『線香花火とボクの恋。』作者:winds / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
同じ学校の女子、加凜に片思い中のボクは、ひょんなことから一緒に花火をすることになった。緊張したボクはある行動にでる――
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 ボクと加凜の関係は妙なモノで。恋人かと問われるとそれは断じて違うのだが、友達とかそういう類の枠に入るという感じではない。というか、ボクの片思いなのだ。嗚呼、青春。
 そんな中途半端な関係なのだが、何故か二人で花火をしている。時計を持ってないので正確な時間は分からないが、別の友達が帰ったのは八時過ぎで(友達は携帯を持っていた)、恐らくそれから三時間ほどは過ぎたと思うので、現在は十時頃だろうか。勿論体感時間なので実際はもっと短いのかもしれない。
 こんな事態になった事の始まりは昼三時頃に遡る。暑さしのぎに入った、ボクらの街には数少ないファミレスで、そこそこ仲が良い友達と一緒にアイスやらドリンクバーやらを食ったり飲んだりしながら適当に喋っていたときだった。ボク等のグループのリーダー格のヤツが「花火してー。ロケットとかトンボとか」と言った。別に異論があるわけでもなく、ボク等は皆で花火の調達に回った。夜遅くなる可能性も考え、おにぎり等も多量に買った。それはどこか小学生の遊びみたいな感じがして、面白かった。ただ、金が思ったより掛かったけど。そうして思った以上に大きく、多くなったビニール袋を自転車のカゴに積んで、入らなかった分は片手に持って自転車を漕いだ。そして川沿いの道を上流向かって漕いでいると、加凜を含む仲良し女子四人組に会った。すると彼女達はロクに許可も取らずにボク達についてきて、一緒に花火をすることになった。
 まあそこまではいいのだ。ボクだって女子と居るのは嫌いじゃない。ただ、それからの行動にはボクの友達も含めてだが――困った。
 ロケット花火を草がある方に向かって投げて、草が燃え始めたりしたし、女子に至っては花火をおにぎり等の食品類に向けて火を付け、いくつかの食料品はダメになった。そりゃ、金を出したのはボク達だから彼女たちは決して損はしてないので気にしないのは分かる。ただ、食物にそういうことをする意味がイマイチ分からないし、無駄だと思った。
 そんな馬鹿騒ぎを続けていると、結構暗くなってきた。すると、徐々に人影が減っていった。最後に帰ったヤツに至っては、帰る直前に耳元で「今日のうちに告っとけ」みたいな事を言ってきた。
 そりゃボクだって出来るなら彼女ともっといろんな時間を共有したいし、話し合ったりしたい。それが恋愛感情なのだとボクが気づいたときには、本当に、本当に――愛おしく思えた。
「達実って、帰らなくて大丈夫なの?私は今日は親が二人とも旅行で居ないから、尽きるまで残るつもりだけど」
 そんな声でハッと現実に戻された時、ボクの手には火が消えた花火が残っていた。莫大な金(一人当たり凡そ四千円で、それが五人分)が使われた上、田舎特有の物価の安さで大量中の大量な花火があったため、中々花火は尽きなかった。が、残りは手持ち花火が数本と、線香花火だけとなった。線香花火は加凜が中々気に入ってる様で、手持ち花火よりやや少ない本数になっていた。
「ああ、うん。ボクも大丈夫。親父は出張で、母さんは婆ちゃんとこ行ってるから」
「そっか。ま、残り少しだしね。がんばろ」
 そう言って、彼女は手持ち花火に手を伸ばした。ボクも手に残っていた使用済みの花火をバケツの代用をしている二リットルのペットボトルに花火を突っ込み、新たな花火を手にとって、短くなった蝋燭の火を使う。
 加凜が寄ってきて、「わけてー」と言って、花火の先端をボクの花火に近づけた。二つの花火が光を放つ。
 ボクは接近している加凜に緊張して、心臓はドクドク、花火を握る手には汗。心臓の音が相手に聞こえないか心配になったのは初めてだった。
「達実て、この間莉々香から告られたんでしょ? 何でふったの?」
 何気ない一言だったのかもしれない。それでもボクは凄く緊張してしまって。上手く言葉が発せるか心配になった。
「え、好みじゃなかった、のかな?」
 先程の心配が杞憂に過ぎてホッとした。
「そう、なんだ。てか、何で最後疑問符なの?」
 そう言って笑った彼女の顔は光ってて。ボクにとっては花火よりもかなり、比べるのが加凜に悪いかもしれないと思うくらい、輝いていた。
 ボクの花火が切れて、彼女の花火も切れた。消えかけだった蝋燭は完全に消えてしまっていて、暗かったために花火の位置を探すのにちょっと苦労しつつも、加凜と共に行動していることはやはり嬉しい。残り何本か忘れてしまったが、その花火が尽きてしまうと彼女は帰ってしまうだろうし、ボクも帰らざるを得ない。ならば、少しでも長く一緒に居たかった。切実に。切実に。
 何とか花火とライターを見つけて、残りの手持ち花火全てに火を付けた。今度はボクが加凜の花火の火を分けてもらい、やはりドキドキした。
 二本の花火を両手に持つ加凜は少し寂しそうな顔をしていて。ボクはその顔を見て、やっぱりボクは加凜の事が好きだなぁ、なんて思ったりするのだ。 
 加凜は火が消えない内に線香花火を手にした。二本の花火が消えて、後から発火されたボクの花火の明るさを頼りに線香花火に火を灯した。
 ボクの花火の火が消えてしまい、明かりは彼女が手にする線香花火だけとなった。街頭も、車のライトもない。本当の静寂と、暗闇。
 加凜が手にしている線香花火が消えぬうちに、ボクは線香花火を手にして、残り一本となった線香花火を加凜の近くに置いて、線香花火の輝きを発する部位を大きくすることにした。
「あのさ、実は私もこの間早瀬に告られてさ」
 ドキっとした。急にそんな事を言われて、冷や汗が額に浮かぶ。
「まあ、ふったんだけど。他に好きな人がいるから――ってね」
 そう言うと、彼女の線香花火は輝きを止めた。ボクの線香花火だけが光り続けている。
 ボクはホッとしていた。そこで「付き合うことにしたんだ」なんて言われたら、恐らくボクの精神はもたなかっただろう。
 彼女はおもむろに最後の線香花火を手にして、火を付けた。
「実はボクがさっき言った、ふった理由は嘘なんだ」
 気がつくとそんな科白が出ていた。そんな事を言うつもりはなかったのに、なんだか言葉が次から次へと発されていく。
 ボクはそんな事を言うつもりは全くなかったはずなのに。なのに、言葉が出てくる。先程の加凜の発言に影響されてしまったのだろうか。
「本当は、ボクも好きな人が他にいたから」
「そっか」
 彼女は頷いた。
 ボクの線香花火はもう仕事を終えていた。
「加凜なんだ。ボクが、本当に――好きなのは」
 そう、告げた。二人きりでやや気持ちが高揚していたのかもしれない。今日告げなければ、一生機会がないと思った。
 加凜は嬉しそうに微笑んで、ボクの顔に顔を近づけてきた。
 そして、ボク達の影が重なった時――線香花火は、地に落ちた。
2007-03-25 13:46:48公開 / 作者:winds
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■作者からのメッセージ
勢いだけで書いてしまいました。
部活のお別れパーティーみたいなヤツで遊んでるときに、フッと書きたくなってしまって。。
最初はもっと微妙な終わらせ方の予定だったんですが、最終的にこんな終わらせ方になってしまいました。。
批評、是非よろしくお願いします。
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