『風のように歌が流れていた。』作者:らいらっく / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角2706.5文字
容量5413 bytes
原稿用紙約6.77枚
「じゃあ訊くけど、お前はどうして学校にかよっているんだ?」
「どうしてって……」
「高校中退。大人は口を揃えて、後悔するぞと言う。誰もが通ってきた道だから。……それってじゃあ最初から主人公なんて要らない。俺はそう思うんだ。大学行ってる、お前みたいにうまいこと言えないけどな」
そういえば僕は何故、学校にかよっているのだろう。それこそ、うまく説明なんてできない。目の前にある景色が、例えば、全く別なものに見えているんだろう。君と僕では。学校って嫌な思いしてまでいくところ? 学校ってかよう必要あるの? 学校って楽しいの? 僕は、そのどれにも答えられない。ただ、僕の育った所は高校どころか大学に入らないなんてあり得ない、そういう空気だったから。それが当たり前だったから。僕の当たり前と君の当たり前があまりにも違っていたんだね。みんな目を瞑ってる。通行人のフリをしながら……

 いつからだろう。小さな不幸を見つけるのが上手になったのは。いつからだろう。自分を偽り続ける術を手にいれたのは。トゲに囲まれたマッチ箱の中で、涙の流し方や笑顔の創り方なんて、教えてもらえなかった。根本的な何かを掴めずにただ多数派でいれば良い子になれたんだ。

 ただ、無邪気に遊んでいた。リコーダを覚えたり、逆上がりができるようになったり、毎日が楽しかったのを覚えてる。でも変わった。良い高校を出よう。良い大学に入ろう。逆上がりなんて出来なくて良い。リコーダなんて吹けなくて良い。そんなものは何の役にも立たない。賢くなれば役に立つ。何に、いつ、どこで、それすら分からないのにそう信じた。みんなもそうだったから。同じ道を歩いてる安心感がそこにあったから。歩幅を合わせて歩かなきゃいけないことは感じていたから。この時から僕らの道は別れ始めたのかな。こんな気持ち、今もノートに残ってる。君は、ちゃんとした証拠のないことは信じられない、僕なんかよりよっぽど素直な良い子だったのかもしれないね。君は、何を信じていきていたの? 

 いつからだろう。あの頃って言葉使い始めたのは。いつからだろう。拳を握れなくなったのは。籠に入れられた鳥のように、餌の捕まえ方や羽根の広げ方なんて、必要ないものだったのかも。他人を愛する事も出来ないで、愛される事ばかりを願い続ける。

 俺はただ、毎日が楽しければ良かった。勉強は楽しくなかった。大学に行きたいとも思えなかった。友達と笑えれば良かった。それだけで良いって信じた。勉強なんかしてる暇があればバイトして人付き合いを覚えて、自分のお金を手に入れて、好きなもの買えるようになる方がよっぽど役に立つ。俺にはそうとしか思えなかったんだ。だってみんなそうだったから。たとえ悪いことでも、みんなもやってることだからと言われれば、なんか大丈夫な気がしたんだ。こんな気持ち今もノートに残ってる。それが俺の当たり前。

 いつからだろう。他人より自分はどれだけ幸福か考えるの。いつからだろう。奇麗事を嫌って夢を棄て冷たい別の自分。この空だけが解ってくれる。詩を唄いたくて想いを届けたくて景色をグルグル回してる。素直になれた今ただ一つ伝えたい事、俺は此処に居る。

 「なあ? 俺らってずっと、このまま友達で居られるのか?」
僕には、即答できなかった。素直な疑問なのか、居たいという希望を含んでいるのか、はたまた反語なのか。それが僕には分からなかった。大学で僕は何を、学んでいるのだろう。文法なんか役に立たない。表情を読みとる力が欲しい。僕は、居たいと思った。
「居られるにこしたことないよね」
「なんだよ、それ。俺にわかる言葉でしゃべれ」
俺はそういう、難しい言葉駄目なんだ。こしたことないって日本語なのか。俺はやっぱ言葉もろくに知らない中退者か。

 「ずっと友達だよ」

 何よりも、わかりやすく、伝わりやすい、この言葉。でも二人とも口にしなかった。それが多分むりなことを、感じていたから。誰に教えられたわけでもない。けど二人は友達で居られない。なぜかそんな気がするから。
 「ずっと友達だ」
俺に、こんなセリフを吐かすな。照れくさい。こいういのは、お前担当だろう。
「いいや、君担当だ」
どうやら、僕はまた、難しく考えすぎていたらしい。今目の前に居る人は決して学のないやつなんかじゃない。僕なんかより、とてもとても大切な何かを知っている。その自覚は本人にないだろうけれど。

 「でさあ、気になってたんだけど、そのノート。お前さ、いつもそれ持ち歩いてない? 何が書いてある?」
「誰にも明かさない秘密にしようと思ってた。でも教える。友達だから。実は僕、詞を描いてる。中学生の頃から」
「おい、ほんとかよ。俺も実は曲を書いてる。これが、そのノート。いつも持ち歩いてる。」
「えーと、ほんとに?」
僕らはノートを見せ合う。俺の曲がはじめて人に見られてる。僕の詞がはじめて人にみられてる。
「お前、なんか賢いだけあって言葉選びっていうの? なんかすごいわ。」
「曲ってどんな時に描きたくなる? どうやって描くの?」
 
 共通点のないかに思われた二人。でも違った。二人はノートに書き留めていた。それぞれの気持ち。一人は詞一人は曲という形で。

 「なあ、歌おうぜ」
「それは、論を持たないさ。」

 しゃべり続ける、歩き出せぬ、善い理由。
大事なものを忘れて、振り返る。にせもののナイフを握ってた、あの頃のユメはいつか、しぼんだよ、いつだっけ。ああ夜空の向こうを毎日夢見る、風が吹く。タバコ加えて、何度だってあきらめた。君も僕も同じだよ、共に歩もうよ。とりあえず今は君となら、歩けそう。あわてる事はないさ、ゆっくりと。ナイフもタバコも僕らには似合わない。大事なものを探して歩こうか。ああ夜空の向こうに何かが待ってるはずだよね。雨に濡れても、踏まれても立ち上がる、アスファルトの花のように、強くなりたいよ。ああすべてはココから歩き出すための風が吹く。歩くつまずく、何度でもくりかえす君も僕も同じだよ、共に歩もうよ。

 二人の見てきた景色は全然違うもので、二人は今も全然違う景色を眺めているかもしれない。交わされる問いの答は大人に訊いても分からない。でも、これからは、二人同じ景色を見ていこう。どんな過去も現在も未来が照らして包んでくれるから。これから二人、風にように歌を歌っていこう。僕ら、やっと信じられるものを見つけたんだ。友達。歌。
2006-11-01 01:01:53公開 / 作者:らいらっく
■この作品の著作権はらいらっくさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
この作品に対する感想 - 昇順
1シーンを切り抜いたような印象をうけました。雰囲気はすきですが、ストーリーの前後関係がよくわかず入り込めません。
2006-11-01 09:47:24【☆☆☆☆☆】Sitz
伝えたかったであろう物はなんとなく伝わってきました。でも、あくまで小説は小説、歌は歌、詩は詩です。せっかく想いの伝達方法として小説を選んだのですから、最後に歌を持ってくるにせよ、もっと深く書き込むことが出来たように思います。歌を書くために補足的な要素として小説を書いた、そんな印象を受けました。伝えたいものがはっきりしているようなので、技術が付けば大化けすると思います。次回作に期待しています。
2006-11-02 23:04:29【☆☆☆☆☆】走る耳
 冒頭からいきなりセリフを持ってくるのは冒険。誰がしゃべってんだかわからないわけですからね。それでこの冒険を乗り切るだけの備えがちゃんと準備されているかというと、ないですねえ。ちょっと丸裸で冒険に出かけてしまっているなあ(汗)
 作品を書く上で、油断しちゃあイカンのです。隙を見せない。ツッコミ入れられても大丈夫なように、先ず自分自身が自分の作品に山ほどツッコミ入れて、ボケずに(笑) コッソリ作品を直しておく。ストーリーを追いかけるのとはアタマのチャンネルを切り替えなければならないですね。
2006-11-04 01:40:59【☆☆☆☆☆】タカハシジュン
作品を読ませていただきました。長い物語のワンシーンみたいですね。登場人物たちが抱える想いとかは朧気には分かるのですが、やはり唐突感は否めません。歌を無理やり小説にしようとして、どっちつかずになっている感がありました。もっと膨らませて登場人物たちの心情をじっくりと味わいたかったです。では、次回作品を期待しています。
2006-11-04 10:59:32【☆☆☆☆☆】甘木
計:0点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。