『【TWILIGHT HEARTS】』作者:キョン / t@^W[ - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角9336文字
容量18672 bytes
原稿用紙約23.34枚
教室と廊下の間にある、ガラスと言う名の透明な壁。
そこから一望できる、廊下に立つ少女が今から仲間入りするであろう、クラスメイト。
そして、彼女が座ることになるであろう、一つだけ空いている席。
その隣に座る、金髪……いや、黄髪の少年に、彼女は目をやる。
少年は快適な姿勢、かつ教師にバレない姿勢での……熟睡。
運命を変える歯車は、再び噛み合った。


第一話 奇妙な名前の少年


中学三年二組、と書かれてある教室の中。
ガヤガヤと騒ぐ生徒達を静め、担任の教師が話を始める。

「じゃあまず、みんなに新しい友達を紹介しよう」

と、いきなり衝撃発表をする教師。
再び、生徒達がガヤガヤと騒ぎ始める。
しかし、今度は静めることなく、話を進める。

「それじゃ空弓(そらゆみ)さん、入ってきて」

ガラガラ、と戸を開け入ってくる少女。
身長は少し高め、体型もスラッとしていて、容姿端麗。
しかし、そんな非の打ち所の無い姿よりも目立つ、彼女の特徴。
それは、腰までかかる、桜色の長い髪。
それが生徒達の目を引いた。

「それじゃ、自己紹介をお願いできるかな」

その言葉を聞いて、少しだけ凛とした顔が曇った。
しかし、すぐに元に戻り、口を開く。

「……空弓、志亜(しあ)です。よろしくお願いします」

実は、彼女の顔が曇ったのには、ある理由があった。
それは、彼女の名前。
只でさえあまり聞かぬ名を名付けられたのに、姓まで珍しいと来た。
以前の中学では、それを理由に、少しイジメにあっていた。
転校先では、と気を改めても、名は簡単に改める事はできない。
故に、欝になるばかりで、さんざん考えた自己紹介の言葉も、口から出て来ない。

「それじゃ、一番後ろの列の、窓際から二番目の席に座って」

「はい……」

自己紹介失敗の上、隣は朝から熟睡する少年。
転校生がやって来たと言うのに、寝ててどうする。
そういう怒りの気持ちを込め、少し横を見てみる。
すると、その少年はしっかり志亜の方を向いて、何故か怪訝な顔を見せていた。

(起きてる!)

心の中で、大声でのツッコミを入れる。
と同時に、少年が尋ねた。

「ん? 見ねぇ顔だな。どちら様?」

(二十秒前に名乗りましたけど!?)

と、再び心中ツッコミを入れる。
少年は、変わらず怪訝な顔を見せていた。
すると、少年の言葉を聞いていた教師が、チョークをピンポイントで額に投げる。

「あでっ!?」

チョークの威力とは思えない程、少年の頭が後方に弾かれた。

「話を聞いていろと、いつも言っているだろ!」

(いつも寝てるのね……)

教師は、フゥ、と息をつき、志亜に変わって紹介をした。

「空弓志亜さん。今日からお前達の仲間だ。仲良くするんだぞ」

「へ〜い」

気の抜けるような少年の返事と共に、教師は教室を出る。
生徒達が席を立ち、仲の良い友達と集まる中、志亜は先程の教師の言葉を思い出していた。

「仲良く、か……」

大きくため息を漏らし、再び顔が曇っていく。
不安に襲われ、席を動こうともしない。
そんな志亜に、熟睡少年が突然、

「呼び捨てで良いよな?」

と、話しかけてきた。
その状況にも、言葉の意味にも、反応出来ずにいる志亜に、少年は続けた。

「よろしくな、空弓」

と、笑顔で手を伸ばす。
ようやく全てが理解できた志亜は、ぎこちない笑顔で、その手を手でとった。

「……志亜でいいわ」

すると少年は、明るい笑顔を更に明るめた。

「ん、ああ。よろしくな、志亜」

……小さい理由だった。

「よし、これで俺達は友達だな」

「え?」

名前が理由だなんて、言い訳だった。

「え?って何だよ」

「あなた……相当な慌て者ね」

結局私は、嫌われるのが怖くて、自分から壁を作ってるだけだった。

「ははは、よく言われるよ。何でそう思ったんだ?」

「だってあなた、自己紹介を忘れてるわ」

でも、その壁を壊してくれた少年がいた。

「あ、そういやそうだ」

「名前だけでも、教えてくれるかしら?」

その少年は、私の始めての、真の友達。

「俺は海剣 祇流(みつるぎ ぎる)。祇流で良いぜ」

私と同じで、奇妙な名前の少年だった。



第二話 気のせいじゃないと思う



時計の長い針と短い針、両方が頂点を指す頃。
午前中の授業を受け、生徒達の疲労も頂点差しかかろうとしていた。
襲いくる睡魔に耐え、授業終了の鐘が鳴るのを今か今かと待ちうけている。
しかし、耐えようともせず、なすがまま睡魔に身を委ねている少年がいた。
品の良い黄色の髪。ラフなヘアスタイル。中肉中背。一応、美男子。
この少年の、姓は海剣、名は祇流。
志亜は、隣の席に座る祇流に目をやった。

(また寝てる……まったく)

転校して数週間。
志亜は、新しい学校にもどうにか馴染んできていた。
名前なんて、小さな理由だと気付いた彼女は、すでに何人かの友人もできている。
しかし、下校は必ず祇流と共にしていた。
登校もほとんど一緒だが、祇流が寝坊した時だけは、例外。
今朝もその日だった。

(話したい事もあったのに……学校では朝から寝っぱなしだし)

などと考えていると、授業終了の鐘が鳴った。
と同時に、祇流の目がパッチリと開く。

「あ、祇……」

「チョココロネが売り切れる〜〜!」

そう叫ぶと、祇流は一目散に購買部へと走り去っていった。
ちなみに、本校のチョココロネは、抜群の人気なのだ。

「……ちょ、ちょっと祇流!」

呼び止めるが、すでにそこには影も見えない。
追いかけたとしても、購買部でパン争奪戦に巻き込まれるだけである。
大きなため息が漏れた。
と、そこに、

「どうしたの? 志亜ちゃん」

と、女生徒が話しかけてきた。

「あ、うん。ちょっと祇流に相談したい事があったから」

「へ〜。そう言えば志亜ちゃんってさ、海剣君といっつも一緒だよね」

「あ、私もそれ思ってたんだ〜」

それをキッカケに、次々と寄ってくる野次馬達。
勝手に妄想を膨らまし、自分達だけで話を進めていく。
その中の一人が、衝撃的な事を志亜に尋ねた。

「ね、志亜ちゃんさ、海剣君の事、好きなの?」

しかし、過去にそう言う経験が無かった志亜は、別の『好き』として受け取り、

「もちろん。一番大切な友達だもの」

と答えた。
その答えを聞いた女生徒達は、何か違うと言った感じで、ウーンと唸る。

「そうじゃないんだよね。好きと愛するの違いって言うか」

「うん。言わば『LIKE』と『LOVE』の違いって言うか」

そう聞かれ、やっと理解したのか、志亜は頬を真っ赤に染めた。
そして、首をプルプルと横に振り、否定する。

「え!? いや、私そういうのよくわかんないし、その、なんて言うか……」

その反応と慌てっぷりを見て女生徒達は、

「はいはい、もうわかったから。早く海剣君のとこ、行ったら?」

と、志亜を急がす。
すると、志亜は思い出したように、またはその場から逃げるように、

「あ、そ、そうだった。それじゃ、ま、また後で」

と言って教室から出ようとする。
が、そこで女生徒達が志亜を冷やかした。

「今日は土曜だから午前で終わりだよ? いつもみたいに、海剣君と腕組んで帰りなよ」

すると志亜は、期待通りのリアクションで、

「う、腕なんか組んでない!」

と、顔を耳まで真っ赤にし、教室から走り去って行った。



「ふ〜、危ねぇ危ねぇ。最後の一個だった」

校舎の外。
綺麗に整った芝生の上、大きな木の下。
そこで祇流は、木漏れ日を受けながら仰向けに寝そべっていた。
『最後の一個』と、その他三つのパンを手に。

「そういや、志亜はどこ行ってんだろ?」

そう思って、教室から出る時の、志亜の様子を必死に思い出す。

「…………あっ」

そして、志亜が何か言おうとしていたことを思い出す。

「ヤベ、無視して来ちまったな……」

やっと自分の過ちに気付いた祇流は、何故か『その他三つのパン』を食べ始める。
そして、三つ目のパンを食べ終わった頃、

「あ、いたいた」

長い髪をなびかせながら、志亜が走り寄ってきた。
まだ落ち着かない息遣いのまま、祇流の隣に、足を畳んで座る。
志亜は、なんとなく女生徒達との会話を思い出した。
すると、また顔を真っ赤にする。
そんな彼女をよそに、祇流は、志亜が怒っているかを、顔を見て確かめた。

(おお、顔が真っ赤になるくらい、怒ってる……)

二人、各々の理由で、話しかけられずにいる。
しかし、痺れを切らし、祇流が口を開いた。

「し、志亜……パン食うか?」

と言って、『最後の一個』を差し出す。

「え? でも、それチョココロネ……」

「き、気にすんなって。今日は四つも買えたんだ。一つくらい、な」

半ば無理矢理に、志亜にパンを渡す祇流。
志亜は、祇流の横に捨ててある、三つのゴミに目をやった。
そこには、『あんパン』、『カレーパン』、『メロンパン』とそれぞれ記されてある。
それを見て志亜は、おかしかったのか、祇流の優しさが嬉しかったのか。
クスリと笑い、笑顔で例を言う。

「ありがと、祇流」

その笑顔を見て、祇流は無意識に目を逸らした。
そして、機嫌を取りおえた彼は、そのまま本題に入る。

「それで、何か話があるのか?」

それを聞き、思い出した志亜は、用件を述べる。

「あ、そうなの。実は、今日の朝……」

志亜は、朝に起きた事を話す。
その話を聞き終えた祇流が、小声で驚きの声を上げる。

「ストーカァ?」

「ストーカーって訳じゃないけど、どうしても他人の視線を感じるの」

「気のせいじゃ?」

「ないと思う」

ここまで言い切る志亜を見て、首を捻り考え込む祇流。

「とりあえず、帰りに確かめてみるか……」

そう決めた二人は、早速帰り支度をし、校門を出る。
この後の事を考えず、気楽な気持ちで。

「今んとこ、つけられてる気配は無いけど?」

「うん。視線も感じない」

「やっぱ気のせいじゃ?」

「ないと思う」

などと、下らないやりとりもできる程、余裕が出来た二人。
もうあまり心配もせず、足取りも軽かった。
そして、二人が別れる分かれ道に着く。
祇流は、志亜を家まで送るつもりだった。
が、ここまで何も無かったことだし、大丈夫だと思い、ここで別れることにした。
その時、

「「!?」」

二人が、バッと背中を合わせた。
思うことは、同じ。

(視線なんつう、優しいものじゃない)

(今朝とは違う、紛れも無い『殺気』)

二人は気を引き締め、集中する。
四方八方に注意を払い、小声で話した。

「感じたよな?」

「うん」

「気のせいじゃ?」

「ないと思う」

そう言い、更に気を引き締めたその時。
パチパチと、拍手の音が聞こえてきた。
その音が鳴る方へ、二人共、視線を合わす。
そこには、黒いマントを全身に被った、何者かがいた。

「いやいや、素晴らしい反応だ。さすがは、伝説の二人と言うべきですか」

声から察するに、老人の男性と思われた。
しかし二人は、彼の言う言葉に理解がいかない。

「何のつもりだよ、爺さん。いきなり殺気なんか出しやがって」

「『伝説の二人』って言うのは、何の事?」

すると、老人はその質問に、

「それは、直にわかります」

と、軽くながした。

(何なんだよ、一体……いや、それにしても)

と、あれこれ考えている祇流に、

「ねぇ、祇流」

志亜が話しかける。

「何だ?」

「あの人、何だか……懐かしい感じがする」

と、突拍子も無い事を口走る志亜。
しかし、祇流は驚きも馬鹿にもせず、只一言、

「……お前も、か」

と零した。

「じゃぁ、祇流も?」

「ああ」

この老人は何者なのか。
そう思いながら、一つ会話をする。

「気のせいじゃ?」

「ないと思う」

その話題の老人は、そんな二人をよそに、話を進める。

「これから話すことは、全て事実です。そして、それを聞き終えた時……」

二人は、驚愕した。

    「あなた達の日常は、壊れます」



第三話 『ギル=ミツルギ』と『シア=ソラユミ』



固唾を飲み、緊張の色を隠せない二人。
二人の顔色も窺わず、事実だけを述べようとする老人。
祇流は、引っ掛かる老人の言葉を、自分で口にし、確かめた。

「日常が……壊れる?」

老人は、動揺も緊張も見せない。

「はい。これは運命なのです。あなた達は、この事実から逃げる事はできません」

今こうして相対している老人は、幻でも夢でもない。
しかし、どうしても信じることが出来ない。
が、ここまで意味ありげに言われると、話半分に聞くことも出来ない。
二人は、再び固唾を飲む。

「では、よろしいですか?」

老人が、一つ了解を取る。
二人は覚悟を決め、頷いた。
そして、老人は話を始める。

「今から五十年ほど前、こことは別の世界で、戦争が起こりました―――

その世界は、基本的には、この世界と違いはありません。
人間が住み、建物が並び、いくつもの国で分かれ、大地があり、蒼き海と空がある。
しかし、この世界との大きな違いが、二つだけあります。
それは、科学技術の発達進度と、自然破壊の少なさです。
この世界では、自然を破壊し、そしてその分の科学技術を得る。
故に都会と呼ばれる場所には、人にとっては住み易くなっている。
だが、その反面、自然が少なく、空気が濁り、動物達にとっては住みにくくなる一方。
これは、この世界では仕方の無い事といえます。
しかし、その世界では技術と自然を両立させた。
人にとっても、動物にとっても、住み易い世界となったのです。

だが、どの世界にもやましい考えを持つ者がいるものです。
その発達した技術を利用して、欲望のままの世界にしようとする組織が現れました。
その組織の名は、『Rule Army』
あらゆる兵器を駆使し、民や政府までも制圧し、世界を支配せんとする軍団です。
もちろん、皆は反対しましたが、奴らの兵器を抑える事が出来ず、太刀打ちできませんでした。
政府すら、逃げの策を弄する事しかできない、そんな状況になったのです。
しかし、結果的に、奴らは敗れました。いくつかの少数部隊に。
その部隊に属する者達は、全員不思議で強力な能力を持っていたのです。
二十人の部隊や、十人の部隊もいれば、五人の部隊もありました。
その部隊は、圧倒的に人数が少ない中、それぞれが国々に散らばり、その能力で軍団から民を守ったのです。
そして、その国にある奴らの拠点を潰していきました。
中でも、敵の本拠地に乗り込み、直接的に軍団を壊滅させ、戦争に終止符を打った部隊。
その人数は、少数とはいえ、部隊と言うにはあまりに少なすぎる、二人の男女。
たった二人で、本拠地の中にいる数百人の軍団を倒し、勝利を掴んだのです。
その二人、

―――男の名は『ギル=ミツルギ』そして、女の名は『シア=ソラユミ』」

長い、しかし簡潔に用件をまとめた話を聞き終え、祇流は思う。

(正気かよ、この爺さん……異世界だとか、俺達と同じ名前だとか、こんな話、いきなり聞かされて信用できるかよ)

すると老人が、まるで祇流の心を読んでいるかのように言う。

「信用できませんか?」

「当たり前だ! じゃぁ何だ、その二人は俺達の先祖か何かか!?」

「いえ、彼らは子孫を残していません」

この先の質問も、この様に淡々と返されるのかと思うと、嫌になる。
しかし、このまま納得はどうしても出来ない。
そう思い、次は志亜が尋ねた。

「じゃぁ、私達との関係を教えて」

「……あなた達は、両親の事を、ご存知ありませんね?」

二人は、軽く頷く。
この二人は、小さい頃から、それぞれ施設に預けられていて、両親の顔も、名も知らない。
しかし、なぜか自分の名だけは知っていた。
そして、そのまま流れに身を任せるように、育ってきた。

「少しおかしな言い方になりますが、あなた達は生まれてきたのではないのです」

目を丸くする二人。
反論するのは、祇流。

「バカ言うなよ。なら、俺達は何で存在してるんだ?」

「簡潔に申しましょう。あなた達は、彼ら本人なのです」

ほんの束の間、沈黙に包まれる。
そして、祇流と志亜が反論の言葉を見つけた。

「全然簡潔じゃねぇ! 俺達はそんな世界も戦争の事も知らねぇし、不思議な能力も持ってない!」

「そうよ! それに、五十年も前に私達は生まれてない!」

塞ぎ込んでいたものが溢れる様に、二人は反論を続けた。
この老人の理不尽な話に、どうしても頭がついていかない。
本来なら、話を冗談としてとる事が出来る。
それが普通だ。
しかし、この老人の普通ではない雰囲気が、そうさせてくれない。
否応なく、聞き入れてしまう。

「順を追って話しましょう。彼らが潰した本拠地の地下には、全ての兵器の動力源となる工場がありました。もちろん、戦争を終えた後、彼らはそれを破壊しました。すると、膨大なエネルギーが一気に放出され、大きな時空の歪みが発生した。そしてその歪みは、二つの世界を、繋いだのです」

「それで、って言うか、だから何なんだよ!」

頭が混乱し、知りたい疑問が、上手く言葉にならない。
それでも、出来る限り冷静に、志亜が尋ねる。

「その二人は、どう、なったの?」

「……時空の歪みに、呑まれました」

それを聞き、祇流は『まさか』と思った。
その可能性を、見つけた。

「それで、こっちの、世界に……?」

老人は頷き、更に言葉を続ける。

「そして、その様な大規模な時空の歪みがあれば、世界に波乱が起き、被害者も出るでしょう」

祇流は息を呑んだ。
もう彼は、ほとんどを理解した。

「だから、そいつら……いや」

言いかけ、祇流は言葉を止めた。
そして、違う言葉を紡ぐ。

「『俺達』は、こっちの世界から、時空の歪みを抑えた。その、不思議な能力で」

老人は少し驚きの顔を見せ、頷く。
しかし、それ以上に驚いているのが、志亜だ。

「何で、そんな事がわかるの?」

答えたのは、志亜が尋ねた相手――祇流――ではなく、老人。

「鋭い勘は失われなかった様ですね、ギル殿」

その言葉から、引っ掛かる一言を拾う祇流。

「鋭い勘、『は』? 何かを失ったのか」

老人は、平然として答える。

「はい。その歪みを抑えるには、二人が全力を注いでも、力が足りませんでした。それを補うため、代償を払ったのです。その代償とは、『記憶』と『成長度』をリセットする事、つまり、一度捨てる事です。そして、幾年の時を経て、再起動する」

老人が、言葉を終える。
その時、やっと頭がついてきたのか、志亜が言葉を発した。

「生まれ、変わったって事……?」

「それとはまた少し異なります。先程言ったように、ギル殿は鋭い勘を失っていない。私が殺気を発した時も、あなた達は長年のパートナーの様な反応を見せましたね? それからもわかるように、体に染み付いている『経験値』は健在です」

それを聞き、尚も信じられぬと言う顔をする志亜。
しかしその反面、祇流が意を決したように口を開く。
一番気になることを尋ねる。
運命の引き金を、引く。

「それを俺達に教えて、どうするつもりなんだ?」

「……戦争が、再び起きます」

「「!?」

老人の、衝撃の言葉。
当然、二人はそれに驚く。
五十年前の戦争が、再び起きる。
衝撃を受けないわけがない。

「それが意味する事、それは、『Rule Army』の復活です」

「……俺達に、戦争に行けってのか?」

「いえ。正確には、戦争が始まる前に奴らを止めて欲しいのです」

「私達に、出来る訳ない」

「あなた達にしか、出来ないのです」

無茶苦茶な理由で、無理な要求を押し付ける老人。
二人は、呆気に取られ、押され気味になった。
しかし、志亜がある疑問に、ふと気が付く。

「その世界に、行く方法はあるの?」

「はい。あなた達は歪みを抑えはしましたが、完全に無くすことは出来なかった。無害とはいえ、そのまま放置するのは危険と判断したので、ある場所に収め、私達が守り続けております」

祇流が、またも引っ掛かる言葉を拾う。

「ある場所ってのはどこだ? それと、私達って言ったな。あんたの他に、誰がいる? あんた達何者だ?」

「一つ目の答えは、ルメル遺跡。そして、もう一つの答えは、私と私の息子です。何者かは、実際にその場にて教えましょう」

最早、その場に行く事が決定されたかの言いようである。
しかし、そんな自分勝手な老人が、初めて相手を思いやる様な言葉を零した。

「身の周りの整理と、身支度と心の準備をする時間は、もちろん与えます。期限は一週間。それを過ぎたら、あなた達にはもう一切関与しません。もう一つの世界も、忘れてもらって結構です」

そう言い、去っていく老人。
身動き一つせず、いつの間にか日も暮れ、夕方の暗い歩道に佇む祇流と志亜。
頭の中では、何度も老人の言葉が繰り返されている。
二人には、残り一週間の『日常』が約束された。
2007-02-03 20:58:52公開 / 作者:キョン
■この作品の著作権はキョンさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
どうも、どうもです!
ほとんど始めましての状態でしょうね、キョンです!
急展開の第三話!
二人に告げられた衝撃の事実!
どうなる、この先どうなる!?

……………ハァ orz(一人で盛り上がって、鬱になる)
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