『風に恋する』作者:修羅場 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
私は君に気持ちを伝えられなかった。
全角1983文字
容量3966 bytes
原稿用紙約4.96枚
 しゃらら、しゃらら…歌を歌う。木漏れ日が泣く。段々と減っていく、私の周りが消えていく。
春も陽気に顔を出した頃、広い広い緑の丘で吹き付ける風は木々を揺らし歌を歌っていた。
私は何気なく、その丘に足を運んでは日陰で休んでいる。
今日貴方と出会った。今日君と出会った。
「こんにちは」
 さようなら。それでも、風は歌う。この時がない部屋の中で。言葉に出さない貴方だけど、私には何となく言葉が分かった。
勝手な想像。

小鳥が歌う音に合わせるのは、私の声。悲しみの歌。しゃらら、しゃらら…今を歌う。悲しくて落ちる雫。この日が終わるその日まで…。私は歌う。
回る、回る…流れる音が。風の音がやむまで歌う。
止まっているようで流れている。細い声とささやきの共演。


私はこの場にいるのに、流れるのは風。さらら、さらら…歌を歌う。
歌う歌う。歌うのは子守唄。心なしか、心地よくなってきて私は瞼を閉ざす。

この大地の中で。ざわわ、ざわわ…はにかんで笑う。大地の音を聞いて流れる。
木々は減っていく。
いつしか、私の傍から離れるのかもしれない。
私が聞いているのは、風の声。風は私の声を乗せる。今日も、明日も、その次の日も…。

しゃらら、しゃらら…歌を歌う。この星がさいごだとしても歌い続ける。
今日あった君に。今日あった貴方に。歌を送ります。
「ありがとう」
ささやいて、微笑んでいる。私を包む優しい風。
地では愛だ金だと言うけれど、私には安らぎがあればいい。

【風に恋する】

ようこそ、待ってたよ。ありがとう。
全てに言いたい。

今日も私はこの木漏れ日の下に来ていた。なんでだろう。
なんとなく。
風は泣く。いつものように背もたれた木々の下で、私は眠りについていた。
ささやくような声が私の耳に届く。
閉ざした目元を広げてみても、周りを見回してみても、その姿は見えない。

私が歌う。風はささやいてくれる。
泣き声の主は、いずこに見えるのか。泣いている。

風が泣く。私も泣く。
ささやかれた言葉に、形はないけれど…流れ落ちる雫はやまず。

風は、私に、ささやいていた。
もう、後が少ないよ。と、ささやいていた。

不意に涙がこぼれだした。
流れる涙は風に乗る。

ささやいて、微笑んでいる。空は曇り空、絶えず風は泣いた。
天では愛も金も地位もないけれど、全てに安らぎがあればいい。

ようこそ、待ってたよ。ありがとう。
そして、さようなら。

木々は泣いた。いつものようにささやく声も出せなくて、困っていたんだ。
すすり泣くような声が私の耳に届く。
閉ざした目元を開いてみても、周りを見回してみても、その姿は見えない。

木々は泣いていた。私も泣いていた。
木々は言う。さいごの望みだといって、私にささやく。

本当の声は聞こえない。でも、聞こえた気がした。
勝手な想像。

風が泣く。私は無く。
ささやかれた言葉に、受け止めてあげたい…でも、それは出来ない。

木々に、風は、ささやいたんだ。
無理を言ってはいけない。と、ささやいていた。

「ねえ」
午後の心地よい風が微笑んでる。
真っ白で、何も無い。私たちだけしか居ない。
広くて狭い「空白」という部屋。
その部屋に入ってくるのは優しい光と心地よい風。
それらは私たちを包む。心地よい日常。
「恋に形って、あると思う?」
一旦顔を合わせてくれたかと思うとそいつは顔をそらした。
逸らした先に新聞紙の織り込みチラシ。今日は牛丼が安売り。
「こら。勝手に逸らすな―……」
ぐいっとそいつの肩をつかんで引き寄せる。磁石が引き合うように、強く。
何の抵抗も無くそいつはこちらに引き寄ってきた。
何の力も無く、踏ん張ろうともしなく、容易く引き寄せれた。
そいつは動かなかった。それはまるで、特大の大きいだけの人形が置いてあるだけの様。
そいつは私の人形か? 違う。恋人だ。
「………あ」
それはきっと、お互い分かり合えている――……はずなんだ。
きっと、きっと。絶対とは言わないけれど、分かり合えているはずなんだ。
私が引き寄せた相手は、心(なか)に何も無い魂の抜け殻がある様に私の前に転げ落ちた。
静か。静寂に。
眼は輝いてなかった。白い。
私たちはお互いを知っていた。理解していた。
いつかは死ぬんだって事も。いつかは長い旅に出るんだって事も。
全て知っていたはずなんだ。きっと、全てだったんだ。
きっと長く居すぎたんだね。きっと、そうなんだ。
そいつからは返事が無い。全く、無い。

返事が無い、ただの屍のようだ。
2007-04-27 16:42:36公開 / 作者:修羅場
■この作品の著作権は修羅場さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
風が泣く、木々は歌う(仮)【短編集】だった物を、新たに更新。
補足:えーと…冒頭の「君」と後半らへんの「そいつ」は同一人物(?)です。まぁ、本来ならば自然体の中の「風」が擬人化されただけの風だから…
人という扱いはどうなんでしょうか?;
それはまぁ、いいとして…【風に恋する】名の通り、これは【(主人公が)風に恋する】という自然体(大気中?)の風を人として見始めた二次元的な主人公視点の物語りなのです(笑)
2007/04/04 少し付け加え。
2007/04/27 優しげの中に、悲しみがある。
この作品に対する感想 - 昇順
作品を読ませていただきました。詩的なイメージの作品ですね。優しい感じがしました。ただ、背景が見えないため歌詞を読んでいるような感じもしました。では、次回作品を期待しています。
2007-04-04 07:53:01【☆☆☆☆☆】甘木
甘木さま>指摘ありがとうございます。そうですね…詩的な…。全体的に、前作の作品などはぎゅうぎゅうだったので、すっきりを目指そー!なんて考えてたら、逆にスッキリしすぎましたね;
今後は背景を少し入れての更新に力を入れていきたいと思います。
ありがとうございました。
2007-04-04 22:37:06【☆☆☆☆☆】修羅場
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。