『ハールメンの女』作者:そぷらの / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
ハーメルンの笛吹き男、約束を破られ130人もの子供を街から連れ去った。この笛吹き男はマグス。すなわち……悪魔
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 悲しい目を見つけました。
 僕は、僕が一番不幸だと思ってました。なにに対しての“一番”だったかは分かりません。だけど一番不幸だと思っていたのです。
 だけど、その目を見てから、僕は二番、いや彼女に比べれば最下位にでもなれると思いました。上には上がいました。井の中の蛙だったのです。井蛙は思いました。彼女には何があったんだろう。しかし井蛙は同時に気になるけどこれを聞いたら井蛙は彼女の傷口を抉ってしまうのではないかと。まだまったく直っていない傷口を抉ってしまうのではないかと。
 井蛙はたくさんの時間を費やして、悩みました。




1話

 彼女、そう、藤原 夏実は。
 クラスでも人気者で、いつでもニコニコ笑ってた。みんなから好かれてた。僕という例外を除いて。
 だけどいつからだろう。彼女が笑わなくなったのは。みんなは笑ってると思ってるけど、僕には全然そう見えない。なんていったらいいんだろう。そうだ、瞳が死んでる。
 そりゃ、みんなはそんなふうには見えてない。並大抵の死んでるって次元じゃないんだ。みんなに分からないくらいの、死んでる程度。だけどそれは、重大なこと。大変なこと。その人にとっては、ね。
 僕だけ気づいてしまった。みんなに言っても笑われるんだ。だからほっておいた。僕はとくに気になってたわけじゃないし、ぶっちゃけ嫌いだった。うるさいから。基本うるさい人は、嫌いだ。

 だけどなんだかほっとけなかったのが事実。惹かれてるとか、そういうことじゃなくて。
 心配だった。僕の過去みたいで。気になった。そうやって愛想笑いして。自分だけ傷付いて。昔の僕とまったく一緒。だんだんいらいらしてくる。なんだろう、この感じ。とりあえず今は母性本能が目覚めたって思っておこう。別にカマとかじゃないけど。とりあえず、ってことで。

 これ以上藤原の目が死にませんように
 部活帰り、たまたま見つけた流れ星に小さく願った。3回も願う気なんか、毛頭ない。

 僕の願いは儚くも藤原は日に日に目が死んでいった。みんなもどうしてわからないんだろうと、客観的になっていた。僕もどうかしてる。そんなことを思いながら机に座って弁当を食べてた。大好きないちごみるくを飲みながら。
「おい庄司。またそれ飲んでるのかよ。弁当とあうわけ? 甘すぎねぇ?」
「甘いものが大好きなの。もちろんチョコだって好きだからね! だけど好きなもの限定」
「そういえば庄司この前女子から貰った甘いカフェオレあげてたもんな。好き嫌い激しいって」
「お褒めの言葉ありがとう」
「「いやほめてねーから」」
 決してウケを狙ってるわけじゃない。僕にとって好き嫌い激しい、甘いものが好きだなは褒め言葉なんだ。嬉しい。
 ちらり、
 藤原を見てみた。あれ、おかしいな。さっきより目が死んでる気がする。そんな何分何秒かの話をしていただけで、目って死ぬものなのかな。自分の携帯をかばんから取り出してみる。あ、これ校則違反ね。時間を表示するはずに作られた銀色をしている部分を見てみた。ぽちりと携帯のよこがわについてるボタンを押して時間を表示させた。時間を見るふりして、自分の目を見つめる。ちょうど時間が変わった。何秒かでは、目は死なないらしい。時間が光って表示されるのは僕の携帯の場合、1分。ぷち。1分たって、時間が消えた。残像が残る。
 ああ、1分でも普通は目が死なないらしい。
 藤原を見てみると、なんてことだ。ちょこっとだけさっきより死んだ気がした。おかしいな。なんだか僕が狂ったみたい。

 僕は誰にでも必ず飽きっぽいって言われた。何をやっても続かない。つまらない。みんなの前では並みのことしてるけど、本気出せばいつだってぬかせた。本気を出すのが嫌なだけ。ご褒美が欲しかった。ほら、テストの順位だって毎回1位とってるよ。1位とると“1”に関係する“1万円”をもらえる。関係するのは1だけなんだけど、もらえるモンはもらおう。ちなみに友達には僕は20番代といってある。みんなにとって1位は不明。僕が1位だから、なのに嘘を言っているから。たまに誰かが嘘で1位って言ってる。そういうのをみてるのも面白い。おめでとうと声をかけてあげると、目が泳ぐ。でもいいだろなんて言ってきたりするやつもいた。大嘘つきめ。
 話が沢山脱線しちゃったけど、今回のことはどうしてだろう。飽きない。日がたつほどハマる。このゲームの攻略はどうすればいいんだろう。クリアするにはどうすればいいんだろう。答えのない問題。
 藤原はいつ壊れてしまうんだろう。見てるといっつも思う。相変わらずうるさいけど、目の光はだいぶ消えた気がする。さようなら、キラキラした藤原。
 そういえばいつからだっけ、藤原の光が消えかけてきたのは。えっと、昨日も面白いと思ってたし、確か一昨日が1分でどれだけ死ぬかみたから……。一昨日の昨日だ。あー、一昨日の昨日でこんなに目が死んじゃうなんて。昔の僕といい勝負だ。僕の右に出るものはいないと思ってたのに。怒りが一日に一つ増える。だけど好奇心がそれに比例する。僕のグラフはどうなってるんだろう。藤原がバクったゲームなら、僕は狂ったゲームだな。どっちのほうがマシなんだろう。まぁ僕はどっちも嫌だけどね。
「庄司、なんでお前今日はコーヒーなんだよ。しかもブラックじゃん」
「あ」
 僕としたことが、どうしちゃったんだ。
「……あげようか?」
「俺はブラックほど苦いものは嫌だ」
 何言ってんだ、この前教室で飲んでたじゃないか。
「そうだよね、そういう男だお前は」
「こういう男だ、俺は」
 ニ、と笑う。こいつの名前はなんだっけ。そうだ、明弘だ。実を言うとね、明弘。俺はお前に興味ない。名前もそのとき突然思い出すくらいなんだ。行き当たりばったり、まさに僕のこと。
「じゃぁ誰かに飲んでもらえ、もしくは自分で飲んでみろ」
 っふ、と笑って去った明弘。このまま二度と会えないと、明弘は悲しむかな。僕は多分微笑むよ。
 またね、と普通らしい挨拶をしてみた。ここまで茶化されたのだから、むしろ普通じゃないかもしれない。だけど気にしない。みんな僕をそういう男と決めている。だから僕もこういう男になってみた。
「ブラック、か」
 僕の一番嫌いな色。なんでも壊しそうだ。
 僕は白が一番好き。なんでも飲み込みそうだから。
 これは僕にとってとっても大きい差。天地の高さより大きい差だと思うよ。だけど他の事にとっては蟻の触角と地面の差でもない。正直どうでもいい。興味ないことには、そんな感じ。だからといって好き嫌いの色も興味あるわけじゃないけど。なんだろ、矛盾してる気がするけどま、いいでしょ。僕はそういう男なんだから。

「あー! それブラックじゃん」
「そうだね。ブラックだね」
 うるさいんですけど。犯人は藤原。死んだ目、してるくせに。そんなにつらいなら大声ださないでよ。人の迷惑も考えて欲しい。
「夏実が欲しいって分かって買ってくれた? そういう系? ありがとー」
 そういって僕の手からコーヒーブラックをとった。ていうか盗った。勝手に何を決めてるんだ。
「まあ欲しいって分かってたからじゃないけど。いらないからあげる」
「サンキュー。あ、間違ってかったいちごみるくあげようか! 今日の夏実どうかしててー」
「おお、僕も今いちごみるくと間違えたところ。同じだね」
「おそろー! はい、みるく」
 ハイ、と手を出されその上にのってたいちごみるく。おかえり。別に盗まれたわけじゃないけど。なんとなく。いちごみるくが乗ってないほうの手は、がっちりとコーヒーをつかんでいた。いってらっしゃい、二度と戻ってくんな。
「ありがとね」
 最後にお礼を言われた。
「こちらこそ」
 なんとなくつられてお礼をしたら、ニコっと笑われた。なんだ、たまには目に光が戻るんだ。君の光は旅行が好きなんだね。今度お土産買ってきてよ。そしたらもう二度と家から出ないで。引きこもりになれ。そうすれば僕は藤原なんかを毎日見なくてすむんだから。
 藤原が携帯を見る。どうやらメールが来たらしい。僕の必死にもなってない容易いお願いは、一瞬で砕ける。また光が旅行に行ってしまった。いってらっしゃい、どうかすぐ帰ってきて、事故になんかあわないでね。

 だけどね、ここ数日光は返ってこない。きっと事故にあってしまったんだ。なんだか僕の願ったことはなんでもかなわないね。軽くショックを受けるよ。僕はもうお願いしないほうがいいんだろうか。そんなこといったって自分の都合のいいときにしかお願いなんてしてないけど。

「庄司、アンタ最近どうしたの?」
「何が?」
 なんだコイツ、どうかしたのか。僕が何。なんで話しかけた。最近はどうやったら藤原の光が帰国するか考えてるのに。そういえばお前藤原の友達じゃないの?なんで気づかないの?眼科医ってこいよ、今までの過ちがわかるから。
「最近のアンタは、目が、死んでると思う」
「……は」
「なんかさ、考え事してるっていうか……いつもの庄司じゃないみたい。なんだろ……あたしなんでこんなこといってんの? ごめん、忘れて」
 そういって藤原のツレ、確か相沢は藤原の下へいった。何、僕が藤原と同じ?え、は?お前藤原のことは分からないくせにいつもいない僕のこと見て分かったの?
 携帯を取り出す。銀色のところで目を見てみた。あれ、本当。目が死んでる。僕の光の旅行先ってどこだろ。なんだ、藤原関係のことで悩んで藤原関係のことで助かってんじゃん。これは僕が藤原関係のことに首を突っ込まないほうがいいってことなのかな。
 何がおかしいんだ、何が僕を狂わせてる?
 俺は狂ったゲームなのに、ウイルスが入ってきちゃったじゃん。ああゲームの主人公がぶっ壊れた。一生クリアできない。だけど藤原のゲームは壊れただけ。治せるかも。だったら僕も治せるや、だってたかがゲームじゃん。パソコンに比べたら全然複雑じゃない。まだ持ってた携帯を見つめる。そういえば今何時だろう。光った時間よりも、自分の目を先に見つけてしまった。あ、お帰り。旅行は楽しかった?お土産にアイツの光、くれないかな。時間が表示される。もうすぐ4時間目がはじまる。給食が近い。今日も間違ってコーヒーを選んでみようか、そうすれば藤原はまた交換してくれるかな。
 けど癖っていうのはなかなか直らなくて、ガコン。気が付けば手元にはいちごみるく。
 
2話

 最近藤原を見て分かったこと。
 光が死ぬのは「タラリラリラ♪」という着信音のメールが届いたとき。一瞬動きが止まって、携帯をぱかりと開ける。すると完全に光と目がお別れするんだ。誰からのメールなんだろうな。そういえば藤原も校則違反してるんだなあ、なんて思いながら。
 この行動は<ストーカー>みたいで、そう呼べると思うけど、<観察>と考えてほしいかもしれない。ストーカーなんか嫌だ。一緒にしないでほしいけど、それに似た行動をとってるから、ま しゃーねーか。けどね、僕が毎日藤原を見てることを知ってる人はこのクラスには誰も、いない。タラリラリラ♪着信音がなる。ああ、藤原だ。光の外出中にメールがきちゃったよ。どうなるんだろうなぁ。
 少しだけ、藤原の顔色が悪くなった気がした。

 あみだくじをやってみよう。迷ったときにはこれが一番だよ。
 机にらくがき。縦に2本線を引く。いつもより長く引いてみた。右に○を書いて、左に×をかいた。今度は適当に横線を引く。どーちーらーにーしーようかーな天の神様のいうとおりー♪左右を交互に指で触って歌を歌う。どっちからはじめようか。神様は右を選んだみたい。じゃあ僕は左から進もう。
 結果は×。おお、神様は○だったのか。これは小さな賭けだった。僕一人の寂しい賭け。もし○だったなら藤原に直接相談を聞いてあげようと思った。×ならもう関わらない。それで×だったから、僕は藤原から離れる。さようなら藤原。もしかしたら今度は君が旅行に逝ってしまうかもしれないね。そのときは僕が逝ってから会おうか。何年後の話になるんだろう。机に書かれた賭け事を消しゴムで消しながらそう思った。

 藤原観察を中止してから3日。僕は一度も藤原を見てない。僕は第3者、つまり他人の仲間入りを果たしたんだ。おめでとう、僕。これで面倒ごとに巻き込まれないですむね。正面を見ると、ああなんてことだ。目の前に藤原がいるや。とりあえず目を見てしまった。癖っていうのはこれだから困る。
 やっぱり光は出かけてた。少し寂しい気がした。
 そして目線を下に下ろしたとき、見つけてしまった。彼女の左手首に、紅い無数の線を。あれは間違いなく血液。酸素に触れてかたまったもの。
 彼女は自らの手首を刃物で切る程追い詰められていたのか。人間って愚かだ。誰かに相談できず自らを傷付けやっと初めて発散できている。
 愚かだの馬鹿だの下らないだの貶しているこの僕が、いちばん愚かだ。

 僕の左手首にも、藤原と同じ、紅い無数の後が飛び散っている。
 そしてその跡も残っている。

 僕とアイツは一緒なのかも、しれない。
 だとしたら救ってあげないといけないのかもしれない。台本通りに行くと、僕はあの後すぐ壊れた。彼女は僕より脆い。僕にすぐ追いついてきている。きっとこのペースだと今週中だな。
 どうして僕がこんなに他人に付きまとうんだろう。どうしてだ?きっと同じだからだ、僕と彼女は。そう思っておこう。母性本能は、すてた。



つづいてます
2008-03-15 11:33:20公開 / 作者:そぷらの
■この作品の著作権はそぷらのさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんにちは、はじめまして。そぷらのです。初めての投稿です。それで規約とにらめっこ状態です。覚えられなくてすみません。あ、タイトル変えました。
自分は脆いから鋭く言われてしまうと砕けちゃうので、どうかやわらかめにいってもらえると非常に助かります。
描いてて自分で「本当にこれ中学生?」とか思ってます。自分中学生なので比べては笑ってます。ごめんなさい。リアルな要素は多分ないですね。
最後に、ここまで読んでくれてありがとうございました。そぷらのでした。
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