『Color World』作者:CLOWN / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
子供の頃に読んだ絵本をイメージして作られた大人への物語
全角3089文字
容量6178 bytes
原稿用紙約7.72枚


いろのせかい


なにもないせかいに かれはいました。
かれはじぶんのことを しりませんでした。
だって なにもないのですから。
かれはしらないことを しりませんでした。
じぶんがいるのかすら しりませんでした。
でも かれはたしかに いました。
そのせかいには かれだけが いました。
だから なにもないせかい ではありませんでした。
だから かれはじぶんがいることを しっています。
かれはじぶんのことを しりたくなりました。
でも しることはできませんでした。
なぜなら かれいがいにだれもいないからです。
だれかにきくことが できません。
だれかとくらべることが できません。
だから かれはしらないままでした。
だから かれはたびにでました。
じぶんをさがして たびにでました。
じぶんいがいをさがして たびにでました。


あるひ、きいろいひかり にあいました。
きいろいひかり にかれはたずねました。
「あなたはだれですか?
わたしはあなたとおなじですか?」
ひかりはくびをふってこたえました。
「わたしはきいろいひかりです。
しかしあなたはきいろではありません。
わたしはしんじつをみせられるでしょう。
でもあなたはできません。
だからちがいます。」
かれはひかりをしりました。
そしてじぶんがひかりでないこともしりました。
ひかりはかれにいいました。
「あなたはわたしではないけれど。
 きっとあなたとおなじもどこかにいるわ」
かれはうなずいてそのばをさりました。


つぎに、あおいうみにあいました。
あおいうみにかれはたずねました。
「あなたはだれですか?
わたしはあなたとおなじですか?」
あおいうみはくびをふってこたえました。
「わたしはあおいうみです
しかしあなたはあおではありません。
わたしはいろいろなばしょにいけるでしょう。
でもあなたはできません。
だからちがいます。」
かれはうみをしりました。
そしてじぶんがうみでないこともしりました。
うみはかれにいいました。
「あなたはわたしではないけれど。
 きっとあなたとおなじもどこかにいるわ」
かれはうなずいてそのばをさりました。


つぎに、みどりのもりにあいました。
みどりのもりにかれはたずねました。
「あなたはだれですか?
 あなたはわたしとおなじですか?」
みどりのもりはくびをふってこたえました。
「わたしはみどりのもりです。
 しかしあなたはみどりではありません。
 わたしはしずかにそだてるでしょう。
 しかしあなたはできません。
 だからちがいます。」
かれはもりをしりました。
そしてじぶんがもりでないこともしりました。
もりはかれにいいました。
「あなたはわたしではないけれど。
 きっとあなたとおなじもどこかにいるわ」
かれはうなずいてそのばをさりました。


つぎに、ももいろのはな にあいました。
ももいろのはな にかれはたずねました。
「あなたはだれですか?
 あなたはわたしとおなじですか?」
ももいろのはな はくびをふってこたえました。
「わたしはももいろのはなです。
 しかしあなたはももいろではありません。
 わたしはあかるくいやすでしょう。
 しかしあなたはできません。
 だからちがいます。」
かれは はなをしりました。
そしてじぶんが はなでないこともしりました。
はな はかれにいいました。
「あなたはわたしではないけれど。
 きっとあなたとおなじもどこかにいるわ」
かれはうなずいてそのばをさりました。


つぎに、あかい いのちにあいました。
あかい いのちにかれはたずねました。
「あなたはだれですか?
 あなたはわたしとおなじですか?」
あかい いのちはくびをふってこたえました。
「わたしはあかい いのちです。
 しかしあなたはあかくありません。
 わたしはいのちをつくるでしょう。
 しかしあなたはできません。
 だからちがいます。」
かれはいのちをしりました。
そしてじぶんがいのちでないこともしりました。
いのちはかれにいいました。
「あなたはわたしではないけれど。
 きっとあなたとおなじもどこかにいるわ」
かれはうなずいてそのばをさりました。


つぎに、だいだい いろのゆうひにあいました。
だいだい いろのゆうひにかれはたずねました。
「あなたはだれですか?
 あなたはわたしとおなじですか?」
だいだいいろのゆうひはくびをふってこたえました。
「わたしはだいだい いろのゆうひです。
 しかしあなたはだいだい いろではありません。
 わたしはすべてをつつむでしょう。
 しかしあなたはできません。
 だからちがいます。」
かれはゆうひをしりました。
そしてじぶんがゆうひでないこともしりました。
ゆうひはかれにいいました。
「あなたはわたしではないけれど。
 きっとあなたとおなじもどこかにいるわ」
かれはうなずいてそのばをさりました。


つぎに、むらさきのそらにあいました。
むらさきのそらにかれはたずねました。
「あなたはだれですか?
 あなたはわたしとおなじですか?」
むらさきのそらはくびをふってこたえました。
「わたしはむらさきのそらです。
 しかしあなたはむらさきではありません。
 わたしはゆうきをあたえるでしょう。
 しかしあなたはできません。
 だからちがいます。」
かれはそらをしりました。
そしてじぶんがそらでないこともしりました。
そらはかれにいいました。
「あなたはわたしではないけれど。
 きっとあなたとおなじもどこかにいるわ」
かれはうなずいてそのばをさりました。


かれはつかれてしまいました。
どこにもかれとおなじはありませんでした。
かれはひとりになりました。
だれともちがうからひとりでした。
かれはかなしみました。
それをひかりも、うみも、もりも、はなも、
いのちも、ゆうひも、そらも、みていました。
かれらははなしあいました。
そしてみんなでかれのところへいきました。
そして、かれにひとつのものをさしだしました。
それは『くろ』でした。
ひかりのきいろと、うみのあおと、
もりのみどりと、はなのももいろと、
いのちのあかと、ゆうひのだいだいいろと、
そらのむらさきをまぜたいろでした。
かれはおどろきました。


『くろ』はなにもないせかいでした。
きいろとちがいしんじつをもっていません。
あおとちがいどこにもいけません。
みどりとちがいせいちょうをとめました。
ももいろとちがいものがなしくもありました。
あかとちがいいのちをつくりませんでした。
だいだいいろとちがいひとりでした。
むらさきとちがいちからをとじこめました。
でも、かれらのいろからできていました。
だからすべてがありました。
かれはやっとしりました。
じぶんがくろだとしりました。
やはりかれとおなじはありませんでした。
でもかれはひとりではありませんでした。
なぜならかれはなにもないけれど
たしかにかれらのせかいだったからです。
かれはくろのせかいでした。
2008-03-18 22:00:03公開 / 作者:CLOWN
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■作者からのメッセージ
絵本をイメージして作ったので、あえて全てひらがなで書きました
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして。
好きな世界観でした。ただ、真新しさはなかったかと。絵本をイメージして……とありますが、作者がイメージしてるのは分かりますが、読者にイメージさせるタイプでは無いようですね。漠然とし過ぎていて私には深くイメージ出来なかっただけかもしれません。
失礼致しました。
2008-03-19 01:04:07【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
感想ありがとうございました。
そうですね、次からは読者の方々にイメージしてもらえるような作品を作っていこうと思います。
2008-03-19 09:49:56【☆☆☆☆☆】CLOWN
作品を読ませていただきました。これはグノーシス系原始キリスト教の世界創世神話みたいですね。相容れない絶対を持った主人公が自己を模索するのを色の形で象徴化するのは面白いけど、その色が読者には伝わりづらかったと思います。私には『いろ』は単なる名詞としてしか捉えられず、視覚的なイメージが浮かんできませんでした。では、次回作品を期待しています。
2008-03-20 22:45:27【☆☆☆☆☆】甘木
かんそうありがとうございました。
やはり私の作品には読者にイメージさせることが足りないみたいですね。
色々模索しつつも頑張ろうと思います。
2008-03-26 00:22:41【☆☆☆☆☆】CLOWN
計:0点
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