『胸の中の思いで』作者:りゅうりゅう / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
上京したての『ボク』の理想と現実と哀愁のショートストーリーです。
全角1383文字
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原稿用紙約3.46枚
 今日、夢を見た。当たり前だった日の夢…。

 ボクは今年から大学生になった。親の反対を押し切り、上京という形で都会に出てきたんだ。
 合格発表で僕の番号があったとき、それはもう嬉しかった。柄にも無く握りこぶしを作って、天高く振り上げたくらいだ。
 そして出発の日、両親は少し不安そうだけど、めいいっぱいの笑顔で送り出してくれた。
「がんばるんよ」
 心配と不安、そして励ましのこもったその台詞に、ボクは「大丈夫」と繰り返し答えた。
 一人で飛行機に乗るのは二度目、受験に行ったとき以来だ。空港まで見送りにきた心配性な母に笑顔で手を振りながら、飛行機に乗り込み出発した。
 無事現地に着いたのだけど、あいにくの雨。両手いっぱいに荷物を持っていた僕には、雨を防ぐ手立てが無かった。
 そこまで強い雨じゃなくぽつぽつとしたものだったけど、到着した日に雨っていうのは少し悲しかった。……確か受験の日にも雨が降っていたなぁ。
 アパートに着いて、まずは両親に電話をかける。
「一人でもちゃんとやっていくんよ」
 母はやはり心配そうで、でも勇気づけようとしてくれた言葉が嬉しかった。実家ではあんなに口やかましく命令してきたのに、反則だよ。
 この言葉と、まだ家具も何も無いがらんどうの部屋を認めたとき「ああ、独りぼっちなんだ」と初めて認識した。
 周りには頼れる親戚も、友達も誰もいない。人は通りにごった返すほどいるのに、僕は独りぼっちだ。
 上京すれば親に縛られず、自由になれると思っていた。好きなものを食べ、好きなものを買い、好きな時間に寝て好きな時間に起きる…。
 だけどこれは浅はかな願いだったのかもしれない。襲い来る孤独という名の恐怖、未来への不安、焦燥…。
 初めて寝る自分以外誰もいない家。
 いつもの時間に寝たのに、ずいぶん早くに目が覚める。
 次の日も、そのまた次の日も…。
 少し慣れてきた一週間目のある日、両親とペットと暮らしている夢を見た。
 晩御飯を家族みんなで食べ、食後のお菓子の争奪戦をしたり、そして犬に抱き着いていじめたり、早く風呂に入れと怒られたりした…。
 その夢は、ボクが上京する前の十八年間、毎日過ぎ去った唯の日常だった。当時はほとんど煩わしいことだったというのに、何故だかひどく心地いいものだった。
 ――目が覚める。目の前にはボクの思い描いた、少しくすんだ天井ではなく、あまり慣れていない、無機質な白い天井だった。
 差し込む光によって目が覚めたみたいだ。まだカーテンのついていない窓からは、橙色のやわらかく暖かな夕日がボクを照らし出している。
 どうしようもない虚無感がこの胸に溢れてきたけど、これも自分が望んだことの結果。いつか思い出が色あせ、この生活に慣れるその日まで、ボクは耐えていこうと思う。
 『本当に大切なものは、失ってみて初めて分かる』というのは、きっと本当なんだろうね。
 ボクはがんばろうと思う。たとえ独りぼっちだとしても、がんばれると思う。
 いつか本当の意味で一人立ちするまで、この思い出が色あせるまで、きっと耐えていける。いや、耐えてみせる。

 ――それは、暖かな人たちに囲まれた、この夕焼けのような思いでが、ボクの胸の中で生きているから……。
2006-11-11 19:33:09公開 / 作者:りゅうりゅう
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■作者からのメッセージ
はじめまして、りゅうりゅうと申します。今までコメントも投稿もしたことがないんですけど、どうかよろしくお願いします。
ぜひ辛口な評価で鍛えてください。
この作品に対する感想 - 昇順
読ませていただきました。私には面白みを感じることが出来ませんでした。主人公の置かれた状況も心理もありきたりな形に思えて、ちょっと工夫がないように思いました。一人で上京したら心細いだろうなぁ、くらいの心境は誰にでも想像できるので、その想像の範囲外のイメージや心情を伝えて欲しかったです。
2006-11-14 03:26:46【☆☆☆☆☆】メイルマン
感想ありがとうございます。まだまだ自分の想像力が貧困であることを痛感しました。これはすぐにどうにかなるようなことではありませんが、読んでみて面白いと感じさせることを念頭に置きこれからの創作を行いたいです。
本当、ありがとうございました。
2006-11-14 05:54:54【☆☆☆☆☆】りゅうりゅう
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