『鏡に映る二人の彼女(一章まで)』作者:桜雪  / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
一般人が拳銃の所持を許された日本。そこは犯罪の横行する国になっていた。警察という公共機関だけでは犯罪を取り締まれなくなった日本は新たな公共機関を作ることにする。その名前は――『戦闘生』。高等学校以上の特別な学生を警察以上に犯罪者を取り締まる権限を与えた日本はやがてバランスを保つようになっていく。そして、今年もまた、戦闘生になる為に一人の青年が歩き始める。
全角19854.5文字
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 プロローグ

 バァンと銃声が空に向かって響いた。
 街中で起こった突然の銃声は周りの音を書き消して人々の耳に焼きついた。目の前には腹部から血を流して人がゆっくりと地面に崩れる。その光景を瞳に映したまま俺は動けなくなっていた。
 拳銃を持った中年の男性がその場にいる人々に次々と銃を発砲する。悲鳴と逃げ出す人の足音でその場は大騒ぎになる。
 数分前まで中学の友達と買い物を楽しんでいただけの日常が、一瞬で非日常へ変わってしまった。そう、これが今の日本。一般人の拳銃許可を認証した日本のごくありふれた光景だった。
 一般人の拳銃の所持を許可した日本は銃による犯罪が激増し、このような街中での発砲など日常茶飯事になっていた。
 その場に残った人間はほんのわずか、俺のように動けなくなった人。同じく、拳銃を持ち対抗しようとする人。
 だが、たかが一般人が拳銃を持っていたとしてもその効果は持つ人間によって左右される。銃を構えて反撃しようとする人々は、皆銃を持つ手が震えていた。
 持っている銃は人を殺せる道具。人差し指をほんの少し動かすだけで人を殺せる凶器なのだ。人を撃つ為にはそれを意識する強い意志が必要になる。その為、護身用の為などという考えで銃を持っている人間に人を撃つ覚悟などあるはずが無かった。
 それに対して、銃を発砲して人を殺した殺人犯には人を撃つという躊躇いなど一切ない。反撃しようと銃を構える人達を簡単に撃ち倒すと、その標的は無抵抗の自分達へと向かう事になった。
 殺人犯は銃のマガジンを変えて、俺に対して銃を構える。
 もう駄目だと思った。腰は抜けて立ち上がる事すら出来ない俺に対し、殺人犯は邪悪な笑みを見せる。目を硬く閉じて、自分が死ぬ事を覚悟した。
 少しの間をおいて、バァンと銃声が響く。
 しかし、俺の体には何の変化も無かった。硬く瞑った目を開け、殺人犯を見上げた。しかし、そこには手から血を流してもがいている殺人犯の姿があった。
 俺はゆっくりと銃声の響いた方向を見る。そこには、漆黒の学ランに銀の腕章をつけた俺より数歳年上の青年がいた。
 それが、間近で初めて見た――『戦闘生』だった。

                    *

 事件から二年後……。
 俺はとある高校に入学する事になった。いや、なったと言うのは違う。自分から望んでこの学校を選んだ。
 『私立戦闘高等学校』。
 銃犯罪が増える日本が対策としてとった警察に変わる対犯罪要員、『戦闘生』。ある一定水準を満たす学生を警察と同等。いや、それ以上に犯罪に対して対抗できるように武装を許可された存在。
 その戦闘生を教育するのが、この私立戦闘高等学校。通称『戦高』だ。
 俺は二年前に体験したあの事件以来、助けられた戦闘生に憧れた。自分も将来あのように格好良くなり、社会に貢献したいと考えるようになったのだ。あの時助けてくれた戦闘生のように、俺も犯罪を食い止めて助けた相手に名前を聞かれて格好よく答えるんだ。
「俺の名前は戦闘生の双鉄(そうてつ) 修也(しゅうや)だ!」と。
 その為の始まりがこの学校なんだ。
入学するまでには多くの試練が待っていた。拳銃の使い方や、戦闘術を学ばなければいけなかったからだ。入学の条件の中には『ある一定の戦闘ができる者』と明記されている。何しろ、入学試験からしてすでに戦闘能力を必要とする試験があるんだ。
 そう考えると、たった二年間で素人以下だった俺がこの学校に入学できたのは、血のにじむ努力の結晶だと言える。
 何しろ、あの事件以来。毎日シューティングレンジに通い、空手や合気道など体術の習い事も取り組んで頑張ったのだ。それは今までの貧弱な俺には相当きついものだった。しかし、俺はそんな苦難にも立ち向かい今、この学校の前に立っているんだ。
 今の俺は銀色の腕章こそしていないけれど、あの戦闘生と同じ学ランを着ているんだ。それですら、俺は感動極まりない心持ちでいる。
 そうだ、ここから俺の戦闘生の第一歩が始まるんだ!
 高まる胸の鼓動を抑えて、俺は校門を踏み越えた。
 まずはクラス割りを見なければいけない。入学試験での成績によってクラスはS、A、B、C、Dと五段階に分かれている。勿論、一番成績のいいクラスはSだ。しかし、俺の実力ではそこまで達していないだろ。
 人だかりの出来ているクラス表をどのクラスから見ようかと考えた俺は、無難なBクラスから見ていく事にした。
 しかし、Bクラスの中には俺の名前は無かった。そうなると、可能性は平均より上か下かのどちらかしかないと言う事になる。
 まず、最悪の可能性を考えてDクラスから見ていく事にした。ずらりと並んだ名前の中から双鉄の文字を探していく。しかし、何とか最悪の結果は避けられDクラスには俺の名前は無かった。俺は名前が無かった事にほっとする。
 だが、そうなると残ったのはCクラスかSとAクラスのどれかになる。こうなると、絶対にありえないと思うがSクラスに名前があるなどという淡い期待が浮かんでくる。その為、次はSクラスを見てみる事にした。
 俺はちょっとの期待を胸にSクラスの名簿を眺めていく。だが、やっぱり俺の名前は無かった……。
 期待通りの現実に軽くため息をつきながら、残った二つのクラスを見る事にする。残りはAとC。どちらかになるかによって結構な成績の違いが出てくるので、先ほどよりも逆に緊張が高まる。
 内心ビビリな俺は先にCクラスから見る事にした。今度は自分の名前がある可能性が高い。何しろ自分ではそんなに成績はいいとは思っていないからな。
 俺は今度こそ、自分の名前がある事を覚悟してCクラスの名簿を見る。しかし、二回ほど見直したが俺の名前はCクラスには載っていなかった。
って事は……。
 俺は最後に残ったAクラスの名簿を見る。興奮を抑えられないように名簿を素早い速度で見ると確かにそこには双鉄 修也と書かれていた。
 俺は人ごみの中で一人ガッツポーズをとる。まさか、Aクラスに入れるなんて思っていなかったから、嬉しさは何倍にも増していた。仮にAクラスのビリでもだ!
 俺は思っても見なかった事に喜んだ。これは中々幸先が良さそうだ。そう思いながら、クラス割りの前から離れようとする。しかし、目の前に何か目立つ頭を見つけた。
 染めているのかは分からないが、茶髪の小さい女子がぴょこぴょこ跳ねて人だかりからクラス名簿を見ようとしていた。身長は百五十センチくらいか? 目の前にたむろっている人達が邪魔でクラス名簿が見られないんだろう。
 あまりに必死に飛び跳ねて名簿を見ようとしている女子に少しだけ同情した俺は、これも人助けだと思って声を掛ける事にした。
「ねぇ、そこの茶髪の君。代わりに名簿見てあげようか?」
 俺の声に反応した彼女は、一旦飛び跳ねるのを止めてこちらを向いてきた。そこで俺は驚いた。こちらを向いた茶髪の子は眼鏡をかけていたが、かなりの美少女だったのだ!
 髪と同じで茶色の目をした彼女の顔立ちは、目を中心にすべての顔のパーツが小さく整っていた。肌の色も白く透き通っていて綺麗だったし、髪はセミロングでサラサラとセーラー服の襟を流れていた。
「あのぅ……、良いんですか? そんなお手間を掛けさせて……」
「う、うん。そっ、そのくらい大した事じゃないから。えっと名前は?」
 思っても見なかった出会いに落ち着き始めていた鼓動がまたも高ぶっていく。声を掛けたのは俺なのに返事が変になってしまい、少し恥ずかしかった。
「えっと、私の名前は風(かざ)切(ぎり) 鏡(かがみ)って言います」
「風切さんね。ちょっと待ってて」
 そう言って名簿を見ようとする。俺の横では風切さんがほっと息をついていた。多分ずっと前から名簿を見ようとしていたんだろう。背が低いって大変なんだなぁ。
 しかし、風切なんて珍しい苗字だと思った。これなら、そんなに注意して名簿を見なくても簡単に見つけられそうだな。
 俺はとりあえず、一番端のSクラスから名簿を見直していこうと思った。しかし、ふとお玉をよぎったのは俺のクラス、Aクラスの名簿だった。さっき見ていた時に風切なんて苗字があったかも。
 全クラスの名簿を見ていた俺は、そんな事を思った。自分の記憶を頼りに、もう一度Aクラスの名簿を見てみる。上から見下ろしていくと、思った通りに風切 鏡という表記が合った。
 間違いが無い事を確認すると、俺は風切さんにその事を報告する。
「風切さんは俺と同じAクラスみたいだよ」
「えっ、Aクラスですか? 間違いなく……?」
「うん、だって風切なんて珍しい苗字だし、名前も合ってるよ」
「そっ、そうですか〜。Aクラスですか……」
 もじもじと嬉しそう笑っている風切さんを見て俺は微かに微笑む。笑っている顔が凄い可愛かったからだ。眼福っと。
「これもなんかの縁だね。それじゃ、また入学式の後にクラスで」
「あ、はい! ありがとうございました。あの、また後で……」
 そう言って俺らは別れた。風切さんか仲良くなれるといいな……。
 そんな入学式前の二つのサプライズに、俺はより一層学校での生活が楽しみになっていた。好成績のクラスに入れて、しかも可愛い女の子とも知り合えた。こんな事があったら誰だって浮かれるだろう。
 だけど、それは普通の学校だったらの話だった。
だってこの学校は、普通じゃないのだから……。







 第一話

 入学式も終わり、俺達生徒はそれぞれのクラスへ向かう事になった。退屈だった入学式だったが、そこで思わぬ友達が出来ていた。
「いや〜、マジかったるかった〜。もう途中から完璧寝てたぜ」
「退屈なのは分かるけど、よく寝れるよな……」
 今俺の横で大あくびをしながら歩いているのは柳原(やなぎはら) 健太(けんた)。
 席が俺の隣だった為話しかけてきた奴なんだが、意気投合して今のようにすっかり友達になっている。ちなみにこいつもAクラスだ。
話のきっかけなんだがちょっと世間ズレしている。俺の使っている銃はベレッタ社の作っている銃『M92FS』なんだが、柳原が使っている銃もベレッタ社の『M93R』と言う同じ会社の物だ。
 ちなみに今言ったベレッタというのは、その銃を作っている会社の名前だ。そんでもって、俺が使っている銃は戦闘用に適した軍や警察が使うような中型の拳銃だ。
 それで、彼が使っているのはその拳銃をもっと戦闘用に特化させた銃だ。本来なら拳銃は単発でしか発砲できないが、なんと彼の銃は特殊な機構を組み入れており、三連射出来るのだ。
 話は戻るが、偶々俺が座る時ベレッタが見えたらしく、それで声を掛けたくなったらしい。その後、俺らはベレッタ社の銃を絶賛しあい意気投合したのだ。
 人見知りの俺なんだが、こいつは気さくな奴で何でもかんでも面白おかしく話してくれる。俺も気兼ねなく話せる事が出来て楽しかった。同じクラスで友達が出来て本当によかったと思っている。
「Aクラスにどんな奴らがいるんだろうな? 俺としてはお前みたいな明るい奴や、可愛い女の子がいるといいんだけどな〜」
 柳原の言葉を聞いて、風切さんの事を思い出す。クラスが同じなのだから、この後会うことが出来るんだ。そう思うとなんだか楽しみになってきた。
「一人だけど、凄い可愛い子がいるよ。クラス割りの時に会ったんだけど、背が低くて茶髪の可愛い子」
「マジで! ってかお前も目が抜けないな〜。すでに目ぼしい子にマークをつけてるなんて……」
「いや、別にそういう目的で話かけたんじゃないんだけどね。偶々だよ」
 誤解を解くように説明する俺に対し、柳原はしつこく追求をしてきていた。まぁ、俺も話しかけるまでは本当にただの親切心から声を掛けたんだが、まさかあそこまでの美少女だとは思わないもんだ。
 その後は、まぁ、ちょっと下心が出たんだけどね……。
 そんなふうに話しながら歩いていると、後ろから走る音が聞こえてきた。俺は最初、気にせずに歩いていたんだが、それは俺らの方へ向かっているものだと感じた時、その方向へ振り向いていた。
 しかし、振り向いた時にはすでに行動が起きた後だった。
 横にいた柳原が何者かの蹴りを食らって数メートル先まで吹っ飛んでいた。俺はその光景に驚いたが、それだけでは終わらなかった。
 柳原がいた場所には、女の子が立っていた。見事な飛び横蹴りを決めた彼女は蹴りを出した体制のまま柳原を睨んでいた。しかし、そんな乱暴な行為をした彼女だが、その見た目はまたしても美少女と言っていいほどの可愛い子だった。
 幼い容姿だが、しっかりとした大きい瞳の彼女は風切さんとは別の意味で整った顔立ちをしていた。長い髪をツインテールにした彼女はゆっくりと蹴りだした足を下ろし、その場に仁王立ちをする。
「ちょっと! 健太! 入学式が終わったら迎えに来なさいって言ったのを忘れたの!」
 悶絶している柳原に対し彼女はそう告げる。どうやら、この二人は知り合いのようだ。
「ったく、あんたは本当に使えないわね。さっさと立ち上がりなさいよ。どうせそんなに効いてないでしょ!」
 いや、どう見ても真面目に苦しんでいるように見えるんだが……。
 そんな悠長に二人を見ていると、今度は彼女の怒りの矛先が俺に向いてきた。ジト目で顔を睨まれている。
「あんた、健太と話していたけど、知り合い?」
「あぁ、さっきの入学式で友達になったんだ。名前は――」
「名前は双鉄。今日から俺の親友だ!」
 名前を言おうとした瞬間にそれを柳原に取られた。っていうか何時の間に回復して来たんだ?
「あぁ、また健太のところかまわない性格の犠牲者ね、ふーん。ねぇ、双鉄君って何組?」
「Aクラスだけど……。君は?」
「えっ! そんなふうに見えなかった……。見かけでは判断できないわね〜。あっ、ちなみにあたしもAクラスよ。名前は神田(かんだ) 恭子(きょうこ)。よろしくね!」
「ちなみにこいつは俺の幼馴染みな。暴力的だから気をつけろよ! ぐふっ」
 補足説明を入れると共に今度は鳩尾に掌底が入れられた。どうやら、性格は率直で言葉も言動も素直に出るタイプみたいだ。
 俺の方からもよろしくと挨拶すると、柳原と同じく気軽に話しかけてきた。どうやら、癖は強いけど本当に楽しい学校生活になりそうだと思える。
 悶絶する柳原に手を貸しながら俺達はAクラスに向かっていった。

                    *

 本校舎に着いた俺らは真っ直ぐ一年生のフロアに向かった。八階建ての本校舎は様々な目的のフロアがあり、広かった。
 一年Aクラスと書かれたプレートのある教室に俺達は揃って入った。教室の中ではすでに何組かのグループが出来ていたり、一人で席に座っていたりする奴がいた。
 俺達も空いていた席に固まって座る。柳原と京子ちゃんが横隣になり、俺が柳原の後ろに座るって感じだ。席に付いた俺はここまで来る間に馴染んだ恭子ちゃんともしっかり話すようになっていた。
「へぇ、それじゃあ修也は二年間でそこまで強くなれたんだ! すごーい!」
「そんな事無いよ。Aクラスに入れたのだってきっと成績でいったらビリに近いほうだと思うから」
「まっ、それでもAクラスに入ったんだからいいじゃねぇか! 俺は修也がどんな技量を見せてくれるのか楽しみだぜ!」
 何時までも明るく話す二人は話の流れを止める事をせず、和気藹々と語りかけてきていた。今までの話では、お互いの技量がどのくらいかと言う話に流れていっていた。
 二人は俺が二年間でAクラスに入れた事を物凄く褒めていたが、二人の経歴を聞いていたらそんなものは俺の中ではお世辞でしかない事が分かった。
 何でも二人は幼い頃から武術を習い、家の風習で戦闘生になる事がずっと昔から決まっていたらしい。その為、二人は武術一般など俺のはるか上の技量を持っている事が分かった。しかし、銃の所持許可は十二歳(中学生)からであり、シューティングレンジに入れるのは十歳からだ。
 その為、武術では好成績を出したが銃技の方では成績がいまいちだったらしい。恐らくはそのせいでAクラス入りになったんだと二人は言っていた。もし授業でこの二人と体術で戦う時には負ける事を覚悟したほうがいいな……。
 そんな事を思いながら話していると、背後から呟くような感じで声を掛けられた。俺は誰かと思い、後ろを振り向くとそこにはクラス割りの時に出会った風切さんが立っていた。
「あ! 風切さん。良かった! また会えたね。入学式には間に合った?」
「あっ、あのさっきはどうもありがとうございました。おかげ様で、入学式にも間に合いました」
「そっか、それは良かった!」
 俺がそう言うと、風切さんは微かに微笑んでくれた。その後、少しもじもじと悩んだようにしていると何故か恥ずかしがりながらもう一度話しかけてきた。
「あのっ、それで、あなたの名前を聞いていなかったので教えて貰えると嬉しいんですけど……」
「あぁ、そういえばこっちは聞いたのに名乗ってなかったね。ごめん。俺の名前は双鉄 修也。よろしくね!」
「はい! よろしくお願いします。えっと……」
「修也で良いよ、気楽に呼んで」
「あっ……。はい! 修也さん! 私の事も、鏡でいいですよ。風切って言いにくいですから」
 おっ、笑った。やっぱり再度思うけど風――じゃない、鏡さんって可愛いよな。
そんな風に俺が楽しそうに風切さんと話していると、急に後ろから首を腕でホールドされた。後ろに引っ張られて柳原と恭子ちゃんに問い詰められる。
 変な体勢になって首が苦しい……。
「おいっ、修也! この娘誰だよ! すっげー可愛いじゃん! 俺にも紹介しろよ!」
「本当だよ、悔しいけどあたしも可愛いと思っちゃった……。んで、この人誰?」
 ホールドされていた腕を外しながら、俺は息を整え両者の仲介者になる。
「えっと、彼女は風切 鏡さん。クラス割りの時に偶々出会ったんだ。ほら、さっき柳原には話しただろ? クラスに可愛い娘がいるって」
 二人にそう言うと、今度は鏡さんの方を向いて紹介をする。
「鏡さん。この二人は入学式の時に友達になったんだ」
「初めまして〜。神田 恭子って言います。よろしくね〜!」
「柳原 健太だ。これから是非、ディープな関係になっていければいいと思っています」
「風切 鏡です。これからよろしくお願いします!」
 ひとしきり自己紹介が終わったところで、鏡さんが京子ちゃんの後ろに座る。男二人、女二人でいい感じのグループが出来たように思える。柳原はいい奴だし、京子ちゃんも鏡さんも美少女だし、これは嬉しい。
 会話に鏡さんも混じり、俺達のグループはさらに活気づいた。話していて鏡さんはちょこっと人見知りな面もある事など分かり、話は大いに盛り上がった。
 しかし、お喋りの時間もそう長くはなかった。クラスに多くの人が入り、席が埋まり始めた時、教室の中に白衣ならぬ黒衣を纏った女性が入ってきた。
 その瞬間、賑わっていた教室が一瞬にして静寂に包まれた。どうしてそうなったかと言うのは服装も派手ながら、その女性の態度と目つきがやばかった……。
 どうやばいって? それはもう何かヤっちゃってるんじゃないかって感じの虚ろな目つきだよ!
 黒衣に包まれた女性はそのまま淡々と教団に上がり、教室内をぐるりと舐めるように見渡す。二回ほど教室を見渡した女性はニヤリと笑う。またその笑い顔も怖かった。
 女性はそのまま後ろを振り向き、黒板に名前を書き始める。その時点でクラスのみんなもようやく、女性がこのクラスの担任教諭なのだと気付いて慌しく席に着き始める。
 黒板に名前を書き終わった女性は、もう一度振り向いてからようやく話し始めた。
「初めまして。このAクラスを担当する事になった、瀬川(せがわ) 奈津子(なつこ)だ。毎度毎度Sクラスを担当していたんだが、今年はAクラスに面白そうな奴が多くてな、無理して変わってもらったんだよ。だから、たっぷり可愛がってやるから楽しみにしとけよ、くっくっくっ」
 自己紹介が終わるとクラスにざわめきが訪れる。それもそうだろう。今年一年、あるいは在校中ずっとお世話になるかも知れない先生が、このような不気味でサドっ気のある人ならば不安を持つ。
 正直、俺も現在引いている真っ最中だ……。
「おーい、黙れ! とりあえず、最初は担任としての業務をこなすつもりだから安心しろよ。まぁ、暇になったら私の自由にさせてもらうけどねぇ。と、言う訳でこれからの行動予定を言うぞ〜」
 話の節々に不安な要素が入る先生だが、ようやくまともに話しを始めた。初日から数日間は生徒の実力を測るテストや測定が主に入っているらしい。身体測定など、まともなものもあるが、中には射撃精度測定やパンチ力テストなど一風変わったテストなども見られた。
 数日間の行動予定を話し終わった瀬川先生は大きくため息をつく。これで話が終わったんだろう。相当疲れているように見えた。
「あ〜、今日はSクラスの後に身体測定からだから、係りの奴が来るまで教室で待機だ。そうだな……。その間に自己紹介でもしてもらうかぁ。ある程度のパーソナルデータを発表しろ、詳しくは言わなくていいからさぁ」
 そんな軽い感じで自己紹介が始まった。クラスの端に座っていた人から順番にどんどん異湖紹介をしていく。みんな対抗心を燃やしているのか名前や出身校など大した事の無い情報は言うが、自分の使用している銃や格闘術については喋る人は少なかった。
 だけど、そんな中一人の男子がその状況をひっくり返した。
「名前は高野(たかの) 零(れい)。使用銃はFN社の『Five(ファイブ)‐seveN(セブン)』。その他の武器はダガーナイフ。格闘技は様々なものをやっている。入学試験では良い結果を出せずAクラスになってしまったが、来年のクラス替えの時には必ずSクラスに入る。以上だ」
 と、言うふうにクラスに対して面と向かって言い切った彼は今までの自己紹介の空気を一変してしまった。
 って言うか、珍しい銃を使っているな。彼が使っているのはFN社が作った銃なんだが、この銃は他の銃の銃弾との互換性がなく、専用の銃弾を必要とする面倒な銃だ。しかし、そのおかげで拳銃の中では少ない装弾数がもっとも多い銃の一つだ。
 長い髪を後ろで一本に括った彼は淡々とした顔でそう言って着席した。体は細身だが、彼が言った通りなら外見など関係なく強いのだろう。
 あんな自信満々に言われたらさすがに嘘だとは思えないもんな……。
 そんな訳で一躍クラスの注目を集めた彼だったが、それに対抗したのかどうか分からないが次の自己紹介をした女子も同じくらい胸を張って自己紹介を始めた。
「黒川(くろかわ) 優(ゆう)姫(き)。銃は『SIG(シグ) SAUER(ザウエル) P230』。あと、バタフライ・ナイフと飛針を使う。それと、私も来年はSクラスだ」
 こちらも自信満々に喋っていたが、性格の問題なのか少し冷淡というか静かな物言いだった。しかし、彼女自身の容姿が目立っていたのでそれがフォローを入れてくれた。彼女もまた美少女と言うに相応しい容姿をしていた。
 いや、どっちかって言うと彼女は美人の方に入るのかもしれない。長く艶のある黒髪を片手で払う仕草は大人びた印象を与えていた。
 ちなみに彼女が使っている銃は女性に人気がある小型の拳銃だ。小さい分装弾数が少ないが、携帯性は抜群の一品だ。
 そんな風に一時的に盛り上がった自己紹介だったが、さすがにそうそうあんな自己紹介を続ける人は居なかった。俺達も軽く名前と使用銃を言う程度で簡単に済ませた。
 そんな感じでクラス全員が自己紹介を終えた後、十数分してから係りの人がやって来た。男女に分かれて身体測定に向かう。その後は、簡単な身体測定が続いてもう一度教室に再集合と言う事だった。
 身体測定は特に問題は無かった。そして、変化もあまり無かった。まぁ、身長も一応男子の平均値があるからこれ以上伸びなくてもいいんだけどね。
 順調に進んだ身体測定はすぐに終わり、俺達は早々に教室に戻る事になった。教室にはまだ女子の姿は無かった。男よりもいろいろやる事などがあるんだろう。それにこういうことは女子の方が遅いって分かってるし。
 そんな訳で、今は身体測定の早く終わった男子から教室に戻ってきているのだった。教室の片隅では瀬川先生が相変わらず、虚ろな目でクラスの人間を見渡していた。そんな視線を受けながらも、俺と柳原は席に戻って雑談に戻るのだった。
「普通の身体測定だけだと何か普通の学校に通っているみたいに感じるよね。何か拍子抜けって感じ」
「確かにな〜。こんな感じだとただの高校生って感じだぜ。着ている学ランは防弾防刃仕様なのにな」
 そう、ここはあくまで戦闘生を育てる為の学校なのだ。普通の学校みたいに勉強してテストして終わりという簡単なものじゃない。この学校生活すら危険な要素を含んだ特殊なものなのだ。その為に、俺らの着ている制服も防弾と防刃仕様の両方の性能を持つ特殊な制服である。
「あ〜、早く授業でみんなの腕がどれぐらいなのか見てみたいぜ。特に、今回は先生の言う通りに面白そうな奴らがいそうだしな!」
「あははっ、でも俺は逆に不安だなぁ。何かみんなの腕を見たら逆にプレッシャーになる予感がするよ」
「何言ってんだよ。ベレッタ二丁は飾りじゃないんだろ! だったら、十分凄いじゃねぇか! 俺は二丁拳銃なんかぜってー出来ないって自信あるぜ」
「まぁ、それが唯一の特技だからね。それが駄目だったら本当に自信無くすよ」
 そんな感じの話をその後、ずっと続けていた。そのうち、ちらほらと女子も帰って来た。鏡さんと恭子ちゃんも帰って来た。
 しかし、恭子ちゃんの表情は行ってくる前とは大違いだった。恭子ちゃんはこの世の終わりが来たような顔でいる。何となくは予想できたが、それを俺は言わないでおいた。
 だが、柳原はそんな事もお構いなしに恭子ちゃんへと言葉の矢を投げていく。
「なんだ、恭子暗い顔して。どうせあれだろ、大方どこも成長してない割りにはいらない場所が増えてたり、鏡ちゃんとの差に愕然としたりしてたんだろ〜」
「あぅっ!」
 あっ、クリーンヒット。
「もう期待すんのは止めとけって。お前の体格は遺伝だよ、おばさんにそっくりじゃないか」
「おっ、おい。柳原……」
 心の中では柳原と同じく二人のボディーラインの事を比較していた俺だったが、余りにはっきりと言葉に出してそれを本人に言う柳原に声を掛けて静止しようとしていた。
 柳原の言葉にプルプルと震えていた恭子ちゃんだったが、その後ろにはなんとも言えぬオーラが漂い始める。俺はこの後起きるであろう事態に柳原から少しずつ距離を取る。
「もう高校生なんだし、成長時期ももうそろそろ終わりだろ? いいじゃないか! 今は貧乳だって貴重な人材っ――」
 柳原が言い終わるまでに恭子ちゃんの怒りは爆発した。素早い速度で柳原に接近し、首元を掴んであごに掌底を入れる。そして、がら空きになった懐に対して容赦ない横蹴りを入れた。
 教室の後ろまで吹っ飛んだ柳原は満足したような穏やかな表情でくたばった。
 お前が悪いんだぞ〜。俺は一応声を掛けたからな……。
「そこでくたばってなさい! この大馬鹿健太!」
 すっかり機嫌を損なった恭子ちゃんは席にドンと座ると頬杖を付いて怒っていた。俺は柳原に対し、心の中で南無阿弥陀仏と言うと恭子ちゃんの機嫌を直すように身体測定以外の話を切り出して会話を始めたのだった。
 数分後、回復した柳原を含めてまた談笑にふける俺達だったが、女子は固まって帰ってきたのでそんなに話している時間はなかった。
「よーし、それじゃ身体測定一日目は終了だ。今日の時間は午前中しかないが明日からは午後もあるのでそこんとこ注意するように、うちの購買は競争率が凄いからなぁ。新入生は食パンが食べられれば良い方じゃないかってくらいだ。つまり、弁当を忘れんなって事だ。んじゃ、今日は解散。また明日な〜」
 そう言うと瀬川先生はさっさと教室を出て行ってしまった。しかし、順応性になれたクラスメイト達もすぐさま変える準備をし始めた。
 俺達も帰り支度をして早めに帰る事にした。別れ際に携帯電話の番号とアドレスを交換した俺達は校門からそれぞれの家に帰っていった。
 何もかも順調な出だしに俺は喜んでいた。良い友達が一気に三人も出来て、学校生活に潤いが出来た。それが何よりも、今日の収穫だったと思う。明日から始まる本格的な身体測定に備えて俺は期待を持って明日が来るのを楽しみにしていた。
 あぁ、高校って楽しい!

                    *

 翌日――。
 寝起きも良く起きられた俺は意気揚々として学校へ行く仕度をする。俺は実家から学校へ通っているのではなく、戦闘高校の紹介している学生用アパートに住んでいる。
 一部屋で八畳くらいの広さの部屋だが、トイレ、風呂、キッチンのついた結構快適なアパートだ。
 一人暮らしをするのは少しながら不安があったが、戦闘生になる為にはこれくらいの試練を乗り越えられないでどうするんだと言う事で一人暮らしをする事を決意した。
 ここで生活し始めたのはまだ数週間だ。中学校を卒業してすぐにこのアパートに引っ越して一人暮らしに慣れる事にしていたからだ。おかげで、今ではこの生活にも馴染み特に生活に支障をきたす事も無い。
 まぁ、食事を自分で作らなければいけないのは少しだけ面倒だけどね。
 手早く朝食(目玉焼きとベーコンとパンだけど)を調理する間に洗顔等を済ませる。戻って来る時には丁度良く出来た朝食が待っている。
 焼きあがったパンの上にベーコンと目玉焼きを乗せてそれにかぶりつく。朝は時間がないのと面倒なのが重なって大したものは作らないが、この数週間の間に料理も多少出来るようになった。
 その為、今日のお昼用の弁当は昨日の夜のうちに作っておいたので、まぁまぁな仕上がりになっている。昨日の夕飯と内容が同じだが、それでも弁当は弁当だ。
 最後の一口を飲み込んだ俺は、学生服に着替え始める。忘れてはいけないのは、勿論武器だ。
 俺はいつも銃を背中の後ろに、ダガーナイフを腰の横に隠すようにつけている。何しろ、銃もナイフも二個あるのでつける場所が面倒なのだ。
 しかし、これが無ければ俺の本領は発揮できない。俺はそう思いながら、淡々と準備をこなしていった。
 身支度を整え、学校へ行く準備の出来た俺は少し早いがさっそく学校へ向かう事にした。子のがアパートからは徒歩で十五分ほど掛かる。今日の集合時間まではまだ一時間あったが、それでもあの楽しい学校へ行かずに待っていると言う事は出来なかった。
 ――学校に着いた俺だったが、教室に居る人は少なくて柳原達もまだ居なかった。
 居た人で見覚えがあるといったらあの自己紹介で派手な宣言をしていた高野君と黒川さんくらいだった。
 しかし、いくら柳原達が居ないからといって彼らに話しかけるのはさすがに無いなと思った。俺は静かに席に座り、柳原達が来るのを待つ事にした……。
 机に伏せってから数分後、一番先に来たのは鏡さんだった。向こうも俺が居る事に気がついたようで軽く微笑みながらこちらにやってくる。
「お早うございます! 修也さん」
「お早う、鏡さん。結構来るの早いんだね」
「そんな事無いですよ、ただ時間の決まりがあるとそれに遅れないか心配で早く来ちゃうんです。習慣みたいなものなんですよ」
 鞄を机にかけて俺の隣の席に鏡さんが座る。
「それより、なんだか緊張しますよね。今日の実技測定……」
「確かに、俺達は柳原達と違って自信が無いからなぁ。あっ、でも鏡さんは別に平気だと思うよ! しっかり自信を持てば頑張れるって!」
「あっ……、はい。そうですよね……」
 励ますつもりだったが逆にプレシャーを与えてしまったようだ。ちょっと変な落ち込み方だったけど、俺が原因なのは確かだ。何とか、励まさなきゃ!
 そう思い、励ましの言葉を考えているとその間に逆に鏡さんから言葉を受ける事になった。しかも、さっきまでの落ち込みもまるで無かったかのようにケロッとしていた。
「お互い、今日の実技測定は頑張りましょうね! 仮にもAクラスに入れたんですから自信持たないと!」
「そっ、そうだよね。頑張ろう!」
 何かよくわからない感覚だったが、鏡さんが機嫌を直してくれたのならそれでいいや
と思った。
 逆にそれ以上話題を蒸し返してもしょうがないからね。
 そんなかんだで今日の予定について話していると、結構時間が経っていたのかクラスも大分賑わい始め、柳原達も揃って登校してきた。
 元気な挨拶に返事をすると、さっそく今日の実技測定の話を切り出してきた。燃えるように話しかけてくる柳原だったが、横から恭子ちゃんのボディーブローを食らって少しだけ静かになった。
 そんな風にまた楽しい一日が始まった。

                    *

「あ〜、午前中は何でも生徒の個人性を知りたいという事で、なんか心理テストみたいなのを行なう。それが終わったら今度は真面目な学力調査、そんで午後が実技測定だ。午前中はめんどくさくて暇だろうが、午後はお楽しみの実技が待ってるんだ。午前中も適当に気合入れていけよ〜」
 昨日と同じく瀬川先生のやる気のあるような無いような口調でHRが進んでいく。みんな学力調査があるという事に不満の声を上げていたが、それでも午後の実技測定の為に気力を高めている人が多かった。
 HRが終わり、休み時間が終わるとさっそくテストが始まった。
 心理テストは一般的なものだった。特に「戦闘生として」とかそんなのは関係なく、普通の学校でも行なわれるような人間性を見抜く為のテストだった。
 瀬川先生も退屈そうに教室の隅で暇そうに教室を眺めていた。たまに体をふらふらさせたり謎な行動をしていたが、テストが始まって三十分位した時には「終わった奴は休憩にして良し、ただし静かにな」と言って眠りについていた。
 かく言う俺もその数分後にはすべての項目を埋め終えたので、その場で眠る事にした。授業時間は四十五分なので、後たったの十五分しか眠れないがそれでもやる事のない俺はゆっくりと意識を虚ろにしていった……。
 その後、チャイムと同時に起きた俺は小さく伸びをして頭のめぐりを活発化させた。
 先に起きていた瀬川先生がテストの回収を指示し、テストの一時間目は終わった。だが、この後、三時間連続して国語、数学、英語のテストを行なう事を聞かされた俺達はさらに気力を無くすのであった。
 十分間の休憩をトイレと少しの会話に使うとすぐにも二時限目のチャイムが鳴った。
 二時限目のテストは国語だった。俺は比較的勉強が苦手な方ではないので問題はなかったが、前の席では柳原が頭を抱えて悩んでいた。
 そんな事が後二時間続き、ようやくお昼休みが来た。四時限目のチャイムが鳴ると同時にクラス全体が大きくざわめく。まぁ、ようやくまだるっこしいテストが終わったんだからそうなるよね。
「ほ〜ら、まだ騒ぐんじゃねぇ! 午後の予定を話すぞ!」
 そんな騒ぎも瀬川先生のドスの入った声で静まり返る。
「いいか〜、午後は戦闘服でもある制服のまんまでここで待機。集合後、シューティングレンジに向かって射撃測定。その後、室内訓練場で模擬演習な。各自、自分の獲物はよ〜く整備しておけよ〜。それじゃ、お昼休みだ」
 その言葉に静まり返った教室が再度ざわめく。俺もたまった疲れを吐き出すようにため息をこぼす。
 そんな中、健太達が元気よく弁当を食べようと誘ってくる。俺と鏡さんはそれを問題なく受け入れ、机を寄せ合った。
「いや〜、テストはマジで勘弁だわ。頭が爆発しそうだったぜ……」
「柳原……、あれは中学生の問題の復習だぞ? 中学でどんな成績とって来たんだよ……」
「健太の成績は酷かったわよ〜。何せ、中学のあだ名で赤き文字の――」
「だあぁぁぁっ、それを言うんじゃねぇぇ!」
 柳原が急いで恭子ちゃんの口を塞ぐ。そうか、そんなに酷かったのか。
「あたしは、中の下くらいだったけどね。鏡はどうだったの?」
「私は普通でしたよ。私って教科によって点数の差が大きかったからそのせいで良い成績が取れなかったんです」
「じゃあ、得意な教科って?」
「主に国語、と英語と社会ですね。理系は苦手だったんです……」
 鏡さんを見ていると何か文系って感じがすると思っていたけど、やっぱりそうだったか。
「じゃあ、修也は?」
そんな事を思っていると次は俺に話しが飛んできた。
「ん〜と、そうだなぁ、一年の頃は良かったけどその後はどんどん下がっていったかな。何しろここに入る為の特訓が忙しかったからね」
「じゃあ、一年の頃はどのくらいだったの?」
「クラスでは大体トップだったかな? 学年だとあんまり良くなかったけど」
「へぇ、じゃあ頭はいいんだ〜!」
 三人から尊敬の眼差しが送られるが、そんな頭の良さもここではもう意味がない。だから、俺はその話を変えて午後の実技測定の話に話題を変えた。
 そこからは、柳原が自分の腕自慢を自信満々に話すようになって立場が逆転していったが俺はそれで良かったと思う。
 そうして、賑やかな昼食も楽しく進んでお昼休みは過ぎていった。

                    *

 そして、いよいよやって来た実技測定。
 クラスのみんなも落ち着きがなく、今か今かと瀬川先生がやってくるのを待っている。俺も緊張はしているんだが、目の前の柳原を見るとそんな緊張も薄れてしまった。
「くあぁ〜、何か緊張してきたぁ〜! なぁ、修也! 今からトイレ行こうぜ。なんかいきたくなってきた!」
「……さっき行ったばかりだろ。少しは落ち着けよ」
「そうよ、少しはあたし達を見習いなさい。修也も鏡も平然としてるじゃない」
「そうはいってもよ、緊張するもんはするんだよ! 早く来ないかなぁ〜!」
 と、このように見事に柳原が俺の緊張を台無しにしてくれたのだ。
 そんな中、ふと会話に混ざっていない鏡さんを見てみると、落ち着いているというよりもなんだか落ち込んでいるようだった。
 今朝も実技の話をしたらあんな風に落ち込んでいたよな?
「鏡さん、大丈夫? 何か落ち込んでるようだけど……」
「へっ? あのっ、そんなことないよ! 緊張してちょっと不安になってるだけ……」
「そう? それなら良いんだけど、大丈夫だよ。いつも通りにやればいいんだから」
「うん。そうだよね!」
 何か違和感があったけどどうやら緊張のしすぎだったみたいだった。体調とかが悪くなくてよかった。
 その数分後、ようやく来た瀬川先生の先導によってAクラスは移動をした。まず向かった先は単なるシューティングレンジだった。しかし、その規模は街のシューティングレンジなんかとは比べ物にならないほど立派で広いものだった。階段まであり、二階もあるようだ。
「レンジは五レーンを使う。それぞれのレーンに担当官の先輩がついているからしっかり話を聞いて指示に従うように、それが終わったら静かに待機していろ」
 瀬川先生はそれだけ言うと先輩達に何かを指示してレンジの後ろにある部屋へ入っていってしまった。
 しかし、すぐに先輩からどんな順番でもいいからレンジに五人入るように言われた。それに従い、近くに居た五人が引きずられるようにレンジに入る。
 五人は先輩の指示に従ってどんどん射撃の準備を行なっていっていた。それを見守るように残されたクラスメイトは、最初に実力見せる五人を観察するようにそれぞれ見やすい位置に移動を始める。
 俺達もお互いの実力を見せようという事で同じレーンに固まる事にした。見せる順番をじゃんけんで決めた結果、順番に、柳原、鏡、恭子ちゃん、俺。という風に決定した。
 そんな事をしているうちに最初の五人が約同時にレーンから離れる。何かを書きとめていた先輩達はそれが終わると次の人を呼び始めた。
「よっしゃ! んじゃ、いってくるぜ!」
 意気込み満々で柳原がレーンに入る。その後ろではまさに俺達が柳原を見守るように立っている。
 先輩の指示を聞いた柳原は腰から自慢の『M93R』を抜き、銃弾を装填する。銃を構えた所から、いつになく真剣な雰囲気が伝わってくる。
 そして、射撃は始まった。
 レーンの向こう側にぶら下がる的に対して柳原は正確に急所に打ち込んでいた。銃に自信が無いといってもさすがはAクラスに入るだけの事はある。
 そんな関心をしているうちに、早々と柳原の番は終わってしまった。柳原は銃の後処理を済ますと、さっきまでの雰囲気を消していつのもおちゃらけた雰囲気に戻っていた。
「ほら、次は鏡の番だぜ!」
 そう言って鏡さんの肩をポンと叩く。
「う、うん。それじゃ、行ってくる……」
 緊張した様子の鏡さんの背中を見送りながら、無事に良い成績を出せるように俺は願っていた。
 願いのおかげか分からないが、レーンについて白銀の『SIG(シグ) SAUER(ザウエル) P228』を構えた鏡さんはどうやら緊張が消えたようで集中していた。
 というか、鏡さんもSIG社の銃を使ってたんだ。やっぱり女性には使いやすい小型のものやデザインが人気なのかな?
 その後、落ち着いた様子で射撃を終えた鏡さんは疲れた様子でこちらに戻ってきた。
 お疲れ様と声を掛けようとした時、俺はふと何かいつもの鏡さんとは違う感覚を感じた。まるでいつもの温和な鏡さんが別人になったような感じを……。しかし、その感じもこちらに戻ってくるまでになくなっていた。
 そんな鏡さんに恭子ちゃんが「お疲れ!」と言って変わるようにレーンに入っていく。
 取り出した銃は平凡であるが有名な『コルト・ガバメント』だった。しかし、どうやら恭子ちゃん特製らしく、グリップの部分が長くて装弾数が多く入るように改造されていた。
 恭子ちゃんも慣れた手つきで的の急所に的確に当てていく。どうやら、銃の腕は柳原よりも上みたいだ。
 そして、恭子ちゃんも上々な成績を出して戻ってきた。今の段階で銃の腕が一番良いのは恭子ちゃん。二番目が鏡さんだ。
 肩を叩かれ、「いってらっしゃ〜い」と言われた俺は未だ緊張を拭えずにレーンに立つ。
 だが、ここまで来たんだ。みんなよりも上とは言わないけれど、それなりの成績を出してやる。
 先輩の指示を聞いて俺は腰から『M92FS』を取り出す。しかし、それは片方だけだ。銃弾を装填し、的に向かって銃を構える。この時、後ろの方から微かなざわめきが起こった。それもそうだろう。
 普通は銃を構える時、一丁だけ持つのなら両手でしっかり銃を握るのが常識だ。しかし、俺の場合は違う。
 俺は的に向かって銃を片手で構えていた。これが俺の最も撃ちやすい構えなのだ。これは二丁拳銃を使っているうちについてしまった、俺の一つの癖だ。
 担当の先輩に本当にそれでいいのかと問われたが、俺は迷いなくそれに答えた。そして、俺の射撃測定は始まった。
 用意されている的に意識を集中させる。さっきまでの緊張感が嘘のようになくなり、俺の中の空気が張り詰める。だが、今はそれが心地よかった。そして、俺は引き金を引いた。
 放たれる銃弾は次々と的の急所へと当たっていく。今まで射撃してきた中でも最高の出来だと思えた。俺はその感覚を楽しみながら射撃を続けた……。
 測定の結果、俺はなんと恭子ちゃんよりも上の成績をたたき出していた。
 レーンから離れてみんなの元に戻ると、さっそくみんなからの驚きの声が上がった。
「おい、修也! すげぇじゃん! 今のとこ高野の次! クラスで二番目の成績だぜ!」
「修也ってこんなに銃の扱いが上手かったんだ〜!」
「凄いです! とっても格好良かったですよ!」
 そんなみんなの言葉に浮かれていると、後ろから急に肩を捕まれた。驚いて後ろを振り向いて見ると、そこには黒川さんが立っていた。しかも俺の事をきつい目で見ながら……。
「えっと、黒川さん? 何か用……?」
 俺は静かにそう質問する。そうすると、黒川さんは静かな声でこう言ってきた。
「あなたには負けないから……」
 たった一言、ポツリとそう言うと黒川さんは今まで俺達が使っていたレーンに入っていった。
 一体何だったんだろう?
「いや〜、大胆だな。ライバルに対して堂々と勝利宣言か……」
「静かそうに見えるけど結構負けず嫌いなのね〜」
「えっ? あれってそういう意味だったの?」
「そうとしか取れないだろ。なんだ? もう余裕ぶっこいてんのか?」
「……そうじゃないけど」
 ただ俺には、見られていたあの目にはもっと別の感情が篭っているように思えていた。
 しかし、そんな事を思っているうちに黒川さんの測定が終わっているようだった。結果を見てみると、その結果は俺よりも上。クラスでは二番目の成績だった。
 レーンから離れていく黒川さんはもうこっちを見ることはなく、そのまま部屋の端の方へ行って目を瞑っていた。
 その後、全員が測定し終わる頃になると瀬川先生が部屋から出てきて測定の結果を見ていた。しばらく測定結果を見ていた瀬川先生だったが、その表情は見ているこっちが寒くなるようなゾクゾクする笑顔だった。
 シューティングレンジでの測定が終わると、集合が掛かった。シューティングレンジから出てフロアの広間に集められる。
「あ〜、とりあえずお疲れ様。この後は室内訓練場で模擬演習をしてもらうんだけど、言い忘れていた事があってな。今から言うからさっそく行動してくれ」
 そう言った瀬川先生の口から次の瞬間とんでもない言葉が飛び出した。
「お前ら、誰か一人をパートナーに選べ。つまり二人一組のチームを作れって事だ」
 はっ? なんだって!
 突拍子のない発言にクラスのみんなも大いにざわめく。
「あ〜、うるさい、だまれ! だから言っただろ言い忘れたって。すいませんでした〜。って訳で早くチーム組め」
 自分の事を棚に上げた発言だったが、それに反論できる度胸を持ち合わせた奴はここ鬼はいなかった。小さいざわめきが当たりを徐々に包み始め、次第にチームが出来上がっていく。
 俺もどうしようかと悩んでいたところ、後ろから声を掛けられる。
「あの、修也さん。良ければパートナー組みませんか? 恭子ちゃんも柳原君と組んじゃったし、他に声を掛けられる人がいなくて……」
 思ってもいないお誘いだった。一瞬その嬉しさに頭がオーバーヒートしそうになったが、何とか取り持ち直して返事をする。
「うん。俺でよければ喜んで、よろしくね。えっと……鏡」
「はい! 修也さん!」
 パートナーを組むのだからもっとフレンドリーに名前を呼び捨てにしてみた。しかし、その効果は合ったようで、鏡は笑って喜んでくれた。
 その後、この後の模擬演習の内容が伝えられた。内容はパートナーとの室内戦を想定した共同戦闘だという事だ。パートナーと息を合わせる事が重要となるものだ。
 しかし、心配はなかった。何しろ、パートナーは鏡なのだ。たった二日間とはいえ性格や腕を知っている相手というのはとても有利だ。
 思わぬ展開になった実技測定の後半だが、それでも何とかやっていけると思っていた。だって、鏡とパートナーを組めたんだから。
2009-02-12 12:16:52公開 / 作者:桜雪 
■この作品の著作権は桜雪 さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして、桜雪といいます。
投稿室への投稿は四度目ほどですが、久しぶりに投稿します。
今書いている作品、まぁこの作品なんですがなんとなくここまで書いて
他人の見方が気になったので投稿しました。
話が途中なだけあって感想はつけにくいと思いますがよろしくお願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは!読ませて頂きました♪
銃社会となった日本で学生たちが地域の安全を守るという設定は面白いなと思いました。今回は主人公の銃の実力や、友達となった人達とライバル?の名前や特徴、実力の紹介といった感じでしたけど楽しく読めたと思います。先生も、ある意味では怖い雰囲気が出てて良かったです。ただ先生の自己紹介時になぜ、こんな学校が出来て「学生」じゃなければいけないかの説明が欲しかったです(確かにそういう説明が嫌いな先生そうだけども、色々と表現のしかたはあると思うので)。じゃないと警察で人材増員、もしくはもっと幅広く一般人からの応募でもいいような気がするからです。あと一般常識だとしたら申し訳ないのですが「シューティングレンジ」という言葉を知りませんでした。内容から、よく映画やアニメ漫画などにあるシーンのアレかとは分かったのですけどねw
では続きも期待しています♪
2009-02-12 17:17:13【☆☆☆☆☆】羽堕
感想ありがとうございます〜。
そうですね、第一章は学校の主な登場人物と世界観の説明ですからね〜。
>「学生」じゃなければいけないかの説明が欲しかったです
あ〜、それは考えていなかった!とんでもない急所をつかれましたよ。これは補足しておかないと
大変な事になりますね。ありがとうございます。
ちなみに、もう分かってしまったかと思いますが、シューティングレンジというのは
銃の練習場の事です。人型の的に向かってバンバン撃ってるあれですね。よくシティーハンターやガンスリンガーガールなどで描写されていますね〜。
2009-02-12 21:32:51【☆☆☆☆☆】桜雪 
はじめまして、俺の後ろに立つな!(byデューク東郷)頼家です。
作品読ませていただきました^^私の好物のジャンルとはたいぶ毛色が違いますが、面白く読ませていただきました。入り口としては素晴らしいと思います。キャラクターや、読みやすい文章では、勉強させていただきました^^……ただ生意気にも意見を述べさせていただくとすれば、(どのような作品に向かうのかは今後の展開を見させていただかないとと判りませんが、)この手の作品は気を抜くと、よくある『学園モノ』に陥ってしまう危険性があるかと……(私もジャンルは違いますが、似たような事で現在四苦八苦しております)。現在お持ちの今作品に於ける大テーマ、小テーマに向かって今後も突っ走ってください!!次回更新。お待ちしております!!
 頼家
2009-02-14 01:18:56【☆☆☆☆☆】有馬 頼家
頼家様、ご感想ありがとうございます。
好評価をいただき大変嬉しいです。
今後も頑張って執筆しますのでUPを見かけたらどうかご愛読よろしくお願いします。
2009-02-14 06:01:49【☆☆☆☆☆】桜雪 
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。