『赤い糸を追って』作者:暴走翻訳機 / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
小指に結ばれた赤い糸は、運命の証。もし運命などと言うものがあるのなら、私はそれを見つける。それを確かめたかったから、私は旅に出た。
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原稿用紙約6.21枚
 世間様にしてみれば、既に夏休みに入って一週間が経った頃。ミンミンゼミが喧しく大合唱し、佇んでいるだけで汗が滝のように流れる夏模様に耐えかねる。
 そして私は、年中無休二十四時間営業のコンビニエンスストアの前で、円形の茶色い物体を口に詰め込み、紙パックに入った乳白色の液体で喉へと流し込む。
アンパンと牛乳だった。
 甘ったるい漉し餡が牛乳に交じり合い、甘さを中和させながら胃に流れ落ちる。それは平凡で決まり切った味だった。
 そう、私のように。高校三年生にして、成績は平凡、運動神経も平凡、ルックスその他諸々も同様。どこのメーカーでも変わり栄えしない、アンパンのように平凡な女子高生だ。
 本当なら、今頃の季節は就職探しやセンター試験に向けて猛勉強に励む年頃なのに、私はコンビニエンスストアの前でアンパンを喉に流し込む。まるで平凡な味のアンパンが牛乳に押し流されるかのように、平凡な私は社会の荒波に呑まれて決まり切った将来へと流されてゆく。
 私は空っぽになった菓子パンの袋をクシャクシャと丸め、空っぽになった牛乳のパックを平たく潰してゴミ箱に放り込む。汗まみれのサラリーマンが、汗をハンカチで拭いながら目の前を通り過ぎる。
「ご馳走様」
 果たして誰に対しての言葉だったのか、言ってみた自分ですら分からない。こんな平凡なアンパンを作り、平凡な私を生んで育てた母へ感謝したかっただけなのか。分からない。
 朝食を取り終えた私は、駐輪場に停めてあった白い原付(原動付自転車)にまたがると、何度かキーを回しエンジンを噴かせて走り出す。
 行く先など考えてはいない。ただ、ひたすらに“それ”を追う。


 くどいようだが、私は平凡だった。家族も、父にしても母にしても、普通の商社のサラリーマンと専業主婦と言う平凡な家族である。
 だからと言って、別に家族が嫌いだったとか、平凡で何も変わらない日常が嫌だったわけではない。それでも、私がこうして旅に出たのには理由がある。理由がなければ、将来を決めるセンター試験の勉強をほっぽって旅などするわけが無い。
 旅をするきっかけが出来たのは、今から二、三ヶ月ほど遡る新学期の初め。旅に出たのが、夏休みに入った一週間ほど前だ。
「ねぇ、運命の赤い糸って信じる?」
 私は何の前触れもなく、クラスメイトにして小学校の頃からの友人に尋ねた。私の席を取り囲んで談笑していた友人数人は、キョトンとした表情で私を見つめる。
 この年まで、恋らしい恋をしたことの無い面子だ、そんなメルヘンチックな疑問を抱いてもおかしくは無いと思われたのだろう。友人達はしばし考える仕草をして、
「どうだろうね。分からないけど、多分、バレンタインデーと同じなんじゃないのかな?」
 良く分からない返答を返してくる。
「バレンタインデー?」
 鸚鵡返しに問うと、友人は説明を付け加える。
「バレンタインデーって、お菓子メーカーがお菓子を売るために流した噂――と言うよりも行事な訳じゃない。多分さ、運命の赤い糸もそれと同じで、洋服屋だか紡績店みたいなところが、毛糸とかを売るために作った話なんじゃないかな」
 私はなるほど、と納得する。何の因果もなくそんな話が出てくるはずも無く、そう考えた方が納得行く。
 しかし、それなら私の“それ”はどう説明すればよいのか。
 私は友人達に気付かれぬ程度に、小指から伸びる赤い線を見た。小指に先端を巻きつけた赤い糸。いつの頃だったか、新学期に入るぐらいにはそれを見ていたと思う。
 別段、何かに引っ張られる感覚も、小指に何かが巻きついている感触も無い。それでも、そこに赤い糸はある。そして、私以外の人間には見ることが出来ないものでもある。
「もし赤い糸があるなら、その先を追っていけば運命の人に出会えるってことだよね? ずっと将来に出会う恋人と、繋がってるってことだよね……」
 誰かに問うわけでもなく、独りごちた私は一つの案を思いつく。
 今年の夏休みに、この赤い糸のもう一つの先っぽを見つけてみよう。どこに繋がっているのかも分からぬ、無いようで存在する糸の先を追いかけてみたい。
 そんな衝動に駆られ、私は夏休みの初めに旅立った。


 両親には相談しなかった。相談したところで引き止められるのがオチだし、グチグチと大学や就職のことについて説教されるだけだから。
 私は一年生の頃からバイトをして貯めた貯金を下ろし、家から少し遠い学校に通うために、親にせがんだ白い原付に跨って家を飛び出した。
『ちょっと旅行に行ってきます。大丈夫だから、警察とかに電話しないでね。――より』
 なんて置手紙をリビングの机に置いて、十万そこらの貯蓄と衣類、毛布とキャンプ用のテントを詰めた旅行鞄を原付に縛り付けて旅立つ。置手紙をしてきても両親は心配するだろうから、毎朝起床後には『おはよう』とメールを打っておく。後は、バッテリーを持たせるためと帰宅の催促が掛かってこないように電源を切る。
 テレビとかでは結構目にする一人旅は、テレビで見るほど簡単なものじゃなかった。夏でも夜は意外に冷えるし、羽虫が鬱陶しい。テントを張るところだって考えないと、巡回中の補導員に補導されかねない。ルックスこそ並平凡だけど、やっぱり女の子だから悪漢に襲われたりしないか心配だ。
 それでも、一週間ぐらい経った今では割と慣れてきて、一人旅は順調に進んでいる。さてさて、いったいいつになったら赤い糸の先端に辿り着けるのか。もしかしたら、辿り着けずに家へ帰ることになるかも知れない。
 色々と心配は募るけど、私は旅を続ける。本当に運命の人と繋がっているのかも分からぬ赤い糸を追って。
「がんばれサラリーマン!」
 先刻通り過ぎて行ったサラリーマンに手を振り、ノリで返された左右に揺れる手に見送られ、私は真夏の空の下を白い原付で駆け抜ける。
 そして、原付がエンストを起こした。
2007-12-02 09:42:48公開 / 作者:暴走翻訳機
■この作品の著作権は暴走翻訳機さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
なんとなくノリと勢いで書いたショート*2です。
こんなものを書いている暇があるなら、試験勉強しなさい!も高校三年生でしょッ!などとどやされそうな日常ですが、私は小説を書き続けます。なぜなら、運命と言うものが決まり切ったものなら、抗わずして決まり切った将来へと押し流されるのだから。

私は書きたい。こんな小説が、あんな小説が、そうした思いを込めて綴って行きます。今回もまた、そんな暴走翻訳機クオリティをご堪能ください(なんじゃそりゃ?
それでは、長編または中編の『ラスト パートナー』もよろしくお願いします。とだけ言って、失礼させていただきます。
この作品に対する感想 - 昇順
GANTZという作品の作者が書いた漫画『変』(だったかな)に、似たような
物語があったので、疑心暗鬼で読み始めてしまいました。それは、突然赤い糸が見えるようになって、それを追って旅を始める。というものでしたので、まんまだなぁと。ただこっちは赤い糸の先に出会っていないので、何か拍子抜けです。こういう終わり方が好きな人と嫌いな人がいるでしょう。私は後者でした。中途半端に思えてしまうんですね。では、次回作も頑張って下さい。
2007-12-02 12:22:56【☆☆☆☆☆】猫舌ソーセージ
 こんにちは、暴走翻訳機様。
 御作を読みました。
 ライトな感じでよかったと思います。
 世の中うまくいったりいかなかったり。
 ラストのオチも良かったと思います。
 赤い糸は、赤い縄(中国古典)だった頃からネタにされてるので、あまり気にしなくていいと思います。
 ただ日本じゃ赤い糸が切られること多いのに、中国の縄は絶対に切れないんですよね。
 これも文化の差でしょうか?
 徒然と失礼しました。
 ともかく走り出そうという主人公の無鉄砲ながら爽やかな印象が良かったです。
 ではでは、また。
2007-12-02 14:08:40【☆☆☆☆☆】上野文
>>上野文様
前々から気になっていたのですが、いちいち私の感想に対する意見をさりげなく入れてくるのはやめてもらえますか? その作品に対する感じ方は人それぞれでしょう。貴方みたいに感想に対する揚げ足取りのようなやり方をされると、感想をつけるのを躊躇いたくなります。もしも、そんな意図なんて全くなかったとしても、実際に私がそう感じたのだから自重するべきです。これ以上感想を付ける人間を減らしたいのですか?
2007-12-02 15:05:35【☆☆☆☆☆】猫舌ソーセージ
 申し訳ありません。暴走翻訳機様、一回だけレス板をお借りします。

>>猫舌ソーセージ様

 こんばんは。すみません。はじめて知りました。
 でも少し自意識過剰なのではありませんか?
>もしも、そんな意図なんて全くなかったとしても、実際に私がそう感じたのだから自重するべきです。
 私はあなたではないので、貴方がどう感じるかを予め知ることはできません。
 同様に、貴方も自分の無知を棚に上げてまるで盗作のような決めつけをするのはどうかと思いますよ?(むろん、これは私が感じただけで、実際貴方がどのような気持ちで感想を書かれたかわかりません)
 ただ、貴方のあとで感想をつけるものとして、ちょっとフォロー入れとかなきゃって思っただけです。
 これ以上感想をつける人間を減らしたいのか、なんて私を脅されましても困ります。その作品に対する感じ方は人それぞれです。
 貴方はこの作品にあまり良い印象を抱かれず、私は良い印象を抱いた。
 それだけの話なのに、どうして私の感想に「感想をつける人間をへらしたいのか?」なんて言葉をつけて脅そうとするのです?
 これ以上は暴走翻訳機様へのご迷惑になります。
 私個人へのご意見はどうぞサイトででもメールでもお送りください。
 いつでもお待ちしています。
2007-12-02 19:09:53【☆☆☆☆☆】上野文
 「何をしたかったのかなあ」という疑問が浮かびました。いえ、暴走翻訳機さんではなく、語り手の女子高生です。書き手視点で言えば、「何をさせたかったのかなあ」ですね。
 赤い糸が見えるからそれを辿る。動機として単純明快ですけれど、それを実行するには制約がたくさんあります。何も考えていない女子高生というのもアリだとは思います。でも、わりとしっかりした人物像に描かれているので違和感がありました。
 ああそれから、前にも書きましたけれども。最低限の下調べをしたほうがよいのでは? 私なら私小説でもウィキペディアぐらいは開きますよ(ウィキペディアが資料として優れているかはともかく)。
2007-12-02 21:43:27【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
>>上野文様
いや、めんどくさいんで(苦笑)全部水に流す事にします。私相手にあまり熱くならない方が良いですよ。私は猫みたいに気まぐれでコロコロ考え方や意見が変わる人間ですから。軽く受け流して下さい。ほかの皆さんも。当分書き込み自粛します。
2007-12-02 22:41:20【☆☆☆☆☆】猫舌ソーセージ
>>猫舌ソーセージ様
いえ、こちらこそ熱くなってしまって申し訳ないです。
今後ともよろしく。

暴走翻訳機様。レス板を何度もお借りしてごめんなさい。
頑張ってくださいね。では、また。
2007-12-02 23:17:01【☆☆☆☆☆】上野文
返信遅れて申し訳ありません。
それでは、纏めて失礼いたします。

>猫舌ソーセージさん
やっぱり、似たような作品がございましたか。薄々は予測していましたが、今現代ではそういうことも仕方ないと思って欲しいです。
中には、こうした終わり方が中途半端に思える人もいるのでしょうが、世の中にははっきりと言い切れぬ物事が多くあります。私は、そうしたものを考えたいと思って小説を書いている傾向があります。
もしよろしければ、そうしたことも踏まえて猫舌さんのご意見をお聞かせ願えると嬉しいです。では。

>上野文さん
はい、私の作品は、提示する内容が少し重いので、今回のショートではライトな感じに書いてみました。主人公の世の中を複雑に考えているようで、曖昧に生きているところもこの作品の売りだと思っています。
上手くいってもいかなくても、それが訪れるべくして訪れたのならば諦める。絶対と言うものが無いと思いながらも、それが決まりきっているのならば抗わなくてもいいじゃないか。
そんな想いを載せさせていただきました。これからも、多分こうしたコンセプトを中心に私は作品を書いてゆくでしょう。
応援、どうもありがとうございます。それと、赤い糸は中国の古典が発祥なんですね。知りませんでした。

>二方へ
平和的にお話が終わってよかったです。意見を言い合うのはいいことですが、やっぱり喧嘩はいけませんよね。それでは、これからも仲良く「登竜門」を使っていきましょう。

>模造の冠を被ったお犬さま・さん
う〜ん、「何がさせたいのか」がお犬さま・さんに伝わらなかったのは、私の文章力が足りないからなのでしょうか。まだまだ磨くことが多いようですね、精進いたします。
主人公の行動に違和感があったのは、多分当たり前なのでしょう。私も、書いていて「こんなことできるのか?」と思ったりもしました。人物像が明確ゆえに、こんな行動を取らないのではないか、という違和感があるのも当然だと思います。
しかし、人間と言うのは思ったより酔狂だったりするんですよね。不思議とおかしなことを気にして、確かめたくなるってことはよくあると思いますが。考え方がしっかりしているからこそ、時に追究してみたいと考えてしまう人間の性質、それを汲み取っていただけたから違和感に似た引っ掛かりが出たのだと思います。
下調べについてですが、既存の作品に似たようなものがあったとか、赤い糸の由来などについて、と言うものに関しては調べませんでした。しかし、同じような作品があったとしても、赤い糸の由来を知っていても、この小説を書くことを止めはしなかったし、話の内容は全く変わらなかったでしょう。
下調べもストーリを面白くし合理的にする上で重要ですが、なまじ間違えていたとしても私は己の考えを書きます。いずれ訂正が入ろうとも、貫くのです!
それもまた暴走翻訳機クオリティなのです。っということで、これかも至らぬ点があるとは思いますが、ご忠告の上でご容赦ください。


それでは、皆さんご感想をありがとうございました。
2007-12-03 21:55:19【☆☆☆☆☆】暴走翻訳機
 なんだか変に前向きになっていますね。ライティングハイに陥っていなければいいのですけれど。
 似たような作品をパクらないのは当たり前で、似たような作品を知った上で話を書けば主人公は気の利いた台詞回しをすることができます。物語に幅ができます。いかがでしょうか。
 赤い糸の由来は暴走翻訳機さんが調べなくても語り手の女子高生が調べるのではないでしょうか? 友人のデタラメな由来を「なるほど」と聞いたりはしないと思います。私が時系列を勘違いしているのかな。
 時系列を整理してみます。舞台は日本ですよね? 今=夏休みから一週間後
 【旅をするきっかけ】ができたのが【今から二、三ヶ月ほど遡る新学期の初め】とあります。旅をするきっかけが旅の前には来ませんから【新学期】は一学期のことになります、四月中のことでしょう。【今】というのは夏休み基準なので私立高校だったりすると厄介ですけれど、一般的に考えて七月二十八日とします。ぎりぎりで【二、三ヶ月ほど遡る】の条件を満たしています。
 赤い糸を見ることができるようになったのも新学期が始まった頃らしいので(新学期に入るぐらい、という記述に不可解さがある。学期を数字で表さないことに意味があるのだろうか。そもそも、一学期の始まりであれば“三年生になった頃”とするのが素直な書き方ではないだろうか。海外なのだろうか、だとしたらこの女子高生はかなりのサバイバーだ!)、見えるようになってすぐ友達と件の会話をしたことになりますね。
 ということは、私の勘違いでした。見えるようになってしばらくしてから友人に相談したものと誤解していました。調べる間はあまりなく、見えているから単に話題に取り上げただけなのですね。やはり、いろいろ検証しないと恥ずかしいですね。そう思いませんか?

 最後に、辺レスの【ご忠告の上でご容赦ください】が気になりました。正しくは【ご注意】でしょうか? 相手を敬う気持ちのないものが敬語を使うのは少々、癇に障ります。私ほど気が短い人間はそういないでしょうけれど、気をつけておいたほうがいいかもしれません。
2007-12-03 23:59:25【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
ご返事と謝罪が遅れて申し訳ありません。
【ご忠告の上でご容赦ください】の件に関しては、完全に私のミスです。申し訳ありません。

クドクドと謝るのもなんですので、模造の冠を被ったお犬さま・さんの広い心を信じて短く終わらせます。
改めて読み直してみると、確かに時系列が微妙に違和感がありましたね。書いている私が気付かないのは、おかしいですね……。しかし、ミスを嘆いては駄目です。これを教訓にし、これからも精進していきましょう。
今後、もう少し検証と下調べを含めて小説を書くように気をつけます。こうした細かく厳しいご意見も大切なアドバイスなので、これからもどうかよろしくお願いします。

それでは、いずれまたショートに挑戦したいと思います。こうした方が良いというようなご意見、たくさんお待ちしております。
2007-12-04 21:23:34【☆☆☆☆☆】暴走翻訳機
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。