『HERO 成』作者:蜆汁 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
SFみたいで違う、リアルのようで違う、リアルSFみたいな作品です。
全角5225.5文字
容量10451 bytes
原稿用紙約13.06枚
『HERO〜ヒーローになる時、Ah〜Ah〜それは今〜』今私はこの前まで務めていた会社の前でこの音楽を聴いている。
 つい先日自分の誕生日に、中学生の娘から送ってもらったipodの中にいれておいた甲斐バンドの「HERO」という曲だ。
 今の無様で未練がましい俺にはまったくといっていいほど響いてこない、ただのBGMだ。
「HEROか…」
 そんなことを思う、確か昨日家で見かけた幼稚園のときの文集に『しょうらいのゆめ いちばんつよいヒーロー』と書いていた。
 そんな夢を忘れて、社会の歯車に入り、営業先のお得意様に頭を下げ、『西森英雄』と書かれた名刺を渡す毎日。
家に帰っては酒を飲んでは、家内に上司の愚痴をこぼす。
 しかし一昨日の朝、たった一言でその日常でさえ崩れてしまった。
その日会社に入った私は突然人事課の佐藤さんに呼び出され、
「君にはこの会社を辞めてほしいんだ。」
と一言。
 あまりの唐突さに言葉を失い目を見開く、その後佐藤は私の営業成績がどうとか、社内での態度とかいろいろなことを持ち出し、そして最後に
「やる気が無いならこの会社に居座るな!」
と声を荒げて言われる。
その日家に帰った私は家内にそのことを打ち明ける、すると家内は
「大丈夫アナタならまだ仕事はあるわよ、だってまだ働き盛りの30代でしょ?」といわれた。
 その言葉に元気を貰い、昨日ハローワークに言って仕事を探してもらう。
 私は柔道3段と少林寺2段という二つの武道を習っていた経歴ゆえか、力が強く。
 前の会社はパソコンを使ったデスクワークもやっていたので、パソコンに表示された『ご希望の条件』と書かれたところに『無し』のボタンを押し、職の検索を行う。
 1件くらいは見つかると思って検索中と表示された、画面を見つめる。すると次に表示された文字は『該当する条件の仕事はございません』と無機質に書かれた文字の列。
 その表示に唖然としていると隣の列からしゃがれた声で
「やった!」
という声がそこに響く。誰かと思い隣を見ると隣の男は服も汚く、髪にもフケが溜まり、手も細く、いかにも失業者というレッテルを社会から貼られたような男だった。
 そこであまりのショックと後ろで待っている人のため足早にそこを出た。
 ハローワークを出てすぐ向かいにコンビニがあったのでそこに入り、冷たい飲み物でも買おうと飲み物コーナーに行こうと歩いていると、ふと視界に変わったタイトルの本が入る。
 気になってそこまで歩いて戻ると、漫画などをおいてあるコーナーに一冊だけ場違いな雰囲気で『完全ヒーローマニュアル〜ヒーローになるときのために〜』と書いてある本がある。
 どんな本かが気になって中身をのぞいてみると、そこには『歴代のヒーローたちから見たヒーローのあり方』と書かれたページが出される。
 少し面白そうだと思いその本を脇に抱えレジに向かう。すると店員がハツラツとした声で
「こちら630円になります!」
 そういわれて自分のポケットを探って財布を出し、お金を探す。するとそこには五百円玉と百円玉一枚しか入っていなかった。そういえば一昨日会社に行く前に家内に小銭を貸してといわれて貸していたのを思い出し、しょうがないので店員に謝って本をコーナーに返しにいこうとする。すると突然後ろから
「あの、」
 と申し訳なさそうな声で、呼ばれるので何かと振り向くと、そこには私より若い、20代の青年が立っていた。
 彼は背中を丸めて申し訳なさそうに
「お金が足りないんでしたら、少しならお貸しできますけど」
といってくる。
 私は「いいです!そんな見ず知らずのアナタにお金を借りるなんて!」
 といったが彼は、
「いいんです!払わせてください」
と半ば強引に私の前にでて、その本を会計している店員さんの前に立ち、財布からすばやく30円を出す。
店員さんは少し戸惑ったがすぐにそのお金を取りレシートを彼に渡し、
「有難うございました!」
とまたもやハツラツとした声で送り出す。彼はその声を聞いた後すぐに私のほうに振り返り、
「どうぞ」
と本を私に差し出す。申し訳なくなって
「ありがとうございます」
と頭を下げると、彼は小声で
「いいんです、実は僕この本を作るのにかかわってまして」
と耳元でささやく、本当かと思い彼に名前を聞くと彼はポケットに入れていた名刺のようなものを取り出し私に出す。そこには『日本ヒーロー研究会 広報部 吉田優』と書いてあった。
 すぐに手元にあった本で確認するとそこには『資料担当/吉田優』と書かれていた。驚いて二つを交互に見つめていると、彼は「この本を買ってくれる人が目の前にいたんでついうれしくなってしまって」
と頭をかきながら私に喋る。
 「では僕はこれで」
と言って、足早にコンビにを出て行く。
 出来事の急さと、驚きでしばらくそこから動けなかったが、とりあえずますますこの本のことが気になり、コンビニの外に出る。
 コンビニから右に曲がり、3分ほど歩いたところにあった公園についてその本を開いてよんでいく。中身には歴代ヒーローの写真、実際にいたヒーロー、ヒーローの正義、逆に悪の組織のことなど様々かいており、意外と面白かった。
そして最後のページをめくるとそこには『ヒーローチェックシート』と書かれた紙が入っていた。そこにはよくあるアンケートを取る紙のように小さい四角がたくさんありその横に質問が書いてあった。
 まずはじめの質問は『Q1今の髪型は似合っていますか?』と言う質問だった。今の私の髪型は短めのスポーツカットのようなもので、体格の良い私は部下から「西森さんその髪型に会いますね!」とよく言われたのでそこにチェックマークを入れた。
 次からの質問もそのようなものばかりで全部に正しく答えを入れていった。
 そして最後の質問になった。『Q30アナタはヒーローになりたいですか』と言う質問だった。そこに私は迷わずチェックを入れた。さらに下を読むとこれは葉書になっているらしく、出すと何か商品をもらえるらしいので、私はすぐに住所と名前を書き、社員だったころにいつも持ち歩いていたセットの中から葉書を取り出し、舌でなめてそこに貼り付ける。
 幸いさっきのコンビニにポストがあったのでそこにいれに行く。何か当たったらオークションにでも出そうと思いポストのふたを押し上げて、葉書を入れる。
 社員の時代には忙しくてこんなことしていられなかった、と思い顔を上げて少し笑う。ポケットに入った携帯を出すともう6時になると表示されていた。まだまだ明るい夕焼けを見て
「これから暑くなるな」
と誰かに向けて話しかける。無論返しはこない、6時となるとそろそろ娘が部活から帰ってくるころだと思い、今日は何かうまいものでも作ってやろうかと思う。職が無いのだ、せめて食は潤したい。そんな駄洒落のようなことを思いながら家への道を急いだ 

 これが昨日までの話しだ。今私がこの会社の前にいるのは、荷物を取りに来たからだ、会社おいてきたものの中にはプライベートのものもあるので近日中に取りに来いと言われていたので取りに来た。するとそこにはダンボール人は子にまとめられた私の荷物があった、ついこの前まで酒を飲み明かしていた、部下たちが邪魔なものを見る目で私と私の荷物を見ていた。
 こんなシーンはドラマの中だけだと思っていたが、実際にもあった。そのダンボールをもって会社のエレベーターを降りる、途中で私のことを見た何人かが気の毒そうな目線をこっちに向けてきた。
 仕方ない。これが失業したものの末路だと思いエレベーターを降り、出口へと向かう。後ろにいる受付の女の子がなにやらこそこそ話をしている。きっと私の首についてのことだろうと思い、そのまま聞こえないようになるべく早く出口をでた。
 そして私は外のベンチでipodを聞きながらタクシーを待っている。悲観するのも飽きて、昨日の懸賞のことを考える何日くらいかかるのだろうかと考えていたらタクシーが止まりドアが開く。中に入ると運転手が場所を聞いてきたので、自分のうちの近くの大型ショッピングセンターを答えると、分かったのかすぐに向かった。
 出発してすぐ運転手が
「その歌『HERO』って曲でしょ」と聞いてきたので。
「正解です、この歌好きなんですよ」と言う。すると運転手が
「でもその曲の歌詞で『ヒーローになる時それは今』って歌詞ありますよね?ヒーローになるっていつなんでしょうね」
と聞いてきたので私はふざけた口調で
「今かもしれませんよ」
といってみると運転手はおおぐちを空けて大笑いした。
 それからすぐに目的地に着いた、運転手にお金を渡し、お礼を言うと私はすぐに家に向かって歩き出した。
手に持ったダンボールの重みは、私が会社にいた5年間の重みか、それとも今までやってきたことの重みかなんて、詩人のようなことを思ってしまい、自分で恥ずかしくなる。
 家に着くとカレーのにおいがすぐに香ってくる。家内が作るカレーは本格的でいつもうまい。そう考えていると、不意に家内が
「あなた、そういえば家に小包がとどいていたわよ」
と言われる、何も頼んだ覚えが無いと思ったが、昨日出した懸賞のことを思い出す。いくらなんでも早過ぎないか?とも思ったが、あの本自体、買っている人が少なさそうで、まして自分の家はその本社のすぐ近くだったので、ありえるかもしれないと思い。家内にどこにおいてあるのかたずねた。
 自分の部屋に置いたと言うので二回の部屋に上る。そこには走り書きで『西森様』と宛名が書いてあり、ガムテープでくるんである細長いダンボールがあった。中が何か気になり、ガムテープを取ってみると、そこにはフルフェイスのヘルメットを尖らせたような両側に突起が出ていて目の部分にヨーロッパの騎士のカブトのような格子型の物がついていいる。ヘルメットとひじや胴などにプロテクターがついたスーツのようなものと真ん中に『GH』というバックルがついたベルトが入っていた。
 それをみて、私は確かにと思った。ヒーローのスーツが懸賞なんて、なかなか珍しい。意外と面白いと思い記念に撮っておくか、と思ったときはこの下にまだ何かがあるのが分かった、そこに貼り付けてあるものを見るとそれは何かのドリンクで、隣に吉田と書かれた手紙があった。そこには『西森さんへ、アナタが落とした名刺にそう書いてあったので同じ名前の人を探しました。あなたの葉書に書いてあったことがとてもヒーローに向いていたのでこのドリンクを送ります。でもこれを飲んだら、普通の人に戻れないと言うことを覚悟して飲んでください。 吉田』と書いてあった。
ヒーロー研究会とやらはこんなユカイなサプライズをしてくれるのかと思った。
 まるでこれでは漫画のヒーロー誕生のようだった。しかもそのヒーローに選ばれたのは36の無職のオッサンだとは面白い話だ。しばらく前に、史上最高齢ライダーとか行っていたが、もしこれでヒーローになったら、二番目かな、と思い、そのドリンクのふたを開け一気飲みする。味は酸味が利いた味で飲んだ後は甘いものが食べたくなった。
 下に下りると娘と家内がいすに座っていた。娘は不満そうな顔で
「お父さん、早く食べようよ」と言い家内も
「そうよアナタ早く食べましょう、さめちゃいますよ」
と言われ
「ごめんごめん」と謝りながらいすに座った。その日食べたカレーはいつもどおりうまく、スパイスが効いていた。
 その後風呂に入り、寝ようと思いベッドに入ろうと思ったが、夜風に当たりたいと思い外を散歩しに行った。家の近くに木が生えた公園があったのでそこに行く、さすがに夜中なので誰もいなくなっていた。
 昔、学生のころはよく大会の前にここで練習したな、と思い近くの木の前に立ちあのときのことを思い出す。突きのほうがいまいちだった自分は演舞(少林寺で技をみせて採点してもらうもの)で突きが甘く、一晩中ここで練習したこともあった。そのことを思いだし、木に向かって全力で突きを繰り出す。
 瞬間、目の前の木が一瞬にして爆ぜた。爆発したのではなく、私が殴った部分から上が一気に木片に変わって散らばったのである。漫画などで、木を殴っときに砕け散るシーン、アレがまさに当てはまるような情景だった。
 しばらく突きをしたままの姿勢で止まったあと、私は恐ろしくなってすぐ家に帰り、布団に包まった。家内は私が家に入るなり、
「あなた、木の臭いがするわよ」と言われた。
2009-06-13 16:38:12公開 / 作者:蜆汁
■この作品の著作権は蜆汁さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めてです。
まだまだビギナーなので
直すべきところなど教えてください
この作品に対する感想 - 昇順
 拝読しました。まるで、物語の序章のようなワンシーンだと思いました。
 うーん、文章は読みやすかったですが、コレはショートよりも長編として練り上げたほうが面白いかもしれません。常人がヒーローとして目覚めたことによる苦悩、社会の無理解や暖かな理解者。日々遅い来る怪獣!! というストーリーが妄想できます。ただ、これだけですと何とも言いがたいかな。面白いんですけど、これから先は無いの? と尋ねたくなりました。
2009-06-21 21:41:24【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
有難うございます。
先は後から書こうとおもっていたんですが、何もレスが無いのでやめようとおもっていて今日見たら、この投稿があったので、先を投稿したいと思います。
2009-07-17 23:43:30【☆☆☆☆☆】蜆汁
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。