『柳川チョーキング』作者: / AE - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
俺はね、ほんとにしょーもない人間だ。真性包茎ゲス野郎だ。でもね、ゲスである事を、それを受け入れちまった自分を許してはいない。………変わりたいんだ。
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容量13639 bytes
原稿用紙約17.05枚
  柳川チョーキング





16××年、
世界のどこだかで何かすごい事がありました。
ただそれだけのこと。
歴史のセンセが授業の残り時間と戦いながら
必死んなって黒板にミミズみたいな文字を書き殴ってる。
あ、またチョーク折った。
この授業だけで何本目だ?
どんまいセンセ。
どんまいチョーク。

俺は黒板を眺めるのに飽きて窓の外に目をやる。
青い空。
雲はない。
ありゃなんだ?
ああ、ハングライダーか。
いいなぁ、俺も飛びたい。
おーい、俺も乗せてくれー。
俺の今の全財産、897円、あんたにやるからさ。
俺をこっから運び出してくれ。
この退屈すぎる日常から連れ出してくれ。

はあ、
退屈だ。
3時間目まで全部寝ちゃったからな。
もう眠くなくなっちゃったし。
暇。
おい、早くチャイム鳴れ。
まじで。




キーんコーンカーンコーン



「購買のおばちゃん」

ほい、220円頂くよ。

「柳川」

はいよ。


今日もおにぎり2個。
生きる為にはコレで十分だ。
俺は余分なものを好まない。
余分なものに手を出し始めると
欲望って奴はアホみたいに際限無く育っちまうからだ。
だからおにぎり2個。

俺は今日も教室の端っこで一人で飯を食う。
友達はいない。
別に気取ってるわけじゃない。
いじめられてハブられてる訳でももちろんない。
関わるとイライラするから関わんないだけ。
どいつもこいつも頭のスカスカな女に入れ込んで、
センスの欠片もない音楽聴いて、
いっつも下品な顔でへらへらしてる。
根本的にどのジャンルも話が合わない。

じゃあ俺はどうだって?
もちろん俺だってゲス野郎って事において言えば奴らと変わんない。
ばっちりゲス野郎です。
でも俺はアホな女に興味はないし、
しょーもないインスタントミュージックも聴かないし
下品な笑顔振り撒くくらいなら仏頂面決め込む。
まあ当然疎まれるわけだ。

寂しくは無い。
だってめんどいのよりはいいもの。
もちろんめんどいとか言っちゃってるだけって最低だ。
だから俺も最低。
最低でおおいに結構。

でも結局そんな面倒をこなして得るものないじゃん。
本気で相手を思いやってもいないくせに思いやってるフリして、
馬鹿にされない為に今期の流行の服買って、
カラオケでキャーキャー言われるために
ヒットチャートの糞みたいな歌覚えて、
で、ちょびっと寂しさ紛らわせます?
いらんいらん。
まじいらん。

ああ、なんかイライラしてきたぞ?
きっと教室がうるさいせいだ。
うざい。
休み時間まだ30分以上あんじゃん。
はあ、帰るかな。
午後の授業なんだっけ?
出席足りるかな。
まあいっか。
どうでもいいや。
帰ろう。

「中野」
あ、柳川帰んの?
お前出席日数やばくね?

「柳川」
単位とかどーでもいいし。
ダブったら辞めるんで問題無し。

「中野」
そんな寂しーい事言うなよ。
お前が辞めたらクラス寂しくなちゃうだろ。
うちは3年になっても同じクラスなんだからさ。

「柳川」
俺が辞めても誰も気付きゃしないっしょ。
伊達にクラスで一番のミエナイ君してませんから。
じゃーね。

「中野」
そんな事ねーよ。
お前がいっつも怖い顔してるから皆話しかけれないだけで
辞めたら皆悲しむぞー。
まあいいや、出席日数気をつけろよ。
じゃあな。


うざいなあ、まったく話しかけてくんなよ。
早く帰ってゲームしてーんだよ馬鹿。
ああいう「俺ってクラスの中核人物だから
お前みたいなはぐれ者にも気使っちゃうぞ」的な奴ほんとうざいわ。
お前らみたくなりたくないからわざとしかめっ面してんだっつの。

あ、やべ向こうから先公来んじゃん。
捕まったらめんどいな、裏庭から迂回して出よう。

はあ……
裏庭遠いな。
だるい。
まったくなんでいっつもああいうタイミングで先公は現れるんだろ。
おかげで毎度裏庭から帰んなきゃなんないっつの。
それもあれだ、中野のせいだ。
中野が声かけてこなきゃ先公と鉢合わないタイミングで帰れたんだ。
いつかのしてやる。
と言いたい所だけどやりあったら間違いなく俺がのされるな。
中野サッカー部だしな。
俺自慢じゃないけどひ弱だからな。

む?
誰かがなんか叫んでる?
雄たけび?
いや、歌?
なんだろ?
どっかで聞いた事あんなこれ。
なんだっけ……あれだ。
ニールヤング。
ニールヤングの何だっけ。

ヘルプレスヘルプレスヘールプレええース。
もろ歌ってんじゃん。
そうだ、ヘルプレスだ。
これってこんな叫ぶ歌だっけ?
ニールヤングは確かにロッカーだけど
ヘルプレスでこれは叫びすぎだろ。
どんなアホだ?
こっそり見てほくそ笑んでやろう。

でも軽音室のほうじゃないな、どこだ?
駐車場の方か?
行ってみよう。

………………
うわ、泣いてるよ。
ナニアレ。
歌いながら泣いてる。
痛いな。
昼休みに学校の駐車場で叫んでる時点でダイブ痛いけど、
泣きながらとなるとホンモノだ。
本物の痛い人だ。

「泣きながら叫んでたやつ」
おい!お、お前!
今俺を物陰からこっそり見てほ、ほくそ笑んでたな!?
どうせ馬鹿の分際で俺を馬鹿にするなこら!


え?俺の事?
何?ばれてんの?
うわ、めんどい事になった。
やっぱこんなん見に来るんじゃなかった。
そもそも裏庭から帰らなきゃいけなくなったせいだ。
先公が悪いんだ。
いや、そもそも先公と鉢合わせしそうになったのは………
なんでだっけ?
ふむ、まあなんでもいい。
逃げるか。
でもこっから学校出るには駐車場の前通らなきゃだしなあ。

「泣きながら叫んでたやつ」
やんのかこら!
あ、ちょ!!待て、ギターはやめろって!!

「知らんやつの声」
うっさいぼけ、調子こいてっとばきっとやっちゃうよ?

あれ?
俺じゃない奴ともめてる?
そりゃそーか、
あそこから俺の方見えたらエスパー以外の何者でもないもんな。

「知らんやつの声」
お前が悪いんでしょー。
俺らが楽しく鑑賞してたらお前がいきなり怒り出したんでしょ?
なーに逆切れしちゃってるわけ?
とりあえずコレ折っちゃっていい?

うわー、典型的なチンピラだな。3人もいるし。
うちの学校にこんな少年漫画の三下悪役みたいな奴いたんだな。
ところでなんで三下っていっつもトリオなんだ?
だから三下なのか?

ギター折られちゃうのかな。
まあ、可哀想だがしゃあないな。
いきなりつっかかったのはあいつみたいだしな。
南無。
そういや俺も昔あんなんに絡まれた事あったな。

………………………………

「わるがき」
なあ、お前ら、分かるよな?
金出せば殴らないでやるっつってるのね。
わかったらはいお金出してー。
ホイ、ちゃっちゃと出しなさーい。

「少年柳川」
なんで、なんで俺達何もしてないじゃん!

「わるがき」
は?うっさいぼけ。
お兄さん達悪い人だって見て分かるでしょ?
それに目つけられちゃったんだから諦めて出しなさい。
おにーさん達が優しく言ってるうちに出してくれないと、
お前が持ってるそのサッカーボールみたいな顔にしちゃうよ?
OK?

「少年柳川」
やれるもんならやってみろ!
お前らなんかに渡す金なんかねーよ!

「少年柳川の友達」
すいません……
こ、これしか今ないです……

「わるがき」
よーし、いい子だ。
この仏頂面のガキと違ってモノわかってるね。
お前みたいな奴は将来ちょー立派になれる。
おにーさんが保障しちゃうよ。
だからお前もほら、早く出せ。

「少年柳川」
ちょっとユウスケ!何出してんだよ!
こんな奴らに金なんて……

ばきっ

「少年柳川」
つっ!
痛って!!!

「わるがき」
お前うるさいのよ。
言ったでしょ。
調子こいてると殴っちゃうよって。
おい、ユウスケっつったか?
お前はもう帰ってイーヨ。
分かってると思うけど警察とかに行ったら、
この財布の中の住所まできっちりボコりに行くからねー。

「ユウスケ」
柳川君、ごめん

「少年柳川」
あ!おい!
ちょ!!
ユウスケ待てよー!

「わるがき」
はーい柳川君。
お前にはこれから特別レッスンをおこないまーす。
俺達が右から左から音速の拳をじゃんじゃん放つから、
マトリックスのごとく華麗に避けてくださーい。
じゃ行っくねー

…………………………………………………………



そういえばあれからサッカーしてないな。
ユウスケはなんか高校生のサッカーすごい人選手権?
みたいなやつ、
あれ、なんだっけ?
高校生のワールドカップみたいな。
いや、国内だけど。
とにかくそんで全国大会に出場したんだっつってたな。
めでたいこった。




で、コレは何?
俺はなんで泣き叫び男のギター守っちゃってる訳?

「知らんやつ」
あ?お前何?
お前もこいつの仲間?

「柳川」
む、こんな泣き叫んで歌ってるきもい奴しらん。

「泣き叫んでたやつ」
ちょ!き、きもいって!おまえこら!!

「柳川」
でもギターって何万とかすんでしょ?
折っちゃ勿体無いよ。
せめて売……

「知らんやつ」
つまりあれだ、
よくわかんないけど二人ともボコッちゃっていいのね?

………………………………………………



まあ、言うまでも無いけど、
のされたわけだ。
もちろんギターも折られたわな。

「柳川」
お前、弱いのね。

「泣き叫んでた奴」
お前、だ、誰だよ……

「柳川」
お前自分から絡んだんだろ?
もうチョイ強いのかと思った。
一方的にフクロにされてんじゃん。

「泣き叫んでた奴」
ギ、ギター弾きは手が宝だからな!
守りながらた、たか、戦うのは大変なんだ!

「柳川」
はいはい。
手はばっちり守ったようだけど
ギターは見事に折られちゃったね。
ご愁傷様。

「泣き叫んでた奴」
お、お前こそ助けに入るくらいだから
もうちょっと強いのかと思ったのに、
一緒にボコられただけじゃん!

「柳川」
別に助けた訳じゃない。
あれだ。
なんか神の啓示が聞こえたんだよ。
今この場で逃げたらお前は一生素人童貞死守する事になりますって。
童貞の神様が俺に囁いたの。

「泣き叫んでた奴」
つ、つまらないジョークだな。
お前つまらない奴だって言われるだろ。

「柳川」
まあ、みんな思ってるんじゃね?
柳川はつまらん奴だって。
別に面白い事言おうとか思わないし。
アホみたいなやつらとうまくやってけるスキルなんていらんのだ。
それに、本当に声が聞こえたんだからしょうがないだろ。

「泣き叫んでた奴」
お、お前、面白い奴だな。
お、俺と友達になるか?

「柳川」
は?
何言っちゃってんの?
なんでお前みたいなきもい奴と友達にならなきゃいかんわけ?
意味が分からん。
話の展開が分からん。
てか何そのしゃべり方。
どもりすぎ。
きも。

「泣き叫んでた奴」
お、俺はどもってなんかない!
きもくない!

「柳川」
ほう、自覚ないんだな。
そういう癖ある奴って結構自覚無いんだよな。
まあ、俺がはっきり言い渡してやろう。
お前はどもってる。
かなりどもってる。
そして顔がキモイ。

「泣き叫んでた奴」
か、顔は関係ないだろ!!
で、俺と友達になるのか?
ならないのか?

「柳川」
なんなんだよそれ。
ほんと意味わかんないって。

「泣き叫んでた奴」
お、お前、いやな奴だし、友達いなさそうだからさ。
俺がと、友達になってやるって言ってんだ!

「柳川」
友達いなさそうなのはお前のほうだろ?
どう見てもお前の方が友達いなさそうだろ。
顔きもいし。

「泣き叫んでた奴」
う、うるさいな!
さっきからしつこいぞ!

「柳川」
俺んちにさ、
使ってないギターあんだけど、
欲しかったらやるよ。
多分たいしたやつじゃないけどな。

「泣き叫んでた奴」
お、お前………
お前い、いいやつだな!
で、でも、遠慮しとくよ。
俺には本命のギターがあるんだ。
それはこんなところには持ってこない。
さっき折られちゃったのは、や、安いやつさ。
お、お前ギター持ってるなら俺と一緒にバンドやらないか?
ラ、ライブだ!
でっかいとこでライブやるんだ!
お客さんたくさん呼ぶぞ!

「柳川」
いや、意味わかんないから。
妄想加速しすぎ。
きもい奴が妄想爆発してると
3割り増しでキモイから気をつけろよ。
それに持ってるだけで弾けねーよ、俺。

「泣き叫んでた奴」
お、俺が教えてやる!
だって、俺達は友達だからな!

「柳川」
その前にやるなんて言ってないでしょうが。
俺はね、こう見えても忙しいの。
ゲームに昼寝に漫画の立ち読みもしなきゃなんないから忙しーの。

「泣き叫んでた奴」
ふ、ふうん、そうか……
ざ、残念だな。



そこで納得しちゃうのかよ。
ペース乱れるな………


「柳川」
さっきのニールヤングのヘルプレスだろ?

「泣き叫んでた奴」
し、知ってるのか?
ニールヤング!
で、でもな、俺はニールヤングが一人で歌ってるヘルプレスより、
クロスビースティルスナッシュ&ヤングの頃の、
あのヘルプレスの方がす、好きなんだ。

「柳川」
クロスビー……、何?

「泣き叫んでたやつ」
な、なんだ、知らないのか?
ニールヤングは知っててクロスビー達は知らないんだな……
すっごいかっこいいんだぞ!
よ、よかったら貸してあげるからうち来いよ!

「柳川」
うちこいって……
今から?
明日でいいじゃん。
明日持って来てよ。

「泣き叫んでた奴」
いや、だめだ。
今日じゃなきゃいけない。
こういうのはそうするべき日とそうじゃない日があるんだ。

「柳川」
は?
お前ほんと意味わかんね。

「泣き叫んでたやつ」
とにかく、今日なんだ!
つ、ついてきな!

「柳川」
……………………

………………………………………………
「柳川」
ただいまー

「柳川母ちゃん」
おかえり、随分遅かったわね。
夕飯冷めちまったよ。

「柳川」
ああ、友達んとこで食って来た。

「柳川母ちゃん」
へえ、あんたにしちゃめずらしいね。
女の子かい?
あんた、
女の子に対してまでそんな仏頂面してんじゃないでしょうね?

「柳川」
うっせえババア。




こうして高校に入ってから1年半が経った秋の日、
俺にもやっと一人目の友達ができたわけだ。
全てを自分のペースで考えてるような奴だし、
顔がキモイし
髪型がきもいし、
どもりすぎててきもいけど、
俺はあいつとバンドを組む事にした。


きっと人はみんな自分レジェンドを始めるきっかけを待っていて、
でもそれはなかなか来ないもんだから、
待ち侘びていつしか諦めちまう。
今日も列車は来なかった。
ジ・エンド。
ってね。

だから俺は手ごろな有り合わせのノートに安物のペンで、
お粗末な自分レジェンドを書き記す事にした。

あいつが言った。
「今日なんだ」って。
きっと今日なんだろう。
俺はあいつを信じてみる。

なぜかって?
あいつからさ、
借りたCDのジャケットの裏に書いてあったんだ。
LOVE and PEACE



それも手書きでね。




2006-10-26 08:21:25公開 / 作者:遼
■この作品の著作権は遼さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
この作品に対する感想 - 昇順
はじめまして
少し短文過ぎるのが目立ちます。文章力も稚拙な部分がありましたが、話の筋は通っていて非常に読みやすかったです。
2006-10-26 23:48:10【☆☆☆☆☆】夏樹 空
[簡易感想]もう少し細かい描写が欲しかったです。
2006-10-27 11:20:22【☆☆☆☆☆】Sitz
計:0点
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