供と口喧嘩したので最悪だったのだろう、当時の自分の気持ちなんて当に忘れてしまった、ただ、そんなに俺は嫌な印象はなかったと、それだけは記憶している、なぜ口論になったかと言うと、向こうからの悪口だったような気がする、どんな言葉だったかは覚えていない…それから、親は二人で近くにおいしい店があるとかなんとかで、喧嘩している俺らをほっといてどこかへ行ってしまい、止める人が居ない、子供の喧嘩なんて制限がない、だが取っ組み合いにならなかったのは病人に対しての、子供なりの配慮だったのだろう、ずいぶん小さい配慮だけどな。
 結果として、いや、無謀な案だが、病院内でのレースになった。
 ルールは簡単だった、その子の部屋は一番最上階にあって、その部屋がスタートで、ゴールもここ、だが原則として一階にある受付のナースに自分の名前を告げて、戻ってくるというものだった。そして負けたほうが勝ったほうのお願いを聞くと言う物だった。
 その時も、なんの心配もなくいがみ合いながら、階段を駆け下りてルールどおりにして、そしてその最上階まで俺がリードしていた。
 だが、最後の曲がり角を曲がったところで俺に事件が起こった。
 突如目の前に現れた(部屋からでてきた)看護士にぶつかったのだ。もちろん俺と看護士は尻餅をついて、俺は謝ってとおりすぎようとするも捕まえられて、説教。その横を何食わぬ顔で通り過ぎる少女を俺は視界の端で捕らえていた。
 で、やっと開放されたのが少女が部屋に入って十分後のことだった。
「おそっ」
そうベットに座ってにっこりと笑う少女、負けは負けで俺が言葉を発する前に少女は、お願いを口にした。
「私のお婿さん」
そうこれが、今目の前の少女が言う約束だ。ただその頃の俺だって、一応の考えることのできる頭がある、だからこれが子供のただの口約束としか、当時は考えてなかった……まさか本気で覚えているなんて、誰が覚えているだろう? ただでさえ、その後看護士から告げ口を受けた母親が、鬼神のように俺を怒り、友人とその子に頭を下げさせ、そそくさと帰ってしまったのだから。なにかの取り決めとか、もっと会話でもしていたのならもっと深く覚えていただろう、だがその時は母親の形相が強すぎたんだ。
「そっか、あの時の」
俺は少女を見下ろして、そう呟いた。
「やっと、思い出したんだ」
少女は、優しく悲しく微笑んだ。決して小学六年生とは思えない程の大人びた表情だった。
「いや、でもさ! あれは子供の口約束で! そんな婿だとかそんな、許婚みたいなことできるわけないだろう!? だって俺…」
「本気じゃなかった、遊びだった、って? ひどいなー、私あのときのこと鮮明に覚えてるよ? なんでも言うこと聞くって約束だったよね? 男だから一度言ったことは破らない、なんて言ってたのは、嘘?」
少女がすっと、一歩踏み出し俺に近づく、顔は笑っているのに目が笑っていなかった。とても小学生には見えない。
「いや、嘘ってわけじゃ……た、ただあれは…」
しどろもどろになる俺、少女の奥に秘める強いモノに押される。
「あれは?」
ぐいっ、とまた一歩踏み出す。
「……あれは、その…」
しばらく蛇に睨まれているような感覚で、時間が流れる。
 何を言ったらいい? こんなこと経験したことがないから全く、どう答えていいのかわからない、なんだか下手に「遊びだった」なんて答えたら、次の瞬間何をされるかわからない、いやそんな自分の心配より、下手したらこの少女を傷つけてしまう、こんな俺のせいで? そう考えるとどうしても言葉がでてこない、簡単なのは「俺も本気だ」なんて、危ない変体さんの仲間入り、なんてことだ、だが、それはそれで色々危ない、そしてよくない、たとえ俺たち二人の間じゃ約束された許婚でも、世間体からみれば俺はただのロリコンだ。それは遠慮願いたい。
 そして俺が色々頭の中でくだらない妄想をおったてていると、少女は一歩後ろへ下がった。
「わかった、じゃあ、こうしよう、この勝負、まだ決まってないよね? だったら今度こそ決めよ、もちろん私が勝ったら貴方は私の婿、浮気は絶対許さないし、私だけを見てほしい、で貴方が勝った時は、素直に身を引く、無遠慮な女だったなんて思い出にしてもいいよ? それで…いい?」
真剣な表情で決め付ける、が瞳はまるで懇願するようだった。
「わかった……ゴールはお前の小学校の校門を先にくぐったほうが勝ちだ、それで、スタートは次の踏み切りが上がりきったらだ」
俺の言葉に少女は頷くと、微かに唇を噛み締め、こっちをじっと見つめた。
「な、なんだよ」
まっすぐに、とても強く語りかけてくるような、瞳でこっちをじっと見つめる。
「もうちょっと、だけ…」
唇を噛み締めて、ぐっとぐっと何かをこらえる。
 俺はどうしよもなく、どうすればいいかもわからず、ただ少女のまっすぐな瞳に目を合わせられずに、周りをキョロキョロしていた。
 やがて、音を立てて踏み切りが降りる。
 やがて、電車が轟音を立ててとおりすぎる。
 その中で少女は何かを呟いた。
 だが、それに気づける俺ではなかった。
 気づけば、少女は前を向いていた、いつ向いたかなんて解らない、ただ俺はやっと解放されたのか、という安堵と共に鋭く先を見据えた少女と同じ方向を向いた。
 踏み切りがゆっくりと上がっていく、それはいつもなら遅いからじれったく感じるのに、今は早く感じるこの踏み切りが憎らしい。
 もうすぐ、このレースは終わる。
 そう考えると少し憂鬱だ、色々あったが何かと楽しかった今日の出来事、互いに罵り合うのも楽しかったし、周囲の目を気にしないで熱くなれたのも楽しかった……それが終わる、もう一度言う憂鬱だ。
 カシャン、と踏み切りが上がりきった音と同時に歩き出す俺たち、今度は作戦とかなんとか言っていられない、ゴールはもう視界で捉えられるぐらいの距離で、体力は回復している、もう最初から全力しかなかった。
 スピードは悔しいが同等、たとえ歩幅の差があったとしても、それを五部にしようとする少女の脚力と体力、他は五部、道幅、地面、全てにおいて同じ、最後の直線。
 お互いの全力、走らないという原則の中で行われるこの勝負、これはこれで味があった、だって走ったらもったいないだろう? この平行に並ぶ緊張感、いつ抜かれるかわからない、油断できないこの存在、隣から感じる威圧感、最高だと言える。
 いつまでもこんな時間が続けばいいのに、と多分少女も思っているんじゃないか?
 だけど、無限に続くはずない道、終わりが近づく、俺はなんのために歩く? ロリコンになりたくないから? 犯罪者の仲間入りになりたくないから? いやそんな世間体を気にするようなことじゃない、ただ単純に勝負に負けたくない、そういう気持ちだ。だから――
 ――少し少女が前にでた。気持ちの強さの問題、決して俺の気持ちが弱いなんてことじゃない、ただ単純に少女と俺では思いの力が違ったということだ、まぁそれはこの勝負が終わって、正確に知るのは二年後ぐらいになる。
(そんな! だめだ、負けたくない負けたくない、負けたくない!)
ゴールの門は目と鼻の先、距離にして約五メートル、このスピードなら後数秒だ。その間に俺が少女、たった十センチ斜め前に見える少女を抜ける可能性は、零に等しかった。
 ちらりと見える少女の口元、笑っていた、正確な表情は見えないが、笑っている、悔しい、今純粋に、小学生に負けるとかそんな見栄の問題ではない、勝っている相手が笑っているということが……
 ゴールまで少女、後一メートル。
 もう終わったと頭をよぎったとき、自然と言葉がでていた。
「負けたくねーー!」
叫びこそしなかったものの、少女の耳には届いていたようだった。
 ゴールほんの数センチ手前で止まる少女、俺はそれに気づきもせず門を潜る。
「え?」
気づいた俺はなんと無様な声をあげたのだろう。
 振返れば、少女は門直前で止まっている、頭は俯いて髪が掛かって表情が見えない、がそこから一歩も動こうとしなかった。
 ジャリ道に踏み込んだ俺は、じっと彼女を見詰める。
 微かに動く彼女の肩、髪のカーテンの向こうから落ちる雫、濡れるコンクリート、彼女は……泣いていた。
 俺はわけもわからず、彼女に近づく、そして肩に手をかけようと砂利道に肩膝をついたところで、彼女は顔を上げてこう言った。
「あ〜あ、負けちゃった! 本気だすとやっぱり早いね」
涙毀れる中、笑顔を作り、俺に笑いかけた。
「だ、だいじょ…」
「だって、そうだよね、こんな女の子なんかの許婚にされたら困るもんね…そりゃ全力だすよね……そう、だよね、私、なん、かじゃ」
言葉を遮り彼女は、俺に喋らせまいと、泣きながら言葉をつなぐ。
「こ、これで、諦めついた…あい、てがっ、小学生じゃいや、だよね!」
「いや、そんなこと……」
ない? そう言えるか? 俺は自分に問いかけて、言えなかった。少なからずあったそういう念を否定はできなかったから。
「ごめんな、さい、でも……」
彼女はぐっとこらえた、涙も毀れだす感情さえも、そう俺には見える。
 深呼吸をする、何回も、何回も、全部吸い込むように……
 そして、一呼吸を最後にした後、再び俺の顔をじっと、今を噛み締めて、ぐっとぐっと何かをこらえるように見つめる。だが瞳は出すに出せない言葉を、ずっとずっと語っていた。
「もうちょっと、だけ…」
もう、目が離せなかった。
そうか、そうだったんだよな。約束だったんだもんな。たとえ子供の口約束でも、女の子にとっては凄く大事なことだったんだよな。
ぐっとこらえる瞳、止まったように動かない、彼女の綺麗な瞳に移る俺、ああなんて情けない顔をしているんだろうか、これが多分彼女の初恋だろ? もっとかっこよく映ってやれよ、なんて自分に言ってみるけど無理だった。彼女の瞳に映る俺はとてもじゃないが、他人に見せられないぐらい、今にも泣き出しそうで優しそうな顔をしていた。
「ありがとう、もう、十分…ごめんね、色々と、じゃぁ、私も学校に用事があるから……先にいく、ね?」
彼女は顔を隠すように、俯いて、俺の横を通り過ぎると、背後で最後にこう呟いた。
「バイバイ」
遠くなる砂利の音。なんとも言えない、この気持ちはなんだろう、勝ったのに嬉しくない、気づかなかった大人気ない自分に、気づいてやれなかった彼女の気持ちに申し訳なくなる、そして答えられなかったこと、上手くしてあげられなかったこと……いや、こんなことを思う時点で彼女を傷つけているのだろう、俺は気づけなかった時点でこのレースの本当の勝負に負けた、ああよく聞くだろう「試合に勝って勝負に負けた」って……だから、これは保留だ、俺だって忘れることができないし、鮮明に覚えている事だってできない、何れいい思い出と笑い合えるように……そう彼女と一緒に、笑い合おう。
 これで、気持ちの整理は終わった、だけど俺はその場からしばらく動けなかった。


「先生、すいません、遅れました」
俺は重い足を引きずって小学校の近くに建てられている高校へと行った、もちろん、行こうという気になったのは数時間後ぐらいだった、それまで近くの公園でうじうじしていた。だが元々これが主要だったのだから、いかなかったら、今日一日何をしていたのか? と母親に怒鳴られそうだ。
 職員室に入り、担任の前に立つと、日が暮れ始めるまで呼び出した俺が来るまで待っていた担任に頭を下げた、本心から申し訳ないと思ったから、「土下座しろ」と言われても素直にするつもりだった。だがそんな誠心誠意の言葉に帰ってきたのは意外な言葉だった。
「どおなった? あらかた事情は母親さんから聞いていたんだけど?」
「はい? どおってなにが、ですか?」
クルリと椅子を回し眼鏡をかけたスーツ姿の担任が、にやけた顔でそういったのだ。
「とぼけない! 最初聞いたときはびっくりしたわよ、だってあんたのお母さんから「息子を好きな娘が居るんですが、すこし手伝ってはもらえませんか」なんていいだすんだからな、もちろん面白そうだったから協力してあげたけど……」
「…………」
俺は呆然としていた。どれだけ間抜けな顔をしていただろうか? 多分写真にでも撮られたら命を這ってでも取り返すほどの、間抜けさだ。
「で? どうだったの? 相手は同い年? どんなの子? OKしたの?」
身を乗り出して、次々と質問を投げかけてくる担任、なんでこいつはこんなことに熱心なんだ、ともうそんなどーでもいいこととしか思わなかった。
「じゃぁ先生、ひとつ、質問していいですか?」
「よろしい」
「先生はこのためだけに、俺を呼び出したんですか?」
「もちろん!」
胸を張って答える。教師として大丈夫なのだろうか?
そして思い出す、出かける前に母親が言った「ラブコール」という単語を――
――計ったな、あの婆。
 その日、職員室で色々問い詰めてくる教師を無視して、只呆然と、今日歩いてきた道をトボトボ歩いていた。日はすっかり暮れていた。
 

 そして、その時、俺の横を華麗に通り過ぎるちっさな物体。
 それは振返って悪戯っぽい笑みを浮かべながら。
「おそっ!」
と、下を出して走り去ってしまった。
 それを見た俺は、ふっ、とわらって、走って追いかけた。
 さて、また勝負だ。
2009-08-09 07:23:01公開 / 作者:グリム・メモリード
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■作者からのメッセージ
 最初に、最後まで読んで頂いてありがとうございます。
 私は初投稿ですので、少し至らない部分などあるかもしれませんが、精一杯の努力で書き上げたつもりです。
 ですけど、やはり、後から読み返すと、ちょっと設定を無理やり入れ込んだ感じがしてならないです、もうちょっと最初からよく考えてやるべきでした。すいません。
 内容としては、落ちをつけるべくこうなったわけですが、私自身こんなレースをしてみても面白いな、とまさに登校中に考えたものでして……今これを書いている時は「勢い、だったのかな」と悔やんでいます(笑)
 拙い文ですが、小説を我流で書いて来て、約四年、やっとって感じです。でわ、また次の短編でお会いできましたら、お会いしましょう。
 後、犬の糞は飼い主が責任を持って片付けましょう^^

 わがままな希望としては、できるだけ多くの方に批評を頂きたいと思います。

この作品に対する感想 - 昇順
[簡易感想]おもしろかったです。
2013-08-29 14:37:29【☆☆☆☆☆】Evgeny
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。