『二重世界』作者: / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
 ザ、ザザ、ザザァ――……。ノイズが世界を閉じた。 心の形は、果たして実像を伴い、僕の世界は何を見るのだろうか。
全角5745文字
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二重世界



 夕闇が僕の世界を包む。
 ビルに零れ落ちる光と、雲に散乱する光と、そして僕を照らす赤みを帯びた光が混じり溶け合う。刻々と、夜の時間がせまっていた。
 ほどなくして、夕日は墜落するようにビルの向こうに消えた。
 街には、音も心も影も無い。空を見上げるために立ち止まってしまえば、僕の足音さえ消える。まだ紺色の空に星は見えないが、白い月が密やかに浮かんでいた。でも、そんなことは些細なことで、僕がどうして空を見上げたかというと、僕の肩に留まった白い欠片の正体を確認しようとしたからだった。
 僕は佇む。
 ああ、雪だ。
 ――僕は世界にただ一人だった。


 ザ、ザザ、ザザァ――……。ノイズが世界を閉じた。


「もう、リンちゃんまたボウっとしてる」
 うん、と僕は鸚鵡返しした。
 ひどく頭がぼんやりとしていて、浮遊感とも虚脱感ともつかない、深い眠りから覚めた感覚。僕の耳元で、紫苑がまだ何か文句を言い続けている。ぜんぜん止めてくれない。止めてくれないどころか加熱気味だ。
 おかげで、ボウとした意識が少しはマシになってきたが、僕はつい苦笑してしまった。
 駅への大通りを僕らは歩いていた。時刻は六時を回ったところ。社会人や大学生やらが急ぎ足で駅へ向かっているのだけど、紫苑と肩を並べて歩けないほど密度が高いわけでもないし、すぐ隣の紫苑の声が聞こえないほど音が溢れてるわけでもない。
 季節は冬。クリスマスを前にした十二月の半ばで、少し肌寒い。だけど雪なんて降っていないし、そもそも僕は、生まれてこのかた、雪を見たことは無い。
「紫苑、ありがとう」真っ直ぐ前を向いたまま、僕は紫苑に聞こえないように呟いた。
 そのつもりだったが耳聡く紫苑は反応して「照れるじゃんか」と、僕を軽く蹴っ飛ばした。
 すねがちょっと痛くて、手を重ねたい気分になった。僕は紫苑を一瞬だけ見て、だけど世間体を考えて、そこらへんをぐっと我慢。だというのに紫苑が腕を絡めてきた。
 暖かい。
 冬は、身を寄せ合うぐらいが丁度いいのだろう。
 そんなことを想いながら改札口を抜け、電車に揺られて十五分、ついでに歩いてもう五分。僕らは2DKのねぐらに帰ってきた。
 夕食は一緒で、風呂は別々。で、どうやって寝ているかというと。
「今夜も同衾だね」押入れには二つ布団はあるのに、一つしか布団をひかずに紫苑は言った。
「ドッキン? なにそれ。ドッキングの略?」
「リンちゃんのエロ」紫苑は僕を小突く。「でもまあ近いかな」
 照れる紫苑を見て、言わんとしていることを理解した。
「狭くて暑いよ?」
「広くて寒いなんて、不安じゃん」
 なんて言ってるそばから、紫苑は僕のシャツのボタンを口で外し始めた。彼女は僕をまさぐりつつ、僕の鎖骨にある古い傷跡を犬みたいにぺろぺろ舐めた。
 僕は気付かれないように、眉を顰めた。
 やがて、吐き気を催すくらいの感覚が僕を押し流した。


 世界には僕一人しかいなかった。
 人間は誰もいない。犬もいない。猫もいない。鳥もいない。だけど、なぜだか植物は生えている。ただし、単なるオブジェのように動かない。命を感じない。影を感じない。ビルだけが果てしなく街を埋めている。
 孤独なのだ。
 紛うことなく、僕は孤独。
 そこに疑問はなく、不安はなく、完全だけがあった。
 あったはずなのに。
 降り積もる雪の中、僕は歩く。


 ザ、ザザ、ザザァ――……。ノイズが世界を閉じた。


 カーテンから差し込む柔らかい陽射しに、僕は目を覚ます。
 もしかすると、この瞬間僕は生まれたのかもしれない。
 眠りから醒めた時、酷く意識が白濁する。自分と周囲の境界があやふやで意味を成していない。
 つまり世界を再構築させるような感じ。記憶と認識を必死に結びつけて、今の自分を確認する。
 ――と、ひとさし指に痛みが走った。
 おかげで、一気に意識が覚醒した。
 布団をはぐると、紫苑が寝ぼけて僕の指をがじがじ噛んでいた。
 僕は苦笑しつつ、紫苑の口から自分の指を引っこ抜く。見ると、深い歯形が付いていた。ちょっと血が滲んでいる。だけど、くっきりした歯型が、なんだか可愛い。
「痛いじゃないか、紫苑」僕は彼女に囁く。
「うぅん。……ふわあ。リンちゃん?」瞼をこすりながら、紫苑は子猫みたいに気持ちよさそうに背伸びした。「リンちゃん、おはよー」
「おはよう」
「あ、もしかして、私かんだ?」
「うん、ちょっと今日は激しかったよ」
「うわあ、ごめん」紫苑は手の平合わせて謝ると、僕の手首を掴み、僕の指を咥えた。
「……」丁寧に指を吸う彼女に、僕は眉を顰めた。


 一車線の道路を、僕は目的も無く歩く。目的も無く歩くと言うのが目的なのかもしれないし、目的もなく歩くと言うのが手段で、僕の知らないところに目的があったのかもしれない。結局はどっちでも良いことで、僕はただ歩き続けた。それが刹那でも、永遠でも、僕は歩き続けるのだろう。永劫回帰というわけでもなく、死を許諾しているわけでもないけれど。
 太陽は燦然と輝いていたが、皮膚組織に伝わってくる温度は無く、ああ、そもそも僕は何も感じていない。脊髄に異常があるのだろうか。
 晴れ渡った空だというのに、影の無い雪が降っていた。
 世界は僕一人だけ。
 世界は僕一人だけのもの。
 でもこの日は違った。


 ル、ルル、ルルゥ――……。唄が世界を閉じた。


 ビルの向こうに消える飛行機雲を眺めながら、僕は大学のキャンパスを歩いていた。目的地は激戦区になる前の食堂。時刻は十一時半だけど、このぐらいなら、まだ空いてる席があるだろう。隣にはにこにこ顔の紫苑。何がそんなに楽しいのかと聞くと、小鳥のように首を傾けて、「リンちゃん、楽しくないの?」なんて言い返されてしまった。
 どうやら僕といるだけで、紫苑はハッピーらしい。そういうことが言える紫苑が正直羨ましい。紫苑はハッピーな女の子で、でもやっぱり僕には無理なんだろう。


 在るはずの何もかもが消えるようで、でも街はソコに在る。其処に在っても、ここが何処だか判らない。そもそも在るはずとは、何だろう。僕は何を根拠にそう思ったのだろうか。僕の頭に詰まった不透明な記憶は、全く頼りにならず、確証なんて何一つ無いのに。
 僕は街を歩く。
 歩いて、歩いて、歩き続けていると、二車線の道路に、ぽつんと少女が立っていた。
 僕は独りが好くて、その少女の首に手を回した。
 少女はきっと、苦しくて、苦しくてたまらないはずなのに……
 悔しいくらい、にっこりと微笑む。
 泣きたいほど自分が情けなかった。
 でも僕は決してやめない。
 ほどなくして、少女は死んだ。少女の微笑もうとする懸命な努力も報われず、その死に顔は、ぐえっと舌を延ばし、白目を剥き、凄まじい形相だった。
 いつの間にか手に持ったナイフか何かの鋭利な刃物で、僕は彼女を何度も引き裂いた。ズタズタにズタズタに、狂ったように、彼女を突き立てる。抜いては刺して、抜いては刺して。
 世界は僕一人に戻る。
 すべての僕に戻る。
 ああ、また独りだ。
 かすかに影が揺らいだ。


 ―、――、――――……。無音が世界を閉じた。


 夜。
 ……満月の夜。
 僕の隣で眠る彼女の寝顔はとても安らかだった。
 ズキリ、と心が痛む。
 精神という自分にも痛覚は存在している。それはなんて皮肉だろうか。心と言葉のジレンマは、精神と身体のソレに似ていると思った。
 僕は彼女に告白された時のことを想い返していた。
 去年のカレンダーが最後の一枚になってすぐの頃、つまり一年前の出来事なのだけど、彼女が僕をケイタイで呼び出した。
 突然の彼女の告白に「僕も好きだよ」と、僕は応えた。その時、僕はどんな笑顔だったのだろうか。想像するだけで、吐き気がする。
「本当に嬉しい」ぽろぽろと、彼女は泣いていた。
 僕は嘘をついた。
 ずっと、僕は一人が好かったのに。


 また僕は独り街を歩いていた。なんで街を歩いているのだろうと思う。森でもなく、海でもなく、まして翼で空を飛んでいるわけでもない。どうして僕は彼方まで続く街を歩いているのだろうか。
 偶然、僕の前に少年が通りかかったので訊いてみることにする。
「ねえ、そこのあなた、どうして僕は街を歩いているのかしら? この雪の中、歩くのはとても気が滅入ってきたわ」
 振り返った瞬間、少年はやはり少女だった。だから僕も僕の有り様が変わる。
「ごめんなさい、知らないわ」申し訳なさそうに瞼を伏せて、少女は答えた
「そうか、知らないか」僕は素っ気無く呟く。「じゃあ死んで」
「ええ、あなたが受け入れてくれるまで何度でも死にましょう」少女は優しく微笑んだ。「あなたが幸せになりますように」
 それは果たして、祈りの言葉だったのだろうか。


 ギ、ギギ、ギギィ――……。ゴトリと首が落ち、赤い血が世界を閉じた。


 ……。
 夢を見た。

 狭い狭い部屋の中。
 母は僕を、突き刺した。
 細い細い小径の先。
 母は僕を、置き去りにした。
 深い深い山の奥。
 母は僕を、突き落とした。
 燃える燃える家屋を眺め、
 薄く僕は嗤う。
 ああ、僕は生きている。


 雪が降り続け、世界が白く白く塗りつぶされる。白が、あらゆる存在を呑み込んで、美しく染め上げる。僕の立っている場所から彼方まで真っ白に。僕はその白さに足跡を残すことで、辛うじて僕という存在を証明していた。僕一人っきりの世界で、僕は本当に存在しているのだろうか。だけど僕は、街を世界を、歩き続ける。歩くことでしか、僕は在りえない。
 ――ああ。
 決して溶けない雪の結晶たちが、僕の足跡さえ埋めていく。僕も、いつのまにか、僕が僕と判らないぐらいに白く染まっていた。
 だというのに、少女の髪は黒かった。
「また殺して欲しいんだ?」
「違う、認めて欲しいだけ」
「なんでだよ。僕の前から消えろよ」
「消えることなんて出来ないわ」
 少女の言葉は、忌まわしい呪詛か、さもなくば、誕生の祝詞だ。
 僕は執拗に、幾千回も彼女を突き刺した。


 ズ、ズズ、ズズゥ――……。僕に這い寄る黒い闇が世界を閉じた。


「ねえ、私のこと好き?」
 僕は答えない。
「ねえ、私のこと嫌い?」
 僕は答えない。
「嘘つき」
「……そうさ、僕は嘘つきの恥知らずだ」
 結局――真綿で首を絞められるような幸福に、僕は耐えられなかった。


 世界はノイズで満ちている。
 ザザザザザ、ザザザザザ。
 うるさいうるさいうるさい黙れ。
 大気に渦巻くノイズを僕は睨みつけた。そんなことは無駄と判っていても、判っているだけに我慢できなかった。せめてもの救いが、真っ白い雪がノイズを掻き消すように、降り続けていることだ。だけど、その雪さえも忌まわしい。
 やがてノイズは唄に変わり、唄は祈りに変わり、祈りは少女に変わった。少女は影を伴って、僕に近づく。
 僕は激昂した。
「なんで僕の前に立つ。何度繰り返せば気がすむだよっ。僕は要らない。お前なんか要らない。僕は僕で十分だ! お前なんてこれっぽっちも望んじゃいない!」


 サ、ササ、ササァ――……。白い満月が世界を閉じた。


 ――鏡に映る自分を、僕は好きになれない。
 だから、僕は紫苑に背中を向け合わせたまま、一言も声を発しなかった。紫苑も僕に背中を向けているのだろう。
 ずっと一緒にいる少女に、初めて僕は反発した。
 ささやかで、致命的な反抗。
 首に冷たい手の平の感触。
 紫苑が僕の首をぎゅっと絞めた。
 ああ、そうか。実にシンプルな答えだ。気に入らない世界は、跡形もなく壊してしまえばいい。それがベストだ。作り変えるよりも、きっと壊してしまうほうがずっと楽だ。
 僕をそんなに欲しいなら、体で繋がるなんてまどろっこしいことをせずに、初めから奪ってしまえば良かったんだ。心も体も全部これで紫苑のものになるんだろう。
 だけど何が残る?


 少女が言う。
「私は貴方だから、貴方の言う通りにしようと思う。だって、私は貴方なんですから。色々なところで、貴方は、貴方と私になっているけど、せめてこの街では、私は貴方に戻りたい。でも、貴方は独りが好いの?」
「君は僕だと言うけど、そんなことは、真実どうだっていい。僕はお前なんか要らない。僕は僕だけで十分だ。他の何も要らない」
「貴方は勘違いしている。私を殺すことは、独りに戻ることなの。私は貴方なんですから」
「だったら、僕はどうすればいい?」


 サ、ササ、ササァ――……。木々から雪が落ち、緑の葉が世界を閉じた。


 僕は鏡の前に立った。
 紫苑は本当の意味で鏡だったと思う。心も体も正反対だ。双子なのだから当たり前なのかもしれない。
 紫苑は泣き腫らした顔で僕を見上げた。
「僕は紫苑が嫌いだ。でも少しは好きになれそうなんだ。だから、だから、今更だけど、普通に戻ろう」
 

 いつの間にか雪はとけ、二車線の道路に少女と僕――いや、彼女と彼は立つ。
 彼女は闇で、彼は光で、彼女と彼は相対して双曲に位置し、彼らは二人で歩いていくのだろう。そのうち道路は四車線になって、そこからさらに増え、世界は何処までも広がっていくに違いない。
 陽光の下、二つの影が、そっと手を重ねるように手を離した。


 ザ、ザザ、ザザァ――……。



2008-11-11 22:02:11公開 / 作者:晶
■この作品の著作権は晶さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 過去作品を読み直して、観念的すぎるなーと相も変わらず思うわけです。現在執筆中の小説は物語をメインとして、プロット完成するまで暴走は控えようと思ってます。何が大切かって、それは読者が楽しめることなんですけども、作者も一緒に楽しみたいですよね。そのためには精進あるのみです。
 ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
 追記です。自分のペンネーム akiraとか、よさ様で使っていたために間違えてしまいました。利用者規約違反にあたると思い、どうしようかと思いつつ、書き直しました。ごめんなさい。
この作品に対する感想 - 昇順
すいません。致命的なミスを犯して、書き直しの修正しました。無駄なアップデイトに関して深くお詫びいたします。
2008-11-09 14:30:39【☆☆☆☆☆】akira
こんにちは!読ませて頂きました♪
そんなつもりはないのでしょうけど、私には不思議な話だなと思えました。リンと紫苑の関係も解るのですが、解らないといった感じです。夢の母親の意味とかも、どう意味なのかなとか考えてしまいました。まとまらないのですが、やっぱり不思議な感じだなと思いました。
では次回作も期待しています♪
2008-11-09 23:14:02【☆☆☆☆☆】羽堕
 羽墜さん、お読みいただきありがとうございました。
 最初の三行で果たして惹きつけられるか、読んでもらえる環境に甘えるのではなく、こう、食指が動く文章だっのだろうか。言葉に意味を託し帰結させ(放り投げはしてないはずっ)、けれど、作者の意図なんて、そのまま伝わるものではなく、伝わらないまでも不思議な空間を何か意識に残るものとして提供できるのか、そういうことを念頭に置いて書いてはいるものの、まだまだ甘い自分に叱咤したい気分です。いやもう、自分としては最後まで読むの苦痛でしたぐらいの感想もぜひとも頂きたい思いです。ならそんな文章だすなと言われるかもしれないのですが、自分の精一杯でがんばっていくのでご容赦を。
2008-11-10 18:57:14【☆☆☆☆☆】akira
 こんにちは。はじめまして。拝読いたしました。
 頭が悪いせいか、何が書かれているのかさっぱり分かりませんでした。観念的なのかどうかすら分かりませんでした。失礼なことを言ってたらごめんなさい。
 ただ、ザザザとかサササのような擬音に重要な役割を担わせようとなさっているのではないかという気がしました。そうだとしたら、擬音というのはやはり言葉ではないですから、書き手が伝えたかったものと読み手が受け取るものとの間の関係が曖昧で(感覚だけにゆだねることになってしまって)小説としてはいささか心もとないんじゃないかなと思ったんですが、いかがでしょうか。
2008-11-10 20:56:18【☆☆☆☆☆】中村ケイタロウ
 ごめんなさい。正直に話しますと、そこらへんは読音のみで、イメージ的な何かが伝わればいいかなぐらいの曖昧な気持ちでした。世界が閉じた。というところが大事で、そのへんボケーとしてましたね。いや、そこにそう突っ込まれると、うはーやっちまったとか恥ずかしい。という限りです。いや、いろいろな莫迦みたいに、判りにくそうな意味づけして書いてるのに(それ自体表現不足)、あまり考えてないところも実はあったりなかったり。まだまだ甘いっ 書き手が伝えたかったものとは、文章にしてしまい、第三者が見た時点で、別物油ものになってしまうと思うのですが、素人だからそこまで止まりなのか、そのへんはまだ辿りつけない境地です。本当に感想ありがとうございました。どんな風に相手に伝わるかというのを伝えて頂けるというのは本当に書き手としてはありがたい気持ちでいっぱいです。
2008-11-10 21:07:20【☆☆☆☆☆】akira
 お久しぶりの狸です。
 さて、ここまで抽象的な作品ですと、なかなかコメントが難しいのですが――今回の晶様が語ろうとした世界を読者に提示する上で、あまりに言語が刈り込まれすぎているのではないか、そんな気がしました。晶様の抽象的な表現は、ご存知のように、昔から馴染みやすい狸なのですが。
 中村様もおっしゃっている擬音に関しても、大半は狸にとって(あくまで狸なりに)脳内再現可能でしたが、たとえば『ギ、ギギ、ギギィ――……』という音だけは、いかに耳を澄ませても感覚できませんでした。 
 饒舌の似合わない、詩的に凝縮された心理的な世界でも、やはり見えるべき(聞こえるべき)ものは明確に見える(聞こえる)べきですし、見る(聞く)べきものさえ見せ(聞かせ)てもらえば、その事象そのものがいかに難解でも、真意の『ニュアンス』だけで魅了されてしまう――。
 たとえば狸の大好きなアニメ作家・押井守氏に、『天使のたまご』という作品があり、一般のアニメ・ファンには「何がなんだか話がわからん」「途中で寝てしまう」などと不評なのですが、狸などは、観るつどにもうギンギンに神経を覚醒させられて、その静謐で底知れず美しい世界に浸ってしまいます。つまり、状況の因果律やキャラの心理は掴み難くとも、その語ろうとする世界の『描写』だけは、音響も含めて完璧に構築されている、そんな作品なのですね。
 ではそれを文章だけでやれと言われると、今のところ狸自信尻尾を巻いて退散するしかないのですが、そこまでやっての文芸、そんな気もするのです。
2008-11-14 21:05:09【☆☆☆☆☆】バニラダヌキ
 疲れ果てての帰宅です。こんばんわ、バニラダヌキさん。
 何をもって物語をなすか、何を成して語りかけ、読者を惹きつけるか。中村さんの返信において、読音と書いてしまったのですが、どちらかといえば読眼?よく判らない言葉ですがで当時判別してしまったような気がします。しかし、おそらく妥協する以前に、自身の問いかけさえも、甘々なのが敗因模様。敗因と書いて、なまけものと読む。自身の武器をいかに光らせるか。自分は何を武器にしたいのか、そういったところによる挑戦の一つではあるのですが、今後、全神経尖らせて、執念深く、物語を書いていく所存です。
2008-11-14 22:09:47【☆☆☆☆☆】晶
作品を読ませていただきました。観念的な作品に感想を述べるのは難しいです。作者様にとっては開放された世界(作品)なのかも知れないけど、私にとっては閉鎖された世界としか受け取れず「ああ、この作品は作者以外は理解できないんだろうなぁ」などと感じてしまいました。で、この作品がつまらないかと問われると「よく分からないけど惹きつけられる」と答えるでしょう。私には決して入りこめない世界なのですが、外縁から眺めているだけでも興味を励起されます。でも、理解はできそうにない。なんだか不思議な作品ですね。では、次回作品を期待しています。
2008-11-16 23:39:14【☆☆☆☆☆】甘木
 甘木さん、お読みいただきありがとうございました。
 理解できないけれど、惹きつけられるとのことありがたいです。その惹きつけられる程度によってはある意味成功なんですが、希望的観測ではなく、精進いたします。あとつけいる隙のない作品として、徹頭徹尾追求したかというとそうでもなく、そこらへんどっちつかずの中途半端。反省。
2008-11-18 00:38:36【☆☆☆☆☆】晶
当方への感想をお寄せくださりありがとうございました。
乙一はお好きですか?
夢と現実が交錯する詩的、幻想的作品でしたね。
できるだけ客観的でありたいと考えている私にとっては、こういうものは絶対に書けないだろうなと思って読みすすめました。
ラブシーンの「吐き気を催すくらいの」という表現は珍しいですね。
また学食の混雑を示す「激戦区になる前の食堂」、こういう書き方もあったんですね。
「紫苑はハッピーな女の子で、でもやっぱり僕には無理なんだろう」これは謎めいています。何が無理なのか?ちょっと国語の入試問題に出してみたいなどと思いました。
しかし、実のところ言いたいことがうまくつながらないもどかしさも感じました。
私の読書経験の不足、いたらなさでしょう。
2008-11-18 12:54:07【☆☆☆☆☆】ダフニス
 ダフニスさん、お読みいただきありがとうございました。
 あえて言いたいことがうまく言わないのだけど、ぼんやりと、仄かに何らかの意図が伝えられたらなという作品にしようと思ったわけなんですが、それは作者の意図で意図は今のところは幻想で、なんとも難しいかぎりです。
2008-11-20 00:29:40【☆☆☆☆☆】晶
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。