『少年の夢』作者: / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
主人公の渚という少年が、自分のやりたいことは何かを探す物語。探して探して、意外と近くにあるということに気づいた――
全角2399.5文字
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原稿用紙約6枚
――なにかが見つかりそうな予感がした。



さきほどまで青々とした爽やかな空が、赤くきれいなオレンジに染まった頃のことだった。
黒崎渚(くろさきなぎさ)は、自動販売機でコーラを買っていた。ここの自動販売機から渚の家までは遠いわけでもなく、歩いて十分程度の所だった。渚は乗ってきた自転車の中にコーラの缶を2本投げ込むと、自転車を漕ぎ始めた。――漕ぎながら渚はこんなことを思っていた。
「俺のやりたいことって何だろ……」
渚は今年で中学三年、バリバリの受験生なのである。こんなところでコーラなんかを買っている暇は無い。部活も引退し、やることがなくなった。やらなければいけないことはあるが。しかし渚は、自分のやりたいことがよく分からなかった。
「将来の夢ってもんが無いんだよな……」
野球部に入っていたが、プロ野球選手になりたいわけでもなく、走るのが速いからといって陸上選手になりたいわけでもなかった。姉の唯(ゆい)が言っていた。
「自分のやりたいことってさ、探しても探しても見つからない時ってあるんだよ。でもさ、意外と近くにあったりするもんなんだよ」
「……唯のやりたいことって何?」
「あたし?あたしはねー、スタイリストになりたいんだよなーこれが」
唯はアイスを食べながら言っていた。
「なんかねー、洋服とか好きなんだよねー」
俺にはよく分からない。将来の夢って、好きなことやものから生まれるのか?          じゃあ…俺の好きなことって何だ?
―――気が付くと家の玄関の前にいた。いつのまにか着いていたようだ。玄関のドアを開ける。リビングから母親の笑い声がする。いつ聞いてもでかい。多分テレビを見ているのだろう。俺はリビングへ向かった。かかとを踏んだ靴を投げ捨てて、手には二本のコーラを持って。
「ただいまー」
「あ、渚!おかえりー。あ、何それ。コーラ!?」
俺の母親はいつもそうだ。
「一本もらうねー」
俺の手からコーラを一本奪い取る。別におかんに買ってきたわけじゃない。ていうか俺が出る前に
「コーラ?いらなーい!今テレビ見ててそれどころじゃないし」
といっていたはずでは?いい加減な母親だ…。ま、こんなことは置いとくか……。
残った一本のコーラを持って自分の部屋に行く。机の上にはやりかけの宿題…。夏休みに入って、友達とわいわい騒ぐ機会も減った。今頃みんな勉強してんだろなとか思いながらベッドに横たわる。
「勉強しててもさー…やりたいことが見つかんなければ意味ねーじゃん」
それはそうだ。ただなんとなく高校入って、友達作ってわいわい騒いで、卒業する。もっとなんか、こう…やりたいこととか、ないかな。
「……それを今探してんだよ…」
そうだよ。そこなんだよ。気がつくと俺はコーラをこれでもかってくらい振っていた。
「あ」
シュワー……と静かに音を立てる。そして階段から誰かが駆け上ってくる音がする。一段…また一段。背中がぞっとしてきた。一階のテレビの音は消えてない。ということはおかんじゃない。と、
「おー!渚勉強はかどってるかー!」
予想はしていたが、やっぱり唯だった。
「あ、何それ。コーラ!?」
ヤバイ。見つかった。唯もおかんと同じで、絶対奪い取る気だ。
「ちげーよ。コーラじゃなくてコーヒーだよ」
「嘘つけー!やっぱりコーラじゃん!頂戴!」
俺の手から奪い取る。こんなんだったら最初から三本買ってくればよかった…。って、あ!コーラさっき思いっきり振っちゃったじゃん!
「いただきまーす」
ぷしゅっ。――俺は逃げたね。一目散に。玄関を飛び出して自転車乗って、あてもなくさまよっといたよ。
「帰りたくねーなー…やばいな」
さっきの空より少し薄暗くなっていた。公園の子供たちはまだ戯れている。怒られても知らねえぞ。
そして俺は…何をやってんだ。こんなことしてる場合じゃない……。


こんなかんじで、夏休みは終わっていった――。
新学期。まだ蒸し暑い日差しの中、久しぶりに友達と会った。いろいろ話した。夏休みはどうだったかとか、勉強したかとか、この前のテレビ番組がなんちゃらで――とか。いろいろ話した末に、俺は聞いてみた。
「なあ、お前はさ、将来の夢とかある?」
友達は目を丸くして俺を見た。はたから見ても、それは驚いている様子にしか見えなかった。
「お前がそんなこというなんてな。…びっくりした」
そうだ。俺はいつもふざけていて、こんなことなんか一ミリも考えていなかった、この俺が――――
こんなことをいうなんてな。想像もしなかっただろう。
「将来の夢、かー。俺は…サラリーマンでいいや」
なっ!
「え、サラリー…マン?」
「うん」
俺はこのとき、今まで生きてきた中で一番びっくりしている顔をしたと思う。
「そんなんでいいのか?」
「そんなんでいいって…うーん。俺はさ、平凡な暮らしが出来るだけで幸せだよ」
初めて知った。そういう考え方もあるって。俺はてっきり、学校の先生とか、料理人とか、そんなありふれた職業につくのが夢だと思ってた。
「じゃあ、たとえば…」
俺は恐る恐る聞いてみた。
「高校生になっても、二十歳になっても、それ以上大人になっても、お前ら友達とわいわい騒いでいたいっていうのでもいいのか?」
友達が、口を開いた。
「いいんじゃない?」
この時、俺はこのときだけ、受験とか勉強とかどうでもいいような気がした。ただ、たった今夢が見つかったことで精一杯だった。単純にうれしかった。俺の好きなものは友達だったのかな、とか思う。意外に近くにあったんだなって思う。そして今、思う。

二十歳になっても俺らがわいわい騒いでますように。


2007-07-26 10:24:03公開 / 作者:葵
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■作者からのメッセージ
今回のこの作品は一生懸命考えてみました。主人公の視点は、私の視点だったりします。感想などご指摘など、どうぞよろしくお願いします。ここまで読んでくれて本当にありがとうございました。
この作品に対する感想 - 昇順
「勉強しててもさー…やりたいことが見つかんなければ意味ねーじゃん」という所が素直で共感できました。
指摘としては、途中から主人公の視点が変わっていること。
『…』は確か、二つつなげて使ったような気が……します。
(わざとそういう書き方をされていたらすいません)
文章自体はあまりいいとは言えませんが、なにより素直な気持ちがこもっていてそこがいい、と思います。
今度は、展開をもっと入れて原稿用紙三十枚くらいの物を書いてみたらどうでしょうか。
いいものができると思いますよ。
2007-07-29 21:11:30【☆☆☆☆☆】翼
作品を読ませていただきました。作品の言いたいことは理解できますが、短いので主人公の思考の帰着に唐突感がありました。もっと主人公の心情、主人公と対比させる存在(同級生)の描写を増やすと、より主人公の思考に共感しやすくなると思います。作品に対する視点は良いのでもっと肉付けしたらより面白くなると思いますよ。では、次回作品を期待しています。
2007-07-30 08:20:42【☆☆☆☆☆】甘木
 はじめまして。こんにちは。

 突然で失礼かと思うんですが、ここの意味がよくわかりません。

>>「そんなんでいいって…うーん。俺はさ、平凡な暮らしが出来るだけで幸せだよ」
>>初めて知った。そういう考え方もあるって。俺はてっきり、学校の先生とか、料理人とか、そんなありふれた職業につくのが夢だと思ってた。

「ありふれた」の意味がなんか変な感じがします。「ありふれた」と「平凡な」はだいたい同じような意味だとおもうんだけど、どうでしょうか。
 あと、段落の最初の文字(つまり、文章の最初の文字と、改行した後の最初の文字)の前には一文字空白を入れるのが、日本語を書くときのルールです。他の方の投稿作品や、お手元の本をご覧になってみてください。みんなそうなっているはずですよ。
 最後になりますが、ぼくはこの作品の内容の視点は好きです。だからこの方向でもっと書いていただけたらうれしいです。ただ、この作品では割とあっさりと答えが見つかってしまっているようだけど、そんなに簡単に最終的な答えが出る疑問じゃないと思うんです。「見つかった」と思った答えを何度もひっくり返すことを繰り返して、独自の方向により深まってゆくような作品を読ませて下さったら良いなと期待しています。それではまた。
2007-08-03 17:10:42【☆☆☆☆☆】中村ケイタロウ
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。