『迷惑メール』作者:松葉 / ~Xe - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
迷惑メール、それは誰もが見たことはあるもの。詐欺などにも使用されるそれは、迷惑なものでしかない。そんな迷惑メールに悩む高校生 山本浩二は、ある日、迷惑メールと間違えて一通のメールを消去してしまう。かつての学園の人気者である先輩 長谷川冴子からのメールであったが、その冴子はすでに死んでいた。定期的に送られてくるメール。浩二は、メールの真相をつかむため、友人の嵯峨野、冴子の妹京子とともに原因を探る。
全角9799文字
容量19598 bytes
原稿用紙約24.5枚
ティロリラーパラリルラー♪、携帯を開く。見たことのないメールアドレス、そして「あなたにお勧めの高額バイト!セレブな方々の夜のお相手募集!」という魅力的な文章。誰にでも見た経験がある迷惑メールというやつだ。彼女とメールしてる時や好きな相手とメールしてるときに来ればかなりむかつく。メールアドレスが、何かの拍子にこういった迷惑メールを送る業者に知られてしまったら大変である。一日に50を超えるメールがくる。
  俺、山中浩二もそんな迷惑メールにうんざりしている人間の一人だ。朝起きて携帯を開けば、そこには数十件もの未読メールがある。決まってすべてくだらない迷惑メールだ。学園祭実行委員に就任した時、学校のBBSに「おもしろい企画あったら下記メールアドレスまで」、としてメールアドレスをさらしてしまったのがすべてもの原因だった。アドレスを変えればいいのだが、「メールアドレス変えました。」というメールを送るのは非常に億劫だ。だから、俺は迷惑メール業者のお得意さまになっている。そんな俺の電車内での日課は、その迷惑メールを消去すること。「メニュー」→「1件消去」→「実行」、「メニュー」→「一件消去」→「実行」の繰り返し。もはやなれたもので、たとえ100件たまっていたとしても5分もかからないうちに消し終わる。
  外もそろそろ寒くなってきた秋口のある日、前日のバイトの疲れから早くねてしまった俺は、37件という量のメールを処分していた。「メニュー、1件消去、実行、と」もはや機械と化している。ところが、この日はいつもと違った。見知らぬメアドであったが文章がいつも見るそれではなかった。「いきなりのメールごめんなさい。同じ学校の長谷川 」メールを開かずに見える文章はこれだけだった。気づいた時にはメールは消えていた。しまった、どうしよう。同じ学校の長谷川、かつメールアドレスを知っているとなるとさしずめ、同じテニス部の2年先輩の長谷川冴子だろう。長谷川先輩は、1年前に卒業した人で学校でも随一のおしゃれさんで男子からの評判も良く、男子とも男女の関係ではなく友達の関係で多くの知り合いがいた。そんな長谷川先輩からのメールを消してしまったとあらば大変である。あのテンションの高い先輩のことだ何をされるかわかったものではない。高い夕食をおごらされることぐらいはペナルティとして平気で課す人だったからだ。「やっべー、どうしよう。」思案に明け暮れたがひとつ妙案を思いついた。メールの内容さえわかればいいのだ。幸い、同じクラスに長谷川冴子の妹である長谷川京子がいた。この“京子”は、姉と正反対の人間だった。根暗でまじめ、服装も地味で友達などほとんどいなかった。この“京子”と話すのは抵抗があるが、この際仕方がない。1万円クラスの罰金にくらべればやすいものだ。
  学校につくやいなや俺は長谷川京子に話しかけた。「あのさ、長谷川さん。昨日、お姉さんからメールがあったんだけど、間違って消しちゃってさ、内容なんだったか調べてもらえないかな。お姉さんだから簡単だろ?たのむよ。」京子は、じっとこちらを見据えていた。眼鏡とその上から垂れる前髪、そしてその隙間からうっすらと見える眼という風貌が、そのなんでもない行為を不気味に演出していた。「あの、どう?かな。」まるで幽霊に助けをもとめているかのようだった。長谷川京子は、一瞬悲しそうな顔をし、何も言わずその場を立ち去ってしまった。
  「おい、浩二。お前、あの幽霊に何話してたんだ?」嵯峨野が冷やかしにきた。長谷川京子と話すと決まって冷やかされる。これもあの女が孤立するひとつの要因でもあるのだが、まあ根暗な人間はクラスから孤立するのはどこのクラスでもあることだろう。「いやー、昨日さ冴子先輩からメール来たんだけど間違って消しちゃってさあ。」「うっそ!お前、それやべえじゃん!報復こえーぞ。」「そうなんだよ、だから長谷川にこっそり調べてもらおうと思ってよ。」「なるほど、でもお前どっちにしろ災難だな。なにせ亡霊と話さなきゃならないんだぜ。ま、せいぜい取り殺されないようにな。」両手を前にだし、うらめしやのポーズをとりながら嵯峨野は自分の席へ戻っていった。俺は、どうしたものかと頭を抱えた。とりあえず、メールの件は知らなかったということにしようと自分のなかで整理した。こんな言い訳が通じるとは思ってはいなかったのだけれど、今はそれしか思いつかなかった。
  ところが、その日の夜、奇跡が起こった。
ティロリラーパラリルラー♪携帯を見ると、見知らぬメールアドレス、画面には「どーも、長谷川冴子です。携帯かえ」という文章が見えた。メールを開き、全文を見てみる。

 「どーも、長谷川冴子です。(*゜ー゜)v携帯かえましたよー。(^○^)携帯にメールアドレス登録しなおすから空メールおくってちょ、ヨロシク( ゜ー゜)/゜*゛:¨*;.・';゛:..・☆
   saeko-hasegawa.lovely-world@…ne.jp             


  助かった。先輩は携帯を変えたようだ。これでいい言い訳が使える。
  
  「先輩、携帯変えたんですか?それでか(^^;;。昨日貰ったメール、先輩の名前だったけど携帯のアドレスがぜんぜん違うから消しちゃったんすよ。携帯変えたんならそういって下さいよー。(-o-;。わるいんすけど、もっかい送ってもらえないすか?         

  完璧だ。先輩にも否があるのだ。いくらでも言い返せる。自分に否があるときは素直に認める先輩のことだから、ペナルティは間違いなくないだろう。「よかった、よかった。」これであの、長谷川京子とも絡む必要はないし、罰金も払わなくていい。俺は安心して、眠りについた。
  学校についた俺は、さっそく嵯峨野に昨日のことを話した。
「…ってなわけで一安心だよ。よかったよかった。」、俺は100万ドルのスマイルを見せてやった。「そっかー、よかったな。」というセリフを待っていたのだが、嵯峨野の口から出た言葉はまったく違っていた。「あれ?俺には先輩からメール来てないぞ。」「え?」俺は、びっくりした。先輩は、友達や後輩、先輩との関係をいつも大事にする人だ。嵯峨野は、俺と同じテニス部で先輩には比較的気に入られていた。「お前、あれじゃね?先輩に嫌われたんじゃね?」考えにくいことだがそれしか思いつかなかった。「そうかなー?それはそれでかなりショックだけどな。」嵯峨野は、先輩と交友関係にあった友達に聞いてくると言って教室を出て行った。俺は、ぼんやりと天井を眺めていると、視線が気になって眼をおろした。長谷川京子が、こっちをじっと見ていたのだ。「なんだよ!こっちみんなよ!」長谷川京子は、ビクッとして、体を反転させた。「ったく気持ちわりいやろうだな。」再び視線を天井に向けると嵯峨野の顔が目の前に現れた。「どうだったよ。」俺は、興味半分で聞いてみた。「やっぱりだれも届いてないってよ。どういうことだろうな?」「わかんね、理由聞いてみるわ。」嵯峨野は、俺にたのむといって席に戻った。どういうことだ?さっぱりわからなかった。
  その日の夜、俺は先輩にメールを送った。
 
  「今日学校で他のやつに先輩の話したんすけどみんなメール貰ってないっていってるんすけどなんかあったんすか?             

  しばらくして、メールが帰ってきた。

  「あの、いきなりで悪いんだけど。あなた、私のことどう思ってる?   

  本当にいきなりだった。話の趣旨がまったくかみ合っていない。まったく謎だった。意味がわからない、先輩なにかあったのかな?俺はメールを返信した。


  「どう思ってるってどういう意味っすか?先輩何かあったんすか?」

  この日は、それ以来メールは返ってこなかった。

  次の日、学校に登校すると嵯峨野が青ざめた顔でこっちを見ていた。そして、そろそろと俺の方に歩いてきた。
  「ちょっとお前、先輩からメール来たってマジか?」「ああ、昨日も来たけどどうかしたのか?」嵯峨野の顔はひきつっていた。「ちょっと、そのメール見てくれるか?」「ああ、いいよ。」俺は、携帯を差し出した。嵯峨野は、まるで何かにおびえるように携帯を手に取りメールを見た。嵯峨野は、携帯を俺に返し、かわりに新聞を俺に差し出した。「なんだよ。これ?」「いいから読め。」
  その記事には、見慣れた写真と共にこうかかれてあった。


   「行方不明女子大生、柏原ダムにて死体で発見」

  「ドッキリか?先輩に頼まれたのか?」笑いながら嵯峨野の方を見た。嵯峨野は何の反応もみせなかった。「気をつけろよ。」嵯峨野はこう言ってその日は学校を早退してしまった。「冗談じゃねえのかよ。」俺は、その記事をボーっと見つめていた。写真の先輩は、無表情で、不気味だった。

  その日の夜、昨日のメールのことを考えていた。記事によると先輩が行方不明になったのは5日前で、死体が見つかったのが昨日の深夜だそうだ。原因は、自殺で柏原ダムに車で飛び込んだようだ。ひょっとするとあのメールは先輩の遺言だったのではないか?などと考えていた。
ティロリラーパラリルラー♪、、、携帯がなった。嵯峨野かと思い、携帯を見た。しかし、差出人は嵯峨野ではなかった。

 From:長谷川 冴子先輩

 「昨日は、いきなり変なこと聞いてごめんね。でもやっぱり聞いと」
 
 え?メールを開いてみた。

 「 昨日は、いきなり変なこと聞いてごめんね。でもやっぱり聞いとかないと私、いてもたってもいられなくて。ねえ、私のこと

        どう 思う?                             
  「ひっ!!!」携帯を投げ捨てた。「そうだ、嵯峨野。」嵯峨野に電話を掛けることにした。携帯は、怖くて使えない。家の電話から嵯峨野の家へと電話を掛けた。
  「はい、嵯峨野です。」「あ!俺だ。浩二!い、い、い、い、い、い今せ、せせっせせせせ先輩からメールが来たんだ!」「…。」「な、なあ。俺どうすればいいんだよ!どうすればいいんだよ!」「…。」
プツッ、電話は切られた。電話口にはツーツーという音が無常にも響き渡った。答えるはずの無い電話口にどうしたらどうしたらとつぶやき続けた。

  次の日の朝、長谷川の家から告別式があるとの通知がきた。参加したくなかったがお世話になったのだからと親に言われ、参加することになった。
  告別式の会場には嵯峨野もいた。嵯峨野は、こちらをチラリと見たが、すぐにどこかへ立ち去ってしまった。俺は、焼香をするために先輩の棺の前へ向かった。写真の先輩は、笑っていた。「私のこと どう思う?、ねえ ド ウ オ モ ウ ? 」写真の先輩から声がした。無論、幻聴であるが、今の俺にはその区別はできなかった。焼香を手早く済ませた俺は、その場から逃げるように立ち去った。
  出口に、長谷川京子がいた。長谷川京子は、普段は下ろしている髪をしっかりと束ねていた。いつもの幽霊京子とはまったくの別人で、眼鏡がなければなかなかの美少女だ。「あの、山本くん?」俺は、急に話しかけられドキリとした。「な、なんだよ。」「あの、姉さんのことで、あの、話したいことが。あの姉さんは、…」「先輩のことは、話さないでくれ!たのむ!」俺は、長谷川京子の言葉を遮るようにその場から逃げ出した。家に帰ると、貰った『お清めの塩』を体と部屋中に、そしてとくに携帯電話に振りかけた。布団にもぐりこんでいると、母親が名前呼んでいることに気がついた。「こうちゃん?お客さんよ。」嵯峨野か!布団から飛び出ると、俺は玄関へと向かった。そこには、嵯峨野の姿はなく、代わりに長谷川京子がいた。「なんだよ。」うつむいてばかりで何もいわない長谷川京子にイライラした。なにより、長谷川の名前が気に食わない。「用がないなら帰れよ!」ドアを閉めようとした。「姉さんのメール見てほしいの!」この言葉に、俺の体は硬直した。メールのことを知っている?嵯峨野から見放された俺は、相談相手がほしかったのだ。「あがれよ。」俺は、長谷川京子を自室へ招きいれた。
  「で?メールって?どう思うってやつ?」携帯のメール画面を開いて、長谷川京子に見せた。長谷川京子は、黙って携帯を俺に返した。そのリアクションから、長谷川京子の“メール”とは俺の“メール”とは違うものだということをさとった。「そのメールは、よくわからないけど、その姉さんはどうして死んだのか知ってる?」京子の声は、本当に小さくイライラした。だが、今はそんなことを言ってるときではない。とりあえず我慢した。「自殺だろ?記事にあった。」昨日読んだ新聞を頭に思い浮かべた。あの無表情な不気味な先輩も浮かび上がった。「うん、新聞にはそう載ってるんだけど、実は自殺じゃないと思うの。」長谷川京子が意味不明なことを言い出した。だが、なぜか気になった。「なんでそんなことわかるんだよ?妄想か?」「ううん、実は姉さんが死ぬ前にこんなメールが来てるの。」長谷川京子は、自分の携帯を俺にわたした。そこにはこう書かれていた。

  From:冴子姉

   「ヤッホー(ノ^∇^)ノ、京子まだおきてるー?昨日はご飯持ってきてくれてアリガト♪(*'-^)-☆パチン 今日もまだ帰らないよ!お父さんから直接来るまで帰ってやらないんだから!(○`ε´○)プンプン!!それは、そうと京子?うまく言ってる?あと前髪あげた?服買った?あんたはあたしの妹なんだから自信持ちなさいよ!p(´∇`)q ファイトォ~♪じゃあ、明日もご飯よろしく!お金なくなっちゃったからさ(-_-;)でも帰れないからさ!(*・.・)ノ ヨロシクニャン・:*:・゜'★.。・:*:・゜'☆♪
     マタネッ(^ー^)ノ~~Bye-Bye!        dear 京子           

いつもの先輩がそこにいた。俺は、メールを読みきると長谷川京子の方を見た。「姉さん、進路のことで両親と揉めてたの。で、5日前から家出してたの。行方不明ってことになってるけど実はそんなことなくて、はじめの3日間は彼氏さんのとこにいたの。でも、追い出されちゃってホテルで暮らしてたの。だから、私がお金とかご飯こっそり届けにいってたの。明日もよろしくって言ってるのに、自殺するなんておかしい。それに、姉さんは相手に負けを認めたくないから死ぬなんて絶対しない人だもの。」この長谷川の意見には俺も同感だった。先輩は良く知っている。確かに不自然だ。だが、そんなこと今の俺にはどうでもよかった。「俺もそう思うけど、俺はそんなことしったこっちゃない。今は、俺自身の問題の方が大事なんだよ。他に話すことがないなら帰ってくれ。」、長谷川は何か言いたそうだったが、無視して無理やり帰した。
  その日は、そのまま不貞寝していた。
ティロリラーパラリルラー♪ティロリラーパラリルラー♪ティロリラーパラリルラー♪
寝ている間、何度もメール着信音がなった。いつものことだ。迷惑メールは、寝ている間も容赦ない。
ティロリラーパラリルラー♪いい加減に眼を覚まし、携帯をみた。
 
   「逆デリヘル募集中! 月収100万以上は確実です!いますぐ登録!」

今ほど、迷惑メールをありがたいと思ったことはない。いや、迷惑メールをありがたいと思うほど追い込まれていた、が正しい表現かもしれない。

ティロリラーパラリルラー♪携帯をみた。久々に携帯のメールを開いた。魅力的なメールだったからだ。
  
  From:嵯峨野
   
    「今日は無視してごめんな。俺も怖くてよ。先輩、自殺だってな。しかも車で飛び込みなにがあったんだろうな                                    
返信した。

    「今日、長谷川京子と話したよ。先輩、どうやら自殺じゃないみたいなんだ。先輩、親と喧嘩してて家出してて、その途中で投げ出すなんて先輩らしくないだろ。」
ティロリラーパラリルラー♪

  From:嵯峨野

    「そうだな。先輩らしくない。明日、長谷川京子と話してみないか。お前にメールの件も含めてさ。何かしってるかもしれないだろ。                       
返信した。

    「それがいいかもしれない。嵯峨野、おまえが一緒ならなんとかなる気がする。明日、一緒に相談してくれないか?                                
ティロリラーパラリルラー♪

  From:長谷川 冴子先輩
気づいた時にはもう遅かった、嵯峨野だと思い込んでいた俺は、開いてはいけないメールを開いてしまった。

    「ねえ、どうして返信してくれないの?私のこと、やっぱり嫌いだった?なんで私を見てくれないの?私はこんなに待っているのに。あなたのこと考えると眠ることができないの。ねえ、答えて。私は、あなたを待ってる。いますぐ会いに行きたい

咄嗟に周囲を見回した。会いに行きたい、だと…。俺の体は凍りついた。窓の音、下の部屋で家族の立てる物音、すべてが怖かった。
ティロリラーパラリルラー♪

  From:嵯峨野

  「わかった。まかせろ。また、明日。                       
メールのことは黙っていた。嵯峨野にまた、そう、また一人にはなりたくなかった。
 次の日の放課後、嵯峨野と二人で長谷川京子を訪ねた。長谷川は、こうなることを知っていたかの様に俺たちを図書館へ誘導した。長谷川は、俺に話したことと同じ内容を嵯峨野に話した。「警察にはそのこといったの?」嵯峨野の質問に対する長谷川の回答は驚くべきものだった。「話したけど、無視された。」無視とはどういうことだ。この事件がもし、本当は自殺ではなく、他の何か、そう殺人だとしたら先輩の無念は計り知れない。俺は決意してメールを見せた。「これは…。」嵯峨野と長谷川は、驚いた表情で俺を見た。「先輩は、自分の無念を俺に伝えようとしてるんじゃないのかな?」長谷川は、眼に涙を浮かべていた。「俺たちが、無念を晴らしてやるべきじゃないか?」そうさ、それが、先輩のためでもあり自分のためでもあるんだから。「おいおい、冗談だろ。高校生に何が出来るってんだよ。俺は、やめとくよ。」嵯峨野は、そういって図書館を後にした。おどおどする長谷川の肩をポンと叩いた。「今週の土曜、柏原ダムに行ってみよう。」長谷川は、無言でうなずいた。
  土曜、長谷川と俺は、ダムに来た。ダムは、事件があったというのに放水などの通常業務を行っている。町の電力を担っているのだから当然なのだが、なぜかくやしかった。「とりあえず、聞き込んでみよう。」俺と長谷川は、柏原ダムの周辺に住む人に聞き込みを開始した。長谷川は、使い物にならないと思っていたが、予想外の働きをしてくれた。3,4時間、足を棒にして動き続けた結果、何点かわかった。
?この辺りは深夜、車はほとんど通らないのだが、この日はうるさいぐらいに車が通っていたこと。
?警察に連絡したのだが、警察は少し注意しただけですぐにいなくなってしまったこと。
?となり町を根城にしている暴走族が、よくここに闘争やカーチェイスなどをしにくるが、警察が取り締まったことは一度もないこと  だった。

「一番引っかかるのは、警察がなんでうごかないかってことだな。」長谷川は、軽くうなずいた。帰りのバスの中、証言者の声を録音したテープを俺はずっと聴いていた。このテープは、長谷川が取ってきたものだ。意外に気が利く。さすが、冴子先輩の、この場は先輩は封印しておこう。長谷川京子は長谷川京子なのだから。外を見ていると肩に重力を感じた。長谷川が、頭を俺の肩に乗っけて寝ていた。なぜか嫌な気分はしなかった。そうしてしばらく時間がすぎた。下車停留場まであと少しとなったときだった。
ティロリラーパラリルラー♪
 From:嵯峨野
   「話したいことがあるんだが、明日長谷川とまた図書館にきてくれ。」 
やはり嵯峨野は嵯峨野だった。嵯峨野のやらないは、やるという意味なのだ。俺は、返信はしなかった。嵯峨野に対する嫌味ではない。なぜかは自分でもわからなかった。
  その日の夜、やはりメールは来た。
ティロリラーパラリルラー♪
From:長谷川 冴子 先輩
   「会いたいの、眠れないの。どうしても会いたい。嫌われていてもかまわない。会ってくれますか?私を眠らせてくれますか?                   
この日、初めて返信した。
   「大丈夫、必ず、俺が先輩を眠らせてあげます。                  
日曜日、図書館に行くと嵯峨野と長谷川、そして見慣れぬがらの悪い男たちがいた。彼らは、やはり先輩の友達で、嵯峨野曰く証言者のようだ。「ちょっと、話してやってくれませんか?」嵯峨野は、“彼ら”にお願いすると、喜んで応じてくれた。“彼ら”の情報は、こうだった。
?となり町の暴走族の仲間に警察官僚の息子がいること。
?となり町では、夜間は暴走族が出没するためだれも出歩かなくなること。
?“彼ら”は、この暴走族をつぶそうとしているのだが、警察が邪魔をすること。

この証言と俺たちが昨日持ち寄った情報をあわせた結果、結論がでた。
「先輩は、殺され官僚息子の圧力によって自殺にされた。」俺は、怒りが抑えきれず、おいてあった本を地面に叩きつけた。「この事実を警察に持っていこう。」俺は、テープを持ち立ち上がった。だが、それを嵯峨野は制した。「警察に言っても無駄さ。また、もみ消される。」じゃあ、どうすれば、と言う俺の言葉を予想したのか、遮るように嵯峨野は言った。
「マスコミに持っていこう。」

次の週の朝刊、トップ記事の見出しは、こうだった。
 「警視庁副総監の息子、殺人事件発覚。警察全面謝罪」

「先輩の無念も晴れただろ。」
次の日、嵯峨野は俺に会うやいなやこう言ってきた。「ああ、それには間違いないんだけどさ。」俺は、嵯峨野に謝らねばならない。「だけどなんだよ。まだ何かあったのか?」「嵯峨野、すまん。」俺は、そういって携帯を見せた。

  From:長谷川 冴子先輩
   「ありがとう、じゃあ会ってくれるのね。じゃあ以下のURLにアクセスして、登録して。そこのBBSに会う場所、書き込みましょう^^初デートなの!ああ、早く会いたいなあ。また眠れないかも(*v.v)。
     http…
「これって。」嵯峨野の顔はひきつっていた。「ああ、迷惑メールだ。」

そう、すべては偶然だった。たまたま、長谷川 冴子 という偽名を使った迷惑メールが届き、そのタイミングで先輩が殺された。すべては、運命のいたずらだった。
「でも、先輩の無念は晴らせたには違いないから。」俺は、空を見上げた。すがすがしい秋晴れの空だった。

その三日後、俺は長谷川とダムに足を運んだ。「先輩、ゆっくり眠ってくれ。」俺は、携帯と花束をダムに投げ入れた。長谷川は、横で微笑んでいる。俺が消してしまった一件目のメール。あれは、京子が送ったものだった。先輩に俺のメアドを聞き、送ったのだという。
「あたし、勇気がなかったから、でも、メールならなんとかなると思って。」
「で、内容は?どんなだったの?」
「えっと、付き合ってくださいって、メール。」
俺は、OKと書いて京子にメールを送った。
今は、携帯を変え、迷惑メールは一通もこない。

迷惑メール、それは誰にとっても迷惑なもの。
だが、時には、運命を左右する、そんなときもある。

空を見た。いつもと変わらない。秋晴れの空だった。
2006-10-16 00:21:10公開 / 作者:松葉
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■作者からのメッセージ
初投稿です。よろしくお願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
[簡易感想]おもしろかったです。
2006-10-16 11:09:06【☆☆☆☆☆】Sitz
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