『「このメールを見たら変身して下さい」』作者:ドライバー / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角2682文字
容量5364 bytes
原稿用紙約6.71枚
「何だこりゃ」

会社の屋上で寝転がっている時、携帯の受信ボックスに何ともおかしなメールが来た。相手は僕の愛しい彼女。受信相手は僕。
『このメールを見たら変身してね』
何ともおかしなメールが来たものだ。あれ、さっきも言ったっけな。とりあえず、変換ミスということで受け取ってもいいだろうか。それとも何かしらのツッコミを入れたほうがおいしいだろうか。
しばらくそのメールを見つめた後、親指を動かした。何年携帯を懐に入れてきたかは覚えていないけど、メールを打つ速度は速い方だと思われる。
『どうやって?』
メールを送信しました、と画面に表示されたのを見た後、僕はふふっと笑いをこぼしていた。
相変わらず、馬鹿な彼女が愛おしくてたまらないのだ。昔から、変わらない。
少し時間が経って、携帯が鳴いた。急いで起き上がる。僕は携帯が鳴いたと言うけど、みんなはあまり使わないらしい。
メールの画面を見ると、メールの返信の仕方が丁寧に書かれていた。それを見て、僕はまた笑う。本当に馬鹿なんだから……

僕が彼女はただのクラスメイトだった。ただ、僕は彼女のことが少し気になっていたから、小学校の卒業式で別れるとなると少し名残惜しかった。
しかし、中学校でも一緒。高校でも一緒。そこまで一緒の彼女との仲は、少しずつ深まっていった。
そして、高校2年生の春休み。彼女から、呼び出しがあった。急いで、公園に行くと、

「ずっと好きだったんだよ」

と言われた。卒倒するかと思った。じっと彼女を見つめていた。あまりの突然の出来事に、僕の頭の中で対処しきれなかったのだ。そんな俺を彼女が心配そうに見つめる。
早く、返事をしなければ。

「ぼ、僕も好くッ……!」

……目の前で彼女が笑っているのが恥ずかしかった。



『変身メール』が来た2、3日後、僕は会社で重大な役目を背負うことになった。これが成功したら昇進。出来なかったら……

「どうなるか分かってる?」

「クビだよ、クビ」

僕は自分の首を切る真似をしながら彼女に言った。もう、何回も来ている彼女の部屋で、僕はすっかりくつろいでいた。彼女はそんな僕を気に留める様子もなく、僕の言葉に目を丸くしていた。ホントに? と言っているようだが、何しろ声が出ていないからどうしようもなく。
バイト先で面白おかしくやっている彼女に、クビという言葉は衝撃的だったらしい。そろそろこいつにも働いてほしいんだが、馬鹿だからなぁ……仕事とか任せられないかも。

重役を任せられてから、また2、3日後、最近ちょっとイライラしてない? と彼女に言われた。そんなつもりはないんだけど。あぁ、でも、少し息がつまり過ぎているかもしれない。こういう時はどうする? ドラえもんにでも頼んでみるか?
嫌すぎる……

少しお酒を飲む量が多くなった。イライラしていて、お酒を飲まずにはいられなかった。彼女が心配そうにこっちを見ているのが分かったけど、気にかけなかった。あいつは馬鹿だから、僕のやってることの大変さが分からないだろう。だから、黙って見守ってろよ。
本当に馬鹿だから……と、心の中で繰り返した。馬鹿と言いすぎて、馬鹿ってなんだっけ? と思うこともあった。よくあるよね。僕は最近、「足」という漢字を見て、変だと思った。

彼女を殴った。無性にイライラしていた。仕事がうまくいかない。酒を飲みたいのに、ない。

「なぁ、酒は?」

彼女は僕を冷たい目で見ながら、

「ないよ」

と言った。それが無性にイライラした。何でそんな冷たい目で見るんだ。お前馬鹿のくせに。僕のやっている仕事の大変さを分かってくれよ。
馬鹿のくせに……!
バシッと乾いた音がした。彼女はとても痛そうな顔をした。一瞬、後悔した。でも、その後、こいつは馬鹿だから、と思い直した。
お前は馬鹿だから、こんなことされても僕の傍から離れはしないだろう?

彼女の家に行ったら、ドアの前に鍵が置いてあった。その横には「この鍵で家に入ってください」と書かれた紙が添えてある。本当に馬鹿なんだな。誰でも歓迎するつもりか。そう思いながら、笑う。今日は彼女の好きなものを買ってきた。馬鹿でも、やっぱり愛しているから。
家に入ると、少し冷えた感じがした。思わず、彼女の好きなものが入っている袋を落としてしまった。彼女の部屋には、何もなかった。彼女と一緒に見たテレビも、僕がよくくつろいでいたソファーも、彼女が座っていたベッドも、僕がお酒を取り出した冷蔵庫も、何もかも……何だ、これは……手紙? 机の上に封筒が置いてある。僕の名前が書いてあった。急いで、開く。

『私は、君が大好きなのに、君は私のこと、嫌いなのかな。
そんなことないと分かっていても、やっぱり不安になるよ。この手紙を読んでるってことは、今私の部屋に居るっていうこと。この間殴ったこと、心配して来てくれたの? 
それとも、ただお酒を飲みにきただけなの?
私は君に変わって欲しかった。飲んだくれの君から、あの優しい君へ。そう訴えようとしたのに、君は殴った。とても、とても傷ついたんだよ。
変わってくれない君と、もううまくやっていける自信がありません。今でも、大好きだけど、もう君とは会いたくない。
元気でね、ばいばい。』

何だよ、これ……ばいばい? ばいばいって、何だ。何でそんな……
だって、僕は愛してる。きみを愛してる。殴ったことを心配して来ているんだ。1日ぐらい待っていてくれたっていいじゃないか。なぁ……

「ああぁぁぁぁ……」

まともな声が出なかった。もう少し、まともな声で泣きたかった。でも、彼女が居ないんじゃ……
君は、変身の仕方を教えてくれなかったじゃないか。メールの返信の仕方しか教えてくれなかった。変身の仕方を知らない僕が、変身なんか出来るわけがない。彼女の笑った顔が頭に次々と浮かぶ。酷い、僕に愛想をつかせて出て行った彼女の顔が想像できた。
いや、彼女はまだ僕のことを愛していると言った。それならば……
酷く傷ついた彼女の顔が想像できた。いつか彼女を殴った時と、同じ顔。そんな顔をしながら、あいつは出て行ったんだ。
あんたは僕に会いたくないかもしれないけど、僕は会いたいよ。変わってみせるから、ねぇ。あぁ、でもどうやって変わればいいのか。
誰か、変身の仕方を教えてくれ……

2008-03-17 10:39:09公開 / 作者:ドライバー
■この作品の著作権はドライバーさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
再び投稿!
前回の作品は詩のようになってしまったので、今度こそ小説に……!
心理描写もうまく書けていればいいな。
至らない点についてアドバイスがいただければ幸いです。
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして、気まぐれ猫と申します。
最初にタイトルを見てなんじゃこりゃと思いましたが、最後まで読むとなるほどそうだったのかと納得することのできるいい作品だったと思います。前回の作品も読んではいたのですが他の皆さんとコメントが似たようなものになってしまいそうだったので控えさせていただきました。
僕が考えるに彼氏の方は仕事が上手くいかなくてイライラしているようですが、仕事で失敗して上司に怒られている場面などを入れるとより詳しくなるかと思います。
乱文失礼しました。今後とも頑張ってください。
2008-03-18 17:27:07【★★★★☆】気まぐれ猫
[簡易感想]おもしろかったです。
2008-03-19 00:27:17【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
初めまして。先ず、タイトルが嫌で読むのを避けてました。変身=返信の変換ミスのお笑いネタを知っていたので。(念の為、真似してると言う意味ではありません)
この話は良く締め括られていて面白かったです。ただ、この話ならもっと肉付けした方が(背景や状況の描写)良いと思いました。
では、また。
2008-03-19 01:32:37【☆☆☆☆☆】ミノタウロス
こんばんわ。祟られる者です。

良かったです。ショートショート! って感じがしました(何
背景描写が必要最低限なんですが、なんとなくそれが頭に思い浮かべられました。要所のみを描写してあり、ショートショート特有の良いリズムだったと感じました。
詩的な表現もちらちら見えて、基盤が詩で、それを小説風にしたっていう感じなのでしょうか?
リズムを崩さない程度に描写を増やしてみてはどうでしょうか?各々要所にちょっとだけ。


>家に入ると、少し冷えた感じがした
の部分で自分は色々思い浮かびました。何故か新居とかもこんな印象ですよね。
フローリングが面積の殆どを取っている状況が浮かびました(ぉ


何やら乱文ですが、次回作にも期待申し上げます。
2008-03-19 03:38:52【★★★★☆】祟られる者
作品を読ませていただきました。うまく纏めてあり非常に読みやすかったです。「変身」という言葉も上手く使っていてラストにちゃんと効いてきて良かったです。欲をいえば、主人公が抱えていたイライラ感や彼女への想いをもう少し描写して欲しかったです。では、次回作品を期待しています。
2008-03-20 13:55:53【☆☆☆☆☆】甘木
計:8点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。