『GUNGUNIR〜時の狭間〜』作者:マーモン / t@^W[ - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
  その世界には様々な種族、能力を持つ者が共に生きている。 中でも六つ、特別なスキルを持つ者がいた。 竜と話し、共に空を舞う『竜騎士』。魔力を駆使して奇跡を起こす『魔導師』。 人の域を超えた殺人能力を持つ『忍』。 異世界のモノと繋がりを持つ『召還士』。 その歌声に魔力を持つ『ローレライ』。 呪われし力の持ち主『闇守人』。  ある二人の人物を巡り、過去に彼らは絡み合い、壮絶な戦いを巻き起こした。 その記憶を受け継ぐ者、ラロ。 その秘密が明かされ、記憶が甦った時、歯車が再び回り始める。
全角7155文字
容量14310 bytes
原稿用紙約17.89枚


     *過去の話*


 竜の中で、人の姿をとる事が出来る種族を総称して『竜族』と言います。


 ずっと昔。
 ある竜族が暮らす里に、とても特別な二人の竜族がいました。
 二人は、完全に真逆の存在でした。
 森羅万象を司る『神竜』。
 闇を喰らい、死を司る『闇竜』。
 まるで合わせ鏡の様に、一人は片方の闇を、もう一人は片方の光を映しているかのようでした。
 互いが互いを打ち消す事で、バランスは保たれていました。
 しかし、いつ頃からか、闇は余りに強くなり過ぎていました。
 光では照らしきれない程に、暗く冷たくなっていました。

『この世界を、赤く染めよう。赤くて綺麗な世界にしよう』

 闇竜は里から去りました。

 闇は闇を呼びました。
 沢山の血が流れました。
 神竜は、全てを終らせる為に、闇竜と戦う事にしました。

 世界は大きく三つに分かれました。
 神竜と、彼女の仲間に味方するもの。闇竜と、その仲間に加担するもの。どちらにも加わらない者。

 けれど、その戦いは余りに大きすぎて、終わりが見えませんでした。
 神竜は、無理矢理全てを封じ込める事にしました。
 
 自分を犠牲にして、終わらせる事にしました。

 特別な空間魔術で、神竜と闇竜はある空間に閉じ込められ、永い永い眠りにつきました。
 封印を手伝った術士達は、彼女たちの魂魄を、それぞれ二つずつに分けました。
 それぞれ片方は、その空間に。もう片方は、元の世界に。
 
 その魂達が揃わなければ、目覚めない様に。
 内側からは、決して封印が解けない様に。
 
 空間を解く為に必要な『石』は、三つに分けられ、守られる事になりました。


 けれど、術士達は気付きませんでした。
 二人の力は、余りに強すぎる事に。

 
 空間に閉じ込めた、本体の力を完全に押さえ込むのは不可能だと言う事に。

 そのまま、時が過ぎ去って行きました。




 * 夢 *



        **


  願わくば、このまま何も変わりません様に…

        **


 ただ風が吹きすぎてゆく。
 其処は広い広い草原だった。
 暁とも黄昏ともつかぬ金色の光の中、あたしは誰かを追いかけて行く。
 長い長い黒い髪をなびかせて、あたしの先を小走りにかける、誰かを。
 知ってる。
 あたしはこの人にあった事がある。
 いつもいつも、どんなに頑張っても、追いつく事はない。
 決してその人は振り返らない。
 風に乗って、何処からか歌声が響いて来る。
 フルートの様な、オレガノの様な、不思議な響き。
「   !!」
 あたしは走りながらその人の、名を呼んだ。
「   !!」
 何故か、自分の声なのに、聞こえない。
 聞いては行けない気がする。
 それなのに、あたしはその人の名を呼び続ける。
 草原の果て。
 不意に蒼い大きな湖が広がっていた。
 鏡の様に静かな湖面が、蒼く綺麗に輝いている。
 その湖面の上を、波一つ立てず、沈む事無くその人は駆けて行く。
 あたしの足は、湖の縁で止まる。
 あたしは其処から先には行けない。
「  !!」
 その人の名をあたしは叫ぶ。
 届いているのだろうか?
 聞こえているのだろうか?
 湖の真ん中で不意にその人が立ち止まった。
 その刹那。
 辺りの空気が一変する。
 相変わらず不思議な歌が風に乗って響いている。
 だけど、風に乗って、何か別のそれが漂う。
 
 言いようの無い敵意。
 純粋な殺意。
 
 戦慄が走る。
 その人は今にも振り返りそうだ。
 見ちゃいけない。
 絶対に見ちゃいけない!!
 此処から、離れなきゃ…

「久しぶりね」

 不意に響いた声に、あたしは凍り付いた。
 何処から聞こえて来たのかはわからない。
 けど、その声の主は、湖の真ん中で立ち止まっている、あの人だ。
 冷たい、感情の無い声があたしの頭の中に響く。

「    」

 その人が、そう、言う。
 それは、私の、名前?
 聞こえない。

「あなたも、もっと壊れなさいよ」


 その人が冷たい笑い声を揚げた。
 ゆっくり、こちらを振り向こうとする。
 見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな
 見れば、その記憶が、甦る。

 記憶?

 何の?

「何をしているの!!」

 すぐ傍で、別の声がした。
 
「こっちへ!!」

 その声の主が、あたしの腕を掴んだ。
 

『風よ 我が声を聞け  我と契約し その力を我に与え 我の翼となれ
 光よ 汝 鎖となり  我が前に立ちはだかる者を 絡めよ!!』

 その人が、呪文を詠唱するのが聞こえた。
「しっかり掴まってて!!」

 訳が分からずあたしはその人の手を握りしめた。
 次の瞬間、体がふっと浮き上がり、物凄い速さで湖が遠ざかって行った。
 安心したのもつかの間、背後で不気味な咆哮があがった。
 長く、尾を引く、耳を塞ぎたくなるような声。
 その後に、低く冷たい声が呪文を詠唱し始める。
 
『闇よ 光を 打ち消せ  その力 我に与えよ 全てを 包み 縛る 鎖となれ!!』

ひぅん、と背後から不気味な音が響いた。

「ったく、しつこいですね!!」
 あたしは恐る恐る声の主を見た。
 あたしを助けてくれたのは女の子だった。
 あたしより少し年下、彼女の身長を超える程長い青色の髪、額には奇妙な紋章。
 その背には白い光の翼が生えていて、その周りを蒼い風が取り巻いていた。
「もう!!」
 飛行速度を緩める事無くその子は後ろを振り返り、あたしが掴んでいない右手をかざした。

『光 風に歌いし その力  我が前にて現し給え  願わくば 闇を 包み その罪を 浄化せよ!!』

 その手から青い光が放たれた。
 手を離さない様に気を付けながら振り返ると、女の子の放った光が蒼いベールになり、黒くうごめくそれを包みこんだ。

「あれで時間稼ぎになればいいのですが」

 女の子が不安そうに呟いた。

「あの…あなたは…?」

「御託は後でにして下さい!!」

 女の子の声に焦りが浮かんでいる。
 蒼い光を突き破って、闇の塊が再びあたし達を追撃し始めたからだ。

「何か攻撃呪文を放って下さい!!」

「えぇっ!?」
 
 突然言われてあたしは戸惑った。
 それはつまり、片手だけでその子に掴まると言う事だ。
 
「時間稼ぎをして下さい!!その隙に巻きます!!」

 あたしは後ろを振り向いた。
 闇の塊は少しずつ距離を縮めつつ、何かに形を変えつつあった。

「早く!!」

 女の子に急かされ、あたしは闇の塊に右手をかざした。
 こういう時は……

『蒼き 光に 宿りし 力  無限に変わる 紅き 刃となれ!!』

「ほぅ…『禁じられた古の蒼』ですか?」

 女の子が感嘆の声を揚げた。
 あたしは答えられなかった。
 それは、勝手にあたしの口をついてでたから。
 知らない筈なのに。

「では、一気に行きますよ!!」

女の子が再び詠唱を始める。

『我に 宿りし風 更なる力を 宿せ  蒼き 疾風となり 我に宿れ』

 うわっ、とあたしは目をつぶった。
 風が顔に叩き付けられ、息が詰まりそうだ。逃げ切る前に窒息死するんじゃなかろうかと思った。
 死ぬ。絶対に死ぬ。
 飛んでいたのは数分だったが、あたしには凄く長く思えた。
 あたしの肺活量は持って一二七〇分ですが。
 それでもこれはきついですよ。
 息吸い込む暇無かったし。

 そうこうしている内に、吹き抜ける風が緩やかになり、飛行が終わった事を悟った。
 逃げ切れた、らしい。

 トス、と軽い音を立てて足が地面につく。

「はひぃ〜…」
 
 べちゃ、とあたしは地面に倒れ込んだ。

「今回は運がよかったです」

 女の子の声に、あたしは顔を挙げた。
 女の子は、あたしの隣に膝を抱えて座り込んでいた。

「ふゎ…あの…助けてくれて有難う」

 慌ててあたしは体を起こすと、女の子に向き合った。

「礼は結構です」
 
 女の子が素っ気なく言い放った。

「でも、あなたは…」

 誰?と問いかけたあたしを、女の子は手で制した。

「ここで名乗る事は懸命ではありません。此処は時の狭間。あまりにも危険すぎます。
 時がくれば全て思い出すはず。それまではわからないままで、ね」
 
 人差し指を唇の前で立てて女の子が微笑んだ。
 立ち上がり、さぁ、とあたしに手を差し伸べて来た。

「もう行った方がよいでしょう」

 穏やかだが、有無を言わさぬ口調に、あたしはおずおずとその手を取った。
 その瞬間、光があたしを包んだ。




「…きろ!!」
 
 誰?

「起きろ!!」

 誰だろう?まだ夢なのかな…でも大分聞き慣れた声だなぁ…

「いつまで寝こけてんだよーっ!!!」
 
 耳をつんざく絶叫にラロは跳ね起きた。
 ふと横を見れば、つい先程まで自分の頭があった場所に、ロングレンジのナイフが三本。
 見上げれば、腰まで届く長い金髪を後ろで束ね、肩から日本刀を提げた師匠。
 大層怒ってらっしゃる。
 
「酷いですよ師匠!!これでもしあたしが死んじゃったらどうしてくれますか!?」
「その時の気分による」
 
 真顔で言い放つ師匠にラロは溜息をついた。この人なら、本気でやりかねないかもしれない。
 師匠は物凄い美人だ。長い金髪にどこまでも蒼い瞳。背も高くスラリとしている。初めて会ったら、一見おしとやかでたおやかそうな人に見える。実際はそんなものには全くご縁がない、男勝りな人だ。あまりにギャップが激しすぎて最初はビックリした。でも、『蒼嚥乱舞』の異名を持つ、忍の中の実力No.10に入るぐらいだから、ある程度変人で当たり前なのかもしれない。

「師匠…」
「何だ」

「お願いですから寝起きに危険物を投げつけるのは止めて下さいよ。もっとマシな方法があるでしょう?」
「それではつまらない」

 弟子を何だと思っているんだろうかこの人。

「…悪魔」
 
 ボソリとラロが呟いた。その瞬間、師匠がすっと目を細めた。
「何かいったか?」
「気のせいですよお師匠様」
 
 そうか?と言ってニコリと微笑むと師匠はロングレンジのナイフを十本程取り出した。全身に大量の刃物を仕込んでいて、うっかり間違えて自滅したりしないのかな、とラロは時々思っていた。実際今もそう思ったが、今はそれよりも優先事項がある。ラロが反転してベッドの縁を蹴って部屋の橋に移動するのと、師匠がナイフを投げつけたのはほぼ同時だった。完全に回避したはずだったが、ナイフの内数本が方向転換してラロの方に向かって来た。

「っ!」

 ラロは咄嗟に足を折り曲げ跳躍の姿勢をとったが、不意に師匠の言葉が頭をよぎった。

『避けられないなら避けるな。敢えて受けろ。その技を見切る事が大事だからな』

跳躍する事を止め、両手を前に突き出した。白刃捕りの用法で、向かって来たナイフを指で全て受け止めた。

「む…受けたか」
 
 師匠が微笑んだ。
「で? 見切れたか?」
 ラロは肩をすくめた。追撃するナイフなんて聞いた事も無い。
「どうやったんですか?特に何の術も使って無かったようですし」
 かはは、と師匠は乾いた笑い声を揚げた。
「気合いだ」
 嘘付け。
「嘘にきまってるだろう」
 睨まれた。
「ナイフを投げた時に斬撃の軌道をつくっておいたんだよ。刃物を使わんでモノを斬る時の応用だな。今は手加減したからよかったがな。本気でやってたらナイフを受け止めた時点であちこちズタズタになってたぞ」
「それを先に言って下さい」

悪魔みたいな人だ…

「何か言ったか?」
「弟子にまで読心術を使うのはやめてください」


 ぶつくさ言いながらラロはナイフを師匠に返した。どうせ言ったところで無駄なのだが。ふと見れば師匠は既に部屋を出る所だった。

「師匠ー。今日は何時から修業始めるですかー?」
「昼間は少し用事があるからな…一時からだな」

 またか…。最近の師匠はやけに忙しそうだ。この間も立て続けに四つも連続で任務をこなしていた。その内二つは、ラロも同行したのだが。それに、どうやら師匠はラロが度々見る夢について何かを知っているようだった。いつもその事になると言葉を濁す。
 それは知るべきでないのか、知らない方がいいのか。自分には何があるのか。自分は何なのか。

「…今日、いつもと違う夢を…見た…」
「…!?」

 師匠が無言でラロの方を振り返った。すっと目を細めている。ラロは簡潔に夢の内容を師匠に語った。
 歌。闇。声。少女。…夢で見たモノが頭をよぎる。

 …と。
 
 遠い遠い記憶。

 シロイヒカリ。
 アオイヒカリ。
 
 二人の誰か。


 声。
 届く事の無い想い。
 壊れた世界。

 
「…ぐぅ…!!」

 それが、頭をよぎる。夢で見た事の無い、それが。ラロは一瞬顔をしかめた。今のは…何?


「大丈夫か?」

 顔を挙げると、師匠が気遣わし気にラロを見ていた。その目に一瞬、戸惑いが走ったのは気のせいだろうか。

「…大丈夫です」

 嘘をついて、ラロは笑顔を見せた。 
 しかし、師匠はきっとそれに気付いていたのだろう。
 師匠にしてみれば、『嘘』なんて余りに見え透いていて、くだらなくて、完膚なきまでに意味の無いものだから。
 それでも、ラロは嘘をついた。

「ラロ…その事は、誰にも話すなよ…今はまだ…お前が知るには…早すぎる…」
「…あたしは…何なんですか?」

 師匠は答えなかった。暫くの沈黙の後。

「何も思い出せないか?」

「え?」

 不意に師匠が発した言葉にラロは戸惑った。何でも無い、と言って軽く笑うと師匠は一瞬で姿を消した。

「…何でもない訳無いじゃないですかぁ…」

 一人残されたラロは心底迷って呟いた。夢の中の少女の言葉と、先程の師匠の言葉が頭に響く。

『時がくれば全て思い出すはず』『何も思い出せないか?』

『ソレマデハ ワカラナイママデ』

 ふっと溜息をつくとラロは立ち上がった。今は気にしていてもしょうがない。
 きっといつか解るはず…そう遠くない未来に。
 それはもしかしたら、余りに酷いかもしれない。逆に、何の意味も持たないかもしれない。
 けれど、それはその時になってから考えよう。


 さてと。師匠と約束した時間になるまで、どっかに行こうかな。



   

    * 里 *
   
        ※…語り部:ラロ
   

           * 

   笑わせんなよ。こんなに汚れた世界の何処が綺麗なんだよ?

           *


 部屋にいても特にする事がないので、あたしは外に出る事にした。
 とりあえず着替えて、色々と武器を装着し、最後に細身の日本刀を一本肩から提げると部屋を後にする。
 そんないかにもな格好していいのか、と思うかもしれないが、案外誰も気にしない。
 まぁ、ここは忍や咲嘩(怪盗)達が住む里だから、当たり前と言えば当たり前なのだけど。
 とりあえず、此処で『忍』と『咲嘩(さっか)』について軽く述べておこう。
 忍や咲嘩は『狩人(ハンター)』に分類される。
 『狩人』とは『請負人(うけおいにん)』の中で、『人からかけ離れた能力を持ち、どんなにレベルの高い任務でもやってのける』者。だから、と言うのも変だが、剣術、忍術、拳術、射撃、医術…ありとあらゆる面で人の域を超えている。それは返せば、どんな任務であろうとそれを遂行出来る事。暗殺だろうが、何だろうが。
 ただし、忍は『ある目的の為』に動き、咲嘩は『自由気ままに目的無く』動く。
 また、咲嘩は『人を殺せない、もしくは殺さない忍』でもある。 
 つまり、忍の成り損ない?かな。でもだからと言ってその能力は忍に劣る訳ではないし、むしろある分野では忍よりも優れた技術を持ち合わせている。特に、その任務が、『誰も何も殺してはいけない』のならば。殺し屋にとっては『殺さない』方が『殺す』よりも難しい。何故なら、『殺す』事を前提に訓練されたから。決して仕留め損ねない様に。どんな状況でもどんな時でも例えそれが正義でなくとも、そんなモノは一切関係なしに、殺せる様に。



2007-02-25 00:08:55公開 / 作者:マーモン
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■作者からのメッセージ
 こんにちはであります。
 以前から考えていた異世界ファンタジーに挑戦、文章力の無さに絶句。(…)
 辛口でもかまいませんので、アドバイス等、あればお願いします。
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