- 『V』作者:バター / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
- 全角1487文字一口、二口。
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原稿用紙約3.72枚
染み込んでいくは貴方の全て。
愛しているといったのは貴方のほうでしょう。私は貴方の愛など要らなかったのに。結局貴方は私を捕らえて離さない。狂おしいまでの愛を私に与えてくれましたね。
私を愛するということがどういうことか、わかっていたでしょうに。貴方は賢かったから。そこら辺りにわいている人間どもよりもはるかに、賢かったというのに。
何故貴方は私を捕らえて離さない。
否、捕らえて離さなかったのは私の方でしょうか。
「私を愛しているのなら、その糧にしてちょうだい、愛する人」
「愛していないと言ったらどうするのです、弱き人」
レースをあしらった古典的なドレスを着て、貴方は私を見据える。これは愛なのか? 愛といっていい代物なのか。それでも、貴方は私を求め、私は貴方を拒絶した。
「愛していないのならそれでいいの。それでも私は貴方の中に在るのだから」
そう言って貴方は首筋をなぞる。首筋に浮かんだ、それはお互いの愛の形。二つの呪いの刻印は、消えるはずもなくただ痕を残す。
そして彼女は私に寄り添う。最後の主となった、私の傍へ。
どういうことかわかっているのだ、この賢い人は。瞳を閉じて、ただそのときを静かに待っている。馬鹿な人だ。なんと愚かしい。人であるのならば、私のことなど放っておけばいいものを。そうすれば糧もなく、私は朽ちるというのに。
「共に過ごせないのなら、これが私の愛の形なのよ、愛しい人」
最期の言葉は、あまりにも甘美で、それだけで酔いが回りそう。首筋に左手を当てて、唇を近づける。嗚呼、芳しい。一時の至福でも、味わいたい。たとえこれが最期の晩餐になっても。
「私を愛した愚かな人よ、私の中に眠るがいい」
二つの刻印を押し当てる。流れ込むは最上の糧。弱き人の声と命は、僅かな時間で終わった。まだ頬に生気を漂わせながら。
体に染み込む、あの人の愛の証。もう何百年も口にしていなかった糧は、まだしばらく体の自由を許してくれるらしい。さてどうしたものか。これではまた何百年も生きなければならない。そこでまた愚かな人間に出会えばこの先もずっと。
「……それこそ、愚かしい」
最期の糧よ、最期までその身は使わせてもらおう。
裏庭に、その身を埋めてひと月後。芽を出すは愛の形、否、呪いを宿した果実。
愚かな人の血肉を吸いし、育った果実を食せば、呪いはわが身へ。人ではないからこその、呪い。もうほとほと、生きることには飽いたのだ。
陽の光を浴びずに育ったその柑橘類を、皮ごと齧る。光の味がして不快だが、あの人間のものと思うと少しだけ心地いい。
一口、二口、広がるは貴方の全て。
苦く甘い、貴方の全て。
この身に呪いが現れるまで、あと百年はかかるだろう。だがそれもまた一興。あの人間が私を愛したように、この果実を愛でてみるのも悪くはない。独りの時間は、やはり物悲しいものだから。
「私の中に、生き続けるがいい。私の身が朽ちる、その時まで」
弱き人よ、否、愛した人よ。
貴方が私を愛した分だけ、私も貴方を愛してあげよう。時の果てまで、最期まで、貴方を愛してあげよう。
だから貴方も愛し続けるがいい。
愛を呪いに変えて、この私をずっとずっと。
一口、二口。
広がるは、貴方の、愛。 - 2007-05-23 21:45:43公開 / 作者:バター
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拝読しました。
とても詩的な世界観の広がっている物語です。現代的な、ちょっとサイコじみたV系音楽のリリックが源泉でしょうか。
それよりは、後期のhideのソロに近い空気感があったような気もしますが、さておき。
バターさんの物語は、とても世界観が美しいのに文章内に背景がまったく描かれていないため、魅力が半減してしまっているのが
勿体無い。また、あえて「の」を抜く記述を散発していますが、「小説」というカテゴリーの中でその技法を考えれば、それは無意味
としか言い様がありません。
ぜひ、ほかの人の作品を読んで、一つ一つの物語を解体してみることをお勧めします。どこでどういった技法が使われているのか、
それがどんな効果をもたらしているのか。ひとつの文章があったとき、その文章の主語は誰なのか。その文章で伝えられている行為は
主語に対して能動行為なのか、受動行為なのか。まあ、そこまで理屈っぽくやることもありませんが、ちょっと意識しただけで、世界が
広がりますよ。
あと、”人ではないからこその、呪い。もうほとほと、生きることには飽いたのだ。”
の部分、非常に巧い。この物語全体の色彩を一番、色濃く表している部分と言えるでしょう。全体がこの一文と同じレベルまで昇華されたら、
十倍は面白くなる。ここで満足するのは勿体無い!2007-05-26 02:17:13【★★☆☆☆】村瀬悠人村瀬悠人様
コメントありがとうございます^^
画面を開いたときに、マイナスがついていたので、よっぽどの
酷評かと思いきや、とても意味のあるマイナスの評価でした。
仰るとおりですね。
背景描写は、この作品に関してはあまり意識して書いていなかったので、
勿体無い、という言葉にはっとしました。
やはり多少なりとも、背景は必要なのですね。
視野を変える、ということは中々簡単にいくことではありませんが、
せっかくアドバイスを頂いたので、実行してみようと思います^^*
的確なアドバイス、指摘をありがとうございました!
とても身に染みました^^
評価の方も、逆に嬉しく思いますvvありがとうございましたv2007-05-28 00:01:53【☆☆☆☆☆】バター計:2点 - お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。