『タイトル未定』作者:ューロ / t@^W[ - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
高校の頃の同級生たちが突然集められたと思ったら…
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 まず先に言いたいのは俺が今日ここに来たのは予定外のことだ。本来なら今日この時間は地元の友人達と共に大パーティだったのだ。正確にいうと今日と言っていいのかすら分からない。
 問1―なぜ? 
 解1―その答えは簡単だ。なにを隠そうここは俺の生まれた国じゃないからだよ!
 問2―ではなぜここが自分の生まれた国でないかが分かるの?
 解2―当たり前だろ? ふざけんな。
 問3―どうして当たり前なの?
 解3―分かった! 分かったよ! 面倒くさいなぁ。ここが俺の留学してた時の母校だからだよ!

「さっきからウダウダと面倒な質問しやがって、さぁて今度は俺からの質問だ! なんで俺はここにいる!?」
 目の前でつまらなそうな顔をしてずっと質問をしている女に向かって大声で叫んだ。叫んだ? いや違う……怒りをぶつけたのだ。怒りの原因はパーティーに参加できなかったことではなく、ただ単に睡眠の邪魔をされたことに対する怒りである事を女は理解している様子だった。
「それはあなたが素直に今日ここに来ないと思っての学校側の当然の処置よ。あなただけじゃなく懐かしの顔ぶれも隣の部屋に寝てるわよ。レイにもフェルにもしばらく会ってないんでしょ?」
 その女性は呆れた顔で話しかけてきた。
「レイ? フェル?」
 なんの事か本当に分からない様子で頭をかかえている。
「あなたと同じように連れてこられたわよ。隣の部屋にいるから行ってみなさい」
 女性は説明するのが面倒くさいらしく横に部屋があるから早く行くように彼に伝えた。
 男はなんの話をされているか分からない上、聞き覚えのない言葉を言われ、ますます不機嫌になりその部屋から出て行った。部屋といっても6畳くらいの小さい部屋にベッドと椅子があり、窓も換気扇すらないコンクリートに囲まれた部屋だった。本当ならもっと早く出て行きたかったのだが何となく女性が気になり出て行くタイミングを失っていたのでちょうど良かったようだ。
 女性の言う部屋に行くと2人の男性が騒いでいた。
「レイにフェルじゃん!」
 彼はすぐに思い出した様子で騒ぎ出した。彼ら2人は学生時代の友人で【タフト=ハートレイ】と【レッセ=フェール】だった。
 あの背の小さいほうがタフト=ハートレイだ。レイって呼んでる。学校に入ってすぐに仲良くなった友人で同級生だが最初に行った学校を辞め1年間海外で留学生活をしていた経験があり年齢は1つ年上だ。この学校も彼の地元ではないから留学は2度目ということだ。身長は俺と同じくらいだ、だから170センチくらいかな。普段は本当に年上かと思える行動や言動をするのだが何かあったら別人のようになり頼もしい一面を見せてくれる。俺やフェルが喧嘩したときも上手く間に入ってくれて仲を取り持ってくれたこともあったな。それも何食わぬ顔でだ、そういえば学校の先輩とかにも一目置かれているって聞いたことがあったな。そういうことを当たり前にできるはずなんだが……俺達といるときは馬鹿なことをやったりくだらない話で意気投合していた。今は確か大学生をしているはずだ。
 もう1人の大きいほうがレッセ=フェールだ。こいつとは2年になったくらいのときに話したら意外と面白い奴で話をするのが上手い人なんだ、けど口が悪い奴でよく人をからかって遊んでたな。それでも憎めない奴でクラスではよく中心のほうにいたんだ。俺やレイとはずっと違うクラスだったけどよく俺らのクラスまで笑い声が聞こえてきていた。おかげさまでこっちのクラスの先生までイライラして大変だったな。なにか馬鹿なことをやるときはいつもこいつが言い始めるんだけどなぜかこいつだけは何があっても見つからないような奴でよくレイと2人で説教したなぁ。まぁ一緒にやる俺らが悪いんだけどな。卒業してから何をするか結局教えてもらえなかったから今は何をしているかは分からない。けどあいつならゴキブリが絶滅しても生き残るだろうな。
 最後に俺の名前は小岩 楽舜(こいわ らくしゅん)だ。みんなにはラークって呼ばれている。今は日本に戻って会社員として働いているがいずれは金を貯めて自分の夢を叶えるつもりだ。今はあえてその夢は話さないでおこう……恥ずかしいしな。
「久しぶりだな! ラークは元気だったか!?」
 フェルが満面の笑みで言い寄ってきた。
「毎日毎日社会に貢献するのも大変よー。まぁお前らの相手をしてた頃よりは楽でいいけどな」
 最高の笑みで返してやった。
「不慣れな留学生活を助けてやった俺にそんなことを言っていいのかなぁ?」
 レイは嫌みったらしく笑っていた。
「あ、あぁ……」
 実際かなり助けてもらっていたがここでは俺らの昔ながらのルールが適応されるのだ。フェルはひたすら笑っていた。
 昔となにも変わっていない仲間に安心し話はどんどん盛り上がっていた。
「っていうか俺らはどうしてここにいるんだ?」
 突然フェルが真面目な顔して話した。しかし俺も同じ疑問を抱えていたので話に乗ることにした。
「だよな、本当なら今は成人の儀が終わってパーティの真っ最中のはずなんだが…記憶にあるのは成人の儀が終わって祝いのパーティに向かうタクシーの中なんだけど……」
 今年で20歳になった俺達はそれぞれ地元で儀式を受ける、そうしてその後に何日も飲んだり騒いだりするのが儀式の慣わしだ。ちなみに受けるのは自由だがこの儀式は全世界共通の儀式で日にちも時間も合わせてやる、つまり酷いところでは夜中に始まるところもあるのだ。儀式の内容は違ってもその後の飲み会は必ずある、しかも全世界共通の儀式だけあってその後数日は完全に休みだ、学校だろうが仕事だろうが休み放題で遊び放題だ。レイは去年だったはずだがフェルと俺は今年だ、つまり今は人生で一番自由な時間を楽しんでいるはずなんだ。
「本当に意味が分からないよな、タダで酒を飲み放題だってのによー」
 フェルは本当に悔しそうに叫んでいた。
「つまり完璧に忘れてるわけだ」
 レイは笑いながら言った。
 俺とフェルは驚いた、レイは今日ここに来ている理由がわかっているらしい。
「「どういうことだ?」」
 俺らは声を合わせて言った。
「今日は登校日ってことだよ」
 レイは笑いながら言った。余計に訳が分からなくなった俺とフェルは唖然とするしかなかった。それを見たレイはまた大笑いをしながら言った。
「どうしても思い出せないなら彼女に聞いてみるといいよ」
 レイの指を指すほうにはさっきの女性が立っていた。
「私に聞かれても分からないわよ?」
「「……誰?」」
 フェルとまた声が合った。フェルもなんとなく気になってはいるが知らない女性らしい。しかし彼女は俺達の話を無視して話し出した。
「問1―なぜここに私達がいるのか。
解1―呼ばれたから。
問2−誰に?
解2−学校に
問3−なぜ?
解3−それは知らない。
問4−けど何か知っている様子だ
解4−知らない
問5−最初に起こしたときの質問はなに?
解5−そう言うように言われた
問6−誰に?
解6−元担任に
問7−元担任に会ったのか?
解7−卒業して以来会ってない
問8−じゃあ卒業する時点で集まることは決まっていた?
解8−決まっていた、言われた。
問9―誰に?
解9−先生に
問10―いつ?
解10−卒業式の後」
 女性は俺とフェルの疑問を的確に言い当て、そして答えた。しかしそのおかげで気になっていたことが分かった。フェルも分かったようだ。
「問11―この女は誰だ?」
フェルに向かって俺は言った。
「解11−ティエラ」
 フェルは笑いながら答えた。
 そう、彼女はティエラだ。レイは最初から分かっていたようだが俺とフェルはすっかり忘れていた。俺やフェルとはクラスは違ったがレイと同じクラスでよく遊びに行った人の一人だ。まぁ遊びに行ったというのは名ばかりで実際は宿題を見せてもらったりテスト勉強を教えてもらっていたのだ。レイは頭が良いがフェルは普通くらい、俺にいたっては全くときたもんだからレイ一人ではどうしようもない、ということで我らは彼女に救いを求めた。最初は他にも教えている人がいるから、という理由であまり時間を割いてくれなかったのだが最終的にはフェルと俺の強引な説得により彼女を独占したのだ。ちなみにティエラは学年でもトップクラスであろう、正確な順位は特に気にならなかったので聞いたことはない。しかし周りで噂になっていた<成績は学年トップクラス、しかもかなり綺麗なお嬢様がいる>とはティエラであろうとかってに決め付けていた。年齢は俺と同じで今は20歳だが昔からこの落ち着きようだ、そのため俺の中ではティエラは年齢偽装疑惑がずっとかかっている。
「私は成人の儀が終わってすぐに来ました、来ない人は強制的に連れてこられます。大半の人はあなた達と同様に後者だけどね」
 心なしかティエラが怒っているような気がした俺らを代表としてレイが前に出て聞いてくれた。
「ティエラさんも成人の儀の後のパーティに行けなくて怒ってらっしゃるのですか……? それともやっぱり……」
呆れた様子で答えた。
「後ろの2人」
「ですよね……」
 レイは分かっていたようだった、それに引き換え2人は全く分かっていないようだった。
 すかさずレイはフォローを入れる。
「けど久しぶりに会った訳だし女性は2年間で見違えるように変わるしさ!」
 俺とフェルは無言で大きく首を縦に振った。
「ラークはあなた達2人の名前を聞いても分からなかったみたいですけどね」
 空気が止まった、今までフォローを入れてくれたレイも、同じ立場で焦っていたタフも、そしてティエラも、みんなが一斉に俺を見た。そして俺は下を見るしかなかった。目を合わせても、何か喋っても、余計な行動をとっても、待っているのは……。俺に残された道は1つしかないことを俺は本能で理解していた。それは俺の国で長年愛用されている奥義だ。両膝を地に着け腰から首筋までをなだらかな傾斜を描きながら前に倒す、そうして両肘を思い切り開き肘を地に着け手を顔の下で軽く合わせ地面に付ける、最後にその手の甲の上におでこを乗せたら完成だ。おっと忘れてた、大事な一言があったぜ。
「申し訳ございませんでした!」
 3人の表情を見ることはできない、ただこの3人の表情を想像は容易に想像できる、般若だな。もしくは某人気アクションゲームのラスボスであるツグマ。とにかく俺は何か話しかけて頂けるのをひたすら待った。
そして長い時が流れた。部屋に残ったのはただの屍のようだ……2体のね。俺がただでこけるわけがない、攻撃を受けつつも反抗してたのだ、小さな声で。
「……でもティエラのこと気づかなかった奴がもう1人いるんじゃね?」ってね。
 つまり屍は俺とフェルの2つ。
何度も謝り、ティエラからの許しをやっと得た俺とフェルは次の話を切り出した。
「ここに連れてこられた理由は分かった、それに昔から計画していたことも分かった、けど成人の儀の後は完全自由の時間、それは学校も分かっているはずだ。全世界共通で成人達を祝い、そして学校、仕事、その他全てのことから開放され遊んでいい時間。なによりこの学校は各国の政府が話し合いをして共同で創った特殊な学校だしそんなことは本当に可能なのか?」
「ラークにしては質問が的を得てるね。確かにこの学校は各国の代表が集まり学校を創った、この学校を設立する上で参加したい国は多くあったらしいけど実際に参加できた国は一部らしいね。そして参加した国から決まった人数のみを入学させる。そして出来上がったのがこの【アルファードハイスクール】だ。なんのための学校かは分からないけど卒業者は全員なにかしらの形で就職や進学ができている、しかもかなりいいところにね。俺らがしらないところで政府たちが頑張ってくれているのは間違いない。そこまでしてこの学校を作った訳、そして参加した国の利益、恐らく今日の一件も関係あるとは思うね」
 レイがマジな顔をしながら言った。
 他の3人もその意見には同意だった、この学校が本当に生徒の為にあると全生徒が思っていない。ましてや単なる金集めの場であると思ってすらいない生徒も多い。国の利益、一体どんな裏があるのか誰も分からないのだ。
「ここで話しても分かるわけがない、まずは教室に行って先生の話をきくべきじゃないかしら?」
 確かにその通りだ。ここで分からないことを議論しても分からない。先生だったらさすがに分かるだろう。こんなところまで無理やり連れて来られたのだ、さすがに今日ここに連れてこられた理由くらい教えてくれるはずだ。……っていうか普通に教えとけって話なんだけどな。
「とりあえず話はまとまった訳だし教室に行こうかぁ」
 フェルが言い出した、そして教室への移動中もフェルに話が途切れることはなかった。
「この学校は本当に広くて〜」
「成人の儀はつまんない話が多くて〜」
 などだ。しかしそんな話のおかげで暗くなった雰囲気が吹っ飛んだようだった。
 教室に着くとほとんどの生徒が集まっていた。
「学校側もよく全員集めたもんだなぁ、関心しちまうぜ」
フェルが言ったが実際俺もそう思った、このクラスだけで20人以上いるわけで確か全部で……忘れた。こういうときはティエラに聞くのが一番さ。
「ってことでティエラ〜、この学校に俺らの同窓生って何人くらいいるの〜?」
「全部でちょうど250人、1つのクラスにつき20〜30人で全部で10クラスあるはずよ。1つのクラスの人数を減らして少クラスを多く作る、それで学力を向上させようって考えね。ちなみに全校の4割に当たる100人が女子で6割が150人で男子。クラスの割り振りは……」
 長くなりそうだったから俺が話を割って入った。
「ティエラが全員集めたのか?」
 話の途中で話題を変えられたことにちょっと期限を悪くしながらも答えてくれた。
「私はあなた達担当、絶対に来ないと思った人には親しいきちんとした人が担当につく訳」
 俺とフェルが苦笑いをしていると別の友達とはなしていたレイが帰ってきた。
「やっぱりまだみんな何をするか知らないみたい。」
 やっぱりなぁ、と思いつつ俺とフェルもクラスに行くことにした。
「じゃあまた後でな!」
フェルの一声に3人は声を合わせて返した。
「お前には会いたくはないけどね」
 全員で笑って俺とフェルは教室に行った。
 教室に入ると大半の人は集まっていた、そして俺とフェルは自分の席に座って卒業してからのことなどを話し始めた。
 しばらくすると校内に放送が鳴った。
「本日はご多忙の中でのご出席、まことにありがとうございます。本日は皆さんの成人を祝っての集まりでございます。成人された方は自分の机のなかにあるケースをお持ちになって体育館までお越しください。今年成人になられなかった方、またはもうなられている方はそのままお待ちください。」
なにがあるか全く説明なしかよ。しかも出席できないやつがいるのか?レイに会えたのは良かったけどなんかしっくりこないなぁ……まぁいいか。
「行こうぜフェル!」
フェルも納得できない様子だったが行くしかないと思ったらしく渋々腰を上げた。
「じゃあ行こうかぁ」
 この学校はデカイ、とにかくデカイのだ。何を隠そうこの学校は島1つを貸しきっての学校、島と言っても小島ほどの大きさだが周りを見ても見えるのは水平線だ。ちょうどいい機会だからこの学校を詳しく説明しておこう。この学校は前にも話したけど各国の政府が協力し合って創った学校だ。何かしらの目的があるらしいがもちろん誰も知らない。しかし国をあげての学校だけに将来性も完璧だ。着きたい仕事、行きたい大学、そのへんはもちろんだ。他にも住みたい国の土地、そして家、そんなのも卒業と共にもらえる最高の学校だ。この学校に入学する方法はただ1つ『一般の高校の受験資格があり、入学の希望を申請して国からの許可が下りること』これ1つだ。2つっぽいが気にしないでくれ……。もちろんこの学校を創った政府の国しか入れないのは条件にあるが、他の条件は一切ない。頭がいい、運動ができる、親が国のお偉いさんだ、そんなのは全く関係ない。とにかく希望者からランダムで決められる。だから大体の人はこぞって入学の希望を出す。そして俺の国では毎年3〜5人くらいの入学者がでる、学校を創ったときに多く金を出した国ほど入学できる人数が多いらしいが良くは分からん。とにかくこの学校に入学できれば一生安泰間違いなしってなもんだ。そして入学が決まった人は3年間の間は例の離れ小島に収容される。そして小島はどこの国にあるのか分からない、この学校にくる方法は外が見えない飛行機に何時間も揺られてやっと着くのだから検討もつかないのだ。帰っていいのは年に数回であとは基本的に島を出ることは許可されない、全寮制で門限も厳しいし立ち入り禁止の施設も多い、まぁどうせそこで悪いことをしてるんだろうが知ったことでない。入学したらあとは卒業できる程度に勉強して遊んでいればそれで問題ないのだから。まぁ簡単な説明はこんなもんだろう。
 そんな訳で無駄に遠い体育館まであるいて行った。
 体育館に着くとティアラもいたが友達と話をしていたので俺はフェルと2人でいた。
「やっぱりレイはいないかぁ」
 残念そうにフェルは言った。
「まぁ仕方ないさ! まさかこのまま帰ったりはしないだろうし、後で遊ぼうぜ」
 俺も残念だったが今はそう言うしかなかった。その時はまだ何も知らなかったから……。
 フェルと話をしているとティアラがやってきた。
「なんか情報はあった?」
 俺とフェルの顔を見るとティアラも同じような顔をした。そうしているとまた放送が鳴った。
「大変お待たせ致しました。只今より成人の方々へ送るプレゼントをお渡しいたします。ケースを地面にお置き下さい」
 全員ケースを地面に置いた、するとケースは自然とその口を空けたのだ。
「なんだこれっ!」
体育館中にどよめきが走った。ただの金属性の板のようだったが見たこともないような石が付いていた。例えるなら時計やブレスレットくらいの幅で長さもそのくらい。つまり、腕につけるものであろうことは分かった。その金属製の綺麗な一枚のベルトの中央に小さな赤い宝石がいくつか乗っかっている。
「それを腕にはめて下さい」
 また放送だ。
 不思議な事に、金属性なのにそれは軽く曲がって腕にフィットした。
「ありがとうございます。後で使い方をお教え致しますのでそのまま少々お待ち下さい。」
 ってな訳で相変わらず訳が分からないままだった。
「おいおい! これだけかよ!?」
 フェルの言い分はもっともだ。
「これは学校側に問題があるな、いくらこの学校であってもこれはやりすぎだ。」
 俺も同じ考えだったから同意した。しかし今の自分たちにできることは言うことを聞くだけである。
 30分くらい時間が経っただろうか、体育館に集まった人の我慢も限界に近かった。俺とフェルも限界、話し合った末にこの体育館から出ることにした。
「ティエラはどうする?」
 俺が聞く前から答えは出ていたようだった。
「さすがに理由も言わないでこの待ち時間は問題ね、職員室に行って先生方に理由を聞いてくる」
 俺とフェルはそんなつもりで出て行く訳ではないのだが……。まぁいい、このままここにいるよりは数倍マシだ。
「じゃあ決まり! こんなとこさっさと出ようぜ!」
 変な腕輪を外し、ポケットに入れて歩き出した。しかし出口まで行くと人だかりができていた。
「お前らはなにやってんだよ?」
 フェルが不機嫌そうに言った。
「このドアがロックしてあって出れないんだよ!」
 なんでこんなことになっているかは分からないが俺とティエラはこの事態が只ならぬことだと直感で分かった。フェルはキレていてそれどころではないらしい。何度もドアを蹴ったり体当たりを繰り返していた。
 俺はティアラと相談することにした。
「どう思う?」
「どうって言われても分からないけどおかしいわね。この学校は政府の直属の監視下にあるだけあって規則や時間には人一倍厳しい。あなたもよく分かってるでしょ?」
 確かに俺達は何度も寮を抜け出しては遊んでいた、いつもはばれないのだが数回見つかったことがありその罰は今でも思い出したくもない。
「じゃあこの時間はわざと?」
「なんとも言えない、理由が分からない。間違いないのはこの時間はここでなにかする生徒のために割いている待ち時間であるということ、でもなければ教室で待たせていたほうがいい、つまりここで何かをしなければならない、またはしようとしている生徒がいる……とにかく今はあんまり大きな動きをしないほうがいい。」
ティエラの話には十分な説得力があった。こういうときに事態を冷静に把握してくれる人が上に行けるんだろなぁと感心していた。
「じゃあ俺はフェルを呼んでくる、ティエラはここで待ってて。」
 何となくあそこに女の子は連れて行くべきではないと思った俺は1人でフェルのもとに走った。
「ゴルォラー!ボゲオラー!開けろって言ってんだろがー!」
 そこには完璧にキレているフェルがいた。
「おいフェル! ……って聞こえる訳ないかぁ。」
もちろんフェルには俺の声は届いていない。
「こういうときは、……ネコがいるぞー! しかもペルシャネコだぞー!」
 フェルは大の動物嫌いなのだ、動物の毛が嫌いらしい。今回はネコだがヒツジ、アルパカ、毛虫……言ったらきりがない、とにかく全部に対して過敏に反応する。普段は怪しんだり強がったりするのだがキレてたり浮かれてるときは完璧に決まる。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! どぉーこぉーだぁーー!」
 フェルのランニングが始まった、とりあえず体育館の中をめちゃめちゃに走った後にティエラの後ろに逃げ隠れた。なぜか隠れるときは決まってティエラの後ろ、なんとなく分かるが……。
「ようフェル! ペルシャネコはいなくなったかぁ?」
 笑いながら俺はフェルに言った。
「またお前か、久々だったから余計に効いたぜ……」
 そのようだった、まだティエラの後ろから出てこない。
「いいから話を聞け、話したいことがある」
 やっと出てきたフェルにさっきの話をした。
「確かにそうだな、俺達生徒の誰かがなにかをしなければならない……いったいなんだ?」
 理解はしたようだがやはりフェルもどうしていいか分からないようだった。
「たぶんこのブレスレットを渡したところまでは学校側の予定通り、だとすれば……分かるわよね?」
「確かにそうだな、俺も試す価値はあると思う。しかしなんの保証もない、失敗したときは面倒だぞ? それになんかの罠かもしれない」
 我ながらなんてマイナスな考えなんだろうと思ったが考えなしに動くのは危険と判断したのだ。この学校が世界のルールを破り、生徒を強制的に連れ去った上に軟禁と考えれば慎重になって当然だ。
「けどそれしか考えられない、このままこの状態が続いたら暴動になりかねない、ケガ人が出てからじゃ遅いと思うの。」
 ティアラの意見はもっともだ、俺はフェルの顔をみた。
「俺もやってみる価値はあると思う。さっきまで騒いでる側だったけどあれじゃあ精神的に持たねぇからな。」
 3人の意見は合った、後はどうやってみんなに話を伝えればいいかだが、まぁここは体育館だしマイクもある。あとはフェルに任せれば問題なしだ。
「やっぱここは……頼んだぞフェルー!」
 俺がフェルに言うと任せとけってな顔でフェルはこっちを見た。なんて気持ちのいいやつだ。マイクを持ってステージに行った君の姿はとても輝いていているぞ! さぁ頑張れ!
「あー、あー、皆さん聞こえますか?聞こえますか?」
 騒いでいる人が多いため全体には声が届かないようだ。
「ここから出れる方法がみつかったので皆さん聞いてくださーい」
 いやいやまだ分かんないから。方法は見つかってねぇから。確実じゃねぇから。
「この体育館から出たい奴はこのラークは話を聞けってんだよ!!!」
 なんで俺なんだよ! ってな突っ込みを入れる前にマイクは俺の手の中にあった。そしてフェルは一仕事を終えた素敵なサラリーマンのような笑顔で去っていったのだった……。
 おいおい、本気で勘弁してくれ。俺は人前に出るのが苦手だ、しかも話すのだって人並みだ。そんな俺に全校生徒を相手になんの確証も保障もない話をして説得させろってのにはだいぶ無理があるんじゃないか? フェル君? 君はどこに行くんだい? なんで俺をステージに上がらせて君だけ降りるんだい? もう全生徒が希望を抱いた瞳で俺をを見ているんだよ? などと考えていると見かねたティエラが助けてくれた。
「話は私がするからあなたはここで待ってて。」
 俺の持っていたマイクを取り、ティエラは話し出した。
「今日なぜここに集められたか、それはまだ誰にも分かりません。それに訳も話さずにこの体育館に閉じ込められ、なんの説明もない。怒るのも当然でしょう、しかし今できることはなにかを考えるのが先決ではないでしょうか? 学校側からは何も言ってこないですがヒントはあります。皆さん分かってらっしゃるとおりこのブレスレット、今日はこれを使ってなにかをするのだと考えます。おそらく学校側から指示がないのは……まぁこの学校ならではの試験ではないかと思います。このような状況にたたされは私たちがどんな行動に出るかの。その結果なにが分かってどうなるかは分かりませんが今はこの学校の見えざる意図に従うしかないのでしょうか?」
 ティエラ……お前はきっと先生になるべきだ。
「まぁともかく言うことは言ったしあとはみんな次第だな」
 俺が言うとフェルは何も言わずにうなずいてくれた。
「冷静になって考えてくれたら分かってくれるはず。人は多いけど考えはみんな同じ、ここから出たい。」
「そうだな! きっと分かってくれるよな。」
 ティエラが言うと不思議な安心感がある。やっぱりこいつは先生になるべきだ。
「全員が付けたかどうかどうやって調べる気だ?」
 俺が聞くとティエラが即答してきた。
「学校側の考えでこんな状況を作ったなら学校側がなんらかのコンタクトを取ってくるはず」
「ってことはまだ付けてない人がいるって事か?」
 ティエラは黙ってうなずいた。
 すると誰かが騒ぎ出した。
「こんな怪しいもん誰が付けるんだよ!」
 そいつの名は……忘れた。
「カジウ=ローファス」
 ティアラは本当に俺の心を読めるのかもしれない。
 こいつを説明すると本当に面倒なので間単にすると只の馬鹿野郎だ。この学校じゃなかったら卒業どころか入学すらできなかっただろう。素行は最悪だし頭も最悪、せっかくこの学校の権力で入れた職場にも上手く馴染めず辞めた大が付く馬鹿野郎だ。昔からフェルとは仲が悪かったなぁ。って思っているとまた始まったようだ。
「うっせーぞバーカ! さっさと言われたことくらいしろ。」
「んだとこのボケが! お前こそ調子に乗んないで引っ込んでろ!」
「なんだと? やんのかテメェ!」
 こうなると面倒だからいつもの[動物が近くにいるよ作戦]で止めようとしていると突然放送がなった。
「皆さん長い間、なんの説明もなくお待たせしましてまことに申し訳ございませんでした。しかしこの時間のおかげで対処すべき問題点とこれからの皆さんへの支持の方法が決まりました。」
 やっとか、さぁて学校側はどんな指示を出してくるかだな。どうせろくでもない事なんだろうけどさ。
「どんだけ待たせたと思ってるんだ! さっさと出て来い!」
 カウジは全く空気を読めないやつだがここまでだとはな……。
「はい。まず対処する点ですが、この体育館の中には私たちの計画の邪魔になるような人間が数人います、ですのでその人間を排除します」
 どういう事だ? 計画と排除の二つが気になるが……。
「ティエラ、お前はどう思う?」
「分からない、けどいい予感は全くしない」
「だよなぁ……」
フェルはまだカウジとの喧嘩の怒りが冷めないようで喧嘩腰に放送に向かって叫んでる。
「取りあえずあれはマズい気がする、ティエラ! 止めるぞ!」
「うん、その方がいいと思う」
 俺とティエラは怒りの覚めやらないフェルの元へ走った。
「フェル! 今はマズい気がする。俺達と一緒にきてくれ」
「なにがだよ? せっかくこんな状況を作った張本人たちが出てきたんだぞ!」
「とにかく今は何となくいやな予感がするんだ!頼むから今は俺の言うことを聞いてくれ」
 ティエラも黙ってうなずいてくれた。
「……分かったよ」
 フェルはしぶしぶながらも俺たちに付いて来てくれた。
「まずはこちらをご覧下さい」
 巨大なモニターが上から降りてきた。
「国家予算でこいつらはなにをやっているんだか」
 のん気な事を呟いていると映像が流れ出した。そこに映っていたのは……大きなカプセルに入っている人間たちだった。カプセルの中には透明な水のような物が入っており、気泡が見えた。その中には体育館に呼ばれなかった学校の生徒たちがいた。
「レイ!」
ティエラに続いてフェルも叫んだ。
「なっ、何でレイがあんなところに!?」
 俺は訳が分からなくなり声すら出なかった。他の生徒たちの反応もそれぞれだ。叫ぶ者、泣くもの、呆然と立ち尽くす者。様々だ。
「皆さん、この中にいる方々はお分かりでしょう。この学校の生徒たちです。しかしこの度の私たちの計画には不必要でしたので見本となっていただきました。そういう意味では必要な人間だったのかもしれませんね」
 放送の先の人物は笑いながら話している。俺たちにはその笑い声が不快で仕方なかった。
「説明を続けます、この中にいる人たちは死んではいません。今この中には特殊な液体に満たされており、簡単に言えば冬眠状態になっております。なぜこの人間たちを選んだかと言いますとこの者たちは今年の成人の儀への参加権をもっていないからです。つまり今日この体育館に集められた方々はとても幸運な方って事ですよ。」
 全く意味が分からない、これが成人の儀のプレゼントだってのか?ふざけるな、結局は何がしたいんだ!?
「続けます、しかし残念なことに参加権がありながらも私たちの計画に不要な人物がいたのでその方には退場して頂きます」
 放送の男が言い終えると同時に扉が勢いよく開いた。そしてそこからは数人のスーツを着たどう見ても軍隊やレンジャー部隊出身のような身体つきの男たちが入ってきた。
2009-07-01 23:17:01公開 / 作者:ューロ
■この作品の著作権はューロさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
この作品に対する感想 - 昇順
[簡易感想]もう少し細かい描写が欲しかったです。
2009-07-23 20:59:49【☆☆☆☆☆】mimi
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。