『あいつ』作者:無花果 / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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 授業をサボるために、僕はいつもどおり、学校の裏にある原っぱに向かって、のろのろと平凡で退屈な道を歩いていた。
 すると今日もあいつがいた。あいつはいつもどおり舗装されてない道の真ん中に座り込み、せっせと何かを拾い集めていた。
 その姿があまりに夢中そうだったので通り過ぎるたびにいつも気になっていた。
 僕は退屈でやることもなかったので、ついにあいつに声をかけた。
「君、何をやっているんだい?」
  するとあいつは、せわしく動いている手をとめて、ゆっくりと僕のほうへと体をむけた。
「俺のことか?」
 僕はうなずいた。
「ふふっ、そうか気になるのか……」
 あいつはもごもごと独り言のように口ずさみ、そのあとニヤニヤと笑いながら言った。
「アリをひろっているんだよ」
「アリ?」
「そう」
 あいつはアリが大量にはいっている透明なプラスチックの容器を僕に見せびらかす。僕は怪訝そうな顔であいつを見た。そうしたらあいつは、僕の反応をみていたずらそうに笑うのだ。
「なんで笑う?」
「ああごめん笑っていたのか。いやね、やっぱり皆そんな表情をするんだなって思って」
「そりゃ、こんな年になって夢中でアリをつかまえてる奴なんていないからね」
「確かに、確かに」
 そう言ってあいつはまた笑う。
「それで、アリを捕まえてどうするんだ? 食べる?」
「まさか」
 あいつは立ち上がって、アリの容器のふたを閉じてカバンにしまい、服についている砂をはらうと、どこかに行こうとして歩き出した。そして手招きをして僕を誘う。
「へんなやつ」
 僕はそのへんな奴に手招きされて、もと来た道をもどり、やがて校舎に入り、とある教室の中に招きいれられた。そこは美術部なんかが使う教室で、デッサンの道具やら……、ともかく絵を描くために使いそうなものが並んでいる。
 あいつは、その教室の壁に立てかけられている大きなキャンバスの前にたった。その大きなキャンバスは今のところほとんどが真っ白で、ところどころ黒い斑点が群れを成すようにキャンバスの上で浮いている。なんとなく絵の具がついているというより、その黒い点は浮いているように見えるのだ。
「これ、何?」
 またしても僕は怪訝そうな表情で聞いたのかそいつはニヤニヤと笑いながら言った。
「キャンバスさ」
「そうじゃなくて」
 そういうとあいつはアリを捕まえて入れておいたプラスチックの容器をカバンから取り出し、蓋をあけ、その中からアリを一匹適当に選び出し、それを躊躇なしにキャンバスに押し付けた。それからあいつは、アリをまるで物を扱うように次から次へとキャンバスに押し付け、白いキャンバスをアリの死体で埋めていく。
 僕はあいつがやっていることにひどく戸惑った。そして、ひどく憤った。あいつはもはや作業とかした動作を止め、後ろを振り返り僕のひどく困惑した顔をみてまたニヤニヤといやらしい笑顔を僕にむける。その瞬間は、僕は耐えられなくなってあいつをにらみ返し、教室をでた。でもあいつはきっとそんな僕をみてきっとまた笑っていたと思う。あのいやらしい笑顔で。

 そのことから一ヶ月あまりがたち、あいつのことも記憶から薄れかかっていたころ、校内で美術部が催した小さな個展が開かれていることを学校の掲示板にはってあったポスターでしった。そして即座にあいつのことを思い出し、腹をたてたが、同時にあいつに対する嫌、あいつのキャンバスに対する興味も出てきていた。そして僕はキャンバスに対する興味に負けて、その個展が開かれている教室へと向かった。
 教室の近くまでいくとなにやら騒がしかった。いそいそと教室の扉を開けて見渡してみると、美術部の部員が書いたであろう数ある絵画が教室に並んでいるにもかかわらず、大勢のひとはあの大きなキャンバスの前に群がっていて、そしてなにやら言い合っていた。人が群がってキャンバスの全体が見えなったため、僕は背伸びをしてそのキャンバスを見た。 するとものすごい数のアリの亡骸が白いキャンバスの上に巨大なアリという姿をかたどって群がっていた。そしてその巨大なアリは今にも動き出しそうな……みごとな姿をしている。
「ひどい」
「気持ち悪い」
「これ作った奴、尋常じゃないな」
「どうかしてるよ生き物をこんな風につかうだなんて……」
 と非難する奴がいる一方、
「すげぇよこれ、圧巻だよ」
「動き出しそう」
「いったい何匹のアリをつかってんだ?」
「別に俺ら常に蚊とか殺してるだろ? それよりよく見てみろ。かなり迫力あるぞ」
 と褒める奴もいる。僕はそこで何か言いようもない気持ちを抱きながら人々の耳を傾けていた。すると突然、肩をたたかれた。僕が振り向くとあいつがあの笑顔でそこにいた。
「どうだ、すごいだろ」
 僕は何も答えない。
「まっ、こんなに話題になったことだし反応がどうであれ満足だな」
 そう言ってあいつはニヤニヤ笑いながら教室を出ようとする。
「今度はクモでやってみようかな」
 あいつは、僕を背にしたまま言い、そして扉を開け、でていった。僕はまたキャンバスがある方向へ顔を向けた。相変わらず大勢の人がなにやら言い合っていたが、だれもそのキャンバスを動かそうとしている人はいなかった。僕はなにか困惑した気持ちを抱えながら、そのまま人の声に紛れ、そして僕もそのキャンバスを何もせずただ眺めていた。
2008-11-13 00:30:15公開 / 作者:無花果
■この作品の著作権は無花果さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はじめまして無花果と申します。久しぶりに小説を書いたので、うまくかけているかわかりませんが、これから上達していく上で皆様のアドバイスを頂きたくここに投稿させていただきました。今回は、できるだけ出来事のみを描写したつもりです。
どうか皆様の批評お願いいたします。
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは!読ませて頂きました♪
上手くまとまっていて面白かったです。私には、アリの絵を見る勇気はないですが、それを見てる人々の反応は、わかる気がしました。ただ、もっと拒絶する人がいてもいいのではないかなと思います。絵自体の魅力や迫力を、もっと細かく描写して、誰も片付けろと言えない雰囲気を出せたら良かったかもです。生意気な事を書いてすいません。
では次回作も期待しています♪
2008-11-13 21:14:27【☆☆☆☆☆】羽堕
羽堕さま、批評ありがとうございます。
いやはやほんとに久しぶりに書いたので、心配で心配で。
たしかに人々の反応はもっと煮詰められたと思いましたが思いつかず、いいアドバイスを頂きました^^生意気なんてとんでもないです。
ありがとうございました。
2008-11-13 23:00:30【☆☆☆☆☆】無花果
アリ画、おっかないですね〜^^;無数の蟻を使って、巨大な蟻を描く。そしてそれに蟻のように群がってみる見入る人々。大衆は蟻のように群がる事で安心し、また残酷なものに程(賛否を交えて)その価値を見出そうとする……といったような社会風刺でしょうか?最近授業で取り上げたせいか、宇治拾遺物語のような説法感を感じてしまいました。
考えさせられる良い作品だと思います^^
2008-11-16 00:43:36【☆☆☆☆☆】有馬 頼家
作品を読ませていただきました。降着は良かった思います。ただ全体的に心情描写が少なかったですね。主人公がアリを集める少年にどう感じたかをもっと書いて欲しかったですね。あと、一人称なのに僕が「怪訝」な表情をしていたのか分かるのでしょう? 毎回目の前に鏡でも置いてあったのでしょうか。これは神の視点といって一人称では一種の禁じ手ですね。では、次回作品を期待しています。
2008-11-16 18:45:07【☆☆☆☆☆】甘木
>有馬様
読んで頂いてありがとうございます。私の小説をそんなふうに読んで頂いてとても光栄です^^
大学の授業で発表した作品が自分の意図とは反して読まれていることが多々あります。そういうことも含めて書きましたが、いかがでしたでしょうか?
>甘木様
厳しい批評ありがとうございます。確かにつめが甘かったです。おかげで気づくことが出来ました。次からは気をつけていきます。心情描写はあえてあまり書きませんでした。出来事のみを読み解いてほしかったからです。でも登場人物がいるかぎり、そういうのは作者の勝手な都合ですね。精進いたします。
2008-11-16 22:52:29【☆☆☆☆☆】無花果
 少々酷評となってしまいます、すみません。

「別に俺ら常に蚊とか殺してるだろ? それよりよく見てみろ。かなり迫力あるぞ」との発言ができる程度の作品なのか、と、少し残念に感じました。
 実際に蟻で絵を描いてあったら虫嫌いの私には気持ち悪くて近寄れませんけど、なんとなく、物足りないものを感じてしまったのです。蟻をつぶして絵を描くグロテスクさや気味悪さ、あいつの不気味さや狂気をもっと描いて欲しかったし、そのおぞましい美しさみたいな、奇妙な美のようなものがあったら、すごく良かったのになぁ、と思いました。
 心情描写を省いて、状況のみを淡々と書いていく、っていうのはすごく良いと思うんです。でも、すでに腐敗している死骸もあるだろうし、つぶす手だっていろいろついて(すみません、自分で書いてて気持ち悪くなってきたのでやめます)、本当はもっともっとものすごい光景だと思うのです。それが伝わってこなくてとても残念でした。
 発想はすごく面白い(というと御幣がありますけど)と思ったので、もう少し状況説明を鮮明にしていただけると良かったように思います。
次回作、期待してますね。

2008-11-17 18:42:43【☆☆☆☆☆】夢幻花 彩
当方へ感想をお寄せくださりありがとうございました。
芸術の異常性を抑制の利いた文体で描写されており、さすがと言う気がいたしました。
また、テーマも絞られており、余計なものがなかったのではないかと思います。
私の描きたい芸術家はどちらかというと技巧重視の官僚タイプなので、たぶんこういう人は書かないだろうな、と思い、その点が発見でした。
これがアリだったからよかったようなものの、クモだったら私は卒倒してしまいます(^^ゞ
2008-11-18 02:19:41【☆☆☆☆☆】ダフニス
>夢幻花様
厳しいご指摘ありがとうございます。確かに自分がいかにあまかったか痛感いたしました。
夢幻花様のご指摘で自分の作品がいかにもっとよくなることが出来るか、気づくことが出来ました。これを気に丁寧なそして自分なりの状況説明ができりよう、すこしずつ励んでいきます。
この作品を改善したくなってきました^^
>ダフニス様
そのようなお言葉私にはもったいないです^^;
はじめは蚊でやろうかなっと思ってましたが、印象にかけると思ったのでアリにしました。
クモは私自身が苦手なので『あいつ』にはクモの絵は絶対描かせません(笑
2008-11-19 01:08:20【☆☆☆☆☆】無花果
以前、芸術家が処分される予定の犬を作品にするという話を読んだ事を思い出しました。
残酷だという感情を利用したのか、単純に残酷なのか、結局何もしない人たちを嘲笑っているのか、色々な反応を見て面白がっているのか、……その話も結論を読者に一任する形で終わってましたが、こちらもそう感じました。
この手の話は最近、読者に一任する傾向にあると思いますが、私の好みでは、作者はこう思っている、と訴えている方が好きです。
人物描写を敢えてされてないのだと思いますが、多少はあっても良いかと。コンパクトにまとまっていて分かりやすい話で良かったと思います。
では、また。

2008-12-06 13:19:23【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
感想ありがとうございます。
そうですね、確かに私自身の考えも作品中に与えおくということも必要ですね。
人物描写に関してはすこし脚本を意識しました。そのために感情をあまり入れなかったんですが
脚本をかくにしても確かにもっと具体的な感情が必要だったかもしれません。
次からは気をつけます。読んでくださってありがとうございます。
2008-12-09 15:25:24【☆☆☆☆☆】無花果
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。