『てんしの泪』作者:おすた / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
ショートショート作品故にこの長さになりました。純文学なのでクセありですが、興味のある方はお読みください。お願いします。
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原稿用紙約4枚
 走る、その姿はまるで誰の瞳にも映らない。幻か? いや、天使は確かにいた。
 天使は丘の斜面を駆けていく。吹き下りる風の勢いを友にして速さを増す。浮かび上がる体、それを少しでも我慢して浮力を上げる。天使は高い所を目指した。だからすぐには飛ばない。溜めて、集めて、力にして。天使は駆けていく。そして背中の両翼を広げた。艶やかなる美白の、その大きな羽は様々なものに逆らって力強く羽ばたいた。一振り、少し浮かぶ。二振り、両足が浮かんだ。三振り、バランスを崩す。四振り、改めて両足を浮かべる。五振り……
 向かいくる風と抵抗、友にした風と希望、その合間に僅かに出来た空への道を逸れることなく飛んでいった。
 蒼天を舞う一人の天使、地上から見上げるとそれは最早漂う雲と一体化してその姿がうっすらと空に溶けてしまう。しかし、近付いてみれば、それは確固として自らの姿を保ち、青の中を優々と空中散歩していた。その容子はとても自然で、両翼を羽ばたく一瞬に姿が隠れる所などは、切れ切れに散ってまた元に戻る浮雲の姿にそっくりなのだった。それでも天使には変わりなく、雲の峰を越えてみせるとその姿は一層勇気に満ちていた。
 天使は抱えきれない感動に泪を流した。体の中を澄み渡る爽快が天使を軽くし、天使はますます高く飛んだ。もう誰も手は届かない。天使は雲の上の存在になったような気がした。
 改めて目を見開くと、ふと、天使は自分の見ている空が青ではなく、チカチカと点滅する緑色に見えることに気が付いた。しかし現実は青である。山の麓で空をスケッチしている子供たちのキャンバスに塗られているのは紛れもない青、それが真実の証になっている。では何故だろう。天使は考えた。そして天使は地面を見下ろしてみる。するとそこにある若葉を繁らした木々、湧き水で漂う泉、色とりどりの花たちまでもが緑に染まっていた。唯一、小屋で休んでいる漆黒の馬だけが色を変えなかった。
 ともすると、自分は空を見続けた所為で、太陽の光に目が眩んだのではないかと天使は思った。それならば辻褄が合う。しかし、そうだとすれば天使は自分自身に少し落ち込んだ。天使は高い所を目指し過ぎたのだ。天使は高く飛ぶことで天使としての誉れを高めようとした。そうすることで自分を豊かにしようとした。しかし、天使はそれが間違っていたことに気付いた。本当は高く飛び続けることが肝心で、それに酔いしれてはいけないのだ。高く飛べることに意味はなく、高く飛んでいくことに存在意義がある。天使は天使になりえなかったことを痛感した。目が眩むのも当然だ。天使は胸にひどい痛みを感じた。最早長くは飛べない。天使はゆっくりと地上へ下りた。

 グライダーは丘の平面に降り立った。上手く着地したはずなのに、パイロットは何故かそこへ倒れ込んだ。周りにいた仲間たちがその異変に気付いて集まってきた。念のため、タンカーも運んで持ってくる。
「大丈夫でしょうか」
 仲間の問いかけにも答えない。パイロットは地面に両膝をついてハンドルを固く握ったまま、首をぐったりと垂れていた。
「これはただ事ではない!医者、医者を呼べ。早く!」
「もう、いい」
 パイロットは答えた。それを囲む仲間たちも、駆け出そうとした男も、その言葉を聞いて空っぽな表情で彼を見つめた。空気は、澱んだ。とても吸えたものではない。人々はあたかも無呼吸で、ただただ彼を見つめていた。
 傷ついた両翼の断片が背を押す風に飛ばされ、宙を舞った。ひらひらと飛ぶ、その薄っぺらな羽は無論、白ではなかった。空に溶け込めない羽が雲をすり抜けて、浮かぶ気力をなくして彼のすぐ横に静かに落ちた。再び風が吹き抜ける。人々の騒ぐ声はなく、広がる静けさの中をいたずらに風音が縫っていった。
 ペテン師の荒れた肌に泪の跡が染みて、消えた。(了)
2007-04-14 22:39:28公開 / 作者:おすた
■この作品の著作権はおすたさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
俺は単なる小説は書きたくない。最近の登竜門はわりとエンターテイメント系が多く、読者の方々もそっちの方が興味があるようですが、そういうのにはとらわれず、自分の作品を書きました。意味が分からない、という感想ならお書きにならない方が良いと思われます。書き手としては読者に伝えたいこと、読者に考えてほしいことをしっかり込めて書きました。上手く伝わっていないのならば申し訳ございません。色々と生意気に云いましたが、本心は多くの人にこの作品を読んでいただきたいということです。俺を知っていただきたいということです。俺は最近、小説を楽しみのためでなく、何かを伝えるための手段として考えているのでそういうところを是非とも分かっていただきたいです。
この作品に対する感想 - 昇順
作品、拝見させていただきました。
まず思ったことは、難しい……。簡単に理解できることじゃないです。実際僕自身わかりきれていません。それは読み手としての力が不足しているからなのか、それとも書き手の力不足なのか、僕には判断できません。

ただ思ったことがあります。
おすたさんは自分の伝えたいことをしっかり込めて書いたと言います。それはすごく大切なことです。その気持ち大切です。
が、ならばそれをただ書けばいいのか。と思います。難しい作品は好きです。考えさせられますから。でも、この作品はただ単に難しいのではなく、何を伝えたいのかがはっきり伝わってきてくれないような感じも受けました。

難しい作品を作るなというわけではありません。ですが、自分の伝えたいことがあるならそれをもっと伝わりやすくしてみてはどうでしょうか?

伝わりやすい=簡単
伝わりにくい=難しい

というわけではないと思いました。
あぁ、なんだかよくわからないことを書いてしまっていますが(汗)

ただ、この作品を否定しているわけではありません。難しいなりにも伝えたいことが明確な作品、期待してます。

よくわからない感想になってしまいましたが、これにて失礼します
2007-04-15 04:22:26【☆☆☆☆☆】紅い蝶
耳が痛い。私も天使と同じでしたからね。つい最近まで。ようやく最近気付けたというところです。猛反省。
あとがきの単なる小説という文章が少しカチンと来ましたが、おすたさんもこの作品の天使と一緒なのではないでしょうか。エンターテイメントは大切です。より多くの人に読んで欲しいなら、やはり大切な事なのです。以前私はある方が「小説を書く事が楽しいとか、相手に楽しんで欲しいとか考えていない。ただより高い水準の小説が書きたいだけ」と書き込んでいたのを見て、「自分も相手も楽しくない小説になんの意味があるのですか?」と問いた事があります。すると他の読者の皆さんも一斉に私の意見に賛同してくれました。何故何かを伝えるのに、小説漫画映画ゲームなどを選ぶのか。それはそこにエンターテイメントがあるからです。人は楽しみながら学ぶのが好きだし、その方がより伝わりやすいのです。楽しさを忘れてただ高みばかりを目指していたら、そのうち翼が折れて奈落の底に落ちてしまいますよ。
2007-04-15 13:56:57【☆☆☆☆☆】猫舌ソーセージ
感想、そして意見をありがとうございました。
猫舌さんの言う通り、俺自身が天使だし、社会人の半分以上が天使です。高みを目指してどうする?「金持ちになるため」「名誉と地位のため」そんな言葉が口から出てくる人間に対して特に矛先を向けた作品にしたつもりです。蝶さんの意見のように確かに伝わりにくい部分はあったと思います。最近俺の中の文学スタイルがほぼ確立してきていて、割と直接的に主張していた部分がありました。しかしそれなら小説でなくて、論文にしちゃえば?って思ったんで、この小説は物語の中に溶け込ます、いわゆる象徴型に書くように意識しました。単なる小説(感動や愛や死等について一本の線をひたすら直進するだけの作品)だけにはしたくないので、俺はこれからもこういった形で書き手が物語の中に入り込み、語り、読み手がそれを見つけて読み終えた後で書き手と読み手で共に語りあう、そんな文学を目指しています。猫舌さん、「単なる小説」という意味が不十分であったことには深くお詫びします。すいませんでした。俺は一応こんなんでもプロを目指している身なので、蝶さんや猫舌さんのような意見を下さる方がいると心強いです。でも、俺は(多分、批判くらうと思いますが……)プロになるために小説を書いているわけではありません。結論を言いますと、出版業界・日本文学を変えたいからです。そうしたい理由にはまた多くの訳があるんですが、ここではまぁ言っても仕方ないんで。興味があればお聞きください。さて、長くなりましたが、とにかくどんな形でもいいです。俺にどんどん意見・感想を下さい。批判大歓迎ですが、たまには褒めてやってください。こんな俺ですが、たまに顔を出すので、これからもどうぞよろしくお願いします。そして、紅い蝶さん、猫舌ソーセージさん、本当にありがとうございました。感謝しています。
2007-04-15 14:50:04【☆☆☆☆☆】おすた
 面白い方がいらっしゃいますね。
 純文学って自分で名乗るものなのかな。私だったら、うーん、恥ずかしいような。
 それに、純文学と呼べるような美しさは感じなかったなあ。構成はまさに通俗なショートショートそのものだったし。わかるわからない以前に、書いてないことが多いと思うよ。
 私はさ、登竜門の書き物には媚びが足りないとすら思うんだよね。読み手に媚びない小説を純文学と呼ぶのであれば、登竜門は純文学だらけだよ。エンターテイメントになんて全然なってない。
2007-04-15 21:38:46【☆☆☆☆☆】模造の冠を被ったお犬さま
初めまして。的場です。作品拝読しました。
抽象的なもの(自分の哲学とも言えるのか?)を具体的なカタチにして読者に伝える…という作業は本当に難しいですよね…しかも原稿用紙100枚くらい書いてみたところで伝えられる事象はほんの一つ、二つくらい。お偉いさん方がお書きになる文献では一ページで済んでしまうような事柄を、登場人物考え設定考え、視力を削って画面に向かい…。
すごく色々なことを日夜思索されている方なのかな、と思いました。小説自体よりも作者さんの人格に興味をそそられるような作品だったと思います。いい意味でも、悪い意味でも。
ここで僕の意見を僭越ながら述べさせていただくと、素晴らしい小説というものは、楽しい楽しいと読まれ、読み捨てられ、しかし、本人も気づかないような所(無意識のレベル)でいつの間にか読み手に変革を与えるようなものだと思うのです。そうすることで読み手の心のどこかにその作品がひっかかり、「何だか理由は分からないけど、この本はいいよ…」と言わせることができるような気がするのです。断っておきますが、僕は僕の作品において今言ったことを全く実行できておりません。ごめんなさい。すいません。もう脱ぎます。
生意気にも提案として、この小説そのものをいわゆる「盛り上がりの場」とし、その前に今回死んだ「天使さん」の持つセカイや哲学、性格を暗に示すための序章〜中盤と、その後の後日談としてのエピローグを頭とケツにくっつけたらもっといい小説になり、またそのアツイ気持ちも伝わりやすくなるでしょう。もう一度確認しておきますが、僕は僕の小説において上記のことを全く実行できておりません。「君の態度は人間としてさあ、…」みたいなことを言われるとリアルに鬱るので勘弁してください。次回作お待ちしております。
2007-04-17 11:39:32【☆☆☆☆☆】的場真剣
 はじめまして、おすたさま。上野文と申します。
 うーん、拝見して思ったのは、

>本当は高く飛び続けることが肝心で、それに酔いしれてはいけないのだ。高く飛べることに意味はなく、高く飛んでいくことに存在意義がある。

 ということを、おすたさまご自身が省みられてはいかがでしょうか?
 他の皆様も仰られていることで、私が書くのもなんですが。
「私は高尚な人間だ。だから小説を楽しみのためでなく、何かを伝えるための手段として使うことができる」
 と誤解されかねない内容は、反発を呼びます。
 貴方も、私も、いち読み手といち書き手にすぎないのです。
 小説は書きあがった瞬間、それは書き手のものではありません。
 読み手が読むものです。
 書き手の意思で読み手に、「さあ導いてやろう」と強制するなら、それは傲慢だよ、と。
 出版業界・日本文学を変えるなんて大それたことより、まずはひとりでもいい。
 自分の小説に何かを見出してもらえるような、そんな小説を書かれることを目指されては?
 では。 
2007-04-17 12:59:48【☆☆☆☆☆】上野文
計:0点
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