『間違ったあゆみ』作者:ティア / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約8.4枚
 …気付いたら、何もなかった…。
オモチャも、漫画も、時間も、信用も、家族も、恋人も、記憶も…僕自身という存在も。

 
 一番、最初に信用を失った。
 学級で一番になりたくて友達に、任せろとか無責任に言って、全部失敗してしまった。
 そして、流されるように友達を失った。
 なんとか仲直りしたかった。
 思いついたのは、何かをあげて仲を取り戻そうという考えだった。
 友達にオモチャをあげると、仲が悪かったのに、すぐに仲良くしてくれた。次に漫画をあげた。やっぱり喜んでくれた。
 どんどんエスカレートして、今度はお金をあげた。
 でもある日、小遣いがなくなって、母さんのサイフからお金をぬいた。それを毎日続けた。
 しかし、ついに母さんに見つかってしかられた。
 父さんからも説教をうけて弟からは白い目でみられていた。
 僕は勇気をもって、もうお金はあげないって友達に言ったが、それを聞いた途端、友達は僕を殴りつけてきた。
 どうして? 友達なんだろ? なぁ?
 その日から友達は何も口をきいてくれなくなった。
 家族も、サイフの事がバレてからロクに口を聞いてくれなくなった。

 
 寂しかった。心の底から、寂しくて、何かで心を満たしたかった。
 そこで、タバコと酒に手を付けてみた。が、だめだ、ダメだ。こんなの美味しくもなんともない。マズイマズイ。

 麻薬。

 それに手をつけた。
 気持ちよかった。体が浮いたようにふんわかしていた。
 最初は無料だが、次からは有料と怖い兄ちゃんから聞いていた。
 だから、お金のない僕は、一度だけと決めていた。だけど、心の中の何かが叫んでいた。

『欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい』
 自分自身を止められなかった。気付いたら、家族の貯金通帳から全額おろして、麻薬を買っている自分がいた。
 ダメだ。すっちゃダメだ! …僕の体はそれを聞き入れようとしない。

 …気付いたら、牢屋の中にいた。
 麻薬の事がばれた。なんでばれたんだ? ちゃんと隠してあったはずだ。
 しかし、すぐに情報が入ってきた。
 そうか、親がチクったのか。奴らが僕を売ったのか。邪魔者の僕を売ったのか。
 牢屋を出た。空白の長い時間を過ごしていた。
 家には帰らなかった。すぐにマンションに入れてもらった。
 もちろん、家賃なんか払うわけないだろ? ある程度家賃がたまったらオサラバしてやるよ。
 何? そんな悪いことはするなって? 何言ってるんだ?
 世の中悪いことしなきゃ生きていけないんだろ? お偉い政治家なんかしょっちゅう悪いことしてるんだろ?
 貴様らがしらないだけなんだよ。目に見える悪事だけ正義ぶって正そうとしやがって。
 こんな小さな事を正して何になる? 何にもならないだろう? じゃあ、もう何も言うなよ? 

 
 しかし、ダメだ。金なんかなくても、万引きすればどうにかなるが、心がカラッポだ。
 麻薬はダメだ。冷たいのは嫌いだ。冷たい牢獄の中はもっと嫌いだ。
 じゃあ、どうする? 何が僕…、いや俺の心を満たしてくれる?
 …そうだ。
 恋人だ。
 俺のことを唯一理解してくれる。俺の心を癒してくれる。そんな人が必要なんだ。
 その日から、俺は町中にいる女に片っ端から声をかけてった。
 なのに誰一人受け入れようとしない。
 しかし、頭の良い俺は思うかんだ。そうだ、金持ちぶりゃあいいんだ。
 そう思いついた時、銀行を襲った。
 覆面をかぶり、ナイフをもった俺が突撃すると、全員猿のように叫んだ。泣け叫ぶ野郎どももいた。
 人質をとった。しかし、反抗する奴らがいた。

 まぁ、許せ。

 そんな感じで人質を一人殺した。
 別に何とも思わねえよ? 俺は? 殺人ドラマなんかあるから、俺はマネしたんだ。 だから殺人ドラマを作った奴が悪いんだ。
 面白いように上手くいった。牢屋にいただけあって、警官の対応は万全。無能なバカ共め。
 その金でファッションを、極めたもので体を包み、ダイヤのネックレスをつけて町中を歩いた。
 すぐに女は寄りついてきやがったよ。少し声をかけただけでな。
 それから何ヶ月かつき合ったよ。嬉しかったし、心が何かで満ちてった。
 だけど、ある日、彼女が俺は指名手配中の銀行強盗だと、知った瞬間、逃げていきやがったよ。しかも通報しやがった。
 裏切られた。そうだ、昔もこんな事があった。あの時は友達に裏切られた。
 そうか、人は信用できない。今頃気付くなんて俺はバカだなあ。他人なんて信用して何の特になるんだよ。
 あーあ、つまんねぇ。そうだ、久々にマンションじゃなくて、我が家に帰ろうかな。
 ん? 弟がこの家の主になってんのか? あぁオヤジと母さん死んだのか。別にいいけどな。
 家にはいったが、誰もいない。すぐに俺は自分の部屋へいってみた。
 相変わらず狭いぜ。汚いし。でも、なにかが心の中でうごめいた。
―――何だ? ここに何を忘れてきたんだ? 大事な何かだ…。いや、しかし、俺は金も知識も手に入れた…それ以上のものなんて――――
 なんでだ…考えると頭が痛い…いったい、何を忘れてきたんだ?
 その時、違う部屋から赤ちゃんのような泣き声が聞こえた。 すぐに声の元へ走った。
 ベットに寝る、赤ん坊がいた。誰の子だ? しかし、すぐに赤ちゃんの近くにある、写真立てに映ったかすかに面影が残る、弟と知らない女を見て、わかった。
 あー、弟の子供か。なんだ、あいつ結婚してたのか。なんで俺に教えないんだよ。なんかムカついてきた…。
 五月蠅いなぁ泣き声…。ほうら、ベロベロバア、泣きやめよ、ホラ。ホラ…。

 泣きやめつってんだ!!!

 
 あーあ…息してねぇや…やっぱ赤ん坊のクビは弱いな…しめるんじゃなかった。
 ゴトッっという音が廊下から聞こえた。女が真っ青な顔でこっちを見ている。そうか、コイツが弟の妻だな。

 なんだよ? なんだよその目は? 見下した目でみるなよ? まるで俺の母さんと同じじゃないか? 貴様も俺をバカにしてるんだな!
 気がついたら、血のついたナイフを片手にもっていた。女は血を流して倒れている。夕日の赤さと血の赤さで何とも綺麗じゃないか。

 
 そうして、弟が帰宅してきた。女とガキの死体を見ると、すぐに奴は目の色かえて叫びやがった。俺の胸ぐらもつかんで何わけのわからない事言ってんだ?
 俺は貴様の兄貴だぞ? 偉いんだぞ? 何様のつもりだ?
 何で他人が死んで泣いてんだ? 自分がよければ良いだろ? 
 あーあ、不愉快。
 やる気じゃなかったのに…また殺っちまったよ。

 まぁ、弟も幸運だろうな。刺す相手が兄貴で、妻と同じナイフで刺し殺されたんだからな。
 

 …………俺は死刑が決まった。

 外国まで逃げたんだがなぁ…捕っちまったよ…。甘く見たぜ。無能な警察共。
 これが噂のギロチンか。たく、俺のクビなんざ落として面白いのかね? 俺を生かしておいたら、まだまだ良いこと教えてやるのによ…
 あれ? なんでだ…? なんで昔の思い出がいまさらになって蘇ってくるんだ…。

 おかしい…今まで俺がやってた何とも思わなかった事が…、全部昔母さんの言ってた『悪い事』にあてはまってるぞ…?
 成る程。だから俺は、こうして死刑になるのかよ…。

 そういや…俺は何でこんな人生を送ってきたんだ? 何かを求めるかわりに何かを失って…今はなにもないぞ?
 最初はたくさんあったのに…いつの間にか…。なにもないぞ…。無い…無い…無い…。
 そして、俺という一人の人間も…今…。

 まぁ…最後に教えてやるよ。俺は世の中に何も良いことをした覚えがないが、最後に『良いこと』をみんなに教えてやるよ。

 

――――俺みたいにはなるな――――

 

 
 

 Fin

2003-12-01 17:26:18公開 / 作者:ティア
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■作者からのメッセージ
意味が伝わりにくかったらごめんなさい…。
感想・批判、宜しくお願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
どんどん暗い闇に落ちてしまう様子というか・・・うまく言えないのですが、犯罪の深みにはまってしまった悲しき人間の姿がよく伝わってきました。
2003-12-01 17:56:18【★★★★☆】ねね
悲壮感漂う物語ですね。好きですよーー
2003-12-01 20:30:18【★★★★☆】クレイドル
読ませていただきました。悲しい主人公の姿がよく伝わってきてとても読みやすかったです。
2003-12-02 14:44:08【☆☆☆☆☆】ひなた
点数忘れてましたすいません。
2003-12-02 14:48:31【★★★★☆】ひなた
心の底からじんわりとくるようなお話でした。でも、こういうものも私はすきですね。
2003-12-02 22:22:01【★★★★☆】鈴
主人公の心とか、凄く判って良かったし、読みやすかったです。私もこういうの好きです。
2003-12-06 14:50:47【★★★★☆】悠
人間ってとても弱い生き物なのが、痛いほどにわかります。「俺みたいにはなるな」最後に放たれたこの言葉がずんと心に染み渡りました。
2003-12-07 21:05:55【★★★★☆】ラインストーン
計:24点
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