『うなぎと俺と彼女』作者: / V[g*2 - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
土用の丑の日でもないのにうなぎ!?てゆーかうなぎの捌き方ってなんだ!?少年勇樹のもとに送られてきた二匹のうなぎ…彼らが1LDKの勇樹の部屋に嵐を巻き起こす!そのときSOSを受けた勇樹の恋人・岬はどう動くのか!?送られたうなぎの真意とは!?いま、彼らの熱き戦いが始まる!副題は『意外と男らしかったアイツ』
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原稿用紙約7.74枚
「どうしろって言うんだ…コレ」
 北川勇樹は、バケツの中を見て途方にくれて呟いた。

「ゆうちゃん、どうしたの?」
 藤野岬は、彼女の恋人である勇樹からかかってきた電話を思い出し、問う。
 三十分ほど前、いつもしっかりしている彼にしては、珍しく途方にくれたような声音で『岬…ちょっと助けて』と電話がかかってきたのだ。
 なにがあったんだろうと、好奇心半分心配半分で彼が一人暮らしをするマンションに行って見るとそこには、何故か腕まくりをしている勇樹の姿があった。その腕は肘の辺りまで濡れており、上着もこれでもかと言う位びしょびしょだ。そして、何故かほんのり生臭い。
「…どしたの?」
「ん…実はさ、今日久しぶりに親戚のおばさんが来てさぁ…」
 彼が一人暮らしと言う事で、何かと気に掛けてくれる伯母 岬は会ったことはないが、優しくてパワフルな人だと聞いている。来るたびになんだかんだと世話を焼き、春に吹く風のごとく爽やかに帰っていく人、らしい。岬は会った事が無いので良くわからない。
 はぁ〜と息をつく勇樹。心底疲れているといった風情だ。もともとそんなに体力のあるほうではないのだ。三分走っただけで息を切らし、五階分の階段を上っただけで死にかける。
 閑話休題。
「伯母さんが…どうかした?」
「コレをさ、くれたんだ」
 そう言って勇樹は、台所にあるバケツを指差す。水が並々と張ってあるそれには、うねうね動く黒く細長い物体が二つ。見覚えが微妙にあるその物体。岬は首を傾げつつ、その憎いアンチキショウの名前を口にした。
「うなぎ?」
「そう。うなぎ。一人暮らしだと栄養偏るからって」
 くれたんだ、と歯切れ悪く勇樹は説明する。
 ぶっちゃけ、もらったはいいが捌き方が分らない。おまけに、ヌルヌルしていて非常に掴みづらい、気持ち悪い。一度手の中をすっぽ抜けてカーペットの上に落ちた時は、本当にどうしようかと思った。おもわず、うなぎに向かって「止めてくれぇぇぇっ!」とさけんでしまったが、うなぎに罪はない。
 どうしようもないので岬にSOSを出したわけだが…。
「解かるわけないよな、うなぎの捌き方なんて」
 しみじみとつぶやいてしまう。
 もう面倒になったのでこのまま飼育しようかなとも思ったが、まさかバケツの中で飼う訳にはいかない。餌代もかかる。仕送りをしてもらっているとは言え、バイトも一応しているとは言え、貧乏学生にこれは辛い。それでやっぱり食べる事にしたわけだが、調理の仕方がわからない。
 今の時代ネットとかあるよな、と考えもしたが、生憎勇樹の家にパソコンはない。うなぎの調理法が載っている、気前のいい料理の本もない。タイミングよくテレビでやってないかな、とか思ったが、もちろん、世の中そう甘く出来ていない。
 かといってうなぎの調理法が載っている本なんて、大型の書店に行かねば置いていないだろう。勇樹のマンションから優に三十分はかかるそこに行くには、体力と気力を消耗しすぎた。
 結果、一人で途方にくれるより、二人で途方にくれた方がいいというネガティブなんだかポジティヴなんだか解らない――むしろ後ろ向きに前向きな結論に思い至ったわけだ。
 そのだったはずなのだが。
「OK、ゆうちゃん…あたしに任せて!」
 びしいっと腕まくりと、いつの間にやら鉢巻までつけて、岬はバケツのうなぎをひょいと掴んでまな板にのせた。よくあんなヌルヌルしたのつかめたな、と思うと同時に、うなぎをつかむのにでさえ散々悪戦苦闘した自分は一体なんなんだ、と悲しくなる。
 てゆーかザル使えばよかったんじゃないか。まさにコロンブスの卵。人間、案外簡単な事に気付かなかったりするものだ。
「ゆうちゃん釘!あと金槌!」
 珍しく鋭い声でそう叫ばれ、遠い目をして窓の向こうを見ていた勇樹は、慌てて現実世界に戻る。何に使うんだかと首を捻りつつ、これまたいつの間にかテーブルの上に用意されていた金槌と釘を渡した。
 すばやい動作で、岬がそれを受け取った。
 そしてやはりすばやい動きで、まな板の上で水と救いを求めてビチビチしているうなぎへと体の向きを変えた。流れるような動きは、一種の格闘技のようだ。

「はぁぁっ!」
 
 ぶすっ

 ざくーっ

「ひぃっ!?」 

 ちなみに上から、岬の掛け声、釘をうなぎに刺す音、うなぎを捌く音、勇樹の悲鳴、である。
 さて、うなぎの捌き方は、関東風と関西風の二通りがあるのをご存知だろうか。
 関東風は頭としっぽを切り落として背を捌く。これは切腹を忌んでと言われているらしい。
 関西風は、うなぎの目の下、アゴの辺りに目打ち…すなわち釘を打ち、腹から開く。こっちは調理時間が短いのだ。岬は関西の捌き方をやったわけだが これがまた視覚的にかなりアレだ。
 助けを求めるようにうなぎは一層激しくうねるし、釘が刺さっている辺りホラー感漂っている。まな板の上の血がなんとも生々しい。心なしか、バケツに取り残されたもう一匹のうなぎも隅っこのほうによって震えている(様に見える)。
 うなぎのつぶらな瞳が勇樹を見上げた。まるで助けてくださいといわんばかりのその瞳に、勇樹はなんとなぁく親近感を覚える。傍から見ると、某金融会社のCMの様だ。止めたいのはやまやまだが、ここで岬を止めると勇樹が裁かれそうだ。否、捌かれそうだ。
 なんとなくうなぎの気持ちを理解する。
 一人と一匹に奇妙な絆が生まれようとした。が。
 岬はそんなもん知るかとばかりに、神業的な速さで残されたうなぎをさばいた。それはもう見事な包丁捌きだった、と勇樹は後になって語った。
「お前…いや…何でも無い…」
 すっかり恐れおののいて3歩くらい引いている勇樹には目もくれず、岬はすばやく網とタレを用意する。やはり止めなくて良かったかも、と薄情な事を思いつつそっとうなぎの冥福を祈って手を合わせた。
「にしても、お前よくうなぎのさばき方知ってたな」
 ちなみにこの言葉は六分の恐怖と四分の感心でそう言う。すると岬は、うなぎを串に刺して網の上に並べながら笑った。
「あぁ、兄貴に教わったんだ、3年位前に」
(お兄さん!)
 あんたせめて関東風の裁き方教えろよ、と心の中で勇樹は激しく突っ込んだ。一秒間に30回は裏手でズビシッと突っ込んだ筈だ(あくまで心の中でだ。現実では、そこまで出来るほど勇樹に運動神経はない)。
 まさかあんなエグイものを見せられるとは、軽く思っても見なかった勇樹のダメージは大きい。見た目かわいらしい少女が、完膚なきまでに無慈悲にうなぎを捌くところを見たら、どんな鉄の心臓をもつものでも、軽くトラウマになること間違い無しだ。
 それと正反対に、うなぎを捌いた張本人の岬はあっけらかんとしている。先ほど展開されたうなぎの調理法については、全くどうでもいいらしい。うなぎを焼くその背中は非常に広い(気がする)。一種の渋さが漂っている気さえもした。あれに半被を着せて背中に『男』と筆で書いたら完璧だ。
 それくらい、男らしかった。
 世界男選手権に出たら上位7位には入れるはずだ。多分。
 岬の後方3mで、勇樹は非常に居たたまれない気分を味わう羽目になった。
 出来上がったうなぎの蒲焼は、非常に美味しかったらしい。
 
 それ以降、勇樹は生きたうなぎを丸ごともらうことは、控えているとか、いないとか。
2006-10-03 01:07:15公開 / 作者:晃
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■作者からのメッセージ
こんにちは、晃です。

ギャグ…になっているのか居ないのか…。
落ちが無い…ギャグにあってしかるべき落ちが無い…。
あ、別にうなぎの捌く風景はそんなグロくないです。念のため。

こんな半端な話ですが、ご意見ご感想ご指摘あれば、お願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
拝読しました。生活の一風景という感じでしょうか? 生きたうなぎが貰えるなんて大変羨ましいです。何か物凄い美味しそうですが、ウチには捌ける空間面積と釘を打てるようなまな板が無いので捌くとしても関東風になるだろうな。肝吸いとか美味しそうだなぁ。えぇと、読後感はなんとなく物足りないような気持ちになりました。
2006-10-02 20:14:05【☆☆☆☆☆】水芭蕉猫
作品を読ませて頂きました。日常の風景を描く試みはいいと思います。ただ、長編のワンシーンという感じもしました。ギャグに徹し切れていない感があります。ギャグにするならもっとオーバーに描いてもよかったと思います。捌き方自体を岬に語らせて、主人公に感心させた方が、主客の逆転が強調されたと思います。では、次回作品を期待しています。
2006-10-07 08:43:05【☆☆☆☆☆】甘木
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