『再生』作者:green leader / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
時代、場所、そして現実世界を超えて作られた全く異色のショートショート集。
全角2816文字
容量5632 bytes
原稿用紙約7.04枚

 夜、小雨、静寂……

 片肘をレジにつけながら、ポーはアダルト雑誌を読みふけっていた。
「どれもこれも、女の裸ばっか」
 彼の担当する深夜の時間帯になってから、まだ客は一人も来ない。彼は、このコンビニで唯一の店員をやっていた。
 
 ポーはもとは優秀な学徒だった。彼はある有名大学に合格し、家族と涙の別れを告げ、田舎からたった一人で都心近くの遠いこの町にやってきた。しかし、残念ながら一人暮らしをはじめて半年と経たないうちに、彼は地元では見ることの無かった誘惑の嵐に打ち負け、講義をサボって遊びとパートに明け暮れていた。友達も高卒のチンピラだけだった。そして、最近になって彼はコンビニのバイトを始めた。

 そしてコンビニの店員をはじめて、彼はこの町の奇妙な点に気づいた。深夜に全く人気がないのだ。もちろん不良の一人や二人、夜の町をごろつきそうな若者はいるはずだ。なのに、コンビニの中から眺める限り、歩行人はおろか、通過する車さえ見かけない。彼の育った田舎ではよくある光景だが、この繁華な町では何か違和感を感じた。

 その昔持っていたであろう知的好奇心を働かせて、彼はこの謎を探求した。
 まずはずんぐりと太って眼鏡をかけた店長に話してみた。答えは簡潔だった。
「そういわれたら、そんな気もしなくはないけど、僕は夜すぐに寝ちゃうからわかんないや」
 ポーは今度は夜のシフトで帰ろうとする身の細い同僚を呼び止めて、聞いてみた。彼は即答するなり帰って行った。
「夜に人がいないのは当たり前だろ? 考えすぎじゃないか」

 言われてみれば、考えすぎかもしれないとポーは思った。彼にとっての、都心に近い町のイメージが、彼に無駄な違和感を感じさせたのかもしれない。そういう意味で、ポーは自分が田舎者であることを自覚し、その場でなんとなく納得した。いくら数が多くても、人は夜には寝るのだと。


 そして今、ポーは読んでいたアダルト雑誌を手元に置き、窓の外の暗闇に目をやった。吸い込まれそうな闇だ。
 確かに、彼の地元の夜の暗さから比べれば、街灯などもあるし断然明るい。
「だがしかし……」
 ポーは呟いた。
「窓に暗幕がかかっているようだ」
 ポーは目を細めて、町の風景を構成するもの一つ一つを視認しようとした。
 向かいの写真屋、電信柱、オレンジの光を発する街灯、区分けされたごみ箱……

 ふと誰かから、こちらを見られているような気がしてポーは身をぶるっと震わせた。
 明るい店内では今流行りの音楽が流れ、多くの商品が陳列してある。ここは安全だ、と無意識にポーは自分に言い聞かせた。一度店の奥に戻り、在庫を確認するふりをする。まるで、店長に仕事ぶりを見られているときのように。

「誰も来ないなら、俺が帰ったって変わりないじゃないか。ましてや、コンビニを営業する必要なんて無いだろ」
 憤慨してそう呟きながら、ポーは従業員用のロッカーから自分の荷物を取り出し、着替えていそいそと帰る支度をした。そしてレジに戻ると、読み終わった雑誌類を商品棚に戻して、入り口のドアから外へ出ようと手すりに手をかけた。

 その刹那、向こう側から突如奇怪な黒い手が現れて同じく手すりを握り、ドアを押そうとしたポーを外側から押さえつけた。猛烈な叫び声をあげてポーは後ろへ飛び上がり、勢いよく床に尻もちをついた。黒い手は、もう手すりを握ってはいなかった。

 ポーは床に座ったまま動けなかった。今見た光景が脳裡から離れず、ショックで何も言えなかった。あの黒く、グロテスクな大きな手……
 とにかく彼は急いでレジのところに戻り、慌てふためきながら引出しの中の防犯用の銃を探した。しかし、引き出しの中にはマーカーやレシートが何枚かしかなく、銃はどこにもない。悪態をつきながら、ポーは走ってロッカー倉庫に戻り、銃を探したがどこにも見つからなかった。
 パニックになりながら、彼は恐る恐るレジに戻った。あの黒い手の主が店内に入った形跡は無い。だが彼は、確かに、ドアの外に気配を感じた。見えない何かが待ち構えているのを。
 先ほど、店内から外を見渡した時にこちらを見返されたのもコイツだ、とポーは感じた。しかし、まともな武器が無い現状ではポーはどうすることもできず、ただただ恐怖が心中を渦巻いていた。彼はまたレジの隅にうずくまった。
 ドアの開く音がしないかと、耳の神経をとがらせながら、彼はこのあとどうするべきか考えた。そして名案が浮かんだ。

 ポーはポケットから携帯を取り出し、警察に電話を入れた。二、三回の呼び出し音の後に若い女性の声が聞こえてきた。
「こちらモラレス市警です」
「もしもし、今」
「只今、勤務時間外ですので、御用の方は早朝四時から夜十時までにご連絡ください」
 ポーは愕然とした。この町では夜は警察も動かないのか。
 早くこの異常さに気付けばよかったと後悔しながら、彼は地元の友達達、そして両親の家に電話をかけた。頼む出てくれ、と必死に願いながら、ひたすらダイヤルを押していった。しかし、どこも電話をとってくれない。こんなことがあるか、と嘆きながら携帯をかけているうちに、悲劇的にも携帯の電池が切れてしまった。ポーは怒って携帯を地面にたたきつけると、コンビニの電話を使おうとした。しかし、なぜかどこにも見当たらなかった。そういえば今までに見たことがなかった気がする、とポーは絶望的な気持ちになった。

 ついに外界との連絡手段が断たれ、ポーは何もできなくなってしまった。この緊張状態のまま、朝を迎えるしかない。ふと、ドアが開いた音がしたような気がして、彼は振り向いて確認したが閉まったままだった。彼はまた角にうずくまり、ひたすら沈黙した。

 長い時間がたったような気がした。いつの間にか、ポーの目には涙があふれていた。


 地元では、勉強が得意で周りからいつも期待され、尊敬されていた。両親に、農学部へ進学して必ず立派な姿になって戻ってくると誓い、里を離れた。しかし彼は今、勉強を忘れ、欲望のままに生きる怠惰な生活を送り、挙句の果てに暗闇に潜む何かに怖気づいている。
 田舎暮らしの彼にとって、暗闇は恐怖の対象では無かったはずなのに……


 彼は周りを見渡した。さっき読んでいた雑誌、酒、流行りの音楽、そして数えきれない多くの物。
「ここは安全じゃない」

 彼は目を拭い、断固として立ち上がった。そして、ドアのガラス越しに、目には見えない何かをまっすぐと見つめた。そして歩き出し、またドアの手すりを握る。
 彼は言った。
「闇など怖くない」

 彼は敢然としてドアを開けた。




 完
2008-12-07 10:23:55公開 / 作者:green leader
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■作者からのメッセージ
読んで下さり有難うございます。またつまらない作品ですが、もしよかったら、ご指摘お願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは!読ませて頂きました♪
マエガキにあるように、外国のような日本のような、少し昔のような現在のような不思議な世界観が上手く、描かれてたと思います。話も街への憧れと現実、そして街自体の異常さと、それに気付かない人々など怖さを感じました。ショートとしてはオチも含めて面白かったと思います。ただ、前回同様、街の秘密やコンビニを営業していた理由など、色々と知りたいという欲求が残りました。
では次回作も期待しています♪
2008-12-07 13:49:27【☆☆☆☆☆】羽堕
作品を読ませていただきました。淡々とした感じなのに街への違和感や闇への心情が伝わってきて面白かったです。ただ、SSとするために物語を削りすぎている感じも受けました。ポーの心情なんかをもっと読んでみたかったですよ。では、次回作品を期待しています。
2008-12-14 12:08:50【☆☆☆☆☆】甘木
計:0点
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