『私の愛した彼女へ』作者:KR / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
教会の鐘の音が聞こえる。私は静かに目を閉じる。とうとう、この日がやってきた。私の彼女が、あの男の元へと嫁ぐ日が−−−。
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原稿用紙約2.58枚


 私の愛していた彼女が今日、お嫁に行く。綺麗な純白のドレスを着て、教会で式を挙げるのだ。

 初めてそれを聞かされた日から、約半年。長かった。けれど、あっという間でもあった。
 彼女と私が出会ってから、早二十年あまり。長かった。そして、あっという間でもあった。


 子供の頃の彼女は、小さくて、体が弱くて、暑かったり寒かったりしては、すぐに風邪を引いた。何日も幼稚園を休んでは、私を心配させた。
 小学校に上がる頃には、少し丈夫になったけれど、大人しい性格は相変わらずで、入学式で新しいお友達に声をかけられても、私の後ろに隠れてしまっていた。

 そんな彼女を、私はずっと見守ってきた。彼女のことなら、私は誰よりもよく知っている。

 初めて男の子に告白をされたのは、中学二年生のとき。相手は同じ部活の先輩で、彼女は顔を真っ赤にして、私に「どうしたらいい?」と相談してきた。
 初めてのデートはその一ヶ月くらい後。遊園地に行ったと言っていた。


 二十年以上もの間、私は彼女の「いちばん」であり続けた。


 高校を卒業した後、彼女は在学中からアルバイトをしていた本屋に就職した。それと共に家を出て一人暮らしを始め、私に行った。

「これからは、一人で何でも出来るように頑張るから」

 その瞬間、私は胸が強い力で締め付けられるのを感じた。
 私が守らなければならないと信じていた彼女は、いつの間にか、私など必要ではないほど、強い人間になっていた。
 笑顔の彼女を前にして、私は涙がこぼれそうになった。あなたが遠くへ行ってしまう。私の手の届かないところへ。

 それから二年後、彼女は私の元に、結婚したい相手がいると言って、彼を連れてきたのだった。


「おめでとう」
「おめでとう」

 彼女が笑っている。友人達に囲まれて。彼の隣りに寄り添って。

「……おめでとう」

 私も声に出して言う。
 さようなら、大好きなあなた。今まで、よく頑張ったね。これからは、本当に私がいなくても平気なのね。

「幸せにね」

 堪えていた涙が、頬を伝う。たまには、顔を見せに来てね。旦那さんと仲良くね。あぁ、もう。年寄りはダメね、湿っぽくて。


「……ありがとう、お母さん」


 彼女が笑う。二十年間ずっと変わらない、私にそっくりの幼い顔で。



 終
2008-09-07 20:30:17公開 / 作者:KR
■この作品の著作権はKRさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
もうログも残っていないほど昔ですが、以前もここに小説を投稿したことがあります。
その時から「一人称」で「短編」の小説を書くことにこだわってきました。
このお話は、始めは女友達の友情(ときどき愛情)物語にしようと思って書いたのですが、
ちょっとひねってみたところ、こんなオチがつきました。
面白いと思って貰えれば光栄です。
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは!読ませて頂きました♪
前書きと冒頭で、父親かと思っていたら、そっちでしたか。子供って、いつまでたっても心配なものなんだなぁとか思いながら、温かく読めました。
では次回作も期待しています♪
2008-09-07 21:58:24【☆☆☆☆☆】羽堕
はじめまして。時貞と申します。作品を拝読させていただきました。なるほどですね。こういったオチでしたか。なんとなくオチ付きのショートx2のような気がして身構えていたのですが、僕の予想したオチとは違っておりました 笑 なので面白かったです。短くシンプルで、オチが「なるほど」。ショートx2らしい作品だったと思います。今後の作品にも期待しておりますので。それでは。
2008-09-08 16:07:52【☆☆☆☆☆】時貞
作品を読ませていただきました。ストレートな作品だけど主人公の立ち位置を上手く最後までぼやかしていてよかったです。ただ、行間が妙に空いている意味がわかりませんでした。行間が空いているためなんとなくスカスカした印象を受けました。では、次回作品を期待しています。
2008-09-14 12:28:04【☆☆☆☆☆】甘木
計:0点
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